セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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74話 希望の炎

セーフハウス

 

 聖闘士である紫龍達は集まっていた。

 

王虎「まさか、紫龍がやってくるとはな」

 

紫龍「お前達が戦ったアルカノイズを奏から聞いたからな。既にアテナからライブラの武器の使用許可ももらっている」

 

アイザック「そもそも、あのアルカノイズはまるで俺達の足止め用に開発したとしか思えんような奴だ」

 

氷河「足止め用だと?」

 

王虎「奴等は俺達との力の差を知っているからこそ、俺達が介入できないようにこのような防御性能と分裂増殖という嫌がらせみたいな能力のアルカノイズを生み出したに違いない」

 

アイザック「ノイズ如きで安易に攻撃に特化させても、スピードでかわされるなりするからな」

 

紫龍「だからこそ、思い切って防御にステータスを全振りして俺達の足止めに特化させたという事か」

 

王虎「少なくとも、俺とアイザックはそう考えている」

 

氷河「だが、奴等が俺達聖闘士を倒す秘策はあるのか?足止めだけではどうにもならないが…」

 

アイザック「…実を言うと、俺達は戦闘の際に聞こえたら体が思うように動かなくなる変な音が聞こえたんだ」

 

氷河「変な音だと?」

 

紫龍「もしかすると、奴等の秘策はそれではないのか?」

 

王虎「確信は持てないが、その可能性は否定できないだろうな…」

 

 一方、響達は…。

 

響「お邪魔します!えーと、随分と散らかってますねー…」

 

マリア「あえて人を部屋に招く状態とは思えないわね…」

 

奏「あれ…こんな散らかしてたって?泥棒でも入ったんじゃ…あ!」

 

 奏には心当たりがある人が1人だけいた。

 

マリア「…あなた、翼と一緒にいたんでしょ?だったら犯人は明確じゃない」

 

響「ですよねー。いや、懐かしいなー。私、前に翼さんが怪我で入院していた時、病室のお片付け手伝ったりしてたんですよね」

 

マリア「私もロンドンでは何度、部屋を片付けに行った事か……」

 

奏「はは…。翼は相変わらず、整理整頓ができないのか……」

 

響「そりゃもう。それに、実家の部屋も凄かったですよ?」

 

奏「翼の実家なんて行ったのか?あたしだって行った事ないのに。翼…家と折り合いが悪かっただろ?」

 

響「そうですね…色々あったみたいですけど。でも、最近じゃお父さんとの会話が増えたみたいですよ!」

 

奏「本当か?」

 

響「はい。翼さんの夢、応援してくれてるんです」

 

マリア「あの親子、自己表現に難がありすぎるのよ。本当によく似てるわ」

 

響「それに聞いてくださいよ。翼さんのお父さん、翼さんが散らかした部屋、そのままにしてるんですよ?」

 

奏「そ、それは流石に…」

 

響「そう思いますよね?」

 

奏「はは…(こいつらのお陰なんだろうな…。翼があの時のあたしみたいにならずに済んだのは…。その翼が、あたしを助けてくれた…。つまり、あたしはこいつらに助けられてたんだな…)」

 

 奏は響を凝視していた。

 

響「ん?私の顔に何かついてます?」

 

奏「いや、何でもない。まあ汚いけど、とりあえず休んでくれ」

 

響「うーん、その前にお掃除しちゃいません?」

 

マリア「この状態でくつろいでくれと言われてもね…」

 

奏「あ…そうだな。じゃあ、ちゃっちゃと片付けちまうか」

 

響「ですね。さあ、張り切って行きましょう!」

 

マリア「あなたは無駄にテンション高すぎよ」

 

響「えへへ。それほどでも」

 

マリア「褒めてないってば…」

 

 3人は散らかった部屋を片付けたのであった。

 

響「あー、さっぱりした」

 

マリア「……どう?少しは落ち着いたかしら?」

 

奏「…ああ、ありがとうな」

 

響「いやだなあ、奏さん。お掃除くらいでそんな大げさな」

 

奏「そうじゃなくてさ」

 

響「?なら、何です?」

 

奏「その…何だか、気を遣わせちまったみたいだからさ。あんたらだって翼の事が心配なはずなのに」

 

響「奏さん…」

 

奏「それに、すげー大好きなんだって気持ちも伝わってくる」

 

マリア「わ、私は別に…。ただ仲間として翼を尊敬しているだけよ!」

 

響「はいはい!私も翼さん大好きですよ!」

 

奏「ああ、わかってるよ」

 

響「やっぱり奏さんは、翼さんと出会った時からお互いに仲良かったんですか?」

 

奏「そうだなー…(いや、あたしは…)」

 

 

 

回想

 

 昔の奏は翼と仲が良いどころか、逆に翼を憎んでいたのであった。

 

奏「気に入らないんだよ!その憐れむような目が!そんなにあたしが怖いのかよ!」

 

 

 

奏「(むしろ、その逆だ…。あたしは憎んでたんだ。あいつの事)……」

 

マリア「どうしたの?」

 

響「大丈夫ですか、奏さん?」

 

奏「あ……ああ、大丈夫だ」

 

響「ならいいんですけど…」

 

 ふと、響は何かを見つけた。

 

響「ん?あれ…これ、何ですか?これは、逆光のフリューゲルの歌詞?」

 

奏「そういえば、翼と眺めててそのままだったな……」

 

響「…あの、奏さん」

 

奏「ん、どうかしたか?」

 

響「やっぱり、ツヴァイウイングとしてはもう唄わないんですか?」

 

奏「それは……」

 

マリア「無茶な事を言わないの」

 

響「難しい事なのはわかってます。お客さんの前で唄ったら、それはお客さんを騙す事になるのも。でも、奏さんと翼さんは2人で、やっぱり、ツヴァイウイングとして唄いたいんじゃないかって」

 

奏「……唄いたくないって言ったら、嘘になるな。でも、それは叶わない事だってのもわかってる。多分、翼も」

 

マリア「唄いたいけど唄えない…、その気持ち、辛さ、私にもわかるわ。私も、翼と一緒にステージで唄ったあの気持ちを知っているから。だとしても、ファンを騙す事はできない」

 

奏「ああ」

 

響「やっぱり、そうですよね……」

 

マリア「だけど、もし…」

 

奏「え?」

 

マリア「もし、それでも我慢できずに唄いたいっていうのなら私達でよければ大歓迎よ!」

 

響「はい!たくさんのお客さんは無理ですけど、いつでも大歓迎です!」

 

マリア「調や切歌も、まあ、勿論私もファンの1人って事になるかしら」

 

響「それに、未来やクリスちゃんも!みーんな、ツヴァイウイングのファンなんですよ!」

 

奏「はは、ありがとな」

 

マリア「でも、そのためには一刻も早く、あの子を助け出さないとね」

 

奏「ああ、そうだな」

 

 すると、二課から連絡が来た。

 

マリア「あら、二課から連絡ね。ええ…了解よ」

 

響「何かありましたか?」

 

マリア「私達の部屋の手配ができたって。そろそろお暇しましょう」

 

響「えー。このままお泊りしたかったのにー」

 

マリア「もう。女子会じゃないんだから…、人様の迷惑を考えなさい。ほら、行くわよ」

 

響「はーい…。お邪魔様でした」

 

奏「ああ。暗いから、気を付けてな」

 

響「はい。それじゃまた明日!」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 そして翌朝、一同は二課に集まった。

 

響「あ、おはようございます」

 

マリア「昨日はお邪魔したわね」

 

奏「別にいいって。それより、何か進展はあったかい?」

 

弦十郎「だいぶ地域は絞り込めてきている。もう少しだけ辛抱してくれ」

 

奏「……わかった」

 

 そこへ、了子が来た。

 

了子「あ、奏ちゃん。いい所に。はい、預かってたペンダント」

 

 了子は預かっていたペンダントを渡した。

 

奏「ああ、そうだった。預けてたんだったな」

 

響「あれ、了子さん。なんか顔色悪いですね?」

 

了子「久々に徹夜で頑張っちゃったからね~。お肌に悪いから、本当はやりたくないんだけど」

 

アイザック「そんなに奏のガングニールの状態が悪かったのか?」

 

了子「損傷はそれほどでも。ついでと言ってはなんだけど、ちょ~っと改造しておいたの」

 

奏「改造?」

 

紫龍「大方、対アルカノイズ戦も想定した改造だろう」

 

了子「正解!この前たーっぷりデータを集められたからね。奏ちゃんのギアにアルカノイズ対策を施したの」

 

奏「本当か!?」

 

了子「ええ。これで、相手がアルカノイズでも後れをとる事はないわ」

 

マリア「まさか!?こんな短時間にそんな事が?」

 

了子「ふふ。そりゃあ、櫻井理論提唱者ですから」

 

氷河「(ナスターシャ教授やバカウェル、そして櫻井了子の師である麻森博士とは明らかに次元が違う…。櫻井了子…やはり彼女は天才…いや、それを通り越して異能だ)」

 

了子「まあ大丈夫だと思うけど。念のため、動作テストをしておいてね。本当は実戦でといきたいけれど。今は、シミュレータで我慢してね」

 

王虎「行こうか、奏!」

 

マリア「じっとしてるのも腕が鈍るし、私達も付き合うわ」

 

奏「あ、ああ……」

 

 早速、一同はシミュレータルームに向かった。そして、奏はアルカノイズ対策を施されたギアを纏った。

 

奏「(あの時これがあったら翼の足を引っ張らずに済んだかも知れない…なんて、言った所ではじまらないか。後悔するより、これからどうするかが大事、か…。ダンナの言う通りなんだろうな)」

 

了子「不具合があったらシミュレータを緊急停止するから、違和感を覚えたらすぐ言ってね」

 

奏「ああ、わかってる」

 

響「それじゃあ、行きますよ、奏さん!」

 

奏「ああ…どこからでもかかってこい!(アルカノイズなんかに二度と負けるもんか!)」

 

 動作テストも無事に終わった。

 

響「バッチリですよ、奏さん!」

 

了子「どう?動きに違和感はあるかしら?」

 

奏「いや、全く。これならアルカノイズに触れられても大丈夫なんだよな?」

 

了子「ええ。アルカノイズの解剖器官からの干渉に対し、それを無効化するための機構を埋め込んで、聖遺物への干渉を」

 

紫龍「…少し、話が難解で困っているようだ…」

 

了子「…まあとにかく、普通のノイズと同じように戦ってもらって大丈夫って事」

 

奏「そっか、ありがとう」

 

了子「いいのよ。必要な事なんだし」

 

マリア「あとは翼の居場所さえわかれば…」

 

氷河「俺達のように小宇宙を自在に扱えるのならば、小宇宙を頼りに探れるのだがな…」

 

響「場所の分析、早く終わるといいですね」

 

 了子は何かを考えていた。

 

了子「(正直、これだけでは不充分なんだけど…。翼ちゃんが攫われた際に出現したあの巨大な怪獣……そして、戦いの最中、奏ちゃんと翼ちゃん、王虎君とアイザック君の4人の動きを止めた、謎の干渉波…。錬金術の力は侮れないわ…。特に、あの怪獣は…)」

 

響「了子さん?どうしたんですか?」

 

了子「え?なに?」

 

響「もしかして立ったまま寝てました?」

 

アイザック「立ったまま寝れる人間がいるものか」

 

了子「え、ええ。流石に寝不足でちょっとね。今の内に少し休憩させてもらうわ」

 

響「はい、お疲れ様でした!」

 

 了子は廊下に出た。

 

了子「私の杞憂なら、いいんだけどね……」

 

 

 

???

 

 何も知らない場所で翼は目を覚ました。

 

翼「ここは……?(……まさか、敵の手に落ちたのか…?一体、どれくらい眠っていたんだ、私は……。奏と一緒に正体不明の敵と戦って敗れ、敵の手中に落ちた…。奏は、無事なの…?)」

 

 しばらくして落ち着いたのであった。

 

翼「…だいぶ頭がはっきりしてきた。(まずは自分が置かれている状況を把握しなければ……)幸い、身体に目立った負傷はなさそうだ。が…やはりギアのペンダントや通信機は取り上げられているか。まさか。カギがかかっていない…だと?」

 

 扉のカギがかかっていない事に驚く翼であった。

 

翼「(かけ忘れたなどという粗忽は流石にあるまい。端から意図的にかけていにという事だろう)」

 

 辺りを見てみると、窓から見える光景は雪と氷だけだった。

 

翼「何だ…ここは!?(建物の外は、見渡す限り一面の雪……。一体、どこまで連れてこられたんだ?ううっ…景色を見たら急に寒くなってきた)それにしても、虜囚という割には警備が杜撰すぎる」

 

 そんな中、音色が聞こえてきた。

 

翼「この調は…?(聞いた事もない、何とも不思議な音色だが……)向こうから聞こえてくる…」

 

 音色が聞こえてくる方へ翼は向かった。

 

翼「(こんな大きなホールが……?音はあの奇妙なオブジェから響いてきているような…。あれは楽器なのか?)」

 

 ちょうどホールみたいな場所に奇妙なオブジェがあった。

 

翼「(下に人影が…演奏者か…?いや、あいつは!)」

 

 その女が来たのであった。

 

女「お目覚めのようね」

 

翼「やはり…あの時の!?」

 

女「あまりそう構えないでちょうだい。あなたに危害を加えるつもりはないのだから。今のところはね」

 

翼「人をこんな所まで攫っておいて、ぬけぬけと!奏はどうした!?」

 

女「ここに連れてきたのはあなただけだよ。止めは刺してないから、多分生きてるでしょう」

 

翼「(ならば、ひとまずは安心か…、いや、だが……)…お前は何者だ?ここはどこだ?」

 

女「……」

 

翼「私を連れてきて、一体何が目的なんだ?」

 

女「あなたに教える必要はないわ…」

 

翼「くっ…」

 

アリシア「けど、しばらく仲良くするんだし、名前くらいはいいわね。私はアリシア、錬金術師アリシア・バーンスタイン。よろしくね、ツヴァイウイングの風鳴翼さん」

 

翼「アリシア・バーンスタイン…?(やはり、錬金術師だったか……)」

 

アリシア「死んだと聞いていたのに、まさか生きているなんてね」

 

翼「それは…(この女、どこまで知っている?だが、いずれにしても、こちらから情報を与えてやる必要はあるまい)アリシア…と言ったな。一体何が目的なんだ?」

 

アリシア「そうね…、あえて言うなら……『世界を平和にする事』かしらね」

 

翼「世界を…平和に…だと?」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 翌日、一同は集合していた。

 

弦十郎「了子君の尽力により、奏のギアへのアルカノイズ対策は完了した。しかし翼を救出する上での障害は、アルカノイズばかりではない」

 

奏「錬金術師とあのでかい化け物か……」

 

弦十郎「その通りだ。君達に集まってもらったのは、敵情報の確認と対策を検討するためだ」

 

マリア「という事は…敵について手掛かりを何か掴んだという事ね?」

 

了子「ええ、ほんの少しだけどね」

 

奏「そもそも、あの錬金術師の力は何だったんだ?変な音が聞こえたと思ったら、急に身体が動かなくなった…。あの妙な力の正体は?」

 

響「音を使う錬金術師なんて、私達も出会った事ないですよ!?」

 

氷河「厄介そうだな…。翼の使う影縫いとも全く違う原理のようだが…」

 

了子「残念ながら、そちらの正体はまだ不明よ。私達の手元にある僅かしかない錬金術の資料では、類似する術式の情報は見当たらなかったわ」

 

マリア「でも音というからには、発生源がどこかにあるんでしょう?」

 

朔也「それも、わからないんだ」

 

マリア「どうして?」

 

あおい「ギアから本部へとデータリンクしているモニタリングセンサーでは一切検出できなかったの。センサーは可聴域も超音波帯も拾えるはずなんだけど」

 

朔也「検出できない音の音源を推定するのは、流石に不可能だ」

 

奏「あたし達には、あんなにはっきり聞こえたのに…?」

 

了子「(確かに不自然だわ。なぜギアのセンサー類に反応せず、装者2人にだけ聞こえるの?何か引っかかるわ…重要な何かを見落としているような……)」

 

弦十郎「翼はイグナイトモジュールの力で、王虎とアイザックは小宇宙を高めて跳ね返し、一応は行動可能になっていたようだ。響君、マリア君が同様の事態に陥ったら、迷わず使ってくれ」

 

響「了解しました!」

 

王虎「俺達は良いとして……」

 

了子「今回の対アルカノイズ対策で改良したフィールドが同様の効果を発揮してくれるといいのだけど……攻撃の原理がワカラナイ以上、どこまで期待できるか不明ね」

 

響「その時になったら私達が全力で奏さんをサポートします!」

 

奏「あ…ああ……もしもの時は頼むよ(また足でまといになるのだけは、避けないとな……)」

 

アイザック「他に情報はあるのか?」

 

了子「錬金術の素性や力についてはまだ不明な部分が多いけど、怪獣の方の正体は調査で判明したわ」

 

響「さっすが、了子さん!」

 

マリア「怪獣っていうのは、錬金術師達が使役していたという?」

 

朔也「そう、調べたらかなり厄介な奴って事がわかった」

 

響「それは…、今以上に大変な事態になるって事ですか?」

 

紫龍「(映像で見せてもらったあの怪獣、もしや…!)」

 

マリア「早速、聞かせてもらえるかしら」

 

了子「怪獣の正体はベルゲルミル。完全聖遺物よ」

 

響「ベル……ゲルミル?」

 

マリア「どこかで聞いた事のある名前ね」

 

紫龍「ベルゲルミル…。以前、老師から聞いた事がある。北欧神話における、霜の巨人だと」

 

了子「その老師って人から聞いてたから知っていた紫龍君は偉いわね」

 

紫龍「いえ、俺は老師から聞いただけに過ぎない」

 

奏「無理矢理こじつければ、ちょっとガングニールに似た響きかもなあ」

 

響「え?いくら何でも……」

 

了子「それもそのはず。どちらも古ノルド語由来の名詞だもの」

 

響「ええっ!?」

 

奏「それで、その聖遺物はどんなものなんだ?」

 

了子「ベルゲルミルは大戦中ドイツ軍が保有し、その後行方不明となっていた完全聖遺物よ。私も、ドイツ軍の遺した研究資料で基底状態のものしか見た事がなかったけれど……」

 

弦十郎「やはり聖遺物だったか……」

 

響「どんな力を持ってるんですか?」

 

了子「さっき紫龍君が言ったように伝承では霜の巨人と呼ばれていて、凍てつく冷気を纏い、全ての声明を極寒地獄の檻へと閉じ込めると云われているわ」

 

アイザック「なるほど、奴が現れてから気温が下がったのはそのせいか…」

 

了子「最恐最悪の聖遺物と目され、当時のドイツ軍は躍起になってそれを起動させようとしたけど…成功はしなかったらしいわ。もし起動していたなら…、そうね、大戦の結果も逆になったかも知れないし、聖闘士も介入せざるを得なくなっていたわね」

 

マリア「それ程のものだというの……」

 

弦十郎「それがどういった経緯かはわからないがあの錬金術師の手に渡っていたようだ」

 

了子「ええ。そして、この前の戦いにより発生したフォニックゲインを利用され、起動してしまった。2人のフォニックゲインが仇となってしまうなんてね…」

 

王虎「厄介な話だな…」

 

響「やっぱり、強いんですか?」

 

奏「あたしと翼の攻撃をものともしなかった」

 

響「ええっ!?」

 

了子「2人が戦った際に収拾できたデータを解析したところ、その戦闘力はカルマノイズをも凌駕しているわ」

 

マリア「カルマノイズよりも…強い?」

 

了子「ええ…これまで私達二課が戦った敵の中では、間違いなく最悪な相手ね。そしてさらに恐ろしいのは、あれはまだ起動したばかりで、完全体ではないという事」

 

奏「あの強さで!?そんな相手に、どう対抗すりゃいいんだ!?」

 

マリア「対策を話し合うとか言っても、さっきから絶望的な情報ばかり…」

 

氷河「いや、俺達がいるから絶望的とは限らない」

 

アイザック「仮にベルゲルミルが完全体になったとしても、最悪でも凍気による攻撃は俺や氷河と同じ絶対零度レベルだろう」

 

紫龍「それに、既にライブラの武器の使用の許可ももらった。あの音という不確定要素はあるが、希望を捨てるのは早い!」

 

奏「わかってるよ。翼を助けるまで、諦めてたまるか!」

 

マリア「ええ、でも、何か少しでも良い情報はないの?」

 

了子「ふふ、もちろんあるに決まってるじゃない。今日は絶望だけを伝えるためにここに呼んだんじゃないのよ。希望はちゃーんと用意してあるわ」

 

響「おおっ!さすが了子さん!」

 

王虎「希望はたくさんあった方がいいからな」

 

弦十郎「その希望とは?」

 

響「ええっ?師匠も知らないんですか!?」

 

弦十郎「ああ…聞いたが、答えてもらえなくてな…」

 

マリア「(秘密主義なのか、楽しんでやってるのか、どっちなの)」

 

響「希望って、一体なんなんですか?もったいぶらないで教えてください!」

 

了子「そうねー、そろそろ到着する頃かしら。着いてからのお楽しみ、って事で」

 

響「ええー!」

 

マリア「(…両方という可能性が高いわね)」

 

 そんな折、警報が鳴った。

 

朔也「ノイズの反応を検知!この反応は、アルカノイズと推定されます!」

 

弦十郎「場所と被害状況は!?」

 

朔也「近郊の市街地!飛行中の減りが爆破され、墜落した模様です!」

 

弦十郎「ヘリだと?民間機か、自衛隊か!?」

 

朔也「目下、確認中です!」

 

了子「あら?相手の方が一枚上手だったかしら」

 

弦十郎「どういう事だ?」

 

了子「墜とされちゃったみたい、あたしたちの希望」

 

響「えええーっ!?」

 

マリア「それじゃまさか、そのヘリが、その?」

 

了子「ええ、たぶん…。中身が無事だといいんだけど」

 

紫龍「ならば、素早く出るまで!」

 

弦十郎「ええいっ!ともかく出動だ!負傷者の救出と積み荷の回収が最優先!その次にアルカノイズの撃退とする!」

 

氷河「了解した!」

 

紫龍「行くぞ、希望を掴みに!」

 

 一同は出撃したのであった。

 

 

 

郊外

 

 現場は派手に燃えていた。

 

奏「ちっ…派手に燃えてるね」

 

マリア「あの様子だと、生存者は絶望的ね……」

 

 通信が入った。

 

了子『ヘリの墜落地点にアルカノイズが集結中よ!ヘリの積み荷をなんとしても見つけ出して!』

 

氷河「了解した!アイザック、まずは炎を鎮火して道を作るぞ!」

 

アイザック「おう、ダイヤモンドダストォ!」

 

 氷河とアイザックはダイヤモンドダストで炎を鎮火し、道を作ったのであった。

 

響「見慣れないアルカノイズがたくさんいますけど…」

 

王虎「あいつはシンフォギアの攻撃が効かないばかりか、聖闘士の攻撃にも高い耐性を持つ上に生半可な攻撃を受けると分裂して増えるアルカノイズだ」

 

響「ええっ!?」

 

マリア「となれば、S2CAも通じない可能性が高いわね」

 

王虎「お前達は積み荷の捜索に専念しろ。そいつらは俺達に任せな!」

 

紫龍「王虎、アイザック、ライブラの武器を使え!」

 

 紫龍はライブラの武器を2人に渡した。

 

王虎「そっちのアテナも気前がいいな」

 

紫龍「ノイズやアルカノイズとの戦闘は正義の戦い以前の問題と沙織さんも言っていたからな」

 

アイザック「この場は俺と王虎に任せろ!2人はあいつらと積み荷の捜索を!」

 

奏「このギアの力…どれだけ通用するか…試させてもらう!」

 

 王虎とアイザックはライブラの武器で防御力の高い分裂増殖型のアルカノイズを次々と倒していき、奏もアルカノイズを次々と倒していった。その頃、アリシア配下の錬金術師がコンテナを発見した。

 

錬金術師A「コンテナを発見!」

 

錬金術師B「目的のものを探せ!装者と聖闘士共が来てるぞ!」

 

錬金術師A「くっ!ヘリの残骸がのしかかって」

 

錬金術師B「ええい、早くどけろ!」

 

 響達もコンテナを発見した。

 

響「マリアさん、奏さん、紫龍さん、氷河さん、あれ!」

 

氷河「奴等は…錬金術師!」

 

紫龍「積み荷を持って行こうとしているみたいだ」

 

奏「させるかー!!」

 

 ところが、急に気温が低下したのであった。

 

響「あれ…なんでだろう。急に息が白く…気温が下がってる?」

 

マリア「道路やビルに霜が降りて…」

 

氷河「まさか…みんな、ベルゲルミルが来るぞ!」

 

 北国で生まれ育ち、凍気の闘法の極意を身に付けた氷河はいち早くベルゲルミルが来る事に気付き、仲間に注意を促したのであった。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 氷河に先を越されたものの、二課でも異様な気温の低下は確認できていた。

 

弦十郎「まさか、これは!?」

 

了子「みんな気を付けて!」

 

紫龍『氷河がベルゲルミルが来ている事にいち早く気付いたから大丈夫だ!』

 

弦十郎「対抗策がない状況での接触は危険だ。その場は聖闘士に任せ、一旦装者達を撤退させる。いいな!」

 

了子「そうなると下手をしたら積み荷を諦める事になるけど…仕方な」

 

氷河『それは最後まで手を尽くしてから言ってもらおうか!』

 

了子「まあ!あの氷河って子、氷の技を使うのに心はとても熱いわね…」

 

 

 

郊外

 

 氷河の感じた通り、ベルゲルミルが姿を現した。

 

マリア「これが……ベルゲルミル?」

 

紫龍「老師から聞いた事はあるが、実物を見たのは俺も初めてだ」

 

氷河「いかにも氷の化け物といった感じだ」

 

 そこへ通信が来た。

 

弦十郎『聞こえるか、3人とも!この場は聖闘士に任せ、ただちに撤退だ!』

 

奏「そいつは聞けない相談だな。あそこにあるのは希望なんだろ!あたし達にもできる事がある!聖闘士に任せっぱなしにできるか!」

 

弦十郎『奏!?危険すぎる!』

 

マリア「私も残るわ。何だかはわからないけど、あれをここで失ったら方策を立て直すにも時間がいるのでしょう?聖闘士の足止めに特化したアルカノイズもいるし、その間にも、あの子の身の安全は刻一刻と損なわれていくわ!」

 

響「そうです!翼さんを助けるには、後ずさりしている暇はありません!師匠、やらせてください!」

 

弦十郎『君達…。わかった、やれるだけやってみろ。紫龍と氷河もフォローしてくれ!』

 

紫龍「勿論だ!」

 

弦十郎『だが、次の撤退命令は絶対だ!引き際を間違えるな!』

 

マリア「やるとなった以上、出し惜しみはなし、初めから全力で行くわよ!」

 

響「わかってます!」

 

 2人はイグナイトモジュールを発動させた。早速、分裂増殖型のアルカノイズも湧いてきた。

 

氷河「俺達を行かせないようだな」

 

紫龍「お前達は先へ行け!」

 

奏「わかった!一番槍はあたしがいただく!ついて来い、2人とも!」

 

マリア「わかったわ!」

 

響「(待っててください、翼さん。私達が絶対に助けますから…)」

 

 分裂増殖型のアルカノイズの相手を紫龍と氷河に任せ、響達はベルゲルミルに戦いを挑んだ。

 

響「私達3人の力が合わされば!」

 

マリア「ええ…やってやれない事はないわ!」

 

奏「回復する暇を与えずに叩き込め!」

 

 攻撃を加えたものの、また奇妙な音が聞こえた。

 

奏「くっ!またこの音か…」

 

マリア「な、なに、これ!?」

 

響「身体の自由が!」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 その様子は二課でも確認された。

 

了子「また、あの攻撃?…あれは本当に錬金術の力なの?」

 

弦十郎「イグナイトの上からでも効力を及ぼすか!」

 

了子「前回よりもパワーアップしているという事…?」

 

あおい「ダメです!やはり音波の検出も発生源の特定もできません!」

 

弦十郎「ん?いかん!避けろ、3人とも!!」

 

 

 

郊外

 

 奇妙な音で動けなくなってしまい、ベルゲルミルの攻撃をまともに受けてしまった。

 

奏「くっ…。これはどうなってるんだ…」

 

マリア「頭の中に、変な音が鳴り響いて…」

 

響「まったく動けないわけじゃないけど……」

 

マリア「ええ…まるで身体中に錘をつけられたようね」

 

奏「あたしも、この前よりはマシだけど…。これじゃ、まともな戦いなんて」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 戦闘区域の気温は下がり続けていた。

 

あおい「現地の気温、尚も低下中!零下50℃…60℃を切りました!」

 

朔也「ベルゲルミルの物理干渉力が上昇!」

 

了子「この間よりも明らかに力が増している…」

 

弦十郎「聖闘士はともかく、普通の人間なら近づいただけで凍死するぞ」

 

了子「考えたくもないけど、あの状態でギアが解除されたら…」

 

弦十郎「ここが」

 

紫龍『俺達を忘れるな!』

 

 遮ったのは紫龍であった。

 

 

 

郊外

 

 まともに動けない響達に代わって紫龍と氷河がベルゲルミルと分裂増殖型のアルカノイズ相手に応戦していた。

 

紫龍「ベルゲルミルも俺達が引き受けよう!」

 

氷河「誰か1人でもいい、急いで積み荷を!」

 

マリア「2人とも…」

 

奏「だけど…身体がまともに動ければ…」

 

響「マ、マリアさん。錬金術師達が積み荷の周りで倒れてます…」

 

マリア「この温度よ。普通の人間が活動できる環境じゃないわ。それこそ、聖闘士でないと」

 

響「紫龍さんと氷河さんが戦ってくれている間に希望を取りに行かないと…!」

 

奏「こんな所で…やられるわけにはいかない…。あたし達の代わりにベルゲルミルと戦ってくれている紫龍達のためにも、翼を助けるためにも!!」

 

 そんな奏の意思に反応したかのようにコンテナから炎があがった。

 

マリア「何?」

 

奏「貨物コンテナから…炎が……?」

 

響「まさか、ヘリの火が燃え移ったんですか!?」

 

マリア「いえ、あれは自然の炎の動きじゃないわ」

 

響「天まで吹き上がる…竜巻みたいな、炎…?」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 その炎の様子は二課でも確認された。

 

了子「装者のフォニックゲインに呼応して、ブリーシンガメンが起動した!?」

 

弦十郎「ブリーシンガメンだと!?」

 

 

 

郊外

 

 氷河はベルゲルミルとの戦いには圧倒的に有利だった。

 

氷河「オーロラサンダーアタック!!」

 

 氷河とベルゲルミルは素の力も凍気の差も歴然であり、氷河が凍てつかせるベルゲルミルを逆に凍らせていた。しかも、ベルゲルミルはブリーシンガメンの炎にを怖がっていた。

 

響「あの炎を怖がってる…?」

 

マリア「そうみたいね。でも、炎の勢いが衰えていく…?」

 

奏「あれが希望…。あいつをぶっ倒すための、そして翼を救うための、希望……。消させはしない!」

 

紫龍「行け、奏!希望の炎を掴み取れ!」

 

 奏は希望の炎を掴みに行った。

 

響「奏さん…!」

 

マリア「もう、後先考えないで!これだからガングニール使いってのは!真っ直ぐ突き進む事しか知らないんだから!」

 

響「えっ?それ、私の事含んでます?っていうか、マリアさんだって前は!」

 

マリア「わかってて言ってるのよ!」

 

響「ええっ!?」

 

紫龍「もうすぐだ、奏!」

 

氷河「急げ!」

 

 ベルゲルミルは氷河に押されていたが、氷河がダイヤモンドダストなどを放とうとすると増殖型のアルカノイズが邪魔をしてくるため、止めを刺せなかった。4人の援護を得て、奏はようやくブリーシンガメンを見つけた。

 

奏「はあ、はあ…辿り…、着い……、た!こいつが…あたし達の、希望?」

 

 炎が再び吹き上がったのであった。

 

マリア「炎の竜巻が吹き上がって、周りの雪や霜が溶けていく!?」

 

響「やった!」

 

了子『いいえ…まだよ』

 

響「え?」

 

 希望の炎、ブリーシンガメンを掴む事はできたが、その際に奏に異変が起こった。

 

奏「がはっ?こ、これは…!?ぐああああああっ!?」

 

響「奏さん!?一体何が!?」

 

マリア「まさか暴走……」

 

響「(これってもしかして、私が前にデュランダルを手にした時の…)」

 

 響と紫龍と氷河には奏の暴走の様子に覚えがあったのであった。そして、奏は暴走してしまった。

 

奏「グガアアアッ!!」

 

響「あの姿は…」

 

マリア「暴走の浸食が始まったようね…」

 

氷河「こんな時に暴走だと!?」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 その頃、二課では…。

 

弦十郎「奏の状態は!?」

 

あおい「ガングニール、適合率が乱高下しています!」

 

朔也「ダメです!ブリーシンガメンの精神浸食、止まりません!」

 

了子「すぐに手を…ブリーシンガメンから手を放して!」

 

 

 

郊外

 

 奏の暴走は続いていた。

 

奏「(だ…ダメ、だ……。放す…ものか、よ……。せっかく掴んだ、希望を……)手放すものかぁーーーっ!!」

 

 炎の勢いはさらに強くなっていた。

 

紫龍「奏!」

 

マリア「炎の勢いがさらに強く!?」

 

 氷河の猛攻に押されていたベルゲルミルはブリーシンガメンの炎に苦しんでいた。

 

響「ベルゲルミルが、苦しんでる?」

 

 そこへ、錬金術師達が来た。

 

錬金術師A「愚図共が手古摺っている間に、あれを奪還されるとはな…」

 

錬金術師B「流石のベルゲルミルも、水瓶座の聖闘士の絶対零度とあの炎の前では意気消沈か」

 

錬金術師A「仕方あるまい。絶対零度はともかく、少なくともまだこの段階では、な…」

 

錬金術師B「聖闘士用の足止めとして防御に特化した分裂増殖型のアルカノイズを開発したが、黄金聖闘士の力を見縊り過ぎていたようだ。ここは一度、退くとしよう」

 

錬金術師A「倒れている同志の回収も忘れるな」

 

錬金術師B「わかってる」

 

 錬金術師たちは倒れている同胞とベルゲルミル、残っている分裂増殖型のアルカノイズを回収して退いたのであった

 

氷河「ベルゲルミルが消えた…?」

 

紫龍「あのアルカノイズも消えた上、残りの錬金術師達も退いたようだな」

 

???「大丈夫か、奏!」

 

 王虎とアイザックも来たのであった。

 

アイザック「奏、何があった!?」

 

響「もう大丈夫ですよ、奏さん」

 

奏「う…ううっ……(あたしは…護れたのか…?翼を助け出すための、希望を……)」

 

王虎「奏、何だか」

 

 王虎が言い終わる前に奏は倒れた。

 

響「奏さん!」

 

紫龍「まずい!急いで二課へ戻るぞ!」




これで今回の話は終わりです。
今回は敵錬金術師とのブリーシンガメンの争奪戦を描きました。
次の話はブリーシンガメンによって奏の新しい力が目覚めますが、それに至るまでに途方もない困難が待ち構えています。

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