セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

75 / 198
75話 ブリーシンガメンギア

特異災害対策機動部二課

 

 そして、翌日になった。

 

弦十郎「昨日の戦い、本当にご苦労だった」

 

響「奏さん、身体は大丈夫ですか?」

 

奏「ああ、大丈夫さ。ちょっと力を入れ過ぎて疲れただけだからさ。一晩ぐっすり寝たからいつも通りだって」

 

響「よかったぁ…。あの後、倒れちゃったから心配したんですよ?」

 

奏「…悪い、心配かけたな」

 

弦十郎「それでは、これからの話をする。知っての通り、君達の尽力のお陰で完全聖遺物『ブリーシンガメン』の奪還に成功した。これにより、ベルゲルミルへの対抗策を進歩させる事ができそうだ」

 

マリア「そもそも、そのブリーシンガメンとは一体?」

 

響「そうそう。火炎放射器みたいな、物凄い炎がでてましたけど…」

 

紫龍「ブリーシンガメン…。以前、老師にお聞きした事がある。北欧神話の女神フレイヤが持つ炎の力を宿した首飾りであると」

 

響「紫龍さんって物知りだね!」

 

王虎「クソ真面目だから、向こうの老師も色んな事を教えて可愛がっていたようだな」

 

了子「ほんとね。伝承の説明の手間も省けちゃうわ。もともとはEUの某機関の研究チームが管理していた完全聖遺物なんだけど…敵がベルゲルミルだと判明してすぐに彼等に貸与をお願いしておいたの」

 

マリア「ずいぶんと気前がいいのね?」

 

了子「彼等も初めは渋っていたのだけどね。相手がベルゲルミルと言ったら進んで提供してくれたわ。彼等も、あのドイツ軍の資料で恐ろしさを知っている身だから。それに、ベルゲルミルが起動した、と聞いた以上…」

 

マリア「ブリーシンガメンも起動させられるかも知れない、そういう事ね」

 

了子「大当たり~。いつまでも基底状態の聖遺物を後生大事にとっておくより、貸与する事での起動の階農政に賭けたって事」

 

マリア「…全く、研究者って人種は」

 

響「でも、向こうはまだあれで全力じゃないんですよね…?」

 

マリア「完全進化したらと思うと、本当に恐ろしいわ」

 

氷河「完全体になれば奴の凍気も絶対零度に届く恐れもある」

 

響「でも、そのブリーなんとかを遣えば、対抗できるんですよね?」

 

アイザック「少なくとも今の段階ではな」

 

了子「だけどそう単純な代物ではないの。起動したばかりで、私自身もまだ把握ができていないしね」

 

響「そうなんですか……」

 

紫龍「だが、俺達には時間がない。奴等は俺達を足止めして加勢させなくするためのアルカノイズを所有している以上、一刻も早くブリーシンガメンを使いこなさなければならない」

 

了子「ええ、わかってるわ」

 

奏「あのさ…。そいつをあたしに使わせてくれないか」

 

氷河「奏!?」

 

奏「完全聖遺物は聖衣のような特別なもの以外は起動条件さえ整えば一般人でも扱えるらしいけど…。今回は敵に、あのベルゲルミルに近づく必要があるだろ?それを考えたら、装者が使うのが一番なんじゃないか?」

 

了子「確かにそうだけど…許可できないわ。ギアともう一つの聖遺物を同時制御するのがどれだけ困難で、どれだけ危険かは、昨日骨身に染みたでしょう?」

 

奏「そ、それは…」

 

了子「二つの聖遺物を同時に使用すると、聖遺物同士の反発により暴走してしまう可能性が高い。実際、昨日、既に暴走の兆候が現れたでしょ?」

 

奏「わかってるさ、そんな事は…。それでも!それでも…そいつが翼を救う最後の希望なら…。あたしに任せてほしいんだ」

 

響「(奏さん…)」

 

了子「焦る気持ちはわかるわ(この子達と違って、奏ちゃんにはイグナイトモジュールがない。その分、どうしたって戦力が劣ってしまう…。適合係数においても、これまで見た装者の中では一番低い。焦る気持ちは痛いひどわかる…)だからといって成算のない作戦には研究者としては反対せざるを得ないわ」

 

奏「くっ…」

 

氷河「待ってくれ、了子」

 

了子「氷河君?」

 

氷河「暴走しそうになったら、俺達が止める」

 

響「実は私も前に…ギアの状態である聖遺物を掴んだ時、浸食に耐え切れず、暴走しかけた事があるんです。でも!その時は翼さんとクリスちゃんが…。仲間達が助けてくれました」

 

紫龍「ああ。暴走したら、今度は俺達が止める」

 

奏「お前ら…」

 

了子「成算はあるの?」

 

響「そんなのありません!でも…絶対止めてみせます!」

 

紫龍「世の中は成算とか合理性だけで動いているわけではない。星矢がこの場にいれば『だったら、奇跡を起こしてみせるまでだ!』というに違いないからな」

 

了子「またく…。人がこれだけ悪者になってるのに、効きやしないんだから。ほんと、ガングニールの装者って嫌ねえ…。無茶で頑固で一本気で。おまけに聖闘士も諦めが悪いんだから」

 

弦十郎「ふふ、しかしそれこそが人の力というものだろう。…確かに作戦立案には成算が…確実性の担保が必要だ。だが、その一方で君達が纏うギアの力の根源は、人の心の力だ。無限の可能性を具現化する事が許された、奇跡の力だ。君達の想いが一本に束ねた槍であるならば…。すべての苦難を貫き通す覚悟があるというならば!大人としては、若者の想いを止める言葉は最早あるまいよ」

 

了子「まったくもう、弦十郎組んは昔から暑っ苦しいんだから…。もう…わかったわ。ただし条件がある。まずはシミュレーションのテスト使用で実証。暴走の危険があると感じたらすぐ使用を中止…いいわね?」

 

奏「ありがとう、了子さん」

 

響「ありがとうございます!」

 

弦十郎「見事折れずに貫いてみろ、君達の想いを。そして…頼む。翼を救ってくれ」

 

響「はい!ガングニール3人衆は絶対に、折れません!」

 

マリア「私は元、だけどね」

 

響「あ、そんな!自分で言い出したじゃないですか!」

 

了子「ここまで危険を冒すんだから、絶対に助けないとね」

 

奏「ああ…今度こそ助ける。この命にかけても、な」

 

紫龍「(翼…やはり、この世界の翼を助けられなかった事をまだ悔やんでいるのか…)」

 

氷河「(そんな悲しみは繰り返させん!絶対に俺達が翼を助けるんだ!)」

 

 早速、シミュレータルームへ向かった。

 

弦十郎『それでは天羽奏による、ガングニール並びにブリーシンガメンの同時制御訓練を開始する』

 

奏「ああ。頼むよ、ダンナ」

 

マリア「私達も万が一の時のために制御室に控えているわ」

 

響「奏さんならへいき、へっちゃら、です!ね?」

 

奏「ああ、ありがとな。何とかやってみるよ」

 

響「頑張ってください!」

 

 響達は制御室で待機した。

 

了子『では、ブリーシンガメンを腕に装着して』

 

奏「なあ、これって普通に持って大丈夫なのか?この前みたいにいきなり炎が出たりとかは……」

 

 奏は了子が加工したブリーシンガメンを見た。

 

了子『大丈夫よ。ある程度は制御できるようにしたから。腕輪をよーく見てみて、スイッチのようなものがあるでしょ?』

 

奏「ああ、これか」

 

了子『まだスイッチを入れちゃダメよ。それで起動と解除ができるようになってるんだから。一応、こちらからでも解除ができるようになっているわ。もし危険と判断した場合は、中止させるからそのつもりで』

 

奏「わかったよ」

 

 一同は様子を見に来た。

 

アイザック「まだ始まっていないようだな」

 

響「あれ…?あんな形してましたっけ?」

 

了子「ブリーシンガメンは本来は首飾りなのだけどね。ギアのペンダントと競合するから腕輪に加工しておいたのよ」

 

響「か、借りものなのにそんな事していいんですか?」

 

了子「腕輪にしたのと制御装置を取り付けたぐらいだから大丈夫よ。聖遺物のコアとなっている部分は何もいじっていないし、すぐに元の状態にも戻せるから、問題はないわ」

 

響「なるほどー」

 

王虎「そろそろ始まるみたいだぞ」

 

了子「おっと、いけない。モニタリングしないとね」

 

紫龍「氷河とアイザックは暴走に備えるんだ」

 

 紫龍の指示に2人は頷いた。一同が待機した後、奏の同時制御訓練が始まって奏はギアを纏った。

 

了子『ガングニール起動。適合係数は良好よ。次に、ブリーシンガメンの起動を試みてちょうだい』

 

奏「ああ、わかってる(ブリーシンガメン…あたしに、お前の力を貸してくれ!)はああああっ!」

 

 次にブリーシンガメンを起動させたが…

 

奏「ぐっ!?あう、ぁぁぁ!」

 

響「奏さん、しっかり!」

 

奏「(か、身体が、心が…バラバラに…なり、そうだ…。けど、負けるわけには、いかない…)この地からで…翼をたすけるん、だ…」

 

 

 

???

 

 ところが、心の中で誰かが囁いたのであった。

 

???「バカな奴だな、お前は…」

 

奏「(なんの、声だ…?)」

 

???「お前は本当に翼を助けたいと思っているのか?」

 

奏「(当たり前だ)」

 

???「だが救えない。救えなかった。お前の無力さ故に」

 

奏「(だからこそ、今度こそは力が必要なんだ…)」

 

???「過ぎた力は己を滅ぼすのみだと知っても?」

 

奏「(そんな事はわかってるさ、嫌って程な!)」

 

???「そもそも本当に翼は助けるべき存在なのか?」

 

奏「(どういう意味だ?)」

 

???「あれはお前の片翼じゃないだろ?同じ姿をした別のものだ」

 

奏「(それは…)」

 

???「再び共に羽ばたこうなんて、期待しても無駄だ」

 

奏「(うるさい!)」

 

???「反発心は図星だからだ。知っているんだよお前は」

 

奏「(黙れ…)」

 

???「ただの代償行為、自己満足に過ぎないって」

 

奏「(やめてくれ!!)」

 

???「お前の罪は贖えない。失われた命は決して還らない」

 

奏「わかってるさ、そんな事!けど」

 

???「そもそも、お前は、お前自身を偽ってる」

 

奏「(お前に何がわかる!)」

 

???「わかるさ」

 

 囁く声の正体は奏の心の闇そのものであった。

 

奏の影「あたしはお前自身なんだから」

 

奏「(なっ!?)」

 

奏の影「あたしには、翼なんて必要ない」

 

奏「(そんな事…ない…はず、だ…)」

 

奏の影「思い出せ、あいつを憎んですらいた事を」

 

 奏は自身の心の闇にその事実を突き付けられてしまった。

 

奏「(アアアアアアアーッ!!)」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 心の闇に事実を突き付けられたのが表にも出てしまい、奏は暴走してしまった。

 

奏「アアアアアアアーッ!!」

 

紫龍「やはり暴走したか…!」

 

了子「脳波、適合係数、ともに危険域を突破したまま1分が経過。自力復帰の見込みはないと判断せざるを得ないわ。これ以上の継続は危険よ」

 

弦十郎「…ここまでだ。実験を中止する」

 

了子「了解。ブリーシンガメン、強制解除」

 

 ブリーシンガメンを強制解除したのであった。

 

響「奏さん…」

 

マリア「そんな心配そうな顔しないの。まだ1回目よ、このくらいで諦めたりしないわ」

 

響「そう、ですよね…」

 

氷河「その程度で諦めていては、翼の救出なんてできやしないのだからな」

 

了子『ブリーシンガメン、強制解除。適合係数急低下によりガングニールも機能停止』

 

奏「はあ、はあ、はあ……」

 

 適合係数が急低下した事で、ギアの装着も解除された。

 

奏「くっ…(あたしは…失敗、した…のか…?)」

 

 

 

???

 

 その頃、翼の方は…。

 

翼「今度は何をするつもりだ!?いよいよ、私をその怪物に食らわせるつもりか?」

 

アリシア「いずれ、そうしてあげてもいいのだけど。今は、あなたの歌を聴かせてちょうだい」

 

翼「それは…」

 

 アリシアはギアのペンダントを翼に返した。

 

翼「(ギアの…ペンダント…)そちらから返してくるとは、牙を剥かれないとでも?」

 

アリシア「あなたの力ではこの子を倒せない。もう証明済みだと思ったけど」

 

翼「ギアを纏っても無意味だというならば、歌を聴かせる事もあるまい?」

 

アリシア「いいえ…。こうすれば、纏わないわけにもいかないでしょう?」

 

 アリシアはアルカノイズを召喚した。

 

翼「(アルカノイズ!?)なるほど、選択肢はないという事か」

 

アリシア「おわかりいただけたかしら?」

 

翼「(やむを得ないか…)何が目的かは知らないが、ひとまず乗ってやろう。その掌の上にな」

 

 翼はやむを得ず、ギアを纏い、後ろに跳躍した。

 

アリシア「(後ろに跳躍して距離を?)」

 

翼「こちら風鳴翼!二課、応答せよ!」

 

 しかし、繋がらなかった。

 

翼「…やはりダメか!」

 

アリシア「助けを求めようと考えているなら、それは期待しない方がいいわ。ここでは通信はおろか、アウフヴァッヘン波形も検知される事はない」

 

翼「くっ(ガラスを突き破って脱出を強行するか?だが、あの怪物を撒く事ができるか?窓からどの方角を見ても無限の雪原だった。こんな景色、今の日本の季節ではありえない。土地勘のない雪原を走破する?それとも、こいつらを全て倒し、電波妨害の元を除いて外部と連絡を取るか?いずれにせよ難しい選択だ)」

 

アリシア「考えている暇はないわよ?」

 

翼「くっ!降りかかる火の粉は払うまで!ならば望み通り聴かせてやろう、この私の歌を!」

 

 翼はアルカノイズを一掃したのであった。

 

翼「この程度では何体来ようと、私は倒せないぞ!」

 

アリシア「なるほど、流石だわ。けれど。その勢いもいつまで続くかしら?」

 

 再びアリシアはアルカノイズを投入した。

 

翼「(奴はなぜ戦力を逐次投入する?これだけの数を召喚できるなら、最初からまとめて召喚して包囲した方が効果的なのでは?)」

 

 疑問に思いながらも、翼はアルカノイズを駆逐し続けた。

 

翼「(同時に召喚する数に制限があるのか、それとも…?生かさず殺さず、戦わせるのが目的…なのか?だとしたら、一体なぜ…?)」

 

アリシア「お見事。流石は風鳴翼ね。噂に違わぬ戦いぶりだわ」

 

 再三、アリシアはアルカノイズを召喚した。

 

翼「まるで闘技場の剣闘士にでもなった気分だ」

 

アリシア「剣ならば、本望でしょう?」

 

翼「己の意志なき剣は剣に非ず。大義のない戦いは戦士の戦いに非ず」

 

アリシア「果たして大儀のある戦いなんてものが、あるのかしらね……」

 

翼「自ら争いを求めておきながら、どの口で!?」

 

 翼は大型アルカノイズを斬り捨てた。

 

アリシア「そう。矛盾よ、これは。でも、世界を変えるには、矛盾を突破した先へと進まなければならないの」

 

翼「何を言っている?」

 

アリシア「きっと、あなたには永遠に理解できないわ」

 

翼「お前は先日、世界を平和にする事が目的だと、そう言ったな。これが…」

 

 さらにアルカノイズを倒したのであった。

 

翼「こんな茶番が、世界を平和にするために必要な事だというのか!?」

 

アリシア「戦いながらおしゃべりなんて、器用な人。いいわ、少しだけ付き合ってあげる。争いのない平和な世界を作るために、あなたの、敵を倒すために唄うその歌の力が必要なの」

 

翼「私は、敵を倒すために歌を唄っているわけじゃない!」

 

アリシア「ノイズを殺すために歌を唄う。それがシンフォギア装者でしょう?天羽奏がそうであるように。敵を倒すためでないとしたら、あなたは何のために歌を唄っているの?」

 

翼「……(私はこの世界の者ではない、が…しかし。この想いは、どの世界にいても変わるものではない)私の歌を好きと言ってくれる人達のためだ。その人達が少しでも笑顔になってくれればと。そのために剣を振るっている」

 

アリシア「笑顔…。世界を護るべき存在であるシンフォギア装者としては、随分甘い答えね。少しの人g年を笑顔にしたところで、世界は変わらない」

 

翼「私の歌だけではそうかも知れない。だけど、歌には確かに、世界を変える力がある」

 

アリシア「そんな歌があるのなら、ぜひとも聴かせてもらいたいわね。あなたの世界が閉ざされる前に。その世界を変える力とやらを、照明してみせなさい」

 

 ベルゲルミルが動き出したのであった。

 

アリシア「次はこの子、ベルゲルミルが相手よ」

 

翼「(この怪物を相手にしろだと?)ベルゲルミル…それがその怪物の名か!」

 

アリシア「ええ。この子を、圧倒的な現実を前にしても、その儚い夢想を続ける事ができるかしら?」

 

翼「相手にとって不足なし。いざ、推して参る!」

 

 ベルゲルミルと交戦したものの、翼1人で勝てるような相手ではなかった。

 

翼「(切っても切っても倒れないとは…なんという耐久力だ。こいつと戦っても埒があかない…だが、どうする?やはりここは!)影縫いで動きを封じる!はあーっ!」

 

 影縫いでベルゲルミルは動きを封じられた。

 

アリシア「ベルゲルミルの動きを?」

 

翼「(奴の動きが止まっている、わずかな隙に!)はああーっ!」

 

 ベルゲルミルが動けない間に翼はその場から離脱する事にした。

 

翼「お前の茶番に付き合うのもここまでだ、アリシア・バーンスタイン!」

 

 そして、逃亡したのであった。

 

アリシア「逃亡とは、無謀な事を…」

 

 

 

雪原

 

 翼は辺り一面の雪原へと足を踏み入れた。

 

翼「(見渡す限り一面の雪原。やはり、自力で人里まで辿り着くのは難しそうだ。だが、建物から充分離れれば通信が回復するはず……そうすれば、この状況を二課へと伝えられる。それにしても、物凄い地吹雪だ…。ギアがなければ瞬く間に凍死するだろう。通信可能な所まで辿り着くのが先か、それとも私の力が尽きるのが先か、今は運を天に任せて進むのみ…)」

 

 雪原を進む翼であった。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 一方、倒れた奏はメディカルルームで眠っていた。

 

奏「うう…。つば、さ……」

 

 そして、奏の心の闇に突き付けられた事を思い出していた。

 

奏の影『お前は本当に翼を助けたいと思っているのか?そもそも本当に翼は助けるべき存在なのか?あたしには、翼なんて必要ない。思い出せ、あいつを憎んですらいた事を』

 

 翼を憎んでいた頃の事を思い出し、奏は跳ね起きた。

 

奏「はっ!?ゆ……夢…、か……(いや…あれは……聖遺物の暴走状態に表れる、心の闇、って奴なのか…。あれが、あたしの中の本音だって、いうのか…?)そんなバカな事があるかよ(確かに、翼を疎ましく思った事はあったさ。でも…それはずっと昔の事だ。あいつと出会って、あいつを知って、あいつと一緒に戦って、そして、一緒に唄って…あたしは変わった。変わったはずなんだ)」

 

奏の影『そもそも本当に翼は助けるべき存在なのか?あれはお前の片翼じゃないだろ?同じ姿をした別のものだ』

 

奏「あいつは、あたしの知ってる翼じゃない……。そんな事、わかってるさ。それでも、助けたいと思ってる。そう、思ってる…はずなんだ、あたしは……。あの日、あいつが…あたしを助けてくれたように……」

 

 奏の様子を紫龍達は見ていたのであった。そして、同時制御訓練は再開される事となった。

 

弦十郎『ガングニール並びにブリーシンガメンの同時制御訓練を再開する』

 

奏「ああ…今度こそやってみせる」

 

紫龍「今回は俺達が近くでサポートする」

 

氷河「何かあった時は歩く冷凍庫や、瞬間冷却機扱いされている俺や仲間達に任せろ」

 

奏「…頼りにしてる」

 

響「なんか堅いですよ、奏さん。もっと気楽にリラックスしてください」

 

奏「ああ…ありがとうな」

 

了子『ブリーシンガメンの準備もいいかしら?』

 

奏「…ああ。いつでもいける」

 

了子『では、まずはガングニールから起動してちょうだい』

 

 まずはガングニールを纏った。

 

了子『適合係数良好。LiNKERのバックファイアの兆候もなし』

 

奏「今更こんなところで躓いちゃいられないからな」

 

了子『それでは、ブリーシンガメンの起動を開始して』

 

奏「ああ…」

 

王虎「(最大の難所は次だ…!)」

 

奏「ブリーシンガメン…今度こそ、お前に勝ってみせる!」

 

 奏はブリーシンガメンを起動させたが…。

 

奏「アァアアアーッ!!」

 

翼「奏さん…頑張ってください!」

 

アイザック「俺達がいるんだ…」

 

 

 

???

 

 再び奏の心の闇が囁いたのであった。

 

奏の影『ほんと…懲りないねえ』

 

奏「ここで退くわけには、いかないから、な……」

 

奏の影『どうしてそこまで、身を削れるのさ?ノイズに殺された家族の復讐だけを目的に手に入れた力で、今までどれだけ痛みを味わった?不釣り合いな力に振り回されて、どれだけ血反吐を吐いてきた?』

 

奏「そ、それは…」

 

奏の影『思い出してみなよ。周りには、お前を苦しめる存在しかいないって事を。お前にLiNKERを投与して玩具扱いした大人達。』

 

奏「違う、ダンナは…了子さんは……。LiNKERだってあたしが望んだ事…」

 

奏の影『護られ、尽くされ、お前への勝手な期待にそれ以上で応えるのが当然と思ってる一般人』

 

奏「あたしは…みんなを、護って…、ファンに…歌、を……」

 

奏の影『そして…お前と違って何の苦労もなくギアに適合して、正義の味方ですと堂々振る舞う、輝ける天才』

 

奏「つば、さ……」

 

奏の影『どいつもこいつも、大よくお前を利用しているだけだろう?お前が命をすり減らす価値が、あいつらにあると思うか?』

 

奏「やめろ」

 

奏の影『地の最後の一滴まで搾り尽くされて、抜け殻になったら捨てられる』

 

奏「違う」

 

奏の影『それがお前の末路…逃れられない運命なのさ!』

 

奏「もうやめてくれー!」

 

奏の影『苦しいんだろう?』

 

奏「ああ、苦しいよ…」

 

奏の影『なら、もう全部、あたしに任せてしまえ。すべて明け渡して、眠ってしまうといい』

 

奏「全部…忘れ、て…?」

 

奏の影『苦痛も苦悩も、何もかも。一切合切、あたしが全部呑み込んでやるからさ』

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 再び奏は暴走したのであった。

 

響「奏さん!?」

 

 暴走と同時に強い勢いの炎が発生した。

 

マリア「凄い炎!?」

 

紫龍「だが、この炎は制御している炎ではない!」

 

了子『ギアの耐熱限界を超える熱量よ!下がって!』

 

マリア「くっ…こんなの、どうやって止めればいいの?」

 

響「これは、奏さんの苦しみの炎なんだ…。奏さんの中の負の感情が、奏さん自身を押し潰そうとしている」

 

マリア「…あなた、何を……?」

 

響「わかります。1人でいると…世の中の全部が敵に見えるんです。私もそうだったから…。近くで手を差し伸べてくれる人にも気付かない…。私にもそんな時がありました。でも…それでも。その人達がずっと私に手を延ばしてくれたから。だから、私はあの闇の中から、ひだまりへ帰ってこられたんだ。だから…今度は私の番」

 

 響は暴走する奏の方へ向かったが、紫龍もついてきた。

 

響「紫龍さん…」

 

紫龍「俺も行く。人間に絶望し、狼だけしか信じられなくなった男と俺は戦った事がある。だが、俺達はたとえ孤児であっても1人じゃない。だからこそ、俺も響と共に行く!」

 

マリア「待って!不用意に近づいたら」

 

王虎「おっと、俺達がその対策をしていないと思ったか?」

 

氷河「こういう時のために俺とアイザックはいるんだ!」

 

アイザック「俺達が強力な冷気で熱量を相殺させる!お前達は奏に呼びかけ続けるんだ!」

 

 氷河とアイザックは強力な冷気を放ち、炎と相殺させた。

 

了子『なんて猛烈な熱と冷気のぶつかり合いなの…!この状況は非常に危険よ!』

 

響「こんなの…へいき、へっちゃら、です。思い出して、奏さん。仲間の手って、こんなにもあったかいんだって事」

 

 猛烈な炎と冷気がぶつかり合う中、響と紫龍は奏の手を握った。

 

了子『(奏ちゃんの手を…握った?)』

 

奏「グゥウウウッ…」

 

響「世界には心の闇になんか負けない、眩しくて暖かい、ひだまりでいっぱいなんだって事」

 

紫龍「奏、俺達は事情は違えど、過酷な運命にあるのだろう。だが、お前も俺も1人じゃない。喜びや苦しみを分かち合える仲間が、友がいるんだ!だから奏、俺達もお前を支える。お前の友を…翼を助けるためにも、過酷な運命に立ち向かうんだ!」

 

 その様子を大人達も見ていた。

 

了子『紫龍君は若いのにとても貫禄があるわね…』

 

弦十郎『それにこれは…、あの子がブリーシンガメンの負荷を吸収しているのか?』

 

奏「ガアアアアアアッ!!」

 

了子『でもダメ!暴走状態が抑えられない。強制停止を!』

 

王虎「待つんだな。瞬間冷却機の氷河とアイザックがいるんだ。強制停止するんなら、最後まで手を尽くしてどうにもならない時にしてもらいたいものだ」

 

 強制停止はまだ早いと王虎は了子に話し、マリアも共に駆け寄った。

 

マリア「氷河とアイザックが冷気で抑えても、これ程の熱だなんて……。でも…あなた達にばかり、恰好つけさせられないじゃない」

 

響「マリアさん…」

 

マリア「天羽奏…あなたの事は、まだほんの少ししか知らないわ。けれど、あなたのパートナーであるあの子は…、翼の事はだいぶわかってるつもりよ。あなたがそこまで苦しむ原因は、きっとあの子なんでしょう?でも、あの子だってあなたを失い、苦しんで、苦しみ抜いて、その果てに今の翼に辿り着いたのよ。あの子が認めたパートナーのあなたに、あの子と同じ事ができないはずないでしょう?信じなさい、翼を。そして翼が信じてるあなた自身を!」

 

奏「つば、さ……あたしを……」

 

響「私も前に、デュランダルを起動した時、呑み込まれそうになったんです。とてつもない負の感情、恐ろしい破壊衝動に。その力を人に向けて使いそうになって、その力が、何より自分の心が怖かった……。けれど…あの時も、翼さんが、クリスちゃんが、支えてくれたから!自分の意志で、大きな力を使う事ができるようになったんです」

 

紫龍「思い出せ、奏!翼の事を!そして翼だけでなく、お前を待っている人がたくさんいる事を!二課の人達が、俺達が、ファンが奏についている事を!」

 

奏「あたし…は…」

 

響「奏さん、意識が!」

 

奏「あたし、は……もう…あたしに…負け……ない……」

 

紫龍「そうだ、お前はこんな事で負けはしない!」

 

奏「翼を助ける…ため、なら……、何度だって、立ち上がってみせる。あたし1人じゃなくても…、こうして、支えてくれる仲間がいる限り…何度でも!!」

 

マリア「ええ、私達がいるわ!」

 

響「奏さん、翼さんを助けに行きましょう!」

 

了子『ブリーシンガメンの負荷が3体のギアへと分散して安定する!?』

 

奏「そして、あたしは…この意志で!想いを貫いてみせる!最後まで!」

 

了子『これなら、いけるわ!』

 

奏「おおおおおーっ!」

 

 奏から眩い光が放たれた。

 

マリア「何、この光は!?」

 

響「見てください、光の中!奏さんのギアが、変化して」

 

 奏のギアが変化し、ギアの色は青紫がメインとなり、さらに赤いマントを羽織った姿となった。

 

奏「はあ、はあ、はあ……」

 

氷河「これは…」

 

了子『ブリーシンガメンが、ガングニールにオーバーライトを?まるでイグナイトモジュールみたいに』

 

奏「これが…あたしの…新しい、力……」

 

マリア「遂にやったのね…?」

 

響「奏さん!やりましたね!」

 

奏「ああ…みんなにはずいぶん面倒かけたみたいだな」

 

響「えへへ…そんな、水臭いですよ」

 

紫龍「俺達がついてたから成功したのは事実だ」

 

奏「ふっ…全部、みんなのお陰さ」

 

マリア「からかったつもりだったんだけど、素直過ぎて気味が悪いわ」

 

アイザック「ふっ…」

 

奏「(そうだ…あたしは変わったんだ……。翼と出会う前のあたしでもない。翼を失った後の抜け殻のあたしでもない。もう1人の翼があたしを助け…あの子の仲間が、あたしの新しい仲間になってくれてる。あたしの事をこんなに信じてくれる仲間がいるのに、あたしが自分を信じないでどうするんだ?)」

 

弦十郎『奏、よくブリーシンガメンを制した。できれば休息を与えてやりたいが、事態は急を要する。早速、新たなギアの性能テストを実施したいが…いけるか?』

 

奏「ああ…当たり前だ!」

 

 早速、性能テストを行う事となった。

 

響「熱っ!?くうううう…!」

 

マリア「熱量だけじゃない…威力もケタ違いね!」

 

奏「まだだ!はああーっ!」

 

 新たな奏のギアの力は通常時での響とマリアの手に負えるものではなかった。

 

奏「ははっ、どんなもんだい?」

 

響「ま、参りましたー!」

 

マリア「まさかここまで戦闘能力がアップするなんて…(…いえ、違うわね。元々この子の戦いにおけるセンスが凄いんだわ。これまで、装者として未熟な部分を、そのセンスで補ってきた。そこに来て、新たなに出力を増したギアを手に入れた。まさに鬼に金棒ね…)」

 

紫龍「(それに、見た限りでは戦闘力はイグナイト並のようだ…)なかなかやるな。初めてのギアをここまで使いこなすとは」

 

了子『アルカノイズとの戦闘でも、解剖器官の強力な分解能力に対して、充分な耐性を持っている事がわかったわ』

 

奏「ああ。これでだいぶ戦いが楽になるな」

 

弦十郎『しかし、ベルゲルミルはイグナイトギアを装備した翼の攻撃すら耐えた怪物だ。そのギアに、果たしてイグナイトギアと同等の力があるのかどうかを検証する必要がある。2人共。着かれているところすまんが、もう一勝負頼む』

 

響「勿論です!」

 

マリア「普通のギアの私達に勝ったからって、甘く見ない方がいいわよ?(ありがたい。私も案外負けず嫌いなのよね!)」

 

響とマリア「イグナイトモジュール、抜剣!」

 

 2人はイグナイトモジュールを発動させた。

 

奏「(イグナイト…そうだ。翼達の持つ大きな力…。それにあたしは、追いつけたのか…)」

 

響「第2ラウンド、行きますよ!」

 

マリア「手加減はできないわよ。イグナイトの力、見せてあげる!」

 

奏「お前達こそ、火傷しないように気を付けるんだな!(知りたい!あたしは、翼に並べたのかを!)」

 

響「奏さん、よろしくお願いします!」

 

奏「さあ、どっからでもかかってこい!」

 

 イグナイトとブリーシンガメンギアの性能比較は終わったのであった。

 

弦十郎「ブリーシンガメンの起動実験に加えて連続の性能テスト、本当にご苦労だったな」

 

響「もうヘトヘトですよー。もう一本、もう一本って、キリないんですから」

 

マリア「ほんと、相手する身になってほしいわね」

 

奏「ははっ、悪かったな。で、了子さん。このギアのデータは実際、どうだった?」

 

了子「それはあなたが一番、手応えを感じているんじゃない?計測したデータを分析したけれど、新しいギアの出力はイグナイトと比較しても決して劣らないものがあるわ。いえ、ある特性においては勝っている面すらある」

 

氷河「やったな、奏!」

 

奏「ああ…これなら、あいつらと戦える」

 

了子「でも…まだ懸念がないわけじゃないわ」

 

奏「懸念…?何だよ、それ」

 

了子「今回安定起動できたのは、あくまでブリーシンガメンの負荷を3体のギアに分散したお陰に過ぎないという事。まだ独力で安定起動までもっていけてない」

 

響「起動の度にお手伝いすればいいんじゃないですか?」

 

アイザック「いつもできるとは限らんぞ」

 

王虎「分散せざるを得ない状況も想定するんだな」

 

響「世界も違うし、そうですよね……」

 

奏「それじゃ…どうすればいいんだ?」

 

弦十郎「お前はもう掴んだはずだ。起動の勘所…いや、己の心の置き場所を。心さえ定まれば、後はひたすら特訓あるのみだ」

 

奏「わかった。すぐに1人で制御できるようになってやる」

 

了子「それともう一つ。例え安定起動に成功したとしても」

 

紫龍「イグナイトと同様に長時間の維持はできないのか?」

 

了子「当ったり~!説明の手間が省けるわ!」

 

奏「紫龍、そう…なのか?」

 

紫龍「俺は技術者ではない。だが、暴走やら二つの聖遺物を同時に扱うやらという違うはあるが、共通しているのは暴走や二つの聖遺物を同時に扱う負荷に長時間耐える事は難しいという事だ」

 

王虎「まさに、短期決戦あるのみって事だな」

 

響「そうと決まれば、連係した戦い方の特訓ですね!」

 

奏「お前…もうヘトヘトだったんじゃ……?」

 

響「そうですけど…翼さんが待ってるんですから。こんな疲れくらい、へいき、へっちゃらです」

 

マリア「はあ…仕方ないわね。付き合ってあげてもいいわよ?」

 

奏「(…ほんとにこいつらときたら。お人好しばかりで泣けてくるよ)それじゃあ、お言葉に甘えて。ぶっ倒れるまで付き合ってもらう!」

 

 




これで今回の話は終わりです。
今回はブリーシンガメンによる暴走とその制御、そして奏専用のイグナイトモジュールともいえるブリーシンガメンギアの誕生を描きました。
まだ先の話になりますが、この二つの聖遺物を同時に制御する事で生まれるギアは同じくイグナイトがギアに搭載されていない未来達や、後にイグナイトを失った響達も習得していく事になります。
次の話はこれまで奏達の動きを止めた音の正体が明らかになると共に、かつてない危機に見舞われます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。