セイントシンフォギアXD   作:アンドロイドQ14

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76話 絶望へのリハーサル

雪原

 

 その頃、翼は雪原を進んでいたのであった。

 

翼「はあ、はあ……。奴等の基地からだいぶ離れたと思うが……。こちら風鳴翼。二課本部、応答せよ」

 

 しかし、返答はなかった。

 

翼「まだダメか…」

 

???『ん?翼さん、聞こえますか!?』

 

翼「繋がった!こちら風鳴翼、なんとか拾えている!」

 

あおい『よかった、翼さん、無事だったんですね!』

 

弦十郎『翼、怪我はないか!?』

 

翼「万全の状態、とはいえませんが、問題ありません」

 

弦十郎『そうか…。翼、状況を報告してくれ』

 

翼「自分を拉致した錬金術師の基地から脱出。現在雪原を徒歩で逃走中。現在地は不明です」

 

朔也『天羽々斬の反応を検出しました。こ、ここは!北極です!』

 

弦十郎『北極だと!?』

 

翼「北極だと…。(独力での脱出は絶望的だ。なんとか二課に回収してもらわねば。だが、それまで体力が保つか……?)」

 

弦十郎『翼、直ちに救援を出動させる。できるだけ詳しい情報をくれ』

 

翼「はい。敵基地周辺では通信やエネルギー反応が遮断されるため、距離を離しているところです」

 

弦十郎『救援まで時間がかかる。保ちそうか?』

 

翼「正直言って難しいかも知れません。体力の限界も近い上、追っ手にも間もなく追いつかれる事でしょう」

 

弦十郎『くっ……』

 

翼「(生き物ひとついない雪原に残った足跡を追うなど、吹雪の中とはいえ、奴等にとって造作あるまい)その前にこちらの情報をお伝えします」

 

弦十郎『……頼む』

 

翼「敵錬金術師のリーダーはアリシア・バーンスタインという名の女です。外見は20代後半から30代前半。青みがかった白髪に琥珀色の瞳。それと、基地の中で奇妙な楽器を演奏していました」

 

弦十郎『奇妙な楽器…だと?』

 

翼「はい。ドーム型の基地には大きなホールがあり、中央には巻き貝状の奇妙な楽器が据えられていました。錬金術師が酔狂であんな物を設置しているとは思えません」

 

弦十郎『むう…しかし、敵は一体、何のために?』

 

翼「目的は争いのない世界を作る、とそう言っていました。どこまで本心か諮りかねますが…」

 

弦十郎『争いのない世界……だと…?』

 

翼「そのためには、私の歌が必要だとも…」

 

弦十郎『歌が?どういう事だ……』

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 早速、二課でアリシアについて探りを入れた。

 

朔也「アリシア・バーンスタイン。翼さんからの情報を元に検索にかけたところ、該当する人物がヒットしました」

 

弦十郎「何者だ?」

 

朔也「紛争関係の行方不明者リストからです。アリシア・バーンスタインは本名。『シリウス交響楽団』に所属」

 

弦十郎「シリウス交響楽団だと?あの事件の犠牲者か?」

 

翼『シリウス交響楽団…?何者なんですか?』

 

弦十郎「そちらの世界には存在していないか、事件が起きていないのかも知れんな。主に紛争地帯などで苦しむ人達を音楽で『笑顔』にするためにと、慈善活動していた楽団だった。だが紛争に巻き込まれて、そのメンバーの多くが命を落とした。一昔前は随分と大きなニュースになった」

 

 

 

雪原

 

 通信を通して翼もそれを聞いていた。

 

翼「(似ている…。雪音の両親も似たような事をしていたそうだな…)その楽団の生き残りが、なぜ…?(いや…だからこそ、争いを憎み、争いのない世界を求めているのか?だとしても、どうやって?)」

 

 突如、振動がした。

 

翼「この振動は!?奴か!!」

 

 予想通り、現れたのはベルゲルミルであった。

 

翼「くっ!」

 

弦十郎『どうした!?』

 

翼「敵に捕捉されました。先日交戦した巨大な怪獣、ベルゲルミルと、そうアリシアは呼んでました」

 

弦十郎『ベルゲルミルの情報はこちらでも掴んでいる』

 

了子『完全聖遺物から生まれた危険な怪物よ!交戦は避けて!』

 

翼「そうしたいのはやまやまですが……」

 

 既に体力の限界が近い事もあり、あっという間にベルゲルミルに倒されたのであった。

 

翼「がはっ!(こ、ここまで、か……)」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 翼の情報を聞き、奏達も発令所に来た。

 

奏「翼!ダンナ、翼は!?」

 

響「師匠、翼さんと通信が繋がったって!」

 

弦十郎「ベルゲルミルと交戦中らしい!」

 

紫龍「自力で脱出したのだろうが…、翼1人では」

 

 そんな中、翼がやられたような声が聞こえた。

 

奏「翼!?しっかりしろ!すぐ助けに行ってやる!おい、何とかならないのか!?」

 

弦十郎「…ここからではどうにもならん!」

 

奏「了子さん、方法は何だっていい!あたしを翼の下へ連れてってくれ!」

 

了子「翼ちゃんがいるのは北極…。ここからだと6000キロ以上離れてるわ」

 

奏「北極!?」

 

了子「いくら私でも、すぐにそこへ連れて行く術はないわ。ごめんなさい…」

 

王虎「(こんな時にムウとかでもいてくれれば、あっという間に北極までひとっ飛びできたのだけどな…)」

 

翼『か、奏……』

 

響「翼さん!私も必ず助けに行きますから!」

 

マリア「気をしっかり!あなたはこんなところで折れる剣じゃない!」

 

紫龍「必ず俺達は来る!」

 

翼『立花…、マリア…、紫龍!?』

 

奏「だから待ってろ!絶対に…絶対に、諦めるなよ!」

 

翼『うん……待ってる…待ってるよ、奏』

 

 通信が切れた。

 

あおい「翼さんとの通信が…、途絶えました…」

 

奏「くそっ!」

 

氷河「だが、まだ死んだと決まったわけではない!希望を捨てるな!」

 

奏「氷河…」

 

弦十郎「藤尭!」

 

朔也「はい、グラード財団に連絡して救出の準備、急ピッチで進めています!」

 

奏「(翼…無事でいてくれ…)」

 

 

 

雪原

 

 そして、アリシアも遅れて来たのであった。

 

アリシア「お仲間との最後のお話は済んだかしら?」

 

翼「アリシア…バーンスタイン…(私はまだ、お前の掌の上か……)ううっ…」

 

 疲労とダメージで翼は倒れたのであった。

 

 

 

 

 その後、眠りについたアリシアは昔の事を夢として見ていた。それは、アリシアが幼い頃にシリウス交響楽団の団長と夜空を眺めていた時の事だった。

 

楽団団長「あの星が見えるか?アリシア。あれがシリウスだ」

 

アリシア「シリウス…私達の楽団と同じ名前だ」

 

楽団団長「そう。夜の闇の中、最も強く光を放つ星。今、この世界では争いによって悲しみ、苦しみ、絶望している人達が大勢いる。その人達は先の見えない闇の中で、不安に押しつぶされそうになっているんだ。我々シリウス交響楽団は、その人達の足元を照らし、道の先に必ず希望があると指し示す事が目的なのだよ」

 

アリシア「…うーん、よくわからない」

 

楽団団長「ははっ、ちょっと難しかったか。それじゃ、アリシアはどうしたい?」

 

アリシア「私はみんなの音楽が大好き!みんなの音楽を聴いてると、何だか胸が温かくなってくるから。だから、私はみんなの音楽を聴いた人が、笑って、楽しくなって、そんな気持ちになってほしい」

 

楽団団長「なるほど、それはよいな!よし、今日から、それも我々の目的に加えよう」

 

アリシア「うん!私も、頑張るからね」

 

 

 

???

 

 アリシアは眠りから覚めたのであった。

 

アリシア「(夢……。いつぶりかしら、あの夢を見るのは……。悲願成就を間近に控えているからかしらね……)」

 

 そこへ、錬金術師達が来た。

 

錬金術師A「失礼します、アリシア様」

 

アリシア「何か?」

 

錬金術師A「そのように悠然と構えていてもよろしいのですか?」

 

アリシア「と、言うと?」

 

錬金術師A「聞けば、脱走した装者が二課に連絡を入れたそうですね」

 

アリシア「ええ、そのようね」

 

錬金術師B「どの程度の情報が漏洩したか不明ですが、この基地の所在は間もなく突き止められる事でしょう」

 

錬金術師A「なれば、装者奪還のために彼の者達が強襲してくるは明白。基地を中心とした広範囲に迎撃用のアルカノイズを配備しているとはいえ、相手は装者と聖闘士」

 

アリシア「趣旨は理解したわ。それで、あなた達はどうしろというのかしら?」

 

錬金術師A「先手を打ち、今度こそ二課そのものを根絶すべきかと。無論、天羽奏など恐るるに足りませんが」

 

錬金術師B「然り。ブリーシンガメンこそ起動しましたが、所詮は偶然。あの様子では制御すらままならないでしょう」

 

アリシア「その程度の者ならば、迎撃は容易でしょう?聖闘士に関しても防御特化のあのアルカノイズで足止めが可能よ」

 

錬金術師A「はい。ですが先日の戦いに加わった、情報にない装者が2名と全滅したはずの黄金聖闘士が2名、この戦力が未知数です。計画実行の前に、不確定要素は排除しておくべきかと」

 

錬金術師B「万が一にも計画の礎であるアルモニカに被害が及べば、計画の全ては水泡に帰しましょう。不安の芽は小さくても、先に潰しておくに、如くはないかと」

 

アリシア「あなた達の言いたい事はわかりました。ならば、子守歌の準備を早めましょう」

 

錬金術師A「はっ?しかし、計画遂行に足りるだけのエネルギーがまだ、アルモニカには…」

 

アリシア「わかっているわ。これはただのリハーサルに過ぎない。子守歌の試運転も兼ねて、二課と協力する装者と聖闘士を黙らせる。一石二鳥でしょう?」

 

錬金術師A「仰せの通りに」

 

錬金術師B「直ちに準備に取り掛かります」

 

 2人は準備へ向かった。

 

アリシア「(そう…もはや、何者にも止める事はできない。私達の目指した理想世界の実現は、もうすぐそこまで来てるのだから)」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 その頃、了子は研究室で奏のギアの調整をしていた。

 

奏「なんだって、こんな時にギアの調整をしないといけないんだ?」

 

了子「仕方ないわ。ブリーシンガメンとの共振によるギア変貌なんて、想定外の事態だもの。シミュレーションデータを元に適切な調整を施しておかないと、実戦で何が起こるかわかったものじゃないわ」

 

奏「それは聞いてます。けど…早く助けに行かないと翼の身が」

 

了子「今更、少しばかり焦っても仕方ないわ。あの状況では二択しかないもの。再び拘束されたか…もう、手遅れかのね」

 

奏「手遅れって…それ、本気で言ってるのか!?」

 

了子「落ち着きなさい。理論上では、の話よ。みんな前者だと信じているからこそ、こうして救出作戦の準備を進めてるんでしょう?」

 

奏「…悪い。ついかっとなって」

 

了子「あなたが焦る気持ちもよくわかるわ。でも、だからこそ失敗は許されない。そのためには万全の準備を整えないとね」

 

奏「……ダメだな。焦ってるのは、あたしだけじゃないのにな。あの2人や聖闘士達だって焦れてるだろうに、何も文句言わないのに」

 

了子「あら、随分と素直ね。暴走の衝動との戦いで少しは精神的に成長したのかしら?」

 

奏「はあ……なんとでも言ってくれ」

 

了子「ふふ…ごめんなさい。珍しく奏ちゃんがしおらしくて可愛いから、つい意地悪したくなっちゃった」

 

奏「こんな時に何言ってんだか…」

 

 そこへ、データ通信が来た。

 

了子「あ…来たわね」

 

奏「ん?」

 

了子「まあ冗談はともかく、こうして待っている時間も、一概にムダばかりじゃないのよ」

 

奏「どういう事だい?」

 

了子「ギアの調整と並行して、翼ちゃんの情報を元に敵の計画の調査を進めていたの」

 

奏「(そんな事して、よく頭がこんがらがらないな)」

 

了子「お陰で翼ちゃんの居場所に目星がついたわ。それと、敵の計画も判明しそうよ」

 

奏「ほ、本当なのか!?」

 

了子「そもそも北極なんて極地に大規模な施設を作るなんて、よほどの組織でもないと不可能よ。だから、昔からある施設を流用している可能性が高いと思ったんだけど、予想通りだったわ」

 

奏「北極に、前からそんなものが?」

 

了子「ええ。北極には大戦中にドイツ軍が作った秘密基地があるの。その名もロイバルト北極基地」

 

奏「ロイバルト北極基地…?」

 

了子「大戦中、ドイツ軍が集めていた聖遺物の保管所としても使用されていたらしいの。その所在は天羽々斬の反応途絶地点から30キロ圏内。恐らく間違いないわね」

 

奏「なら、早くダンナに知らせないと!」

 

了子「安心しなさい。これはもう弦十郎君に報告済みよ」

 

奏「いつの間に……」

 

了子「あなたがうんうん唸ってる間にね」

 

奏「それじゃ、もう一つの敵の計画ってのは?」

 

了子「敵の拠点がドイツ軍由来であった事から、一つの推測が導き出されたの。ベルゲルミルもドイツ軍が保管していた完全聖遺物だって事は前に話したわよね?」

 

奏「ああ…そんな事言ってたな」

 

了子「今回の事件の2大ファクターが、いずれもドイツ軍の聖遺物研究に行きつくなんて、ただの偶然とは考えにくい。恐らく錬金術師達の計画は、ドイツ軍の研究を基にしているに違いない…。そう考えて、例のEUにある研究チームに情報共有したの」

 

奏「ああ。ブリーシンガメンを借りたっていう、知り合いの……」

 

了子「そう。そして、翼ちゃんがロイバルト北極基地で目撃したという謎の楽器…それもまた、ドイツ軍が集めた聖遺物の可能性が高い。という推測と共にね」

 

奏「確か、巻き貝みたいな楽器…とか言ってたんだっけ?」

 

了子「ええ、そう。それだけ特徴的な外観ならすぐに割り出してくれると思ったけど、ついさっき届いたわ」

 

奏「内容は?」

 

了子「恐らくそれは、数年前に盗まれた『アルモニカ』という名の哲学兵装だろう…という情報よ」

 

奏「(そんな点と点の情報から芋づる式に?研究者のネットワークってのは、恐ろしいな……)」

 

了子「最初の戦闘であなたと翼ちゃん達の動きを縛った『謎の音』も、この哲学兵装の性質とかなり高い確率で符合するわ」

 

奏「つまり、人の動きを止める哲学兵装って事か?確かに戦闘じゃ厄介だけど……。争いのない世の中を作るだなんてのは、流石に大風呂敷広げすぎじゃないか?」

 

了子「その程度だったら、よかったんだけどね……。どうやら、アルモニカの真の力はそんな次元ではなさそうよ」

 

奏「何だって?」

 

了子「私が保管していた資料の中にも、大戦中のドイツ軍の計画書がいくつかあってね。今、データベースを検索してみたんだけど、その中の一つにアルモニカの設計理論と、それを使用した計画の詳細が記されていたわ。大戦の劣勢を…いえ、世界を制覇し得る恐るべき大規模計画『永遠の子守歌』のね」

 

奏「永遠の…子守歌?」

 

了子「灯台下暗しとはこの事ね。私の手元にその計画書があるなんて」

 

奏「世界を制覇するなんて点…一体、どんな計画なんだ?」

 

了子「この資料によると、哲学兵装アルモニカによって人々を目覚める事のない眠りに誘うーーという計画のようね」

 

奏「音を聴いただけで人間を眠らせるなんて……。そんな事が本当にできるのか?」

 

了子「α波のような特定周波数が睡眠導入を促進する事は有名ね。それをもっと高次元域で干渉・誘導する力があるみたい。なにしろ哲学兵装だから、通常の物理現象を超越する力を発揮するのは容易に想像できる。地齋、その効果を断片的に受けたあなた達は運動中枢を麻痺させられて動作が鈍ったでしょう?」

 

奏「あれって、そういう事だったのか……?」

 

了子「半端な効果だったからよかったものの、完全な状態なら中枢神経を強制停止させられてしまっていたでしょうね」

 

奏「目覚める事がないって…つまり、死ぬまで寝続けるのか?」

 

了子「恐らくは、ね。奏ちゃん達よりも遥かに強い聖闘士でも人間だから、例外ではないでしょうね」

 

奏「なんて物騒な兵器なんだ……」

 

 また了子はデータを見てみた。

 

了子「……なるほどね。この原理だと効果の深度と影響範囲は、投入されたエネルギー量に比例するらしいわ。もっとも、当時は起動するだけのエネルギーにすら足りず、計画は実行できなかったようだけど……」

 

奏「…やれやれ、そういうオチか。本当にそんなのが起動していたら今頃、歴史が変わってたな」

 

了子「ええ、そうね…本当に恐ろしい計画だわ。でも…もし錬金術師達が、今また、この恐るべき計画を実行に移そうとしていたら?」

 

奏「!?」

 

了子「そう…すべてのパズルのピースが合致するわ。錬金術師アリシア・バーンスタインの目指す争いのない世界…それはアルモニカを全世界に対して発動させる事で実現される」

 

奏「そんな…全世界の人間が眠っちまったら…」

 

了子「ええ…間違いなく、人類文明は滅びるでしょうね」

 

奏「バカな…なんてイカれた事考えるんだ…」

 

了子「(そして恐らくは…。計画実行までの猶予は、さほど残されていないわね……)」

 

 猶予が残されていないと判断した了子は慌てだした。

 

奏「急に慌てだして、一体どうしたんだ?」

 

了子「悪い予感がするの。間に合うといいんだけど……」

 

 一方、発令所では翼救出の準備が進められていた。

 

弦十郎「救出部隊の編成は、あとどのくらいかかりそうだ?」

 

あおい「はい、グラード財団からの連絡によれば、あと1時間から1時間半かと」

 

弦十郎「…わかった。可能な範囲で早く、しかし、手抜かりなく進めてくれ」

 

あおい「了解」

 

 そんな折、警報が鳴った。

 

朔也「アルカノイズの反応を検知!」

 

弦十郎「このタイミングでだと?現場はどこだ」

 

朔也「それが…この二課本部周辺全域、方位されつつあります!」

 

弦十郎「奴等め、こちらが乗り込む前に先手を打ってきたか。友里、現在出撃可能な装者と聖闘士は?」

 

あおい「二課施設内に響ちゃんと紫龍君達が待機中、マリアさんは郊外を偵察中です!」

 

弦十郎「奏のギア調整はどうなってる?」

 

あおい「ダメです、まだ完了していません!」

 

弦十郎「止むを得ん…」

 

 弦十郎は連絡をとった。

 

弦十郎「聞こえるか、響君、マリア君!本部周辺に多数のアルカノイズが襲来した。直ちに迎撃に向かってくれ」

 

響『了解です!』

 

マリア『私も急いで戻るわ。私が外側から、あなたが内側から削っていきましょう。いいわね?』

 

響『わかりました!』

 

 出撃の指令は紫龍達にも届いた。

 

王虎「早速出撃か…」

 

アイザック「ならば、俺達も」

 

 意気揚々と出撃しようとしたアイザックであったが、紫龍に止められた。

 

紫龍「待て、アイザックと王虎は二課に残って奏の傍で待機してほしい。ここは俺と氷河が出る」

 

アイザック「何?戦力を出し惜しみする気か?」

 

氷河「どういう事なんだ?紫龍」

 

紫龍「……どうも悪い予感がする。全員で行ったら全滅しそうな気がしてな」

 

アイザック「嫌な予感だと…?」

 

王虎「真面目な紫龍が言う以上、本当にそうなるかも知れんな。アイザック、俺達は待機しておこう」

 

アイザック「そうだな…」

 

紫龍「それと、ライブラの武器を置いておく。俺と氷河に万一の事があった時はそれを使い、奏のアシストをしてほしい」

 

 紫龍の嫌な予感に従い、王虎とアイザックはライブラの武器を受け取って奏の傍で待機する事にした。

 

氷河「紫龍、本当に嫌な予感がするのか?」

 

紫龍「ああ。外れてくれればいいんだけどな…」

 

 嫌な予感がしつつも、2人も出撃した。警報は研究室にも届いていた。

 

奏「襲撃だって!?あたしも行かないと!ギアを返してくれ!」

 

了子「ダメよ、まだギアの最終調整は終わってないわ。調整の終わってないギアでは、足手まといになるだけよ」

 

奏「だけど!」

 

 そこへ、アイザックと王虎が来た。

 

アイザック「奏、あいつらを信じろ」

 

奏「王虎、アイザック…」

 

了子「あなたをブリーシンガメンの暴走の衝動から引き戻してくれたのは、ほかならぬあの子達でしょう?」

 

奏「あ、ああ…頭でわかってるつもりでも…。他人を信じるってのは、難しい事なんだな……」

 

了子「それがわかっただけでも上出来よ。心配しなくても、もう少しで終わるわ。もう少しだけ待ってなさい」

 

奏「ああ…(4人とも頼む…あたしらが行くまで、持ち堪えてくれ)」

 

 

 

市街地

 

 響達はアルカノイズの大群と応戦していた。

 

氷河「あの防御力の高いアルカノイズも投入してきたか…」

 

紫龍「(ベルゲルミルが出てくる気配がないな。それに…、奴等は俺達聖闘士も甘く見ていないはず。きっと、俺達さえも一網打尽にする秘策を使ってくるに違いない…!)」

 

 紫龍は以前から敵には自分達を倒す秘策があるのではないかと思っていたのであった。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 装者と聖闘士の戦いは順調であった。

 

弦十郎「…順調だな」

 

あおい「アルカノイズの数は防御特化の分裂増殖型も含め、当初の半数以下にまで減少。確かに順調ですね」

 

朔也「このまま、諦めて引き上げてくれるといいんだけど」

 

弦十郎「そうだな…だが、何かがおかしい。あまりにも順調すぎる…」

 

朔也「どういう事ですか?」

 

弦十郎「相手の意図が見えん。二課に奇襲をかけてきたにも関わらず、規模が小さすぎる。しかもただのアルカノイズと防御特化のアルカノイズばかりでベルゲルミルも姿を現さない」

 

朔也「敵もベルゲルミルを使えない理由があるのでは?」

 

弦十郎「だが、本気で二課を墜とそうと考えているなら、ベルゲルミルが投入可能になったタイミングを選ぶはずだ。先の戦いで、敵もこちらの戦力をある程度把握したはず。聖闘士がいる以上、ベルゲルミルがいても簡単に墜とせるとは思わないだろう」

 

あおい「先程司令がおっしゃったように、本拠地がバレたかれ、焦って仕掛けてきたのでは?」

 

弦十郎「確かにそれはあるだろうが…。だが、それを勘案しても拙速に過ぎる(しかもこんな半端な戦力の分散投入…。やたら損耗するだけで意味はあるまい。こちらの即応力と戦力に探りを入れている?特に響君とマリア君、紫龍と氷河のデータは乏しかろう。いや、それとも別の作戦の陽動か…?)」

 

 そこへ、連絡が入った。

 

あおい「研究室の了子さんからです」

 

弦十郎「繋いでくれ」

 

了子『弦十郎君、敵の計画が判明したわ』

 

弦十郎「本当か!」

 

了子『詳しくはそっちに転送したレポートを参照して』

 

弦十郎「ああ、早速目を通すとしよう」

 

了子『急いでね。私の予感じゃ、時間はあまり残されていないわ』

 

奏「ダンナ、外の様子はどうなんだ?あいつら、苦戦してないか?」

 

弦十郎「紫龍と氷河もいるから、今のところは問題ない掃討は順調に推移している」

 

奏「そうか。なら、よかった……」

 

弦十郎「ところで了子君、奏のギアの調整はいつ終わる?」

 

了子『最終調整完了まで10分から15分といったところかしら。どうかしたの?』

 

弦十郎「ああ…俺もなにか、胸騒ぎがしてな。ひょっとすると奏や待機中の王虎とアイザックにも出撃してもらうかも知れん。準備を進めておいてくれ」

 

了子『わかったわ』

 

弦十郎「よろしく頼む(ただの杞憂であってくれればよいのだが…)」

 

 しかし、杞憂にはならなかった。

 

あおい「司令!アルカノイズの動向に変化が。装者2人と聖闘士2人を押し包むように集結しつつあります」

 

弦十郎「何だと!?」

 

朔也「周辺に新たなアルカノイズの反応を検知!やはり装者と聖闘士へ向かっています」

 

弦十郎「至急、4人に知らせてくれ!(網を張っていた…?だが、一体なんのために?)」

 

 

 

市街地

 

 急にアルカノイズの勢いが増した事に紫龍と氷河は違和感を感じていた。

 

氷河「紫龍、もしかするとお前の嫌な予感は…」

 

紫龍「当たってしまったのかも知れんな…」

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 その様子は二課でも把握していた。

 

あおい「装者2名と聖闘士2名、本部入口前に天界。掃討戦から防衛線へと移行します」

 

弦十郎「うむ…(だが、それでも手ぬるい攻め方だ。我々と装者と聖闘士の分断を企図したにしては布陣がおかしい。内に薄く、外に固めの包囲網だ。俺なら、装者を遠くに足止めしている内に二課を潰す。装者や聖闘士に俺達を殺すのが目的ではない…?ならば、一体…?)まさか…二課の戦力を1か所に集めるため?」

 

 推理で敵の狙いがわかった弦十郎はこの事を了子に知らせた。

 

了子「敵の狙いは、装者と聖闘士を二課に集める事…?まさか、既に!?」

 

奏「ここじゃ状況がわからない。了子さん、あたしは発令所へ行く。調整が終わったら」

 

了子「ダメよ!この研究室から出ないで!弦十郎君、アリシアは二課を」

 

 

 

ロイバルト北極基地

 

 アルモニカの試運転が行われようとしていた。

 

アリシア「それでは、リハーサルを開始しましょう」

 

 アルモニカの子守歌が流されたのであった。

 

 

 

市街地

 

 その音楽は二課のある場所へ向けられた。

 

響「なに?この音楽……」

 

紫龍「いかん!俺達を潰すための奴等の秘策はこれだったんだ!」

 

氷河「耳を塞いでもダメだ!脳に直接響いてくる!」

 

響「なんだか、眠くなって…」

 

マリア「ちょっと……どうした……の…?」

 

 先に響とマリアは眠りについてしまった。

 

氷河「紫龍、俺達も…長くは…持たないぞ……」

 

紫龍「王虎…アイザック…奏……頼んだ…ぞ……」

 

 装者よりは抵抗したものの、紫龍と氷河もアルモニカの前には抗いきれず、眠りについてしまった。

 

 

 

特異災害対策機動部二課

 

 二課でもその様子は確認された。

 

あおい「ガングニール、アガートラーム、機能停止!紫龍と氷河も!」

 

朔也「脳波パターンは平常値。これは睡眠時の脳波に極めて酷似しています」

 

了子『弦十郎君!アリシアはアルモニカで二課の機能を停止させる気よ!』

 

弦十郎「なっ!だから二課に装者と聖闘士を!?」

 

 二課の本部にもアルモニカの音楽が響いた。

 

あおい「なに、この音楽は……」

 

朔也「なにか、不思議な……」

 

弦十郎「くっ…この奇襲は…。北極基地への攻勢を防ぐためだけでは、なかった、のか……。万が一、アルモニカの存在が露見した場合…。対策を講じる暇を、我々に、与えぬために……。すまない…了子君、俺も……」

 

 二課本部の面々も眠りについてしまった。

 

了子「本部、応答して!弦十郎君、応答して、弦十郎君!」

 

奏「…了子さん、一体何が?」

 

王虎「もしかすると、紫龍の悪い予感が当たったのか?」

 

了子「王虎君の言う通り。やられたわね。まさかこんなに早く…」

 

 了子は調べていた。

 

了子「…ライフラインへの影響は特にみられない。やっぱり、ピンポイントで二課が狙われたみたいね。アルモニカによる永遠の子守歌。それが二課に放たれた」

 

奏「それじゃ、みんなは永遠の眠りに…?」

 

アイザック「何だと!?」

 

了子「ええ……今、この本部周辺で意識があるのは、私達だけでしょうね」

 

奏「なんで、あたしらだけ眠らずにすんでるんだ?」

 

了子「先程の計画資料に書いてあった設計概論を読んで、急いで対抗策を組んでおいたの。アルモニカの音を相殺するための中和装置をね」

 

王虎「たったあれだけの時間でか…!」

 

了子「本当は二課全体をカバーできるようにしようとしたんだけど、流石に時間がなかったわ……。…もっとも、相殺音の特定が間に合わなかったら、私達もバッタリ、だったけどね(とはいっても、あの急ごしらえで防げたのは奇跡かしら)」

 

アイザック「アルモニカの音が響かないのなら、急いで氷河達を起こしに行くまでだ!」

 

了子「ちょっと待ちなさい!乱暴に起こしたらどうなるのかわからないのよ!」

 

アイザック「もう俺は再び氷河を失うのはごめんだ!それに、聖闘士は普通の人間より頑丈なんだ!きっと」

 

王虎「熱くなるな、アイザック!お前が熱くなっても何も始まりはしないんだぞ!」

 

了子「(全く、シベリアで修業した聖闘士は氷の拳を使うのにどうしてこうも熱くなりやすいのかしら…?)」

 

 そう言ってると、爆発音がした。

 

了子「主力のお出ましね。なんて抜け目のない」

 

奏「了子さん、アルモニカの音は?」

 

了子「幸い、アルモニカの音は止んでいるわ。流石にあれだけの強力な力、連続使用は無理でしょう」

 

アイザック「奴等め…、こんな永遠の眠りにつかせるとかいうふざけた計画を考えたからには絶対に生かしては返さんぞ!!」

 

王虎「あいつ、熱くなってやがる。だが、俺もあいつらはほっとけないからな!」

 

奏「ギアの調整は?」

 

了子「そっちも住んでるわ、だけど……今、二課は壊滅的状況よ。あの2人の装者と2人の黄金聖闘士も戦えない」

 

王虎「だが、紫龍はこんな事態も想定して俺達を待機させてくれたみたいだ」

 

了子「……ごめんなさい。こんな」

 

アイザック「そこから先は言わなくていい。奏、さっさと行って奴等を叩き潰すぞ!」

 

奏「ああ!」

 

 3人は出撃したのであった。

 

了子「奏ちゃん…王虎君…アイザック君…」

 

 

 

市街地

 

 聖闘士がまだ残っていた事に錬金術師も驚いていた。

 

錬金術師「何!?まだ聖闘士が残っていただと!?」

 

アイザック「俺は貴様らのような悪党には容赦はしない。極寒地獄へ行く準備はできたか!」

 

王虎「奏、奴も来たみたいだぞ」

 

 背後からベルゲルミルが現れた。

 

奏「ベルゲルミル!」

 

 最悪の状況の中、残された3人の戦いが始まった。




これで今回の話は終わりです。
今回はアリシアの素性が明らかになると共に、アルモニカの試運転も兼ねて未完成の永遠の子守歌が流されるという流れになっています。
アルモニカについてですが、ぶっちゃけシンフォギア版エンジェル・ハイロゥだと思ってくれればいいです。
次の話は危機的状況の中、意外な展開が待っています。

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