カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」 作:三流FLASH職人
-オレンジ色の世界-
幾人もの人が私を見てる、笑ってる。
まるで影絵のような、人の形をした黒いシルエット。
目も、鼻も見えないけど、口元だけが三日月のように笑ってる。
数え切れない程の影が、私に笑顔を向けている。周囲を埋め尽くすほどの人数で、
群れを成すほどの大勢の人影が、私に向かって笑顔を向ける。
その、地平の遥か向こうに、一本の線が伸びている、下から上に。
あれは、木?ううん、柱・・・だ。根元で大勢の人の影がその柱を垂直に押さえてる。
笑顔をこちらに向けたまま。
柱の一番上、はるか高い所に、横に一本の短い線がある。柱の先の先、
そこだけがまるで、縦横の線が交わって、十字架みたいになってる・・・。
目を凝らしてみる。そう、美術の授業で見た絵には、あそこに人が縛られていた。
目を凝らして見る。いた、絵と同じ縛られ方で、絵とは違う感じの人が、そこにいる。
男の子、知ってる子。影のある表情、華奢だけど体幹の通ってる、物事にまっすぐな・・・
-私の 大好きな人-
「さくらぁっ!起きんかーーーいっ!!」
「はっ!」
耳元の大声に、がばぁっ!と布団から跳ね起きる。
いきなり変わった世界に思考が追い付かず、きょろきょろと周囲を見渡す。
ここは・・・私の部屋?ベッドの上・・・。
「ほ。ほえぇぇぇっ!!ケロちゃん、いま何時?」
「目覚ましはとっくに鳴り疲れて愛想つかしとるわーいっ!完っ璧に遅刻やでぇっ!」
「ええええーっ!」
目覚ましをひっつかんで時計を凝視する、その時計が表示しているのは信じたくない時間だった。
さーっ、と目の前が暗くなるさくら。
父は発掘旅行で留守、兄は大学の研修で泊まり、さくら一人の朝ゆえの大失態。
中学生活序盤から3ヵ年皆勤賞の消滅が確定しそうだった。
ふとんから跳ね起き、バジャマを速攻脱いで制服を乱暴に羽織る、朝食の時間なんてない。
いってきます、とケロに告げると、半泣き顔で階段を駆け降り、そのまま玄関に飛び出す。
走り出してすぐに急ブレーキ、玄関にUターンして下駄箱の上にあるカギを取り、外に出て施錠する、
今度こそ全力疾走で学校に突撃するさくら、それを窓から見下ろし、ケロが嘆く。
「ホンマ、中学生になっても変わらんなぁ、さくらは。」
手を水平に広げ、ヤレヤレと首を振る。
「お、おはよう・・・」
青息吐息で教室に駆け込み、机に手を付き挨拶をする。
「さくらちゃん、おはようございます。」
「もう早くは無いけどね~」
知世のあいさつに続き、友人の千春が現実を告げる。
「でも、幸運でしたわね、さくらさん。」
「ほえ?」
秋穂の言葉の意味が分からず、顔を上げる。教室の黒板に書かれた大きな文字。
『自習』
「ほ、ほぇ~、助かったよぉ~」
校門をくぐった時点で始業のチャイムは鳴っていた、教室に先生がいないことに違和感はあったが
そういうコトだったのか、なんとか皆勤賞の可能性は繋いだようだ。
着席し、とりあえず2時間目の予習を始める。ホントに良かった、と思う。
2つの意味で。
遅刻が確定しそうになった時、さくらの脳裏に「魔法を使って間に合わせる」という考えが
確かに頭をちらついた。フライト(飛翔)とルシッド(透過)を使えば、誰にも見られる事無く
ひとっとびで学校に着けただろう。
でも、とさくらは思う。魔法は確かに便利だけど、だからといって自分の都合で
使っていい物ではないとも思っていた。寝坊したのは自分の責任、それを魔法で帳消しにするのは
ズルをしているような気がしたのだ。
特に、さくらの好きなあの人なら、きっとそう思うだろうから。
あれ?そういえば今朝、彼の、小狼君の夢を見たような気が・・・
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
プロローグ、終わりの始まりの夢