カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」 作:三流FLASH職人
『それでは次に、夏休み中のクラブ活動、成績優秀者の発表を行います。』
始業式、友枝中体育館において、校長の長~い話の後、そうアナウンスされる。
壇上に上がる4人の男子生徒、そのうちの一人は、さくらもよく知る人物。
「男子ラクロス部、関東大会準優勝、よく頑張ったね、おめでとう!」
校長先生直々に、賞状とトロフィーが手渡される、主将と副主将がそれぞれを受け取る。
「また、壇上の4名は本大会において、優秀選手賞も受賞しました。」
さすがに『最優秀選手賞』は優勝チームに持っていかれたが、それでも全10名の
優秀選手賞のうち、4つを友枝中チームは獲得していた。
「和田祐樹主将、立原昇副主将、藤田正和君、そして、山崎隆司君、おめでとう!」
4名にそれぞれ賞状が渡される。それと同時に体育館に拍手が沸き起こる。
中でも注目を集めているのは、一年生にしてレギュラーとして活躍し、チームを
決勝まで引っ張った一人として認められた山崎だった。
『それでは次、夏休み期間に行われたなでしこ祭の・・・』
お昼休み、いつもの面子でいつもの中庭、お弁当を広げつつの話の話題は
やはりラクロス部に所属する山崎が中心になる。
「なんかねぇ、ボクの顔を見た相手選手が油断するみたいなんだよ・・・マークも全然されないし。」
不本意そうな顔でそう語る山崎。
「まぁ、緊張感や闘志とは無縁な顔してるもんね、山崎君は。」
「おかげで『友枝中のステルス戦闘機』なんてアダ名が付いてるのよ。」
奈緒子の感想に、千春が解説を入れる。男子ラクロスはフィールド球技と格闘技の
両方の性質を持つ。当然選手は皆、ヘルメットの中で厳しい表情を見せる。
そんな中、山崎ののほほんとした表情は、どこか緊張感や警戒感を薄れさせる
効果があったようだ。
元々日本ではあまりメジャーでない競技、関東大会でもチーム内に1~2名は
初心者がいるチームも珍しくない、山崎もまたそういう目で見られ、実際初心者でもあった。
しかし彼の身体能力は並ではなかった。長身に加え瞬発力、持久力に優れた彼は
小学校時代からスポーツイベントでは多くの活躍を見せていたほどの実力があった。
試合が進み、相手チームが山崎をマークするころにはもう手遅れであった、
序盤で点数を稼ぎ、逃げ切る友枝中のスタイルは、万年1回戦負けの友枝中を
決勝まで進出させるに至ったのだ。
「はぁ、おかげで目標だった『落語研究会』の創設が・・・」
「作らなくていいわよ!」
折角カッコよくなった山崎が、また笑いの世界に走ってはかなわないとツッコミを入れる千春。
「でも次からは警戒されるだろうし、戦力補給が急務なんだよね、ウチの部。」
言って山崎はちらりと小狼の方を見る。
「ここに一人、格闘技と球技が得意そうな、有望な人材がいるんだけどねぇ~」
その言葉に全員が小狼に注目する。
「い、いや・・・俺は駄目だ。やらなきゃならない事があるからな。」
その小狼の言葉にがっくりと肩を落とす山崎、そして、さくら。
「前にもおっしゃってましたわよね、まだその御用は終わらないのですか?」
秋穂が訪ねる。もう二学期なのに、と心の中で付け足して。
その隣で知世が優しい眼差しを向ける、彼の最重要の用事は、さくらの事であることは
間違いないと確信をもっている、さらっと言葉でその背中を押す知世。
「李君がラクロス部に入部したら、きっと優勝も夢ではないですわ、そうすれば
さくらちゃんの応援もますます可愛くなること請け合いですわね♪」
あ、そっちなのね。という表情で知世を見るさくら。知世にとっての最優先事項も
やっぱりさくらのようだ。
「さて、ラクロスって言うのはねぇ・・・」
満を持して山崎の解説が始まる。例によって真剣な表情で聞き入るさくら・小狼・秋穂。
始業の予鈴が鳴る頃には、千春のツッコミの声と音が中庭に響き渡る。
「本職がもっともらしい嘘を教えるなーっ!」
-すっぱあぁぁぁん!-
放課後、チアリーディング部は2学期最初の活動を迎えていた。
その内容は『3年の引退式と引き継ぎ』である。3年生は来年の高校受験に備えて今日で引退、
短い間だったが、お世話になった先輩との別れを惜しむさくら達。
新たなキャプテンも決まり、新体制のチア部発足となる。終わりに3年生から最後の演技を
披露される、なでしこ祭でも見た先輩たちの見事な演技、その技術を、精神を、
さくらたちは受け継いでいく、自分たちが卒業する時、後輩に渡すその時まで。
下校中、さくらは充実感を感じていた。部活動に所属するという事の自覚と責任、
人とつながり絆が生まれる、多くの仲間と一つの目標に向かって邁進する、
喜びも悲しみも分かち合う、そんな仲間たちとの青春の1ページ。
「さくら!」
ふと我に返る、目の前に私服姿の小狼が立っている。
「あ、小狼君!」
「今帰りか、お疲れ様。」
小狼は買い物袋を下げている、例によって夕食の食材の買い出しの帰りにばったり
部活帰りのさくらと遭遇したわけだ。
「送っていくよ。」
そう言う小狼に笑顔で返す。
「うん!」
思わぬ幸運にさくらの顔もほころぶ、帰宅までのわずかな時間、一日のおもわぬご褒美。
「ねぇ、小狼君。」
「なんだ?」
「やっぱりまだ、部活とかは出来ないの?」
自分が今味わっている充実感、出来れば小狼にも体験してほしかった。
そんな彼の行動にブレーキをかけている原因が、自分だとうすうす気づいているから尚更だ。
「ああ。でも『まだ』じゃなくて・・・俺は、部活動をする気は、ない。」
「どうして?」
不思議そうに見上げるさくら。小狼はさくらの正面に向き直り、こう言った。
「俺には、魔力があるからな。」
「・・・え?」
理解できない、といった表情で小狼を見るさくら、それを察して小狼が続ける。
「例えば、俺がラクロス部に入ったとして、試合で魔法を使って勝ったとしたら、どう思う?」
さくらはありえない、という表情で返す。
「もちろんダメだよ、それに小狼君はそんなこと絶対にしない!でしょ?」
「じゃあ、俺が全力を出さずに、手を抜いたプレイをしたとしたら?」
「それも絶対にないよ、だって・・・だって小狼君だもん!」
自信を、いや確信を持って言える。さくらの知る李小狼という人間に、そのどちらも当てはまらない。
「今、俺が言ったふたつの仮定が、矛盾していることに気づいたか?」
「ほぇ?」
理解が追い付かず、ついつい口癖が出るさくら。
「なぁ、さくら。全力、ってどういう字を書く?」
「全ての力を使う、でしょ・・・あ!」
全ての力。それはその人間の持っている力をさす。運動神経、頭脳、筋力、センス、
そして・・・小狼やさくらにとっては『魔法』も力の一つであることに違いは無い。
「魔法を使わなければ、俺は全力を尽くしていないことになる。かといって魔法を使えば、
勝負にすらならなくなってしまう、相手も仲間も、彼らのしてきた努力すら無駄にしてしまうほどの
反則な力・・・そんな力がある俺が、みんなの競技の邪魔をする訳にはいかないんだ。」
「そんな・・・小狼君、真面目すぎるよ!」
反論するさくらに、小狼は悲しい目をして告げる。
「『特別』な力を持つっていうのは、そういう事なんだ。」
「俺は香港でいる時、学校で魔法を使った事があるんだ。」
小狼は話す。彼の家が香港で有名な魔術の家で、あちらでは日本より魔法の存在が
信じられている事、そんな中、学校に起こった魔法による災い、魔力を持った低級な霊が
クラスメイトを傷付けようとして、とっさに魔法を使ったこと。
そしてその一件以来、小狼が学校で孤立してしまったこと、まだ小学2年生の時の話だ。
恐れられ、特別視され、羨ましがられる。幼いクラスメイトにとって、その力が小狼にあって
自分たちに無いことは、受け入れがたい不公平であった。
「よくケンカを仕掛けられたよ。俺が負けたら『魔法を使えよ、手を抜くな』って言われて
勝ったら『魔法使ったんだろ!』って言われる。ケンカだけじゃない、体育の授業でも、
ずっとそうだった。」
さくらは言葉もなく小狼を見ていた。そして初めて日本に来た頃の彼を思い出す。
不愛想で、余裕が無くて、いつも張り詰めている。初めて桃矢と会った時、ためらわずに
ケンカをする姿勢を取った小狼。それは彼の香港での日常をそのまま映していたのだ。
「俺は、日本が、友枝町が好きだ。」
そう言ってようやく笑顔を見せる小狼。
「だから、この日本での日常を壊したくない。俺は、怖いんだ。魔法を使って恐れられることが、
魔法を使わずに、全力を出さなかったことが仲間に知られることが・・・だから、部活は出来ない。」
「・・・そう。」
さすがにしょんぼりするさくら。小狼の境遇ももちろんだが、そんな彼に対して何もしてあげられる
事が無いことが悲しかった。この前、海で「力になりたい」と言ったばかりなのに・・・
その瞬間、周囲が闇に包まれる。夕焼けの通学路は一瞬にして漆黒の闇へと姿を変える。
「さくら!」
「小狼君!これって一体・・・」
と、さくらは思い当たる気配があった。今年に入ってから経験してきた不思議な現象、さくらだけが
感じられる魔力の気配と、それを固着することによるカードの入手。
それに気づいた時、どさっ、と地面に人が倒れる音。小狼が地面にうつぶせに倒れ、
苦しそうな表情をさくらに向ける。
「小狼君っ!!」
駆けつけるさくら。小狼を抱きかかえようとするが、小狼がそれを制する。
「いいから・・・カードを、封印、するんだ。」
小狼には既視感があった。これは、何者かに魔力を封じられている状態、急速に眠気が襲ってくる。
かつて柊沢エリオルと対峙した時に感じた、魔力封印の圧。
「俺にかまうな、カードを封印してしまえば、元通りになる・・・」
「分かった!待ってて小狼君!」
闇に向き直り、首に下げている夢の杖を取り出す。
「レリーズ!」
杖をかざし、構える。目を閉じ、闇の中で気配を探る。いる!
「主無き者よ!夢の杖のもと・・・って、速い!」
気配は縦横無尽に動いている、闇の中で。とても姿の見えないさくらがピンポイントで
固着できる状況ではなかった。
「なんとか動きを止めないと・・・」
そう嘆くさくら。その声を聴いた小狼は、ひとつの方法を思いつく。が、それを実行するのは
不可能であった。魔力が失われている自分にそれをする術はない。
体を起こそうとして、力が入らず転がる。その勢いでさくらの反対方向に向く小狼。
「あ・・・」
さくらの反対側、闇の向こうにうっすらと景色が見える。さっきまで歩いていた通学路、
この闇は、さくらに近づくほど濃くなっている、ということは・・・。
力を振り絞って、体を横に転がし闇の外を目指す。やがて闇から転がり出る小狼。
それと同時に、彼は何事もなかったかのごとく体力と、そして魔力が戻っていることに気づく。
この空間は、魔力を『奪う』んじゃない。魔力を『封じる』空間なんだ。
目の前にあるドーム状の闇を見据えて立ち上がる、これなら出来る、さくらの力になれる。
小狼は魔力を開放し、宝玉のついた剣を取り出す。その宝玉に封じられている精霊から
最高位の一体を呼び出す。
「闇を照らせ、ライト(光)!」
今度こそ小狼の魔力は急激に失われていく。クロウ・カード改めさくらカードの中でも
ケルベロス配下第一のカードであるライトの発動は、小狼の魔力を容赦なく奪っていく。
「固着(セキュア)!セキュアっ!」
闇の中、気配を頼りにな何度も夢の杖を打ち据える。しかし目標には命中せず、さくらの杖は
むなしく空を切り続ける。早くしないと小狼君が・・・
その瞬間、さくらの頭上に太陽のような光球が出現する、それは瞬く間に拡大し、さくらの周囲を
明るく照らし出す。その中にいるのはさくらともう一人、ローブを纏った老人のような精霊。
それは突然の光に目を抑え、動きを止めていた。今がチャンス!
「主無き者よ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
老人に杖を打ち下ろす。その瞬間、老人は光の泡となり、杖の周りに収束されていく。
光が消え、闇が晴れ、残ったのは1枚のカード。
それを手に取ると、すぐに小狼を探すさくら。さっきの光、あれはもしかして・・・
いた、小狼君。剣を杖にしてへたりこんでいる。使ったんだ、魔法を。
「小狼君!大丈夫!?」
駆けつけるさくらに、顔を上げて答える小狼。
「ああ、大丈夫。それより、カードは・・・?」
「うん、封印できたよ。これ・・・」
二人してカードを覗き込む、そこには先ほどのローブの老人とともに、こう書かれていた。
『封(sealed)』
「封・・・封印系のカードか。俺の魔力を封じていたのもこのカードの力だったんだな。」
「魔力を・・・封じる。」
さくらはそう嘆く。ここの所のカードの出現は、その時のさくらの思いに対応した能力を持つ
カードばかりだ。マーチングの練習の時には『律動』、そして今、小狼君が魔力にとらわれず
自由に部活をできるようにと思った時には、この『封』。
うすうす気づいていたけど、やっぱりこのカードは、私の魔力が生み出している。
さくらは少しづつ、この透明なカードに不気味さ、怖さを感じていた。
と、小狼が突然、そのカードを手に取り、食い入るように見入る。
彼は、ひとつの可能性を感じていた。
「(もし、このカードでさくら自身の魔力を抑えることが出来たら・・・)」
今現在も進行しているさくらの魔力の影響、それを抑えることが出来るかもしれない。
「さくら、このカード、役に立つかもしれない。」
「え?」
「だから大事に持っていてくれ、でも使うなよ、よくないことが起こるかもしれない。」
「うん、分かった。」
小狼の真剣さにさくらも頷く。元々小狼君に役に立てたいという思いが生んだカード・・・だと思う。
大事にしないという選択肢は無かった。
「(あとは、柊沢。お前が日本に来られれば・・・)」
小狼は手を打っていた。エリオル達が日本に来られるようにする手を。
その時こそ、事態は動き出す、きっと、いい方向に。