カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」 作:三流FLASH職人
1台のタクシーが詩之本邸に到着する、乗客の海渡は1万円札を3枚
投げるように運転手に渡す、お釣りは結構です、とだけ告げ、足早に玄関に向かう。
-ついにこの時が、待ち焦がれた時が来ました-
高揚感が足を速める、玄関のドアを開け、中に入る。廊下を走り、居間のドアを開く。
そして止まる、驚愕の表情で。秋穂以外いないはずのその部屋に立つ、その人物を見て。
「なっ!」
それだけを絞り出す海渡、脇にぶらさがっていたモモが続く。
「柊沢・・・エリオルさん、ですわね。」
その眼鏡の少年、エリオルは答えない。杖を手に、紫のローブを纏って、
決して好意的ではない目を、海渡に向けて。
「不法侵入とは感心しませんね。ここは今は、貴方の家ではありませんよ。」
海渡は一歩後ずさり、ヒビのはいった懐中時計を握りしめて言う。
「泥棒に非難される筋合いはありませんね。」
厳しい表情でエリオルが返す。彼の足元には魔法陣、海渡が家を出る前まで使っていた
風水版と西洋の魔法陣を合成したサークル。そしてその向こうのソファーには、
眠る秋穂を抱きかかえる一人の女性と、狼にも似た獣、共にエリオルの従者。
「ええと、ルビー・ムーンさん、それとスピネル・サンさんね。お揃いでようこそ。」
モモは動じない、いささか第三者的なふるまいを感じる。
「なるほど、大した魔法陣ですよ、世界中の魔力を持つ人間の動向すら探れそうですね。」
足元の魔法陣をサーチしてエリオルが言う。
「こっちはもう消しちゃったよ~」
女子高生、秋月なくるの姿を取っているルビーがドヤ顔で告げる。秋穂の寝ていたソファーにあった
『眠りの魔法陣』はすでにかき消えている、秋穂は未だ眠ってはいるが。
「驚きましたよ、一体いつの間に日本に?」
魔法陣を介して、世界の主な魔導士の動きは把握していたはずだ、
もちろんクロウ・リードの転生体である柊沢エリオルは、一番の監視対象と言ってよかった。
その彼が日本に来るまで気付かなかったとは・・・一体何故?
「協力者がいた、とだけ言っておきましょう。」
杖を肩から足元、袈裟に振り下ろし、強い調子で海渡に告げる。
「さぁ、さくらさんから奪ったカード、返してもらいますよ!」
『なんやてぇ、カードと杖を奪われたぁ!?』
「奪われたのかわかんないけど、寝てる間に無くなってたの!おまけにみんな寝ちゃってて・・・」
料亭のトイレで、スマホを握りしめてケロに報告するさくら。
『そら取られたんや、間違いないわ。』
「ど、どうしようどうしよう。」
『落ち着け!とりあえず合流するで、ゆきうさぎの家や、はよ来い!』
「分かった!」
電話を切り、料亭の外に飛び出すさくら。と、そこで大事なミスに気付く。
「あ・・・ここから雪兎さんのうちまで、どうやって行けば・・・」
軽く見積もっても20kmはある。運転してきた父は寝ているし、魔法を使って飛んでいく手は
杖が無いため使えない。
「ほ、ほぇ~、どうすれば・・・」
途方に暮れるさくら。と、遠くからやたら回転数の高い車の音が聞こえ、次第に大きくなっていく。
やがて料亭の駐車場にけたたましい音で入ると、急ブレーキをかけて横滑りして止まる。
後部座席から飛び出してきたのは、なんと小狼だ。
「さくら、こっちだ!」
「小狼君!?どうして。」
「理由は後だ、早く乗るんだ!」
「う、うん!」
小狼に即され、後部座席に一緒に滑り込む。前の席、つまり運転席と助手席に坐っているのは
懐かしい顔の二人だ。
「苺鈴ちゃんと・・・観月先生!」
「お久しぶり、さくらちゃん。じゃあ、行くわよ。」
ウインクしてミッションをドライブに入れる。と、苺鈴ががしっ!とドアの手すりを握る。
「しっかり捕まってなさい、この先生の運転は・・・ひゃああぁぁぁ!」
前輪を浮き上がらせんばかりの勢いで加速する、さくらも小狼も対応が遅れてか、シートベルトが
あるにも関わらず左右に振り回される。
「うわあぁぁぁっ!」
「ほえぇぇぇぇぇっ!!」
決して制限速度を超過しているわけではないのだが、アクセルもブレーキもハンドルも
ソフトという言葉とは全く無縁のどっかん運転に振り回される。が、問題はそこではなかった。
「先生、そこ左!って、どっち行くんですか、左ですひだりっ!」
走り出してからずっと苺鈴の大声のナビが車内に響く。観月は運転以前に相当な方向音痴のようで
苺鈴が相当前から指示しているにもかかわらず度々道を間違える。
「そっちは行き止まりですってーだからなんでそっちにハンドル切るんですかあああっ!!」
無駄に体力と精神力と、あとついでにタイヤとガソリンを消費しながら、やっとのことで
月城邸に辿り着く。
玄関に飛び出してきたケロとユエを回収し、再び走り出す。ぎゅうぎゅうの後部座席の中、
小狼が事情を説明する。
「秋穂ちゃんのところの、海渡さんが!?」
「ああ、あいつは何か目的があってこの日本に来たらしい。」
「その奪われた主(あるじ)のカードが目的というわけか。」
ユエが冷静に分析する。が、次の観月の言葉にはユエもケロも、そしてさくらも冷静さを失う。
「今、エリオル達が先回りして相手してるわ。」
「ええっ!」
「何!?」
「何やてぇぇっ!アイツらも来とるんかいっ!!」
「ええ、本当はもっと早くに来たかったけど、監視されてて来られなかったの。」
「その、海渡とかいうヤツにか?」
「ああ、お前たちも通信や連絡が取れなかっただろう、相当高位の魔法使いだ、油断するなよ!」
「小僧に言われんでもわかっとるわーいっ!」
ピリつく空気の中、さくらだけは不安と疑問でいっぱいになっていた。
「(どうして?秋穂ちゃんの好きな人がこんなことをするなんて・・・)」
数十分のすったもんだの後、詩之本邸に到着する車。
全員が勢いよく飛び出し玄関に走る。あの中にエリオルが海渡と対峙している、もしくは
もっと物騒な事態になっているかも知れない。観月を先頭に玄関を開け、廊下を走り、
魔力の溢れる部屋のドアを開ける。叫ぶ観月。
「エリオル!無事!?」
部屋に入ってほどなく、全員の目が点になる。全くの予想外の風景。
「もちろん無事ですよ、ご覧の通り。」
テーブルに着き、ティーカップを掲げながら笑顔で返すエリオル。傍らには秋月なくるのカップに
にこやかに紅茶を注いでいるユナ・D・海渡。
「「だあぁぁっ!」」
入ってきた全員がずっこける。いち早く立ち上がったケロが平手でツッコミを入れる。
「くつろいでどないすんねんっ!!」
「まぁまぁ、皆さんもお茶でもいかがですか?」
と、さくらはソファーに横たわっている秋穂を見つける。
「秋穂ちゃん!」
駆け寄ろうとするさくらを、海渡が目線で制する。
「大丈夫、眠っているだけです。起こさないであげて頂けますか?」
ティーカップを置き、さくらに正対して続ける。
「事情をお話します、まずはテーブルへどうぞ。」