カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第17話 さくらとあぶないティータイム

 沈痛な空気の中、海渡は紅茶を淹れなおしたティーポットと、お菓子を満載した

台車を押してやってくる。

「とりあえず、甘い物でもどうぞ。考えがまとまりますよ。」

そういってお菓子の数々をテーブルに並べる。クッキーにチョコレート、そして・・・

「あ、ケルベロスさんとスピネルさんはこちらがお好みでしょうか。」

そう言って丸い物体が山盛りのボウルを前に置く。それを見たスッピーの目がキラキラ輝く。

「こ、これは・・・たこ焼き!」

「おお!わかっとるやないかぁ!!」

言うなり数個を口の中に放り込むケロ。スッピーもつまようじに1個刺し取り、口に放り込む。

 

「相変わらずの食い意地だな。」

「まったく、どこに入るのやらねぇ。」

香港コンビがジト目でケロに毒を吐き、反論を待つ。が、ケロはたこ焼きを口にほおばったまま

見る見るその顔を青ざめさせていく。

「ちょ、ちょっとケロちゃん、どうしたの?」

「ノドにでも詰まらせたの?」

心配するさくらとなくるをよそに、たこ焼きを飲み下し、一息ついて絶叫する。

 

「なんやこれわあぁっ!!甘い、甘いで!ほんでもって美味いやないかあぁぁぁっ!!!」

全員がずるっ、と脱力する。しかし、甘いたこ焼きって?

「広島県にある『ケーキお好み焼き』をアレンジしてみました、お気にいって頂けて何より。」

してやったり、という表情で海渡が笑う。ホットケーキの生地を丸めて焼き、ソースの代わりに

チョコレート。中のタコはグミ、砂糖菓子の青海苔とかつお節がいい細工をかもし出している。

 

「ん?」

 ケロが体を硬直させ、さくらの方を向いたまま冷や汗を流す。

「甘いお菓子・・・ちゅうことは・・・まさか。」

恐る恐る後ろを振り向くケロ、たこ焼きケーキと、その向こうにいるスッピーの方に。

 

ごおぉぉぉっ!

次の瞬間、テーブルに火炎の花が咲く。スッピーが高笑いと共に吐いた火炎が。

 

「あはははははは、おいしーーーーいっ♪」

たこ焼きケーキの入ったボウルを丸ごと取ると、大口を開けて一気に飲み込む。

そして猛スピードで飛び回り、そこかしこにぶつかってスーパーボールのように跳ね回る。

頬を真っ赤に染め、とろんとした目でハイテンションに暴れまわるスッピー。

「酔っぱらった!?」

驚愕する苺鈴。突然の豹変に事態が呑み込めず、事情を知ってそうなケロを探す。

あれ、どこ行った?

 

 きょろきょろと見まわすと、なんとケロは部屋の隅で、本来の獣の姿に戻って

壁に向かって呟いてる。

「ああそうや、分かっとるんや、所詮わいはお風呂スポンジなんや、最近は知世も

ちっとも撮ってくれへんし、それどころかカメラ担当にされる始末やし・・・」

真っ暗な表情で床に「の」の字を描き、壁に繰り言を並べるケルベロス。

「ちょ、いったいどうしたのよ、あんたのキャラは・・・」

そこまで言って、苺鈴はいきなり背後から抱き着かれる。このノリは・・・なくる?

 

「えへへー、苺鈴ちゃ~~ん♪」

「さ、さくら!?」

頬を赤らめ、目を逆Uの字にして、猫のような笑顔で苺鈴に手と足でしがみつくさくら。

「さ、さくらまでどーしたのよ!てかあんた顔真っ赤よ!?」

「ねぇ~苺鈴ちゃん、怒ってる?私が小狼君と付き合って怒ってる?」

「い、今更何言ってるのよ、っていうか正気に戻りなさいっ!」

「怒ってないの~?」

「怒ってないってば、だから離れなさいよっ!」

その返事を聞いたさくらはそのまま苺鈴に頬ずりする。

「えへへーやっぱ苺鈴ちゃん、大好き。」

 

「ちょ、ちょっと小狼、代わりなさいよ、こーゆーのはあんたの担当でしょっ!」

「落ち着け苺鈴!」

小狼は真顔で苺鈴を制する。この事態にあって小狼は冷静だった。

「こういう時は、素数を数えるんだ。1,2,3,5,7,11・・・」

「全然冷静じゃない!?」

「83.89.97。よし!観月先生、100まで終わりました!」

言ってインテリアの女神像におじぎする小狼。

 

「えええーっ!小狼までおかしくなっちゃったーっ!」

言って周囲を見回し、まともな人間を探す。そうだ、柊沢エリオル!あの最強の魔導士なら・・・

「ちょっと柊沢君!一体これはどーなってんの?」

机に突っ伏しぐーすかイビキをかいているなくるの横で、エリオルは笑顔で答える。

「ああ、みなさん酔っぱらっているようですねぇ。」

「なんでまた!?」

「スピネルさんは、甘いものを食べると酔っぱらっちゃうんですよ。」

「へ?そうなの・・・」

でも他のみんなも、と言おうとした時、エリオルが機先を制して続ける。

 

「ちなみに、酔うって言うのはですね、本来は古代中国発祥のお酒に『余威(よい)』って

いうのがありましてね・・・」

「へ?」

「それを酔拳の達人が愛飲して、御前試合に勝利したことから、お酒に『酔う』っていう言葉が・・・」

「なにそのいかにも即興なトリビアは!あなたは山崎君か!」

駄目だ、彼すらマトモではない。なんか向こうでユエが真っ赤な顔で絶叫してるし・・・

「クロウ―!何故私を置いて死んでしまったのだーーっ!!」

 

 暴れるスッピー、鬱なケロ、ハイテンションなさくら、真顔で謎行動の小狼、泣き上戸のユエ、

爆睡するなくるの横で誰にともなく延々と謎知識を披露するエリオル、なんというカオス!

 

ふと、飛び回るスッピーを目で追っていて、天井の模様に気づく苺鈴。

「え・・・てっ、天井に、魔法陣?」

「気付かれましたか。」

背後から声をかけられ、振り向く苺鈴。そこには海渡が笑顔で、少し赤い顔をして立っていた。

「やはりあなたには効かなかったようですね、本当にわずかな魔力もお持ちでないようです。」

 

「これは・・・あなたの仕業なの?」

一歩後退し、構えを取る苺鈴。海渡はにやりと笑い、続ける。

「あの魔法陣は、その場で一番テンションの高い人間の精神状態を全員が共有する魔法です。

スピネルさんがお菓子に酔うことは知ってましたし、お酒に強い観月歌帆さんは出ていかれました、

条件がそろったので発動させて貰いましたよ。」

エリオルの方を向き、こう付け足す。

「魔法陣が必ず足元で発動するとは限らない、さすがに柊沢さんもそこまでは想定外でしたね。」

言って少しふらつきながら、懐から1枚のカードを取り出す。絵のない部分が透明なそのカードを。

彼がさくらから奪った、クリアカード、スピリット(霊)。

 

「さて、はじめましょうか。」

テーブルの上の夢の杖を取り、秋穂のいるソファーに向かう海渡、本を抱えて続くモモ。

少々千鳥足なところを見るに、彼ら自身も魔法にかかってはいるようだ。

自分すら巻き込む魔法だからこそ、エリオルも察知できなかったのか・・・

 

「ま、待ちなさいっ!」

苺鈴の言葉に足を止め、振り向く二人。海渡は苺鈴を見返し、一言こう告げる。

「戻るべき人が、戻るべきところに戻るだけですよ。」

 

 その言葉が終わった瞬間、海渡とモモの背後に透明なカベが高速で降り、こちらとの空間を遮断する。

駆け寄ってカベを殴る苺鈴、しかしビクともしない。

「それは魔法ではありません、偏光性アクリルガラスです、無茶をしてもケガするだけですよ。」

次の瞬間、ガラスは鏡に代わる。苺鈴の視界から海渡と、モモと、横たわる秋穂が遮断される。

後に残されるのは、唯一正気な苺鈴の後ろで乱痴気騒ぎをする一行。

「ちょ、ちょっとさくら!詩之本さんがピンチなのよ!スピネルと一緒に踊ってる場合!?

小狼!円周率なんか唱和してないで正気に戻りなさい!柊沢、あんたそれでもクロウ・リードの・・・」

必死に事態を打開しようとするが、もはや苺鈴一人にどうにかできる事態ではなくなっていた。

 

 壁を隔てた向こう側、海渡は横たわる秋穂の前に立つ。その際でモモが本を広げ、構える。

「レリーズ(封印解除)。」

その言葉と共に小さな鍵のペンダントは、長さ1mほどの『夢の杖』へと姿を変える。

そして手に持っていたカードを、秋穂とモモの真ん中に投げ、空中に固定する。

杖を振りかぶり、目を閉じる。決意の言葉を紡ぐ海渡。

「秋穂さん、今助け出して見せます。必ず!」

 

「カードよ、少女の魂をあるべき所に返せ、スピリットっ!」

カードに打ち下ろされる杖、カードが光り輝き、そこからさくらの母である撫子に似た精霊が

秋穂の体にまとわりつき、人の形をした霊体を引っ張り出す。

 それは、秋穂とは違う少女。本の挿し絵にも描かれた金髪の、寂しげな表情の女の子。

「やはり!さぁ、いるべき所に帰るのです、そして秋穂さんにこの体を返しなさい!」

やがて少女はカードの精霊に連れられ、モモが広げている本の中へ帰っていく。

 

そしてスピリットの精霊はカードに戻る。後に残ったのは、本と、モモと、海渡と・・・

 

 魂の抜けたままの、人形のような秋穂。

 

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