カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第18話 さくらと消えた秋穂

「何事だこれは・・・。」

 部屋に入るなり、木之本桃矢の呆れ声。無理もない、部屋の中はまるで全員が

酔っぱらったような有様だ。

 いや、全員ではないか、李苺鈴だけは疲れ切った表情で地面にへたり込み、こっちを見る。

「あ、観月先生、大道寺さん、それから、さくらのお兄さん・・・ども。」

「苺鈴ちゃん、いったい何があったんですか?」

知世の質問に、天井の魔法陣を指さして示す苺鈴。

 

「なるほど、この魔法陣のせいでこうなっているのね。」

観月はカバンから手の平ほどのリングを取り出す。かつて持っていた、『クロウの鈴』に

代わるアイテム。製作者の名を取るなら『エリオルのベル』とでも言うべきか・・・

そのリングを握り、天井の魔法陣に向けて振る。と、シュウゥゥゥ、という音を立てて

魔法陣がかき消えていく。

 

 その瞬間、酔っぱらっていた全員が、はた、と正気に戻る。

いや、スッピーだけは未だに酔いどれ状態でテーブルの上をごろごろ笑顔で転げる。

それをがしっ!と抑えるエリオル、ひきつった、汗ばんだ顔で。

 

「エリオル~、この有様は一体何、か・し・ら?」

満面の笑顔で、しかし全く笑っていないその目でエリオルに詰め寄る観月。

冷や汗をだらだら流しながら、顔をこわばらせて答えるエリオル。

「や、やぁ歌帆、思ったより早かったね、まだ1時間くらいしか・・・」

「ああ、桃矢にマメにナビしてもらったのよ。帰りは大道寺さんの車に送ってもらったし。」

ひと呼吸置いて、さらに一歩詰め寄り、エリオルにぐっ、と顔を近づけて言う。

「で、最高の魔導士さんがいながら、この有様は一体何か・し・ら?」

再度の圧に、観念したようにエリオルはがっくりと俯く。

「・・・申し訳ない。」

 

「酔っぱらっとったぁ?」

皆の驚きを最初に代弁するケロに、ジト目で苺鈴が答える。

「ええそりゃあもう、みんなの中の闇をたっぷりと拝見させてもらったわ。」

「わ、ワイは別に闇なんかないで!なんつっても太陽のシンボルである守護神やから・・・」

「思いっっっきり、鬱入ってたわよ、アンタ。」

苺鈴の指摘に、まるでムンクの『叫び』のようなひぇぇぇ顔になるケロ。

 

「まったく、普段から騒がしいからこういう時に醜態をさらすのだ。」

「・・・貴方が一番取り乱してましたわよ、ユエさん。」

苺鈴の言葉に、え?という表情をするユエ。次の瞬間、彼は全身を羽で包み、光り輝く。

羽がほどけて消えると、中にはユエではなく月城雪兎の姿があった。

「・・・あれ?ここは、どこかな?」

「ユエの奴、逃げおったあぁぁぁぁぁ!」

 

「ええと、苺鈴ちゃん、私は大丈夫、だった、よね・・・」

さくらの言葉に、はぁ、とため息ひとつ、小狼の両肩をがしっと掴む苺鈴。

「な、なんだ?」

「いい小狼、将来さくらに絶対、お酒飲ませちゃダメ。いいわね!」

「え?あ、ああ・・・」

「ほ、ほえぇぇぇ!私一体何してたの!?」

 

「って、それどころじゃないわ!みんな、あいつが杖とカード持って、詩之本さんを!」

「「ええっ!?」」

その一言で全員の表情が変わる。

「そんな!どこに行ったの?」

「そっちの鏡の向こう、でもどうやっても開かなくて・・・」

皆が大きな鏡の壁に向かう。確かにさっきまでは無かった壁。エリオルは表面に触れ、確かめる。

「本体はアクリルですが、魔法で固定され、表面を鏡面化しているようですね。」

観月に目配せを送るエリオル、彼女は、はいはい、という表情で鏡の前に立ち、リングを構える。

まるでノックをするように、リングでこん!と鏡をたたくと、その鏡が壁ごとボロボロ崩れる。

 

 全員が中に入る。そこにいたのはソファーに横たわったままの秋穂と、その際、ソファーの

ひじ掛けに腰掛けて本を開け凝視する海渡、離れてやれやれ、というジェスチャーをするモモ。

全員が入ってきたことを確認し、海渡は本をぽふ、と閉じる。『時計の国のアリス』を。

「海渡さん、秋穂ちゃんは・・・どうなったんですか?」

さくらの問いに海渡は立ち上がり、光を失った目で、語る。

「アリスは・・・本に返しました。ですが、秋穂さんは・・・」

「秋穂ちゃんは?」

「・・・戻ってきません。」

 

「ええっ!そんな・・・」

ソファーに駆け寄り、秋穂をゆり動かすさくら。

「秋穂ちゃん、しっかり!私だよ、さくらだよ、起きて、起きてってば!」

そんなさくらを見て感情を高ぶらせる小狼。つかつかと歩み寄り、海渡の前に立ち、睨む。

「どういうことだ!アリスを本に返せば、詩之本は帰ってくるんじゃなかったのか!」

「・・・もちろんそのはずでした。しかし、現実に彼女の魂は戻ってきませんでした。」

「くっ!」

怒りに任せ、拳を作る小狼。その手を桃矢が抑える。

「じゃあ、どうやったら彼女は戻ってくるんだ?」

「それが分かってれば、とっくにやってるわよ~。」

モモが口を挟む、投げやりな声で。

 

 ソファーではエリオルが秋穂を診察している、傍らで不安そうに見守るさくらと知世。

瞳を覗き込み、脈を計り、手をかざして魂のありかを探る。

「どうやら、完全に魂を失っています。このままでは彼女は一生、目を覚ましませんよ。」

立ち上がり、海渡に向かって言い放つ。

「先走りましたね、貴方のやったことは完全に裏目に出たようです。」

厳しい言葉に、海渡は反論しない、出来るはずもない、その通りなのだから。

「なぁ、なんか方法は無いんか?心当たりとか。そもそも秋穂はホンマにその本の中に

おるんか?」

ケロが問う。少し前なら確信をもってイエスを言えた海渡だが、今となってはそれも怪しい。

 

「手がかりが、ひとつだけあります。」

ややあって海渡が口を開く。その言葉に皆が注目し、次の言葉を待つ。

海渡は本を開き、一番後ろのページを開く。厚紙でできた本の外回り、そこに印字された文字。

-〇△◇〇 2072-

見知らぬ文字の後の数字、それだけが広い裏表紙の真ん中に小さく書かれている。

雪兎がそれを覗き込み、アゴに手を当てて言う。

「発行年、かな?」

「え?つまり、この本が書かれた年月日?」

なくるが続く。その言葉にこくり、と頷く海渡。

 

「え・・・2072、って、ほえええーーーっ!?」

「まさか、この本って・・・」

さくらと小狼の言葉に、目線を合わせずに答える海渡。

「ええ、おそらくは『未来』に書かれた本なのでしょう。」

「はぁ?何言うとんねん。未来に書かれた本がなんで今ここにあるっちゅーんや。」

反論するケロを制して、観月がずいっ、と前に出る。

「そう、だから・・・『時計の国のアリス』なわけなのね。」

 

 時間を超える魔道具。魔法の中でも超高等な技術で作られた、極めてまれなアイテム。

クロウ・さくらカードの『リターン』や、海渡が魔法協会から奪った懐中時計と同じ能力を持つその本。

まだまだ謎な部分はあるが、この本の一つの謎がそこにあるような気にさせる。

 

「未来に行って、その本を書いた人物に会えば、何かが分かるかもしれません。ですが・・・」

海渡はテーブルに置かれたままの懐中時計に目をやる。かつてエリオルの魔力と張り合い

その際に出来たひび割れが痛々しい時計を。

「もう、使えないのですか?その時計は。」

エリオルの問いに海渡が頷く。

「少しくらいの時間操作はできますが、未来に行くほどの魔力は失われてしまっています。」

がっくりと肩を落とす一同。

 

「あ!」

さくらは思わず声を上げる。全員の注目を浴びながら、ポケットのホルスターから1枚の

クリアカードを取り出す。そして無言で皆にそのカードを差し出し、見せる。

 

-Future(先)-

 

「今朝、封印したの。これって『未来』っていう意味だよね。」

悲しい夢から覚めた今朝、自然にさくらの前に現れたそのカード、まるでこの時のために

用意されたように。

 皆がそのカードを覗き込む。その図柄には少年とも少女とも取れる、ローブを被った

子供が描かれていた。そのカードを見て海渡が、モモが驚愕する。

「このローブは・・・」

モモはいち早く、その部屋のクローゼットに向かう。扉を開けて、ハンガーにかかった

一着の服を持ってくる。

「これは、詩之本家に代々伝わるローブです。」

全員が驚く。それはまさに今、さくらが示したカードと同じローブだったから。

 

「偶然とは思えませんね・・・」

エリオルが頭をひねってそう言う。もしこの時のために用意されたカードなら

ここで使うべきカードなのかも知れない。

 しかし、その雰囲気に小狼がストップをかける。

「ダメだ!これ以上さくらがカードを使ったら・・・まして時間操作のカードは!」

必要とする魔力の量がケタはずれに多い。リターンの時も月峯神社の桜の木の魔力を借りて

やっと過去に飛ぶことが出来た。しかも、魔力を消費すればするほど、回復の幅も大きくなる。

今のさくらがそんな膨大な魔力を使えば、回復したのちの魔力は確実にさくらをより不幸にする。

小狼にとって、とても承諾できる行為ではなかった。

 

「しかし、他に方法がありません。秋穂さんを見捨てるなら話は別ですが・・・」

海渡は脅迫めいた態度を隠さず、さくらに問う。だが嘘ではない、秋穂の魂の行方を突き止めない限り

彼女を救う手立てはないのもまた事実なのだ。

 

 さくらはすぅっ、と息を吸い込み、深呼吸する。そして小狼の方に向き直り、言う。

「ありがとう、小狼君。心配してくれて。」

ひと息ついて続けるさくら。

「でも、私は秋穂ちゃんを助けたい、アリスさんも。未来に行ってこの本を書いた人に会えば

その方法がわかるかもしれない。だから・・・やってみる!」

「さくら・・・」

 その決意の瞳を見て、小狼は何も言えない。昔からそうだ、さくらは誰かのために常に

損な役割を引き受けてきた。ソードに操られたクラスメイトを傷付けないように助け、

タイムの潜む時計塔を壊さずに時間の流れを元に戻した、それで余計に苦労する羽目になっても。

 

「わかった、だけど必ず、無事で返ってきてくれ。」

「うん!」

不安は尽きない。小狼も、そしてさくらも。

だからこういう時は、さくらは無敵の呪文を使う、懐かしいあの言葉を。

 

「絶対、だいじょうぶ、だよ。」

 

 

 さくらと海渡は向かい合って位置する。今の膨大な魔力を持つさくらと、稀代の天才魔術師の

海渡の魔力をもってすれば、時間をめぐるカードの発動も可能だろう。

何より秋穂を助けたいと願うこの二人が未来に飛ぶ、その意志こそが成功の原動力になるだろう。

さくらはカードを空中に放り投げ、夢の杖を打ち据え、発動させる。

 

「我らを未来へ送れ、フューチャーっ!!」

その瞬間、ローブを被った精霊がカードから飛び出し、そのローブが広がってさくらと海渡を包む、

やがてローブはまるでテントのように二人を包み込み、光り輝き、そして消えていく。

 

 その時だった、そのローブの精霊が発した一言と共に、不快な金属音が部屋に響く。

 

「お前はもう、戻れない」

-ぱきいぃぃぃぃ・・・ん-

 

 やがて消えるさくら達。後に残された者たちが見た物は、部屋の中央に散乱している破片、

つい先ほどまでさくらが振るっていた杖だった物体、魔法を発動させるのに必要不可欠なアイテム。

 

-砕け散った、『夢の杖』の残骸-

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