カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第21話 さくらとアリスの本の秘密

 さくらと苺鈴は歩く。時の回廊を、とりとめもない思い出話をしながら。

初めて会った時、水に落ちたさくらが、苺鈴が小狼にプレゼントした服を着ていたこと。

香港に来た時、またも水に濡れたさくらが今度は小狼の実家で着替えたこと。

 揚げ物の授業の時、パニックに陥った時に危険を顧みず火を止めてくれたり

ミラーの騒動の時に非行に走ったと勘違いされて叱られたこと。

ビッグのカードの時の巨大さくらの戦いが特撮的で楽しかったこと、

 体育のマット運動で、マラソンで、ケーキ作りで、ゲーセンのモグラ叩きで

いつも張り合ってたこと。

 

 そして、時間を違えて同じ人を好きになったこと。

 

 魔力の有無を除けば、私たち結構似てるのかな、という話になる。

「そういえば、本物の詩之本さんもさくらに似てる、って言ってたわよね、あの人。」

「うん、おっとりな秋穂ちゃんからは想像できないけど・・・」

「もしそうなったら、今度は3人で競争かしら?」

あのお嬢様気質な秋穂が、苺鈴もかくやな態度でさくらたちの勝負に参入してくる姿を

想像して、二人で笑う。

「案外、どおりゃあー!とか言って月面宙返り決めたりして。」

「ぷくくくっ・・・ちょっと苺鈴ちゃんやめてよ、想像しちゃった・・・」

それはそれで楽しそうだ、とさくらは思う。秋穂に宿ったアリスは確かにさくらに

似ていたところがあったが、どちらかというとふんわりな部分が、いや今は苺鈴と一緒だから

ぽややんな部分が似ていたから、そういう部分も似ていたらさぞ楽しいだろう。

 

「その為にも、彼女を助けないとね。」

「うん。それで、できればアリスちゃんも。」

と、苺鈴がその足を止める、その先には下に降りる階段。

「終点みたいね。」

「うん、先の道が無い・・・海渡さんもここから降りたのかな?」

「多分ね。しっかしさくらって、おばあさんになっても美人よね~、羨ましい。」

「ほぇ?」

ふと自分の頬に手を当てるさくら。そのほっぺたも手の平もしわしわなのに今更驚く。

「ほぇえぇぇっ!私、おばあさんになってる!」

「気付いてなかったの?」

「でもでも、苺鈴ちゃんはそのまんまだし・・・」

驚くさくらに、少し考えて答える苺鈴。

「あー、多分『来た方法』が違うからかもね。」

 

「そうだったの・・・杖が。」

「さっきも試したんだけど、私は階段の下には降りられないみたい。上から見ることは出来るし

腕くらいは掴めるみたいだから、帰りたいときは腕を上に上げなさい、引っ張ってあげるから。」

「うん、じゃあ行ってくる!」

「あ、ちょい待って。一言いっとくけど・・・」

そう言って階段を降りようとするさくらを止める。

「その年で『ほぇー』は止めときなさい、似合わないから。」

「・・・ぷっ!あははははは・・・」

大笑いする二人。さくらは思う、苺鈴ちゃんが追いかけてきてくれて、ホントに良かった。

 

 さくらは階段を降りる。多分この先は目的の2072年、『時計の国のアリス』が完成した年。

秋穂とアリスの魂を開放する、その方法を探るためにここに来た。階段の最下段に立ち、

後ろの苺鈴を振り向いて手を上げる。笑顔で手を振り返す苺鈴。

 そしてさくらは、その階段の下に身を踊らせる。

 

-そこは、見たことのない風景。山岳地帯にある湖と、その脇に建つ古風な小屋-

 

 遠くには雪山、空気は澄み、冷たい。人の気配のない豊かな自然の中に、ぽつんと小屋がある。

さくらはその小屋の前に立つ。ここに来たということは、何か意味があるということ。

こんこん、とドアをノックするが、返事は無い。ノブに手をかけ回す、カギはかかっていない。

きぃ、という音を立ててドアを開ける。

 

 殺風景な小屋の中。その隅、窓際に机と安楽椅子がある、そこに座っているのは一人の老人。

さくらを見て、言う。

「・・・来ましたか、木之本さくらさん。」

痩せ型で白髪、精悍な表情が、かつてハンサムだったことを思わせる男性。

「私を、ご存知なんですか?」

さくらが返す。今は自分もお婆さんだ、その上で自分を知ってる人って?

 

「あなたのことはよく知っていますよ、ふたつの意味で。」

「ふたつ・・・?」

「ひとつは、この世界を崩壊に導いた魅惑の魔女として。」

「え、ええええっ!?」

なにかとんでもない評価を受けて驚くさくら。確かに見かけはお婆さんだが、心はいまだ

十代なのに魅惑とか魔女とか・・・あ!

 さくらは思い出す。自分の魔力が周囲に与えていた影響を。そしてそれが高校生になる頃には

世界を歪めてしまうまでになっていたことを。

 

「心当たりがあるようですね。」

安楽椅子を回し、さくらに正対して老人は言う。

「世界って・・・崩壊したんですか?」

さくらはこの時代はここしか知らない、今の世界がどうなっているのかは知る由もない。

「人類はね、貴方以外を愛せなくなったんですよ。」

「そんな・・・」

「もう40年くらいになりますかね、この世界に「赤ちゃん」がいなくなってしまったのは。」

老人は語る。さくらの発する魔力は世界中に行き渡り、世界人類すべてがさくらを愛するように

なってしまった。男も女も、若者も老人も子供も、その子供が大人になってからも。

「誰も結婚しない、誰も子供を産まない、ただただ貴方の虜になって生きるだけの存在。

社会は機能しなくなりました。そして、繁殖を忘れた人類は、あと70年もすれば滅ぶでしょう。」

 

 さくらは愕然とする。前に降りた時代ですら小狼を失い、身の回りの人間関係は壊れていた。

千春と山崎はただのクラスメイトになり、利佳はかつての好きな人を忘れたかのように

さくらに好意と恋の目を向けていた。

それが今では、人類全てが?

 一瞬気落ちしかけて、ふるふると首を振る。いけない、めげてちゃ駄目だ。

ついさっき苺鈴ちゃんに言ったばかりだ、こんな結末を変えるんだ、私が。

 

「そして、もうひとつの意味で、私はあなたを知っています。」

老人が続ける、さくらから視線を外さず、かつ、さくらの魔力に魅了されていない目で。

「私と一緒に、時を超えてここに来た人間として、です。」

「ええっ!そ、それじゃあ・・・あなたは」

老人は頷き、さくらを見据えて言う。

「ええ、ユナ・D・海渡です。」

 

 彼は二年前にここに来て、この時代の自分と融合し記憶を共有する。そしてさくらが来るまで

彼はここで待っていた、やるべきことを進めながら。

彼は机の上にある本をさくらに見せる。見覚えのある表紙、忘れられない色、作り、サイズ、厚さ

そして、その本のタイトル。

「時計の国のアリス!海渡さん見つけたんだ!!」

 この本の秘密を解き、秋穂の魂を救う。その為に二人は時を超え、この時代にまでやってきた。

「見つけたのではありませんよ。」

「・・・え?」

その次の言葉が、この本の謎を雄弁に語る。

「この本は、私が書いたんです。」

 

「先ほども言いましたが、この世界はあなたへの愛で壊れてしまっています。」

海渡は語る。彼の目的は変わらない、秋穂を救うこと。

しかしその対象は、全く違うものになっていた。

「私は、秋穂さんが好きでした。いえ、好きになろうとしていた、というべきでしょうか。」

 彼は秋穂が7歳の時、詩之本家に行き、秋穂に出会った。自分が使うべき『魔法具』として。

それは言い換えれば、彼女とこれから長い時間を一緒に過ごすということ。

「気持ちの良い娘でした。私は昔、人と違う力を持つゆえに暗く歪んでいたんです。

でも、彼女はそれを自然に癒してくれた。その明るさで、笑顔で。」

 

「いつしか私は、秋穂さんを好きになってしまっていました。おかしいですよね、まだ彼女は

10歳にもなっていなかったのに・・・」

 さくらはふるふると首を振る。知っている、『好き』に年齢は関係ない。かつてのさくらと雪兎のように

先生と生徒で想い想われる仲であったクラスメートのように。

「そして、あの事件が起きました。秋穂さんが本に魂を奪われる事件が。」

ひとつ区切って、意を決して続ける。

「あれは、『今の』私の仕業なんです。」

 

 この時代に来て、さくらの魔力で壊れたこの世界で、海渡は事件の真相を知る。

あの本は人の魂を食らう本ではない、理不尽な魔力から人の魂を守るシェルターであることを。

「私は、耐えられなかった。秋穂さんが、貴方の虜になることが・・・だからこの本を作ったんです。

時を超えて、貴方がその魔力を撒き散らす前に、秋穂さんを救うために。」

「私の・・・魔力から守るために?」

「ええ、私は秋穂さんを欲した。秋穂さんの心が貴方に奪われるのを止めたかった。

いいえ、本当は私が秋穂さんの『いちばん』になりたかったんです。」

 だから彼はこの本を作り、過去に送る。さくらが魔法に目覚めるその前の時代に。

秋穂やさくらが9歳の時代、さくらがケロと出会い、クロウ・カード集めを始めるその時代に。

 

「この本の中には世界があります、私が魔法で作った世界が。閉じ込められた秋穂さんが

寂しくないように・・・いつか私の魂と出会えるその時まで。」

「じゃあ・・・アリスさんは?」

「彼女も、私が作った魂です。秋穂さんとの思い出と、私の彼女に対する想いを込めて。」

 さくらは納得する。知り会った秋穂は、その心の中にあるアリスの魂は、常に海渡に恋していた。

それは海渡が秋穂を想う恋心そのままだったのだ。

 本の中に世界がある以上、その中に登場人物は必要だ。アリスを作り、モモを作って

秋穂がその本に入るまでその本を生かせていた。

 

「この本の中には、もうすでに秋穂さんが入っています、アリスもね。」

さくらから視線を外し、外の窓を見て、こう呟く。

「あとは、私が死ぬだけです。そして、私の魂がその本に入ることが出来れば、再び出会えます、彼女と。」

「・・・そんな!」

さくらは叫ぶ。そんな恋なんて可哀想だ、終わった世界で本の中に閉じこもって一緒になっても

そんなのきっと幸せじゃない。

 

「海渡さん!」

さくらは海渡に詰め寄り、胸に手を当てて宣言する。

「私、もう決めたんです。世界をこんな風にしないようにやり直すって!」

その言葉にうつろに振り向き、さくらを見て自虐的に笑う。

「無理ですよ、未来を見た以上、その運命は変えられない。もう夢の杖は失われたんですよ。

私たちはもう、あの時代には帰れないんです。」

 知っている、夢の杖がもう砕け散って、フューチャーのカードが発動を終えていることを。

だけどさくらは諦めない。自分一人の力じゃどうにもできないことも、一緒にやってくれる人がいることを。

 

「海渡さん、秋穂ちゃんともう一度会いたくないですか?こんな世界じゃなく、あの頃に戻って。」

さくらの真剣な提案に、海渡の瞳にわずかに光が灯る。

「もし、もしも海渡さんがそれを望むなら・・・手をあげて下さい、力いっぱい。」

 さくらは両手を天高く突き上げる。

その姿を見た海渡は、そのさくらの意思と決意を感じ取り、立ち上がる。僅かな奇跡を信じさせる

そのさくらの瞳を見て。

「さぁ!」

さくらが再度即する。立ち上がった海渡は、もうすっかり年老いたその腕を、高々と天に掲げる。

夢見た、もうかなわないと思っていた夢を、今だけは信じて!

 

 さくらの手が、海渡の手が、ぱしっ!と捕まれる。その上から現れた手に。

「な・・・」

「海渡さん、その手につかまって!」

捕まれていないほうの手で、その手を掴むさくら。海渡もそれにならい、その手を掴む。

 

「いいよ、苺鈴ちゃん!」

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