カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第22話 おかえり、さくら

「ぜはーっ、ぜはーっ・・・もう!二人まとめて、引っ張り上げさせないでよ!」

階段の一番下でへたりこみながら抗議する苺鈴。

その際にさくらと海渡がいる。さくらは申し訳なさそうに、海渡は驚きの表情で。

「あはは、ごめーん。」

手を合わせて謝るさくら。そんな二人に海渡が呆然として、問う。

「李苺鈴さん・・・あなたが何故、どうやって?」

息を切らしながら、その質問に答える。

「そうね・・・頑張って来た、とでも言っとくわ。」

 

 ふぅ、と息を正し、立ち上がって二人を見て言う。

「それで、詩之本さんを助ける方法は見つかったの?」

「え!?あー、何というか、その・・・」

言葉を濁すさくら、海渡が現状を代返する。

「こちらが聞きたいくらいですよ。」

その返事にがくっ、と体を傾ける苺鈴。

「何しに行ってたのよ!」

「あはは、でもなんか、何とかなるような気がするの。」

ふっ、と笑ってさくらを見る苺鈴。相変わらずこの娘は・・・おばあさんだけど。

 

「ま、いいわ。それじゃ帰るわよ、二人とも。」

行って階段を上がり、時の回廊に戻る苺鈴たち3人。

「でも、どうやって?」

時の回廊は、さくら達が歩くたび、歩いた後が消えて行っていた。進むことは出来ても

後戻りはできない道。現に階段の上は、もう踊り場くらいのスペースしか残っていない。

「何が?」

理解できないといった表情で苺鈴が返す。

「道、あるじゃない。あれを辿っていけば帰れるでしょ?」

 苺鈴が示した先、さくらと海渡には空間しか見えない。が、苺鈴には何かが見えているようだ。

「私たちには見えないんですよ。多分、夢の杖が壊れて、フューチャーのカードが

発動していないから、過去と私たちの『縁』が切れているのでしょう。」

 

 ふむ、という顔で考える苺鈴。縁、ねぇ・・・

魔術の家に生まれた苺鈴にとって、その言葉は馴染み深い。魔術を使う際も、人間構成も。

「んじゃ、手をつないでたら大丈夫なんじゃない?」

そう提案する苺鈴。彼女は帰れるが、さくらと海渡は帰れない。だったら3人が手をつないでいたら

帰れる苺鈴の『縁』に引っ張られて二人も帰れるかもしれない。

 両手をさくらと海渡に差し出す苺鈴。さくらはすっとその手を取る。海渡は少しためらいながら

その手にそっと触れる。それをぐっ、と握り返す苺鈴。

 

「じゃ、行くわよ!」

両手で二人を引っ張ってダッシュする苺鈴。さくらと海渡は足元のない空間に引っ張り込まれる。が、

そこには床が確かにあった。白と黒のタイルで構成された時の回廊が。

あるいは、杖が壊れたことで『もう戻れない』という思い込みが、二人にこの回廊を見せないで

いたのかも知れない。

 

 3人は走る、過去に向かって、戻るべき時に向かって。

彼らが通り過ぎた後、その回廊はまるで積み木のように、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。

まるでもう役目を終えたかのように。

 過去に走るたびに、さくらと海渡は若返っていく。50代、40代、30代・・・そして20代。

そして最初にさくらが下りた階段の際を通過する。小狼が処刑されたあの時代。

あんな未来にはさせない、絶対に!

さくらは通り過ぎながら、決意を新たにする。

 

 やがて苺鈴が声を上げる。時の回廊がそこで途切れている。その先に向かって掛け、飛ぶ。

「いくわよっ!」

苺鈴が、3人が飛ぶ。何もない空間に向かって、未来を変える決意、その先に向かって。

回廊の先、その下に落ちる3人。足元の霧を突き破り、抜ける。

 

-そこにあったのは、翼-

 

 3人は落下する。その『翼』の上に。

「ぐはあぁぁぁぁっっ!」

翼と、その翼の持ち主がクッションになって、3人は無事軟着陸する。

代わりに3人に下敷きになったその翼の持ち主が、いきなり潰されたことによる悲鳴を上げる。

さくらは周囲を見渡す。そこにあったのは懐かしい顔、顔、顔。

 

「さくら!苺鈴!」

「さくら!」

「さくらちゃん、苺鈴ちゃん!」

「主(あるじ)!」

「木之本さん、李さん!」

 

 小狼、桃矢、知世、ユエ、観月、エリオル、なくる、スピネル、そしてモモ。

そしてこの場所、あの懐かしい詩之本邸、さくらたちが未来に旅立った、あの部屋。

・・・あれ、誰か足りない?

「ぐ、ぐおぉぉ・・・早よどかんかいっ・・・」

彼らの下敷きになっているのは、本来の獣の姿に戻っているケルベロス。

「こ、こらエリオル、わいに『ここに居(お)れ』つったのは、このためかい・・・」

3人に下敷きになったまま抗議の声を上げるケロ。エリオルはまぁまぁ、という表情で

片手でケロをたしなめる。もう片手で操っていたカード『ミラーに映ったリターン>フューチャー』を

停止させる。

 

 桃矢も、小狼も、さくら達が無事帰ってきたことを確認し、発動させていたカードを停止させる。

よかった、みんな無事に帰ってこられた。安堵する一同。

と、そんな中さくらは、小狼を正面に見据え、目を潤ませる。

「さくら・・・?」

小狼の問いにさくらは答えない。代わりにその表情はどんどん崩れていく。

感極まってしゃくり上げ、涙をとめどなく落とす、その顔をくしゃくしゃに歪めて。

 

 それを見て、苺鈴がぽんっ、とさくらの背中を押す。その瞬間に決壊するさくらの感情。

「うわあぁぁぁぁぁん!」

泣き叫び、小狼に駆け寄り、抱き着いて泣く、泣き叫び、愛しい人の名前を呼ぶ。

「小狼君!小狼君だよね、小狼君だ・・・うわあぁぁぁぁん!」

「ど、どうした!?」

小狼の胸にすがり付き、声をあげて泣く。さくらが今の今まで失っていたその顔、体、

そして温もり。

 頭の中でさえほぼ丸一日、彼の死後の世界を過ごしてきた。ましてその体は、小狼がいない世界を

50年以上経験していたのだ。

 愛しい人を、心が、そして体全体が求める、感動する、そこにいる喜びをかみしめる。

小狼君。その言葉が、その存在がさくらの世界を変える。なんて素敵な世界なんだろう、

彼がいる世界が、生きていることが、彼の温度を感じることが、そのすべてがさくらを幸せに浸し、泣かせる。

 

「おかえり、さくら。」

小狼はそっとさくらの頭を撫でる。彼にはさくらがどんな経験をしてきたかは分からない。

だけど、さくらのその感極まった態度が、未来の旅の過酷さを物語っていた。

「大丈夫だ、俺はずっとここにいるよ、さくらのそばに。」

その一言に、小狼の胸に顔をうずめながら、うんうんと頷くさくら。

「約束だよ・・・本当に、ずっといてね。いなくなったり・・・しないでね。」

ああ、と頷く小狼。

 

 そんな光景を見て、皆、優しい笑顔を向ける。まぁ知世は恍惚の表情でビデオを向けてるし

桃矢は怒りの血管を頭に浮かべ、ちっ、という表情を隠さないが。

 それを少し距離を置いて海渡は見ていた。二人の姿を自分と秋穂に重ねる。

「羨ましいです・・・」

そう呟く海渡。彼らは無事再会を果たしたが、自分たちは未だ引き裂かれたままだから。

 

 さくらが、海渡が、真相を皆に語る。さくらの魔力によって壊れた未来。

『時計の国のアリス』が、秋穂を閉じ込めたのではなく、さくらの魔力から逃れるため

海渡がその魔力を惜しみなく注ぎ、生み出した本であること。

 ソファーに横たわる秋穂の体を見て、海渡はこう付け足す。

「結局、私のしたことはみんな裏目に出てしまいました。秋穂さんを幸せにしたいがために

したことが、結局彼女を不幸にしてしまいました・・・」

そんな海渡に、観月はこう語りかける。

「先を読みすぎなんじゃないかしら?」

その言葉に、え?という顔で振り向く海渡。

「今だけ幸せでもいいじゃない。とりあえず秋穂ちゃんの魂を元に戻しましょ。」

 

「しかし、いったいどうやって?」

その海渡の言葉に、さくらに問う苺鈴。

「さくら、なんとかなるって言ってたわよね。どうするつもり?」

「うん・・・海渡さん言ってたよね。この本の中には『世界』があるって。」

「え、ええ。」

「じゃあ、私たちがその世界に入って、秋穂ちゃんやアリスちゃんを連れ出せばいいんじゃないかな?」

出来るかどうかわからないけど、という表情で頬をかくさくら。

 その提案に全員が息をのむ。もともとこの本は『人の魂を閉じ込める』性質のある本だ。

そんな中に自分から入っていくなど、下手をすれば自殺行為だ。

「ダメだ、危険すぎる!」

そういう小狼の手をそっと取り、自分の胸にあてがうさくら。

「小狼君、一緒に行ってくれるよね。」

「え・・・」

「さっき言ってくれたよね、ずっとそばにいてくれる、って。」

「あ、ああ。」

その返事に満面の笑顔になるさくら。そして、無敵の呪文。

 

「だったら、絶対大丈夫だよ。小狼君がいっしょだもん。」

 

「しょうがないわね、ここは私が一肌脱ぎますかね~」

そう言ったのはモモだ。彼女はもともとこの『時計の国のアリス』の登場人物。

そして有名作品『不思議の国のアリス』における案内人のウサギにあたるキャラクター。

「私が案内してあげるわ。ただし、その世界に入る方法はそっちで考えて。」

入る方法、そんなものがあればとっくに海渡が秋穂の魂を救っていただろう。

秋穂に取り付いていたアリスの魂を返す時は『スピリット』のカードを使ったが

夢の杖を失った今、その方法は使えない。

 

「その本の入り口は、太陽の魔力と月の魔力で封印されています。入るためには、

その両方の魔力で封印を解く必要があります。」

海渡が語る。小狼の魔力は月のそれだが、さくらの魔力は太陽ではなく星の魔力だ。

しかもさくらはともかく、小狼の魔力では、とても晩年の熟成された海渡の魔力による封印を

破ることは出来ないだろう、難題に沈む一同。

 

「この世に偶然は無い、全ては必然、だったな、柊沢。」

口を開いたのは桃矢だ。全員が思わぬ発言に注目する。

桃矢は、やれやれ出来すぎだ、という表情で頭をかいて、続ける。

「明日、満月だぞ。」

 全員があっ、という顔をする。確かに明日は『中秋の名月』。月の魔力が飛躍的に伸びる特異日。

かつてのユエの『最後の審判』の日がそうであったように。

ひとつの問題、小狼の魔力不足がまず解決する。

 

「いけるで!満月の日っちゅーんは、日没の直前に月が昇る。月と太陽が両方出てる時やったら

両方の魔力を最大に持っていけるで!」

ケロが言う。その瞬間ならあるいは、さくらと小狼で本の封印を破ることも可能かもしれない。

残る問題は・・・ひとつ。

 

「しかし、主の魔力はどうする。星の魔力では太陽の魔力の代わりにはならないぞ!」

ユエが最後の問題提起をする。それに対してケロはふふん、と言った表情で返す。

「ワイに任せや。ユエ、忘れたワケやないやろ、あのエリオルの最後の試練を。」

あ、という表情の後、アゴに手を当てて頷くユエ。

「なるほど・・・」

 

 そして翌日の午後、皆は再び詩之本邸に集結する。さくらは懐かしい星のペンダント『星の杖』を

胸に下げている。腰には昨日返してもらった『さくらカード』が入ったホルスター。

そしてその自然に横に立つ小狼。二人は顔を見合わせ、柔らかに笑う。

 海渡は『時計の国のアリス』を手に、申し訳なさそうに言う。

「本当は、私が行くべきだったのですが、未来の私の魔力で作った本に、今の私では入れません。

未来の私が書いた本の内容を、過去の私が訂正することは出来ないように。」

そんな海渡に、さくらはこう返す。

「大丈夫、海渡さんは秋穂ちゃんのそばにいてあげてください。秋穂ちゃんが目を覚ました時

いちばん近くにいてあげてほしいんです。」

「・・・分かりました。」

 

「しっかし、知世はどうしたんや?」

昨日のメンツの中で、知世だけがまだ来ていない。と、噂をすれば何とやら、大道寺家の

キャンピングカーが詩之本家の敷地に入ってくる。

その車を見た時、さくらには次の展開が予想できた。

「お待たせしました~、さぁさくらちゃん、李君、特製コスチュームに着替えて下さいな~♪」

・・・やっぱり。

 

 最初に連行されたのは小狼の方だった。出てきた彼が身にまとっていたのは、かつて彼が

纏っていた式服風のグリーンのデザインに、西洋の燕尾服をミックスしたような衣裳。

東洋の魔術師風の印象と西洋紳士のイメージの両方を併せ持つ、凛とした伊達達ち。

 その姿にさくらの目がキラキラと輝く。いつもの小狼のカッコよさが2倍くらい増して見える。

「うわぁ、カッコいいっ!小狼君似合うよ~。」

「さて、次はさくらちゃんですわ。」

 堪能する暇もなく車内に連行されるさくら。ドアを閉め密室になると、知世はさくらに向き直り

改まった態度を取る。

 

「知世ちゃん?」

おかしい。いつもの知世なら嬉々としてさくらの身だしなみを始めるのだけど。

 知世は肩に下げたポーチを開け、ひとつの小箱を取り出す。

さくらの目を見つめ、優しく語り駆ける。

「さくらちゃん、昨日おっしゃってましたよね。さくらちゃんの魔力が、周りの人を

好きにしてしまう、って。」

「あ、う、うん。」

さくらはそれが良くないことを知っていた。その先にあるのは破滅だったから。

「これを開けてみてくださいな。」

さくらに箱を渡す。どこかで見た箱、どこだったかな・・・思い出せないまま箱を開ける。

 

「あ・・・」

そこにあったのは、ウサギの形をした消しゴム。

「これ、覚えてる。知世ちゃんに最初にあげた消しゴムだよね。」

「はい。」

柔らかい笑顔で答え、続ける知世。

「私がさくらちゃんを好きになったキッカケですわ。」

「そうなんだ・・・あ!」

一瞬遅れて、さくらは知世の言いたいことを理解する。知世がさくらを好きなのは

決して魔力のせいなんかじゃない、と言うことを。

さくらと知世が、本当の親友であるという証。自分の魔力による洗脳に嫌悪感を感じていた

さくらにとって、その事実は救いだった。

「ありがとう、知世ちゃん・・・」

 

 昨日さくらが見てきた『未来』を語る時、さくらは本当に辛そうだった。

そんなさくらの為に、知世は本来なら生涯胸の内にしまっておこうと思っていた秘密を

さくらに打ち明ける。それでさくらの心が少しでも軽くなるなら、と。

 

「さぁ、それではお着換えタイムですわ~♪」

「ありゃ!」

がっくりとコケるさくら。やっぱりソレは外さないのね・・・

 

「「おおーっ!」」

 さくらの衣裳のお疲労目に、周囲が一斉に声を上げる。白を基調にした半袖のドレス。

胴の部分に金色のラインが入ったコルセットが巻かれ、胸には青紫のアクセントリボン。

スカートには骨組みに金のスリットが入っており、下に流れるように羽根が重なっている。

背中にあるのは、クリアカードでの空を飛ぶ『フライト(飛翔)』のような蝶の羽根。

頭の上には薄い王冠、白い手袋から肩までの間に限定された肌色がなんとも色っぽい。

 小狼にの前に立つさくら。どうかな?とは問わない。彼のその表情が明々白々な返事だ。

 

 二人は旅立つ、これから、危険な旅に。魂を閉じ込める呪われた本の中に。

それでも、この二人の表情と、その衣裳を見ているとそんな不安は微塵も感じない。

「なーんか、これから新婚旅行にでも行くみたいねぇ~」

 苺鈴の的を得た感想がすべてを物語っている。この先にあるのは、きっとハッピーエンドだけだ。

皆がそう信じていた。

 

 -そして、陽が傾き、月が出る-

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