カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第23話 さくらと小狼の円舞曲(ワルツ)

 紅に染まる詩之本家の庭。魔法陣と、その上には1冊の本。その『時計の国のアリス』

を中心に遠巻きに輪を作る、エリオル、観月、スピネル、なくる、桃矢、苺鈴、知世、

そして海渡とその脇のアウトドアチェアーにもたれて眠る秋穂。

 本の西側、夕焼けの中心に赤く火照る太陽を背中に、木之本さくらが立つ。

本の東側、昇ったばかりの赤紫色の満月を背に、李小狼が立つ。

 

「ほな、始めるで。さくら!」

「うん!」

ケルベロスに促され、さくらは胸のペンダントを外し、手に取る。『星の杖』を。

「レリーズ(封印解除)!」

いつ以来になるか、さくらが『さくらカード』を使うための杖の封印が解除される。

 ケルベロスとユエは顔を見合わせ、頷く。

「よっしゃ、いこか!」

「ああ。」

 そう言うとふたりの守護者は光り輝き、その身を霊体に変え、星の杖に吸い込まれる。

すると、星の杖が二人の力を宿し、大きく、荘厳なデザインに成長する。

 かつてのエリオルの試練、『ライト』と『ダーク』をさくらカードに変える時に

ケロとユエが行った方法。太陽と月の魔力を飛躍的に伸ばす力を杖に与える。

その代償は、目的が果たせなければ永久に杖の中に封じられる、というリスク。

 

 『時計の国のアリス』の中に入るには、月と太陽の魔力が必要となる。

しかしさくらの力は星の魔力。そこでケルベロスが杖の中に入り、さくらの力を

太陽の魔力に変換する役目を担う。同時にさくらに比して魔力量の劣る小狼の

不足分を補うためにユエも杖と同化したのだ。

 

「ケロちゃんユエさん、待ってて。きっと、きっと秋穂ちゃんを助けて、二人を元に戻すから。」

さくらは杖を握りしめ、危険を顧みずにさくらに協力してくれた二人に誓う。

「大丈夫だ。さくらなら・・・」

そう言いかけて言葉を止める、そして言い直す小狼。

「俺たちなら、大丈夫だ。」

「うん!」

 この半年ほどで二人が学んだこと。それは一人よりふたりの力。助け合うこと、信頼し合うこと。

認め合い、力を合わせる。悩みも、思いも、ふたりで分かつ。その想いの頼もしさ。

 思いがすれ違う時、ふたりは自分の思いだけを抱え、悩み、落ち込んだ。

海岸でそれを話した。想い想われることの大切さ、対等の関係で助け合うことの喜び。

未来で小狼を失う経験をした。その彼がいまここにいることの頼もしさ、頼っていい存在の有難さ。

 

 さくらは星の杖を本の上にかざす。その杖を小狼も握る。そして・・・

「あ、ちょっと待って~」

止めたのはモモだ。本の際にいた彼女はぴょんぴょんと跳ね、ビデオを構える知世のもとへ。

「それ、貸してくれない?」

「えっと・・・ビデオですか、どうしますの?」

言いながらもモモにビデオカメラを渡す知世。

「これで中から中継してあげるわ、お楽しみに~。」

ふふん、と笑ってモモが本の際に戻る。その背に知世が声をかける。

「いい絵、お願いしますね。」

 

「さ、いいわよ。」

モモのその言葉に、さくらと小狼が周りの皆を見回し、言う。

「じゃあ、行ってきます。」

「必ず助け出す!」

二人は向かい合って握った星の杖を上に掲げ、半回転して杖の先を下に向ける。その先の地面には本。

 

「「『時計の国のアリス』よ!我らをその世界に導け!」」

 

魔力をこめ、杖を本に打ち付ける。その瞬間、本が輝き、光の仗が立ち昇る。

さくらと小狼は、ふたりで星の杖を握ったまま、その光に包まれる。

「それじゃあ、Let`s go!」

 光の中、モモのその言葉を残し、二人は消える。やがて本から発せられていたの光の仗が収まる。

ことっ、と地面に落ちる本。皆が駆け寄り、本に注目する。

 

 すると、本は自然に表紙を開き、そこから淡い光を発する。

と、その本の1mくらい上に、まるでVR(バーチャルリアリティ)のような立体映像が浮かび上がる。

 そこは緑の草原、そしてさくらと小狼が星の杖を握ったまま立ち、きょろきょろと周囲を見回す様が

映し出されていた。

「まぁ!」

知世が声を上げる。その映像の隅には、知世が見慣れたビデオカメラのデジタル表示。

「これ、あのウサギの仕業なの?」

苺鈴の問いに知世が答える。

「ええ、なかなかのカメラワーク、これは期待できますわ~。」

 

「ここは・・・?」

 周囲を見渡し、状況を確認する小狼。どこまでも続く緑の平原と青い空、風は心地よく

ふたりの頬を撫でる。

「ようこそ、時計の国のアリスの世界へ!」

モモがふたりにビデオカメラを向けながら、案内人さながらに言う。

「ここが・・・秋穂ちゃんはどこなの?」

ふっふーん、という顔をしてモモが返す。

「彼女たちはこの世界の最深部よ。あななたちはここ、つまりスタート地点から、

ステージごとの試練を乗り越えていかなければ、秋穂やアリスのもとには辿り着けないわ。

 

 その説明を聞いたさくらが頬をかき、呆れ汗を流して言う。

「なんか、テレビの番組によくあるよね・・・そういうの。」

がくっ、とコケそうになるモモに、小狼がフォローを入れる。

「面白そうだな、そういうのやってみたかったんだ!」

キラキラした男の子の目で語る小狼。もう彼にさくらの前で自分を隠す必要はない。

 

「じゃ、じゃあ最初の試練~あそこまで行って。」

モモが指さしたのは斜め上、空の上だった。そこにはなぜか薄い大地が空中に浮いて、その上には

荘厳な西洋の城が鎮座していた。

「わ!お城が飛んでる。」

「あそこに行けばいいのか?」

こくりと頷くモモ。小狼はさくらを見て促する、さくらはホルスターから1枚のカードを抜き取り、

放り投げて星の杖で打ち据える。

 

「フライ(翔)!」

さくらカードを発動させる・・・ハズだった。しかしカードはなんの反応も示さず、その場にはらり、と落ちる。

「え・・・どうして?」

その言葉にモモはやれやれと手を広げる。

「ここの世界に来る時、どうやったか忘れたのかしら?」

その言葉に顔を見合わせるさくらと小狼。確かふたりで杖を振るい、太陽と月の魔力で・・・あ!

「そうか、太陽と月、両方の魔力がなければ駄目なんだ。」

うん、と頷き、フライのカードを拾って小狼の隣に並ぶさくら。小狼は杖を握り、さくらと一緒に

声をそろえ、カードを打ち据える。

「「カードよ、我らをあの城まで運べ、フライっ!!」」

 

 さくらカードが発動する。しかしさくらの背中に翼は生えない。小狼にも、杖にも。

カードから発した光は一気に巨大な光の玉となる、そしてその光が消えた時、二人の前には

身の丈5メートルはあろうかという巨大な鳥が存在していた。

「なっ・・・!」

驚き、さくらの前に立ち構える小狼。だがさくらはその肩に手を置き、小狼の前に出る。

「フライさん!」

「え?」

嬉しそうな、そして懐かしい顔でその鳥を見る。さくらが最初に封印したクロウ・カード。

カードに戻すまでのその姿は、今目の前にいる巨大な鳥の姿だったから。

 

「クエェッ!」

二人を見て、いななくフライ。頭を下げ背中を晒す。

「乗れって。」

「そ、そうか・・・」

さくらと小狼はその背中に乗る。フライは首を回し、ふたりが乗ったのを確認すると。

立ち上がり背筋を伸ばす。そしてぐぐっ、と体を縮めたたと思うと、一気に大地を蹴り、飛び上がる。

「「わぁっ!」」

両翼幅10mを超えようかというその巨大な羽根が、力強く、猛然と空気をかき回す。

嵐のような気流を巻き起こしながら、フライは空に進む。やがて風を受け、羽ばたきを止めて滑空、

上昇気流に乗ると、トンビのように旋回しながら舞い上がっていく。

 

「(なんだろう、この感じ・・・違う。)」

さくらは違和感を覚えていた。以前フライを封印する時も、こうやって背中に取り付いた経験がある。

しかしその時は、ここまで『飛ぶ』という行為を意識させる飛び方ではなく、魔法の力で、まるで

泳ぐように空中を飛んでいたはずだった。その背中もそのときはあまり意識しなかったが

今ではその筋肉の力強さや、体温の温かさを感じるほどにリアルだ。

 

 やがて空の城に到着し、滑空して着陸する。いなないて降りるよう催促するフライ。

さくらと小狼は鳥の背中から降りる。と、フライはキューゥ、といななくと、地面を蹴り、

再びその身を大空に舞わせる。二人を残したまま。

「え?あ、フライさん!」

さくらは叫ぶが、フライはそのままどんどん遠ざかっていく。そしてその先には別の鳥の群れ。

フライはその鳥たちに合流すると、嬉しそうに鳴きながら彼らと空のランデブーをする。

サイズが違いすぎるため、若干他の鳥たちには迷惑そうではあるが。

「あはは、お友達だ。」

「ああ、そうだな。」

柔らかな表情でフライを見送る。そして城に向かう二人。

 

 詩之本邸の庭、アリスの本。さくら達が城に到達したことで、ページが1枚めくれ、

次の立体映像が現れる。

「まずは1面クリア、ってとこかしら?」

なくるが言う。全員がそのファンタジーな映像を楽しんでいた、一人を除いて。

 

 柊沢エリオル、彼だけは顔を真っ青にして、その光景を驚愕の汗を流しながら見入る。

 

 その城の庭園、そこはまるで何年も手入れされてないような有り様だった。

草は生気無く、木々は花はおろか葉っぱさえつけていない。

城の入り口の門は固く閉ざされ、その上からいつのまにか居るモモがビデオを構えている。

「この門、開かないのかな?」

二人は門を触り、いろいろ調べてみるが、その門はそもそも開くようにさえ作られていない。

 モモが二人を撮影しながら声をかける。

「言うまでもないけど、ここの試練はこの城に入る事、頑張って~」

 

と、さくらは門の鍵の部分に金属のレリーフを見つける。それは花の形をしていた。

ただ、それは『盛り上がっている』のではなく『えぐれている』彫り方のレリーフ。

ちょうどそこに花を埋め込むスペースでもあるかのように。

ふと、思いついたことを小狼に耳打ちする。彼はうーん、と考えた後、やってみるか、と答える。

「うん!このお庭もこのままじゃ寂しいし。」

 

 ふたりは杖を構え、カードを放り杖で打ち据える。もうすっかりおなじみのその姿は

ケーキカットのような共同作業に見えた。

「「庭園と鍵を花で満たせ!フラワーっ!!」」

ふたりの魔力を得、カードが発動する。が、花は出ない。代わりに一人の少女がカードから具現化する。

「フラワーさん!」

 運動会に現れたその精霊。その時の姿そのままに彼女は現れると、さくらと小狼に向き直る。

そしてふたりの手を取ると、彼女はふたりを振り回すようにして踊る、庭園を。満面の笑顔で。

そして踊りながらフラワーは花粉のような粉を撒き散らす。その粉が舞った樹が、草が、次々と

花を咲かせていく。

 

「あははっ、すっごーい!」

「日本の昔話にこういうのあったな。」

踊りながらさくらが、小狼が笑う。庭園に花が咲き乱れ、死んだ城の玄関が生き返ったように明るくなる。

 やがて花で満たされると、フラワーは門の前まで行き、そこでその姿をいばらの枝を持つ草の蕪に変える。

そしていばらが伸び、そこから次々と咲くバラの花。そのうちの一輪の青いバラが、門のレリーフに

近づき、はまる。

 

 その時だった。ガキン!と何かが入ったような機械音がすると、その門が音を立てて開いていく。

その先には無数の歯車が回っている、機械仕掛けの時計のように。

「あらあら、ここもあっさりクリア?もうヒントいらないかもね~」

ビデオを回しながらモモが言う。さくらと小狼はフラワーを見る。他の花と楽しそうに

咲き乱れるさまを見て、笑い合い、城の中に進む。

 

「一体・・・どういうことなんです!」

詩之本邸、突然叫ぶエリオルに全員が注目する。その普段見無い剣幕に、観月やなくるが驚く。

「どうしたの?」

エリオルは理解できないといった表情で、鼻から下を手で押さえてつぶやく。

「太陽の魔力と月の魔力を与えたとしても、こんなことは起こりえない、ありえません・・・」

そこで一度言葉を区切る、周囲の皆も次の言葉を待つ。

「カードに・・・本当の『命』を与えるなんて!」

 

 城の中、その廊下は動く歯車で埋め尽くされている。機械的なリズムを刻む回廊を進み

ひとつのドアに突き当たる。ドアを開け、中に入る二人。

 ばたん!入るなりいきなり背後のドアが閉められる。小狼が慌ててドアに取り付くが、

いくらノブを回してもビクともしない。

「小狼君、あれ!」

さくらが上を指さして叫ぶ。立方体のその部屋の天井が下がってくる、ゆっくりと。

「吊り天井!」

古来の城などの罠としてメジャーな仕掛け。このままでは二人ともぺしゃんこだ。

 

 さくらは1枚のカードを取り出し、小狼と共に杖を振る。

「「天井を押し返せ、パワー(力)っ!」」

カードが発動する。現れたのは一見どう見ても、このピンチには役に立ちそうにない

5歳くらいの可愛い女の子。彼女は二人に笑顔を向けると、むん!とガッツポーズを作る。

「あれ、お願い。」

迫りくる天井を差すさくらに、うんうんと頷くパワー。

ぐっ、としゃがみ込んで力をためると、そこから一気に大ジャンプ!天井にもろ手突きを食らわすと

下がっていた天井が上に向かって吹き飛んだ。まるで発砲スチロールのように。

 

 頭上には青い空と、吹き飛んだ天井を繋いでいる鎖が見える。パワーはその鎖を辿って

巻き取り機の歯車に取り付くと、今度はその歯車と力比べをはじめる。

周囲には調速機や振り子など、パワーが力比べをする道具がいくつも稼働している。

パワーは楽しそうに、様々な機械と力比べをする。

「楽しそうだねー。」

「行こうか。」

とりあえず先を急ぐさくらと小狼、目の前に現れた階段を斜めに上っていく。

 

 階段の先には、また部屋があった。今度は罠にかからないように慎重に入る。

そこはテーブルのある小さな部屋だった。机には『eat me(私を食べて)』と張り紙がしてある。

その脇には大き目の皿がふたつ、その上には灰色の、三角形の食べ物が湯気を出して鎮座していた。

「こんにゃく?これを食べればいいのか。ここは簡単だな・・・さくら?」

 さくらは目を点にして石化していた。よりによってここで天敵のご登場とは。

「もしかして、こんにゃくが苦手なのか?」

さくらは涙目でこくこく頷く。少しでも苦手なのに、よりによって一皿で電話帳大の特大こんにゃく!

 

 さくらは一枚のカードを取り出し、小狼に懇願する。

「小狼君、お願い~」

そのカードを見て笑い、さくらに返す小狼。

「好き嫌いはよくないぞ。」

とか言いつつ杖を握る小狼。さくらは、『やっぱり小狼君優しい』と困り笑顔を向けるが

実は小狼もこんにゃくは苦手だった、ただ躾の厳しい家の出なので、嫌いだからと残すのは許されないから

さくらほど無理ではなかったのだが・・・

 

「「美味なる味を付けよ、スウィート(甘)っ!」」

小さな妖精のような少女が登場すると、その杖から粉をこんにゃくに振りかける。

かくしてこんにゃくはこんにゃくゼリーへと変化する、それを美味しそうに口に運ぶさくら。

「これならいけるんだけど・・・」

「帰ったらこんにゃく食べる特訓な。」

小狼もこんにゃくゼリーを頬張りながら、内心してやったり、と喜ぶ。試練とはいえこんなとこで

苦手なこんにゃくを食べたくはなかった。

「うー、小狼君、お兄ちゃんみたい・・・イジワル。」

 

 こんにゃくを平らげると、出口のドアが現れる。それを開けると・・・そこは、空。

ドアの際には1台のトロッコ、そこからレールが空中を縦横無尽に走っており、そのレールを辿っていくと

向かいの城の塔の部分に繋がっている。これに乗って行けというのは間違いなさそうだが、これは・・・

「わぁっ、ジェットコースターみたい!」

キラキラと目を輝かせるさくら。これを小狼と一緒に乗る楽しい予感に胸躍らせて小狼を見る。

そこには、見事に石化した彼氏がいた。

「え”、もしかして小狼君、ジェットコースター、苦手?」

真っ青な顔でこくこく頷く小狼。さくらカードの入ったホルスターを借り、探る。

1枚のカードを抜き取り、さくらに示す。

「すまない、さくら・・・頼む。」

 

「「到着まで、彼(我)を眠らせよ、スリープ(眠)っ!」」

スウィート同様、妖精のような少女が登場し、小狼を眠らせる。さくらは小狼を抱えてトロッコに乗り

ブレーキレバーを解除し、トロッコを走らせる。

 猛スピードで上下左右に走るトロッコ。本来ならそのスリルを楽しみたいところだが、

小狼をしっかり抱えてないと、放り出されたら一大事だ。彼をぎゅっ、と抱きしめながら左右のGに耐える。

あ、スリルよりこっちの方がいいかも、と顔を赤らめて笑うさくら。

 

 スリープはスウィーツと、そしてパワーと合流し、こんにゃくの部屋で楽しそうに遊んでいる。

その映像は、本を通して詩之本邸のみんなにも見えている。

エリオルが彼らを、かつてクロウだった頃の眷属を、信じられないものを見る目で眺め、言う。

「間違いありません、今の彼女らは、『生物』です。カードの精霊ではありません!」

 

 トロッコがゴールに到着する。かたん、と停止すると同時に小狼が目を覚ます。

「あ、着いたか・・・うわぁっ!」

露骨に抱き着いているさくらに驚き、声を上げる。

「あ、ゴメン。落ちるかと思ったから。」

へへっと笑うさくらに、顔を赤らめる小狼。

「い、いや・・・ありがとう。」

照れる顔をそっぽを向いて隠し、トロッコを降りる。さくらは思わぬ嬉しい時間にニンマリする。

こーゆーのを役得って言うのかな?

 

 その場所にはまるで駅のような標識があった。そこに書かれている文字は・・・

『お化け屋敷』

またまたさくらが石化する番が来た。

 

 二人は進む、『時計の国のアリス』の世界を。

お化け屋敷をイレイズ(消)で抜け、巨大な楽器が狂った音を演奏するホールはサイレント(静)で黙らせる。

綱渡りの部屋では、ライブラ(秤)を長いポールにしてバランスを取って渡り、

風車式のエレベーターをウィンディ(風)で回し、落とし穴をフロート(浮)で這い上がる。

トランプの兵隊が襲い掛かってきた時は、ファイト(闘)の助っ人と、ソード(剣)、シールド(盾)を

駆使して撃退する。

 

 そしてその際使われたカード達は皆、生物や道具として実体化し、思い思いにこの世界を楽しんでいる。

 

「ありえない・・・あのカードはあくまで精霊のはず・・・いくらふたつの、いや、星も含めて3つの魔力と

この本の魔力をもってしても、彼らに命と肉体と、そして寿命を与えるなどという真似は・・・」

 エリオルは青い顔でブツブツと呟く。クロウの記憶をいくら探っても、その答えが見つからない。

聡明すぎる彼にとって、理解できない事態ということそのものに慣れない、混乱するエリオル。

 

 そんな彼を見て、知世と苺鈴はうふふ、と笑い合う。エリオルに語る知世。

「柊沢君、大事なことが抜けてますわ。」

「・・・え?」

「太陽の魔力と月の魔力を使う、『愛し合う男性と女性』の力ですわ。」

その言葉を聞いて、エリオルの目が点になる。

「は?」

 

「まぁつまり、あの二人の子供になった、ってワケでしょ、あのカード達は。」

「お二人の愛が生み出した、命を与えたというワケですわ。」

エリオルの眼鏡がずるりと半分落ちる。そんな馬鹿なことが・・・そう言い切るには、彼にも、そして前世の

クロウ・リードにも、恋愛経験も性愛経験も縁が無さすぎた。

 

「つ、つまり・・・戦いながら子作りしていると!?」

その言葉に知世と苺鈴は『まぁ♪』と顔を赤らめる。すぱんっ!とエリオルの後頭部をひっぱたく観月。

桃矢は桃矢で詩之本家の家壁にパンチをくれている。壊さないでくださいね、と海渡が釘を差す。

 

 さくらが、小狼が舞う。カードを使う。命を生み出す。

『時計の国のアリス』を舞台に、ふたりの魔法使いが、生命の円舞曲(ワルツ)を踊る。

 

不可能という言葉を、遥か遠くに置き去りにして-

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