カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第25話 さくらとアリスのラストページ

 アロー(矢)とホープ(希望)。

さくらと小狼の魔力により具現化し、実体化したふたりの少女。

アローはアリスに、ホープは秋穂に歩み寄り、その前で止まる。

 

「な、なんなの、この子?」

 秋穂はカードから実体化した二人を見て驚く。先ほどのライトとダークを発現させた時は

チェスに夢中であまり気にならなかっただけに今回は衝撃的のようだ。

ホープは秋穂には答えす、アリスの前のアローの方を見て促す。まずはそっち、と。

 

 アリスは秋穂よりは理解していた、元々この本に憑く精霊である彼女は、知識としてではなく

実感として目の前の少女が、精霊から実在の生物に昇華した存在であると。

アローはアリスを見て、ややつたない言葉を紡ぐ。

「待ってても、だめ。」

え?という顔をするアリスに、アローは続ける。

「私、知っている。ずっと待ってた人、その人がもう、いないのも気付かづに待ち続けて

そして、願いが叶わなかった人。」

 アローがさくらを主としてから最初に使役された時。相対したのは好きな人を待ち続けた女性の

悲しい、そして歪んだ心。壊れた体、アリスと同じように本の世界で意中の人を待ち、

主に諭され、その事実を知って悲しみに消えた哀れな女(ひと)。

 

「好きな人は、待ってても手に入らない、そして、後悔する。きっと、あの人みたいに。」

そんなアローの言葉にアリスは顔をゆがめ、ぎゅっ、と胸の服を握る。

「でも、海渡さんは・・・私を拒絶したの。」

 うつむいて涙声で話す。私が彼を思っても彼は私を想ってくれない、その先には悲しい結末が

待っているだけだ、と自分に言い聞かせるアリス。

 ふと、うつむいてるアリスに、アローが何かを差し出す気配がした、顔を上げるアリス。

伸ばされたアローの手の中にあったのは、一本の『矢』。

矢尾には優しい、丸みを帯びた羽根、そして矢じりにはピンク色をしたハートの刃。

 

「これは・・・?」

「好きなら、自分から言う。それでもだめなら、この矢を使う。」

それはおとぎ話によくあるキューピットの矢、そんなデザインの矢をそっとアリスに渡す。

「言わなければ伝わらない、何も変わらない、そして、あの人のようになる。きっと。」

 あ・・・という顔をするアリス。そうだ、このままここにいても悲しみに堕ちていくしかない。

だけど、もしあの人に自分の思いを伝えることが出来たら、私も変われるかもしれない、

精霊から実体化を果たした、目の前の彼女のように。

 それは怖い、そして勇気がいる。勇気、それはアリスに最も足りなかったこと、

秋穂の肉体を得てもいつも引け目を感じ、控えめに過ごしてきたアリス。

他人の後ろに立ち、「すごいです」と人を持ち上げ、目立たないようにしてきた。

 

 それは勇気が無かったから、自分を出すことが怖かったから。

借り物の体の自分には、本の精霊でしかない自分では、自分を出す勇気を持てなかった。

アリスはその矢をぎゅっ、と握る。その矢じりのハートに自分の心を重ねる。

勇気、その心を、決意を。

「私、やってみます。」

力強くそう答えるアリス。向かい合うアローは優しく笑う。

そしてホープと秋穂に向け、どうぞ、と手を出す。

 

 その動作を受け、ホープは秋穂に向かい合う。秋穂は一歩後ずさり、ホープを見る。

「な、何よ。」

ホープは自分の胸に手を当て、悲しい目で語りかける。

「私は、あなたと同じ。」

「え?」

「あなたは自分を『道具』だと言った。私もそうなの。クロウカードの陰陽のバランスを

取るための『道具』。」

言葉なく聞き入る秋穂に続けるホープ。

「私は生み出されてすぐ閉じ込められた。何もすることも許されずに、一人ぼっちで。

寂しかった、とっても。」

 

「どうして・・・」

「私は『無くす』存在だった。私が外に出ると、いろんなものが『無くなる』の。

物も、人も、心さえも。そういうふうに『作られた』から。」

「な、何よそれぇっ!」

 その理不尽な存在、非情な仕打ちに秋穂は叫ぶ。そこに存在するだけで周囲の物を

失っていくなんて、そんなの悲しすぎると。

「でも、私は動いた。たとえ誰かを不幸にしても、自分を見てほしかった、知ってほしかった。

そして、主(あるじ)は私を見てくれた。」

自分の胸にあるハートマークを優しく撫でるホープ。

「私はこの心を主にもらった、そして私が消したものを元に戻してくれた。

私には友達が出来た。私は変われたの、文字通り『ナッシング』から『ホープ』に。」

 

 無くす者から希望を持つ者へ。そのキッカケは、封印を解かれた彼女が動いたから。

「あなたもそう。道具であっても、それに嘆いては何も変わらない。」

魔法具、それが秋穂に課せられた十字架、魔法の家で魔力を持たず生まれてきた彼女の宿命への罰。

でもそれを嫌って引きこもっていても何も変わらない、変えるのは自分しかないのだ。

 

 秋穂はホープを見返し、思う。確かに自分は魔力が無い、魔法具だ。そう、不幸な少女だ。

でも目の前にいるこの娘は自分よりもっと辛い世界で生きてきたんだ、そう思うと

自分が不幸に甘えている存在に思えてくる。

「私ね、本当はずっと確かめたかったの、海渡の真意を。でも考えれば考えるほど悪い方向にしか

いかなくて・・・」

「その答えは、彼女が知ってる。」

「え?」

言ってホープが、秋穂が、アリスを見る。そう、海渡の秋穂に対する恋心を具現化した少女。

 

「彼女を受け入れて、それできっとあなたは知る、いちばん知りたかったことを。」

 

 さくらが、小狼が、ライトとダークが、アローとホープが見守る中、秋穂とアリスは

ゆっくりと近づいていく。

お互いが予感していた、この人とひとつになれば、きっと願いが叶う。勇気が持てる、真実を知れる、と。

 ふたりの距離が詰まる。3m、2m、1m、やがて目の前まで接近し、それでも止まらない。

ふたりはすぅっ、と重な・・・

 

-ごちんっ!-

 

 鈍い音と共に、頭を抱えてうずくまる秋穂とアリス。さくらは派手にずっこけて、小狼も

がくっ、と体を傾ける。

「あ、あはは。そのまま合体するのかと思った。」

「そ、そんなアニメみたいなことが起こるはずないだろう!」

リアリストを気取る小狼だが、周りから見ればさくらと同じ期待をしていたのはバレバレだ。

思わずクスクス笑うライトとダーク。

 

「ちょっと、どうすればいいのよ!」

額を抑えながら秋穂がホープに抗議する。ホープはさくらの方を、その腰のカードホルスターを

すっ、と指さす。

「ほぇ、カード?」

さくらは腰のカードを取り出す、最後の2枚を。

 

-ツイン(双)-

-ミラー(鏡)-

 

 さくらはぱぁっ、と明るい顔でカードを見る。

「そっか!ツインさんを使えば秋穂ちゃんもアリスちゃんも2人に増えて4人、ミラーさんを使えば

2倍の8人に!って・・・あれ?」

 さくらの頭の中に、杖の中にいるケルベロスの強烈なツッコミが聞こえた気がした。

増やしてどないすんねん!!!と。

さくらの背後ではライトが困り顔ででっかい汗を額から頬にスライドさせる。

 

 小狼の後ろにいたダークが背後から顔を近づけ、そっと彼にささやく。

「貴方なら分かるはずよ。思い出して、あの娘の使い方。」

そう言われて小狼はさくらの持つ2枚のカードを見る。ツインの方の絵柄はふたり、

ミラ-には鏡の少女がひとり。ダークの『あの娘』という言葉に、意識をミラーに向ける。

「・・・そうか!」

ミラーの性質。コピーを生み出す、光を反射する、そしてカードの性質を反転させる。

つい先日『リターン(戻)』を反転させて『フューチャー(先)』を生み出し、苺鈴を

未来に送ったように。

 

「ほぇ~、そんなこと出来るんだ。」

小狼の説明にさくらが感心する。

「ツインはひとつのものをふたつに分けるカードだ、その性質が逆になれば・・・」

向かい合い、次のセリフを自然にハモらせる二人。

「「ふたりを、一人にするカードになる!!」」

 

「「彼のカードの能力を逆転させよ、ミラー(鏡)っ!」」

カードを打ち据え、そこから一人の少女が具現化する。胸に鏡を抱いた娘。

そして宙に浮かぶ最後の1枚のカード、ツインを鏡に映す。そこに映るカードの文字、

 

-FUSION(合)-

 

「「ふたつの魂をひとつに!フュージョンっ!!」」

鏡の中のカードを打ち据えるさくらと小狼。鏡に映るカードが輝き、中からピエロの姿をした

少年とも少女とも取れる中性的な子供が二人現れる。

 一人は秋穂に、一人はアリスに向かうと、手を繋ぎ踊り始める。秋穂もアリスも自然にそのダンスに

合わせて動く。まるで舞踏会のように踊りながら少しずつ接近していく二組。

「「5・4・3・2・1」」

ツインがカウントダウンを唱和し、回転の流れからふたりを押し出し、体当たりにもっていく。

衝突する瞬間、ツインが両手を広げて叫ぶ。

「「ゼロ!」」

 

 接触した瞬間、光に包まれるふたり。そしてその光が収まった時、そこには一人の少女、

詩之本秋穂だけが座っていた。自分の手を、姿を、きょろきょろと見る。

 くるくる巻きにした髪型、手に持ったキューピットの矢。彼女は秋穂でありアリスでもある。

その後ろではツインがイェーイ!とハイタッチをする。

 

「ちょっと、何よコレ・・・」

立ち上がった秋穂が言う。目から涙をぽろぽろとこぼしながら。

「何よもう、海渡ったら。本っ当に奥手なんだから・・・」

私もだ、と心の中で想う。今の彼女にあるもの、それは海渡の自分に対する恋心と

現実に立ち向かう勇気。秋穂が知らなかったことをアリスが教え、アリスに無かったものを

秋穂が埋める。

 

 ひとしきり泣いた後、秋穂はみんなに向き直り、涙をぬぐって言う。

「ありがとう皆さん。私、帰ります!」

その言葉にさくらも小狼も、カード達も皆うんうんと頷く。

 

 一行は廊下を抜け、ドアをぎぃっ、と開ける。そして時計の館の外に出る。

 

ぱん、ぱん、ぱんっ!

とたんに鳴り響くクラッカーの音。秋穂も、さくらも、小狼も、紙テープや紙吹雪を

頭からいくつもかぶる。

「クリアおめでとーーーーっ!!」

そう叫んで紙吹雪の中を跳ねるのはモモだ。タキシードを着こんで杖を持ち、踊る。

そしてその後ろにも大勢の者たちが彼らを祝福する。それはさくらと小狼が生み出した

さくらカードの精霊たち、そしてこの『時計の国のアリス』の住人たち。

トランプの兵隊も、森で追われた狼たちも、ウィンディ、ウォーティ、ファイアリー、アーシーの

4大元素をはじめとするカード達も、みんな大喜びでこの達成を祝う。

 

「あははっ、みんなー、やったよーっ!」

さくらが喜んで手を振り返す。そんなさくらを見て負けじと秋穂も手を振る。

小狼は達成感と、その二人を見て思わず笑顔になる。

と、突然3人は背後から抱き着かれる。さくらをライトが、小狼をダークが、そして秋穂をホープが

抱きかかえて、みんなの上空に運ぶ。

 

「さぁ、胴上げの時間よ♪」

ライトがそう言った瞬間、3人は大勢の中に落とされる。無数の手に受け止められた3人は

そのまま何度も上空に放り上げられ、落とされる。

-わっしょい!わっしょい!わっしょい!-

 

 時計の国のアリス、その世界でのささやかなパレードが見る者を魅了する。

それはつかの間の祝福、救われた少女の、乗り越えた少女の、報われた少年の、

そして新たな命を与えられた精霊たちに対する、福音-

 

 宴は終わり、別れの時。

 

「ほぇ!カードさんたちみんな、この世界に残るの!?」

驚くさくらに、ウィンディが漂いながら髪をかき上げ、答える。

「この姿で『そっち』に行ったら大騒ぎでしょ?」

「この世界って面白いんだ!もっといたいし!」

ファイアリーが生意気そうにそう続ける。

「そっか、そうだよね・・・」

少し寂し気に返すさくら。

「あら、ずっとお別れじゃないでしょ?」

ライトに続いてダークが続ける。

「またいらっしゃい、この世界に。いつでも大歓迎よ!」

モモがそれに賛同し、語る。

「この本は貴方のそばに置いてもらって。いつでもピクニック気分で来ていいから~」

その言葉にさくらの表情がほころぶ。

 

「じゃあ、いつでも会えるんだ。」

ニコッと笑う、みんなも笑顔を返す。

「この世界、こんだけゲストが来たら多分ガラッと変わるわよ~」

モモの言葉に小狼が驚く。

「え・・・じゃあ、次はもっと難しくなってるのか?」

「そうかもね~。ま、こうご期待ってことで~」

そして秋穂に向かい、告げる。

「秋穂も来なさい、あの頑固者も連れてね~」

その言葉に満面の笑顔を返す秋穂。

「うん!」

 

 と、そのスキにホープがさくらと小狼に近づき、耳元で囁く。

「もしよければ、結婚式とか新婚旅行もこちらで。」

そのセリフにふたりがぼふっ!と赤面する。

 周囲の全員がクスクス笑う、微笑ましく初々しいカップル、カードだった者たちの

父親と母親の初々しさに。

 

「あ、あとこれ。」

未だ赤面冷めやらぬさくらに、ホープが銀色のネックレスをさくらの首にかける。

「ほぇ、これは?」

楕円形のペンダント部分には開閉のポッチがある。それを押すとふたつにパカッと開く。

しかし中には何もない、表面は鏡のように磨かれた銀色が、さくらの顔を映し出す。

「それを必要としている人がいます、その方に差し上げて。」

横からダークがそう語る。そしてホープとダークがすっ、と離れると、さくら達の足元から

1艘のボートが現れ、3人を乗せたまま宙に浮かぶ。

 

「では、お元気で。」

ライトがそう告げ、にこやかに手をあげる。それに対応して皆も元気よく手を振る。

「まーたねーっ!」

その瞬間、ボートは勢いよく上昇を始める。またたく間に小さくなっていくみんな。

さくらはボートの淵に乗り出し、みんなに手を振る、そして叫ぶ。

「絶対また来るから!絶対だよーーーっ!!」

小狼も秋穂も手を振る、そして叫ぶ。

「俺もまた来るよーっ!絶対にーっ!」

「楽しみに待っててねーーーっ!!」

 

 ボートは飛ぶ、アリスの世界を。

美しい平原、荒涼たる砂漠、広いお城、それらの景色をまるでエンディングロールのように

見せながら、魔法の絨毯のように。

 やがて景色が消え、白い世界に包まれる。音のない、色のない世界。

そこにあるのは、一つの言葉。

 

 -Fin-

 

 そして3人は、友枝町に、詩之本邸に帰る。さくらと小狼は本からまるで放り出されるように。

秋穂はその魂が、チェアーに眠る本体に宿るように-

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