カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第4話 さくらとロバの耳の王様

 クロウ・リードの手記より。

 

-この手紙を読んでいる貴方へ-

-この手紙を読んでいるということは、貴方も魔法が使えるのでしょう-

-ならばよくお読みなさい-

 

-魔法は時として、貴方に素晴らしい体験や恩恵を与えてくれるでしょう-

-しかし、同時に貴方を不幸にする力でもあります-

-過ぎた力は、時に他人からの嫉妬や恐れを受けることがあります-

-他人には無い力は、やがて貴方を孤独にすることになるでしょう-

-そしてその先、さらに待つ不幸-

 

-魔力は、やがて貴方の願いを叶えるようになるでしょう、この私のように-

 

-私はもう、私の望みであった『知の探究』ができなくなってしまいました-

-私の体から溢れ出る魔力は、私の願いを勝手に叶えてしまいます-

-私が知ろうとする知識は、すでに魔力によって私の中で勝手に解き明かされてしまいます-

 

-退屈ですー

-願いを叶えられない人生は、退屈で、そして不幸ですー

-願わくば、この手紙を読んでいる貴方が、この退屈に埋もれませんように-

 

-世界一の『愚かな』魔術師、クロウ・リード-

 

 

 ブツン!ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・

 

「くそ!やっぱりダメか・・・」

携帯を睨み、焦りの表情を隠さない小狼。

この春先以来、何度やってもイギリスの柊沢エリオル、つまりクロウ・リードの転生人と

連絡が取れなくなっていた。

さくらの友人、詩之本秋穂の執事であり、魔法教会を破門になった魔術師でもある

ユナ・D・海渡がなんらかの原因ではあるようだが・・・

 

 小狼は焦っていた。先日のマーチングのオーディションの一件で、彼の危惧する事態が

進展していることを知ってしまったから。

かつて実家で読んだクロウ・リードの手記、そこに記された『不幸』が、さくらの身に

すでに起き始めているであろう事を。

 

 小学生の頃、さくらは魔力に目覚め、カードキャプターとして幾多のカードを集め

そして変化させていくことで、膨大な魔力を身につけるに至った。

それはクロウカード改めさくらカードを維持するのに必要なことではあったが、

同時に増えすぎた魔力は、さくらに更なる不幸を呼ぶ危険があった。

 そのため小狼は日本を去った後、柊沢エリオルに師事し、魔法の応用と知識を学んでいた、

さくらのそばで、さくらに起こる不幸を取り除くために。

 

 くまのぬいぐるみを触媒にして、さくらカードの精霊を奪った。

魔力は一度魔法を使うと一時的に失われ、その後、以前以上に多く回復する。

まるで筋力トレーニングによる筋肉の超回復のように。

だからさくらが魔法を使えないように、カードを使えなくしたのだ。

 

 だが、さくらは自分でも気づかないうちに、新たなカードを作り出すようになった。

クリアカード。さくらが純粋に、そして無意識に自身の力で生み出した魔法のカード。

まるでクロウカード集めをなぞるように、さくらは次々とカードを集め、そして魔力を

さらに高めていってしまった。

小狼には打つ手が無かった。さくらの魔力が精霊による騒動を起こしてしまっている以上

関わるな、とは言えない。クロウカードの封印を無意識になぞっているだけに、カードの起こす騒動は

周囲の人を危険に晒す心配がある。ならばさくらが(無意識に)起こした騒動をさくらが止めるのに

口を挟むわけにはいかない。もし多くの人がケガをするなど不幸な目にあって、その原因がさくらの

魔力にあると知ったら、さくらはどれだけ悲しむか知れないから。

 

 さくらの魔力は、もうさくら自身を不幸にするレベルまで高まってしまっている。

唯一の頼れる存在、柊沢エリオルとは、もうずっと連絡が取れないでいる。

エリオルにしても、直接日本に来てさくらの力になれない理由がある。

ならば俺が、さくらを助けなければいけない、俺自身の判断で。

 

 さくらの魔力は、もうすでに『さくらの願い』を『勝手に』叶え始めてしまっている、

さくらの心の奥にある、さくらの純粋な思いを、間違った形で。

 

 -私と、なかよしになってほしいな-

 

 今のさくらは、周囲の人間に(惚れ薬)を撒き散らして歩いているようなものだ。

だからオーディションの審査員たちは、そのさくらの魔力に当てられ、さくらの演技を

魅力的に感じてしまった。遠目で見ていた柳沢だけが正しい審査ができたんだ。

さくらに絶対に勝ちたかった三原は、さくらに負けた時、その悔しさをさくらの魔力で

かき消されていたんだ。だから笑ったんだ、普段のお弁当の時のように。

 

 だが、まだ間に合う。今ならまだその影響はさくらの近くにいる人間だけだ。

クロウのように、世界中の知識が否応なしに流れ込んでくるレベルには達していない、

今のうちに何か、何か手を打たないと。

 

 そこで小狼は気づく、絶望的な未来に。

そう、さくらはオーディションでドラムメジャーのポジションを勝ち取っていたんだ。

なでしこ祭、さくらはそのオープニングセレモニーで先頭を切って行進し、踊る。

大勢の人が注目する中で、惚れ薬のような魔力を撒き散らしながら、自分の魅力を

体いっぱいに表現して・・・

 もしそんな事態になったら、さくらは否応なく注目を浴びる存在になってしまう、

魔力によって人を惹きつけ、魅了する存在に。

それがさくらの人生に良い影響など与えるわけがない。周囲の人すべてを振り向かせ

称賛させ、だれも彼女を否定しない、そんな異常な『優しい』世界。

議論も、刺激も、争いも、悲しみも、驚きも存在しない、狂った世界。

自分以外の人間が、さくらに笑いかけるだけの、乾いた孤独な世界・・・

 

 もう時間が無い、なでしこ祭までに何か手を打たないと!

小狼は再び電話をかける。イギリスではなく、香港。自分の実家へ。

「もしもし、俺です、小狼です。偉(ウェイ)をお願いします・・・」

 

 

「おはよう、秋穂ちゃん。また本?」

朝、登校したさくらの隣で、上機嫌で本を読んでいる秋穂に話しかけるさくら。

「ええさくらさん、昨日、前から欲しかった本が一冊、手に入ったんですよ。」

その本を横にしてさくらに見せる秋穂。

「ほぇ~、外国の本なんだ。ええと、ミダ・・・なんていう本?」

ローマ字で書かれたタイトルを読もうとするが、見慣れない文字もあってよく読めない。

その背後から知世がひょっこり顔を出し、笑顔で解説する。

 

「ミダース、ですね。」

「すごい!知世ちゃん読めるの?」

「はい。実はそれ、さくらちゃんも多分知ってる物語ですわ。」

言って知世は秋穂と顔を見合わせ、くすくすと笑う。

「ほぇ?私そんな話聞いたこと無いけど・・・」

 

「ミダースって言うのはねぇ!」

「「うわっ!!」」

いきなり背後に山崎が現れ、解説を始める。

「名前の通り、この世を乱す悪い魔法使いの名前だよ。人の心を他人と入れ替えたり、

生き物を石に変えたりと、それはもうやりたい放題だったんだ!」

「ほ、ほぇ~・・・酷い魔法使いだね~。」

「でもね、あるとき現れた床屋さんが、彼の頭を大仏のような仏さんヘアーにしたんだよ、

それ以来、ミダースはいい人になって、人々から信頼される王様になったんだよ~」

「「ふんふん・・・」」

いつの間にか小狼もさくらの隣に並んで話を聞いている。

 

「またいーかげんな嘘ついてる・わ・ね。」

がしっ、と山崎の頭をわしづかみにする千春。

「しかも微妙に帳尻を合わせようとしない!授業が始まるわよ、山崎君はクラス隣りでしょ!」

言ってドアまで山崎を引きずって、ドアの外に放り出す千春。

「・・・嘘だったの?」

「お・・・俺は知ってたぞ。」

「李君も急がないと、授業始まりますわよ。」

「あ・・・そうか、じゃあまた。」

「うん、またね小狼君。」

 

 教室から出ていく小狼を見送って、改めて秋穂を見るさくら。本当は一体どんな話なんだろ?

と、秋穂がアゴに手を当てて考え込んでいる。

「本の伝承と山崎君のお話、どちらが本当なんでしょうか・・・」

その秋穂のセリフに千春が一言発して絶句する。

「信じた!?」

 

「いつの日か、山崎君の話が本当になるといいですわねぇ。」

「というか知世ちゃん、本当はどんな話なの~?」

「さくらちゃんも良く知る童話ですわ、『王様の耳はロバの耳』の王様の名前ですのよ。」

さくらの頭上に電球が、ぱぁっ、と灯る。

「ほぇ~、あの王様、ミダースって名前だったんだ。」

「「はい。」」

知世と秋穂が同時に答える。

 

 ミダース。黄金を欲するあまり、触れるもの全てを黄金に変える願いを叶えた王。

しかしそれはすぐに絶望への能力であることを思い知らされる。

パンも、肉も、水も、彼に触れた途端黄金に変わってしまうのだから。

やがては彼の愛娘さえも黄金の像に変えてしまうことになる・・・

 

 願いを叶える力、それがその本人にとって決して幸せではない力であること。

かつてミダースが歩んだ不幸を、今、さくらが歩みつつあることを、さくらはまだ知らない。

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