カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」   作:三流FLASH職人

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第8話 さくらの魔力と小狼の戦い

「鏡よ、我を映し出し、我の分身となれ、ミラー(鏡)」

マーチングのスタート地点から少し離れた建物の陰、小狼は手鏡に自分を映し、そう唱える。

鏡に映った小狼に、さくらカードの精霊『ミラー』が憑依する。

そして鏡から飛び出し、小狼の分身となって彼の前に立つ。

「じゃあ、頼むぞ。」

こくり、と頷く小狼の分身。

「スタートの前にさくらに見える位置にいてくれればいい。あと、さくらの兄上には

絶対に近づくなよ、あの人の勘の鋭さは異常だからな。」

あ・・・という表情を見せた後、少し残念そうな表情で頷く分身。

 

 まもなくなでしこ祭、開幕のマーチングパレード出発の時。小狼、偉(ウェイ)、

ステラ・ブラウニー、王林杏(ワン・リンシン)、そして苺鈴が所定の場所についている。

今やさくらの魔力は、さくらの周辺の人間を魅了する性質を備えてしまっている。

この大勢が注目するイベントで、そんなものを撒き散らしながら行進すればどうなるか、

さくらの周囲の状況が激変するのは間違いないだろう、さくらの望まぬ形で。

 それを阻止すべく、香港に連絡を取り、準備してきた、この日の為に。

さくらの魔力を封じ、純粋にマーチングの演技をやり遂げてもらうために。

母の弟子、ステラと林杏の二人に来日してもらい、5人でさくらのマーチングを

魔力の介入なしにやり遂げてもらうために。

 

 小狼に化けたミラーが沿道の脇につく。言った通り桃矢とは離れた位置に。

さくらがそちらに目をやってくれるのを期待して、小狼はかがんで護符を取り出す。

『封魔』と書かれたその護符は、この日の為に母上に作ってもらった特別制。

魔力を持つ人の体外に溢れた力を無効化する能力がある。

 

ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ

 

 始まった!

小狼が、マーチングの進路となる道路を挟んだ向こう側でステラが、林杏が、一斉に護符を発動させる。

「封魔!」

「フーマ!」

「封魔っ!」

3人の位置は三角形の頂点になっており、その3点の中にさくらがいる。

護符で三角の結界を作り、その中にさくらがいる間は魔力の影響が出ないようにするのが狙いだ、

しかしマーチングは行進である。さくらがその結界から出るとその効果は消失する。

さくらを先頭とする行進が動き始める、小狼はスマホのイヤホンを通じて他の4人に連絡する。

「始まったぞ、次!偉(ウェイ)、頼む!」

「かしこまりました。」

小狼と同じく、道路のこちら側、小狼の位置から100mほど進んだ位置に待機しているウェイが返す。

ステラは全力で次のポイントに向かう、苺鈴が人目につかない場所を確保しているはずだ。

 

さくらが3人の結界から出る瞬間、今度は小狼とウェイと林杏が次の護符を発動させる。

「封魔!」

「封魔っ!」

「封魔。」

さくらが結界から出る瞬間、新たな結界がさくらの進路に現れ、その中に進むさくら。

小狼は全力でマーチングの進行方向に走る。結界を張っているウェイを追い越し、その先

100mほどの地点に駆けつけてきた苺鈴を見つける。

「小狼、こっち!」

苺鈴が小狼を手招きし、すぐ近くの建物の陰に誘導する。人前で護符の発動をするわけにはいかない

誰にも見られず護符が使える空間をキープし、見つからなければ苺鈴自身が術者を隠すのが

魔力を持たない苺鈴の役目だった。

 

 

「じゃあ、次のポイントにいくわ!頼むわよ!!」

そう小狼に言い残し、今度は苺鈴がダッシュする。すでに対岸では林杏が次のポイントに

向かっているはずだ、時間が惜しい。

マーチングのずっと先までダッシュして、道路を横切り、あらかじめ探しておいた場所に

全力疾走で向かう、林杏より先に着かないと意味が無い。

なんとかそのポイント、木陰に到着し、走ってくる林杏を呼ぶ。

ウェイ、ステラ、小狼による3つめの結界が生まれる。行進が思ったより早い、急ぐ必要がある!

苺鈴は再び引き返して道路の反対側へ走り、ウェイを商店街の裏路地に誘導する。

そしてまた道路をまたいで、今度は次のポイントにステラを呼ぶ。

 

 幸いにも友枝中のマーチングは好評のようだ。見物者の列の後ろで忙しく動いている小狼たちを

気にとめるものは誰もいない。そんな中、小狼たちは次々に結界を張り、走る。

中でも道路のあちらとこちらを往復している苺鈴の運動量は異常だ。ポイントで合流するたび

彼女の呼吸は荒く、激しくなっていく。

ステラも林杏もウェイも、魔力を使いながらの運動に徐々に体力を奪われていく、まして今は真夏、

香港の暑さよりマシとはいえ、この作業がキツくないはずは無かった。

そして、最初にミラーのカードを使った小狼の疲労も相当なものだ。

 

 と、その小狼の所にひとつの精霊がすっ、と現れる。薄緑の髪に濃緑のリボン、ミラーだ。

「うまくいきました、主(さくら)は出発前、私を貴方として認めました。」

「そうか、ありがとう!」

そう言って宝玉を出す小狼、ミラーはすっ、とその中に吸い込まれるように姿を消す。

そして走りながらマーチングを見る、さくらの見事な演技に歓声が沸いている。

しかしそれは決してさくらだけが注目されているわけではない、ある人は演奏される音楽に耳を傾け

またある人はカラーガードの見事な旗振りに目を奪われている。

 

 

 よかった、心底そう思う。もしさくらの魔力がダダ洩れな状態でマーチングが行われたら・・・

確かに友枝中は並み居る強豪チームを押しのけ、評価一位をモノにするかもしれない。

しかしそれはさくら一人の成果でしかない。誰も演奏を聞かず、演技や行進も見ず、

ただたださくら(の魔力)に魅了されるだけの、いわば洗脳に近い評価。

チームメイトの2か月の努力も、わざわざ遠征に来てくれた他チームの演技も、

みんな無駄にする『魔法の暴挙』。

 さくらにそんな事をさせるわけにはいかない、さくらが自身の魔力で自分を不幸にするのは

なんとしても阻止してみせる!そんな決意が疲れ切った小狼の体を引き起こし、走らせる。

 

 やっとフィニッシュの友枝商店街広場まで来た、あと一息だ。

最後のカンパニーの行進が始まるのを合図に、小狼が、ステラが、林杏が、最後の札を発動させる。

「「「封魔!!」」」

今日何度目か分からない言葉を、最後の力を振り絞って叫ぶ。

最後の結界が発動し、さくらを含むマーチング一同を取り囲む。そしてさくらはジャンプして

見事なフィニッシュを決める。

 

「ああ・・・ホントに凄いな、さくらは・・・」

そう言いながら崩れ落ちる小狼、隣にいた苺鈴がとっさに抱きとめる、息も絶え絶えに。

「しゃ、シャオ・ラン、しっかり・・・」

疲労で抱えきれず、そのままそこにへたりこむ二人、そこにウェイが駆けてくる。

「しっかりなさって下さい、小狼様、苺鈴様、お気を確かに。」

そしてスマホを取り出しダイヤルしながら、告げる。

「救急車をお呼びいたしますから、それまでご辛抱ください。」

 

 

 電話を終えたころ、千鳥足のステラが林杏の肩を担いで合流してくる。

「ア~、私タチも、乗ってイクネ~」

かろうじてそう答えるステラ。林杏はもう言葉を発するのもおっくうそうだ。

 地面に横になった小狼が、苺鈴に伝える。

「苺鈴、すまないが、お前は残ってくれ・・・」

肩で息をしながら苺鈴が返す。

「わ・・分かってる・・・わよ。さくらを・・・安心させるん、でしょ・・・」

「ああ・・・すまない。」

それだけ答えると小狼はふっ、と気を失う。

 

遠くに救急車のサイレンを聴きながら、疲れ切った、そして満足した表情のまま-

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