あした   作:雄良 景

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 タイトルにする(いう)ほど視界の話をしていないかもしれない。


(言い忘れていましたが、創作用のツイッター垢あります→@dosanko_frog )





彼女の視界(異世界かそれとも)

 

 

 

 教室を出てすぐ階段を駆け下りた。渋谷さんは案外文句を言わず着いてくる。まあもし何か言われても聞く気はなかったけど。

 幸い目的地までの道のりは人が少なく、大して騒がれることなく移動することができた。

 

 

 歩きながら考える。多分渋谷さんはもやしっ子ではない。インドアに見えるけどある程度動けるタイプ。服の上からだとあまり分からないが、細いが薄くない体からは筋肉かついてることがうかがえる。

 まあつまり、渋谷さんがヤバい人だった時彼に対抗できるかどうかという話なんだけど。

 

 

 本当は信用していない相手にふたりきりでこうして背中を見せて歩くのもあまりよろしくない。けど、今回ばかりは移動速度優先だ。

 一応間合いはとっているけど、さて。なにせ向かう先は人気のない場所。自分から危険なところに向かうようなもの。でも、だって人の目のあるところで渋谷さんと話すとか目立つから仕方ない。

 渋谷さんがヤバい人か大丈夫な人か…まるで運試しだ。大丈夫だとは思うけど。

 

 

 目的の廊下に辿り着き、体を反転して向かい合う。渋谷さんはすぐにくちを開いた。

 

 

「彼女はいつもああやって騒いでいるのか?」

 

 

 わあ。せっかちだな。いや、時間を無駄にするのが好きではないタイプか。移動を受け入れたのは自分にもメリットがあるから? ともかく、彼はさっさと話しを進めたいらしい。

 

 さて―――――彼女。彼女とは…考えるまでもなく黒田さんのことだろうけど、もう少し分かりやすく言ってほしいな。いいけど。

 しかし何故彼女を気にするのだろうか。

 絡まれたから? 不気味に思ったから? ならこんな淡々とした言い方をするものか。それに、少なくとも教室を出るときに、渋谷さんは黒田さんを最後に一瞥し興味を失ったように見えた。というかあれだけ言葉で潰しておいて不気味も何もないだろう。

 じゃあ一目惚れ? それこそ笑い話にもならない。なら何故か。

 

 ―――――オカルト関係者だから? 

 

 

「さあ、今日初めて話したので。何故?」

「…ずいぶんと、自分の霊感に自信があるようだったから。本当に霊能者かな」

 

 

 その問いは、どこか楽しげだった。しかしきっと、彼女のことを嘲笑っているわけではないのだろう。

 彼の笑顔の理由はおそらく―――――私だ。

 

 

 

 試している。私という人間を、見極めようとしている。

 

 

 

 渋谷さんの目がすう、と細まる。笑顔ではない。鋭い視線に、こちらは半目になってしまった。無意識かわざとかは知らないけど、その顔でその表情は脅しに等しい。…わざとだったら渋谷さんの自己認識の高さは素晴らしいな。自分の武器の使い方をよくよく理解している。

 

 

( ……それにしても、やっぱり )

 

 

 渋谷さんがオカルト業者という推察が現実味を帯びてきた。というか、もう脳が全てそっちに繋げようとしてくる。彼は今、『自分の霊感に自信があるようだったから』と言った。それは間違っても『霊的なもの』を否定する言葉ではない。

 そういったものがあると認識して受け入れている、と受け取れる言葉選び。

 それに、教室で黒田さんへ切り替えした言葉の数々はあまりにも旧校舎について入念な下調べがされていたように感じられた。ちなみに旧校舎解体のための地質調査とかの業者という線も考えていたけど、地質調査に旧校舎の歴史が関係あるとは思えないし。困った。一般的な職業の可能性がことごとく潰れてしまった。

 

 

 ……現実を見ようか。

 彼は今、私を見極めて、見透かそうとしている。―――――それが意味するのは。恐らく、多分、いや、おおよそ間違いなく、私を引きずり込もうとしているということなのではないだろうか。

 避けようと思っていた厄介ごとが向こうからやってきた。溜め息を飲み込んだだけ頑張った方だろう。

 

 

 渋谷さんはじっと私を見る。彼の目は案外お喋りだ。少なくとも、彼は誰も貶めるつもりでないことはありありと伝わってきた。おそらく私に興味があるのか、知りたいことを知るために黒田さんの話題を利用した、といったところだろうか。

 

 

 短い経験則、あまり性格がよろしくないだろうこの人は―――――いや、こういったタイプの性格は、ナマイキで傲慢で尊大な態度をとっても、真に相手を蔑むことはない。

 誰に似てるかな。ボウヤ? 確かにナマイキだ。あ、跡部? 尊大尊大。傲慢については案外ふたりともに当てはまるかな。そしてどちらも、間違うことはあっても人間性は悪くない。誰かを悪意で貶めるようなことはしない。……ああ、いや、今は―――――飛び始めた思考を、間一髪引き留める。

 今はまず、渋谷さんの質問に答えるべきだろう。

 

 

「―――――それこそ、私には分からないですね。そっち方面は素人なので。本人がそう言っているのならそうなんじゃないですか?」

「淡泊だな。君は霊能力の類に対して否定派か?」

「肯定も否定も、私は見えないし感じませんから。じゃあ『見える』と言っている人がそう言っているならそうなんじゃないか、ってことですよ。黒田さんについては…彼女の視界が他人とどう違っているかなんて、他人(わたし)に分かるものじゃないでしょう」

 

 

 

 ―――――かつて、私が誰にも理解されなかったように。

 

 

 

 他人(ひと)は案外、すぐに理解を放棄するものだ。

 いっそ残酷なまでの自己保身によって切り捨てられた『特別』は、誰からも切り取られた世界でようやく『特別(じぶん)』を知る。

 私がそう考えるのは、当人がどれだけ訴えたところで他人がそれを理解できるとは限らないということを知っているし、私の見えるもの、感じるものを他人と完全に共有できることなんてできないと分かっているから。

 

 すり減っていたかつての私は、そうして『他人』という生き物を知ったのだ。

 

 

 自分の考えを割り増しで淡泊にそっけなく(きょうみをもたれないように)伝えながら、逃げようか、と一瞬考えた。

 しかし、逃げ切れるだろうか。『ならいい』と引いてくれる確率は…それこそ一か八か(フィフティ・フィフティ)か。依頼人(クライアント)は校長らしいし、本当に私を巻き込むつもりならここで断っても校長を通して話を持って来る可能性もある。下手すればまた教室に乗り込まれるかもしれない。今日みたいに、何に憚ることはないと、名指しで。

 

 簡単に逃がしてくれるような雰囲気ではないし、私は彼の行動を抑制できるだけの切り札(カード)がまだない。拒否権はある。というかきっと私が本気で嫌がりでもすれば、強制できる話ではないだろう。渋谷さんは気にしなさそうだけど、ただでさえ胡散臭い『オカルト』タイプの勧誘なんだから先生方くらいは守ってくれるはずだ。

 けど、転入早々部外者とトラブルを起こして目立つのは望ましくないわけで。

 

 なにより、別に渋谷さん自体に嫌悪感を持っているわけではないというのが大きい。

 

 

「僕らは旧校舎の調査に来ている」

「今朝聞きましたね」

「それを聞いて、幸村さん。あなたは、僕らがどういう人間だと思ったか。聞いても?」

 

 

 言葉尻を上げてクエスチョンマークを付けるくせに、当然言うよね? と言わんばかりの態度。とんだ傲慢。ここまできたら扱いやすい分ボウヤのナマイキくんがかわいく見える。

 

 

 瞳は凪いでいた。けどわずかに、楽しむような色を見つけた気がしたら駄目だった。

 

 

「まあ、オカルト関係者かなって思いますよね」

 

 

 ―――――まあ、面倒ごとって巻き込まれるより突っ込んでくほうが被害が少ないっていうし。どうせ不可避なら、まあ、仕方ないか。

 

 そう、これは妥協であって断じて好奇心に屈したわけでも絆されたわけでもない。断じて。断じてない。……断じて。…………いやまあ、多少はあるけれど。

 

 

 私の返答に渋谷さんの顔が緩んだ。ほんの一瞬、挑戦的で満足げな笑みがその端麗な(かんばせ)を彩るものだから、思わずこっちの顔には苦笑いが浮かんでしまう。

 理由は求められなかった。ということは、何かは分からないがいつの間にかこの人を納得させる何かを私は与えてしまったらしい。やっぱりこれ、逃げてたら追いかけられてた可能性高かったな…。

 

 

 まあ、あいつらも、家族も、たぶん越前家の人たちも、なんとかなるだろう。少なくとも頭の中で説得する算段を立て始めてしまうくらいには鮮やかな色彩だった。

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うと、君にアルバイトをしてほしい」

「アルバイト、ですか」

 

 

 言われた言葉は半分予想通りで、半分予想外。協力ではなくアルバイト、ということは給料が出ると判断していいのかな?

 疑問のまま反復すれば、渋谷さんはひとつ肯首して、続きを話す。

 

 

「業務内容は旧校舎の調査に対しての協力。期限は解決するまで。勤務時間は放課後だいたい4、5時間。休日出勤についてはその時々によるが、朝から晩までになることもあるだろう。もちろん労働基準法に反しない勤務体制はとる。基本は休憩45分と7時間45分勤務。それを越えれば残業手当も入れる。主に機材の運搬やデータ収集のアシスト、基礎データ収集など素人でも問題のない雑務を任せたい。機材の運搬はあの下駄箱を支えられた程度の筋力があるならという判断だが、肉体労働に不満は?」

「体を動かすのは好きですよ」

「結構。肉体労働は現場業務に入るから危険手当が出る場合もある。だいたいのギャランディの目安は、」

 

 

 つらつらと淀みなく並べられる内容に、やっぱりこの人最初から巻き込む気満々だったんだなと再認識した。ただ有能だからその場で説明できてるだけじゃないだろうこれ。業務内容説明する準備してきてたなこれ。

 

 

 

 そして提示されたのは他のアルバイトとは比べ物にならない高額報酬。

 …これ高卒会社員くらいはあるんじゃないか。

 

 

 

 顎に手をかけ、指でトントンと弾きながら、考える。

 正直もう話を受ける気はある。けど、素直に頷くのは癪だし、扱いやすいと思われても困る。

 手元に増えた切り札(カード)は『任意である』『向こうから求められている』というふたつだろうか。こっちからもう少しくらい条件を付けられるかもしれないが……同時に、副作用がどうなるか分からない劇薬でもある。なにせ相手はこの超短期間の接触だけで『厄介だ』と頭を悩ませてきた渋谷さんなのだから。

 

 このおいしい話のネックなところとは、時間が不規則、不適格なところ。そしてどんなハプニングがあるか皆目見当もつかないが、危険はあるだろうということ、かな。不規則な生活はトレーニング量が確保できないし、体調にも影響が出る。危険については言うまでもない。あとあれだ、社会の目。

 

 ……いや、高望みをしすぎているのだろう。バイトもしたいけどしっかりトレーニングもしたい、なんて。バイトということは給料が発生して、金銭を受け取るということは責任があるということだ。そちらも都合よく、というのは到底無理な話。バランスを見極めて折り合いをつけるしかない。

 社会の目については…思いつくことがないわけではないし。

 

 

「―――――ああ、一番肝心な話を忘れていました。改めまして、渋谷さん。あなたがどこの、誰なのか」

「渋谷サイキック・リサーチの所長、渋谷一也。職種としてはゴーストハントだが……正確には『退治』というより『調査』が(おも)。日本では馴染みのない職業だろう」

 

 

 うわあ。思ったよりしっかりオカルト業者だった。いや、まああれだけの機材があるなら大手だろうとか思ってたし言ったけど、改めて言われると…。

 しかし、ゴーストハント、ねえ。

 

 

「そうですね、聞き覚えがないですがそこは私の無知ですから。……では、生まれてこのかた幽霊を見たことも心霊現象を体験したこともない素人ですので、十分ご指導ご鞭撻(べんたつ)いただけることが前提になりますが」

 

 

 少なくとも渋谷さんの性格は嫌いじゃなくて、仕事内容にも不満は無くて、待遇もいい。周りの目については私が上手く立ち回ればいいだろう。噂も好奇の目も今更だし。

 まったく、関わらないと思っていたのに1時間も経たずに手の平を返すことになるとはなぁ。まあそこは、渋谷さんのお人柄の賜物だと丸く収めようか。

 

 

「よろしくお願いします。」

「―――――ああ、こちらこそ」

 

 

 

 

 

 

 さて、ではさっそく業務に取り掛かる―――――というわけにはいかない。

 

 まず先ほどの騒ぎで渋谷さんという存在が目立ってしまったのがある。すごい美人が来たということくらいは話題になっているだろう。なにせこの顔。インパクトが大きすぎる。

 まだ玄関には多くの生徒が残っており、そこに渋谷さんと一緒に出ていけば視線で蜂の巣になる。腹をくくったからといって好き好んで噂になりたいわけじゃない。

 

 

 それにもっと根本的な問題がある。当然だが、まだバイトの許可申請をしていないことだ。

 学生である私がアルバイトをするにはまず学校に許可申請をしなくてはならない。勤務場所が校内でバイト先が学校公認(?)とはいえ、バイトの許可は当然必要。

 

 

 しかし職員室は窓が大きく玄関から中がよく見えてしまうので―――――校長室に駆け込むことにした。

 校長室は出入口が玄関から死角になっているし、来客対応もするから中が覗かれにくい構造になっている。なにより校長は依頼人(クライアント)だし学校の責任者(トップ)だ。校長さえ口説き落とせれば、オカルト業者なんて胡散臭いアルバイトに表立って反対する先生はいないだろう。

 

 となればの現在もっとも間近な問題は―――――

 

 

「渋谷さん、失礼します」

「―――――これは?」

「校長室はこの廊下の突き当りなので、今からここを渡るんですけど……」

 

 

 私が着ていた指定のカーディガンを脱ぎ問答無用で渋谷さんの頭に被せれば、当然のように渋谷さんから訝しげな顔をされた。まあでしょうね。あれ、でも抵抗されなかったな。はじき落される可能性も考えてたのに。

 

 

 さて、目的地が廊下の突き当りということは、この廊下を通り過ぎなくてはいけないということ。そしてここはいくら人気がなくとも、隣接する特別教室では文化部が細々と部活動をしているので無人ではない。

 つまりもっとも間近な問題は、この廊下を無事に渡り切ることだ。

 

 

「渋谷さん目立つでしょう」

 

 

 その目立つご尊顔を隠せば多少は対策になるはずだ。

 この学校の指定カーディガンのデザインは男女共同。ぱっと見ならカーディガンを頭からかぶった男子生徒だと勘違いさせられるだろう。

 教室から見える廊下は出入口の扉の窓を介してのみだし、窓の位置的にスーツのズボンは見えない。そして渋谷さんの身長は私と同じくらい。長身だけど同じくらいの私が隣にいれば、通り過ぎるだけならそこまで目立たないはず。

 

 

「ずいぶんと目立つのを嫌うんだな。君も、―――――」

 

 

 カーディガンの隙間から目が合ったのでもうちょっと深く被せておこうとカーディガンを引っ張れば、うっかり渋谷さんのセリフを遮ってしまった。うわあ、顔が見えないのに物凄く不満そうなのが伝わってくる。無視したわけじゃないですから、すみませんって。

 

 

「なんて言いました?」

「……君も大概目立つ、と」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 

 そんなことは知ってるさ、慣れているから。

 

 

「……まあそれは置いておいて。実は、原因は不明なんですがどうにもクラスメイトに遠巻きにされていまして。だからあまり悪目立ちしたくないんです・今は女の子の友人を得るのを目標に努力中ですから。同性の友人が欲しいじゃないですか。ね?」

 

 

 だから火種となりそうなあなたと噂を立てられたくないんです…とは言わなかった。さすがにそこまで言えば失礼だし、最終的にバイトを受けると言ったのは私なのだから我儘にも程があるだろう。でも『悪目立ち』と言ったのは噂されるのは本当に勘弁願いたいからだ。

 言わないだけで思っているなら同じかもしれないが、そこは置いておいて。親密だと誤解さされなきゃいい。それにちょっとだけ協力していただきたいのだ。

 

 

 嫉妬がらみの敵意は、立海で散々受けた記憶がある。

 単純に彼らに恋をした子たちや、自己顕示欲の果てに彼らを求めた子たち。

 

 

 

 

 ―――――彼がほしい(すき)こっちを見てほしい(だいすき)好きになってほしい(あなたがほしい)

 どうして私を選んでくれないの。どうして(ああ)―――――その女ばかり優遇されるの(ゆるせない)

 

 

 

 

 特に後者がめんどくさかったんだよなあ。彼女たちにはあいつらがブランド物のアクセサリーか何かに見えているらしい。執着力がすごかった。

 別にチームメイトから恋愛的な感情を向けられたことはなかったし、私だって向けたことはなかった。が、そんなことは彼女たちには関係なかったらしい。

 彼女たちにとって私は好きな(ほしい)人の一番近くにいる羨ましい―――――大っ嫌いな、目障りな子。

 

 それに伴い嫌がらせとかもあったわけで。まあ泣き寝入りするほどかわいい性格もしてないからやられっぱなしじゃなかったけど。

 

 

 ―――――閑話休題(このはなしはここまで)

 

 

 つまり、友好な友人を作るには余計な火種対策が大切だということで。

 

 

「……君の交友関係に興味はないが、そう言うのなら雇用条件のひとつとして受け入れよう」

「ひと言多いって言われません? でもありがとうございます」

 

 

 どう考えても余計なひと言を含ませるセリフはともかく、思いのほか物分かり良く許可を出してくれる上司に思わずこちらもにっこりしながらその手を握る。あ、思ったより大きい。

 

 

「ご案内しますね」

「………」

「………渋谷さん?」

「………これは」

「視界が悪いでしょう。これくらいはサポートしますよ」

 

 

 まあこっちの都合で不便を強いているので。そう思った配慮だったのだが、渋谷さんはすっかり黙ってしまった。おや、と首をかしげる。もしかしてこういったスキンシップは嫌いなタイプだっただろうか。

 

 ―――――ベタベタされるのは嫌いそうだけど、この程度なら一周回って気にしなさそう、と思ったんだけど。思ったより潔癖だったかな? うーん、でもカーディガンの被りが浅くてうっかりご開帳されたら困るし。

 

 

「不快かもしれませんがちょっと我慢してください」

「……いや」

「校長室までですから」

 

 

 手をつないでいた状態から、位置をスライドして手首を掴んだ状態に変える。こっちならまだ不快指数も低いだろう。ただこの握り方はどうしても握ってる方が主導権を持ってるように見えるから、手と手にしたのは配慮のつもりだったんだけど。エスコートするみたいにつなげばよかったのかな。

 

 まあ振り払われないならこれ以上気にしなくていいか、と気を取り直して校長室を目指した。

 

 

 

 







 人って不思議よね。
 だって自分は特別な存在になりたいって思うくせに、
 特別であることが重荷だって思う。
 同等の友が欲しいって思うくせに、
 周りの人間は自分より劣っていてくれって思う。


 ねえ、あの子が泣いてるわ。―――――きっと、あなたたちにはどうでもいいことなのでしょうけど。


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