あした   作:雄良 景

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(とあるお昼休みの一幕)


 お昼休み。どうやって恵子ちゃんたちからの誤解を解くか悩んでいると、端末が何度か震えた。確認してみればSNSに通知がたくさん。
 あああれか、とアプリを開けば、想像通り。

【ゆきむら:王子様ご就寝】

 鍵をかけたアカウントに悪戯心で載せたお姫様抱っこの写真は、いたく皆々さまのお気に召したらしい。
 まあ見ているのはほとんどテニス関係者だからね、彼らが反応するのは当然か。
 コメントをひとつひとつ確認する。実際面と向かって会ったらここまで気安くしてくれないのに、コメントはポンポンくれるんだよね。
 直接会った時もこれくらい話しかけてくれればいいんだけど、と思いながら読み進めていれば、本人からのコメントを発見した。

【カルピン@猫垢:なんでのせてんの意味わかんないんだけど!早く消して】

 思わず吹き出しそうになったのをグッとこらえる。ひとりでニヤニヤしてたら気味悪いもの。
 先輩にからかわれて気づいたのだろうか。少し考えてから指を滑らせる。同居人を怒らせたら困るからね。ここは素直に詫びを入れよう。

【ゆきむら:お怒りかな?君の体調を気遣って部屋に運んだだけだったのだけど。
      ちなみに昨日はホラー映画を見てみました。王子さまは退屈だったようで。】

 ペタリ、1枚のブランケットを分け合いながら私に寄りかかって眠る彼の写真を付けてアップしておく。
 うんうん、あの格好の理由も載せたし、ホラーを怖がってたってことも言ってない。十分なフォローだろう?
 たまたまみんな見ていたのか、すぐに次々とコメントが送られてきて―――――とうとう画面に着信通知が。さすがにこらえきれず小さく噴き出して、人気のない階段まで移動する。


「―――――やあボウヤ。どうかしたかな?」


 楽しんでる?まさか、当たり前だろう!
 おかげで恵子ちゃんたちに弁明する時間が無くなった。これは後で彼に責任を取ってもらおうかな。






彼女の視界

 

 

 

 教室を出てすぐ、階段を駆け下りた。渋谷さんは案外文句を言わず着いてくる。まあもし何か言われても聞く気はなかったけど。

 

 歩きながら渋谷さんの情報を整理した。駆け出した私の初速についていけるところから見て、多分渋谷さんはある程度動けるタイプ。服の上からだとあまり分からないが、細いが薄いようには見えない。それなりに筋肉がついてることがうかがえる。

 まあつまり、渋谷さんがヤバい人だった時彼に対抗できるか、という話なんだけど。

 本当は信用していない相手に、ふたりきりでこうして背中を見せて歩くのもあまりよろしくない。

 一応間合いはとっているけど、さて。なにせ向かう先は人気のない場所。自分から危険なところに向かうようなもの。でも、だって人の目のあるところで渋谷さんと話すとか目立つから……

 

 目的の廊下に辿り着き、体を反転して向かい合う。渋谷さんはすぐにくちを開いた。

 

 

「彼女はいつもああやって騒いでいるのか?」

 

 

 せっかちだな。いや、時間を無駄にするのが好きではないタイプか。移動を受け入れたのは自分にもメリットがあるから? ともかく、彼はさっさと話を進めたいらしい。

 

 さて―――――彼女。彼女とは……考えるまでもなく黒田さんのことだろうけど、もう少し分かりやすく言ってほしいな。いいけど。

 しかし何故彼女を気にするのだろうか。

 絡まれたから? 不気味に思ったから? 興味を持っているにしては淡々とした言い方をする。それに、渋谷さんは黒田さんが去っていくとき、最後に一瞥し興味を失ったように見えた。

 なら何故か。

 

 ―――――オカルト関係者だから? 

 

 

「さあ、今日初めて話したので。何故?」

「……ずいぶんと、自分の霊感に自信があるようだったから。本当に霊能者かな。」

 

 

 その問いは、どこか楽しげだった。しかしきっと、彼女のことを嘲笑っているわけではないのだろう。

 彼の笑顔の理由はおそらく―――――私だ。

 

 

 試している。私という人間を、見極めようとしている。

 

 

 渋谷さんの目がすう、と細まる。笑顔ではない。鋭い視線に、こちらは半目になってしまった。無意識かわざとかは知らないけど、その顔でその表情は脅しに等しい。……わざとだったら、渋谷さんの自己認識の高さは素晴らしいな。自分の武器の使い方をよくよく理解している。

 

 ―――――それにしても、やっぱり。

 渋谷さんがオカルト業者という推察が現実味を帯びてきた。というか、もう脳が全てそっちに繋げようとしてくる。彼は今、「自分の霊感に自信があるようだったから」と言った。それは間違っても『霊的なもの』を否定する言葉ではない。

 そういったものがあると認識して受け入れている、と受け取れる言葉選び。

 それに、教室で黒田さんへ切り返した言葉の数々は、あまりにも旧校舎について入念な下調べがされていたように感じられた。

 ちなみに旧校舎解体のための地質調査とかの業者、という線も考えていたけど、地質調査に旧校舎の歴史が関係あるとは思えないし。困った。一般的な職業の可能性がことごとく潰れてしまった。

 

 ……現実を見ようか。

 まず、私が推察した彼の性格。加えて、私を見極めようとしている様子。―――――それが意味するのは。

 恐らく、いや、おおよそ間違いなく、私を引きずり込もうとしているということなのではないだろうか。

 避けようと思っていた厄介ごとが向こうからやってきた。溜め息を飲み込んだだけ頑張った方だろう。

 

 渋谷さんはじっと私を見る。彼の目は案外お喋りだ。少なくとも、彼は誰も貶めるつもりでないことはありありと伝わってきた。

 こういったタイプは、ナマイキで傲慢で尊大な態度をとっても、真に相手を蔑むことはない。

 誰に似てるかな。ボウヤ? 確かにナマイキだ。あ、跡部? 尊大尊大。傲慢については案外ふたりともに当てはまるかな。そしてどちらも、間違うことはあっても人間性は悪くない。誰かを悪意で貶めるようなことはしない。……ああ、いや、今は―――――飛び始めた思考を、間一髪引き留める。

 今はまず、渋谷さんの質問に答えるべきだろう。

 

 

「―――――それこそ、私には分からないですね。そっち方面は素人なので。本人がそう言っているのならそうなんじゃないですか?」

「淡泊だな。君は霊能力の類に対して否定派か?」

「肯定も否定も、私は見えたこともありませんから。見えると言っている人にとっては、それは見えているものなんでしょう、ってことですよ。黒田さんについては…彼女の視界が他人とどう違っているかなんて、他人(わたし)には分かりませんので。」

 

 

 ―――――かつて、私が誰にも理解されなかったように。

 

 他人(ひと)は案外、すぐに理解を放棄するものだ。

 残酷なまでの自己保身によって切り捨てられた『特別』は、誰からも切り取られた世界でようやく、他者と『特別(じぶん)』の違いを知る。

 当人がどれだけ訴えたところで、他人がそれを理解できるとは限らないし、自分の見えるもの、感じるものを他人と完全に共有できることなんてできない。

 

 すり減ったかつての私は、そうして『他人』という生き物を知ったのだ。

 

 ―――――自分の考えを伝えながら、ここから逃げることはできるか、と一瞬考えた。

 正確には逃げ切れるか、だろうか。

 彼を拒絶して、ならいいと引いてくれる確率は…一か八か(フィフティ・フィフティ)。

 依頼人(クライアント)が校長であることを加味すると、ここで断っても校長を通して話を持って来る可能性もある。下手すればまた教室に乗り込まれるかもしれない。今日みたいに、何に憚ることもなく、名指しで。

 

 私は彼の行動を抑制できるだけの切り札(カード)がない。拒否権はある、というか、きっと私が本気で嫌がりでもすれば、強制できる話ではないだろう。

 渋谷さんは気にしなさそうだけど、ただでさえ胡散臭い『オカルト』タイプの勧誘なんだから、先生方くらいは守ってくれるはずだ。

 けど、この人が搦手を使ってこないとは言えないし―――そこまでして私を引きずり込む理由もないかもしれないが―――転入早々、部外者とトラブルを起こして目立つのは望ましくない。

 

 なにより、困ったことに、別に渋谷さん自体に嫌悪感を持っているわけではないところが、なんとも。

 

 

「僕らは旧校舎の調査に来ている」

「今朝聞きましたね」

「それを聞いて、幸村さん。あなたは、僕らがどういう人間だと思ったか。聞いても?」

 

 

 言葉尻を上げてクエスチョンマークを付けるくせに、当然言うよね?と言わんばかりの態度。とんだ傲慢。ここまできたら扱いやすい分ボウヤのナマイキくんがかわいく見える。

 

 彼の瞳は凪いでいた。けどわずかに、楽しむような色を見つけた気がしたら、駄目だった。

 

 

 

■

 

 

 

『聖子。これは、もう何度も言ったことだが―――――』

「え?」

『もし、新生活で、お前にやりたいことや、心惹かれるものが現れたらの話だ』

「ああ」

『その時は、決して俺たちに憚ることなく、心のままにそれを選んでほしい。

俺たちを想い選んでくれるお前を、俺たちも同様に大切に思っている。だから、お前が何かを手放したり、我慢しなくてはならない原因になりたくない。』

 

 

 これほどやりたくて仕方がないのも、心惹かれるのも、テニスとお前たち以上なんてないと思うけど。

 まあ、一番やりたいこと、心惹かれるものを選んだ結果、それがテニスとお前たちであるってことなら、納得してもらえるかな。

 

 

「分かってるよ。ありがとう。」

 

 

 それ以上なんて、絶対―――――

 

 

 

■

 

 

 以上、ではなくとも、別ベクトルに、という可能性があることを失念していたね。

というか一番を挿げ替えろと言われたわけでもなかったのに、妙に意固地になっていたかも。

 ―――――テニスのほかに興味を持ったとて、テニスを理由にそれを手放してほしくないと。

 ―――――あいつらのほかに楽しいものを見つけたとて、あいつらを理由に我慢をしてほしくないと。

 そういう愛の、話であったのだ。

 

 

「まあ、オカルト関係者かなって思いますよね」

 

 

 ―――――面倒ごとって巻き込まれるより突っ込んでくほうが被害が少ないっていうし。どうせ不可避なら、最善を往こうか。

 そう、これは妥協であって、断じて好奇心に屈したわけでも絆されたわけでもない。断じて。断じてない。……断じて。…………いやまあ、多少はあるけれど。

 

 私の返答に渋谷さんの顔が緩んだ。ほんの一瞬、挑戦的で満足げな笑みがその端麗な顔(かんばせ)を彩るものだから、思わずこっちの顔には苦笑いが浮かんでしまう。

 理由は求められなかった。ということは、いつの間にかこの人にそんな顔をさせる何かを、私は与えてしまったらしい。やっぱりこれ、逃げてたら追いかけられてた可能性高かったな…。

 

 まあ、あいつらも、家族も、たぶん越前家の人たちも、なんとかなるだろう。そうやって頭の中で説得する算段を立て始めてしまうくらいには、鮮やかな色彩だった。

 

 

 

■

 

 

 

「単刀直入に言うと、君にアルバイトをしてほしい」

「アルバイト、ですか」

 

 

 言われた言葉は半分予想通りで、半分予想外。協力ではなくアルバイト、ということは給料が出ると判断していいのかな?

 疑問のまま反復すれば、渋谷さんはひとつ肯首して、続きを話す。

 

 

「業務内容は旧校舎の調査に対しての協力。期限は解決するまで。勤務時間は放課後だいたい4、5時間。休日出勤についてはその時々によるが、朝から晩までになることもあるだろう。基本は8時間勤務。越えれば残業手当も入れるし、勤務時間に適した休憩も取ってもらう。主に機材の運搬やデータ収集のアシスト、そして依頼人等とのコミュニケーションなど素人でも問題のない雑務を任せたい。機材の運搬はあの下駄箱を支えられた程度の筋力があるならという判断だが、肉体労働に不満は?」

「体を動かすのは好きですよ」

「結構。肉体労働は現場業務に入るから危険手当が出る場合もある。だいたいのギャランディの目安は、」

 

 

 つらつらと淀みなく並べられる内容に、やっぱりこの人最初から巻き込む気満々だったんだなと再認識した。ただ有能だからその場で説明できるだけじゃないだろうこれ。業務内容説明する準備してきてたなこれ。

 

 そして提示されたのは他のアルバイトとは比べ物にならない高額報酬。

 ……この旧校舎の調査だけでこれ?高卒会社員の月額くらいはあるんじゃないか。

 

 顎に手をかけ、指でトントンと弾きながら、考える。

 正直もう話を受ける気はある。けど、素直に頷くのは癪だし、扱いやすいと思われても困る。

 手元に増えた切り札(カード)は『任意である』『向こうから求められている』というふたつだろうか。あまりいいカードではない。就労条件について、こっちからもう少しくらい条件を付けられるかもしれないが……同時に、副作用がどうなるか分からない劇薬に転じる可能性がある。

 なにせ相手は、この超短期間の接触だけで厄介だと思わせる渋谷さんなのだから。

 

 このおいしい話のネックなところとは、時間が不規則、今までの生活に合わせにくいところ。そしてどんなハプニングがあるか皆目見当もつかないが、危険はあるだろうということ、かな。不規則な生活はトレーニング量が確保できないし、体調にも影響が出る。危険については言うまでもない。あとあれだ、社会の目。

 

 ……いや、高望みをしすぎているのだろう。バイトもしたいけどトレーニングなども今まで通りしたい、なんて。

 バイトということは給料が発生して、金銭を受け取るということは責任があるということだ。どちらも都合よく、というのは到底無理な話。バランスを見極めて折り合いをつけるしかない。

 社会の目については…思いつくことがないわけではないし。

 

 

「―――――ああ、一番肝心な話を忘れていました。改めまして、渋谷さん。あなたがどこの、誰なのか」

「渋谷サイキック・リサーチの所長、渋谷一也。職種としてはゴーストハントだが……正確には『退治』というより『調査』が主(おも)。日本では馴染みのない職業だろう」

 

 

 うわあ。思ったよりしっかり業者しているっぽいオカルト業者だった。いやまあ、あれだけの機材とかがあるのだから、それなりに資本があるのかと思ってたけど、改めて言われると……

 しかし、ゴーストハント、ねえ。

 

 

「そうですね、聞き覚えがないですがそこは私の無知ですから。……では、生まれてこのかた幽霊を見たことも、心霊現象を体験したこともない素人ですので、十分ご指導ご鞭撻(べんたつ)いただけることが前提になりますが」

 

 

 少なくとも渋谷さんは嫌いじゃなくて、仕事内容にも不満は無くて、待遇もいい。周りの目については私が上手く立ち回ればいいだろう。噂も好奇の目も今更だし。

 まったく、関わらないと思っていたのに、1時間も経たずに手の平を返すことになるとはなぁ。まあそこは、渋谷さんのお人柄の賜物だと丸く収めようか。

 

 

「よろしくお願いします。」

「―――――ああ、こちらこそ」

 

 

 

■

 

 

 

 さて、ではさっそく業務に取り掛かる―――――というわけにはいかない。

 

 まず、先ほどの騒ぎで渋谷さんという存在が認知されてしまったのがある。すごい美人が来た、ということくらいは話題になっているだろう。なにせこの顔。インパクトが大きすぎる。

 まだ玄関には多くの生徒が残っており、そこに渋谷さんと一緒に出ていけば視線で蜂の巣になる。腹をくくったからといって、好んで噂になりたいわけじゃない。

 

 それにもっと根本的な問題がある。当然だが、まだバイトの許可申請をしていないことだ。

 学生である私がアルバイトをするには、まず学校に許可申請をしなくてはならない。勤務場所が校内でバイト先が学校公認(?)とはいえ、バイトの許可は当然必要。

 

 しかし職員室は窓が大きく、玄関外から中がよく見えてしまうので、狙うなら校長室だ。

 校長室は一階かつ、現在地からすぐにあり、出入口が玄関から死角になっている。来客対応もするから、中が覗かれにくい構造になっているのも強い。

 なにより校長は依頼人(クライアント)だし、学校の責任者(トップ)だ。校長さえ口説き落とせれば、オカルト業者なんて胡散臭いアルバイトに表立って反対する先生はいないだろう。

 

 となれば現在もっとも間近な問題は―――――

 

 

「渋谷さん、失礼します」

「―――――これは?」

「校長室はこの廊下の突き当りなので、今からここを渡るんですけど……」

 

 

 私が着ていた指定のカーディガンを脱ぎ、渋谷さんの頭に被せれば、当然渋谷さんには訝しげな顔をされた。抵抗されなかっただけ御の字かな。はたき落される可能性も考えてたのに。

 

 さて、目的地が廊下の突き当りということは、この廊下を通り過ぎなくてはいけないということ。そしてここはいくら人気がなくとも、隣接する特別教室では文化部が細々と部活動をしているので無人ではない。

 つまりもっとも間近な問題は、この廊下を無事に渡り切ることだ。

 

 

「渋谷さん目立つでしょう」

 

 

 その目立つご尊顔を隠せば、多少は対策になるはずだ。

 この学校の指定カーディガンのデザインは男女共通。黒いスーツは襟や胸元さえ隠せれば学ランに見えなくもないから、カーディガンを頭からかぶった男子生徒だと勘違いさせられるだろう。

 特別教室は廊下側の壁に窓がなく、教室内から見える廊下は、出入口の扉についている窓からのみ。

 

 

「ずいぶんと目立つのを嫌うんだな。君も、―――――」

 

 

 隙間から目が合ったので、もうちょっと深く被せておこうとカーディガンを引っ張れば、うっかり渋谷さんのセリフを遮ってしまった。顔が見えないのに物凄く不満そうなのが伝わってくる。無視したわけじゃないですから、すみませんって。

 

 

「なんて言いました?」

「……君も大概目立つ、と」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 

 そんなことは知ってるさ、慣れているから。

 

 

「……まあそれは置いておいて。実は、原因は不明なんですが、どうにもクラスメイトに遠巻きにされていまして。だからあまり悪目立ちしたくないんです。同性の友人が欲しいじゃないですか。ね?」

 

 

 だからあなたと噂を立てられたくないんです、とは言わなかった。さすがにそこまで言えば失礼だし、最終的にバイトを受けると言ったのは私なのだから。でも噂されるのは本当に勘弁願いたい。

 言わないだけで思っているなら同じかもしれないが、言ってないんだからセーフにしてくれ。とりあえず、親密だと誤解されなきゃいい。それにちょっとだけ協力していただきたいのだ。

 

 嫉妬がらみの敵意は、立海で散々受けた経験があるので一家言あると自負している。あれも結構大変だった。

 単純に彼らに恋をした子たちや、自己顕示欲で彼らを求めた子たち。種類は様々だが、それぞれ厄介さは変わらない。

 

 ―――――彼がほしい(すき)。こっちを見て(だいすき)。私を選んで(あなたがほしい)。

 どうして私は隣(そこ)に立てないの。どうして(ああ)―――――その女ばかり優遇されるの(ゆるせない)。

 

 前者は前者で、こう、すきを免罪符に暴走する子とかが結構大変で。

 後者も後者で、彼女たちにはあいつらがブランド物のアクセサリーか何かに見えているらしい。執着力がすごかった。

 別にチームメイトから恋愛的な感情を向けられたことはなかったし、私だって向けたことはなかった。が、そんなことは彼女たちには関係ないらしい。

 彼女たちにとって私は好きな(ほしい)人の一番近くにいる羨ましい―――――大っ嫌いな、目障りな子。

 

 それに伴い嫌がらせとかもあったわけで。まあ泣き寝入りするほどかわいい性格もしてないから、やられっぱなしじゃなかったけど。

 

 ―――――閑話休題(このはなしはここまで)。

 

 つまり、良好な友人関係を作るには火種対策が大切だということで。

 

 

「……君の交友関係に興味はないが、そう言うのなら雇用条件のひとつとして受け入れよう」

「ひと言多いって言われません?でもありがとうございます」

 

 

 どう考えても余計なひと言を含ませるセリフはともかく、思いのほか寛容に許可を出してくれた上司に、これには私もにっこり。そのまま彼の手を握る。あ、思ったより大きい。

 

 

「ご案内しますね」

「………」

「………渋谷さん?」

「………これは」

「視界が悪いでしょう。これくらいはサポートしますよ」

 

 

 まあこっちの都合で不便を強いているので。そう思った配慮だったのだが、渋谷さんはすっかり黙ってしまった。

 おや、と首をかしげる。もしかしてボディタッチが嫌いなタイプだっただろうか。

 ベタベタされるのは嫌いそうとは思っていたけど、この程度なら気にしないかと。思ったより潔癖だったかな?うーん、でもカーディガンの被りを浅くしてうっかりご開帳されたら困るし。

 

 

「不快かもしれませんが、ちょっと我慢してください」

「……いや」

「校長室までですから」

 

 

 手をつないでいた状態から、位置をスライドして手首を掴んだ状態に変える。こっちならまだ不快指数も低いだろう。

 ただこの握り方はどうしても、握ってる方がイニシアチブを持ってるように見えるから、手と手にしたのは配慮のつもりだったんだけど。エスコートするみたいにつなげばよかったのかな。

 

 まあ振り払われないならこれ以上気にしなくていいか、と気を取り直して校長室を目指した。

 

 

 

 







■ユーザー名:ゆきむら
 他も候補はいろいろあったけど、身内垢なので識別しやすければいいかなって。
 投稿内容は主に趣味のガーデニングの話が多い。コメント返しもめったにしないし、人の投稿にコメントすることも少ない。ほとんど受け身。
 なお、ユーザー名については友人・妹から「もっとひねりはなかったのか」と不評だった。だってやだよ『神の子』とか自分でつけるの。分かりやすくていいだろ。

■ユーザー名:カルピン@猫垢
 猫垢と言っているが基本フォロワーはテニス関係者ばっか。自分も他の猫垢をフォローしたりはしない。見はする。
 他人の投稿とかまったく気にしないから今回の騒動も気づくのが遅れた。
 電話でははぐらかされたから、帰り次第問い詰める気でいたが、幸村はバイトで遅くなるのでムカムカ。
 バイトって何!?テニスは!?

■黒田さんの真贋
 あると言うのならあるでいい。敵意を向けられなければ寛容に対応した。
だって他人が真に理解することはないのだから。

■特別
 人って不思議。特別な存在になりたいって思うくせに、特別であることが重荷だって思う。
 同等の友が欲しいって思うくせに、周りの人間は自分より劣っていてくれって思う。
 ああ、あの子が泣いている―――――きっと、あなたたちにはどうでもいいことなのでしょうけど。

■探ってくる渋谷さん
 目を付けた獲物が満足の品質でにっこり。幸村もおもしれー男を見つけてにっこり。

■あなたの幸せを願います
 たいせつなあなた。いとしい友。どうか何にしばられることなく、笑っていてほしい。

■就労条件
 説得する気満々でいろいろ用意してた渋谷さん。自称霊感女子のおかげで予定よりスムーズに雇用できたのでは大変ご機嫌。

■別に100%信用したわけではない
 おもしれ―男なのはそうだけど、信用できる男かと言われればという感じ。いいように使われる気はないので、ちゃんと立場整えたいな~と、対渋谷さんへの切り札(カード)模索中の幸村。

■噂になりたくなかった村
 アルバイトをすると決めたので割り切った。
 ゆうてふたりとも光り輝く天女のように美しいから、顔隠すのが一番手っ取り早い。

■アルバイトの許可申請
 普通生徒をそんなところで働かせたくないでしょうが、あの校長ならたぶん通るよ。
 あと幸村のパーフェクト説得技能。

■立海での嫉妬だのなんだの
 最初のころは「女の子なのに男テニ入るとか男好きじゃん」って言われてた。ライセンスとか知らん人は知らんだろうし。
 どう対処するかな~ってしてたら、最終的に過激派がラケットにいたずら()したので、「こんにちは。まずは言い分を聞こうか。」した。魔王降臨である。
 その後激強なのとかが知れ渡ったのと、大多数が幸村ファンになったから落ち着いた。いまだ気に入らないって子はいるけど、手を出せる相手じゃなくなったのでおとなしい。
 だから幸村の周囲にはテニス関係者と美化委員関係者しかいなかったんですね。二度と傷つけさせてたまるかという周囲の怒りです。


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