あした   作:雄良 景

6 / 7



 神さまは不平等だ。何が二物を与えずだ。
 どうしてあの子は。あの子ばっかり。
 私が欲しかったものばかり持ったあの子が嫌い。

 人より優れていたかったの。誰にも劣らない価値が欲しかったの。
 でも、でも、こんなの知らない。聞いてない。
 ねえ、特別で在り続けるにはどうしたらいいの。





さっそく波乱万丈

 

 

 

「よーいーしょっと……よし、終了」

「運び込むのはな」

 

 

 両手に抱えた機材をベースの机におろして一息。荷物を運びながら会話を続けた成果か、渋谷さんの態度がだいぶ遠慮なくなった気がする。もともと遠慮してないと言われればそうだけど。

 

 

「こうもたくさんの機材が並ぶと壮観ですね……これは?」

「サーモグラフィ。温度変化をチェックするためにある。霊が現れると温度が低下するんだ。」

「へえ―――――あ、これはレコーダーだ。」

「特定の機材にのみ音声が残るというような現象もある」

 

 

 専門的な話が聞けるのは面白い。他の機材についても「赤外線カメラと、高感度カメラ。暗部を撮影するのに使う。」などと軽く説明してくれた渋谷さんは、そのまま設置した機材のチェックを始めた。

 確かに素人だから教えてくれとは言ったけど、思ったよりちゃんと説明してくれるんだな。「別に知らなくていい」とか言われる可能性もあると思ってたんだけど。

 

 

「私は次に何をすれば?」

「各教室の温度を計ってきてくれ。そこにデジタル温度計がある。」

「計測地点は入り口ですか?それとも中心?」

「……それぞれの教室自体はそこまで広くない。中心地点で計測してくれればいい。」

「ああ、広い空間はほとんど解体済みでしたっけ。記入用紙はありますか?」

「温度計と同じ箱に記録用紙とバインダーが入っている」

 

 

 簡潔で分かりやすい指示だ。いろいろ興味がわくけれど、質問しすぎたら不機嫌になっちゃうかな?

 うーん、あえて不機嫌にさせるのも……いや、これで関係が気まずくなったら後が面倒だな。

 それにこれは仕事だし。

 

 

「じゃ、いってきます―――――……? 渋谷さん?」

「……いや、何でもない」

 

 

 出発しようとしたら熱視線。でもはぐらかされてしまった。

 まあいいか。仕事仕事。さすがにひとりで回るのは少し不安だけど、慎重な渋谷さんがひとりで行かせるってことは大丈夫なんだと思っておこう。

 何かあったら労災出してくださいね、渋谷さん。

 

 

 

■

 

 

 

 結果として、異常と言えるような数値はなかった。

 

 

「強いて言えば1階の奥の部屋の温度が低いが……」

「うーん、そこらへんはちょうど日の当たらない場所なので、別におかしいと言うほど低いわけじゃないですからね……」

「だがこれは霊がいないという証拠ではない。霊はシャイだから、継続した調査が大切なんだ」

 

 霊がシャイ。それは想像もしたことない知見だった。

 ホラー映画とかの印象で、逆に自己主張が激しいタイプだと勝手に思っていた。あとなんか渋谷さんがシャイって言うのちょっと面白い。

 部外者が来て様子見をするのは理性的なのか本能的なのか。

 

 

「霊にはテリトリー意識があるんですか?」

「具体的には感知できる範囲(・・・・・・・)がある、という認識の方が正確だ。例えば生前関係のあった家、人物、関係性……それらへの執着により、それら周辺を自分の感知内(・・・)とする傾向がある。

 あるいは死後ゴーストとして長期間とどまっていた場所、憑いていた人、物に馴染み(・・・)、それを感知内とするケースもある。

 だから幽霊屋敷(ゴースト・ハウス)に調査に行ったとして、屋敷内に入ってもなんの反応もないというのに、特定の部屋に入ったり、あるいは住人、物に関わったとたんに強く反応を示すというのはよくあるんだ。

 逆にそういった執着の薄い、いわゆる『浮遊霊』の類は反応が薄い。執着するものがないから留まらない。しかし道を失っているからどこにも行き着けず、霊媒のようなコンダクターからもアクセスしにくい。」

 

 

 よどみなく知識を披露してくれる渋谷さんに感嘆の息を吐く。この人本当に、業者というより研究者でマニア。講義を受けてる気分で興味深く、面白くって楽しい。

 

 

「浮遊霊になるのは何か条件があるんですか?」

「例えば?」

 

 

 質問で返された。つまり、私の意見を聞きたいってことかな。とはいえ、専門外の分野に素人が出せる例えなんてたかが知れていると思うけど。

 

 

「例えば、自分が死んだという自覚や記憶がなければ、自分が幽霊であるという自意識がない、とか。

 自分が何かに執着していたかすら覚えていない……あるいは生前から何にも執着していなかった人の場合、こう、浮遊霊適性が高いとか?

 というか、現世に霊として残っているのはきちんと供養がされていない場合になるんですかね。供養されても執着が勝る場合もあるのかな。

 あとはもともと、ものすごく強固に自分の殻の中に閉じこもった人格で、周りに干渉せず干渉させずなタイプだったとか?」

「―――――ふうん」

 

 

 そこで会話が終わった。

 

 ―――――終わったのだ。

  

 聞くだけ聞いて特に意見も感想も答え合わせもせずに、そのまま考え事を始めたんだけどこの人。私の例えがお気に召して考え込んでるってことか?ありがとうございます?

 じっと渋谷さんの顔を見ても何の反応もない。ちょっと距離を詰めてもピクリともしない。……鼻がくっつくくらい近づいても気づかない。えー……とちょっと引きながら離れた。すっかり心ここにあらずとばかりの集中度で考え事をしているようだ。

 

 これは仕方ない。考え込むタイプはこうなったら手に負えない。だからそ~っ両手を上げて―――――

 

 バチンッ!!

 

「っ!!?」

「はい渋谷さん、指示をくださいね。次の私のお仕事は何ですか?」

 

 

 ―――――渾身の『猫だまし』をしてみた。

 

 渋谷さんは目をまん丸くして、ものすごくびっくりしてた。思わずからかいたくなったが、ここでからかったらキレるだろうなあと思ったので、何食わぬ顔ってやつを装って仕事を求める。

 

 

「一階と二階の廊下に四台、暗視カメラを設置する」

 

 

 声ひっく。ああだめだ笑うな幸村聖子。ここで笑うと渋谷さんの機嫌が最下層まで落ちる!

 

 

「早く機材を運べ」

「はーい」

 

 

 やっぱり渋谷さんは楽しいな。

 え?マイクの件でバカにされた仕返し? まさか、そんなことないさ。……あはっ!

 

 

 

■

 

 

 

「接続具合はどうですか?」

「問題ないだろう。あとは夜間の様子を録画して確認するだけだから、もう今日は帰っていい」

「了解です。……それにしても、ゴーストハンターって言うよりテレビ局って装備ですよね。想像してた霊能者とはちょっと違う。」

「霊能者じゃない、ゴーストハンターだ。一緒にするな。」

 

 

 カメラを設置し終えたころには渋谷さんのご機嫌もある程度戻っていた。のでちょっとした雑談をしてみたら、割と強めの否定をされた。え、違うの?

 

 

「そういえば、退治ではなく調査がメインってお話しでしたね。ゴーストハンターって霊能力者ってくくりじゃないんだ。じゃあ研究者ですか?」

「ゴーストハンターのメインは検証だ。科学的なアプローチをもって、幽霊現象とされているものが本当に超自然的なものなのかを調べるのが仕事。除霊などについては霊能力者と連携している場合しかやらない。ゴーストハンターがするのはあくまで現象の検証、解析だ。」

 

 

 なるほどなあ。渋谷さんは私がとったデータを見ながら「明日の放課後もできるだけ早く来い」とだけ言って背を向けた。わあ淡白。そういうのは顔見て言おうよ。と思ったら急に本人が振り向いた。

 

 

「さようなら」

 

 

 ………えっ。え、いま渋谷さんが「さようなら」って言ったの?まってこの人ほんとに面白いな。

 

 

「ええ、また明日」

 

 

 とりあえず声も顔もにやけないようにだけ気を付けて、逃げるように旧校舎を出る羽目になったことを報告します。危ない危ない、大笑いするところだった。

 

 

 

■

 

 

 

 帰宅したらボウヤに詰め寄られた。SNSのことかと思ったらバイトについてらしい。ああ、南次郎さんに報告したからそこから聞いたのかな。

 詳しく話をしてあげたらボウヤの機嫌が死ぬほど悪くなったんだけど。ボウヤそのドスの利いた声どこから出してるの?今日は面白いことが多すぎる。

 

 

「ちょっと聞いてんの」

「待って笑いすぎてお腹痛いんだ」

「そのまま筋肉痛になれば!!」

 

 

 

■

 

 

 

 次の日、学校に登校すれば瞬く間に恵子ちゃんたち3人に取り囲まれ、質問攻めされた。うんまあ想定の範囲内ではある。

 質問内容を要約すると、渋谷さんの話とは何だったのかってこと。なので流れに乗じて渋谷さんが転校生ではないことを言ってしまうことにした。

 そもそも彼は校長の依頼で旧校舎解体のための調査に来た業者であったこと。

 登校前にたまたま遭遇して、急遽人手が必要になったからバイトを頼まれたこと。

 バイトの許可申請と仕事内容の説明のために迎えに来てくれたこと。

 時系列をちょっといじっているけど、結果は変わらないからOKのはず。余計な詮索を受けないように、ちょっとした調整(・・)をしただけだ。

 それにしても、なんだか三人との距離が縮まった気がするので、渋谷さんにはちょっと感謝してもいいかもしれない。

 

 三人はとても驚いた様子だったが、そこに負の感情は見当たらなかったので安心した。その衝撃で、私が渋谷さんに片思いしている的な誤解も飛んでってくれないかなと思うのだが。

 そんなやり取りをしていると、不意に私の背後を見た三人の顔がこわばった。

 

 

「ちょっと、幸村さん」

  

 

 ―――――へえ。そう。

 

 

「あの人、霊能者なの?旧校舎を調べに来たって聞こえたけど」

 

 

 ちょっと驚いた。昨日の今日でよく話しかけてこれたね、黒田さん。若干腰が引けてるように見えるけど、案外度胸があるなあ。そこだけは評価してもいいよ。褒めてないけど。

 

 

「霊能者じゃない(・・・・・・・)そうだよ。学校の依頼で旧校舎を解体できるように(・・・・・・・・)調査しに来たんだって。少なくとも、君が想像しているようなお祓いとか、退治をするような人たちではないよ。」

 

 

 意図的に情報を絞っただけで、嘘はひとつも言ってない。

 それにしても、相変わらず睨まれてるなあ。―――――うっとおしい。

 

 私は黒田さんのことが好きじゃない。そして、私は結構自分本位だ。自覚がある。だから―――――気に入ってる人に、気に入らない人が近づくのが嫌だ。ましてやそれが、迷惑をかけられそうならなおさら。

 

 

「彼は校長の依頼で来た業者だよ。そして責任者だ。」

 

 

 紹介してほしい? 霊能力があるから調査に役に立てる? どうでもいいよそんなこと。

 

 

「君は昨日散々、渋谷さんに霊能力をアピールしてたじゃないか。必要だと思ったら彼から声をかけるだろうさ。呼ばれないなら君は必要ないということだ。」

「っそんなのわからないじゃない!私が居れば、」

「必要かどうかを決めるのは責任者である渋谷さんだ。渋谷さんは現時点で君に声をかけてない。

 それに、私と渋谷さんは君に対して同じ程度の情報しか持っていないんだから、改めて紹介するも何もないだろう。」

「あなたじゃ話にならないわ! 私が、私が―――――」

  

 

「私が(・・)、何?」

 

  

 君はずっと、自分の事ばかりだね。それを悪いとは言わないけれど、それによってこっちに被害が出るなら、こっちだって対抗するさ。

 

 

「一応言っておくけど、営業妨害はしないでね。―――――それから」

 

 

 これは、穏便に済ませるのなら言わなくていいこと。そして彼女を傷つけるだろうこと。それでも突っかかってきたのは君で、最初に攻撃してきたのは君だ。

 私は君に黙って殴られ続ける理由がない。

 

 

「目立ちたいのか知らないけど、私を巻き込むのはやめてくれ。君の自己中は不愉快だ。」

 

 

 自分が居ればと言うのなら、わざわざ渋谷さんを介さないでも、好きなように除霊なりすればいいじゃないか。

 そこまで言えば黒田さんは数歩後ずさり―――――それでも私を睨みつけてから自分の席へ帰っていった。

 ああ、気分が悪い。

 

 

「幸村さん、大丈夫?」

「あ」

 

 

 ―――――やってしまった。

 ドバっと背中に冷や汗が流れた。やばいやばい。

 

 

「あ、ああ、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 

 声は引きつっていなかっただろうか。ああ、昨日といい思い切り三人の前で黒田さんに攻撃してしまった。せっかく仲良くなれてきたのに、引かれてないといいけど……

 

 

「あいつ中等部のころからアブナイって言われてたんだよ」

「うん、あたしたちも黒田さんも内進組なんだけどさ、ずっと『私には霊能力があるの』って言ってて……」

「最初は面白かったけど、まあその話しかしないし、すぐ怒るから怖くてさぁ……言ってることもワケ分かんないし。あっ、でも今の幸村さんのはスカッとしちゃったなぁ!」

 

 

 パッと明るい笑顔で恵子ちゃんが笑ってくれる。よかった、引かれてないらしい。

 にしてもこの様子だと、彼女のあの様子に周りはフラストレーションが溜まってるってことか。まあ上から目線で説教臭くマウントとってくるタイプみたいだから、同級生の、ましてや十代の子たちからすればウザったく思うか。少なくとも一年以上あんな感じでこられてるようだし。

  

 ―――――私には彼女の霊感が本物なのかは分からない。興味もない。けど、昨日の様子を思えば『ごっこ』だろうなあとは思う。

 赤也も昔「俺幽霊見たんスよぉ~」とか「ぶっちゃけお化けとか出てもよゆーでしょ!マジ俺の方が強ぇーっスよ」とか調子に乗ったこと言ってたし―――そして散々仁王と丸井にからかわれて泣いてた―――それに近い感じなんじゃないのかな。

 人と違う体験、体質、自分が持っている特異性。そういったもので周囲から突出する快感というのは、思春期にハマりがちなドーパミンだ。

 ただ、一発芸はこすりすぎても味がなくなる。固執するのではなく柔軟な刷新が必要なところを、適応できずに他責に走る。おまけに束縛し操作することで自分の優位性を保とうとして、拒絶され、孤立……というのが、現在につながる過去の流れだろうか。

 

 よくある話。厳しい言い方をするなら、客観視と自己制御の欠如による自壊。いずれにせよ、彼女の進退なんて私には関係のない話だ。

 ただ、現在私の周辺事情で彼女との接点ができてしまっていること、そして当の本人がなぜか最初から私に敵意を向けてくること。この二点により対応が必要になっているだけで。

 それが気に入らない。ほんとうに、嫌。

 

 

「―――――さ、もうすぐチャイムが鳴るから座ろうか」

 

 

 どれくらい嫌って言うと、話題に出るのも嫌。

 

 

 

■

 

 

 

 放課後になり、約束通り旧校舎へ向かう―――前に、制服からジャージに着替えた。昨日のような手伝いが続くなら、動きやすく汚れに強い格好の方がいい。

 だから今日は立海で使っていた指定ジャージを持ってきた。もう使わないものだからね。

 改めて旧校舎に向かえば、渋谷さんは車の中で作業していた。

 

 

「こんにちは」

「ああ、―――――」

 

 

 声をかければ視線が向けられ、また言葉を飲み込まれた。……ただ、昨日の「さようなら」で何を飲み込んだのかは見当が付くから、微笑ましくなる。

 つっつきたいなあ。多分昨日の私への対応からして、軽くからかうくらいなら許容範囲だと思うんだよなあ。

 

 

「何か進展はありましたか?」

「いや、昨日集めたデータのチェックをしたが、特に異常は見られない。霊がいないのか今は息を潜めているのか……

 どちらにせよ、やはり大したことはないだろう。」

 

 

 ―――――いや、まだもうちょっと大人しい優等生でいようか。

 パソコンに表示されているデータを見せてもらいながら、まじめな顔で説明を聞いておく。

 そうしていると、ふと背後から足音が聞こえることに気づいた。振り向いて確認をして、とん、と隣の肩を小突いた。

 

 

「―――――渋谷さん、お客様みたいです」

 

 

 

■

 

 

 

「へえ! いっぱしの装備じゃない」

 

  

 やって来たのは派手な身なりの若い男女がひとりずつ。

 ……この機材を見て装備って言うってことは、調査のことを知っている人か。

それにしても、第一声の感じが悪い。声には見下したような色が見えて、こう言ったら失礼だろうけど、嫌みな女の典型例みたいだ。

 

 

「子供のオモチャにしては高級すぎるカンジねぇ」

「……あなたがたは?」

 

 

 鼻で笑ったような声。しかしさすがの渋谷さん。表情も声色も一切変わらず対応する。なるほど、この程度の嫌みはどうってことないと。お見事。

 

 

「アタシは松崎綾子。よろしくね。ボウヤの名前は?」

「あなたのお名前には興味ないのですが」

 

 

 前言撤回。嫌みには嫌みを返すタイプだった。

 ひくり、と松崎さんとやらのくちの端がひきつる。まあ「あなたは?」って聞かれたら普通自己紹介するよね。ははは、面白くなってきた。

 

 

「おキレイな顔だからって随分生意気じゃないボウヤ」

「おや。僕の顔がキレイだと?」

「なによ」

「いいえ、趣味は悪くないんだな、と」

 

「「 ぶはっ 」」

 

 

 名も知らない男の人と同時に吹き出した。

 いや、でも、これ仕方なくない?思わず男の人と見つめあってしまった。そっちの坊主は良い性格してるな、と目で言われた気がしたので、そうでしょう、と頷いておく。男の人はニンマリと笑う。

 

 

「なっ、なっ、っこの……!!とんだナルシストね!いいわよ、あたしだってアンタの名前になんか興味ないわ、あんたなんて『ナル』よ『ナル』!ナルシストの『ナル』!!!!」

 

 

 わあ、松崎さん大噴火。―――――それにしても、ナルって渋谷さんがリンさんに呼ばれていたあだ名だよね。すごい偶然だな。さすがにそっちはナルシストのナルじゃないだろうけど……違うよね?

 渋谷さんもさすがに驚いたのか、ギョッとした顔をして松崎さんを見てた。

 リアクションの理由はネーミングセンスではないが、そうとは知らない松崎さんは、氷の面が崩れたことに満足したらしい。高笑いしながら「かわいいじゃない、ねえ、ナル!」と追い打ちをかけた。

 自分が有利になると調子に乗るタイプか……かわいそうに(・・・・・)。巻き込まれたくないので一歩、渋谷さんから離れる。

 

 

「―――――松崎さんは同業者(・・・)ですか?」

「ま、そんなところかしら?アタシは巫女よ」

「へえ」

「………なによ」

 

 

 え、巫女? 思わず松崎さんの顔をまじまじと見てしまった。巫女って言ったら神社に居るような巫女さんを想像するんだけど―――――あんまり見えないな。

 その場の視線が無言で自分に集まった上に、渋谷さんも含みを持たせたような相槌を打ったものだから、松崎さんの不快ボルテージが上がったのが見て取れた。声が3オクターブくらい低くなってる。

 まあでも、最初に仕掛けたのは松崎さんだからなあ。 

 

 渋谷さんは輝くほどの微笑みで、松崎さんに吐き捨てた。

 

 

「巫女とは清純な乙女がなるものだと思ってました」

 

 

 ―――――もしかして渋谷さん、今「厚化粧の派手なババア」って言った?いや、その、性格的な意味で言ったのかもしれないけど。……そうだよね?

 さすがに私は笑わなかったが、男の人は腹を抱えた大爆笑だった。

 

 

「ああらそう見えない!?」

「少なくとも、乙女と言うにはお年を召されすぎと思いますが」

 

 

 やっぱり言ってる!さすがにライン越えじゃないか渋谷さん!

 頼むからそれ以上の含みはあってくれるなと思わず祈る。例えば「その歳でもまだ純潔(・・)なんですか」みたいな方向のやつ。

 ええ、これはさすがに、私渋谷さん側にもつけないぞ。

 

 

「あっはっはっはっは!!そのうえ清純というには化粧が濃い!!」

 

 

 怒りですっかり言葉が出なくなってしまった松崎さんに、男の人は追い打ちのような援護射撃を浴びせてきた。なんだこの空間、デリカシーが死んでる。

 最初に刺してきたのは向こうで、多分渋谷さんも、だから相手に刺さる返しをしただけだろうとは思うが。

 渋谷さんって年齢いじりするタイプなんだ。いや、年齢じゃなくて、巫女という役割にそぐわない、ふさわしくない人間に見えるって意味だったの、かも?

 ……実際のところ、年齢いじりってあんまり刺さらない女性の方が多いよね。年齢をいじられたことじゃなくて、悪意を持って自分の属性を侮辱されたことに怒ってるだけで。

 

 そして図ったのか図らずか渋谷さんの援護をした形になった男の人は、しかし渋谷さんにとって味方ではないらしい。

 

 

「あなたは?松崎さんの助手ではなさそうですが」

「はは、冗談だろ?」

 

 

 あ、松崎さんがヒエラルキーの最下層扱いになった。

 いやーハラハラしたなさっきの掛け合い……今回は仕掛けた以上の返しがされてしまっているが、ケンカを売る相手が悪かったということで。特に渋谷さんみたいなのを相手にするのはリスクが高いよ。

 

 

「俺は高野山の坊主で滝川法生ってんだ。おっと、名前には興味がなかったか?」

「高野山では長髪が解禁になったんですか?」

「はん、破戒僧じゃない」

「だーっ! 今は山を降りてんだって!」

「虚偽申告ですか?」

「えっ、あーっ、言葉の綾みたいなもんだよっ」

 

 

 キレッキレの渋谷さんに今度は松崎さんが援護射撃を繰り出した。まあ間違いなくさっきの仕返しだろう。おそらく男の人、滝川さん?も理解したのか、今度はそっちがタッグ組むのか!という顔になった。

 まあ渋谷さんはどっちとも組んだつもりはないだろうけど。

 ついでに私も参戦してみた。肩書の詐称だなんていけないなあ。うん、そんな『裏切ったな』みたいな顔されても。だってあなた、そりゃあ一緒に笑いましたけど、そもそも最初から私たちのこと見下した顔してたでしょ。見えてましたからね。

 

 

「とにかく!子供の遊びはここまでよ。こっからは任せなさい」

 

 

 松崎さんは滝川さんに一撃を与えたことで調子が戻っちゃったらしい。また見下したような声で「校長はあんたじゃ頼りないんですってよ。いくら何でも十七じゃあねえ」と笑った。それに滝川さんも「所長があんな子供じゃサギだって言ってたぜ」と笑った。

 

 ―――――ふうん、そ。

 

 自分の表情が抜け落ちたのが分かる。「あの校長も大ゲサよねえ」と続ける松崎さんから、体ごと視線をそらした。

 振り向きざまに一瞬見えた滝川さんの、目を見開いた顔は少し気になったけど。

 

 

「渋谷さん、今日は何をしますか?」

 

 

 渋谷さんはちらりとこちらに視線を向けた後、反応がなさ過ぎるから経過観察かアプローチを仕掛けるか、と呟いた。

 松崎さんの大きなひとり言(・・・・・・・)を無視する形になったけれど、松崎さんが何かを言う前に、滝川さんが渋谷さんに話しかけた。

 

 

「そーいやボウズ、名前はなんてんだ?オニーサン(・・・・・)は興味あんだよなぁ、そっちのな・ま・え」

「……渋谷一也です」

「ふん、聞いたこともないわ。三流じゃない」

「おっと、俺は松崎ナントカなんて名前も聞いたことないぜ」

「あーら勉強不足じゃないかしら!」

 

 

 喧々と続くふたりの喧嘩。けど、気のせいだろうか。今、滝川さんに、フォローされた……?

 確証はないがそう思ってしまい、彼の中で何があったのだろうかと視線を向けて―――――その背後に、見たくもないものが入った。

 

 

「ああ―――――いや、そうかこれは」

「どうした」

「すみません渋谷さん。……面倒ごとを、呼んでしまったようです」

「何……」

 

 

「ああ!」

 

 

 ―――――歓喜に震える声が響く。そこにいたのは黒田さんだった。

 

 

 

■

 

 

 

「よかったわ、旧校舎は悪い霊の巣で私困ってたんです!」

 

 

 旧校舎側から順に、渋谷さんと私、松崎さんと滝川さん、そして黒田さん、という立ち位置では、黒田さんの方を振り返ったふたりの表情は見えない。が、どことなく雰囲気が固くなった気がする。

 対して黒田さんはなんとも幸せそうな顔だ。――――その目が、一瞬私をとらえて、悦に歪む。

 

 

「……あんたが、どうしたって?」

「私霊感が強くって、それですごく悩まされ―――――」

 

「自己顕示欲」

 

 ―――――はは、お見事松崎さん。……渋谷さんも言わなかったよ、そこまでは。

 

 嬉々として霊感アピールを始めた黒田さんは、松崎さんに切り捨てられた。それはあまりに冷たい声で、さっきの見下し声がかわいいほどだ。

 いっそ感情を感じさせないほど―――――この反応になるプロセスを、私は理解できる気がする。

 でも、そうだと言うのなら松崎さんは本物なのだろうか。……いや、判断材料が足りないな。

 滝川さんは呆れたような溜息を吐いていたけれど、松崎さんを止めはしなかった。それは言外に、松崎さんへの同意を示しているととらえられる。

 

 そのままバサバサと言い捨てる松崎さんに、黒田さんの表情はどんどん凍り付いていく。

 同意してくれると思ったのだろうか。君の能力は本物だと。君の言っていることは本当だと。

 

 

「面倒ごととは彼女か」

「はい。今朝、渋谷さんは霊能者かと聞かれて。旧校舎解体のための調査に来た業者だと誤魔化したんですが、霊感がある自分は役に立つはずだと紹介を迫られました」

「断ったんだな。が、それでは引かなかった」

「そう。そして、まあ、私もちょっとカッとなりまして……」

「できるのなら除霊すればいい、とでも言ったか?」

「その通りです。うかつでした。すみません。」

 

 

 時間を置いた今だから反省できる。昨日の今日で気が立っていた結果がこれだ。同時に侮っていたのだとも思う。どうせくちだけだと、これだけ言えば怯むだろうと。

 冷静になって考えればあのキャラクター(・・・・・・)を1年以上続けている時点で、異常に我が強いか引っ込みがつかなくなっているかと考えられるのに。そんなタイプを煽ったところで、火が大きくなるだけだ。やりくちを間違えた。

 調子に乗っていたのは、私だ。

  

 

「―――――だったら、その子はどうなのよ……!」

 

 

 噛みつくように、黒田さんが私を指さした。視線が私に集まる。―――――そうだな、自己嫌悪は後だ。

 ゆっくりと、腕を組む。重心を、片足へ。それだけで傍目から見れば尊大な態度に見えるだろう。

 

 

「どうもなにも、私は雑用のアルバイトさ。校長先生から許可ももらっているから、私がここにいることは何らおかしいことじゃない。君と違ってね。」

 

 

 ゆっくりとした動作は余裕があると認識される。被害者面はしない。上下関係をたたき込むように、私は単体で黒田さんに負けないということを示さなくてはいけない。

 今後の対策は後で考えるとして、今は早くこの部外者を追い出さなくてはいけない。

 優しく寄り添う?増長するだろう。言い分を肯定する?歯止めが利かなくなるだろう。だからここで必要なのは追い打ち。可能であればとどめを刺したい。

 

 

「なによ―――――なによ、なんでアンタばっかり(・・・・・・・・・・)……っ、いつも(・・・)、アンタばっかり(・・・・・・・)!」

「黒田さん、言ったよね。君が必要なら声がかかるはずだって。勝手なことをして仕事で来ている人の邪魔をするなって。同じことを二回も言わされるのは好きじゃないんだけど―――――」

 

 

 黒田さんは息荒く睨みつけてくる。獣みたいな目だ。けれどそんなもの、怖くもなんともない。

 

 

「君の自己中は不愉快だ」

 

 

 しいん、と場が静まる。視界の端で滝川さんが「うわ~言ったァ~」みたいな顔をしているのが見えた。だって黒田さんがここに来た責任の一端は私にあるようなものだから、後片付けはしっかりしとかないと。 

 黒田さんは少しうつむいて、むっつりと黙り込んで、そうしてポツリとこぼした。

 

 

「アンタ、本当に嫌い」

「奇遇だね、そこだけは気が合ったみたいだ」

 

 

 嫌みを返してみたんだが―――――黒田さんは聞こえていないかのように無反応で、代わりに松崎さんを睨みつけて「私を馬鹿にしたこと、今に後悔するわニセ巫女。霊を呼んでアンタに憑けてやる」と吐き捨て去っていった。

 

 

 

■

 

 

 

「―――――あ~~、そういや嬢ちゃん、会話からしてこの学校の生徒か? 着てるジャージは違う学校みたいだけど」

 

 

 黒田さんが去って妙な沈黙が生まれた場で、空気を変えるように滝川さんが話しかけてきた。今のところ態度は最悪だが、根は面倒見いいのかもしれない。

 

 

「中学の時の指定ジャージなんです」

「ほお?ああ、旧校舎なんて汚れるもんな。使わなくなったやつの方がいいか」

「まあそんな感じです。」

 

 

 実際、昨日は制服が埃まみれになったのだ。帰ってからきれいにするのに苦労した。

 

 

「さ、渋谷さん。仕事をしましょう。結局今日はどうします?」

「……そうだな、怪談に出てきた人影があったという教室に機材を設置してみるか」

「ああ、二階の一番西側ですね、了解です」

 

 

 滝川さんとの話は簡潔に切り上げ、渋谷さんと仕事の打ち合わせをする。意識を切り替えてさあ仕事だ、というところで―――――「おいあれ、」と滝川さんが声を上げる。

 顔を上げればこちらに歩いてくる人影が見えて、またもや同業者(・・・)が増えたことを察した。どうやら今度は校長もご一緒の様子。

 ……一度に来てくれないかな!

 

 

「やあ、おそろいですなあ。実はもうひと方お着きになりましてね、ジョン・ブラウンさんです。まあ仲良くやってくださいよ。」

 

 

 今ひと悶着あったばかりですが。なんなら原因の一端は校長先生ですが。仲良くは本人たちの性格的に厳しそうですが。……とはさすがに言わないけれども。

 校長先生はずいぶんと人を集めたな。巫女に、坊主に、ゴーストハンターに、今度は感じの良さそうな美少年か。うーん、普通の服だから役職が分らないな。

 ブラウンさんはにっこりとわらって深く頭を下げてくれた。おお、礼儀正しい―――――

 

 

「もうかりまっか」

 

 

 わあ。

 

 

「ブラウンいいます。あんじょうかわいがっとくれやす。」

「その、ブラウンさんは関西の方で日本語を学んだようで……」

 

 

 大人ふたり組が背後で必死に笑いをこらえてる声がする。こらえきれていないけど。

 校長は逃げるように帰っていったが、ブラウンさんは「おおきにさんどす」とまた頭を下げていた。この人もしかしたらこの場で一番まともなんじゃないか?

 

 

「……ブラウンさん?どちらからいらしたんですか?」

「へえ、ボクはオーストラリアからおこしやしたんどす」

「おいボウズッ!たのむからその変な京都弁やめてくれっ!」

 

 

 さすがの渋谷さんも、一切の敵意も害意もない善人オーラ溢れるブラウンさんをこき下ろす気はないらしく、いくらか柔らかい口調で話しかけた。

 それにしても大人たちは笑いすぎでは?「せやけど丁寧な言葉いうたら京都の言葉とちがうのんどすか?」と純真な顔をしているブラウンさんは困った様子で、これ以上大人が日本の顔に泥を塗るのは防がなくてはという気になる。そもそも、彼には笑われる謂れはないだろう。

 

 

「ブラウンさんは京都の言葉が丁寧な言葉だと思って勉強されたんですね」

「へえ、郷に入らば郷に従えて聞きましてん。失礼のあらへんように一番丁寧な言葉を習うたつもりやったんどすけど」

「とても素敵ですね」

「そ、そうですやろか」

 

 

 ほわ、と嬉しそうに笑ったブラウンさんに、ようやく大人たちも笑いが収まってきたらしく、息を整え始めた。遅い。

 

 

「簡単に説明すると、京都の言葉は方言の一種で……ブラウンさんのなまり(・・・)は日本人でも珍しいくらいなので、少し驚きました。」

「そうやったんどすか……あのボクはあんさんらに不快な思いをさせてもうたのでっしゃろか」

「いいえ、まったく」

 

 

 おっと、そこだけは否定しておかなくては。少し不安そうなブラウンさんに素早く否定を入れておく。まったく、いい大人が腹を抱えて笑うからこんな誤解がされるんだ。

 

 

「京都の言葉だって立派な日本語ですよ。特に京都では誇る人も多いでしょう。日本人には片言の英語もしゃべれない人だって多いですから、流ちょうに日本語をお話しされているのがすごいと思います。」

 

 

 あなたたちのことですよ、おふたりとも。ぴったりと息を潜めていらっしゃるあの人たちは、ネイティブ相当に英語喋れるのか。できもしないのであれば、それがひとの日本語は笑うのだから、どっちが笑い者なのか。

  ブラウンさんはほんの少し頬を染めて、控えめに頼みごとをしてきた。

 

 

「そやったらボクの言葉、伝わらへんようやったら教えてもらえまへんか。ちょいとでもええですさかい」

「喜んで」

 

 

 あ、即答しちゃった。……そっと渋谷さんを窺ってみたけどどうやらお咎め無しのようだ。これはブラウンさんが渋谷さんのお眼鏡にかなったのかな?

 

 

「えっと、あんさんらとは仲良うさせていただきたいんどすけど、あんさんらは全員霊能者どすか?」

 

 

 言い終わって、ブラウンさんはちらりと私を見た。あ、その場で添削していいのこれ。肝が据わってるというか、器が広いというか。

 少し考えて、「あんさんら」を「みなさん」に、「どす」は「です」にする方が伝わりやすいと言ってみた。

 

 

「せっかくの京都弁ですし、程よく残しましょう。親しみもわきますから」

 

 

 というかシンプルに京都弁のブラウンさんが癒される。いいなあ、今日疲れることばっかだったから、ちょっとすっきりしてきた。

 渋谷さんはブラウンさんの質問にちょっと苦笑いして「そんなものかな」と肯定した。やっぱりブラウンさん、渋谷さんに気に入られたな。私には「一緒にするな」って言ったのにこれだ。すごいなブラウンさん。

 君は?と続けた渋谷さんに、ブラウンさんはニコッと笑った。

 

 

「へえ、ボクはエクソシストいうやつでんがなです」

 

 

 ―――――ふと、空気が少し張り詰めた。エクソシストって、悪魔祓い?へえ、本当に居るんだ。ああいや、本物ならって話だけど……ブラウンさんのことは疑いたくないなあ。

 

 

「相槌や返事は、はい、の方がいいかと。それから、でんがな、はなくても大丈夫だと思いますよ」

「えっと、はい。なるほど……」

 

 

 空気を気にせず伝えれば、ブラウンさんは素直に受け入れてくれる。人間ができてるなあ、すごい勢いで株が上がっていく。

 

 

「エクソシストということは、ブラウンさんはカトリックの司祭以上、ということかな。ずいぶん若い司祭だね」

「はい、ようご存じで。せやけどボクはもう十九です。若ぅ見られてかなわん(かなん)のです。」

 

 

 わあ年上だった。こんな……童顔……真田の立場がないな。

 ちなみにブラウンさんには指でオッケーマークを付けておく。いい塩梅のなまり方だ。

というかすごいな、美少年を自分好みにカスタマイズしてるぞ私。

 

 

 

■

 

 

 

 さて。じゃあ仕事に、と渋谷さんと私、そして心を開いてくれたブラウンさんがベースに向かえば、なぜか松崎さんと滝川さんがついてきた。なんで?寂しがり屋か。

 

 

「By the way, I don’t think I caught your name. May I ask?」

 ―――そういえばお名前を聞いていませんでした、お聞きしても?

「I'm Seiko Yukimura.……ふふ、I’m younger than you, so please feel free to be more casual with me.」

 ―――幸村聖子です。……ふふ、私の方が年下なんですから、もっと気軽に話していただいて構いませんよ。

 

 私とブラウンさんは大人ふたりに構わず会話をすることにした。……本当は日本語でたくさん会話した方が彼の練習になるのだろうけど、故郷の言葉の方が会話がしやすいのではないかというお節介だ。

 ただ、「Would you like to chat for a bit?(少しだけお話しませんか?)」と話しかければ彼もリラックスした表情になったので、失敗ではないはずだ。

 ちゃんと勉強しててよかった。私もイギリスやシンガポールやらに行ったときは、日本語で話しかけられたら安心したなあ。味方感があるのかな。

 

 

「Thank you. But you’re my teacher, after all—you’re helping me with my Japanese.

 Don’t worry about the age difference—you can relax around me, too.」

 ―――ありがとう。でも貴女は私の日本語学習をサポートしてくれる先生だからなあ。貴女こそ歳を気にせず、もっと気軽に話してよ。

 

 

 おっと、ちょっと意外なことを言われて驚いた。けれどそう、そうか。

 

 

「I’m learning English by talking with you, too, so you’re also my teacher.」

 ―――私だってこうしてお話しさせてもらったことで、英語の学習になっていますから、あなたも私の先生ですね。

 

 

 彼の心遣いが嬉しくって、口角が上がって声が漏れそうになる。

 

 

「That means…… we’re equals.」

 ―――つまり……私たちは対等だ。

 

 

 歩きながら目を合わせて笑いかければ、ブラウンさんはすぐに意図に気づいてくれたらしい。嬉しそうに笑いながら頷いてくれた。

 

 

「Let me introduce myself again. I’m John Brown―――please, call me John.」

 ―――もう一度自己紹介をさせてほしい。僕はジョン・ブラウン。

 ―――どうかジョンって呼んでほしい。

「Funny, I was thinking the same thing. Call me Sei. I’d like that, coming from you.」

 ―――奇遇だね、私もそう思っていたんだ。私のことはセイって呼んでよ。君にはそう呼ばれたい。

 

 

 思わずふたりとも笑い声が漏れてしまった。今日のイヤなことが全部吹き飛んだ。

 

 

 

■

 

 

 

 ベースの道中はジョンとの話がはずんだが、渋谷さんは咎めなかった。やっぱりこの人ジョンの事気に入ってるな。

 ちなみに大人ふたりは私とジョンをまじまじと見てきたけど、特に何も言われなかったし、視線にも剣呑なものはなかったのでスルーしておいた。

 さすがにベースに着いたらしゃべりを止めて仕事モードに入る。ここでしっかり切り替えられるところがとても素敵だと思うな。

 

 ベースに所狭しと並んだ機材を見た松崎さんと滝川さんはギョッとしていた。まあそうだろうなあ、壮観だし。

 けどジョンはそこまでリアクションがなかったから、もしかして海外じゃ珍しくないのかもしれない。まあゴーストハントって名前からして海外主流っぽいしな。

 

 

「じゃあ2階に機材運びますね」

「ああ。……それから、例の教室の真下、1階の1番西にも設置してくれ」

「了解です、ボス」

 

 

 仕事は増えたが、一瞥もなくパソコンに向き合った渋谷さんの姿を見れば、設置はすべて私がする想定なのだと察する。いや設置方法は教えてもらったけどさ、と少し苦笑いがこぼれた。まあそれが私の仕事だからいいんだけど。

 

 

「I’ll give you a hand.」

 ―――手伝うよ。

「お、ふふ……I’m fine, thanks. This is my job, anyway. Nothing too difficult.」

 ―――大丈夫だよ、ありがとう。もともと私の仕事だし。そう難しくないから。

 

 

 申し出てくれたジョンに嬉しくなるが、さすがにこんな肉体労働を任せるのは気が引ける。

 

 

「You’re going on your own? It’s dangerous to be alone in here.」

 ―――ひとりで行くの?ここでひとりになるのは危ないよ

「If I needed a bodyguard, that cautious boss of mine would've sent one already.」

 ―――ボディーガードが必要なら、うちのあの慎重派のボスが、とっくに誰か寄こしてくれてるよ

 

 まあジョンの心配はごもっともだ。しかしあの渋谷さんが私の単独行動を許している時点で、そう危険はないと思っている。

 まあ散々大したことないはずだと言っていたからね。―――――あ、そうだ。

 

 

「My boss knows a lot about this old school building. You should ask him.」

 ―――うちのボスはこの旧校舎に詳しいから、聞いてみるといいよ

 

 他ふたりはともかく、ジョンは好感度が高いから、同じ仕事をする同士として情報共有くらいしてくれるだろう。ジョンは心配そうにしてくれるけど、仕事で来ているんだから本業に集中してもらわないとね。

 

 

「―――――セイ」

 

 

 一瞬、誰が誰を呼んでいるのか分らなかった。けれど渋谷さんが私に、ぽいと何か小さなものを投げ渡してきたので、ようやくそれが彼の声であると思い出せた。

 

 

「持っていけ」

「インカム?」

「そう」

 

 

 渡されたのはコンパクトなインターカムだった。渋谷さんの耳にも同型があることが分かる。使い方を軽く説明してくれた渋谷さんは、くるりとまた背を向けてしまった。

 ―――――今、私のことセイって呼んだよね。それはジョンに呼んでくれと言った愛称で。

 

 

「―――――行ってきます」

「―――――ああ」

 

 

 渋谷さんに声をかければ、そっけないが返事を返してきた。―――――ああ、この人、なんでこんなに面白いんだろう!

 

 

「あ、ちょっと!ひとりで出歩くんじゃないわよ!」

 

 

 「Be careful.(気を付けてね)」と手を振ってくれたジョンに手を振り返し、機材を持ってベースから出れば、なぜか怒った松崎さんがついてきた。

 いわく、まだ安全じゃない、こんなボロボロな建物で女の子がひとり歩きするなと。

 どうやらジョンとの会話は分からなかったようで、同じ心配をしてくれた様子。……ええ~? 松崎さんも根はお人好しタイプ?態度の悪い人が実は味方側かもなんて展開は滝川さんの二番煎じですよ。

 ちらっとベース内を確認すれば、渋谷さんはどうでもよさそう。ジョンは少し安心した顔で頷いていた。うーん、しょうがないか。

 

 

 







■いろいろ教えてくれる渋谷さん
 知識があれば今後(意味深)も使えるでしょうから。
 え?短期バイト? そうだね、今回は(・・・・)この旧校舎の調査の間だけだね。

■よく黙る渋谷さん
 慣れないことをしようとするとそうなる

■幽霊のテリトリー意識
 ここらへん考えるの楽しい 念能力の制約と誓約とか
 辻褄合わせのドーパミンほんまありがとう

■そしてコミュニケーションカス仕草をする渋谷さん
 普通はキレられるからね、猫だましする奴が相手でよかったね

■あはっ!
 テニプリ公式 絶対使いたかった

■さようなら
 慣れないことを頑張った

■不機嫌な王子様
 今日も帰ってくるの遅いと思ったらバイト? 俺とのテニスより楽しいわけ?

■おこ村
 おっぱらった嫌いな人が話しかけてきてムムムとしている

■目を見開いたりフォロー?するぼーさん
 この人人間関係系の察しの良さ1級くらいあると思ってる
 目ん玉かっぴらいた理由はおいおい

■原作麻衣ちゃんの代わりにすごい頑張ることになってる松崎さん
 ごめんね
 ただ年齢ネタはさすがに幸村笑わなかったから許してほしい

■反省村
 軽率だったナリ

■圧倒的聖人美少年
 魔王属性は生粋の良心には優しい。ジョンのおかげでメンタルリセット!

■笑う大人
 外国で外国語喋ろうとするその度胸だけでもすごい
 馬鹿にする笑いはよくないね

■えいごいっぱい
 ちゅうにびょうだからすごいたのしかった

■あだ名
 絶対海外旅行くらいしている幸村家
 だから向こうの人が呼びやすいように伝えるあだ名が決まっている


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。