人より優れていたかったの。誰にも劣らない価値が欲しかったの。
でも、でも、でも、こんなの知らない。聞いてない。
ねえ、特別で在り続けるにはどうしたらいいの。
ベースを出ていくらか歩いた先、重たい機材を2階へ運び込んで(担ぎながら階段を登っていたら松崎さんに理解できないものを見る目で見られた)設置し、さあ次は1階へ、と移動したあたりでそれまで沈黙を保っていた松崎さんに話しかけられた。
その間後ろをついてきながら特に手伝うでもなく、きょろきょろしたり建物の埃っぽさに文句を言ったりじっと見つめてきたり、正直「この人何しに来たの」って感じだったから気にせず放置していたんだけど…さて、結局何の用だろうか。まさか本当に心配だからついてきただけってわけでもないだろうし。
「ねえ、アンタここの生徒なんでしょ」
「そうですよ」
「なんでこんなバイトしてんのよ」
―――――おや?
「うーん、ご縁があって渋谷さんと知り合って、今回の仕事を手伝わないかと声をかけられたので?」
うん、嘘は言ってない。
ちょっとぼかしたように伝えれば、松崎さんの眉間には…わあ、立派な富士山。
「アンタね、―――――はぁ、いいわ。言ったって仕方ないわね」
「というと?」
「だから、……あーもう! いい? よく聞きなさいよ!」
ふん、と顔を反らした松崎さんにわざとらしく続きを促せば、思いのほかすぐに釣られてキレ気味にくちを開いてくれた。
キィン、と高めの声が教室内に響く。さっきから思ってたけどこの人かなりちょろいよなあ。
「アンタみたいな素人には考えつかないかもしれないでしょうけど、こういった幽霊退治の仕事は子供のお遊びのノリと違って危険な
「なるほど?」
「幽霊にも種類があって、まあ今回は詳しい説明は省くけど…ヤバいやつはこっちを攻撃することにためらいがないわ。聞いたことあるでしょ? ポルターガイスト。普通の人間じゃ敵いっこないような理不尽なちからでこっちに害をなしてくるのよ。下手すりゃ死ぬわ」
「ふむ」
「それに霊能力者には詐欺師が多いもんなのよ。そういう馬鹿ができもしない除霊だのに手を出すと、だいたいは全く効果はないけど、たまに小石程度に霊を刺激しちゃう場合もあんの。そうしたら『反発』―――――霊が反応してカウンターで殴り返されたりするのよ。無害だったやつでも一気に活発化して攻撃的になって、余計に被害が悪化する!」
「へえ…」
「運良く霊からの攻撃がなくても、……言った通り、詐欺師の多い界隈よ。除霊と銘打ってバカみたいなことをしようとするやつもいるわ。ただ無力な年寄りや、こういう仕事に好奇心で突っ込んできちゃうような、世間知らずの若い子なんて特に被害にあいやすい。しかもアンタみたいな見た目のいい若い娘なんて格好の獲物よ」
「ああ、そういう」
「悪いことは言わないわ。―――――手を引きなさい。取り返しのつかない傷を負う前に」
―――――ずいぶんと、まっすぐ目を向けられた。
さっきまでの小馬鹿にしたような態度とは違う、あまりに真摯な瞳だった。
なんだ、やっぱり二番煎じゃないですか。
「………なにニヤニヤしてんのよ」
「うーん」
きっとよほどひねくれていない限り、今の松崎さんの言葉の意味は誰だって理解できるだろう。松崎さんは私のことを心配して、渋谷さんを警戒している。
出会い頭でイヤミを言って、ベースまでついてきてまたイヤミを言って、小馬鹿にして鼻で笑って、その実まだまだ世間知らずの小娘を心配して、あれだけの設備を用意できる渋谷さんを警戒している。
そこにあるのは秩序かもしれない。そしてきっと、やさしさだった。
まあだからといって初動からあの態度というのは最早コミュ障だと思うれど。…もしかして遠ざけるためにわざとああいった態度を取ってるのかな。
「ご心配ありがとうございます。でもまあ…渋谷さんは大丈夫ですよ。多分ね」
「多分ってアンタね!」
「私は今回限りのアルバイトですし、程よく雑用をこなしてお給料をいただくだけですから。松崎さんからご忠告もいただいたので、まあ警戒しておきますし」
「…あーっ! もう、これだから最近の若い子は嫌なのよ!」
「ええ、ひどいなあ」
苛立った様子で頭を掻きむしる松崎さんに笑いかければ、フン! と勢いよく顔をそらされてしまった。あはは、この態度やっぱり素の性格だな。
松崎さんの言っていることはもっともだし、心配はありがたいけど、まあ渋谷さん相手なら本当に大丈夫だろうしなあ。ついつい雑なあしらいのようになってしまうのは仕方ない。
「本当にちゃんと警戒しておきますって―――――……? 松崎さん?」
仕方がないので重ねるように笑いかけようとして、ふと、いつの間にか松崎さんがすっかり黙り込んでしまっていることに気が付いた。
「―――――ねえ、…さっきまで、ドア、開いてたわよ、ね?」
―――――まさか。
まるで氷水をかけられたかのように一気に雰囲気の変わった松崎さんの、震えた声。固い顔で何かを見つめる彼女の、その唐突な問い。その内容に思い当たるものがひとつあり、パッとそれを―――――松崎さんの見ている方向へ顔を向ければ、
「……退路は常に確保、を心がけていたはずなんですけどね」
ピッタリと閉じた、教室のドア。
■
「な、―――――なんでよ!」
それは振り払うような声だった。カツカツとヒールを鳴らしてドアに向かっていく松崎さん。その足音はあからさまに大きく、体に走った恐怖を振り払おうとしているようにも見受けられる。…まずいな。少し錯乱しているか? 念のため小走りで後を追う。
……ドアが開いていたはず、というのは松崎さんの勘違いではない。私は必ず退路を確保することに気を付けながら行動していたからドアは必ず開けたままにしていたし、松崎さんが閉めたような姿も見ていないし音も聞いてない。
―――――私たち以外の誰かが閉めた? でも、なぜ、誰が。旧校舎に居るのは滝川さんや渋谷さんやジョンだけのはずだ。その人たちにしたって、わざわざ声もかけずにドアだけ閉めていくなんてことするか?
ガタッ、
「…ちょっと、」
ガタ、ガタガタ、
「何よ!」
「松崎さん、」
ガタガタガタガタ!!
「なんっ、なんで開かないの!?」
「松崎さん落ち着いてください!」
顔色を失った松崎さんが必死にドアをゆする。けれどドアは開かない。
嫌な流れだ。いつの間にかドアが閉まっていて、開けようとしても開かない? 明らかに不自然な現象。舞台はいわくつきの旧校舎。ああ、
「開けて!! 開けてよ!!」
「松崎さん、落ち着いて」
こっちだって身震いするものはあるが、けれど現状、パニックになりかけてる松崎さんを落ち着かせるのが優先事項だ。
ドアノブを握りしめているその手にできるだけ優しく手を添え、ちょっとちからを込めて引きはがす。
「松崎さん、大丈夫ですよ。古い校舎だから立て付けが悪くなってるのか…引っかかっているだけかもしれないですから。大丈夫、ちゃんと開きますよ」
「―――――あ、……え、ええ…そうね、そう……」
松崎さんの両手を握り締め、しっかり目を見て静かに語りかければ、ハッとしたように謝られた。どうやら落ち着いてくれたらしい。…よかった、あんまり暴れられたら実力行使に出るしかなかったかもしれないから。
「ドア、確認してみるので少し離れてもらっていいですか?」
「え、ええ……」
ゆっくり松崎さんの手を放し、ドアと向き合ってみる。…うん、閉まってるなぁ。絶対閉めてなかったのに。
とりあえずささくれに気をつけながらドアに手をかけて、スライドさせようとちからを込めれば、
ガタッ……ガタガタッ
なるほど開かない。
問題はこれがなぜ開かないかなんだけど……
ガタガタッガタッガタッ
手始めに繰り返し何度も揺らしてみれば、―――――何か、違和感、が?
「ね、ねえやっぱ―――――、」
「オイどうした!?」
揺らしても開かないドアに顔を曇らせていく松崎さんが何かを言おうとしたのと同時に、ドアの向こうの廊下を走る足音と滝川さんの声が聞こえた。どうやらさっきの松崎さんの声が聞こえて総出で対処しに来てくれたらしい。
「何が―――――まさか開かねえのか!?」
「
「…滝川さん、ジョン、少し静かにしてもらえますか」
「はあ? 静かにって、」
「幸村、状況の説明を」
閉じた扉に、さっきの松崎さんの叫び声を合わせて、『ドアが開かないのではないか』という結論になったらしい滝川さんが焦った声でドアを揺らす。ジョンの慌てた声も聞こえる。ガッタガッタと揺れるドアの動きを見ていれば―――――ああうん、やっぱり。
さっき抱いた違和感がはっきりと知覚でき、努めて冷静な渋谷さん(このシチュエーションでそのテンションは流石としか言いようがない。というかいつの間にか名字を呼び捨てになってることの方が気になる)の声に確信をもって答えることができた。
「ドアが開かなくなってしまったんですけど、下の方を確認してもらっていいですか? 何か引っかかってみたいなので」
「下? ちょっと待ってろ!」
パッとドアの前の気配がしゃがみ込む。これは滝川さんだな。うん、間違っても渋谷さんではない。
「ああ? 何だこれ…」
ガタガタ、ゴトゴトとドアを揺らしながら何かを見つけたらしい滝川さんの怪訝な声が聞こえる。…なんか、ヤな予感がしてきたな。
少ししてガララ、と開かれた扉の先には、心配そうな顔をしたジョンと、ため息を吐く滝川さんと、何かを触っている渋谷さんと、…あれ、知らない女の子がいる。
「な、なにが挟まってたのよ?」
「釘だよくーぎ! ったく、これくらいで騒ぎやがって」
「はあ!? 仕方ないじゃない開いてたドアがいつの間にか閉まってて、しかも開かなかったんだから!!」
ギャン! と松崎さんが滝川さんに噛みつく。一周回って仲良いなあのふたり。滝川さんのリアクションは心配してた分拍子抜けしただけだと思うけど、松崎さんからすればバカにされたと同義なのだろう。何にでも噛みつくその反射神経は素晴らしいと思う。
「渋谷さん、その釘見せてもらってもいいですか?」
「……ああ」
受け取った釘はほどほどに錆びていて、おそらく旧校舎に置き去りにされてた資材のひとつだろう。……けど、資材が置かれていたのは2階で、こんなところに釘が落ちているのは少しおかしい気もする。
いや、たとえ偶然落ちていたとしても、何故それが急にドアの隙間に挟まったりしたのか。そもそも、どうしてドアが閉まっていたのか。
……あの教室のドア、確か、擦り切れてるのかスライド音があんまりしなかったよな。
「この釘、どうなってました?」
「…ドアと金具の隙間にめり込んでいた」
渋谷さんは私を見ない。…随分と淡泊だ。興味もなさそうで、まるで『取るに足らないこと』だと思っているかのような態度だ。
―――――ああやっぱりこの人、何かに気づいて黙ってるんだな。
それは妙な確信だった。
「絶対ここ、なんかいるのよ!」
ひとり可能性を思い浮かべていれば、いくらか回復したらしい松崎さんが唸るように声を荒げる。「ドアが開かねえのは釘だっただろうが」と滝川さんが言えば、「じゃあドアが勝手に閉まってその隙間に偶然ドアが開かなくなるくらい釘がめり込んだっていうの!?」と松崎さんが返す。正論だ。偶然にしてはできすぎてる。
まあそう思うのも仕方がない出来事だった。確かに説明がつかないそれに、滝川さんがう、と押し黙る。
「―――――偶然でしょう」
「―――――なんですって?」
けれど、鈴を転がすような声がたたっ切った。ギロリ、と松崎さんがその声の主である少女を睨みつける。
いうの間にかいた、知らない子だ。校長はまた業者(あるいは霊能力者)を増やしたのだろうか。なんというか、見境がないなあ。
「ここに霊は居ませんわ」
「……渋谷さん、彼女は?」
「霊媒師の原真砂子だ。口寄せが上手く…日本では一流の霊媒師だろう」
―――――思わず目を見開いてしまった。
「? ……口寄せとは霊を呼び出すことだが」
「ああいえ、はい」
いや、それを疑問に思ったわけではなく。―――――驚いたな。あの(と言えるほど為人を深く知っている訳では無いけれど)渋谷さんが、皮肉でもなんでもなく本物の霊能力者だと断言し一流とまで評価するなんて。…知り合い、か?
「アタシは顔で売ってるエセ霊能力者とは違うのよ!!」
「容姿をお褒め戴いて光栄ですわ」
お見事。思わず笑いそうになったのを咳払いで誤魔化せば、こちらまで松崎さんに睨まれてしまった。ついでに渋谷さんから『この場に居るのがめんどくさい』というかのような視線を送られているので、そろそろ状況を動かすべきか。
「うーん」と呟けば、いつの間にか全員の視線が私に集まっていた。
「うん、まず、駆けつけていただきありがとうございました」
「えっ、ああ、おう」
「ご無事ならよかったどす」
「で、とりあえず、移動しませんか? 霊がいるいないにかかわらず、詳しい話は―――――」
ちらり、と渋谷さんを見ればため息をひとつ。うん、許可は下りたな。
「―――――私たちのベースで」
■
「ぜーったいここにいる
「地霊?」
移動したベースにて、カシュ、と缶ビールの蓋を切った松崎さんが断言する。地霊、とは。地縛霊のことだろうか。いやそれより、
「松崎さん、缶ビールはちょっと…」
「何よ! アタシの勝手でしょ!?」
「はいはい、落ち着いて…まだ何が起こったかもわかっていないのに、アルコールで頭が回らなくなっちゃったら困るじゃないですか。からだの動きにも支障が出るし…あと、ここは旧校舎ですけど一応学校の敷地内なので」
「……んもう、分かったわよ。止めればいいんでしょ止めればっ」
ふんっ! とそっぽを向くけど缶ビールは置いてくれた松崎さんに簡単にお礼を言って、「それで、地霊って言うのは地縛霊のことですか?」と聞いてみた。
「ちょっと違うわ。地縛霊は何らかの未練があってその場に縛られてるタイプの霊で、地霊っていうのはそこに住んでんのよ。土地そのものの…精霊のこと」
「つまり何かがあってそこに居る霊と、場所ないし概念に生命が宿って生まれた霊ってことですか?」
「…そうね、大体そんな感じかしら」
なるほど。幽霊社会も奥が深いな。
「俺はむしろ地縛霊だと思うけどな。ここ昔なんかあったんじゃねえの?」
「……まあ、あったと言えば、ありますね」
「だろ? だから地縛霊が棲み家、つまり自分の執着の行き先がなくなるのを恐れて工事を妨害している……どうだ?」
「あー……」
ふと思ったんだけど、このふたりって旧校舎の噂とかを知らないのだろうか。校長からは何も連絡を受けてない? 原さんは「霊は居ない」と断言してるから興味なさそうだけど、松崎さんたちはこれからの調査を考えたら(別に協力しなくても現場がブッキングしてるんだし)情報共有しておいた方がいいんだろうか。
ちらりと渋谷さんを見て見れば、さっきの釘を手に何かを考えこんでいるようだった。けれど私の視線に気づいたのかこちらを見て話の流れを察してくれたようで、好きにしろ、とばかりに視線をそらされた。
……はいはい。
上司さまからのオッケーがでたのでその場にいる全員に、簡単にだがこの旧校舎の来歴を伝えてみれば、ジョンと松崎さんと滝川さんは少し悩んでいるようだった。
『あまりに問題が起きすぎている』から土地に問題があるのか、単純に『死人が居座っている』から問題が起きるのかの判断をしている、ということだろうか。
土地に問題があるのなら、この土地を『
対して死人が原因だというのなら、例えば誘拐された子なら『引き離された家族』や『自分を攫った犯人』ではなく『閉じ込められ殺された旧校舎』が一番印象に残った、もしくは『縁』ができてしまって縛られているか、と言う話になる。
けれどなら、なぜ出入りする人間を襲う? 気づいて助けてくれないから? 出入りする人間と誘拐犯を混合して考えてしまっているから? それとも、手当たり次第に攻撃をしているだけか、なぜ自分が旧校舎に執着しているのかも分からなくなっているのか……まあとにかく、考察が複雑化してしまう。
これだけだと『原因は死人』の方がめんどくさそうに思うが、『何か』が原因の場合も楽な話じゃない。素人の浅知恵だが、『人知を超えるもの』の思考回路なんて理解できるものじゃないだろうし、ひどく気まぐれで傲慢で頑固かもしれない。どっちにしろ厄介な話だ。
……ところで、松崎さんと滝川さんの中では『居る』ことが決定なんだろうか。話してる内容が『居る』こと前提だし。
「―――――ジョン、君はどう思う?」
あれはこれはと話す松崎さんや滝川さんの会話を切るように、不意に黙っていた渋谷さんが様子をうかがって黙っていたジョンに聞く。
ここで沈黙を選んでいたジョンに話を振るのはより多くの見解を集めたいのか、ジョンをある程度信用できていると判断しているのか、信用できるかどうか判断するためのサンプル集めか……
いきなり話を振られたジョンはぱちくりと瞬きをして、困ったように眉を下げた。
「わかりまへんです。ふつう、
ううん、とジョンが唸る。へえ、悪魔召喚。それは考えなかったなあ。
……不思議だ。悪魔と言われただけで眉唾物に聞こえる。『これは妖怪の仕業かもしれない』と言われたらまだ(それでも現実味はないけど)すんなり入るけど、『悪魔』って言われると一気に引っかかる。日本じゃあんまり馴染みないからかな。これが文化の違い?
あ、というかジョンは『
……あれ、『悪魔=
『人じゃないもの』なら『
あるいはその定義は『人知を超えたもの』、という限定だろうか。神様とか悪魔とか、そういうタイプの……もしくは『
でもそれだと、土地とかは実体があることになる気が…? 悪魔とかは実体がない扱いになる、のか……?
奥が深いなあ…一朝一夕の素人知識じゃ全然理解が追い付かない。
「とにかく! アタシは明日除霊するわ。こんな埃っぽくて気味の悪い場所に長居なんてしたくないものっ」
「……無駄なことを。霊は居ないのですから除霊なんて無意味だというのに」
悶々と考え込んでいれば、いつの間にか話がまとまったのか、松崎さんがふん! と息荒く(苛立ちか、あるいは気合を入れて)ベースを出て行く。
そんな彼女の背に、原さんが冷ややかに溜息を吐く。この子も癖が強いなあ…
「―――――そう言えば、まだ自己紹介がまだでしたね。この学校の生徒で、そこに居る渋谷一也率いる『渋谷サイキックリサーチ』でアルバイトをしている幸村聖子です」
「……あら。ご丁寧にどうも、原真砂子と申します。ご存知かと思いますけれど、霊媒師ですわ」
ちょっと唐突だった自己紹介は案外すんなりと受け入れてもらえた。でも壁は感じる距離感だ。いや別にいいんだけど。あまり興味のなさそうな視線がこちらを見る。
「霊媒、というのは霊とのコミュニケーションが取れる方だという認識でいいですか? 口寄せがお上手だと聞きましたが…」
「そのような認識で結構です。あたくしは霊を見、感じとり、彼らを知ることでその思いを外界へ伝える者ですわ」
「なるほど。原さんが見える『霊』はどこまでが該当するんですか? 例えば地縛霊とか、浮遊霊とか……そういう違いは影響しますか?」
「……あいにく、浮遊霊の類とは相性がよくありませんわね」
「じゃあ話題に出た『悪魔』や『精霊』といった類は」
「そういったものが見える才能というのは、あたくしの『霊視』とは扱いが違いますの。―――――さきほどから、一体何かしら」
すう、と原さんが目を細める。―――――ああ、失敗。あれこれと聞きすぎてしまったのか、原さんの声が冷たくなってきた。
「失礼でしたね、すみません。侮辱する意味はありませんが…」
「あたくしの霊視があてにならないと?」
「可能性の話ですよ。例えば何も知らずにあなたの『霊は居ない』という意見を聞くのと、あなたの霊視のパターンを把握して『霊は居ない』という意見を聞くのでは思考の幅が変わりますから」
「……そうですか」
ちょっと言い訳じみて聞こえてしまったかもしれないな。まあ何でもかんでも鵜呑みにするつもりがないから、つい多く質問をしてしまったけど、渋谷さんが把握してそうだからちょっと余計なことだったかな。
―――――いや、余計な事だったな。私はただの今回限りの雑用だし、調査の要は渋谷さんだ。私は最低限の応用ができればいい。それ以外は言われたことができればいい。そういう立場でここに居る。それに原さんは協力者でも何でもない、現場がブッキングしただけの同業他社だ。それを暴き立てようなんて、我ながら恥知らずが過ぎる。
大義名分のない質問はただの好奇心だ。……だめだ、黒田さんを受け流せなくて迷惑をかけてしまったばかりだったのにな。自重を意識するべきだ。今の私は
判断誤って原さんを不愉快にさせてしまったのは申し訳ない。ただでさえ『霊視』という能力はインチキ扱いをされやすいものだろう。そんな周囲の目を知っている子ならこういった暴くような質問は不躾だった。
「―――――ところで、渋谷さん、でしたかしら」
「……何か?」
「先ほどから気になっていたのですけれど、あたくし以前あなたにお会いしたことがあったかしら?」
「……いいえ、お初にお目にかかると思いますよ」
「そう……?」
……意味深な間だ。ふい、と私から視線を逸らした原さんの一昔前のナンパみたいな文句にちょっと驚いて、それ以上に渋谷さんの返事の間が気になった。
あんなこと言ってるけど、初対面にしては渋谷さんから原さんへ何かしらの信用のようなものが見える。少なくともその能力を把握しきれていない相手をやすやすと信用してくれるような人ではないし、それに渋谷さんは私に彼女を『一流』と紹介したのだ。どう考えても『渋谷さんは原さんのことを知っている』と思うのが妥当だと思うけど……
このリアクションからして、渋谷さんがすっとぼけてるのか、あるいは『実際に会ったわけではない』のか。……いや、まあいいか。自重自重。
「渋谷さん、そろそろ日が暮れますが、今日はどうしますか?」
「ああ―――――今日はもういい。僕らも引き上げる」
「お、ボウヤは泊まり込みしねーの?」
「今日はまだ……幸村、明日は泊まり込む予定で準備してこい」
「え」
さらりと告げられた業務命令に思わず固まってしまった。待って、泊まりだって?
「質問」
「どうぞ」
「メンバーは…」
「僕とお前だが、何か問題が?」
こちらをまっすぐと見る渋谷さんの視線には疚しさはない。いや、そんな下心をもって接してくる人だとは思ってないけど。そんな気持ちで泊まりを宣言されたとも思ってないけど。……うーん、これ本気で分かって得ない感じか…?
「……いやお前さん、さすがに調査とはいえ若い男女が一緒に泊まり込みってのはまずいだろ」
「僕にそんな意図はない」
「無くたって外聞ってもんがあんの! 嬢ちゃんのご両親も気が気じゃねーだろうが! というか許可もらえねーんじゃねえか?」
おそらく私と同じことを考えたであろう滝川さんが私の代わりとばかりにくちを出す。やっぱりこの人面倒見がいいな……ワッと大声を出した滝川さんのセリフに、ふたりの視線がこちらを刺す。わあ目力強いなあ。
滝川さんの言う通り、許可をもらうのはちょっと厳しいだろう。未成年の少年少女で宿泊施設ではない不安定な廃墟にアルバイトで泊まり込む、というのはあんまりにもあんまりだ。
特に今は居候の身で、越前家の皆さんからしてみれば私は『お預かりしているお嬢さん』ということになるから、下手に実家にいるより突破するのは厳しいかもしれない。
―――――けど、この渋谷さんの視線が『無理です』と言っても聞いてくれなさそうだというのをヒシヒシと伝えてくるわけで。かといって、ご厄介になっている越前家からのお気持ちを無下にする気だってもちろんないわけで。
「滝川さん」
「おう」
「すみませんが、お手すきでしたら明日は一緒に泊まり込みをお願いしてもいいですか? 『お坊さん』がいると言えば多少はハードルが低くなるので」
「あー……はいはい、仕方ねえな。オニーサンがひと肌脱いでやるよ」
「服は着てください」
「おじょーちゃん???」
「で、渋谷さん」
「………」
「努力はしてみますが、許可をもらうのはちょっと難関ですよ。泊まれるかどうかの連絡は明日でも構いませんか?」
「……分かった」
うわあ不満げ。そんなに思い通りにならないのが気に入らないか。……さて、どうやって越前家の皆さんから許可を貰おうか。下手なことをしたら親に連絡が行って大事になっちゃうだろうし……最近悩み事が多いな。
「
明日松崎さん捕まえられるかチャレンジしてみようか。
■面倒見のいい松崎さん
この人も多分たくさん苦労したんだろうな。
■突如しまったドア
幸村は普通にビビっている。いや怖いわ。でも松崎さんがパニックになっていたから冷静。たぶん滝川さんとだったらあんまり心許してないから努めて冷静を装うし、ナルだったら冷静に思考分析を始めるナルにつられて冷静になる。ジョンと一緒の時だけ普通に怖がるしジョンは慰めてくれる。
今後一番最初に幸村が実はオバケ怖いタイプだと知るのはジョン。知ってからはいっぱい気を使ってくれるけど、周りは仲のいいふたりだと思ってるしジョンは優しくて気づかい屋で紳士だから毎回声かけてるんだなって思ってるからジョンの態度を見ても最初は気づかない。次に気付くのはたぶんリンさんだけど、仕事に支障なさそうだから最初はスルーしてくる男。
■不思議な釘
いやおかしくない? とかなり警戒している。けどなんとなくポルターガイストというより人為的なにおいを感じ取ってる。第六感が閃いているのか。ああ、『イヤ』な予感がするなあ。消去法思考って知ってる?
渋谷さんは何かしらの理由で何かを知ってでも黙ってるな、と表情や態度で察したが決して愚かではない
■一流霊媒師
渋谷さんが初対面の子をそんなに褒めるなんてありえない。(失礼)絶対知り合いだろ、という根拠ある名推理。
まだツンツンしてる。恥じらいのない方たちですこと。ツーン。
■地霊や地縛霊やスピリットについての考察
教えて専門家。
■反省村
正直未知の知識に心躍ってるところはあった。けれど今回黒田さんと原さんの失敗でしっかり反省・学習したのでこれからは慎重になる。かなり重たい責任を背負って戦っていた中学時代のせいで自分の立場の認識改善がうまくいってなかった。ダメだよ幸村聖子。今責任者は私じゃないんだ。
原さんの霊視レベルについては先出ししておきたかった。例えば『霊は見えない』原さんが言って、なら『霊視から逃げられる知性を持つ霊がいる可能性』『相性の悪い浮遊霊が起こした偶然的霊障の可能性』『人為的いやがらせ他の可能性』など、いろんな思考の幅が広がるから。
盲目的に信じるわけでなく、けれど疑ってるわけでもない。ここらへんの思考回路はたぶん渋谷さんと相性がいい。
■お泊り
部活の合宿と違うんやぞ。どうする幸村。越前家に勝てるのか!?
多分越前家の女性陣はそこまで難易度高くないけど、バイトでテニスする時間が目に見えて減って機嫌の悪い王子様と幸村の容姿も相まって結構心配している南次郎パパの壁はデカい。最終的に南次郎パパからは「いざとなったら股間を蹴り上げて逃げろ」とめちゃくちゃ言い聞かせるし、泊まりの夜はいつヘルプの電話が来てもいいように起きてくれているはず。夢見すぎ?
■明日誘われるらしい松崎さん
懐かれたわけでも心を開かれたわけでもないが、もうあまり警戒はされていない。これは滝川さんも同じ。