木の葉は今、混乱に包まれていた。
その日は、中忍選抜試験の第三の試験が行われていた。
第一試合から、順調に試合は消化され会場は、大きな興奮に包まれていた。
そして、その興奮は最高潮に達しようとしていた。
それは、最後の「うちは」であるうちはサスケの試合が見られるからだ。
観客も、来賓も、ここに集ったほとんどの人間はサスケを見に来た者たちだ。
会場の好奇と期待の視線を受けながらも、サスケは期待を裏切らない戦いを見せた。
これまで、傷一つ受けることの無かった砂隠れの下忍...我愛羅に傷を与えたのだ。
しかしその結果、我愛羅の中に眠る尾獣...守鶴を目覚めさせることになってしまった。
守鶴の覚醒を合図に、木の葉崩しは開始された。
木の葉の各地に潜伏していた音隠れの忍...
そして、今回の木の葉崩しに際し協力関係を持っていた砂隠れの忍が呼応するように、その正体を現し木の葉を襲った。
各地で繰り広げられる戦闘...
さらには、大蛇丸が召喚した大蛇がこれに加わる。
逃げ惑う人々...
木の葉は未曾有の事態に陥っていた。
そして、ナルトもまた木の葉に大きな衝撃をもたらしていた。
その日のナルトは、街の中を特に何かするでもなく散策していた。
中忍選抜試験が始まっていると言うのに、何故ナルトがそんなことをしているかと言えば、当然囮の為である。
中忍試験の本戦...それは格好のテロのチャンスでもある。
この日の木の葉は、厳重な警戒体制を強いていた。
木の葉から危険視されているナルトも、その警戒の対象である。
本来、中忍試験を落ちたナルトが木の葉に残る理由は無い...
せいぜい、同じ里の忍の応援をする位だが、あの大蛇丸が率いる里の一員であるナルトが、そんな事の為に残るとは到底思えない。
そして、何よりも中忍試験の最後で見せたナルトの力...
それは、下忍どころか中忍にすら留まるレベルでは無かった...
当然、木の葉はナルトを警戒するだろう。
そして、その時はやってきた。
「なんだ!」
「里が騒がしいぞ...」
「一体、何が...」
ナルトを尾行していた忍たちが、突然各地で始まった騒動に動揺する。
「何があったか、知りてぇのか?」
と、ふいに声がかかる。
それは、尾行していたハズのナルトであった。
「ナルト!?くっ、気づいていたのか...」
冷や汗をかく木の葉の忍たち。
ナルトを尾行するにあたり、選抜されたのは、里でも上位の実力を持つ忍。
そして、彼らは注意してその気配を隠していたつもりだった。
「はっ。お前らみたいな力を持つ忍が、気配を急に無くせば嫌でも気づくってばよ。」
ナルトは、この日...最大限の注意をはらっていた。
いつでも動けるように...
そんな中、大きな気配を持った人間の気配が急に薄まれば、警戒もするだろう。
「それよりも、何が起こってるのか知りてぇんだろ?それはな...」
「俺たち音隠れの里による、木の葉崩しだってばよ!」
ナルトは大声で宣言すると、目の前の忍たちに一気に迫る。
「散開!」
慌てて動く忍たちだったが...
「遅ぇってばよ!」
ナルトの身体から突然生えてきた九本の尾が、彼らを捉える。
「これは九尾の...」
「化け物め...」
捉えられた忍たちは、九尾の尾に驚愕し、ナルトを化け物と蔑む。
「化け物で結構...俺は化け物だからこそ、里の皆を守る力を得られた。今じゃ感謝してるくらいだってばよ...」
しかし、ナルトはその言葉を笑って流した。
そして...
「だから...さっさと死ね...」
なんの感情もなく、尾で締め上げる力を強めると、忍たちを圧死させてしまった。
「さて...会場に向かうか...香燐たちも心配だしな。」
ナルトは、忍たちの遺体に一瞥すると、振り替える事もなく、会場へと向け歩きだした。
しかしその途中...
「ナルト君...ここから先には行かせないよ...」
ナルトの前に立ちふさがった人物がいた。
「ヒナタ...」
そう、それはナルトがこの中忍試験で出会い、そして興味を惹かれた人物...日向ヒナタであった。
「ナルト君...なんであなたがこんな事をするの?」
ヒナタがナルトに問いかける。
「当たり前のことを聞くなってばよ。これは音隠れの里が木の葉に仕掛けた戦争で、俺は音隠れの里の忍だ。」
ナルトは抑揚の無い声で答えた。
「でも、こんなの間違ってる。ナルト君はこんな事を望む人じゃない...私にはわかる。」
ヒナタはナルトの目をしっかりと見つめて言った。
「...木の葉が俺を迫害してきた事実を知ってもか?」
「えっ!?」
「俺は数年前まで木の葉にいたんだってばよ...」
ナルトは、自らの過去を語り始める。
「そんな...木の葉の皆が...そんなことを...」
ヒナタは思っても見なかった木の葉の闇に驚き固まってしまう。
「この話を聞いてもまだ、俺がこんな事をするのが信じられねぇか?ヒナタ...」
「.........。」
ヒナタは何も言えない。
「なら、もう良いだろ?俺は音隠れの里のうずまきナルトだ。」
ナルトがその場を去ろうとしたその時...
『...ルト...ナルト...頼む返事をしてくれ。』
と、その時ナルトに声が聞こえてきた。
どこか焦ったような声...それは...
「多由也か...どうしたんだってばよ。」
それは多由也の声だった。
今朝早く、木の葉崩しにおいて大蛇丸と三代目の一騎討ちを援護すると言う重要な任務がある多由也と、それをサポートする為に会場に向かう香燐には木霊法で会話が出来るように、リンクを着けていたのだ。
『ナルト!よかった。大蛇丸様がヤバイ。至急救援に来てくれ!』
「わかったってばよ。」
多由也の切羽詰まった声に、ナルトは急ぎ会場へと向かおうとする。
しかし...
「やっぱり、ダメ...ナルト君...ここから先には進ませないよ。」
「ヒナタ...」
ヒナタが立ち塞がる。
「ナルト君...確かにナルト君には木の葉に良い感情は持ってないんだと思う。でも...だったら私を助けてくれたのは何故?なんで、ナルト君は悩む私にアドバイスを送ってくれたの?私だって木の葉の人間だよ?」
「それは...」
「私にはわかる。ナルト君は本当はとっても優しい人なんだって。ナルト君...本当は復讐なんて望んでないでしょ?だから、自分の心を殺して進む貴方を放っては置けない。」
「.........。」
その通りだ。ナルトは復讐なんて考えてもいない。
木の葉崩しも、仲間を守るために参加してるに過ぎない。木の葉への意趣返しなんて、ここに来るまで考えることさえなかった。
「俺を止めたいなら、どうすれば良いかわかってるのか?」
「うん。」
ヒナタは構えを取る。
「ナルト君が示してくれた、この白眼と柔拳の本当の使い方で、貴方を止めて見せます。」
「わかった。俺も全力で受け止めるってばよ。」
ナルトはそう言うと尾獣チャクラを身体に纏う。
二人の身体が交錯した...
・
・
・
「うっ...」
気がつくと、ヒナタは建物の影に寝かされていた。
「おっ?気付いたか、ヒナタ...」
「ナルト...君...?」
「の、影分身体だけどな。」
ナルトの分身体は苦笑して答えた。
「!?...そう...私は...止められなかったんだね。」
落ち込むヒナタに、ナルトの分身体が、声をかけた。
「ヒナタ...本体の俺からの伝言を伝えるってばよ。」
「えっ!?」
「『ヒナタ...お前は優しいやつだ。でも優しさだけじゃ誰も救えない。お前が俺のアドバイスをきっかけに、目指すべき道を見つけてくれたって言うなら、これほど嬉しい事もないってばよ。でも、どれだけ尊い目標を持っても、それを実現する力がなけりゃ、夢で終わりだ。だから頑張れよ?応援してるってばよ。』」
分身体のナルトは、そう言うと煙と共に消えていった。
「...ナルト...君...」
それはナルトからのエール...そして別れの言葉でもあった。
ヒナタの決意を感じ、しかし自分は一緒にはいられない...
ヒナタの成長を見守ってはやれない...だからヒナタの成長を信じる...
そう言っているのだ。
ヒナタは泣いた...大声で泣いた。
多分、初恋だったのだと思う。
しかし、その恋は告白さえすることができずに終わってしまったのだ。
相手が敵国の忍である以上、もう会うことさえ叶わないかもしれない。
一通り泣いたヒナタは、立ち上がった。
ナルトの言葉を受け止めて...
ナルトが信じた自分の決意を胸に...強くなることを誓って。
(ナルト君...私は強くなる...だから...見ていてください...)
ナルトへの想いを胸に秘めて...
・
・
・
会場に、ついたナルト...
そこで見たのは結界の中で睨み合う大蛇丸とヒルゼンであった。
特に何かしている様子は無い。
ヒルゼンの背中には刀が生えている。
致命傷とは言えないまでも深手を負っているのは明らかだ。
対して、大蛇丸は何かされている様子は見られないが、苦痛の表情を浮かべていた。
「貴様は...」
ナルトの侵入に反応した暗部が一斉に襲いかかる。
「邪魔だ。」
ナルトは、あっさりと迎撃した。
ヒナタに見せた優しさは、そこには感じられない。
「香燐...何があったんだってばよ。」
会場で待機していた香燐に事情を聞くナルト。
「それが...」
香燐の説明では、終始大蛇丸がヒルゼンを押していたが、ヒルゼンが何かの術を行使した所動きが、止まったらしい。
大蛇丸の苦痛の表情から、何かをされているのは明らかだが、何をされたかまではわからない...
「何の印を結んだか解るか?」
「いや、遠くてよくわからなかった。」
「仕方ねぇ...直接聞くってばよ。」
ナルトは、決断すると多由也の所へ向かった。
ナルトへ殺到する暗部たちだったが、ナルトの相手にはならない。
「多由也...」
「遅ぇぞ、ナルト。」
「大蛇丸の援護に入るってばよ。結界を空けてくれ。」
「わかった。大蛇丸様を頼む。」
「おう。任せとけってばよ。」
多由也の合図で、一瞬だけ結界に穴が空いた。
飛び込むナルト。
「!?ナルト...」
驚くヒルゼン。
(やはり、ナルトも大蛇丸に取り込まれておったか...)
ナルトは、ヒルゼンを一瞥すると、大蛇丸な向き直り、
「おいおい、大蛇丸。作戦立案者がこんな醜態さらしてたら、下に示しが付かないってばよ。」
そう言って軽口を叩く。
「ふふっ...少し油断したわ。流石に九尾を封印した術...」
「!?...まさか死鬼封陣...」
それだけで、該当する術に思い至ったナルト。
ナルトは、一度尾獣チャクラを暴走させた後、封印術についてはかなりの勉強をした。
もし、何かの拍子に封印が解かれた時...
もう一度封印することが出来るようにと...
当然、最も強力な封印術と呼べる死鬼封陣についても詳しく知っていた。
今、術の行使をしているヒルゼンと、術を受けている大蛇丸には死神が見えていのだろう。
そして、その死神は大蛇丸の魂を引きずり出そうとしている。
「くっ...もはや猶予は無い。大蛇丸を連れていく事は叶わんが、せめてお前の術を貰って行く。」
ヒルゼンは、膠着状態に陥っていたこの状況から、大蛇丸の助っ人が現れた事で、意識を切り替える。
せめて大蛇丸の術を封印する...と。
しかし...
「悪いな...じいちゃん。大蛇丸には恩義がある。やらせる訳には行かないんだってばよ。」
ナルトは、ヒルゼンより早く動いていた。
死神を動かす為にヒルゼンが意識を向けた一瞬の隙を付いて、背後に回ると当て身を食らわせてその意識を刈り取ってしまった。
「...助かったわ...ナルト。」
どんな術も、術者本人が意識を失ってしまえば維持することは叶わない。
ヒルゼンが意識を失った事で、死神は消失してしまった。
「大蛇丸...消耗し過ぎだってばよ。ここらが潮時だ。」
「...そうね...三代目を殺せなかったのは痛いけど、もう戦闘することは叶わないでしょう。最強の忍...プロフェッサーと謳われたサルトビ先生も、もう終わりね。引くわよ。猿魔...サルトビ先生によろしくね...」
『くっ...』
倒れているヒルゼンが口寄せした猿魔にそう言った大蛇丸は、結界を解除した四人衆、ナルトと香燐を伴い、木の葉を後にする。
なんとか壊滅を免れた木の葉だったが、その損失は計りしれないものとなった。
木の葉の実力者の多くが戦死し、また最大戦力であるヒルゼンも、今回の戦の傷が元で、忍を続ける事は出来なくなった。
音隠れ相手に報復する力はとてもでは無いが、無かった...
そして、その音隠れの里はと言うと...
大国の火の国...その中でも最大の木の葉を相手に互角に戦ったことが評価され、多くの依頼が舞い込んでいた。
凡そ、新興の里である音隠れの里だが、その勢いは五里に並ぶ程のものがあった。
活気着く音の人々...
そして、ナルトはと言えば...
ナルトはあの木の葉崩しの後、長である大蛇丸の窮地を救った事が認められた。
大蛇丸から、褒美を聞かれたナルトは、孤児院の設立を進言した。
自分や香燐のように、何かの事情で自分の故郷を追われた者たちの居場所を作ってやりたい...と。
大蛇丸は、これを了承。
ナルトを管理者に、香燐をバックアップに着けて、晴れてナルトの願いが叶えられた。
無論、大蛇丸にはナルトのように掘り出し物の、戦力がいるかもしれないと言う思惑もあった。
それでも、ナルトにとっては自分と同じような境遇のものたちを救えるかもしれない。
それだけで、十分だった。
それから数年...
「こんな所にいたのか?ナルト...」
「ん?なんだ香燐か...」
野原で昼寝をしていたナルトに、香燐が声をかけてきた。
「なんだじゃねぇ。子供たちがお前を探してたぞ?」
「え?そりゃ参ったってばよ。」
ナルトの孤児院は、この数年で多くの子供たちが集まっていた。
中でも年少の子供たちは、ナルトがいなくなると途端に泣き出してしまう、不安定な子供たちが多かった。
ナルトは、苦笑いを浮かべつつ孤児院に向かい歩き出す。
「ナルト...お前は今幸せか?」
ふいに香燐が声をかける。
「当然だってばよ。自分の居場所があって、やるべき事もある。俺を慕ってくれる子供たちもいる。そして...」
「そして?」
「俺の隣にお前がいるからな!」
ナルトは、満面の笑みを浮かべた。
この後も、ナルトには多くの試練や戦いが待ち受けている。
暁の台頭、尾獣を巡る戦い...
そして忍界大戦...
しかし、ナルトは負けない。多くの仲間たちを得てこれに立ち向かう。
その活躍には、必ずナルトを支えるくノ一の存在があるのだった。