リクエスト小説 ナルト×香燐の話 完結   作:アーク1

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中編

香燐は、目の前で気を失っている少年を見て戸惑っていた。

 

一月程前、自分は大蛇丸によって奴隷同然のように扱われていた草隠れの里から救い出された。

 

いや、救い出されたと言うには語弊があるのかもしれない。

 

大蛇丸は、最初自分には興味を示してはいなかった。

 

自分の特異体質...香燐の身体を噛み、吸う事で回復効果とチャクラの補充を行うことが出来る...

 

それを見て興味を示したのだ。

 

後はその場にいた草隠れの連中を大蛇丸が全員殺害し、一緒に来る様に誘ってきたのだ。

 

この時、香燐に、大蛇丸の誘いに乗る以外の選択肢は無かった。

 

もともと、草隠れでは奴隷...いやもはや便利な医療忍具扱い...そして自分以外全員死亡...

 

あのまま戻っても、自分が犯人として扱われ、今まで以上に自由もない酷い扱いが待っているのは目に見えていた。

 

幸い...と言ってはなんだが、香燐にとって唯一心を許していた母は、草隠れの連中の扱いによって、既に他界している。

 

迷う理由も無かった...

 

しかし香燐は、決して大蛇丸に感謝する気は無い。

 

それは、香燐のもう一つの能力...他人の本質をチャクラとして感じとる...と言う珍しい感知タイプとしての力で感じ取っていたからだ。

 

大蛇丸は決して、善意で自分を助けた訳では無い事を...

 

草隠れの連中と変わらない...自分を人間としてでは無く、何か別の物として見ている事を...

 

それから少し経って...

 

香燐は、大蛇丸から妙な命令をされた。

 

自分のように、どこからか拾って来た少年の面倒を見るようにと...

 

年頃は、自分とそう変わらないように見える気を失った少年...

 

流石に、大蛇丸の命令を断ると言う選択肢は無い。

 

少なくとも、草隠れの里にいた頃に比べれば良い生活を送れている。

 

それだけでも、大蛇丸に感謝していた...

 

そして何よりも...気を失った少年...彼から感じるチャクラに興味を覚えた。

 

今まで香燐が感じた事が無いほど温かく、周りを包み込む様に広がる...まるで日溜まりの様なチャクラ...

 

一体この少年は、どんな人間なんだろう...

 

香燐は、少年と話がしてみたい...そう思った。

 

だから香燐は自分から少年に近付いた。

 

今までずっと呪ってきた自分の能力を使って、少年にチャクラを送る。

 

「う、ここは...」

 

程なくして、目を覚ました少年に、

 

「やっと、目を覚ましたみたいだな。」

 

香燐はそう言って声をかける。

 

しかし、少年は期待したような感謝を浮かべるでもなく、自分を警戒するように距離を取った。

 

「なんだ...せっかく回復してやったってのに、随分な態度だな。」

 

「お前は誰だってばよ!それに、ここはどこだ!」

 

少年の態度や、大蛇丸が拾った時に怪我をしていたとの話から、自分を敵と勘違いしていると判断した香燐は、誤解を解こうと、

 

「そう、警戒するなって...ウチの名前は香燐。大蛇丸...様にお前の世話を任された。よろしくな。」

 

そう言って笑いかけた。

 

「大蛇丸...ってのは誰だってばよ。あと、もう一回聞くけど、ここはどこだ!」

 

しかし、少年は未だに警戒を解かない。

 

「大蛇丸...様は、音隠れの里の里長だ。草むらで傷つき倒れていたお前を保護した人物でもある。ついでに言うと、あんたにチャクラを分けてやったのはウチな。」

 

「...音隠れの里?...聞いた事無ぇけど...ここは木の葉じゃ無えんだな?」

 

「木の葉みたいな大きな里じゃ無いさ。何しろ、新興の隠れ里だしな。それよりも、ウチは名乗ったんだけど...そろそろ名前を教えてくれないか?」

 

「あ...えっと...ゴメンってばよ。俺はうずまきナルト...その...勘違いしちまってすまねぇ。後、助けてくれてサンキューな。」

 

香燐の言葉に慌てて名乗り、助けてくれて事に感謝を伝えるナルト。

 

「...なあ、なんでそんなに警戒してたんだ?幾ら初対面だからって、敵意を持って睨む程じゃねぇだろ?」

 

香燐は、ナルトの最初の態度に思わず聞いた。

ナルトは本来、とても優しい人間だ。

ナルトから感じるチャクラから、香燐はナルトをそう理解している。

 

そんな人間が、初対面の人間にあれほどの警戒心と敵意を見せる...

 

一体何があったのか気になった...

 

「.........。」

 

香燐の問いにナルトは答えない...

いや、答えたく無かった...

 

「ウチは、戦争で故郷を焼かれたんだ。」

 

「え?」

 

唐突に話始めた香燐。

答えないナルトに、きっと自分のように人を...世界を...自分の生を呪うような人生を送って来たのだと、なんとなくわかった。

 

だから、自分から話す。自分の過去を...

故郷を焼かれ、落ち延びた草隠れの里で奴隷の様に扱われ、母はそれが元で亡くなった...

 

何度死のうと思ったかわからない...

何度世界を呪ったかわからない...

何度周りの連中を殺そうと思ったかわからない...

 

話終えた時、香燐は泣いていた...

 

「...ゴメンな...俺のために話してくれたんだよな...」

 

涙を流す香燐をナルトは抱き締める。

 

(やっぱり暖かいな...こいつのチャクラ...)

 

その温もりに、心の底から安心感を得る香燐。

 

そして、ナルトもまた香燐を抱き締めながら、語り始めた。

 

木の葉での生活を...

自身には身に覚えも無いのに、里の人間たちから忌み嫌われていた...

里の人間たちは自分の事を人間とは見ていなかった。

何かもっと別の...化け物として見ていた...

 

自分がどれだけイタズラをして気を引こうとしても、まるで関わる事それ事態が悪いかのように自分を無視していた...

 

唯一の味方だった三代目も、自分の気持ちをわかってはくれなかった...

 

だから逃げ出した。あの場所から...

 

「俺ってば、結局なんなんだろうな...アイツらが言うように化け物なのか...」

 

独り言のように呟くナルト。

 

「そんなこと無い。ウチにはわかる。お前のチャクラは、こんなにも暖かいじゃないか。お前は決して化け物なんかじゃ...」

 

ナルトの言葉を否定する様に叫んだ香燐は、しかし、途中で気付いた。

 

「あんたの中に...別のチャクラを感じる...とても強大で、禍々しいチャクラ...これは...」

 

「それは、九尾の妖狐のチャクラよ。」

 

香燐の言葉を引き継ぎ様に、大蛇丸が姿を現す。

 

「誰だってばよ!」

 

ナルトは香燐を守る様に、前に出ながら問いかける。

 

「ふふ...香燐から聞いていないかしら?私の名前は大蛇丸。貴方を助けた人間なのだけど...」

 

「...あんたが?いや...それよりも、俺の中に九尾がいるってのは本当なのか?」

 

「そうよ...貴方が生まれた日...突如現れた九尾の妖狐が木の葉で暴れまわった。多くの犠牲者を出したあの事件を命を賭けて解決した四代目火影。その解決策は、当時生まれたばかりの赤子に九尾を封印すると言う物だったの。ついでに言えば、貴方に九尾を封印した四代目火影は貴方のお父様よ?」

 

「な!?」

 

木の葉で決して口にしてはいけないとされていた事件の真相。

大蛇丸は、それをあっさりとナルトに教えた。

 

「父ちゃんが、俺に九尾を...」

 

父親が自分に九尾を封印したせいで、あんな目にあってきたのか...

 

ナルトは顔も知らない父親に憎悪した。

 

「じゃあ...里の連中が俺を嫌ってたのは...俺の中にいる九尾に対してなのか?」

 

「いいえ、違うわ。詳しく理由までは知らないけれど、当時の木の葉の上層部は貴方を九尾の生まれ変わりとする噂を流した。つまり、貴方は九尾そのものとして嫌われていたのよ。」

 

「な、なんでそんな噂を流したんだってばよ。」

 

「さあ?理由はわからないわ...でも、貴方の境遇の原因はこれで理解したかしら?」

 

「.........。」

 

ナルトは、肩を落とした。

 

結局、自分の迫害の原因は全て木の葉のせいではないか...

それに元を正せば自分に九尾を封印した父の...

 

「ナルト...」

 

香燐は落ち込むナルトの手を握り励まそうとする。

 

「仲良くやっているようね。香燐。ナルト君の事はお願いね?」

 

大蛇丸はそんな香燐を見てほくそ笑むとそう言ってその場を後にした。

 

「ナルト...木の葉で、草で...ウチらは酷い目にあってきた。それは変わらない。でも、今のウチらは音隠れの里の一員だ。ここで、ウチと一緒に自分の居場所を作ろう。」

 

香燐は精一杯ナルトを励まそうと言葉を紡ぐ。

 

「香燐...そう...だよな...辛い過去を持ってるのは俺だけじゃない...ありがとう...香燐...俺ってば、お前に出会えて良かった。」

 

ナルトはそう言うと、ここに来て初めて笑顔を見せた。

 

「バ、バカヤロー、そう言う事は、いきなり言うんじゃねぇ...恥ずかしいだろ。」

 

顔を真っ赤にしながら、香燐は憎まれ口を叩いて、照れ隠しする。

 

かくして、似たような過去を持ち、同じように大蛇丸に拾われた二人は、自分の居場所を作るため、これから頑張っていこうと、お互い誓うのだった。

 


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