Fate 短編集   作:NowHunt

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ずっと書きたかった2人です。てか、本編でこの2人の絡みを見たかった。 

気に入っていただけたら幸いです。


ただの短編
お帰りなさいを君に(アーチャー+大河)


「あ、アーチャーさんだ! こんにちわ!」

「…………藤村先生。こんにちは」

 

 ある休日の昼下がり。藤村大河は商店街で筆記用具等を買い、帰宅する途中、買い物袋を腕にぶら下げたアーチャーを見つけた。

 

 対してアーチャーは、素っ気なく挨拶を返す。

 

「ここで会うとは奇遇ですね。晩ごはんの買い物ですか?」

「はい、そんなところです」

「いいわねー。遠坂さんがアーチャーさんのご飯は美味しい! って自慢してたのよ」

「……そうでしたか」

 

 その台詞を聞いたアーチャーは内心、どこか複雑そうにしていると、大河が唐突に――

 

「そうだ! 今度家に来てください。私、是非アーチャーさんのご飯食べてみたいです。もちろん、遠坂さんと一緒に。桜ちゃんも呼んで……士郎たちとパーティーしましょう」

 

 呑気にそんな提案する。

 

「パーティー、ですか」

 

 アーチャーは若干戸惑っている様子。そんな様子に気付かずに大河はズケズケと。

 

「だって遠坂さんはよく士郎ん家来るけど、アーチャーさんはそこまで来ないじゃない? 来ても私がいないときだし。私もアーチャーさんと話す機会あまりなかったから、今思いきって誘ってみました!」

「…………」

 

 言葉が出ない。どう話せばいいのか分からない。

 

 

 

 ――――話す機会がない? それはそうだろう、アーチャーは強くそう思う。アーチャーは意図的に藤村大河を避けていたのだから。

 

 藤村大河は衛宮士郎を本当の家族のように接してくれた。時に厳しく、時に優しく。長い間ずっと。

 

 そこまでしてくれた大河をエミヤシロウは裏切った。自分の理想を追いかけて、現実を知って、あまりにも大きな絶望を感じて…………そして、死んだ。

 

 エミヤシロウの周りには心配してくれた姉がいたはずなのに、勝手に大丈夫だろうと押し付けて、姉が待ってくれていただろう家に帰らず、自分の理想の為にひたすら走った。それを裏切りと言わず何と言う。

 

 こうして、サーヴァントとして限界したとはいえ、その罪悪感は消えない。だから、アーチャーはなるべく会わないように努めた。

 

 

 

「また都合が合えばご一緒にさせていただきます。私はこれで。……ではまた」

 

 目を合わせずにそれだけ言い残し、アーチャーは去っていった。

 

「あっ、はい。さようなら……って絶対だからねー! アーチャーさーん!」

 

 その声を無視して歩く。商店街の人たちに怪しまれないような速さで。

 

「ハァ……」

 

 人通りが少なくなったところでため息が漏れる。

 

 ――――また逃げてしまった。あの時と何も変わらない。

 

 合わせる顔がない。さっきまでも、アーチャーは大河と眼を合わせずに会話をしていた。とてもじゃないけど、アーチャーは眼を見て会話なんてできなかった。自分の過ちを知っているからこそ、向かい合うことができなかった。

 

「…………絶対、か」

 

 大河のその言葉を反芻する。昔を思い出して、思わず小さな笑みを浮かべてしまう。昔よく聞いた大河のその言葉からは逃げられない気がした。

 

 

 

 

 

 

「アーチャーさん行っちゃったー……」

 

 うーん。やっぱりいきなりすぎたかな? でも、あんまり話したことがないのも事実だし。

 

「……って、あれ?」

 

 ……なんだろ、この感覚。

 

 そうだ。さっきまで見たアーチャーさんの顔……誰かに似ている? あ、思い返してみれば、目元や眉の形もそっくりだ。スゴい。他にも色々見れば見るほど、その誰かに似ている。

 

「うーん…………」

 

 でも、そんなことあるわけないよね。だって、その似ている誰かって……士郎だもの。

 

 それに士郎とは、目の色も髪の色も肌の色もだいぶ違う。年齢だってかなり離れている。背だって、アーチャーさんの方がかなり高い。

 

 ……それでも、顔立ちはそっくりだ。士郎が成長したらこんな顔立ちになりそうな気させする。

 

 どういうことなんだろう。やっぱり、他人の空似なのかな。思い違いだろうか。

 

 …………それに、どうしてアーチャーさんはまるで申し訳ないような、泣きそうな顔で私と話すのだろう。

 

「分からないなぁ」

 

 私はそうポツリと呟く。

 

 分からないけど、何故だか彼を放っておけない。思いっきり構ってあげたくなる。

 

 理由はないけど、私がそうしたいから。

 

「よしっ、遠坂さんに電話しよ」

 

 そうと決まれば、一旦家に帰ろう。そういえば、アーチャーさんの得意料理は知らないなぁ。士郎なら知っているかも。後で食材を買い込んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「ねぇ、アーチャー」

「どうした、凛」

「藤村先生から一緒にご飯食べないかって連絡来たんだけど」

 

 遠坂邸にて。それはアーチャーと大河が商店街で会ってから翌日のことだった。

 

 ――――いくら何でも早すぎないか? 昨日の今日のことだぞ。

 

 声には出してないが、アーチャーは呆れながらそう思った。

 

「……そうか」

「アーチャーはどうするの? 参加する?」

「…………」

 

 しばらくの間、言葉が出ない。眉間にシワを寄せたまま黙りこくっている。

 

「アーチャーが迷うのは分かるけど……少しくらいいいじゃない」

「そう簡単にはいかないのだよ…………。本来、私は彼女と話す資格など、これっぽっちもないのだから」

「ホント頑固ね。そもそも藤村先生がアーチャーのこと知っているの?」

「いや、凛と一緒に暮らしている程度の認識だろう。……ただ、彼女の直感はバカにできない代物だ」 

「確かに、先生って色々とスゴいものね」

 

 凛はアハハ、と笑う。

 

「同感だ。冬木の虎はなかなか侮れない」

「ところで、藤村先生、アーチャーのご飯を食べたいって言ってたわよ」

「それは聞いた」

「そうなんだ。何て答えたの?」

「適当にはぐらかしたよ」

「ふーん…………」

 

 アーチャーは行くかどうか返答に迷っていると――

 

 ピンポーン。

 

 ――――呼び鈴が鳴り響く。

 

「あら、誰かしら? ちょっと行ってくるわね」

「私も付いていこう」

 

 凛が玄関の扉を開ける。

 

「……って、士郎じゃない」

「貴様か。何用だ?」

「相変わらず、ツンケンしてるな、お前。いや、藤ねぇがさ、アーチャーさんとご飯食べる約束したから迎えに行ってねーって」

「まだ私は返事をしていないのだが……」

 

 大河の言動に呆れるアーチャー。

 

「えっ、マジかぁ。ったく、藤ねぇ……。きちんと確認してから頼んでくれよ」

「全くだ」

「それで、どうするんだ? 用事があって無理なら俺から伝えておくけど」 

「あー、大丈夫よ。準備するから少し待ってて」

「……凛」

「そんな深く考えなくていいのよ。ただただ、皆で仲良く食卓を囲むだけなんだから」

 

 アーチャーは凛のその言葉に考え込む素振りを見せる。そして、どこか諦めた様子で。

 

「……仕方ない。私も同行しよう。ところで、衛宮士郎、今回は私が料理するのだろう。彼女からのリクエストはあるのか?」

「ハンバーグだってさ。材料はもう諸々買ってあるから」

「ふむ、了解した」

「じゃ、ちょっと待っててねー」

 

 話が一段落したのを見届けてから凛は準備しに廊下の奥へと消えた。

 

「そういや、いつ藤ねぇと約束したんだ?」

 

 凛を待っている間、士郎はアーチャーに話しかける。

 

「昨日だよ。正確に言うと、彼女が勝手に決めただけであって、私は肯定も否定もしていないのだがね」

「ははっ。さすが藤ねぇだな。行動が早すぎる」

「全くもって、その通りだ」

「だから、昨日あんな話してきたのか……」

「あんな話とは?」

 

 ポツリと呟いた士郎の言葉に、アーチャーは何事かと反応する。

 

「……いや、何でもない」

 

 

 

 

――――

 

 

 

 それは大河とアーチャーが会い、その日の夕方のことだ。

 

 衛宮家のリビングで、士郎とセイバーと大河がダラダラしていた時のこと。

 

「ねぇ、士郎」

 

 晩ごはん前にミカンを頬張っている大河が士郎に声をかける。

 

「んー、どうした? ってか、まだ晩飯前だぞ。ミカンは食後にしろよ」

「いいのいいのー……。でさ、士郎は、アーチャーさんのご飯食べたことある?」

「一応あるが……何だよ、いきなり」

「得意料理とか分かる?」

「まずはこっちの話をだな……まぁ、いいか。って、アイツの得意料理ね。多分だけど、俺と同じかそれ以上にはどんな料理でも作れると思うぞ」

「そっかー」

「本当にどうしたんだ、急に?」

「アーチャーさんがご飯作ってくれるって言う約束を取り付けたのだ! というわけで、士郎。明日迎えに行ってねー」

「アイツが……?」

 

 柄でもないことをするというアーチャーを、士郎は不思議に感じる。まぁ、何か思うところがあったのだろうと、納得する。

 

「ほう。それは楽しみだ。ここで作ってくれるのでしょうか?」

「うん。桜ちゃんも遠坂さんも呼んでパーティーしよう!」

「はいよ。あ、食材はどうする?」

「うーん、私が明日色々と買っておくよ。セイバーちゃんも手伝って」

「えぇ、もちろん。承知しました」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 そんな事情があり、士郎は遠坂邸に向かったのだ。

 

「お待たせー」

 

 凛が家着から着替え、いつもの赤い私服姿で戻ってきた。

 

「よしっ。じゃあ、行くか」   

 

 と、のんびり衛宮家に移動している間。

 

「副菜はどうするのだ? 流石にハンバーグだけではバランスが悪い。他にも作った方が良いだろう」

「藤ねぇが色々と買い込んでるよ。適当に使ってくれ。今日は全部お前に任せる」

「良かろう」

「にしても、バランスとか主婦みたいなこと言うわねぇ」

「主婦ではなく、せめてバトラーと呼んでくれ。それに、凛……太っても私は知らんぞ」

 

 アーチャーは少しガッカリした口調で話す。

 

「う、うるさい! アンタにはデリカシーってもんがないの!?」

「まぁまぁ。落ち着けって。そういや、藤ねぇ、アーチャーの料理楽しみにしてたぞ」

「ここまで来たのだ。腕によりをかけて作るとしよう」 

「そういえば、セイバーも桜もいるのよね? けっこう作らないといけないんじゃない……アーチャー1人で大丈夫かしら?」

「大丈夫だろう。何かあれば衛宮士郎を使うだけだ」

「言い方……まぁ、もちろん手伝うけどさ。こういう感じの食事だとセイバーかなり食べるからさ」

「……騎士王様の食費は大変そうね」

「あぁ。セイバーの食費は安くない……!」

 

 等と、ごくごく普通の会話をしている内に衛宮家に着く。

 

「藤ねぇー!」

 

 士郎は玄関で靴を脱ぎながら、大声を出す。玄関にある靴の数でもうセイバーも大河も桜もいるのは分かっている。

 

「あ、士郎。早かったわね」

 

 パタパタと足音をたてつつ大河はやって来た。

 

「いらっしゃい。遠坂さんにアーチャーさん」

「今回はご馳走になりまーす」

「作るのは私なのだがな。……お邪魔します、藤村先生」

「はーい。アーチャーさんのご飯楽しみにしてまーす。……あ、そんな先生呼びじゃなくていいのよ。他人行儀じゃない。気軽に大河って呼んでくれれば。あ! 士郎みたいに藤ねぇ、でもいいのよ」

 

 と、冗談っぽく言う大河に対して、アーチャーはバツが悪そうに顔を逸らし、返答する。

 

「…………いえ、この呼び方が今の私の中でしっくりくるので」

「そう? ま、上がって上がって」

「それでは失礼します」

「先生、もう桜もいるのかしら?」

「いるわよー。今、セイバーちゃんと洗濯物取り込んでくれてるわ」

「ちょっと様子見てきますね」

 

 そう言いながら凛は軽く小走りで縁側の方へ行った。

 

「では、私はキッチンを借ります」

「あ、どうぞどうぞ。何か困ったら士郎呼んでくださいね」

「分かりました」

 

 アーチャーはそそくさと居間へと歩く。玄関には士郎と大河が残された。

 

「……さて、藤ねぇ」

「んー、なにー?」

「何じゃないだろ。今回のこれ、アーチャーたちがまだ返事してないのに、なに決定事項みたいに進めたんだ? 俺、知らなかったぞ」

「うっ…………細かいなぁ、士郎は」

「なんつーか、いきなり過ぎないか? あのアーチャーも戸惑ってたぞ」

「だってー……なーんか、構ってあげたくなったって言うかー。放っておけないって言うかー。アーチャーさん見てると、何故だか世話を焼きたくなるのよねぇ…………」

「…………っ」

 

 何気なく言う大河だが、士郎はその言葉を聞いて思わず眉を寄せる。しかし、すぐに表情を元に戻す。

 

「だからと言って、人の返答を聞いてないのに誘うのはよくないと思うな」

「次から気を付けますぅー。……………それにしても」

 

 

 ――――やっぱり、似ている。

 

 

 そう感じた。何てことのない、大河のただの直感で。しかし、その言葉は表には出さずに、

 

「それにしても、何だ?」

「ううん、何でもない。さ、私たちも行くわよ」

 

 藤村大河らしい、いつもの明るい笑顔で誤魔化した。

 

 

 

 

 

「おぉー!」

「やっぱり、スゴいな」

 

 大河は目を輝かせ、士郎は感心しとように、感嘆の言葉を漏らす。

 

 今、衛宮家の食卓にはアーチャーが作ったハンバーグやサラダ、スープ等が並んでいる。どれもスーパーで買った食材とは思えないほど豪勢な料理だ。

 

「さっすがアーチャーね」

「ホント、スゴいですね………」

 

 凛と桜も感心している様子だ。

 

「では、早速いただきましょう」

「少しは待てよ、セイバー」

 

 我先にと食事に飛び付くセイバーを士郎は止める。まだアーチャーは台所で何かを料理しているみたいだ。

 

「まだ何かあるの?」

 

 凛の問いかけに、アーチャーはフッ……と笑い、

 

「いや何、市販のソースだけではどこか勿体ない気がしてね、折角の機会だ、ソースも自作しようとしているところだ」

「無駄に色々拘るわね、アンタ……」

「衛宮士郎、箸の用意を頼む」

「はいよ」 

 

 と、着々と準備が進む。そして、しばらくすると全て準備が終わり、皆が座り始める。

 

「じゃあ、皆さん一緒に――」

 

 大河の音頭で。

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

 アーチャーを除いた全員が声をあげる。

 

「召し上がれ」

 

 

――――

 

 

 

「…………?」

 

 皆で、楽しくご飯を食べている。思い思いに話をしていて、時おり私も交ざっている。でも、セイバーちゃんは黙々と箸を動かしているね。

 

 そんな中、私は何だか変な違和感に襲われる。

 

「どうかしましたか?」

 

 不思議そうにしている私に遠坂さんが声をかけてくれる。

 

「ううん、何でも」

 

 次にアーチャーさんが。

 

「何か口に合わないでしょうか?」

「そんなことないよ。とっても美味しいです!」

 

 私は元気よく答える。

 

 そう、美味しいのだ。これだけ食べようものなら、それなりの値段がしそうなくらいの料理だ。

 

 ………ただ、このハンバーグの味付けや味噌汁の味、他にもたくさんの料理…………今まで数えきれないほど食べてきたことがある。それが誰の料理なのかはハッキリと分かる。

 

 けれど、これはどういうことだろう? だって、士郎はここにいるもの。それに、士郎は今回アーチャーさんを手伝ってない。分からない。うん、不思議だ。

 

「――――っ!」

 

 ――――何か、悟った。

 

 …………世の中不思議だ。でも、きっとそういうことなんだろう。理屈じゃない。そんな小難しい説明なんていらない。だから、私と話すとき、あんな悲しそうな表情だったのかな。

 

 でも、今はそんな感じはしない。セイバーちゃんや遠坂さん、周りに振り回されながらも、少し呆れた表情をしている。その表情はどこか楽しそうだ。

 

 そんな彼に、私は何ができるかな………。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 皆がアーチャーの料理を食べ終わり、それぞれが風呂に入ったり、テレビを見ていたりしている夜更け。

 

「ねぇ、アーチャーさん」

 

 皿を洗っているアーチャーに大河は構わず話しかける。

 

「? ……どうかしましたか?」

「ご飯、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。思わず食べすぎましたよ」

「お口に合って良かったです」

「それでですねぇ、いきなりですけど、アーチャーさんって剣道できますか?」

「……剣道?」

 

 アーチャーは、いきなりの単語に軽く戸惑う。

 

「はい。食後の運動に付き合ってください!」

「……それなら、衛宮士郎がいるはずでは」

「士郎とはしようと思えばいつでもできるわけですし……せっかくですし、アーチャーさんと手合わせしてみたいなぁって。で、できます?」

「まぁ多少は。剣道5段の貴女には劣るでしょうが」

「決まり! 早速移動しましょう!」

 

 と、アーチャーの腕を引っ張る大河。

 

「いや、まだ皿洗いが――」

「そのくらいなら俺がやっとくよ。つっても、もうほとんど終わってるじゃないか」

「衛宮士郎……」

 

 少し離れたとこから様子を見ていた士郎が割って入る。そんな士郎をアーチャーはジロッと睨む。

 

「じゃあ、士郎。よろしくね!」

「おう。後はごゆっくり」

 

 そして、アーチャーと大河の2人は道場に移動する。

 

 そこはさっきまでいた居間の雰囲気とはかけ離れ、とても静かで、空気は決して淀んではなく、ひんやりとした空気は嫌でも身を引き締められる。

 

「うーん……アーチャーさんのサイズに合う防具はないです。ごめんなさい」

「でしたら、なしでも構いません」

「私も着替えるの面倒だし、防具なしでいきます。軽く動くだけですしね」

 

 と、道場にある竹刀を取り、

 

「では、お願いします。アーチャーさん」

「はい。こちらこそ」

 

 互いにお辞儀をしてから、中段に構える。

 

 剣道は本来、礼に始まり礼に終わると云われる武道だ。それは大変厳しく、1本取った後にほんの少しでもガッツポーズをとってしまうと、その1本は取り消しになるほど。

 

 緊張感を走らせながら、2人ゆっくりと動く。相手の僅かな隙をを見付け、竹刀を打ち込む。もしくら自ら相手の隙を作りにいく。そういう競技なのだ。

 

「ふっ……!」

「はぁ――――!!」

 

 パァン!! と、竹刀の当たる音が響く。互いの攻撃を避けて、いなしす。今度は鍔迫り合いになり、距離を取りつつ仕切り直して、また攻める。

 

 剣道は、どれだけ試合が長く続こうとも、試合が決まるのは1秒にも満たない、僅か一瞬の出来事。

 

 そんな息が詰まるような緊張感の中、アーチャーは不思議と。

 

 ――――楽しい。

 

 不覚にもそう感じた。

 

 かつて、アーチャー自身は大河に敵わなかった存在だ。しかし、今はこうして対等に戦いあっている。大河は汗を掻き、息を切らしている。アーチャーも同じく。

 

 やはり大河は強い。その大河の強さを身を以って知ることができた事実が何より――嬉しかった。

 

 願うのなら、この時間がずっと続けばいい。その思いは口には出さず、自身の胸の奥に隠す。

 

 そしてしばらくすると――――その時間は終わりを告げる。

 

「ハッ……!」

 

 アーチャーの鋭い竹刀捌きは大河の面を捉えた。最後の最後で、大河は精神と肉体の疲労でその攻撃に反応できなかった。

 

「あちゃー……負けちゃったぁ…………」

 

 息を切らしながら、残念がる大河。

 

「……いえ、こちらもギリギリでした」

「あー……悔しいな。うん、でも、楽しかったです!」

「楽しかったのは私もです。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 試合の終わり、頭を下げる。そのまま腰を下ろしながら話を始める。

 

「アーチャーさん、ホント強いですね。さっすが、体鍛えてるだけありますよ」

「貴女にそう言ってもらえると、素直に嬉しいです」

 

 謙遜せず、ありのままの思いを口にするアーチャー。

 

「………………」

 

 マジマジとアーチャーの顔を見つめる大河。大河はそんな彼を見て、どこか納得した様子になる。

 

 と、ここで、アーチャーにとって忘れられない驚きの一言が、何かを決心した顔つきの大河から出る。

 

 

 

 

「うん、ホントに……強くなったね――――士郎」

 

 

 

 

 彼の頭を撫でながら、優しく伝える。

 

「…………藤ねぇ」

 

 自然と口からその単語が零れる。しかし、慌てて我に返り口調を戻す。

 

「ど、どうしてです……?」

 

 何を、とは言わない。

 

「んー…………そりゃ、最初はなんで? って気持ちがあったけど、分かるよ。……私はお姉ちゃんなんだから」

「そ、そうですか……」

 

 まだ彼の頭を撫でるのを止めない彼女に照れくさそうに頬を赤く染める。

 

「本当に強くなったんだね。お姉ちゃん顔負けだよ。…………よく……頑張ったね」

「…………ッ」

 

 涙が溢れそうなのを必死で堪える。

 

 ――――その一言で、何かが救われそうな気がした。何かが報われそうな気がした。

 

「さっきさ、遠坂さんたちを出迎えた時、いらっしゃいって、私言ったでしょ?」

 

 突然、思い出したように語り始める。

 

「でも、なーんだか違うよね。しっくり来なかったんだ。だって、うん、そうだね。そんな言葉、君には相応しくないよ」

 

 藤村大河は、精一杯の最高の笑顔で彼にある言葉を送る。

 

 

 

 

 

 

「――――お帰りなさい、士郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、訂正などありましたらお願いします。
最近、vitaのstay night を買いました。のんびりと進めていきたいです。みんな声が若いですねぇ

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