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商店街にて。
俺こと、衛宮士郎。セイバーに桜。向こうのイリヤとクロと美遊と買い物に来ている。……地の文でイリヤを呼ぶときは大変だな。
あ、俺らの知ってるイリヤはお留守番。というより、イリヤがイリヤたちと歩きたくないらしい。……ホントややこしいな。
遠坂はルビーとサファイアを連れて一度屋敷に戻った。それなりに調べてみると。その時、霊体化で消えていたアーチャーもいたんだが、特に挨拶もせずに帰っていった。……イリヤたちに何か思うところでもあるのだろうか。
「悪いな、2人とも。さっき来たばかりなのに」
「いえ、先輩。問題なしです。あ、せっかくですし、ちょっと豪勢な食事にしてみませんか?」
「ほう……それはどのような?」
こういう話題になるとスゴい早く反応するよな、セイバーって。
「そうだな……唐揚げや天ぷらを多く作ってみるか」
他にも、刺身をたくさん買ってオリジナルのり巻もいいかもしれない。小さいハンバーグを多く作ってみてもいいかな。
「お、たこ焼きもいいかもな」
手軽に数多く作れる料理だ。といっても、たこ焼き機は一台しかないから一度にそんなには焼けないけど。
「シロウ、それはダメです!」
「あー……蛸苦手だっけか」
「はい。いつかの勘違いストーカーを思い出してしまいます……」
ストーカーっていったら、やっぱりギルガメッシュか? いや、第4次の話だったような。その時もギルガメッシュいたはず……やっぱりギルガメッシュになるのか。
「とりあえず見て回ってから考えましょうか」
桜に賛成。
「だな。セイバーも何かリクエストあったら言ってくれよ。……高いものはキツいが」
「えぇ。ところで、イリヤスフィールたちは何か苦手な食べ物はありますか?」
それ、俺の台詞……。
「イリヤでいいですよ、セイバーさん。うーん、特に苦手な食べ物はありませんけど」
「私もないわね」
「同じく」
「了解。イリヤたちも何かリクエストあったら気兼ねなく言ってくれ」
「でしたら、士郎さん。1ついいですか?」
「どした、美遊」
「私も料理手伝ってよろしいですか?」
「あれ、料理できるのか」
「はい。お兄ちゃんに沢山仕込まれましたから……」
少し照れながら、はにかむ美遊。そっか、美遊の兄である俺は料理教えてたのか。そこまでは聞いてないからな。
「でも、あの台所で3人か。そんなに広くないからなー……」
「――――大丈夫ですよ、美遊さん。あなたたちは客人なのですから、私と先輩に任せてください。…………ポッと出のあなたに台所は渡せません」
…………話してる内容はごく普通だと思うのだが(前半だけ)、桜の表情が若干冷たい。
「迷惑をかけてるのはいきなり押しかけてきた私たちです。だから、少しでも手伝いたいのですが。それに、料理は得意ですので心配いりません」
美遊も負けじと桜に言い返す。
「うわぁ……」
「…………やるわね、美遊」
イリヤとクロは少し引いてる。
「料理は私も得意です。先輩にたっくさん、教えてもらいましたから! いきなりここの世界に来て大変でしょう。大人しく待っててください」
普通に聞けば、桜の言ってる言葉は美遊を気遣っているのだろうが、変な圧がスゴい。
「泊めてもらえるのですからこのくらいは当然です。手伝います」
「ちょっと落ち着けって、2人とも。交代しながらやれば問題ないからさ」
「……先輩がそう言うならそうします」
「…………おにっ……士郎さんがそう言うなら」
不本意だろうが、一応は納得してもらえたかな。
「にしても、あんまりここは変わらないわねぇ」
「うん。ところどころ違うかなーって場所はあるけど。ほとんど一緒かな」
クロとイリヤがそう呟く。
「そう? 私のとことは大分違うけど」
「ほら、美遊の世界はもう根本から変わってるわけだから」
「そうね。夏が寒いって初めてだわ。それにあそこ災害のせいで、そもそもの人が少ないし、そりゃ違うわけよ」
そんな風にのんびり会話する3人を見つめる。
――――……良かった。少しはここに馴染んでくれたのかな。あまり焦りの様子は見られない。
「……シロウ」
「どうした?」
「あれを…………」
と、セイバーに肩を叩かれ、後ろを振り向く。
「うわっ……あそこにいるのセラにリズじゃないか」
「どうします? 恐らく我々に用があると見受けられますが」
イリヤのメイドの2人が俺らを見つめていた。
いつもの被り物をした服ではなく、遠坂の屋敷に余っていたメイド服を着ている。「商店街や新都に行くときは無駄に目立つからこれ着なさい」って遠坂が言ってたな。その時のごく普通のメイド服はあの2人は大層気に入ったのか、それを着ているすがたをよく商店街で見かける。
「とりあえず様子を見るか……って」
あ、こっちに来た。
「こちらに来ましたね」
「……だな」
セイバーが少し警戒する。
「こんにちは、衛宮様」
「やっほー」
「……よう。どうした?」
セラもリズもイリヤたちを見ても驚いていない。逆にイリヤたちはポカンと口を開けている。
「お嬢様の命により、お届け物を」
「届け物?」
確かにセラもリズも紙袋を持っている。って、そうじゃなくて。
「それでだな……この3人は……えーっと…………」
どう説明しよう。
「大丈夫です。お嬢様から話は伺っております」
と、セラは俺の台詞を遮るようにそう言う。
「イリヤから聞いた。平行世界から来たんだって? へー、そっくり。でも、こっちのイリヤはとても優しそう」
それ、イリヤが聞いたら怒りそうだな。
ふと、視線を移動させる。
「セラ……リズ…………」
ここにいるイリヤは、掠れた声で2人の名前を呼ぶ。
「…………そっか、そうよね。私の知ってるセラとリズじゃないんだよね」
「イリヤ……」
「…………」
そう1人で納得してしまうイリヤ。
何か声をかけたいのだろうけれど、どう話せばいいのか分からない美遊。クロは静かに見守っている。
「確かに、私は貴女の知る者ではないでしょう」
――――セラの一言。
長い間一緒に暮らしてきた彼女にとって、それはきっと……残酷な一言。
「ですが、それでも、貴女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。それだけは絶対に変わりません」
「セラ……」
「そう、どんな世界にいようとイリヤはイリヤ」
「リズ……」
眼が潤んでるイリヤに対し、リズはいつもの調子で。
「よしよし。良い子良い子。イリヤ、頑張ったね」
セラも一緒に。
「――――イリヤさん、頑張りましたね。とても立派になりましたね」
優しい言葉と共にイリヤの頭を撫でる。
「うん……ありがとね! セラ、リズ」
その瞳はまだ潤んでいるが――イリヤは、精一杯素敵な笑顔で応えた。
――――――
一旦落ち着き、俺はセラに話しかける。
「それで、届け物って?」
「これを。お嬢様の着替えです」
紙袋を手渡される。
「着替え?」
「はい。3人分の着替えが入っています」
「あー、なるほどな」
確かにいつ帰れるか分からない以上、着替えも必要か。
「荷物も渡したことなので。私たちはこれで失礼します」
セラたちは颯爽と去ろうとする。
「あれ、もう帰っちゃうの? もっといればいいのに」
「クロエ様。私たちも仕事がありますので。……まぁ、たまには、そちらに伺いに行きます」
「また遊びに行くねー」
「……そうね。私たちがいつまでここにいれるか分からないけれど、待ってるわ」
「えぇ。その時は料理でも作りましょう」
クロは微笑み。
「楽しみにしているわ。できれば、クロって呼んでほしいわね」
「……考えておきます。それと衛宮様」
「何だよ」
「お嬢様の服の洗濯の仕方は袋の中にメモがありますので、その通りにお願いします」
「はいはい」
「頼みますよ。くれぐれも色落ちや型崩れなどさせないように。……では、今度こそこれで。皆さん。お元気で」
「じゃあね~」
「セラ、リズ、ばいばーい!」
「またお会いしましょう」
イリヤと美遊が別れを言い、セラとリズはその場から去っていった。
にしても、俺に桜にセイバー……完全に外野だったな。俺だけは一応話しかたけど。まぁ、こればっかりは当事者でもない俺らがどうにかできる問題じゃないからな。
「さて、それじゃ、買い物再開しましょ」
「うん、そうだね」
「士郎さん、まずはどこから行きますか?」
クロの音頭にイリヤと美遊が釣られて反応する。
「そうだな……」
商店街に来たはいいけど、大人数の料理を作るならスーパーの方がいいかもしれない。スーパーに行く途中に何か目ぼしいものがあったら買うことにするか。
と、特に道中問題なく買い物を済ませることに成功した。スーパーで会計する時の店員が、青くて長い髪でかなりの長身だった奴がいたり、水色の綺麗な長髪の人妻と遭遇したりしたことをを除けば特に問題なかった。
…………問題しかない気がするな。
「ただいまー」
玄関に入る。家にはイリヤが残っている。どこにいるのかな。
「いたいた。イリヤー」
「おかえり。シロウ」
荷物を桜に任せて、少し探していると、縁側で足をブラブラとしているイリヤがいた。
「何してんだ」
「…………別にー」
……かなり不機嫌そうだ。目を合わせてくれない。
とりあえず立っていてもどうしようもないので、俺もイリヤの隣に座る。
「そういや、イリヤはさ」
「何?」
「もう1人のイリヤをどう思ってるんだ?」
「………………」
「………………」
しばしの沈黙。
「そうね。正直、気に入らないわ」
「気に入らない、か」
「あっちの私もそれなりの苦労をしているのは分かるわ。でも、私より楽しそうな、平和な日々を送っていた。当たり前に笑っている日常を過ごしてきた」
「……それが、気に入らないって?」
「…………………………聖杯戦争に戦う為だけに生まれてきた私と楽しそうな、私も過ごしてみたい日々を送ったあっちの私。同じイリヤだけど、どう違うの? なんであっちの私ばかり良い思いをしているの? 私の生きてきた意味って何だろう……もう1人の私を見てただ、そう思っただけ」
そんなイリヤの冷たい言葉に思わず言葉が詰まる。
――――どう返せばいいだろう。どんな言葉が正解なのだろうか。……分からない。そんな簡単に理解できるかんて言えない。だけど、これは伝えないとならない。
「確かに2人の境遇は違うけどさ。もし、聖杯戦争がなかったら、きっと俺たちは出会わなかったと思う。そりゃ、辛い思いはたくさんしてきたけど、それ以上に皆と……イリヤと出会えた。だから、今までの日々は意味があったと、俺は思うな」
こんな言葉で、イリヤの過去は消えないし、イリヤの心はそう易々と救えるとは思えない。
ただ、俺は伝えたかった。イリヤと出会えて良かったということを。
「……ねぇ、シロウ」
「どうした?」
「シロウは私と一緒にいて、嬉しい?」
「もちろん」
即答。
「……ふーん」
横からチラッとイリヤの顔を覗く。嬉しそうに年相応な可愛らしい微笑みを浮かべる。
「シロウ!」
と、イリヤはこっちに振り向く。
「お、おう」
「明日学校ないよね?」
「あぁ。今日土曜日だしな」
「明日、プール行くわよ」
さっきの約束のやつか。
「それはいいが、水着はあるのか?」
「前にセラたちと買った。問題ない」
「へー、そうだったんだ」
セラがいたからにはお堅い水着なのだろうか。
「もちろん、私とシロウの2人だけだからね!」
「分かったって。……急に元気になったな」
「今までもう1人の私がシロウと良い思いをしてきたなら、今からでもシロウとの思い出たくさん作るの。もう1人の私に負けないくらいね!」
…………さっきまでの冷たい目がなくなり、今はとても楽しそうな表情だ。思わず俺も自然と笑みを浮かべる。
「よしっ。そうと決まれば、まずは晩ごはんだな。早く食べて早く寝るか」
「うん。ところで、あの子たちはどこで寝るの?」
「そうだよな。空き部屋はけっこうあるけど、布団がそんなにないからな……また後で相談しようか」
「だったら~……私と一緒に寝る? ねぇ、シロウ」
「こらこら。そんなのアイツらが納得するわけないだろ」
「別にいいじゃない。だって、私たち姉弟なんだから」
そんなことを話ながら俺とイリヤは台所へと歩く。
次の話はこのシリーズとは違う話にするかもです。前々から見てみたかった2人の話になるかもしれない。
感想などドシドシ下さい