空っぽだった彼が最期に思うのはなんだろうか?
ただそれだけの空想話。

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伽藍堂に消えゆく聖職者

ーーー夢を見ていた、かつて愛せなかった妻の夢だ

 

鮮やかな幻のようで、塊の在り方を魅せられたような

 

そんな夢だった

 

ーーー夢から覚めて血に染まった自分を改めて見る

 

…何故か今までの私の在り方を自ら否定したような錯覚を覚える

 

そんな夢に何故か私は現実を見た、本来あるべきものを見た気がする

 

死に際に見た夢に今までの苦悩を苦痛を嘆きを

 

何故今更になって否定されたのか解らないが死に際だ良しとしよう

 

どうせ私は地獄に落ちるのだから

 

ーーー

 

走馬灯というやつだろう過去の自分を見る

 

…私の幼い頃の話だ、…いや青年になってもそうだったか

 

美しき花では無く、毒草を美しいと思っていた

 

蝶ではなく、蛾を好ましく思っていた

 

人の喜びではなく、人の嘆きを心の底から喜んでいた

 

…死を目の前にした今だからこそ解る

 

苦悩し、嘆き、答えを得たあの時から私は過去の私と決別したのだと

 

 

 

ーーーいつからだろうか?私の在り方に疑問を持つようになったのは

 

ーーーいつからだろうか?その疑問が確信に変わっていったのは

 

ーーーいつからだろうか?私がそれを良しと笑うようになったのは

 

血に染まった自分を見て、胸に穴の空いた自分を見て私は思った

 

『…やはりこんなものか、私らしい最期だろう』

 

苦悩に満ちた青年時代を思うと私はただ笑うだけ

 

『こんなものか』と笑うだけ、いや嘲笑うだけ

 

私と言う異端を私は許容した、正しくは私の異常性を理解し肯定した

 

あの高慢な英雄王に言われるまでもなく

 

当時から私は私を理解していた、認めたくなかっただけで

 

『私は異端である』と理解していた

 

…かつて私にとっての最後の試みを行った事がある

 

とある女との結婚を私は最期の試みとするために

 

私は人を愛せる人間なのかと知りたかったが故に

 

結果的に私はその女を人並みに愛せなかった

 

女の苦痛を喜ぶ私に微笑みかける女の笑顔を信じられなかった

 

愛とは一般的に相互理解であると私は思っていた

 

私にとって…その女は聖女だった、私を理解しようとしてくれた

 

私の苦痛を和らげようとしてくれた

 

…人を愛する事を知らない私に愛を教えてくれた

 

彼女は一方的な理解でも愛は成り立つのだと

 

こんな私に伝えたかったのでは無いかと今では思う

 

その女は未来の無い女だった

 

私は限りある時の中で女を愛そうと努力した

 

人並みの幸せをと、人並みの幸福をと私は私なりに努力した

 

結論から言えばそれは不可能だった

 

異常な私にはその『人並みの幸福』が理解できなかった

 

だから私にとっての聖女の最期を看取ることで私は私と決別した

 

私は異常で異端で…そして憐れだった

 

答えを求め、彷徨い、嘆き、苦しみ

 

その苦悩の果てにすら答えは得られなかった

 

何が悪かったかと言うと全てが悪かった

 

運も、生き方も、環境も、有り体に言えば私には合わなかった

 

倫理も道徳も理解はしていた

 

だが私にはそれが正しいと知りながら

 

その正しい行いをに行えば苦痛を感じるだけだった

 

私は結局のところ蛾を愛し、毒草を愛し、人の苦悩を苦痛を喜ぶ破綻者だったのだから

 

 

 

 

…だが、死に際になってもしも時を戻せるのならと下らない夢を見る

 

『今ならあの女を愛せるのではないか』と

 

『あの女に愛を告げる事が出来るのではないか』と

 

幻想にしか過ぎない、それこそただの夢でしかない

 

本来であれば死に際の夢とも呼べぬ下らない妄想

 

既に最期を迎えると言うのに最後に思い出すのは

 

……かつて愛そうと努力し、愛せなかった妻だった

 

ああ、やはり私らしいと嘲笑う

 

 

ーーー未だに私には解らないが

 

この胸の中にある感情こそが『愛』だったのだろうか?

 

私にとっての聖女を今なら愛せるのだろうか?

 

例え地獄に落ちようとも、魂が焼かれようとも

 

この胸の温もりをあの女に届けられればと思う

 

私はーーーお前を愛していたのだと

 

その言葉はもう伝えるすべは無いが

 

やはり、それこそが私らしさと笑うとしよう

 

どうかーー願わくば我が娘が私のようにならぬ事を…

 

そして…誰か人並みの幸福が与えてくれる事を願う

 

そうだな我が怨敵、衛宮士郎なら幸せにしてくれるやもしれん

 

つい笑ってしまう、あの男はお人好しすぎたなと

 

父としてあの娘には何も言えない…かつて見限り捨てたのだから

 

だから私は1人の異端者としてではなく、聖職者として

 

そして今は見えぬ紫陽花の花のように私を癒そうとした妻のように

 

あの娘の魂が救われる事を…切に願う

 

私はあの娘の父親にすらなれなかった、だがそれで良い筈だ

 

あぁ…世界は人は、醜く愚かで…愉しかった

 

そんな愚かな人間の一人として、いや外れものとしては

 

私は崩れゆくこの場所で死に行くのがお似合いだ

 

ーーー笑ってしまう、破綻した人間が死に際にこんな事を願うとは

 

あの子に何もしなかったのに、出来なかったのに…

 

何を私は思ってしまったのか…

 

「…死に際にあんな夢など見るものでは無いな」

 

目は霞み、もう何も見えはしない

 

なのに何故だろうか?

 

美しき花が見えるのは?

 

何故この私が美しいと思うのか?

 

この花は何だっただろうか?

 

ああ…確かに見覚えがある

 

きっと地獄の果てでも思い出せる

 

この花は紫陽花【オルテンシア】

 

奇しくも我が妻と我が子と同じ名前の花

 

花などこんな所に咲くはずもないのに

 

 

 

 

ーーークラウディア、君はやはり私の救いだったのかもしれないな

 

洞窟は崩れる、私は体は動かない

 

元より死体が良くここまで動けたものだと笑ってしまう

 

幻が見える…かつての妻であり、私にとっての聖女だった

 

私にとっての聖女はここに何をしに来たのだろうか?

 

ーーー私には解らない

 

【行きましょう?】

 

ーーー幻聴が聞こえる

 

【ずっとあなたを待っていたのだから】

 

ーーー幻聴が聞こえる

 

【貴方の事を愛している私にこれ以上言わせる気ですか?】

 

ーーー

 

【私は貴方を愛しています】

 

ーー私も、お前を愛している

 

【…ようやく言ってくれましたね?貴方が本音で言ってくれるとは思いませんでした】

 

ーーだが私は地獄に落ちるだろう、お前と同じ所には行けない

 

お前は天国に行くのだから

 

【ついて行きますよ?私は貴方が好きなのですから例え地獄の底まででもついて行きます】

 

ーー何故?

 

【…愛しているからです、そして地獄でも貴方とならば苦痛ではないと思っていますし痛みには慣れています!】

 

ーーああ、この女は…愚かで実直で…

 

ーーなにより愛しい

 

【綺礼?】

 

『…私はお前を愛している』

 

【…私もです】

 

洞窟は崩壊をとうの昔に始めている

 

それ以前に私の命はもう尽きてしまったのに…

 

皮肉なものだ答えを得たのが死に際とは…まったくもって私らしい…

 

そうか、これが私が羨んでいた人並みの幸せなのだな…

 

『地獄であろうと、君と一緒に居られるのならきっと…そこは天国なのだろうな…。』

 

…洞窟は崩れた、私の肉体は岩で潰され無惨なものだ

 

最後の最後ですら格好がつかない…私らしい最期だなと私は思う

 

…さて行くとしようクラウディア、君さえ良ければ

 

【勿論です、そのために貴方を待っていたのですから】

 

…良ければまた私の妻になってくれないだろうか?

 

【勿論!】

 

『ありがとう、こんな私を見捨てないでいてくれて』

 

【愛していますから!誰よりも貴方を私は愛しています!】

 

ーーありがとう、私を見ていてくれて

 

ーーありがとう、私を見捨てないでくれて

 

ーーありがとう、お前は天国に行くはずなのに…

 

【…愛している人と居られる以上の幸福などありませんよ?】

 

ーーありがとう…

 

私の最愛のクラウディア・オルテンシア

 

私が生涯で唯一愛した愛しき妻よ。

 

 

 

 




コンセプトはとあるルートの外道神父が見た最期の幻です

言峰綺礼がこんな事を考えることはねえよ!!と言われるかもですが私の妄想と元気なクラウディアさんが見たかったんです…
できればそこは見逃してください…
批判、評価お待ちしています!

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