Fate/V   作:夜廻

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投稿です。結構間が空きましたが作者は生きています。


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Side『V』

 

「いいかい? V君。危なくなったらすぐに逃げるんだ。いいね?」

「善処しよう」

 

ロマニが念を押すように戦闘の際の注意を述べる。相も変わらず他人には優しい奴だ。ロマニが管制機器の操作に戻った直後今度はダヴィンチが向かって来る。

 

「V君、コレを持っていきな」

 

ダヴィンチから手帳を渡される。牛革で持ち運びしやすい手帳だ。

 

「どうせ、君は通信をしないし応じないだろうしね。集めた情報は其処に書いて送ってくれたまえ」

「助かる」

 

手渡された手帳をポケットにしまいコフィンへと入る。

 

次のレイシフト先は中世ヨーロッパのフランス。そこで第一の特異点が発見された。立香とマシュ達はまだ療養中で現在時間的に夜中とあってか寝ている。

 

『此れよりファーストオーダーを開始します。レイシフト先は1431年フランス。何があるかわからない、だから慎重に行動してくれ、V君。それでは、レイシフト開始!』

 

体が光に包まれ浮遊感を感じる。そして文字通り体が消えていった。

 

 

 

 

 

目を開けて辺りを見回す。どうやらレイシフト出来たようだ。右腕を横に上げグリフォンが現れる。

 

「今度はマっ平らな平原かヨ。で、ココドコ?」

「1431年のフランスだそうだ」

 

グリフォンは俺の腕から飛び立ち、上空を飛び回る。

 

「へー、その頃といやぁ聖女サマが有名だな。ジャンヌ・ダルク、だっけカ? いたら一目拝んでみたいゼ」

「それはいいから周辺を見てこい。何かあったら戻って来て報告しろ」

「ハイハイ。マッタク、やっぱりVちゃんはオレがいないとダメねぇ」

 

グリフォンはそう言うと遠くへと飛び去っていった。とはいえ暇なのでそこら辺の程よい岩を見付けて座る。

そしてしばらくしてポケットに入れておいた通信機が振動する。

 

『こちらロマニ、V君聞こえるかい?』

「聞こえている。レイシフトは無事に成功した」

 

ホログラムにロマニの姿が投影され通信を開始する。

 

『あれ? 君のサーヴァントはいないのかい?』

「そうだな、まだ会っていない」

 

先日召喚したセイバーが辺りに見当たらない。レイシフトするときに一緒に来ていた筈なのだが。

 

「此処にいるぞ」

 

後ろからセイバーの声が聞こえ振り返る。現在セイバーはラフな格好をしており何時もの禍々しい甲冑は着ていない。

 

『よかった。レイシフトが失敗して君だけだったらどうしようかと思ったよ』

「たらればの話はどうでも良い。それよりもだ、ロマニ。彼女達とは何日後に合流する?」

 

これから俺とセイバーは彼女達がこの特異点に来るまでの障害の排除もしくは敵情偵察をする手筈になっている。本当は特異点の修正までいきたい所だがロマニに釘を刺されておりそこまで大それた事は出来ない。だから彼女達が来るまでのどの程度情報を集められているのかが肝心なのだ。

 

『そうだね、三日後位かな。それまで辛い仕事を押し付けてしまうけど宜しく頼むよ』

「……三日間通信を切る。三日後また連絡をしてくれ」

 

ロマニの返答を待たず通信を切る。通信は切るが今後集められた情報は随時ロマニとダヴィンチに送信し続ける。レイシフト前にダヴィンチに渡された手帳でな。

 

「終わったか」

「待たせたな。さて、そろそろ戻って来そうだが」

「トリ公の事か? 先程飛んでいるのを見掛けたが」

「周辺の状況を調べさせている。街などがあればそこに向かい情報収集するぞ」

「了解」

 

そう話している内にグリフォンが周辺の調査を終え戻って来る。

 

「ヨウ、セイバーチャン! 迷子になってナかったか心配ダッタゼ!」

「ご心配痛み入るトリ公。此方も貴様がチキンになっていないかと心配していた所だ」

「やめろお前達。それより報告しろ、グリフォン」

 

セイバーとグリフォンの仲裁に入り報告を催促する。毎回セイバー達のやり取りにはほとほと呆れる。

 

「アー、あっちに街があっタ。ケドありゃあ廃墟ダッタゼ?」

「……街があるならばそちらに行こう。行くぞセイバー。戦闘の準備はしておけ」

「言われなくともそのつもりだ」

 

ロマニのブリーフィングで歴史の軌道が逸れた特異点にはカウンターサーヴァントと呼ばれるマスターを持たぬサーヴァントが召喚されるらしい。先の特異点でも召喚されていた様でこの特異点にもいる筈。出来る事ならば引き入れて戦力にしたい所だ。

 

特異点には特異点足らしめる原因がある。先ずは手掛かりを探す事が先決。この時代、街の廃墟など珍しくも無いが虱潰しに調べていく他ない。

 

 

 

 

 

「……成る程な」

 

グリフォンの報告にあった廃墟の街へと向かい内部に侵入した矢先。其処に居座っていた存在、光景に事の全てを察した。

 

鼻に付く血生臭い匂い。地面に飛び散っている血痕と肉片。広場の中央で屍を貪る飛竜(ワイバーン)達。

 

これだけでこの街があのワイバーン達に襲撃され、壊滅したことを察するには十分過ぎた。

 

「ヘェ…ワイバーンか。この時代には居ねぇハズだがナ」

「元凶の仕業だろう。私の国もワイバーンは居たが、神秘の薄くなった大陸では消えていたと聞く」

 

本来ならば中世フランスにワイバーンなどいる筈がない。ワイバーン等の幻獣種は時代と共に消えていった。1400年代ともなればお伽噺と揶揄される時代だ。

 

「ともあれ邪魔な存在である事は確かだ」

 

臆せずワイバーン達の前に歩み出る。自分達に近付く人間の存在に気付いたワイバーン達は人間へ咆哮する。

 

「やれ」

 

Vへと迫るワイバーン達に雷と黒き刃が振り下ろされた。

 

 

 

 

1日目 夜

 

「マスター、腹がへったぞ。食い物を寄越せ」

「………」

「ハハハッ……クククク……」

 

手帳に自作の詩を添えて報告を行っていた所、セイバーが真剣な面持ちで焚き火を挟んで対面に立つ。グリフォンはその様子が可笑しいのか愉しそうに此方を見ている。

 

「クククク、オイV! セイバーチャン腹ペコダってよ!」

 

これ見よがしに声を掛けてくるグリフォン。それが癪にさわったのかセイバーはグリフォンに厳しい目を向ける。

 

「……そういえば非常食があったな。手羽先(貴様)という非常食がッ!」

「ギャーッ!! ヤメロッ! オレは非常食ジャネェ!」

 

飛び回るグリフォンとそれを追い掛けるセイバー。……仲が良くて何よりだ。

 

「オイV! 止めろっテ! そろそろシャレになんネェ!」

 

グリフォンの助けを求める声が聞こえる。……そろそろ止めてやるか。

 

「セイバー、やめてやれ。昼に狩ったワイバーンの肉がある。自分で焼いて食べろ」

 

足元で寝ているシャドウを撫でながらワイバーンの死体を指差す。

 

「ほう、私に死体を持って来させていたのはその為だったか」

「お前は他のサーヴァントと違って食事が要る。自分の食べるモノは自分で用意しろ」

 

他のサーヴァントと違って、これは文字通りの意味だ。セイバーと他のサーヴァントとの相違点。それはセイバーが受肉している点だ。召喚当初は分かっていなかったが2、3日行動を共にする内に嫌でも理解させられた。

 

「ならばそうさせて貰おう」

 

セイバーはそう言い、死体の所に向かっていった。そして入れ違いにグリフォンが飛んで来る。

 

「ハァ…ハァ…、全く、油断も隙もねぇぜ」

 

お前が蒔いた種だろうに、そう思わずにはいられなかったが黙る事にした。

 

「ソレで?明日はどぉスルよ?」

「……今日だけでもかなりの情報が得られた。明日は痕跡を辿って見る事にする」

 

そう、今日はただワイバーンを蹂躙しただけではなかった。元凶のモノと思われる痕跡も発見したのだ。最初は大きすぎて判らなかったが、あの街には確かに巨体を引き摺った跡があった。そして引き摺る痕跡は途中で消え、痕跡の最終地点には代わりに大きなクレーターを残していた。

 

「かなり魔力も残留してたからな。追う分には問題無いだろう」

 

ふと後ろからセイバーの声が聞こえ振り向く。其処には肉を両手に持ったセイバーが立っていた。

 

「此処で焼くのか?」

「当たり前だ。火は此処にしか無いからな」

「……好きにしろ、俺は寝る。シャドウ、見張りを頼んだぞ」

 

足元で寝ていたシャドウは起き上がり、暗闇の中に消えていった。セイバーが受肉しており、人間と同様睡眠を必要としている以上、無防備な睡眠の間はシャドウに任せるしかない。グリフォンはうるさいから論外だ。

 

「……奇妙なものだ。トリ公といいシャドウといい、普通の使い魔とは何か(・・)が違う」

 

セイバーの疑問は最もな事で、この世界の使い魔の定義は分身や道具としての意味合いが強い。サーヴァントなどの協力者としての意味もあるが大抵は分身や道具として用いられる。

 

「それに、マスター。『体』に入れてるな」

「へぇ、良く解ったナ。そう、俺達は文字通り一心同体。切っても切り離せない関係なのヨ。なぁ! Vチャンよぉ!?」

 

普段、Vはカルデアでグリフォンやシャドウは絶対に表に出さない。マシュなどの人物は例外だが。

 

何故彼がグリフォン達のことを隠蔽するのか、それは彼等が神秘そのものだからだ。魔術師は目的の為ならば手段を選ばない。その目的というものが『根源』と呼ばれるモノを指すのだが、グリフォン達はその根源の近道と言っても過言ではない。無論、V自身も。

 

「……いずれ話す予定だったが、気付いたのなら手間が省けたというものだ。他には話すなよ」

 

Vはそうセイバーに釘を刺しながら近くの樹木に背を預け、瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

セイバーは眠りに就いたマスターを見ながら肉を頬張る。やはり旨くない。

 

(本当に不思議な魔術師だ)

 

たいして旨くもない肉を食いながら自らのマスターの事を考える。召喚当初、間隔の短い召喚に苛立ちを覚えていた私は試すようにマスターの首筋に剣を突き付けていた。もし、貧弱なマスターであったのなら殺して座に帰ろうと。

 

人間には必ず恐怖のサインというものがある。汗をかく、拳を握る、瞬きが早くなる。雰囲気や魔力の流れにもそういったモノは表れる。

 

だがそういったものはマスターには一切表れなかった。修羅場を数多く踏んだ者ならそういった事もありうる。だが、あれは冷静なものでも、余裕のある笑みでもなんでも無かった。

 

享楽。そう例えた方が良いか。まるでその状況を楽しんでいるかの様だった。後ろのサーヴァントは気付いていなかったが、対面の私にはそれがはっきりと見えた。

 

そしてそれ以上のモノを知っているという眼。その眼は普段のマスターの何事にも無関心な眼とは正反対に、戦闘者の眼をしていた。

 

正体不明。三日間マスターと共に生活しているとそう思わずにはいられない。マスター自身に戦闘能力が無いと思えば、その慢心を突かれ首筋に杖を突き付けられる。

 

他人に無頓着かと思えば頻繁に盾の少女の様子を見に行き、ドクターに容態を詳しく聞く。かといって他の職員との会話は一切しない。

 

私に食事が必要と分かれば自ら腕を振るい味の薄い料理を出してくる。

 

予定も無い時は魔術師の様に研究に励む事もせず、ただ静かに本を読んでいる。

 

確立していない。右往左往している。だがその行動に一貫してナニかがあるのは確かだ。魔力を深く繋いでいるせいかそう感じずにはいられない。きっと今後契約するサーヴァント達も同じ事を思うだろう。

 

食い終わった肉の骨を放り投げる。カランッと音を立て積み上がっている骨の上に落ちていく。

 

私はマスターの太腿を枕に寝転がり、そのまま眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また長くなると思うので気長にお待ち下さい。

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