色々疑問を産みそうな回ですがよろしくお願いします。
激昂した。憤怒した。羞恥した。
己の行いを指摘され、罵倒される。普段の自分なら甘んじてその言葉を受け入れただろう。自分の信条を侵されまた自らの手でそれを犯したのだから。
だが、狂気はそれを許してくれなかった。正常な思考が出来ない。今の自分にあるのは僅かな自我と破壊衝動だけ。悪だと頭では解っていながらも身体はそれを止めてくれない。形容し難き嫌悪感だ。僅かに残された正常な自我がまたそれに拍車を掛ける。
弓を引き絞る。
かの女神アルテミス様から授かった弓、タウロポロス。引き絞れば引き絞る程威力は増し、最大限に引き絞ればどんな硬い鎧だろうと貫く。今の私にこれを使う資格など無い。だが、強制力を伴った命令で武器を放棄することは叶わない。また戦闘を放棄することも。
最大限まで引き絞る。
半ば諦めの思考で思う。願わくば、これで死んでくれるなと。私を殺してくれと。情けなくとも、そう思う。
凶矢が、放たれる。
そしてその気配に気付いたのは、矢を放った直後だった。
敵の発見。その情報がシャドウから伝達された時、窮地の脱出を確信した。直ぐ様、シャドウやグリフォンを引き寄せる技の応用でセイバーを引き寄せる。
「ッ!? マスター、今のは……」
「シャドウが敵を見付けた。行くぞ」
驚くセイバーを無視し、彼女の腰を引き寄せる。そして予めシャドウにマーキングさせておいた杖の場所まで先程とは逆に此方から転移させる。
そして視界が飛び、文字通り身体が消えた。
後ろの気配を察知し、後ろに飛び退こうと足に力を込める。だが、帰って来たのは違和感だった。
「……ッチィ!!」
両足が断たれていた。相手を見れば既に刃状に腕を変形させた獣がその腕を振り抜いたあとだった。
通りで足に力が入らない訳だ。だが、まだ腕が残っている。
倒れ込みながらも矢を生成し弓を引き絞る。そしてそれを放とうとした直後。今度は腕が飛んだ。
「ガッ……!!」
左を見ると黒のセイバーが私の腕を切り飛ばしていた。
まさかどうやって。あの距離を? そう考える暇もなく私の最後が訪れた。
「チェックメイトだ」
男の言葉と共に私の霊核は刃に貫かれた。
転移して最初に目にしたのは、弓を持った少女とそれに襲い掛かるシャドウだった。既に少女は足を切り落とされており、勝負を決するのは今だと悟った。
指示を出す前にセイバーは飛び出していた。
それを見た俺は後詰めとして己の
己の
セイバーが弓を手に取ったアーチャーの腕を断つ。これで無力化は出来た。だが、間髪入れずに冷静に霊核の位置を把握し、其処を穿つ。
突き出された刃は、寸分狂わず、狙いの場所に穿たれた。
空が、蒼い。
霊核を貫かれ、仰向けに地面に倒れる。不思議と、思考はクリアだ。
終わりだ。足は断たれ、腕も両方持っていかれた。相手を殺そうという殺意も湧かない。霊核を貫かれた影響か今まで私の中で暴れていた狂気は忽然と姿を消していた。
「……フフッ」
思わず笑みが溢れる。何に? 己の無様さにだ。寧ろこの惨めな結末は蛮行を働いて来た私には相応しいものだった。
そしてもうひとつ、この笑みには理由があった。これで終われると。望まぬ生き方を強いられる事は無くなると。
だが、男はそれを許さなかった。
「悪いが勝手に逝く事は許さん」
男の方を見る。刀を持った黒い男は侮蔑の眼で此方を見下ろしていた。
「マスター、持ってきたぞ」
その傍らに、黒の剣士が切り飛ばされてた私の腕を手に横に立つ。
「アーア、マッタク。ネコチャンが斬ったんだからネコチャンに持ってこさせろっテノ」
そしてドサリと私の足元に私の足が置かれる。
「……貴様。何をする心意だ」
男が傍に近付き、自らの刃で指先を切る。そして滴る血を垂らしながら言った。
「契約だ。お前には新たな戦力となって貰う」
思わず目を見開く。今、この男はなんと言った?
「アー? オイオイ呆けてんじゃネェゼ? アーチャーさんよ、契約だよケイヤク。聞こえなかっタ? そのオミミは飾りカぁ?」
どきりと、貫かれた筈の心臓が大きく鼓動したような気がした。この鷹の言う通り、契約が成されるとしたならば、私はどうなる?
「ッ!」
芋虫の様に惨めに身体を捩らせて逃げようとする。だが、やはり男はそれを許してくれない。
胸部を踏みつけられ身動きが取れなくなる。男の眼はやはり暗く鋭い。
「ぐッ! もう良いだろう!? 私は十分に戦った! そして貴様達に負けた! それで終わりで良いだろう!?」
煩わしく喚く。ああ、今の私はどう映っているだろう。英雄ですら無くなった自分は、目の前の男にどう映っているのだろう。
そしてその眼で、私のナニかを視られた気がした。
「……愚かな。死ねば全てがリセットされるだと…? お前は最初から気付いている筈だ。やった事は消えない。どう逃げようとソレはいつまでも纏わりついて来る。お前が英雄たる由縁の様に」
男は畳み掛ける。
「だからこれは貴様の贖罪だ。これまでしてきた貴様の蛮行の償い。故に貴様は
誰でもない、只の弓兵として。男の言葉で感情が鎮まっていく。罪から逃げる事は赦されない。ならば、あの魔女の駒としてではなく、この男の駒として、出来る限りの償いをしようと思う。
私は、英雄というものに少し固執し過ぎていたのかもしれない。
「……良いだろう。ならば私はこれから只のアーチャーだ。英雄としての意地と誇りをかなぐり捨てた、只の弓兵だ」
男はニヤリと笑い、指を私の上に持ってくる。そしてその血が滴り落ちる。
血が私の身体に落ちる。瞬間、鼓動が脈打つ。切断された筈の四肢が接合を開始し、やがて回復を終える。
立ち上がり、新たなマスターを見据える。
「アーチャーのサーヴァント。汝を新たなマスターとして認め、力を貸そう。元英雄とはいえ、この力は健在だ。存分に使ってくれ」
「ヨウ! 新入り! さっきは無様な姿をミチマッタが見なかった事にしてヤルゼ! カンシャしな!」
私は恥ずかしそうに頭を掻きながら、ありがとうと感謝の言葉を述べた。
一応戦闘は終わりました。また遅くなりそうですが気長にお待ち下され。