『哀しみや憎しみは時間と共に薄れるものだよ』
そんな事を言った人がいた
『怒りは憎悪は永遠に自らを縛りつけるものだ』
そう言った人もいた
俺はどちらも正しいと思う
例え哀しみを一時的に忘れようと思い出す
憎しみも然りだ
辛く苦しく重く、そして何よりも寒気がする
そんな事、ガキの頃から理解していた
理不尽に奪われたものがある
意味もなく壊されたものがある
それでもそれは俺にとって大切ではなかったから
俺はそれをどうでも良いと
くだらないと一笑していた
いつからだろう
理不尽を許せなくなったのは
いつからだろう
不条理を許せなくなったのは
まるで大切なものを自覚したような
そんな怒りを覚えたのは
遠い日のいつだっただろうか?
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流れゆく季節の中で馴染みの甘味処に来ていた
甘い物よりも塩っぱい物の方が好みな俺だが
此処の甘味は好きで
甘さがスッと抜ける
そんな後味のしつこくない感じが好きだ
疲れた時や悩んだ時は団子を頼んで茶を啜るに限る
「…そう思ってたんだけどなぁ」
「何か言ったか?」
いや?と否定する形で誤魔化す
「悩んでるならちゃんと言えよ?助けられることなら助けてやる」
それが出来ない相手なんだよと頭痛の種がまた増える
恐らくはイノかサクラあるいはテンテン辺りの仕業だろう
少し前から多由也の服の趣味が変わったのは
露出は少ないが愛らしい格好をしている
その愛らしさに心奪われ胸が締め付けられる
これが悩みの種などと言えるはずもなく
「ああ、その時は頼むわ」
そう言って誤魔化す
何が悲しくて好きな女にこんな相談をせねばならんのか
…渋めのお茶が俺の心を写すが如く
苦々しく喉を通っていき甘い団子が欲しくなった
愛しいと思いながら
美しいと思いながら
口に出来ない自らの不器用さと周りのお節介が酷く疎ましい
いっそ言葉にし否定されたらどんなに楽だろうかと思ってしまう
共に歩めたら生きられたらどれだけ良いだろうと願ってしまう
「随分と可愛らしいな服を着てんのなお前」
「あ?なんだテメェ?似合わないってか?」
「思ってねぇよそんなこと」
「じゃあなんだよオイ」
「そうだな…似合うってのもあるんだけどよ
お前も綺麗にになったからかより栄えると思っただけだ」
世辞でもなんでも無い心からの本音
不快にさせていないか不安もあるが…
まあ、言わないよりはマシだろうと思い口にした
「もう日も暮れるし帰ろうぜ?」
「ああ…解った」
会計を済ませ店主に『また来る』と挨拶をして家に向かう
「多由也、ちっと歩くの速くねぇか?」
「お袋さんが待ってるだろうし団子も届けたいからな」
景色は夕焼けの日に染まりただ思うのは
あの時、多由也の頬が朱に染まって見えたのは
きっと俺の気のせいだと
(ままならぬ思いは未だ此処にありってか…)
俺はふとそう思ったのだ。