パチリ、パチリと乾いた音が聞こえる
私はシカマルから貰った将棋の本を読んでいる
パチリ、パチリと将棋の駒を指す音と
私のめくる本の音以外はあまり聞こえない
私は彼に連れてこられた
この木の葉の里に少しづつ馴染んでいた
私が居候している奈良家は変わり者が多い
変わり者のくせに基本正論で、頭が良い
たまにお袋さんが怖い時もあるがそれはそれ
親父さんの発言にはいつも重みがある
あいつの言葉は…
まあいいか
この本もだいぶボロくなった
…一応新品を貰ったんだがな
いつのまにか駒を打つ音も止まっている
……寝てるのか?
あいつは1人で打つときは考え事をしている
そのためか私と戦った時と同じくらい真剣な表情をしているため
私はいささか近づき辛い
あれから一年と少しくらいの年月が経った
あいつの癖はある程度理解できるようにはなったが…
あいつの真剣な表情を見るのは未だになれない
理由は知らないが何となく気にくわない感じもする
だけど
さっきまでの乾いた音とあいつの気配を感じるのは
悪くないと思っているのは少し不思議だ
再び音が鳴るパチリ、パチリと
あいつは良く空を見上げている
晴れの日も、雨の日も、曇りの日も
何かを見つめるように空を見ている
『昔は雲が好きでよ、自分も雲になりたいなんて考えてた』
とあいつは言っていた
理由を聞いた
『自由で良いなって思っててさ』
あいつは少し笑って
『まぁあれは風に流されて形を変えてるだけなんだけどな?』
あいつは薄く笑い
『…理想ってのを作るのは風を吹かせる事の出来る奴らで』
『その風に乗って動くしかない奴らが雲なんだって思う』
「そしたら、雲になりてぇってのが言い訳だって気づいちまったからさ」
「こんな俺でも努力をしたいと思ったんだ」
私はそれまで力こそ全てだと言われていた忍でしかなかった
だがこいつは先にあるのだと、あの森であった時より痛感した
こいつの修行の理由は何なのだろう?
こいつの求める力はどんなものなのだろう?
シカマルは何を変えたいのだろう?
私には解らない
パチリ、パチリと駒の音は続いていた
以前、あいつは師匠に桂馬のような奴だと言われたらしい
それを聞いて変に納得した自分がいた
あいつは桂馬だ
他の駒と違いただ真っ直ぐには進めないが
他の駒よりも一足先に駆けるように先に進む
いや進もうとする
シカマルは桂馬と同じだ
間違えば命を落とす戦法も成功率によっては自ら選ぶ
あいつは何故、命をかかることを良しとする様になったのだろう?
…なんとなく考えたくないし、答えにたどり着く気もしない
だけど嫌だなと思う
本当に酷いやつだと溜息をつく
私を勝手に木の葉に連れてきておいて
まるで自分は先に死んでもしまっても良いと思っているような
死んでしまっても仕方ないと思っているような
そんな生き方をしているように見えてしまう
私に家族の暖かさを教えたあいつは
その暖かさを1人分消そうとしているようにも感じる
それは…嫌だと私は思う
あいつに、シカマルにそんなつもりは無いだろう
シカマルは無責任な奴じゃ無いと私は感じている
なのに何故サイコロを投げるように命を賭ける事をするのか
忍を捨てた私には解らない
…頭はそんなに良くはなかったが悪くもなかった筈なんだがなと
私は小声で呟いた
「なんか言ったか?」
いつの間に居たのかは判りかねるが私の悩みの種は
私を見下ろし、そう言った
私は顔を見上げて思った、間が悪いとも
なんとなく安心したとも言えない思いになる
あいつの顔が視界に入る
…あぁやはりシカマルにはこの顔が良く似合う
「何も言ってねーよ間抜け面ヤローが」
平和の愛しさを知ってあるが故の優しい顔が
「酷くねぇ?まぁいいや暇なら一手付き合ってくれるか?」
退屈でよーと間延びした優しい声がシカマルには良く似合う
「は!ウチに勝てるとでも思ってんのかよ間抜け面!負けたら餡蜜でも奢るってならやってやる!」
「そりゃまた自信たっぷりだな」
と私に対し呆れ混じりの優しい瞳が『愛おしい』
………愛おしい?
ああこれには気づかなかった
いや、気づけなかった
この想いを私は知らなかったのだから
私は知らないうちに、彼の優しさに溺れる私は
『恋』と『愛』を知ったのかと
いつのまにか奈良シカマルに恋をしていたのかと薄く笑う
「…もう勝ったつもりになったのか?」
こいつの甘さが消えた時の瞳が好きだ
「最初から勝ってるだろ?」と笑えば
「…なんじゃそら並べる前から負けるわけ無いだろ?」と笑う
お前の呆れながらも頭の中で推理する癖が好きだ
だけど
気づかなくていい、知らなくていい
これは私の弱さで宝物なのだから
お前の、お前達の優しさに甘え
暖かさに依存した私が悪いのだろう
…やはりお前は酷い奴だなとまた笑う
対局前に互いに礼を行い言葉を口に出す
『お願いします』お前とは違う意味も持たせながら
甘いお前に対し私は心の中で礼を言う
私の心に暖かさを教えてくれてありがとう
これからも私に温もりを感じさせて下さい
そして恋を教えてくれてありがとう と
『バチンッ!!!』
…照れ隠しに駒を強く打つ事になってしまったが
…まぁ、これはこれで私らしいと思う事にした
多由也の一人称が違うのはスルーして下さい…
この作品のシカマルは割とストイックな性格をしています
多由也は本ならなんでも読むイメージが何故かあるのは何故ですかね…??
彼が努力する理由は…お察し下さい(笑)