星の漂流者   作:4j

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色々弄っていたら随分時間がかかってしまった……。
反省!


旅立ち

 ポーションにエーテル、万能薬。必要な物は既に多めに買い揃えた。借り受けた魔道書も皮袋の中で眠っている。

 

 武器も充足させた。主に使用する銀剣(シルバーソード)を光に翳せば曇りなく光を反射した。

 予備のナイフも同様に翳す。こちらの状態も良い。太股に装着した皮鞘に二振り仕舞い込み、剣は腰の剣帯に納めた。

 準備は整った。

 

 本日は晴天。雲一つなく、風も穏やかでいい日和である。

 魔法を行使するに当たり天候は大きく左右される。雨天時の炎は弱体化し、雷は効果範囲を誤れば味方にまで飛び火するように。

 足早に祈りの塔へと向かう。長い螺旋階段を登った先が目的地だった。

 塔の最上階では魔道士達が転送魔法の準備を整えていた。

 床には石灰岩で大きく魔法円が描かれている。

 

「ヴァレンシアさん!」

「姉ちゃん!」

 

 幼い声がヴァレンシアを呼ぶ。

 声の方に顔を向ければこちらに向かって駆けてくる双子の姿があった。腰を屈めて接近する二人を待つ。

 同じ目線の高さとなった二人の頭を撫でると双子は異なる反応を返してきた。

 

 ポロムは嬉しそうにへにゃりと頬を緩めた。

 先日見かけた時彼女の顔は緊張で張り詰め、顔面蒼白の上疲労困憊であった。あの後しっかり休息を取れたのか健康的な肌色に戻り、元気に笑っている。

 

 パロムは頬を真っ赤に染めてそっぽを向いている。

 しかし満更でもないのか抵抗はない。ポロムの体調を心配し落ち込んでいたのが、普段の明るい様子に戻っている。片割れの回復で彼も安堵したようだ。

 

「見送りに来てくれたんだね」

「あ、当たり前だろっ!」

「しばらくお会い出来なくなってしまいますもの」

 

 途端に消沈してしまった二人に思わず笑う。

 ここにいる間に随分とまあ好かれたものだ。しかし決して悪い気はしない。純粋に慕ってくれているのが痛いほどわかる。

 置いたままにしていた手で髪をぐしゃぐしゃと掻き乱せば揃って悲鳴を上げる。構わず乱せば頬を膨らませて怒り出し、微笑ましく思う。

 

「なに、すぐには叶わないだろうがまた会いに来るさ」

 

 乱した髪を整えながら口にすれば二人は顔を綻ばせた。

 

「ほんとだな!」

「約束ですよ!」

「······ああ、」

 

 期待に膨らませる二人を見て、薄く微笑み立ち上がる。

 瑠璃色の瞳が目蓋の内側へと消えた。細く長く息を吐き出し目蓋を開く。寄っていた眉の皺は解れた。

 

 奥で長老が二人の白魔道士と話しているのが見えた。

 近付くとこちらの存在に気付いた白魔道士が目礼する。同様に目礼を返し、眼前に立った。

 長老と目を合わせたヴァレンシアは腰を折った。

 

「短い間でしたが、お世話になりました」

「いや我々こそ幾度も助けていただいた。顔を上げなされ」

 

 顔を上げれば穏やかに笑む長老の姿があった。

 傍らの魔道士も笑みを浮かべている。

 

 気が付けば見知らぬ平原が広がっており、武器もなく人里を求めてさ迷った先がミシディアだった。

 聞き覚えのない地名に見覚えのない服装、あらゆる事柄で認識の齟齬が発生した。

 違和感と不信感の拭えず警戒してしかるべき人物であったろうに、よくもまあ引き取る気になったものだとつくづく思う。

 懐が深いのか同情を引いたのか、理由は定かではない。それでも今まで滞在を許可してくれた。ヴァレンシアとしても用心棒として返礼していたが感謝に尽きない国である。

 

「この二人も同行させる。連れて行きたまえ」

「···ありがとうございます。どうぞよろしく」

 

 軽く膝を折る二人の白魔道士にヴァレンシアは微笑み、握手を交わす。

 それを見届けたミンウは二人に目配せをし、それを受けた二人はその場を離れていった。

 

 その不自然な離脱に何事かと小さく首を傾げる。

 不意に手を差し出され、疑問に思いつつも導かれるままその手を取った。

 

「···!」

 

 途端繋がれた手から温かいものが流れ込み、それは全身へと広がった。

 驚いて顔を見れば思いがけず真剣な瞳と目があった。

 

「お主の未来に不穏な陰を視た。加護は与えたが、用心するのじゃ」

「···はい、重ねて感謝します」

 

 時に力ある者は特異な能力を有するという。

 ミンウは先見の目を持つのだろうか。その計らいを受け首肯した。

 

「さて、始めるとしよう」

 

 手を離したミンウの一声で空気が切り替わる。

 

 魔法を行使するのは七人。転送魔法自体は一人でも行使は可能だが、時空を司る力故に多くの魔力を持っていかれる。襲撃後の復興や治療などの理由で分担することとなった。

 最も強い力を持つ数字である七の数で。

 

 ヴァレンシアと二人の白魔道士が歩み出る。地面に描かれた魔法円の上を歩き、中央の円に辿り着いたところで七人の魔道士達が動き出す。

 魔道士達は各々の杖を手に中央に向かう形で円の縁に一定の距離を保って直立した。

 一同に杖を魔法円に突き合い詠唱する。

 

「隔てた空の(しるべ)、神の翼、彼方へと導き示さん───テレポ!」

 

 詠唱によって魔法円は輝き風が巻き起こる。

 ごうと音を立て、突風は高く渦巻き三人の姿を覆い隠した。

 

 直後、行使した魔力と同等以上の力が負荷となり行使者である魔道士達に襲いかかった。その衝撃は凄まじく魔道士達は吹き飛ばされた。

 壁や地面に叩き付けられ、節々を打ち付け苦悶の声を上げる。それでも顔をしかめながら痛みに耐え、各々が魔法円を見つめた。

 

 風が晴れた先に人の姿はなく。横槍は入ったものの、転送には成功していた。しかし面々の顔は晴れぬまま。

 それもそのはず。その場にいる皆が察知していた。

偶然か必然か。幸か不幸か。非常に強大で異質な魔力によって阻害されたことを。

 つまりそれは、正常な転移が保証されないことを意味する。

 

「······」

 

 一同が言葉を失った。

 荒々しく、暴発的で暴力的な力。

 一体、どこから。

 

「ほ、報告します!!」

 

 慌ただしく駆け込んできた魔道士は滝のような汗をかいて息を切らせながらも声を上げた。

 

「先程、膨大な魔力反応を感知!!場所は······カイポ、ミスト村を含んだ砂漠地帯周辺です!」

 

 動揺が走る。

 その近辺での魔力反応となると嫌な予感を禁じ得ない。

 カイポに魔道士はおらず、ミストは召喚士の村。襲撃か、力の暴走か。何にせよただならぬ事態であることは間違いない。

 

「至急確認を」

 

 冷静に告げられたミンウの声に皆が頷き、次々に階下へと姿を消していく。

 残ったのは長老と顔を真っ青にした双子。優秀な幼子二人は共に事態の重さを承知していた。

 膝を曲げ、ミンウ幼子の頭を撫でて抱き寄せた。カタカタと身体が小刻みに震えている。

 

「······加護があらんことを」

 

 思いがけず不穏な旅立ちとなった一行に対し、浮かない顔でミンウはせめてものと祈るのだった。

 

 

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