星の漂流者   作:4j

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二人

詠唱は確かに聞き届けた。

突風と共に魔力を感じ、地面から足が離れたと思いきや、突如風が自身にも襲い掛かり咄嗟に腕を出して衝撃に備えた。

風が止み浮遊感から解放され、漸く視界が晴れた先には砂漠が広がっていた。

 

急速に照りつける太陽。乾燥し熱せられた空気。灼熱の大地。

ミシディアを無事離れたことを確認し、供の二人を呼ぶ。しかし反応がなかった。周囲を見渡しても姿はない。障害物のない砂漠で太陽の光を遮る影すら見当たらない。

 

ヴァレンシアは刮目した。

二人とはぐれた事実。魔法国家たるミシディアの魔道士をもって失敗など考えにくい。となると何か不都合が発生したのだろう。既に不測の事態だがもう一つ気付いてしまった。

ダムシアン城へ向かうためにテレポを行使したはずだ。転移地点は当然城付近。だと言うのに、

 

──影すらない?

 

「······どこだここ」

 

完全なる迷子となり果てていた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

熱い砂の上を歩き通して暫くしても、目標の城は影も形も見えぬまま。ひたすらに聳える山々を見つめて歩き続ける。ヴァレンシアは頭の中で地図を広げた。

 

この世界に砂漠は二つ。

一つは目的地であるダムシアン城のあるダムシアン砂漠。もう一つはダムシアン砂漠の南方に位置し、ミスト村やカイポ村のあるカイポ砂漠である。

現在地が前者であれば、山を目印に海を背にして歩けば城を発見出来ただろう。

しかし後者であれば、少々面倒な道程となる。

 

カイポ砂漠からダムシアン砂漠に向かうには二つの砂漠を隔てる山を越えなければならない。その進路として最適なのは地下水道を通ることである。

山を避け海路を取ろうにも近海は岩礁に覆われており船を出すことは不可能。ダムシアンが有するホバー船や浮遊呪文、転送魔法があれば容易いがどれも所有しておらず使うことは出来ない。であれば地下水道を通る他ない。

 

正直、嫌な予感は拭えない。何せ、山しかない。正確に言うならば()()()()()()()()山しかない。山に挟まれた状況というと答えは出ているようなものだが。

 

ヴァレンシアは照りつける強い日差しを腕で遮り、目を細める。視界から消えない山脈から視線を外し、目線を落として砂の大地を見据える。

時折砂漠特有の魔物が出現する他は歩くしかやることのない身としては、自然と思考する時間が活発化した。

二人は無事だろうか。どこへ行ってしまったのか。なぜはぐれたのか。何が原因なのか。

 

砂の大地に風が吹いた。熱を含んだ砂が舞う。それらに混じって鼻を掠めた薄い臭いにヴァレンシアははたと思考を停止し、伏せていた顔を上げた。

 

地平線のその彼方。微かにちらつく緑。それを確認して、地を強く蹴った。

瞬く間に近付く緑と強まる水の臭い、点々とした白壁。

それらを目にして思わず肩を落とす。二つあった選択肢の片方は潰えた。

僅かに顔が歪む。懸念が現実となってしまった。

 

――ここは、カイポだ。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

到着地点に誤差が出てしまったのはこの際致し方ない。嘆いても最早意味のないことだ。不測の事態は常々起こりうる。と開き直って同様にカイポに到着している者はいないか情報収集を行った。

 

 

結論を言おう。

魔道士らの情報を手に入れることは叶わなかった。つまりそれは完全に孤立してしまったことを意味する。

それなりの時間をかけて砂漠を歩いた。このロスは手痛い。終着点に正しく到着出来ていない限り現在地の把握に情報収集は必須となるので、砂漠をさ迷っていた時間ほどあれば町を発見次第立ち寄って同様に聞き込みをすると思ったのだが。不発であった。

 

先を急ぐ旅路とはいえ、夜に単身砂漠へ踏み込むのは賢明ではない。暗闇で視野が狭まるばかりか行き先も定まらない。陽が昇ると同時に出発し最高速度で砂漠を駆けるのが得策だろう。

ということで宿に足を運んで休息を考えたのだが、そこで珍妙な客と遭遇することとなった。

 

 

 

部屋の奥にいたのは黒い甲冑に身を包む大人と緑の髪の幼女。実に似つかわしい二人連れだ。

甲冑の人物は細身で正直男か女かは見た目で判断することは出来ない。男のように見えるが確信はしていない。

幼女は特異な髪色をしている。目にも鮮やかな緑。その色から、どこか力に好かれたイメージを抱く。

 

その二人の間に会話はなく仲睦まじい兄弟親子には思えない。

 

 

自分たち以外の客に気がついたのか、鎧の人物はこちらに顔を向ける。その先には目があるのだろう兜の目元とかち合う。こちらからは判別し難いが、真っ直ぐ見つめられている気配を感じとる。

兜が前に傾き、礼の形をとる。脚は地面ときっちり垂直、背筋をぴんと張り。腰の剣の束を握り少女に当たらぬよう気を使いながら。

 

━━随分と律儀な奴だ。

 

宿で居合わせただけの人間にわざわざ挨拶をするとは。

礼儀正しいだけなのか。

 

体躯を覆う頑丈な鎧、癖の抜けきらない格式ばったそれは体に染み付いたもの。騎士を想起させる仕草に目を細める。

悟った。バロンの者であると。

 

僅かに頭を前に傾げ返礼の姿勢を取りつつスッと眼を細める。

なぜバロンの人間がカイポに。何が狙いだ。なぜ子供を連れている。あまりに不自然だ。

 

 

「······、」

 

 

ヴァレンシアは手前のベッドに荷を下ろした。階段を上がってすぐの、窓際のベッドに。

そして荷物整理を装いながら視線を滑らせる。間取り、逃走経路、床から天井までの高さ、寝台と壁との距離と武器の長さ。

目測して緊急時の状況に思考を巡らせる。

悟られぬよう枕の下にナイフを滑り込ませ、皮袋と剣を壁に立て掛ける。

そして通路に足を向ける形で布団に潜り込んだ。

 

──仮眠確定かな···

 

掛け布団の下で小さく嘆息した。

 

 

 

 




~設定小話~

細かい設定とかはWIKIにお世話になったりゲーム画面やら攻略本とにらめっこして考察したりして書いてますが、魔法の詠唱は一から作ってます。

格好いい呪文出来るとわくわくしますな。
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