星の漂流者   作:4j

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邂逅

 

複数の鉄が擦れる音でヴァレンシアの意識は急速に浮上した。

それは次第に大きくなる。一定のリズムで接近する音。

 

······来る。

 

枕の下に手を伸ばす。自然な動きで布団を引き上げ目元まで覆った。

ナイフの柄を掴み、頭を浮かせて布団の中へ滑り込ませる。スッと目を開けば隙間から薄暗い部屋が見えた。その先で少女が半身を起こし、音に気が付いた鎧の人物が立ち上がっていた。

 

ガシャリガシャリと音が明確になる。部屋の入口には鎧を来た男達が立ち塞がった。

 

「···見つけたぞ、セシル・ハーヴィ」

 

威圧的な声で先頭の男が話し掛ける。

ちら、と此方を窺う視線を感じ咄嗟に目を瞑り熟睡を装う。

暫く見て問題なしと見たかその視線は外れた。

 

「用件はわかっているな?そこの小娘を此方に渡せ。そうすれば王はお前を許してくださるそうだ」

 

ガタリと音が鳴る。

再度薄目を開けて隙間から覗く。暗がりで表情までは定かではないが、寝台の上であの少女が怯えたように小さな身を竦めているのは見て取れる。

名を呼ばれた騎士、セシルは眼前に立ちはだかるように腕を広げた。

 

「わかっているのか、ジェネラル卿。貴方が差し出せと言っているのは年端もいかない子供だぞ···!」

「お前こそ理解しているのか。()()()()()()()()()()()が幻獣を召喚し、ミストとカイポを両断したことを」

 

知らないとでも思ったかと言わんばかりに鼻を鳴らす男に騎士は押し黙る。

成程複雑な状況らしい。

 

しかしあの少女が召喚士とは。

召喚には膨大な魔力が必要である。それをこのような少女が有しているとなればバロンが危険視するのも理解出来る。何せ陸を割るほどの力だ、国家に向けられれば一網打尽だろう。

回避出来る域ではない。守護魔法が行使可能ならば話は別だが。

勃興したばかりの魔道士団という事実が可能性を容易に覆す。

 

憶測ではあるが、もしやかの転送魔法に影響を及ぼしたのは件の召喚ではなかろうか。時間もほぼ一致、位置関係を見ても大きく距離は離れていない。

同じ空間魔法であり、加えて片や神獣が関わっているとあれば影響を受けて誤差を生じるのは何ら不思議ではない。

 

「···それがバロン王の命なのか、」

「無論」

 

騎士は堪えるように拳を強く握り混む。

あれは怒りだ。失望だ。そこに騎士の人柄を見た。

力あるものは往々にして畏怖される。それは多くの人間が力なき弱者である故に。実害が自身に降りかかることを忌避する。

心優しい人間なのだろう。手渡せば恐らく子供は害される。理解しているのだろう。

だからこそ、騎士は抗戦を辞さないだろう。

 

──潮時かな

 

多人数が相手である時こそ、先手の機会を逃してはならない。相手が隙を見せているならなおのこと。

 

 

少女は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「······内輪揉めは勝手だが、子供と他人を巻き込むのは感心しないな」

 

声に反応しバロン兵が息を詰める。その隙に乗じヴァレンシアは被っていた布団を投げつける。ふわりと宙に舞うそれは狙い通り兵士達に覆い被さった。

視界を遮られた兵士達は一瞬の怯みを見せるも帯刀していた剣を抜き放ち一閃した。切り裂かれた布地や綿の残骸が飛散する。

 

その一瞬の隙は、彼女には十分過ぎる時間だった。

 

枕の下で握っていたナイフを片手に寝台を蹴る。空中でくるりと回転して勢いを殺し、騎士と兵士の間に着地する。

その間に解放された抜き身のナイフは素早く逆手に持ち直され、鋭利な刃先は隊長であるジェネラルの頸動脈に正確に宛がわれていた。

切り裂かれた残骸が、はらはらと床に落下する。

 

「君は···」

 

柄に手を掛けたまま呆気に取られたように騎士は呟く。

 

「我が安眠のため、助太刀しますよ?騎士殿」

 

女は鬱蒼と笑った。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

セシル・ハーヴィは戸惑いを隠せずにいた。

あまりに展開が早い。

ミストへ指輪を届けるだけの任務のはずが村の殲滅の片棒を担がされ、その上親友が行方知れずとなってしまったことにではない。

ミスト脱出後、此方の出方を容易に看破され送り込まれたバロン兵にではない。

図らずも平和な暮らしを奪い、拉致同等強引に連れ出したお陰で恐怖と警戒を抱かせてしまった少女の今後を悩むためではない。

 

全てはこの闖入者(ちんにゅうしゃ)のせいである。

 

勿論これまでの出来事全てが急展開続きではあった。

敬愛していたバロン王の目論見には愕然とし、あまりのことにミストの住人に抱く懺悔の言葉がなく、軽薄で陳腐に思われてしまうだろう。

カインの無事は言うまでもなく願って止まない。しかしあの激しい崩落から逃れられたかどうかは確信は持てず、希望的観測も難しい。

ありとあらゆる出来事が怒涛のように押し寄せてセシルを苛んだが、その比ではないほどの嵐が眼前で吹き荒れたのである。

目まぐるしいとはまさにこの事であると痛感せざるを得ない状況を作り出したのは間違いなく一人の女性によるものだ。

 

彼女は、非常に優れた身体能力を有する女性であった。

いつから会話を盗み聞きしていたのか、ジェネラルと一触即発となった時に身を翻し眼前に降り立った彼女の刃は、すぐさまジェネラルの首を捉えた。

 

「さて、此方としても手荒な真似はしたくないのですよ。一宿一飯の恩もありますし、この宿を血生臭い戦場にしてしまうのはあまりに忍びない。叶うことなら平穏無事に済ませたいのです。ちなみに逃走はお薦めしません。幼い子供に新たなトラウマを植え付けるのは可哀想だ」

 

押し立てたナイフに力を加えたのか、ジェネラルの首筋の皮は容易に破れ血の滴が溢れ刃先を伝う。

武器を捨てねば死あるのみ。降伏以外の選択は死の一途を辿ると仄めかす彼女は、にまりと笑む。

笑みにそぐわぬ殺気がひやりと首筋を撫でる。

 

背を向け逃走するものがいたとしても、彼女ならば追い付いてしまうのだろう。先程見せた一連の動きを思い返せば想像は付く。

殺気に臆したか、彼らも同様の思考に至ったか、青い顔をして彼らは両手を挙げ、剣帯から剣を外して各々が脚で蹴り飛ばす。床を滑りそれはセシルの足元へ到達した。

 

部下の武器が手元を離れるのを目撃したジェネラルは口惜しげに顔を歪め、同様に外した剣を差し出した。

 

「騎士殿、力をお借りしても?」

 

彼女は兵士らを壁際まで移動させ視線を外さぬままに声をかけた。言葉に従い近付けば首領以外の意識を、と呟いた。承知したと頷く。順々に手刀で兵らの意識を刈り取った。

ジェネラルは諦念したように息を吐き、じとりと睨み付ける。

 

「こんな小娘に足元を掬われるとは」

「お褒めにいただき光栄ですね」

 

口元だけで笑う彼女にジェネラルは胡乱げに目を細める。

 

「···本当に、君は一体、」

「色々と質問したいことがあるでしょうが、ひとまずここを出ましょう。彼らがいては落ち着いて話も出来ませんし何しろ目立つ」

 

彼女は振り返り提案した。

この状況を作り出した人物が何を、と思わないこともないが、どちらにせよバロンと敵対したことに変わりはない。

 

「彼には個人的に聞きたいことがあるので、先に出てください」

 

言葉に頷き、身支度を整え少女を呼ぶ。

出会ってばかりで情報もない女性を信用出来るのかといえば否定する。

しかし彼女は少なくともすぐに命を奪う人間ではない。

彼女の言葉を信じるならば。

 

 




場面が一ヶ所だけ…だと……
もうひと場面書き込みたかったんですけど、書き込んでは手直し書き込んでは追記を繰り返した結果次回に持ち越すことにしました…

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