星の漂流者   作:4j

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ちょっと間が空いてしまい申し訳ないです…

ようやっと投稿します!早くダムシアンに到着せねば!!


所作が語るもの

「私が結婚を許さなかったばかりに、娘は男と出ていってしまったのだ!!」

 

 

そう言ってテラはわなわなと手を震わせ滂沱の涙を流した。

 

早い話が駆け落ちである。

 

テラは大いに嘆いた。

行き先はダムシアン。どこぞの馬の骨とも知れぬ男から愛娘を取り戻すべく地下水脈に赴いたものの、奥にいるという魔物に単身では厳しいと判断し、泣く泣く戦力が揃うのを待っていたのだという。

 

彼は賢者であった。

魔導士は一般的に、白か黒かのいずれかに得意魔法が分かれる。稀に両方を行使できる者が現れるが、両刀使いとなるのは困難でどちらかに偏ることも珍しくない。

 

賢者とは白黒両方の扱いに長けるだけでなく、あらゆる魔法に精通したものに与えられる称号である。その地位に座するものは、ごく少数に限られる。両方を行使できるだけでは到達不能な、生半可な実力では至れぬ境地である。

故に、このような場所での邂逅は僥倖だった。

 

現在魔法を行使できるのは少女リディアのみ。タイタンを召喚できるほどの魔力を有してはいるが幼子であることに変わりはなく、行使できる魔法は低級で、研鑽を積んだ人間とは比べ物にならない。

こちらとしても、魔法に長けた人物が戦力に加わるのは大いに歓迎である。その智謀の恩恵に(あずか)れるならとその同行を快諾した。

 

かくして、その実力とは─────

 

 

 

 

 

「ん…なんじゃったかのう……」

 

「え…っと、私倒してきます」

 

 

ある時は迅速に狩り、

 

 

「こうじゃ! …あれ、しくじったわい」

「…そういうときもありますよね」

 

 

 

ある時は騎士が狩り、

 

 

「"蒼穹(そうきゅう)(とざ)された" …………ええい! サンダガ!!」

 

「……え…?結局詠唱破棄なうえに過剰では…」

 

 

ある時は大いに戸惑い、

 

 

「むむ……忘れてしもうた!!」

 

「あなた賢者では!!??」

 

 

ある時は思わず我を忘れて叫ぶほどの──とんだ耄碌ジジイであった。

 

あまりに想定外のことで、ヴァレンシアは思わず天を仰いでいた。

想定外な事態は考えに及んでいないが故に起こる出来事なため、可能性を考慮していなければほぼ想定外に当てはまりはするのだが、今回の出来事は想定外と区分するなかでもより特殊かつ事実全く想定していなかった。

まさか、賢者の得意分野である魔法の自由行使が叶わないとは努々(ゆめゆめ)考えもしなかったのである。

 

──なるほど、これでは他力本願なのも無理はないか………

 

彼女としては上げて落とされたもいいところだ。その肩書きから過剰な期待を抱いてしまっていたことは言うまでもないが、膝から崩れ落ちて落胆しないだけましである。

出鼻を挫かれたという気持ちは拭えないが致し方ない。

 

結局のところ自身に求められる活動量が増加しただけに過ぎない。協力というより護衛というほうが適切かもしれない。

その事実は子供であるリディアも理解しており心なしか目が冷ややかである。

私より大人なのになんて情けない、だが見ている分には面白いなどと考えているのは彼女だけの秘密である。

 

 

 

 

数度の戦闘の後、前方の警戒はセシル、すぐ後ろにリディアとテラが続き後方をヴァレンシアが守る隊列が組まみ上がった。その隊列が組まれるのにそう時間はかからなかった。

 

戦闘力のあるセシルとヴァレンシアが前方後方の警戒に当たるのは至極当然なことだが、後方配置はヴァレンシアの志願によるものだった。

兜で多少なりとも視野が狭まるセシルは、先陣に立ち騎士たる鍛えられた肉体を駆使して道を切り開くほうが適している。対して身軽な自身はバックアタックを始め奇襲への反応がしやすく、故に死角が多い背後を守るに適するというのが彼女の弁だが、それだけが理由ではない。

前方にいるより視野を広げられるためでもある。四方八方、死角をなくさんと。

 

 

 

「お主、よい腕を持つようじゃな」

 

 

 

不意に話しかけてきたテラはゆったりと歩を緩め、隣に並んだ。

ちらちらと周囲に目を向けた後にヴァレンシアはテラへと視線を向け、無言で先を促す。

その視線は交わらない。

 

 

「見ておればわかるわい。魔物共に肉薄する際、的確に急所を突いておる。水の属性持ちの魔物が多いとはいえ、姿形は様々おるなか悉くを数擊で鎮圧しておる。見極めが早く迷いがない様子から魔物を屠ることに躊躇がない。若い身の上だろうに見事なことよ」

 

「──お褒めにあずかり、光栄です」

 

 

突然の称賛に一抹の疑念が芽生えた。その一考を悟られぬよう

形だけの謝辞に素知らぬ顔で翁は笑う。そして弧を描いた口からするりと溢れ出たのは酷く静かな声だった。

 

 

「ミシディアでミンウに会うたじゃろう」

 

 

ヴァレンシアは刮目する。

 

 

「一宿一飯などではなく長期に渡り共にあり、里に必要とされた。大方里周辺の魔物退治に駆り出され、此度も危機に助力しこの地までやってきた…といったところかの」

 

 

騎士や少女の背面を見つめていた顔がじりじりと横の翁に向けられる。色のついたサングラス越しに自らの顔が映し出される。

表情は硬い。だが驚きに満ちたその双眸は雄弁だった。

 

邂逅から今に至るまで、彼女は自身に関する情報は一切口にしていない。せいぜいが名前程度。セシル経由でもたらされた情報があったとしても、微々たるもので、加えて密やかな情報交換を疑う不審な行為に思い当たる節がない。

ここまで具体性があり、かつ確信を持って告げられた言葉に「なぜ」と疑心を抱くのは無理もなかった。

ピクリと右手の指が震える。

 

 

「なに、容易いことよ」

 

 

一言も発さぬまま、彼はこちらの心情を見抜いたかのように言葉を続けた。

 

 

「お主の身に宿る魔力、それはお主に馴染んではおるがミンウのジジイの魔力に相違ない。長たるあやつが力を受け渡すというのはそうあることではない。ましてや、部外者となればの。あやつの加護の魔法を宿す時点で信頼に足るものだと結論付けるのは容易い」

 

 

あとは今の世界情勢諸々を考慮に入れればこんなものかのお、と髭を撫で付けほっほと笑う姿にヴァレンシアは舌を巻いた。

 

口調から察するにミンウの既知なのだろう。

納得はいく。ミシディアは魔法を学ぶに最適の場所だ。何せ魔法大国である。

テラの出生地がどこであるかは知らないが、余所者に厳しい国柄であろうと魔道の素質があれば門戸は開かれる。国の根幹は慈悲であるがゆえに。

よって二人に面識があってもおかしくない。

だがその思想や思惑、行動原理まで把握しているのと核心を突けるのとでは話が違ってくる。

 

太腿に触れていた指から力が抜ける。

賢者の称号を疑う心は、既に掻き消えていた。

 

 

「感服しました。貴殿を見誤っていた。この無礼、心より陳謝します」

 

 

周囲への警戒を解かぬまま、深く頭を下げた。

辛酸を嘗めた。

正直に言えば期待外れだと肩透かしを食らっていた。

そのなか不意を打たれたに等しい。彼が見咎めることはなかったが、恐らくこちらの動きに感付いていただろう。

非があるのはこちらとはいえ、易々と核心を突かれては堪ったものではない。こちらの身にもなってほしいのは本音である。目を瞑って欲しいところだ。

 

 

「畏まらずともよい。今の私は見識のみで満足に力を振るえぬ身。さして気にも止めておらんよ」

 

 

先ほどのようにほっほと笑う翁の顔には、拭いきれぬ哀愁があった。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

セシル・ハーヴィは背後を歩く女と賢者の様子に耳を傾けた。

小声で話しているせいか話の内容はわからない。

和気藹々とはいかなかったのかヴァレンシアから一瞬放たれた殺気は、今は鳴りを潜めている。

足を止めたりもっと歩みを弛めれば、きっと彼女は耳をそばだてていることに感づくのだろう。彼女は気配に敏かった。

この一定の距離を保ったままで彼女の様子を窺う彼は、思うところがあった。

 

 

「ハンターのようなものかな。」

 

 

果たして本当にそれだけだろうか。

 

嘘は言っていないように思う。魔物と対峙し斬り伏せるまでの一連の動きは確かに手慣れているようだった。そして共に戦闘を行った回数は両手で足りる数ほどだというのに、卓越した身体能力をまざまざと見せ付けられている。

世界各地様々な魔物がおり、その弱点や属性も異なる。未知に対峙した時は模索する姿から見るに、確かにハンターの()()()()()なのだろう。専門に各地を巡っているわけではなさそうだ。

 

そういった姿を目撃しているからこそ、生じる違和感を無視出来なくなっていく。

最初の邂逅、その瞬間。あのカイポで。

流れる水のように、しなやかに、静かに。躊躇はなく、恐れはなく、正確に急所を捉え、迸る殺気で制圧した、あの様を見て。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

目的地が同じだけの、一時的な協力関係。であるからこそ、拭えぬ違和感は次第に膨らんでいく。

それは先程の殺伐とした空気を察知してなお膨らんだ。

人間性は大いに認めている。幼い子供(リディア)に対する対応、その表情。根は善人であると確信できる。

だが、実のところ彼女のことは殆ど知らないのだ。どこから来て、本当は何をしていた人物なのか。

 

彼女の素性を把握するには明らかに情報が足りなかった。

 

勿論、会ったばかりの人間にそうそうすべてを語ることはないだろう。あくまで一時的な関係だ。

 

 

 

「……セシル…?」

 

 

 

不安げな顔をしたリディアが、足元からセシルを見上げていた。

少女はどこか彼が上の空であることに気が付いていた。

 

 

「──なんでもないよ。…行こう、」

 

 

柔らかく声をかけ、優しく頭を撫でる。

もし、本当の仲間になれたなら、その本心を打ち明けてくれるだろうか。

 

──いや、やめておこう

 

今はそれどころではないはずだ。一刻も早くダムシアンへ。砂漠の光を手にし、帰還しなければ。

セシルは思考に蓋をした。

考えても仕方のないことだと言い聞かせて。

 

 

 

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