子鬼の足跡
お昼近くまで【マルバロの森】の奥で眠ってしまっていたあたい達は大型モンスター【フォレストウルフ】に優しく起こしてもらった。相棒の冒険者【ラルム】は大アクビに涙を溜めている中、あたいは森狼へ交渉───と言っても言葉でのコミュニケーションは無理だと判断したので動き、アクション、ゼスチャー、エモーション、で「四ツ葉を少しだけ摘んでいってもいい?」と伝える事に成功。四ツ葉を摘み終えた頃ラルムの準備も終わり、あたい達は森狼に別れを告げた。
あたい───ペルルと相棒の冒険者ラルムの拠点である【ルージオの街】まで戻る最中、何度かモンスターと遭遇するもこの辺りには危険なモンスターは生息しないので簡単に終わる。
「ペルル、あの母狼の子供産まれたらまた行こうぜ」
球根にも思えて根にも思えるモンスター【キジムー】からドロップした【花の蜜】をあたいへ渡しつつ言う
「そうね。あたいもあの母狼なら怖くないし、子供にも会いたいわ」
花の蜜を受け取りつつ答えたあたいは、もう一度マルバロの森へ視線を向けた。
モンスターは危険。それは間違っていないし今でもそう思う。でも、全てのモンスターが危険だとは思えなくなった。
「.....気持ちはわかるけど、わたし達も生きる為だし、モンスター達も生きる為なら襲ってくる。ただ一方的に討伐するのはやっぱり違うよね」
「そうよね.....───って、あたいの思考覗かないでよ!」
「ペルル分かりやすすぎな.....お? なんだ?」
ドングリ型モンスター【コロン】からドロップした【コロンの葉】を咥えるラルムは【ストラム街道】の上───ルージオへと繋がる道を指さした。そこには冒険者のパーティがきょろきょろと地面を見ていた。
「何か落としたのかしらね?」
「さぁ? 声かけてみっか!」
コロンの葉を指で弾き、ラルムは道を登る。あたいも小さな歩幅で必死に駆けラルムよりも先に冒険者達へ声をかける。
「ねぇどったの? 何か捜し物?」
あたいの声に反応した冒険者達はこっちを見て少し黙った。多分、あたい達の姿を見て冒険者か街の住民か判断しているのだろう。この洞察が行われるという事は───街の住民には深く話せない事が発生したと言っているようなもの。
「足跡を探しているんだ」
「「 足跡?? 」」
冒険者の言葉をあたいとラルムはリピートすると別の冒険者が言う。
「今朝リノーム平原で “小鬼の足跡” が見つかったのよ」
小鬼───ゴブリンだ。
大きな鼻と浅黒の肌を持つ、たしか.....
「リノーム平原って逆じゃん」
ラルムは帽子の上から頭を掻きながら言ったように【リノーム平原】はここ【ストラム街道】とは逆方向。
「そうだけど、一応な」
「あたい達何時間も前にここを通ったけど足跡なんて見なかったわよ。この奥にも
この辺りに亜人種は生息してない。だからこそ亜人の足跡があれば嫌でもすぐ気付く。
「そうか。やっぱ巣は “リビスコ洞窟” かな」
【リビスコ洞窟】.....こことは逆方向にある洞窟で、ルージオから【スードル崖廊】へ進み【リノーム平原】を抜けた先にあるのが【リビスコ洞窟】だったわね。あたいもラルムも【リノーム平原】までしか行った事ないけれど、マップデータも出回っているし行こうと思えば行けなくもない場所。
「とりあえずこっち側に足跡は無かったし、リビスコ側を探索した方がよくない? 足跡のスクショ持ってる?」
ラルムが言った【スクショ】はスクリーンショットの略。フォンの画面を記録として残せる機能で基本的思い出保存なんかに使われる。あたいもラルムとはよくスクショして遊んでいるくらい簡単に出来てポピュラーなもの。ラルムは冒険者達から小鬼の足跡を撮影したスクショを貰い、あたい達はルージオへ戻った。
◆
昼の鐘が鳴るルージオの街。冒険者や街の住民達が昼食を取るこのタイミングが商人にとって一番大切な時間。勿論あたいも今すぐ昼食に手を伸ばしてクチいっぱいにルージオサンドを頬張りたい。けれど、この昼食時が一番冒険者達が一箇所に集まる時間であり、午前の儲けをパーティで山分けする時間。夜だとそのまま酒場に行っちゃって買い物を渋る人もいるし。
「ラルム、あたいが6あんた4よ」
「んぐ、はぁ!? 何でわたしが4!? 絶対わたしの方素材多く集めたろ!」
「その素材を薬に加工したのも、今からそれを売るのも、他素材を売るのも、あたいがひとりでやるんじゃない。それで5-5は不満しかないわよ」
昼食を幸せそうに頬張る相棒へあたいはちょっと意地悪を言った。すると相棒は、
「待って待って、んじゃこの帽子貸してやるから、5-5にして」
「む.....い、いやよ、貸すとか言っといてあんたの事だから数分でしょ! あたいは騙されないわよ」
少し心が揺れた。あたいの帽子は素朴の代表みたいな地味帽子だけど、ラルムの帽子は大きなボタンや縫い目さえ可愛らしいデザインになっている。あたいも女の子、出来る事なら可愛い洋服や帽子が欲しい。それでも、ラルムのあの感じからして数分で返せと言ってくるに違いない。
「ぐぬぬ......」
「午後の働きがよかったら夜は5-5にしてあげるわ。まぁ頑張んなさい冒険者さん」
ちょっと上から目線で言い、あたいは商売に奮闘した。ラルムは行儀悪く歩き食いをして、様々な冒険者のパーティへ首を突っ込んでは鬱陶しがられている様子。何をしているのかわからないけど、恥ずかしい事だけはやめて頂戴ね、ラルム。
「キュールの! 四ツ葉あるだけ買い取らせてくれ」
「あら、景気いいわね! 毎度〜!」
四ツ葉は結構売れるのね。覚えておこう。