商売を終えたあたいは遅めの昼食を取る。残りもののルージオサンドを安く売ってくれた事に小さな幸運を感じつつ頬張る。クタクタの葉野菜と妙に硬いトマト、そしてちょっと癖のあるラム肉をパサパサのパンでサンドしたルージオの名物.....とは言えない味の料理。美味しくはないけれど食べ慣れたあたい達からすれば、これも悪くない。
「ペルル〜、わたし眠たくなってきた......」
コロンの葉を咥える相棒の冒険者ラルムは気持ちよくなる瞼を必死に押し上げようとしていた。葉のメントール効果と自分の意思でも、睡魔には中々勝てない。
「少し休みなさいよ、あたいもゆっくり食べたいし」
「あー、そーするー......」
テーブルに伏せる形で昼寝を始めたラルム。図々しくて、無駄に元気で、後先考えず行動して、お腹いっぱいになるとすぐ眠くなる。本当、子供がそのまま大きくなったような人間。何度この性格に巻き込まれた事か......ま、ひとりで居るよりふたりの方が何かと効率は良くなる。誰かと居ると大小なりトラブルが起こるものだし、それなら気を使わず好きに生きてるこの子と居た方が大分マシなのよねぇ。迷惑な部分は迷惑だけれど、飽きないし楽しい。
「〜〜〜っ......あたいも少し眠たくなってきちゃった」
昼食を食べ終え、陽気なルージオの雰囲気に呑まれたあたいは少し眠ってしまった。
◆
「へぇ、これが何とかって街で流行ってる青プルを材料にした飲みのもなの?」
と、薄っすら戻る意識の中で聞こえた声。
「おお! うめー! これうめー!」
この馬鹿っぽい声は......
「......ん、
声に反応するように顔を上げ、あたいは大きくアクビをし、目尻に残る睡魔を吹き飛ばす。するとあたいの瞳を眩しく照らす真っ赤な夕日が───
「───うぇ!? 今何時!?」
「よぉペルル、おそようさん。もう夕方だぜ」
夕方......数十分のつもりが数時間もお昼寝してしまった......。なんだか今日は眠ってばっかりな気がしてきたわ。森狼とお昼寝した次は街のテラスでお昼寝って、はぁ。
「ペルルも飲む? 何とかって街で流行ってるジュース」
「......飲む」
ま、過ぎてしまった時間はどんな魔法を使っても戻せない。後悔に時間を潰すくらいならきっぱり切り捨てて次へ時間を使うべきよね。
「ん! これ美味しいわね......なんて名前?」
「青プルジュース」
「......え?」
「だから、青プルジュース! 青プルってモンスターからドロする素材で作ったジュースで、ソファーみたいな名前の街で今人気なんだってよ」
青プル......アイツがこんな美味しいジュースになるなんて知らなかった。赤や緑、黄色もいるし、人気なら素材が売れるかも......これは覚えておくべきね。
「んし、さてさてペルル大先生」
「ん?
「へっへっへ、なぜわたしが起こさなかったと思う?」
「......さぁ?」
「夜だと効率がいい狩りをするからでしたー!」
何だかあたいが間違えたみたいな雰囲気で「でしたー!」と自慢気に言うラルムが少し腹立つのだけど......夜狩りをするって? 暗くなってから効率がよくなる狩りは───単純に夜行性相手だから? 夜行性となるとこの辺りじゃ......
「......ネミコ!」
「正解! アイツは夜になると行動するしょ? 餌と一緒に食べた石がコウモリの腹ん中で結晶に変わる! それを狙う!」
【ネミコ】は確かに夜行性のコウモリ。強くもないし、あたい達なら倒せるモンスター。でも結晶なんてドロップしたかしら? ネミコが生息している場所は───
「───リビスコ水晶ぅ!?」
「さっすが金にガメツイ先生、知ってたか」
「誰が金にガメツイのよ! ってそれより、リビスコ水晶がネミコからとれるの!?」
「あぁ、さっきペルルが寝てる間に色々なヤツから話聞いてな。リビスコ水晶も見せてもらったしネミコのモンスターデータももらったぜ。今送るわ」
【リビスコ水晶】はピアスの素材になる宝石で、売れば結構稼げる......どこで採れるのか不明だったから数も出回ってないし、この情報が本当なら情報が出回る前にガッポリ稼いだ方がいいわね。
「日の傾きてきに、もうすぐ夜ね」
「あぁ。早速行って待機しようぜ」
「そうね、行くわよラルム!」
「よっしゃ、モチベ上がるぜ!」
お昼寝をしすぎて夜眠れないかも、と思っていたけれど、お昼寝をして正解だったみたいね。今夜はガッポリ稼がせてもらうわよ!
◆
ルージオの街にある南門を出て進むと崖道、【スードル崖廊】に出る。ラフィやラヴァーカなどの獣型モンスターが生息している高道で、ラヴァーカは大きくてフカフカした毛を持ち、黒の着色布 を排出するのでルージオ地方では大切にされているモンスター。夜はどこかで眠っているのだろう、今はラフィもラヴァーカも見当たらない。
キジムーやコロンといったモンスターも少なからず居るけれど、みんなどこかへ帰るような足取り。
「ん?」
「どうしたペルル......これって」
眠そうなモンスターを見ていたあたいはふと足下が気になり視線を落とした。するとそこには小柄だが人間とは違う足跡が複数残っていた。
あたい達はこの足跡を知っている。
「ゴブリンの足跡じゃね?」
「そうね、昼間見たスクショの足跡と一緒......本当にゴブリンが出たのね」
「どうする? ゴブリンもたしか夜行性だろ?」
「.......他の冒険者達が見当たらないわね」
「んーと、たしか水路とか、遺跡って場所の攻略をしてるハズだぜ。岩やら瓦礫やらで塞がってた道が謎に開けてたみたいで」
「へぇ......」
「戻るなら今だぜ? わたしは行くけどな」
「あたいも行くわよ、当たり前じゃない!」
オレンジ色に焼けていた夕日の奥が青黒く冷える。ルージオ地方に夜が来る。