リビスコ水晶を求めて、あたいとラルムはリビスコ洞窟へ向かった。その道中で出会ったゴブリン達。
最初は怖かったけれどラルムの直感が働いたのかただ能天気だったのか、ゴブリン達と仲良くなれたあたい達はリノーム平原でアニキから詳しい話を聞く。
毎晩冒険者がゴブリン達の住処であるリビスコ洞窟の最奥部まで何かを探しに来ている事。ラルムが「冒険者に襲われてないか?」と質問した所、アニキは悲しそうに顔を落とし、ポツポツと話してくれた。
『俺様達は大丈夫ブゴ。でも、オヤブン達が......最近オヤブン達がおかしいブゴ......』
オヤブン、という存在はきっとゴブリンの親玉ね。アニキを見る限りオヤブンも悪いゴブリンじゃなさそうだけれど......今のアニキの悲しそうな雰囲気はワケありなんてものじゃなさそうね。
「オヤブンがおかしいってのは? 普段はどんなオヤブンなんだ?」
『俺様達の事を大切にしてくれるオヤブンブゴ。優しくて強いオヤブン......だったのに、最近は俺様達 赤目ゴブリンじゃなく黄色の目をしたゴブリンと一緒ブゴ』
赤目じゃなくて黄色......確かにここにいるゴブリン達はみんな赤い瞳。
「黄色? 瞳の色が違うだけで何か違うのか?」
『赤目はゴブリン、小鬼族ブゴ。黄色はゴブリンだけどゴブリンじゃないブゴ。お前らがいう略奪種が黄色の目のゴブリンブゴ』
「それって、赤目はアンタ達みたいに会話も出来るけど黄色は会話が出来ない相手、ただ襲ってくるモンスターって解釈......倒していいゴブリンって思っていいのかしら?」
『ゴブリンに似たモンスターブゴ! 俺様達とは違うブゴ!』
なるほどね。『頭悪いのは人間ブゴ! ゴブリンと言えば全部同じに見るブゴ!』って言ってたのは赤と黄色を同じゴブリンとしてしか見ない人間に対して怒っていたって事ね。
人間とゾンビの形が同じだから全部ゾンビとして対応する、みたいな安直な考えを持っている相手がいたら人間も同じように怒るわよね......あたいだってキュール族に似たモンスターがいて、全部モンスターという枠に入れられて襲われれば怒るわ。
「その黄色ってのは本当に別種か? 産まれた時に赤か黄色かで、モンスターかゴブリンか決まるみたいな運命ガチャなら、わたしスッゲー嫌な気分になるぜ?」
『別種ブゴ! 俺様達は親ゴブリンから産まれるブゴ。でも黄色は突然 “黒い結晶” から産まれたブゴ! 産まれた時から歩けて、産まれ時から装備も持ってて、産まれ時から暴れる奴等ブゴ!』
「「 黒い結晶!? 」」
『そうブゴ! 突然洞窟に現れた黒い結晶から、突然俺様達に似た外見のモンスターが産まれて、そのモンスターとオヤブン達が戦っている頃に冒険者まで来たブゴ! それで......最近オヤブンが、その黄色と一緒になって冒険者と戦ってるブゴ......オヤブンは戦っても絶対に命までは取らないのに、最近は冒険者の命まで狙ってるブゴ......』
「......」
「おっけ、リビスコ洞窟の奥だな? わたしに任せろ」
『 ??? 』
「はぁ!? ちょ、
「そんなの決まってるだろ。黒い結晶ってのを片っ端からぶっ壊して、黄色を一掃する。それでオヤブンが元に戻らなかったら......悪いけどオヤブンも掃除する」
『何言ってるブゴ! オヤブンは俺様達のオヤブンブゴ! そんな事───』
「わたしはお前らともう友達だと思ってる。友達が悲しそうにしてたら助けたいし、オヤブンがコブンに悲しい思いをさせてる時点で許せねー。何か理由があるなら聞くし、話しできないなら叩くしかない」
『そんな勝手か事、許さないブゴ!』
「じゃあ絶交だな。お前らとわたし達はもう友達じゃない。好きにやらせてもらうブゴ〜」
とんでもない事を言い、ラルムはリビスコ洞窟へ走り始めた。こんな状況で放置されるのは勘弁したいあたいも一緒になって走る。
アニキ達は複雑な───止めたいけど止めたくない───表情であたい達をただ見ていた。
ラルムは......あたいに見せた事ない顔で、この表情はきっと、怒ってるんだろう。
「......ペルル、洞窟ついたら一気に奥までいくぞ」
「わかってるけど、一体どうしたのよ?」
「......多分、黒い結晶は毒だ。早くしないとオヤブンも結晶モンスター化しちゃう」
「!? 黒い結晶について知ってるの?」
「いや、知らないけど多分そんな感じのモンだろ......嫌な予感がするし。オヤブンが結晶でおかしくなってんならアイツも結晶にタゲられる可能性があるだろ?」
なんだ......ちゃんとアニキ達の事を考えてたのね。それならそうと言えばいいのに、あたいもビックリしたし、ちょっとラルムが酷いヤツに思えたじゃない。
「アイツ等がいつまでも黙って平原にいるとは思えないし、サクッと行ってサクッと終わらせるぞペルル」
今回は───貸し借りなしでいいわ。
「あたいがマップを見るから、洞窟に入ったらラルムはモンスターの警戒をお願い!」
役割を決めて、あたい達は速度を緩めずリビスコ洞窟へ入った。
◆
「あっ、ネミコ!」
「後だペルル!」
本来の目的だった【ネミコ】を無視して、あたい達は奥へ奥へと進む。薄暗かったリビスコ洞窟は徐々に明るく、青色に発光し始める。
特殊な鉱石がぼんやりと発光し、それが無数に並んでいるから明るくなっているのね。
あたいはそんな事を考えつつ、マップを見ては道を言い、ラルムは周囲を警戒しつつ共に進む。
そしてついに、黄色の瞳を持つゴブリン型モンスターと遭遇する。
「本当に黄色い瞳......」
「気配はゴブリン達とは別物だな......来るぞ!」
ガタガタに
黄色の瞳はゴブリンのような見た目をしているけれどモンスター。そう理解していてもやっぱり討伐するとなれば本当にモンスターなのか確信が欲しくなり、討伐しきれない。
迫り来る黄瞳ゴブリンを押し退けて更に進むと、全身に鳥肌が走った。
「アレが......黒い結晶......」
「宝石鑑定士じゃないわたしでも、アレがとてつもなくマズイ物だってわかる......ペルル、後ろ見ててくれ! わたしが
「わ、わかったわ! けど無理しちゃダメよ!」
ラルムは迷う素振りもなく結晶へ剣を叩き込む。何度か嫌な音が響き、ガラスが砕けるような尖りのある音を奏でて結晶は砕け散った。
「痛ッ......」
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
剣を地面に突き刺し、倒れそうになる身体を支えるラルム。何が起こったのかあたいは見ていなかったけど、こんなラルムを見るのは初めてだった。
「余裕余裕、手が痺れただけだぜ。この結晶、見た目以上に頑固でどっかの商人《アキンド》みたいだ」
「......、......、それってあたいの事!? こんな時に冗談言うんじゃないわよ! もぉ!」
心配して損したわ! でも......黒い結晶はひとつじゃない。奥の方から伝わる気配に鳥肌が止まない。ラルムもそれを感知したらしく、奥を睨む。
「ここまで来たら全部壊しちゃいましょ」
「だよな───ペルル、下がれ!」
響く声で言い放ち、あたいの身体は浮き上がり後ろへ強く引っ張られる。リュックを掴み引いたのはラルムで、その理由は奥から現れた一匹のゴブリン。
索敵を任せきりだったあたいは全く気付けなかったけれど、ラルムはそのゴブリンの妙な気配にいち早く気付いていた。
「赤......黄色? どっちだお前」
『......ブゴ......冒険者、また、冒険者ブゴ......』
身の丈に合わない大剣を引きずりながら簡単な武装をしたゴブリンが苦しそうな声を出した。声に反応し、喋った事から知能あるゴブリン。赤で間違いない......のだけれど、ラルムの言うとおり赤であり黄色でもある瞳。
『ハナは、とらせないブゴ』
「ハナ? なんだそれ」
ハナ......鼻、だ。ゴブリンの鼻は素材になるって話を聞いた事がある。
「あたい達はアンタ達の鼻を取りに来たワケじゃないのよ!」
『嘘は通じないブゴ、冒険者はみんな、ハナを狙ってるブゴ!』
大剣ゴブリンはヨロヨロと揺れながら剣を持ち上げ、振り回されるように振った。
ラルムは回避し、ゴブリンの腹部に打撃を入れ、ゴブリンは倒れる。
「落ち着けって。お前がオヤブンか?」
『ブゴ、俺はハナを守るブゴ......死んでも守るブゴ......』
再び立ち上がり剣を拾おうとするゴブリン。あたいは必死に走り、ゴブリンよりも先に大剣を拾った。
「おっっもー!! アンタこんな重い物持って戦ってたの!?」
持ち上げる事なんてとてもじゃないけど出来ない大剣。でもゴブリンの手に渡るとまた戦おうとするに違いない。あたいは全力で大剣を引き、ゴブリンから距離を取った。
『ブゴ......俺の武器を......ブゴ』
ヨロヨロと揺れるゴブリンの額で何かが光った。
ゴブリンの額に───と言葉を喉まで上げた頃、既にラルムは踏み込んでいた。ゴブリンを傷付けないよう最小限の力で打撃を放ち、額の光るそれを砕いた。
パキン、と小気味良い音と同時に、どさっ、と倒れるゴブリン。
「黒い結晶の破片みたいなのがゴブリンについてた......寄生すんのかコレ?」
「わからない......ゴブリンは無事?」
「あぁ。気絶してる。バッシュじゃなくてスマッシュしたつもりなんだけど、わたしって武闘家の才能あんのかな?」
「知らないわよそんなの」
どう考えても、結晶が砕けた事でゴブリンは気絶したというのに......こんな状況でも冗談を言うその神経が信じられない。けど、それがアンタらしいわ。
「その剣はそこら辺に捨てとけ。このゴブリンはわたしが背負う」
「次が最奥部よ。黄色ゴブリンが沢山いたら、ゴブリン背負ったままじゃ危ないわよ?」
「大丈夫、モンスターの気配はない......と願う」
「......、......、ここまで来たら付き合うわ。あたいもピーノ様に祈り願うわ」
知の女神様へ祈り、あたい達は最奥部へ足を進めた。