リビスコ洞窟の最奥部にはモンスターが居なかった。その変わりに......
「なんっだコレ......」
「結晶化してる......花?」
大きな花が黒い結晶に汚染させるように咲いていた。
「コイツが守ってたハナって、鼻じゃなくて花だったのかよ......」
「みたいね......、コレって......リビスコ ロータスじゃない? 超がつくレアな花で、妖精達が大切にしている花よ確か......」
昔噂で聞いた程度だけど、大きな蓮の花には妖精達が集まるって聞いた事がある。その花は妖精達に気力を与えて、妖精達は花に安らぎを与える。そんな関係だとか......でもこの花は......もう......
「ペルル、ゴブリン頼む」
「えっ? アンタまさか......あの結晶を剥がそうって思ってるんじゃないでしょうね!?」
「思ってるから行動するんだぜペルル大先生」
「ちょ、ちょっと待ちなさいって!」
あたいの声に耳を向けず、ラルムはゴブリンをあたいに押し付け、結晶化したリビスコ ロータスへと突き進んだ。
このゴブリンに寄生していた黒い結晶、花にも寄生している黒い結晶......人に寄生しない保証はないし、ゴブリンも花も生き物。それに寄生したって事はアンタも危ないのよ!?
この言葉を伝える前に、ラルムは遠慮なく剣を拳をリビスコロータスへ叩き込んだ。さっき壊した黒い結晶の時より力を込めて。
「───!?」
リビスコロータスを包んでいた結晶に無数の亀裂が走り、豪快に砕け散った。洞窟内の空気が揺れ、土埃があたいの視界を潰す。
「ちょ、ちょっとラルム!? 大丈夫なの!? ねぇ!?」
土埃がおさまり、結晶の破片を浴びたラルムは下敷きに......
「......ぶは、死ぬっての、聞いてないよ一気に砕けるなんて」
「......もぉ! ビックリさせないでよ!!」
『......、......ブゴ?』
轟音と振動でゴブリンも目を覚まし、背後からは無数の足音がここへ向かって来る。
足音の正体はリノーム平原にいたアニキ達。
『ブゴ!? オヤブン!』
「おぉ、いいトコに来たなアニキ。悪いけど引っ張ってくれ。ペルルの力じゃ多分無理だろうし、自力じゃこの砕け結晶の山から出られそうにない......って結晶がただの石になってんぞ!?」
ラルムの言う通り、砕けた結晶は石のような姿に変わっていた。あの鳥肌立つ嫌な気配も無く、ただの石に......砕けた事でその力を失ったって事?
『ハナは......元に戻ってるブゴ』
『オヤブンも戻ったブゴ!』
ブゴブゴ、と喜ぶゴブリン達は絶交したハズのラルムを瓦礫の山から引っ張り出し、ラルムも調子良くゴブリンアニキとハイタッチする。
まぁ......みんな無事ならそれでよかったわ。
◆
リビスコ洞窟の最奥部に咲く妖精の蓮【リビスコ ロータス】の存在を隠す事なく冒険者や商人達へ伝えた。下手に隠すと発見された時「レアなアイテムがあった」なんて噂が広まるとゴブリン達が迷惑しちゃう。
黒い結晶の事も、その結晶から黄色の瞳を持つゴブリンが産まれた事も、そして赤色の瞳と黄色の瞳は別物のゴブリンだという事も、余す事なく伝え広めてもらった。
あの夜から早3日、瓦礫の山に埋もれたラルムはそれなりの怪我を負ったけれどすぐに治り、あたいと一緒にゴブリン達の事を広めてくれた。
はじめはモンスターの事を気にするおかしな冒険者として笑い者にされ、あたいは少し恥ずかしい気持ちになっていたけれど、ラルムは笑い飛ばして「人間には笑われるのに、別種にはモテるってウケない?」と煽るようにその場を盛り上げる図太さを披露していた。
あの性格が幸いし、噂は面白話として広まり、結果的にはよかったのだろう。ラルムが笑われ者になってしまったのは納得いかないけれど、本人は「笑われても伝えたい事が伝わるならそれでいい」と気にしている様子はなかった。
ゴブリン達はオヤブンと共にリビスコの奥で暮らしている。冒険者が時折現れるみたいだけど、争いもなく。
冒険者達の間ではゴブリンのアニキが面白い、と話題になっては見物に行き、アニキもその気になって最近では歌を披露するまで鼻が伸びているとか......。呆れちゃうけど、いがみ合い争うより何百倍もマシだとあたいは思う。
足跡のスクショは赤目ゴブリンじゃなくて黄色目ゴブリンのものだって判明して、黄色はもういない事もリビスコ洞窟へアニキを見物に行った冒険者達の証言でハッキリしているので安心。
黒い結晶については何もわからないままだけど、他の所で発見された報告もないし、無理にあたい達が探し調べる必要もない。
洞窟の帰り道でネミコと戦って、ドロップしたリビスコ水晶は売りに出して、今回はラルムも頑張ってくれたから5-5で手を打った。結構高く売れたのであたいは満足。ラルムも満足した様子で、この件は終わった。
妖精達が守る花......大きくて、とても綺麗で、また見に行きたいものね。