いろはのプロポーズ大作戦、ですっ!   作:しゃけ式

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わたしのボタンですよ、それ! 3

 卒業生達は在校生や先生とのお別れの時間をひとまず堪能したのか、学校に残っている生徒はさっきよりも少なくなっていた。

 

 なのに。

 

「なんでまだ見つからないのー……」

 

 先輩ってばもうどこにも居ない! 三浦先輩にあれだけ啖呵切っておいて会えませんでしたー、とかめっちゃダサい!

 教室から奉仕部の部室、校門周辺とか先輩の行きそうなところは全部回ったんだけどなぁ。ホントにどこに居るのやら。

 

 ちらっと目に入る人混みから外れた場所に居る人。卒業生なのか晴れ晴れとした顔で電話していた。

 

「おう、こっちは卒業式終わったよ。お前のところは?」

 

 相手は彼女さんかな。良いなぁ、好きな人と付き合えていて。ああやってすぐには会えなくても電話で繋がれるって何だか素敵。

 

 

 

 ……ん? 電話?

 

 

 

「あっ、そうだよ電話すれば良いじゃん!」

 

 何で今まで忘れていたんだろ! 先輩にどこに居るか聞けば一発なのに!

 わたしはすぐさまスマホに登録してある先輩の連絡先を開き、通話を選択する。

 

 する、んだけど。

 

「やばっ、顔熱い……」

 

 何でだろ、いつもなら用がなくても電話出来るのに。今更緊張する仲でもないんだけど、それでも何だか恥ずかしい。

 

 ……よし、今は何だかアレだし生徒会室で電話をかけよう。幸い鍵はわたしが持ってるし、誰かが入ってくる心配もない。

 

 び、びびったわけじゃないからね! ただほら、ベストコンディションじゃないと何を口走っちゃうかわかんないし!

 

 

 

 うだうだ言いながらも、生徒会室までは瞬間移動したんじゃないかって速さで辿り着いてしまう。普通に歩いていたはずなのに記憶がないとか、わたしどれだけ緊張してるんだろう……。

 

 ガチャリと生徒会室の鍵を開けるが、わたしは中へ入らずポケットからスマホを取り出した。何だか中に入ったら入ったで休憩してしまいそうだし、それなら立っている今が丁度良い。

 

「よ、よし……」

 

 ゴクリ。喉を鳴らして、先輩の電話番号が表示されたところを押す。

 

 プルル、プルル。

 

「……あ、あの!? 先輩ですか?」

 

 コール音が消え、繋がったことを示すスマホ。わたしは焦りながら確認する。

 

「えと、今どこですか? もし良ければ生徒会室に来て欲しいなー、なんて。その、勿論一人で来て欲しいんですけど、えっと」

 

 しどろもどろに言いたいことを伝える。先輩からの返事はない。

 ……変に思われちゃったかな。緊張して上手く話せない。

 

「……あの、もしダメならダメって──」

 

 

 

「──後ろ、居るんだが」

 

 

 

「っ!?」

 

 ばっと振り向くと、そこには先輩が一人で佇んでいた。

 えっ、何でいるの!? わたし電話してからまだ一分も経ってないよね!?

 

「……電話は切っとくか。んで、用は? 無いならこっちが先に話すけど」

「いや、いやいや! それより何でここに居るんですか!? お化けですか!?」

「おまっ、言うに事欠いてお化け……」

「だって、だって早すぎじゃないですか! そ、それこそわたしを探してたーなんて話じゃなきゃ……」

「……そのまさかなんだがな」

 

 先輩はやれやれとでも言いたげに頭をかく。

 そんなこと、そんなこと言われたら……!

 

「もう! 先輩のバカ! こんなところでときめかさないでください!!」

「理不尽にも程があるな……」

「まったく、そんなんだから先輩は結衣先輩に──」

 

 

 

 ──先輩のブレザーへ視線を落とす。二つボタンの片側、上のボタンは既に無くなっていた。

 

 

 

 それがどういう意味か、既視感のある痛みはわたしを即座に襲った。

 

 

 

「……あーあ、またですか」

「ん?」

「今回は言いますからね、先輩。なんせ二回目ですし」

 

 思わず零れそうになった涙を押し留め、先輩の顔を見上げる。

 

 

 

()()、また破ったんですね」

 

 

 

 生徒会室での些細な会話だったかもしれない。冗談だと一笑に付されるようなものだったかもしれない。

 

 ……でも、そんなに先輩のボタン(わたしのボタン)は遠いですか? そんなに軽いものなんですか?

 

 

 

「約束、な」

「何ですか。やっぱり忘れてます?」

 

 勝手に言葉に棘が宿る。わたしはぎゅっと手を握った。

 

「いや、覚えてる。というかそのためにお前を探していた」

「なのにそれですか。酷い人ですね」

「……お前こそ、本当に約束を覚えてるのか?」

 

 先輩は訝しむように眉をひそめる。

 

 そんなの、忘れるわけがないじゃないですか。なんせそのために過去にまで戻ってきたんですから。

 

「一言一句覚えてますよ。『先輩が卒業する時は胸に一番近いボタンをください』、です」

「だよな」

「でも、もうないじゃないですか。どうせまた結衣先輩にあげたんでしょう?」

「またってのはよくわからんが……、ブレザーの第一ボタンは確かに由比ヶ浜に渡したな」

「だったら──」

 

 

 

「──胸に一番近いボタン、だろ?」

 

 

 

 そう言って、先輩は自身のカッターシャツの第三ボタンをブチッと千切り取る。広げた手の平にそれを置き。

 

「ブレザーのやつよりもこっちの方が胸に近いと思うんだが……」

 

 わたしは暫く先輩の手の平にあるボタンを見つめる。何も言わず、何も言えずにただそれを眺める。

 

「お、おい? 一色?」

「……先輩は、本当に」

「……何かまずかったか?」

「本当に、もう!!」

「おわっ!?」

 

 ボスッ。わたしは先輩の胸に飛び込み、そのままぎゅうっとしがみつく。

 

 ……先輩はいつも、そういうことばっかりして。いつもわたしをきゅんきゅんさせて。

 

 本当に、もう!

 

 

 

「そんなの反則ですよ!! 好きになっちゃったらどうするんですか、バカ!!」

 

 

 

「あ、えと、おう」

 

 抱きつかれて急にどもる先輩。こんな時まで先輩は先輩で、ちょっとだけ笑ってしまう。

 

 わたしは先輩の胸にうずめていた顔をあげ、先輩と目を合わせる。

 あと十センチで届いてしまいそうな唇。その距離を縮める勇気は、まだないけど。

 

「先輩」

「は、はい」

「ありがとうございます、ボタン。でも普通は学ランかブレザーで、カッターシャツのボタンなんて聞いたことありませんからね」

「俺にその辺の機微は求めるな。なんせぼっちはそういう事情に疎い」

「……でも、本当に嬉しいです。不覚にもきゅんと来ちゃいました」

「きゅ、きゅん、か。それはまたいかんともしがたいというか……」

「ふふっ、先輩らしいどもり方ですね」

「……流石にそれは誉められてないってわかるぞ」

 

 わたしの両肩に手を置き、先輩は引き剥がそうとする。

 だけど、そんなことさせまいと今度は両手を先輩の腰に回した。

 

「ちょ、バカお前」

「……まだ」

「何がまだだよ。こんなところだれかにみられでもしたら……」

「嫌ですか?」

「……お前の方がずるいだろ」

 

 先輩は観念したようで、両手を上にあげる。

 

 ……本当は、わたしだって恥ずかしいんですからね。先輩。

 

「ね、先輩」

「何だ?」

「わたしは今先輩を抱きしめています」

「……まあ」

「先輩は?」

「え?」

「先輩は?」

「……いや、男がそれするのは」

「先輩は?」

「……botかお前は」

 

 仕方ない、なんて先輩の声が聞こえてくるよう。

 

 ふわりと先輩の温かさが増す。先輩も吹っ切れたのか、わたしをぎゅっとしてくれた。

 

 

 

 ……温かいなぁ。

 

 

 

「ふふっ、先輩ドキドキし過ぎ」

「ぼっちにこんな経験あるわけがないからな。ドキドキしないぼっちが居たらそいつは死んでる。つまり俺は生きてるってわけだ」

「何バカなこと言ってるんですか。……わたしはぼっちじゃありませんけど、ドキドキしてますよ」

「っ……」

「あーもー、恥ずかしっ。こんなこと言うつもりじゃなかったのに」

 

 わたしはすっと抱きしめていた腕の力を緩めると、意図を理解した先輩は腕の中から解放してくれる。

 

 わたしは手の平を差し出す。

 

「んっ!」

「……?」

「んーっ!」

「カンタかお前は」

「くだ! さい! よ!」

「ああ、ボタンな。ほら」

 

 優しく置かれたカッターシャツのボタン。小さいボタンだけど、念願のそれはずっしりとした重みを感じた。

 

「……なあ、一色」

「はい?」

「もし俺が今から変なことを言うとして、お前はどう反応する?」

「変なこと?」

 

 先輩からの不思議な問い掛け。わたしは首を傾げて続きを待つ。

 

「……さっきの行為の延長線上みたいなことだ」

「さっきの……あっ!」

 

 さっきの、ってことは抱きしめあったあれだよね?

 

 てことはもしかして、え? 嘘、告白?

 

「俺にとって奉仕部は居場所だ。あれは三人で初めて一つの場所になる。言い換えれば1+1+1だ」

「え、え?」

「これが仮に2+1になると破綻する。あいつらがどう思っているかはわからないが、少なくとも俺はそう感じている」

「あ、えと」

「……んで、お前はそもそも1に入らない、というか。その」

 

 先輩は照れ臭さを示すように鼻頭をかく。視線もわたしではなくあらぬ方向へ向いている。

 

 ……嘘、やっぱりこれ告白!? せ、先輩ってわたしのこと好きだったの!?

 

「単刀直入……に言うのは恥ずかしいんだが、そうも言ってられないな」

「は、はい!」

 

 

 

「一色、俺はお前を──」

 

 

 

 ──その瞬間、わたしの視界がホワイトアウトする。先輩の声も遠ざかり、やがて聞き取れなくなる。

 

 

 え、はぁ!? 嘘、ここで未来に帰るの!? あと三秒あったら結ばれたのに、嘘でしょ!?

 

 

 

「は、葉山先輩のバカぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「──はっ!?」

 

 目の前に広がるのは結婚式披露宴。服装も制服ではなくこの日のために拵えたドレスを着ていた。周りの止まっていた時間も動き出している。

 

 いや、そんなことよりも。

 

 ばっと隣を見ると、葉山先輩が直角に腰を折り頭を下げていた。

 

「……葉山先輩」

「な、何かな」

 

 顔を上げず、そのままの姿勢で応答する。

 

「その様子ってことは、わたしと先輩がどんな状況だったか知ってるってことですよね」

「……まあ」

「三秒あったらわたしと結婚してたんですよ?」

「いや、流石に結婚は……」

「してたんですよ?」

「……すまない、いろは。あんなタイミングになるとは俺も思っていなかったんだ」

 

 そろりと顔を上げた葉山先輩。恐る恐るわたしの顔色を伺っていて、ひっぱたかれないためか徐々に距離を取る。

 

「……あれって、つまり先輩は昔はわたしを好きだったってことで良いですよね?」

「ま、まあ多分……」

「葉山先輩、もう一度」

「もう一度?」

「もう一度過去に戻してください! 今度こそ決めてみせます!」

「え、でも自分で一回きりだって」

「そんな昔のことは忘れました! ほら、早く!」

「……あははっ、流石いろはだね」

 

 愉快そうに葉山先輩は笑う。心の底から楽しそうな、上辺だけじゃない笑顔。

 

 ……もう、一体誰のせいでこうなったと思ってるんですか。

 

 

 

「──あ」

 

 

 

 スクリーンに映された奉仕部の三人とわたしの卒業式の写真。そこに映っている先輩のカッターシャツ。

 

「第三ボタンが、ない……」

「つまり、今のが本当の過去になったわけだね」

「そっか……」

 

 わたしはちらっと壇上に座る先輩に視線を向ける。同じタイミングでわたしを見たのか、バチッと目が合った。

 

 

 ふいっ。先輩は子どもみたいに目を逸らす。

 

 

「ふふっ、今の絶対抱きしめあったのを思い出したからですよ」

「いろは?」

「さ、次行きましょう! 葉山先輩!」

「……ははっ、元気になって何よりだよ」

 

 先輩、やっぱりわたしを意識してるってことだよね。

 

 次は大学のサークルかな。今度こそ絶対、先輩に告白してもらうんだから!

 

 





とりあえず日刊更新はここまでです(書き溜めが尽きました)。
これはハーメルンの『しゃけ式』にもリンクを貼ってあるのですが、実は今一次創作をメインにやっていまして。息抜きにこちらを始めた次第なんですよ(笑) やっぱり久々の二次は楽しいですね。
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