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「“緋槍”」
灼熱の魔法が敵を焦がした。ハジメは満足そうに首肯くと、ユエの頭を一撫でし、それにユエは目を細める。
そして、俺が
ひょい、ぱくっ。
う~ん、エビフライを気合でエビチリにしたような、複雑な味だ。うん、不味くはない。最近、俺の役割が残飯処理みたいになってるんだが.....。
ここはオルクス迷宮...いや、言わば『真の』オルクス迷宮と言っていい。だって、ベヒモスが雑魚って位のヤツしかいねえんだもん(ハジメ談)。
だけどハジメは、ユエは、凄まじい勢いで強くなる。どれ位かって?成長し続ける天才の一生を二倍の速度で見てるみたいだ。ハジメは『神を....殺すッッ!!!!』なんて台詞を真面目に吐けるくらいだもん。
まさか俺ってハジメ達に抜かされる......?
いやいやいやいや、大丈夫だよね(恐怖)。俺って『さいきょうのもんすたー』らしいし?うん、ダイジョウブだ(白目)。
話は戻るが、ここはアインクラッド、じゃなくて真のオルクス迷宮99階層。そろそろキリが良いし、多分ボスなんじゃね(SAO的に)?
「ハッッッ!!!!」ドパンッッ!!!!
ハジメのドンナーが轟音を上げ、魔物達がその命を散らせた。可哀想に......
ひょい、ぱくっ。
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「遂に、百階層か.......」
ハジメが息を吐く。腰のホルスターには万全に調整されたドンナー、シュラーゲンが挿されている。隣に並び立つユエも、表情を厳しい物へと変えていた。そして彼、
キュールも心無しか、心無しか、緊張しているように見えなくもない。そもそも彼の表情には、『無表情』『口を歪ませて凄惨に嗤う』の二択しかない。
ハジメが重厚な扉を押し、遂に百階層が開かれた。
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俺達の前に現れた百階層の全貌。巨大な柱に支えられた空間は彫刻的な美しさと圧倒されるような雰囲気を持って俺達を迎えた。奥に見えるのが【反逆者】の拠点、則ち、俺達の冒険のゴールとなる場所。
ここまで来て、楽にダンジョンクリアとは行かないだろう。警戒を強め周囲を見渡す。それはハジメ達も同じ様で、油断無く構えながら部屋の奥に向かう。
そして、ソレは現れた。
あの日、俺達が奈落の底へ来た。その要因となった魔方陣。それに良く似ている。それどころか、三倍近くの大きさ、描かれた魔方陣の複雑さもその比ではない。
30メートルの巨体、俺をしても倍程の肉体的大きさの差を感じさせる巨躯と圧倒的な存在感。今までの相手など塵のように感じさせる彼の相手を前に、俺の血は滾っていた。
─────アア、タノシソウダァ
思わず飛び出しそうになる足を、なけなしの理性で律し彼の怪物、六首のヒュドラを見据えた。
(俺の役割はハジメ達の闘いを見届けることだ。それを邪魔するなんて、目の前に餌をぶら下げられた犬かっ!?)
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始めに動いたのはヒュドラだった。赤い紋様の首から吐き出される膨大な炎。壁のように迫るソレを左右に別れハジメ達が躱す。炎はそのままキュールに迫る。
「キュアッッッ!!!!!」
腕を一振し、炎を掻き消そうとした彼だが思いも寄らない結果が彼に降り掛かる。
ジュウッッッ!!!!!!!!
炎を浴びた彼の腕が、余りの火力で蒸発したのだ。今までの階層に彼の外殻にかすり傷一つすら残せるような相手は居なかった。これには、彼も堪らずその場から跳び退いた。
「....ハジメ、キュールの腕が」
「ああ、つまり俺達に当たったら即死だ。行くぞ、ユエ!!!!!」
「.....んっ!!」
彼等は腕を瞬時に再生させた彼を一瞥すると、間隙無くヒュドラに攻撃を与えた。ハジメの的確なドンナーの射撃が赤首を吹き飛ばすが、白首によって、直ぐ様回復されてしまう。これではキリがない、と念話を使いながら白首を狙うハジメとユエ。
「クルゥアンッッ !!!!」
しかし、この攻撃は青首に邪魔されてしまった。無数の礫が彼らを襲い、白首に攻撃を届かせない。ハジメがユエの魔法の間を縫って、ドンナーを放った。電磁加速によって、音速を超える速さの弾丸が白首に迫るが、肥大化した黄首によって完全に遮られてしまった。その後もハジメ達の猛攻は続くが、その攻撃はシュラーゲンには届かない。
「クソッ、ジリ貧だ」
“ユエっ!!黄首を引き寄せて...”
念話の途中で、ハジメはユエの意識が感じられない事に気付いた。
「ユエ!!!!?」
力無く倒れたユエの元へハジメが駆け込む。ユエが倒れたのを見たキュールもハジメ達を護るように、ヒュドラの前に身を滑り込ませた。巨大な柱の裏に避難するハジメ達を見送り、怪物同士が対峙する。
「キュアッッッ!!!!!」
最初に動いたのはキュールである。自分に傷を負わせるほどの攻撃力がヒュドラには有る、と確信した彼は始めから最大数の6つの腕を発生させる。彼が6つの内二つの手を握り混むと、ヒュドラの周りに無数の光の杭が生み出された。彼の操作と共に、鋭い杭がヒュドラを礎にせんと放たれた。
「クルゥアァアン!!!!!」
6つの首が全方位を見渡し、複数の属性が、直接叩き付ける一本だけの杭よりも威力の面で劣る彼の遠距離攻撃を悉く弾いてしまった。これを、予想していたの既に彼は空中に跳び上がり、直接攻撃をしようと光の杭を、今度は手の中に作り出す。
「キュアアアァァァ!!!!!!!!」
そして、ヒュドラにソレを叩き付けた。黄首が肥大化してその攻撃を防ぐ。が、凄まじい威力で杭は黄首にめり込み始めてその魔力爆発で吹き飛ばした。続けざまに白首を潰してしまおうとするが、先程の炎を吐かれて腕を二本吹き飛ばされる。しかし、それに構わず残りの四本の腕で白首を狙った。
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「クソッ、ユエ!!!!!」
ハジメが急いでユエに神水を飲ませる。そして、念話で必死に呼び掛けた。今も闘っている仲間を案じながら、呼び掛け続けた。そして、暫くしてユエの目が開いた。
「ユエ!!!」
「.....ハジメ?」
「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」
小さな手をハジメの顔に伸ばし、その温もりを感じる。
ハジメの存在を確かめるとユエの目からは涙が零れ落ちた。
「.....良かった....ハジメに捨てられて.......暗闇の中で一人........」
「なるほどな....悪夢を見せるって所か。全く、クソみたいな事しやがるラスボスだぜ」
悪態を吐くハジメを、不安げにユエが見詰める。そんなユエの頭を撫で、ハジメは慈悲深い微笑みをユエに向けた。初めて見るハジメの表情に思わず頬を染めるユエ。
「安心しろ。お前を置いていく気なんか無い」
「......ハジメ..」
瞬間、ハジメとユエの唇が触れ合った。
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ヒュドラ強過ぎィィィィ!!!!!!!
なんか一人だけ圧倒的なんですけど!!!?「フッ、この迷宮....チョロいな」とか思ってた自分を殴りたい。まさか、『ラスボスが圧倒的系』ダンジョンとは思ってもみなかった。
事実、俺の【断罪の滅杭】の叩き付けも効くは効くけど、イマイチ決定打にならない。ヒュドラの魔法が俺を襲うが、炎だけを回避し他はそのまま攻撃を受けた。どうやら俺は、『火属性』に滅法弱いらしい。ベヒモスの時は赤熱した頭に杭を直接ぶちこんだから気付かなかったのだろう。逆にそれ以外は殆ど俺の外郭を通らない。
今も炎以外の氷の礫等は、全て俺の体に弾かれている。
早く鬼畜魔王HAZIME、帰ってこないかな。
「キュール、交代だ!!!!!」
噂をすれば、と言った所か。ハジメの主人公力には相変わらず驚かされてばかりだ。今も
まさか...待ってたんじゃ無いよね(戦慄)?
その場から離れる前に、近くにあった青首を引き千切って後ろに跳んだ。俺と入れ替りで出てきたハジメが持つのは、対物ライフル“シュラーゲン”。これをいきなり作りだした時は正直「これが真の中二か...」と戦慄してしまったが、あれの威力を見たときに呆れに変わった。「ちょっといいか?」とか言って、俺の体を対物ライフルでぶち抜いた時には、鬼畜過ぎて思わず泣きそうになった。その後で、慌てた顔で謝って来たが絶対許さん人間に戻ったら、クラスの皆..いや、この世界中にハジメの中二病列伝をばら蒔いてやる。
思わず怨念が漏れてしまった。話を戻すが、あの対物ライフルはハジメ曰く「約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられ、その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力」らしい。これを聞いたときは流石に目が点になった。そんなものを人(まあ今は人じゃ無いが)に向けるなんて、流石は鬼畜魔王HAZIMEという所だろうか。
ハジメの対物ライフル“シュラーゲン”が赤雷を纏って始動した。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こし、爆発的な速度で打ち出された弾丸は更にバレル内部で電磁加速される......本当にハジメ、アイツは魔王だな。
あれを喰らえば俺ですら簡単に吹き飛んでしまうだろう。
シュラーゲンの弾丸がヒュドラを、白首を襲った。黄首が防御体制に移行し、白首を守らんとするが、黄首諸共なんの抵抗もなく吹き飛んだ。それに唖然とする他の首達、そいてその隙をユエは逃さなかった。爆発的な魔力の上昇。
「“天灼”」
最上級魔法が放たれる。リーダーたる白首と防御力の高い黄首、更には「ついでに」青首まで持っていかれ、三つになってしまった頭達の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む。それらが空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。
そして、雷が落ち続けている様な轟音と閃光が部屋を染め上げ中央の雷球が炸裂する。それと同時に、ヒュドラを囲む雷球も呼応したように三つの首をその超高温で焼き尽くす。ヒュドラは何とかその魔法から抜けようと藻掻くが、抜けることは出来ない。そして、圧倒的な魔法がヒュドラをを消し炭に変えた。
いやいや、強過ぎるよ...ユエもハジメも。もう三人で世界取れちゃうんじゃないか?
魔力切れで思わずへたり込んだユエにハジメが駆け寄って、その肩を抱き寄せた。ユエがハジメの胸にギュッと顔を埋める。そんなユエを愛おしそうに撫でるハジメ。
アイエエエエエ!!!!?ラブコメ、ナンデ!!!!?
可笑しいな、俺が闘ってる間に何かあったのか...?
そんな事を考えながらハジメ達を眺めていた時、いきなりヒュドラの反応が蘇った。急いでそちらに顔を向けると死体の中から新しい頭、ヒュドラの7つ目の頭、銀色に輝くソレがその首をハジメ達に向け、極光を放った。
いや、待てェェェェぇぇぇええ!!!!!!
「キュアアアァァァァアアアア!!!!!!!」
最高速で極光とハジメ達の間に俺の巨体を滑り込ませる。そして直後、俺の体は光に飲み込まれた。
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「キュール!!!!!??」
なんて失態だ、ハジメは自らを叱責する。この理不尽な迷宮の中で何故警戒を解いた?まだ全てが終わった何て確証もないのに。ハジメは再び、否、あの時、奈落に落ち敵対する全てを殺すと決めた時以上に、その心の中を
殺意で満たしていた。
「殺す!!!ユエ、俺の血を吸え!!!!」
「....んっ!!!!」
ハジメの首筋にユエが齧り付いた。そのままユエを抱き抱え、“縮地”と“空力”でヒュドラを誘き寄せるように移動する。ユエを柱に待機させたハジメは、自分の合図で“蒼天”を使うように指示して、ヒュドラに向き直った。
「喰らえッッッッ!!!!!!」
ドパンッッ!!!! ハジメのドンナーが火を噴いた。高速の弾丸がヒュドラを襲うが、それを諸共せずハジメとの距離を詰める。圧倒的な体格に直ぐに防戦一方となってしまうハジメ。
ギジリッッ!!!! ハジメが歯を軋らせる。邪魔するやつは全て殺す!!!もっと、もっと、速度を、威力を、上げろ!!!こんなもんじゃ無いだろ
南雲ハジメッッッッッッ!!!!!!!!
バヂッ!!!!とハジメは頭の中で、何かが弾ける様な感覚を感じた。それと同時に“天歩”が最終派生技能“瞬光”がハジメを更に上のステージに押し上げる。知覚範囲を急激に広げ、上昇した“天歩”の性能でヒュドラの怒濤の攻撃を躱しその巨体に弾丸の雨を降らせた。
そして、遂に大きく体を仰け反らせ、隙を見せたヒュドラの上に“焼夷手榴弾”をポーチごと投げる。
「ユエ!!!!!!!!」
「んっ!!!!“蒼天”!!!!!!」
焼夷手榴弾の爆発で苦しむヒュドラに、ユエの最上級魔法、蒼い太陽の如き光が更にヒュドラを焼く、しかし、他の首よりも格段に高い耐性を持つ銀色の首は、その高温の中に居ながら嘲るようにハジメ達を見下ろす。
「何見てんだ。お前の相手は俺達じゃ無いぞ」
ハジメの背後から飛び出した巨大な影。キュールは金切声を上げながら眼下のヒュドラを捉えた。その手の中に現れたのは、先程までとは、比べ物にならない程の大きさの光の杭。『断罪』を冠するに相応しい程の光がヒュドラに降り注ぐ。
「キュアアアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!」
ヒュドラに打ち付けられた杭は、それと同時に莫大な光の奔流を辺りに撒き散らし、着弾点を中心として圧倒的な衝撃波を炸裂させた。余りの威力に嵐のような暴風と極光が部屋を駆け巡る。
そして、
「キュアッ♪」
この迷宮の覇者が決まった。
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ハジメとユエがキュールに駆け寄った。
「今回は助かったキュール。お前とあの日出逢えてなければ、ここで死んでたかも知れない。.....ありがとな」
「私を見捨てないでくれて、守ってくれて、ありがとう。貴方もハジメと同じくらい大切な仲間。」
ハジメがユエが、自分の気持ちを伝えた。それに彼が頷く、すると紅い霧がその巨躯を包んだ。
そして、
「おう!俺も楽しかったぜ、ハジメ!!!!!」
「た、田中くん!!?」
「....んっ!?」
オルクス迷宮編、完結