ボクが、スリーピングナイツの活動に復帰して、数日が経ったころ、意外な人物が、ボクを訪ねてきた。
「探したわよ、ユウキ。私は、リーファ。キリト君の妹のリーファよ。覚えてる?」
そう、キリトの妹だった。でも、その姿はボクが知っているリーファとは異なっていた。
全身を黒ずくめの装備で固めたその姿は、まるでキリトのようだった。
「ボクになにか用?」
ボクは、端的に用件を尋ねた。
すると、リーファはボクに、ボクのOSS『マザーズロザリオ』を教えてほしいと言ってきた。
ボクは、意味がわからなかった。
以前、ボクが辻デュエルをしていたとき、確かリーファは挑戦してきて、負けるとあっさりと引き下がっていたはずだ。
アスナが亡くなったことで、ボクはこの技を誰かに教える気にはなれなかった。
だから、最も彼女が嫌うだろう言葉で、彼女を追い返そうとした。
「ボクは、キリトの仇みたいなものだよ?あの時、キリトとデートの予定があったアスナを強引に誘ったのばボクなんだ。」
「私は、アスナさんの仇みたいなものよ?アスナさんを直接非難して、アスナさんを追い詰めたのは私だもの。」
見事に切り返された。
ボクらは、しばらく視線を交わしていたが、やがて二人して苦笑していた。
「どうやらボクらは、似た者同士みたいだね。キリトとアスナのことで、後悔して...アスナの遺書に心を救われた。」
ボクは、あれからあった事をリーファに話した。
リーファも、何があったのか教えてくれた。
確かに、リーファはアスナを非難したようだ。その言葉はボクにもダメージを与えてきたけれど...
でも、冷静になるとアスナへ言ったことは言いがかりも良い所だと後悔していたらしい。
それでも、引っ込みがつかず兄の死という現実に、心を疲弊させていたリーファは、アスナに謝ろうとはしなかった。
その結果、アスナの自殺という最悪の事態になり、ますます自分を責めるようになったそうだ。
だが、キリトの葬儀の当日、アスナから来た遺書がどん底にいたリーファの心を救ったらしい。
「リーファの話しは、わかったよ。でも、ボクの技を教えてほしい理由はなんなんだい?前の時みたいに試しに覚えたいって感じではないけど。」
ボクは改めて、理由を訪ねると、リーファは言った。
「私は、強くなりたいの。お兄ちゃんはもういない。でも...だからせめて、お兄ちゃんが大好きだったこの世界で、お兄ちゃんがいたことの証を残したい。」
「.........。」
「それで、考えたの。お兄ちゃんが周りによく呼ばれていた二つ名、『黒の剣士』。この名前を、いつまでも語り継がれる伝説にする。最強のプレイヤーは誰か?そう聞かれたら誰もがすぐに『黒の剣士』を思い浮かべるように。」
「その為には力がいるの。誰にも負けない力が。だから、ユウキ。貴方の技を私に教えて。」
それは、ボクには...ボク達には誰よりも共感できる話だった。
できれば、協力してあげたい。そう思った。
でも...
「リーファ、キミの考えはボクにも痛いほど理解出来る。できれば協力してあげたい。でもね、やっぱり無条件で教えるのはフェアじゃないって、そう思うんだ。だから...」
ボクはニヤリと笑って条件を告げた。
「ボクとデュエルして、一度でも勝てたならその時は、ボクのOSS『マザーズロザリオ』をキミに託そう。期間は決めないし、何度でも挑戦してきてくれて良い。どうだい?」
リーファは、黙ってうなずいた。
それから、リーファは何度もボクに挑戦してきた。体力と集中力、時間が許す限り何度も。
確かに、リーファは強い。この世界でもトップクラスに入る強さだと思う。
その強さは、アスナに互すると思う。あの時アスナがボクに迫れたのは諦めずに捨て身で来たからだろう。
でも、キリトに比べると一歩劣る。それを自覚しているからこそ、リーファはボクの技を覚えたいんだろう。
でもね、リーファ。確かにボクのSSは強力だけど、それだけでこの世界の最強になれる訳じゃない。
キリトの強さは、剣の腕だけじゃなく、設定されているシステムの外にあるスキルを見つけ出して、それを再現する。
ボクらが、アスナを仲間に入れてボス攻略に挑んだ時、他のギルドプレイヤーたちに、道を阻まれピンチに陥った。
その時、そこに乱入してきたキリトは魔法を切った。そんな事、ボクにだって出来ない。
ただ、強力なSSを持っているだけじゃ最強になんてなれない。
そんな事、ボクより長くこのALOをやっているリーファならわかっているだろうに。今は、強くなることに焦って、その事を忘れてしまっているんだろう。
ならば、ボクはリーファの目的の為の壁となろう。この壁を越えた時に、リーファが最強に近づけるように。
それから、数日経った。
もう何度リーファとデュエルしたか覚えていない。
でも、リーファは確実にボクの動きについて来れるようになってきていた。
リーファは、リアルで剣道をやっていらしいから、その経験が活きているんだろうね。
そして、とうとうボクはリーファに負けてしまった。
「おめでとう、リーファ。」
「ありがとう。ユウキ。貴方が、私を鍛えてくれたおかげで、私は強くなれたと思う。」
なんだ、ボクの思惑はとっくに看破されてたんだ。恥ずかしい。
「とにかく、約束だからね。ボクの技を教えるよ。」
照れを隠しつつ、リーファにマザーズロザリオを伝授した。
上手く伝わったようだ。
これからは、リーファがボクの技を継いでくれる。そう思うと、嬉しくなってくる。
リーファは、一通り技の確認をした後、ボクに宣言した。
「これからは、『絶剣』の称号も私が受け継ぐわ。だって貴方はこの世界のでの、私の師匠みたいなものだもの。だから...」
「今日から、私は『黒の絶剣士』そう名乗ることにする。貴方と、お兄ちゃんの名前を多くのプレイヤーに残せるように頑張るからね。」
ボクは、ふいを付かれて泣きそうになった。でも、泣くわけにはいかない。これはリーファの決意の宣誓。
「『黒の絶剣士』か。なんかアスナがヤキモチ焼きそうな名前だけど、うん、気に入った。任せたよ?『黒の絶剣士』」
ちょっと、声が震えたけど何とかこらえてリーファと握手を交わした。
そして、リーファは帰っていった。
きっと『黒の絶剣士』は最強の代名詞になり、長くこの世界にで使われる事になるだろう。
また、ひとつ。この世界に残すことができた。
「よし、明日からまた頑張るぞー」
ボクは、嬉しさに興奮しながらログアウトした。
明日は今日の事をスリーピングナイツの皆に教えてやろう。楽しみだな。
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その日、ボクの容態は急激に悪化した。
ボクは、残りの時間を大好きだったここで、過ごしたくて、先生にわがままを言ってログインしている。
そう言えば、あの金の亡者どもの言う通り、遺言を書いてやった。
ボクが、死んだら遺産は全てメデュキボイドの研究に寄付します。
うん。これを見たら、あいつらどんな顔するかな。
それを思うと笑えてくる。
ボクは、草原に横になりながら、今までの事を思い出していた。
楽しい事もたくさんあった。
悲しい事も、たくさんあった。
ボクは、人より長くは生きられなかったけど、そこは人と変わらない。
けれど、自分のやりたいことを、命を燃やしてやり抜けた。一緒に気持ちを共有する仲間もいた。
だから、きっと、ボクは誰よりも幸せだったと思う。
なんだか、眠いな。
姉ちゃん、ボク精一杯生きたよ...
ボクは、笑みを浮かべながら眠りついた。