「ちょっと良いかな...」
「は、はい。わ、私に何か様ですか?」
俺が声をかけるとその人物は、あからさまに狼狽えながら返事をした。
なんだろう?なにか声の掛け方が不味かったか?
俺は、そう思いながらもそのまま話を続けた。
「俺は、キリト。さっき冒険者に登録したばかりの駆け出し冒険者なんだけど...。君は、ゆんゆんで間違い無いかな?」
俺の問いに「はい。」と返事をするゆんゆん。
そう。俺は、このゆんゆんと言う人をルナさんから紹介された。
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「実は、お薦めの方がいるんです。」
そう言って、ルナさんはゆんゆんがどんな人物かを教えてくれた。
まず、紅魔族であること。紅魔族は、魔力の高いものばかりで、里の大人は皆、アークウィザードとなるらしい。
その高い能力から、魔王も一目置く一族なのだが、独特のセンスを持っていて、名前や名乗りに前口上をするなど、一族総出で所謂、チューニビョーを患っているらしい。
ルナさんによると、ゆんゆん自身は紅魔族の中でも、かなり常識人なのだそうだ。正義感も強く、優しくて良い娘だと言っていた。
そんな娘が、なぜパーティーを組まずにソロで活動しているかと言えば...
本人が恥ずかしがり屋で、引っ込み思案なせいで、パーティーを組んでほしいと自ら言えないのだと言う。
それでも、周りから誘われそうなものだが、これは、この街で冒険者をやっている、もう一人の紅魔族の悪評が問題らしい。
通称『頭のおかしい爆裂娘』ことめぐみんは、一日一爆裂などと宣って、街の近くの広野に爆裂魔法を撃っては騒音被害を出しているらしい。
また、このめぐみんもいう娘は、爆裂魔法しか習得していないようで、爆裂魔法の消費魔力のせいで一日に一度...しかもほとんどの敵にはオーバーキルな爆裂魔法を撃つと、その日は使い物にならないらしい。
それは。魔法使いとしてどうなのだろう...と思うが、とにかく同じ紅魔族と言うことで、ゆんゆんも敬遠されているらしい。
不憫な...
決して、昔の自分を思い出している訳ではないぞ?
とにかく、ゆんゆんには問題が無い所か、むしろ優秀な冒険者なのだそうで、ルナさんに薦められた訳だ。
さて、どうやって切りだそうか...もともとコミュニケーション能力はかなり低いと自負する自分が、年下の女の子をパーティーに誘う...いや入れてもらうと言う方が正しいか...なんて出来るか?
シリカの時は、人助けってことで俺の方に余裕があったけど、今回は逆だしなぁ...
...正直に言うしかないか。
俺は意を決して口を開く。
「実は、パーティーを組んでくれる人を探していてね。ルナさんから君を紹介されたんだよ。」
「わ、私とパーティーを組んでくれるんですか?よろしくお願いします。」
こちらが言い終わる前に被された...
「あ、あぁ...その通りなんだけど...まずは、こちらの話を聞いてるもらえるかな...」
とりあえず、こちらの事情も説明しないと...
「実は、冒険者になったは良いんだけど、武器を持っていないんだ。ソードマスターになれたから、ステータスは高いんだけど、それでも剣を持ってないから、討伐に不安があってね。それでも、敏捷性が高いから魔法職の詠唱中の囮にはなれると思うんだけど、どうかな?」
「あ、そんなに高いものでなければ、私がプレゼントしますよ?」
...おかしいな。初対面の人に武器をプレゼントするって、この世界では普通なのか?
「えぇっと、それは流石に君に頼りすぎだと思うんだ...それなら、代金を立て替えてもらえないかな?クエストの報酬から君に返すと言うことで。」
「いえ、構いませんよ?友達に奢るのは慣れてますから...」
「いやいやいや、友達どころかまだ俺と君は初対面だよ。うん、必ず返すってことでよろしく頼む。」
俺は、この娘の闇を見た気がした。
「とりあえず、じゃあ、パーティーを組んでくれるってことで、改めて...俺はキリト。職業はソードマスターだ。よろしくなゆんゆん。」
俺が自己紹介をすると、ゆんゆんが涙目になった。
しばらく悩んでいるようだが、意を決したようで、
「わ、我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操る者。いずれは紅魔族の長となるもの」
香ばしいポーズでそう名乗ったゆんゆん。
...これがルナさんの言っていたヤツか...
その後、ゆんゆんは、蚊の鳴くような声で、よろしくお願いします...と言った。
恥ずかしいならやらなきゃ良いのに...とも思ったが、きっと一族の掟か何かなのだろうと、自分を納得させた。
「よろしくな、ゆんゆん。」
俺が、普通にスルーしたリアクションをしたのが以外だったのか、ゆんゆんは、目を丸くした後、笑顔で返事をして握手を交わした。
「パパ、浮気はダメですよ?」
その時、俺のコートに隠れていたユイが飛び出して、俺を嗜めた。
「いや、浮気って...ただパーティーを組んで、握手を交わしただけだぞ?」
「ママが、パパは一級フラグ建築士だから、女性と親しくなりそうなら気を付けるように言っていました。」
アスナ...君は一体、ユイに何を吹き込んでいるんだ...
俺たちが、そんな会話をしていると、ゆんゆんが、ユイに興味を持ったようで尋ねてきた。
「これって、もしかしてピクシーですか?ピクシーはあまり人前に姿を現さないんですが...私も始めて見ました。」
俺は、咄嗟に故郷で困っていたところを助けたら懐かれた...と説明した。
ゆんゆんは、特に疑問には思わなかったようで、そうなんですか...と納得していたようだ。
その後、今後の方針について話し合い、まずは武器屋に行こうと言うことになった。
駆け出し冒険者の街と言うことで、お世辞にも品揃えは良くなかったが、片手剣を一本購入し、軽く素振りしてみる。
ちょっと軽すぎるけど、無いよりはずっと良いだろう。
なぜなら...
俺は慣れ親しんだモーションを起こす。
すると、剣が光に包まれ下位ソードスキル『スラント』が発動した。
そう。ソードスキルは剣が無ければ発動できないのだから...
その動きを見た店主とゆんゆんが驚き目を見開いていた。
「キリトさん。今の動きなんですか?剣が光ってましたし、何かのスキルですか?」
...上手い言い訳考えて無かった...
結局、自分がいた今は亡き遠い故郷...アインクラッドの人間だけが使えるスキルだと説明した。
嘘は言ってないしな...
武器を手に入れた俺は、改めて冒険者ギルドに戻り、ゆんゆんと相談してジャイアントトードを5体討伐すると言うクエストを請け負った。
いよいよ、始めてクエストだ。
俺のこの世界での、はじめての冒険が始まろうとしていた。