続きは、この素晴らしいキリアスに祝福を!をご覧下さい。
あれから一年と少し経った。
今日は、明日菜さんの卒業式だ。
「先生、今まで良くして頂いてありがとうございました。」
明日菜さんが、挨拶に来てくれた。
「良いのよ。貴方は誰よりも研究熱心だったもの。私も、教え甲斐があったわ。貴方は、私の最後の教え子として誇りに思うわ。」
「先生、本当に大学を辞めちゃうんですか?」
明日菜さんには事前に、私が今年で大学を辞める事を言っていた。
「ありがとう。明日菜さん。でも、私は悲観的な理由で辞める訳ではないのよ?」
「理由をお訊きしても良いですか?」
「そうね...簡単に言えば、家族のために生きてみたくなったのよ。旦那さんの為に一生懸命に勉強に励む貴方を見て、私も今まであまりして来ななかった、新しい事に挑戦してみようって思ったの。」
「そんなこと...」
「明日菜さん。貴方は貴方の道を行きなさい。そして、これは貴方の恩師としての願いです。最後までその笑顔を絶やさない、素敵な人生を歩んで下さい。」
「...は...い...。先生...私...私も...精一杯生きてみせます。ありがとうございました。」
私たちは、そうして最後の別れを済ませた。
そして、私も長年勤めたこの大学を去る。
学長は引き留めてくれたが、私の意思を動かせないと知って、諦めてくれたようだ。
そして、私は専業主婦のなった...
最初は、主婦として家事を行う事に随分と手間取っていたけれど、半年も経つ頃には大分慣れてきた。
夫や息子も、出きる限り早く家に帰るようになり、夜はいつも三人で夕食を取っている。
笑い合いながら食べるその食卓は、以前のこの家では考えられないことだった。
そう、私がまだ実家にいた頃の...あの家で普通に見られた光景だった。
今なら、明日奈がなぜ宮城の私の実家の方を気に入っていたのかよくわかる...
父さん、母さん。ごめんなさい...
私は、二人にあれほど愛されていたのに、それに気付く事もできなかった不孝者です。
でも、私は今幸せです。だから、どうか見守っていて下さい。
私を生んでくれて...育ててくれて...ありがとう。
それから、さらに月日が流れた。
明日奈が無くなって二年以上が経った...
私はそれまでの間、どうしても明日奈の部屋に踏み入ることが出来ないでいた。
どうしても、明日奈に対する負い目が私の足を、その部屋に入れる事を拒むのだ...
でも、あれから二年半も経つ。いつまでもここを避けていては、本当の意味で私は、前に進めない。
明日奈...
明日奈の部屋の前に来ると、どうしても足がすくんで動かなくなる。
萎えそうになる気力を奮い立たせ、動かない足に喝を入れる。
明日奈...私に力を貸して...
背中を押されたような気がした...
気が付くと、私は明日奈の部屋の中にいたのだった。
明日奈の部屋は、あの時のままだ。
ハウスキーパーの佐田さんに、今でも時々、ここの掃除だけお願いしていたため、中はそれなりに綺麗だ。
私は、ゆっくりと明日奈の部屋を見て周る。
明日奈が勉強に使っていた机...
あの子はたまに日記も書いていたわね...
明日奈が使っていたベッド...
そう言えば、あそこでアミュスフィアを使っていたあの子を、何度か叱ったことがあったわね...
......アミュスフィア...か...
それにしても、あの子...あんな事件に巻き込まれて、良くまたフルダイブ機器なんて使えたわね。
まあ、桐ヶ谷君がやっていたのが大きいんでしょうけど、普通なら二度とやりたくないと思ってもおかしくないと思うんだけど...
そう言えば、SAO生存者は、以外とフルダイブ機器を使っている人が多いそうだ。
それほどの魅力があるのだろうか...
私は、その疑問が頭から離れなくなった...
明日奈が愛した世界を見てみたい...
明日奈が、その世界でどんな風に考え、どんな風に生きてきたのか、知りたい...
考え始めたら、どんどんその気持ちは大きくなっていった...
私は、夫に相談した。すると...
「おお。それは面白そうだ。私も、もう少しすれば時間が取れるようになるし、そうだな...浩一郎も誘って、皆でやってみようか。」
夫は、かなり乗り気になり早速三人分のアミュスフィアを仕入れてきた。
まあ、もともと家の製品だから手に入れるのは簡単だ。
そして、話し合いの結果、まずこう言ったものに全く慣れていない私が、先に使用して慣れておき、後から時間が取れるようになった二人にレクチャーをすると言う事になった。
ゲームは、ALOを選択した。
何故ならば、このALOは、明日奈が良くやっていたゲームであり、また、かつて明日奈達が閉じ込められ、命がけで生き延びてきた、あの城が実装されているからだ。
明日奈の事を知る為には、このゲームしかあり得なかった。
私は、息子に使い方やアカウントの取得方法等を聞き、いよいよ今日、初のフルダイブを経験することになる。
私は、逸る気持ちを押さえながらアミュスフィアを被る。
そして...
『リンクスタート』
最初の種族選択は、シルフを選んだ。
名前は少し悩んだが、後からあの二人と合流するのに分かりやすい方が良いだろうと『キョーコ』と付けた。
今日から、この『キョーコ』がこの世界での私になる。
行くわよ...キョーコ...
そうして、私はその世界に入った。
見るもの全てが新鮮で、そして空を飛ぶのは気持ちよかった。
そして、この世界のプレイヤーとの交流はとても興味深いものだった。
そう言えば、明日奈も言ってたわね。
あの世界の物は全て虚構...でも、私たちの思いは本物だった...
あの子が、この世界に魅せられた理由が少しわかった気がした。
そして、それから更に少し経ってから、このゲームに慣れてきた私は、今から考えると無謀だが、一人で町の外に出て、遠出をした。
ある草原で、一休みしていると、いつの間にか周りをモンスターに囲まれていた...
簡単に、戦闘の仕方を教わって、その先輩プレイヤーと一緒に少しだけ戦った事があるだけの私は、突然の戦闘にパニックになった...
怖い...
ゲームとは思えないほど、リアルなその怪物たちの有り様に動けなくなった私は、諦めて目をつぶった。
ところが、いつまで経ってもゲームオーバーになる様子は無い。
目を開けると、モンスター達は既にどこにもおらず、二人のプレイヤーがそこに立っていた。
どうやら、この二人が助けてくれたようだ。
お礼を言おうとその二人を見たとき、私は、あまりの驚きに固まってしまった。
一人は黒ずくめのスプリガンの少年。
頭の上には可愛らしいプライベートピクシーが乗っていた。
問題は、もう一人のウンディーネの少女の方だ。
その顔は、あまりにも明日奈にそっくりだった。
まるで、現実のあの子がそのままこの世界にやって来たような...
だが、この顔はアバターの作り物...
私は、なんとか思い直し、改めて二人にお礼を言った。
「いえ、無事で良かったです。ここら辺は、少し強いモンスターがいるから気を付けた方が良いですよ?」
私のお礼の言葉に、その少女はアドバイスをくれた。
「そうなのね。こう言うゲームって初めてで、よくわからなかったから...本当に、ありがとうね...えっと...」
私は、改めてお礼を言うがこの少女の名前を知らない。
その事が伝わったのだろう。その少女は、自分の名前を告げた。
「あ、私...アスナって言います。」
私は、また固まりそうになった。だが二回目と言う事もあり、なんとか堪える。
何よりも、あの子はもうこの世界に来ることは無い。
だから、この『アスナ』さんが『明日奈』であるはずがない。
気を取り直した私は、自分も改めて名乗った。
「私は、キョーコよ。よろしくアスナさん。」
これが、私とアスナの出会いだった。
私とアスナ...お互いの真実を知るのは、少し先の事となる...