気が付くと、空が白くなってきていた。
もう夜明けか...
今朝は、父と母が揃っての朝食だ。兄は出張でいないけど、久しぶりに家族で食べられる日。
でも、行きたくない。何もしたくない...
お母さんが、私を呼ぶ。私の意思とは関係なく、足が動く。
こんな時でも、母の教育は、私の身体を支配しているのか...
居間に到着すると、苛立ちの混じった声で話しかけてきた。いつもの小言だ。
「何をしていたの。時間になったら、直ぐに来なさいと、何度言えばわかるの?今度、同じ事があったら、あの機械、取り上げますよ?」
お父さんは、取りなそうとしてくれたけど、私の顔を見て、途中で止まった。
そして、心配そうな声で聞いてきた。
「ど、どうしたんだ。明日奈。目が真っ赤に腫れてるじゃないか。何か、あったのかい?」
私は、昨日の事を思いだし、また涙が出てきた。止まらなかった。
「昨日、キリト君が...桐ヶ谷和人君が...トラックに跳ねられて...」
私は、その先を言えなかった。でも、お父さんは何となく察したみたいで...
「そうか。それは辛かったね。今日は、学校を休んで良いから、彼の所に行ってあげなさい。」
そう言ってくれた。
でも、お母さんは、それに反対した。
それどころか、私にとって、許せない...許しちゃいけない言葉を発してきた。
「何を、言ってるんですか。あなた。只でさえ、勉強が遅れてるのに、この上、学校を意図的に休ませるなんて...私は、許しません。確かに、桐ヶ谷君は気の毒ですが、明日奈の事を思えば、良いキッカケにりました。これで、明日奈も心置きなく、勉強に集中できるでしょうし、相応しい相手も見つけられるでしょう。」
その言葉に、父は言い過ぎだと、口論していたようだけど、私はそれを聞いているところではなかった。
イマ、ナントイッタ?キリト君ガ、シンデヨカッタ?
この人は、何を言っているんだ?
人が...それも娘の大事な人が死んで、喜ぶような親がいることが信じられなかった。
それが、自分の血の繋がった母であることが許せなかった。
この人には、人の心が無いのだ。そう確信した。
私は、逃げるようにそこから離れ、部屋に戻った。
悔しい。あんな人のいいなりになってきた自分が許せない。
何故、あんな人に反抗もできないのか?
少なくとも、SAOで生きてた、閃光のアスナなら、あの程度の人間に言い返せないなんて事は、無かったはずだ。
キリト君...会いたいよぅ。私を一人にしないでよぅ...
これから、私はどうしたら良いの?
あの人のいいなりになって、人形のように生きて、愛した人でも無い、薄っぺらな人と結婚させられて...そんなの...全然幸せじゃないよ。
もう一度、あの頃に戻りたい。なんのしがらみも無い、あの城でキリト君と...
ーキリト君が、帰ってこなかったら、私自殺するよ。もう、生きてる意味無いし、ただ待ってた自分が許せないものー
アインクラッドでの事を思っていた時、ふとそんな言葉が浮かんできた。
その言葉は、かつての自分が言ったものだ...
ハハハ...なんだ...こんな簡単な事だったんじゃない。
結城明日奈では、ダメだったんだ。閃光のアスナなら、この状況でどうしたら良いかなんて、即決していた。
そうだよ。キリト君がこの世界にいないなら、私がこの世界にいる意味なんてない。
私も、彼を追わなきゃ...
その為に、準備をしないと。周りに気付かれたら止められる。
準備が、整うまでは結城明日奈として過ごすさなければ。
それから3日、私は結城明日奈として、ふるまった。プローブは、キリト君の持ち物だから、リズに預けた。リズに預けるまでの登校中、ユウキはかなり心配してたみたいだけど、それからユウキには会っていない。
周りの皆は、心配してたけど、気丈に振る舞っている私だと勘違いしてくれたみたいだ。
リズに気付かれないかは、ちょっとヒヤヒヤしたけど、リズも平然じゃなかったみたいで、私の変化には気付かれずにすんだ。
遺書も残した。あの女、結城京子への意趣返しにもなる内容にしたし、ちょっとは溜飲が下がった。
あとは、ユウキには教えておこう。彼女なら私を止める手段は無いし...もう、準備も終わってるから。
私は、ALOでユウキを呼びだした。
「アスナ、心配してたんだよ?もう大丈夫なの?あれから、アスナはログインしてなかったし、ボクはここでしか会えないから。」
「心配してくれて、ありがとね。ユウキ。今日はね、あなたにお別れを良いに来たの...」
今読み返すと、本当に酷い話だなぁ...