楽しかった。ここ数日、ボクは楽しかったんだ。
ALOでアスナを誘って、ボク達の名前を残せた。
キリトが開発した、プローブを使って
夢だった学校に通うこともできた。
でも、その終わりはキリトの死をキッカケに唐突に訪れた。
その日、いつものようにプローブに入ると、泣き張らしたアスナの顔にぎょっとした。
アスナはキリトが交通事故で亡くなったことを教えてくれた。
昨日、そんな事があったなんて...ボクが強引にアスナを誘ったのが悪かったんだ。
ボクは、その事をアスナに謝罪した。でも、アスナは気丈に振る舞って、許してくれたんだ。
結局、決めたのは自分だからって。
自分を責めていた。
学校に着くと、アスナはリズにプローブを預けてきた。これは、キリトの物だから、キリトの家に行ったら、返してほしいって。
自分は、キリトの妹に拒絶されてるから、行くことができないって...
リズは、アスナを説得して一緒に行こうと誘っていたけど、アスナは頑なに自分は行けないって言っていた。
それから、数日経った。
ボクはあのプローブが無ければ、このALOでしか、アスナに会えない。
心配だけど、励ましてあげることもできない。
ボクは、無力だ。
そんな、思いでぼーっと過ごしていると、アスナからメールが来た。
今、ログインしてるから会えないか?って。
良かった。ようやく元気になったんだね。
ボクは、急いで待ち合わせの場所へ飛んで行った。
そこに、アスナはいた。
「アスナ、心配してたんだよ?もう大丈夫なの?あれから、アスナはログインしてなかったし、ボクはここでしか会えないから。」
ボクが、声をかけると、
「心配してくれて、ありがとね。ユウキ。今日はね、あなたにお別れを良いに来たの...」
アスナは、信じられない事を言ってきた。
「お別れってどういうこと?もしかして、アスナALOを辞めちゃうの?」
ボクが、そう聞くとアスナは笑ってそれを否定した。
「違うよ?確かに、このままだとお母さんに辞めさせられそうだけど...。あのね。ユウキ。私、キリト君の所へ行かなきゃ行けないんだ。」
その言葉に、ボクは驚いた。
「な、なに言ってるんだよ。キリトは、もう死んじゃったじゃないか。」
ボクは、アスナが壊れてしまったのかと思った。もしかして現実を否定して、幻を見てるんじゃないか。
だったら、ボクが彼女を現実に連れ戻さなきゃ。例え、彼女に嫌われるとしても、ボクは、彼女に現実を突きつけた。
「うん。知ってるよ。だからね?私も彼の所へ行くんだ。」
知っている。アスナはそう言った。予想外の言葉だった。
キリトの死を認識していて、キリトの元へ行く...その言葉の意味は...
「まさか...アスナ、まさか君、自殺する気じゃないよね?」
そんなのダメだ。
「え?もちろん、自殺するつもりなんだよ。だって、キリト君がいないんだもん。こんな世界に生きていても、意味なんて無いからね。」
彼女は、当然のように答えた。
ふざけるな。自分で自分の命を終わらせるなんて、ボクらに対する、冒涜じゃないか。
「ダメだよ、そんなの。そんなの間違ってる。自殺なんて、ボクらみたいに、長く生きられない人達にとって、最大級の裏切り行為だよ。」
ボクは、アスナを止めようと必死で言葉を紡いだ。でも、ボクの声は届かない。
「裏切るもなにも、私はスリーピングナイツの仲間じゃないんだよ?ユウキ。貴方、何か勘違いしてないかな?私は、貴方達に誘われて、ボス戦に協力しただけ。決してスリーピングナイツの一員になったわけじゃないよ?貴方達は、あくまでフレンドの一員。私の仲間は、SAOで苦楽を共にしたキリト君達なのよ?」
アスナが、ボクらをそんな風に見てたなんて。ボクは、とっくにアスナはボクの仲間だって思ってたのに。ボクだけの思い込みだったのかな?
それでも...それでも、自殺だけは許せない。なんとか、止めさせないと。
「だとしても、自殺するなんて間違ってる。なにより、キリトだって、そんな事望んで無いはずさ。」
「確かに、そうだと思う。でもね、間違っていても構わない。キリト君が望んでない事もわかるけど...キリト君は私を責められないだろうしね。」
苦笑しながら、答えるアスナに、何故、キリトが責めないと思うのか聞いた。
「だって、立場が逆ならきっと...キリト君も同じ事をしたはずだから。」
アスナは、笑いながらそう言った。
ボクは、キリトの事をよく知らない。だから違うとも言えない。
「そ、それなら、家族はどうするの?アスナの親や兄弟は?きっと悲しむはずさ。」
ボク話に、アスナは冷笑を浮かべた。
「私の家族?お父さんや兄さんには、多少悪いと思うけど、あの女にはちょうどいい意趣返しになって、むしろせいせいするわ。」
「あの女?もしかして、お母さんのこと?ダメだよ。アスナ。お母さんをそんな風に呼んじゃ。」
「あの女はね、キリト君が死んだ事を『良かった』...そう言ったのよ?...信じられる?キリト君が悪い事をしたわけでもないのに...私は、そんな人が自分の母親だなんて信じられないわ。」
「そ、それは...」
何も、言えないボクにアスナはため息をひとつして、話を続けた。
「あのね、ユウキ?私は、自殺を止めてもらうために貴方に会いに来たわけじゃないの。お別れのあいさつとお礼を言いたくて来たの。」
お礼?あのとき、ボクが強引に誘わなければキリトが死ぬことも無かったかもしれないのに?
「ユウキ。私ね、今回のことで良くわかったんだ。流されてばかりの人生なんて、後悔しか残らない。本当に大切な人の側にいるために遠慮なんてしちゃいけない。そのためには、自分の意思を貫く強さがいるの。かつての自分にはあった。今の私が無くしてしまったもの。ようやく取り戻せたんだ。」
「だから、ありがとう。それと、これで会うのは最後になるからね。皆には、よろしく言っておいて?」
アスナは、もう話をおわりにしようとしている。
ダメだ。このまま行かせたら取り返しがつかなくなってしまう。でも、アスナを思い止まらせる言葉が浮かばない。
「アスナ、嫌だよ。ボクと一緒にいて。」
結局、自分の思った言葉を出すしか無かった。駄々っ子のように。
「ユウキ。私はもう、貴方の言葉では止まらないわ。もう後悔はしたくない。私にとっての一番は、キリト君の側にいること。そのための行動に、もう躊躇いも恐怖も無い。だから、サヨナラ...ユウキ。」
そう言って、アスナはログアウトしていった。
現実世界に行ってしまったアスナにボクが出来ることはない。
ボクは、そのまま泣き崩れた。
ユウキ厳しめ...