その日は、そのまま解散となった。
家族以外は、病院に泊まれないのだそうだ。
皆、渋ってはいたが、翠さんの説得で仕方なく家路についた。
あれから、明日奈からの電話は来ていない
。私も掛けなかった。冷静にならないと、私も明日奈に酷いことを言っちゃいそうだったから...
次の日...ほとんど眠れていないが学校に登校した。
明日奈は、今日は休むんだろうなぁ。
なんとなく、そんな事を考えていたが予想外に明日奈は登校してきた。
私には、一も二もなく駆け寄って声を掛けた。
「明日奈、大丈夫なの?」
言い終わる前に、気付いた。明日奈の目は真っ赤に充血して腫れ上がっていた。
そうだよね。大丈夫なハズ無いよね。
私は、明日奈を抱き締めた。
明日奈は、やんわりと手をほどくと、まだ、泣き後の残る顔で微笑んだ。
"ありがとう。リズ...。私は、大丈夫だから"そう言っていた。
私は、何か違和感を覚えたけど、心配かけないように気丈に振る舞っているんだろう。
...そう思った。
今、思えば、この時感じた違和感を、もっと考えていたら...誰かに相談していたら、後の悲劇を止められたのかも知れない。
学校に到着すると、明日奈は私にプローブを預けてきた。自分は、キリトの家に行けないから代わりに返して来てほしいと言っていた。
その日の一時間目は、急遽、全校集会が開かれキリトの事故について発表があった。
皆、明日奈の方に目をやっていた様に思う。キリトと明日奈の仲は有名だったから。
その後は、特別話すような事もなく、放課後となった。
ここぞとばかりに明日奈を慰めてお近づきになろうなんて、馬鹿な男どももいたが、私が、睨みを効かせて退散させた。
私は、桐ヶ谷邸に行くために今は電車に乗っている。
明日奈も誘ったが頑なに拒否された。
仕方なく、シリカと途中で合流したシノンと3人で向かった。
現地に到着すると、直葉が出迎えてくれた。
私達を見回して、明日奈がいないのを確認すると、中へ入れてくれた。
まだ、明日奈を許していないんだな。そう感じた。
私は、明日奈から預かったプローブを直葉に渡し、キリトの遺体がある部屋に招かれた。
明日には、火葬場へ行くそうなので今日がキリトを見る最後の日となる。キリトはもう話さない、笑わない。動かない、そう思うと私達は、また泣いてしまった。
次の日の放課後、私は明日奈を誘ってダイシーカフェへ向かった。火葬場なんて逝きたく無かったし、私の方も少し気持ちが落ちついたから、あの日、明日奈が何をしていたのか聞こうと思ったのだ。
明日奈も落ち込んでいるのは解っていたし、話せば少しは楽になるだろう。そう思った。
ダイシーカフェに付くと、クラインが仕事をサボって飲んだくれていた。
カウンターに突っ伏して寝ているようだった。
私たちは、テーブルに付き注文をした。
エギルは、明日奈を心配そうに見ながら今日は金は良いからゆっくりしていけ。そういってくれた。
私は、意を決して明日奈にあの日何をしていたのかを聞いた。
明日奈は、自嘲気味に話してくれた。
「あの日ね、ユウキに誘われてずっとALOにログインしてたんだ。ユウキがどうしてもって言って私、断りきれなくて...」
私は絶句した。キリトが大変な時にユウキと遊んでいた。その事実に暗い感情が溢れてくる。
明日奈のせいじゃない。明日奈はキリトがそんな状態だと知らなかったんだから...だから仕方ない。わかっていても、私は感情が押さえられなかった。
私が、明日奈を詰問しようとした時、カウンターで寝ていたハズのクラインが、声を掛けてきた。どうやら、寝たフリをして聞き耳を経てていたようだ。
「じゃあ、何か?アスナ、おめぇ、キリトが大変な時に呑気に遊んでたってのか?冗談だよな?ウソだと言ってくれよ。なぁ。」
明日奈は、表情を変えずに答えた。
「ウソじゃない。直葉ちゃんの言った通りなの。私は、私には、キリト君を助ける機会が2度もあった。なのに、両方とも私が優柔不断なばっかりに、その機会を失ってしまった。」
明日奈の話しでは、九時頃...キリトの声を聞いたのだそうだ。胸騒ぎを感じて一度、ログアウトしようとしたが、ユウキに止められて、結局ログアウトしたのは10時になったのだと言う。
それを聞いた時、クラインは明日奈にどなり散らした。
「ふざけんな。そりゃあ、つまりアスナはアイツの助けを呼ぶ声を聞いて、敢えて無視したみてぇじゃねえか。アスナ、俺は昔あんたにキリトの事をよろしく頼むって言ったよな。お前、任されたって言ったじゃねぇか。なんで、なんでこんな事になったんだよ。なぁ。」
見かねてエギルが、クラインを止めに入った。
「落ち着け、クライン。アスナも、こいつは酔っ払いだ。本心で言った訳じゃねえ。今、言ったことは気にするな。」
そう言って、私達を店から出してくれた。
明日奈が心配になり、声を掛けようとすると、昨日と同じ顔で同じ台詞を言ってきた。
「私は、大丈夫だから。心配しないで。リズ。」
そう、言われてしまえば、こちらからは何も言えない。
私は、後味も悪く明日奈と別れて帰路についた。