ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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ここで『オリジナル』アイテムの登場です。とはいえど、そんなに本編に関わりが出る訳ではないです。

《スキル》の【狩人】を【狩猟】に変更しました。

『ハンター』って扱いがひどいと思います。命懸けの割には数人で身の丈の何倍の凶悪なモンスターと身一つで戦わさせられる。おまけに一体分の“貰える素材”では到底作れない武器や、防具一式。案外リアルに考えたら、キメラ装備は一種のハンター達の自己防衛術にではないのかと・・・・・・そんな事ないですよね。すいません言いたかっただけです。
ではどうぞ


『久々に再会したのはともかく・・・・・・これ、飛び込んでもいいのかな?』

 リリルカ・アーデは『ギルド』へと赴いていた。

 

 迷宮都市【オラリオ】は周りを囲むようにそびえ立つ外壁と、空から見る事があるならば、中央のシンボルでもある巨塔から伸びる東西南北へと繋がる八本のメインストリートが特徴的な都市である。

 

 少なくとも外見上の大まかな特徴のかなり大きな都市だ。

 

 同時にこれほどの“巨大で活気に溢れた都市”が存続するにはそれなりの人口とソレをまとめる存在が必要になる。そう『冒険者』と呼ばれる者達だ。

 

 それがこの都市の中央にそびえる“摩天楼施設《バベル》”の地下にある迷宮《ダンジョン》へ名声や夢、金を求めてやってくる。

 

 言い方を悪くすれば“ならず者”のような輩も多く蔓延る。多種の種族が入り乱れるなかで、高潔さを持ち合わせた人格者ばかりの世界ではない

 

 【ファミリア】が大きくなれば、結果的に品行を問われる事も多くなるが、全ての例に当てはまるわけでもない。

 

 故に、そんな『力だけはある存在』を縛る存在というのも無くてはならない。

 

 『ギルド』は一言でいえばブラックな職場だろう。《冒険者》相手の業務など、同じく【神の恩恵】を受けた冒険者で無くては止められない。

 

 あくまで中立かつ冒険者の法の番人という立場の《ギルド》の職員だからこその立場上は《冒険者》より上という事になってはいる。

 

 なにしろ、『ギルド』を経由しなければ満足に。『魔石』を換金する手段もないのだ。嘗ての【ソーマ・ファミリア】も質のいい【ファミリア】とはいえなかった。

 

 しかし、それもこの一年はそう言った荒事は劇的に少なくなった。

 

 リリルカは『ギルド』の受付カウンターで仕事をしている知り合いを見つける。桃色の髪を揺らしている職員である、ミィシャ・フロットに話しかける。

 

「すいません、ミィシャさん。【ソーマ・ファミリア】のリリルカです。【解呪酒】の納品に来ました」

 

「ありがとうぅ! リリルカさん。でも本当に、【ソーマ・ファミリア】は変わったね。一年前は毎日のように『ギルド』とか換金所で暴れたり、問題ばかり起こしてたのにさー。あの時はこっちもピリピリするし」

 

「その時に関しては。いくら謝っても謝りきれませんね・・・・・・」

 

「あ、ごめんね、リリルカさんは違うよ! むしろ、毎回、問題が起きるたびに団長さんと謝りに来てくれたじゃない」

 

「そうですね・・・・・・納品も間違いなさそうなので、リリはダンジョンに潜りますね」

「いってらっしゃいー気をつけてね」

 

 遣り取りを終えて《ダンジョン》へ向かうために歩き出す小人族の少女。リリルカ・アーデは、【ソーマ・ファミリア】所属のレベル1の《冒険者》である。

 

 今だにフリーを含めた、サポーターも兼任している。彼女の外観的な特徴を挙げるとすれば、異様に大きなバックパックと異様にデカイハンマだろう。

 

 もとより手先の器用な小人族は戦闘に関してのアドバンテージ低い種族である。例外もいくつかある、ある大手の【ファミリア】の団長などは、その短所を埋めるために槍を扱い。努力の末に今の位置“Lv.6”の《冒険者》の頂へと登っている。

 

 ではリリルカの場合はどうか? それはもう一年と数ヶ月前の恩人のプレゼントであるハンマーと、彼女の《スキル》を活用できる戦い方を説明しないといけない。

 

【縁下力持《アーテル・アシスト》】

 

・一定以上の装備過重時における補正。

・能力補正は重量に比例。

 

 この《スキル》の説明を聞いた、恩人は三日ほどたった日にリリルカにある物を渡した。それがこのハンマーであった。

 

 なんでも『腕はあるけど残念すぎるネーミングセンスの鍛冶師』に作らせたらしい。

 

 あまりにも、軽々と持ってきて、持ってみると思った以上に軽かったので“その時は気にすること無く”ファミリアの再構成の為に、新たに団長に就任した、チャンドラ・リヒトとソーマと共に新酒の開発を行っていた。

 

 その時にこんなドデカイハンマーを持って帰り、それを見たチャンドラが腹を抱えて笑い。リリルカも苦笑しながらも、ふとした遊び心でハンマーをチャンドラに渡してみたのだが、“それがいけなかった”。

 

  “体格にそぐわない怪力の持ち主である『ハンター』”と“重量物の重さを軽減する《スキル》をもつ《冒険者》”が軽々しく持っているように見えるだけで、実際の重さは異常であると。

 

 その時に誰も気づかなかった事が、チャンドラを悲劇に誘う結果となった。

 

 異常な重量のハンマーはレベル2であるチャンドラでさえも持ちきれるものではなく。油断していた事もあって彼の足の上に落下した。

 

 少ない、経費からハイポーションを買いに走ったのは今になっては笑い話になる程度のいい思い出である。

 

 そして、その重たいハンマーで殴りつけるのがリリルカの戦い方である。重さ故に遠心力を加えて殴打するだけでダメージを負わせられるのだ。実に理にかなった戦い方だと思ってはいる。

 

 ともかく、新生【ソーマ・ファミリア】は【神酒】以外の商品や、恩人からの託された“ウチケシの実”の栽培を成功させ。新商品【解呪酒】の作成に成功した。

 

 【解呪酒】それは、酒に関する状態異常・・・・・・中毒症状の緩和や解呪薬ほどではないが、『呪い《カース》』の緩和、予防などの効果もある。【ソーマ・ファミリア】だけの商品だ。

 

 完成したソレを直ぐに【ファミリア】の構成員に飲ませ、【神酒】の中毒症状を和らげる事でやっとスタート地点にたどり着けたのが、恩人が【オラリオ】を去って五ヶ月後の事だった。

 

 現在では【解呪酒】をアルコール中毒の解毒薬や、ある程度の毒や【呪い〈カース〉】の予防、もしくは治す目的で多くの【ファミリア】が保存している。これの利点は酒ゆえに保存が効くということだろうか。

 

【ディアンケヒト・ファミリア】や他の大手の【ファミリア】に保険として備蓄されるほどとなった。先程の《ギルド》への納品もその一環である。

 

 そうして、【神酒】の影響化から抜け出した【ソーマ・ファミリア】の多くの冒険者は脱退の意思のある者のの希望を募り、多数の冒険者が離れていき、数名は除籍となった。

 

 そして、【神酒】の摂取後は必ず【解呪酒】を飲むことを契約させた団員のみの【ファミリア】となった。

 

 現在では二世と呼ばれる。親が【ソーマ・ファミリア】だった子供達を預かる施設を造り。そこでは時折、子供たちの様子を眺めながら畑を耕す主神の姿が見られる。

 

 話が逸れたが。そんな事があったので。リリルカが【ダンジョン】に潜り始めたのは結局の所、つい二ヶ月ほど前からだ。

 

 経理や施設の運営など。存外、リリルカの出来る仕事は多かった。

 

 軌道に乗るまで時間がかかってしまったのもあるが、なによりリリルカ自身が現状の改善を軸に動く事に喜びを感じ、希望を持って動けた事が大きい。

 

 かつては何処か恐怖を覚えていた、酒についても、労働の後の自分へのご褒美程度に割り切れたことも精神的に余裕のできる要因になったのかもしれない。

 

 そんなダンジョンで巨大なハンマー『ウォーハンマー』と恩人は言ってたが。鍛冶師の鍛冶用のハンマーをバカデカクしたような形状のハンマーで目の前のモンスターを文字通り叩き潰していく姿は《冒険者》の中でも噂になるほどであり、【ランクアップ】した時の【二つ名】が“主に神々にとって”期待されている人物であるそうだ。

 

「さて。バベルについた事ですし。これから・・・・・・ん?」

 

 リリルカが《バベル》の受付に辿り付きダンジョンに降りる申請をしようとした時、ふと、ある少年が視界に映る。

 

 何処か“純朴そうだが、何処か冷めた視線で、恩人と同じふた振りの剣を腰に差した白髪の兎のような少年”。

 

 その少年が装備の確認をしている所であった。リリルカはその様な《冒険者》の情報を思い出そうとするが、全く記憶にない。おそらく最近になってから、【オラリオ】に来た新人であろう。

 

 しかし、それにしては妙に、気負うことのない態度が違和感となって映る。

 

 まるで、かつての恩人のような少年に興味がわいたので、リリルカは少年に近づき声をかける。

 

「おにいさん、おにいさん。そこの髪の白い、お兄さん」

 

「・・・・・・え? もしかして僕の事ですか?」

 

「おはようございます、そうですよ。白いおにいさん。もしソロなんでしたら、サポーターを雇う気はありませんか?」

 

 これが、【オラリオ】で初めての仲間である少年。ベル・クラネルと、リリルカ・アーデの出会いとなった瞬間であった。

 

 

――――――――――――――

 

 ベル・クラネルはちょっと興奮していた。

 

 少年に有りがちな如何わしい気持ちではなく。初めてソロ以外で【ダンジョン】を攻略する未知に対しての興奮である。

 

 しかも、その相手が可愛い女の子となれば尚更である。前言撤回。邪な気持ちもありました。

 

 しかし、それは仕方のない事だって、ベルは『出会いを求めてきた』のだから。それを神様に伝えると。

 

「ベル君。君の育ての親は悪害だよ。即刻そういう不埒な考えを改めるんだ。今ならまだ間に合う」

 

 実に真顔で言われてしまった程だ・・・・・・解せぬ。

 

 とにかく、そんなベルも目の前の女の子を前にして嬉しくないなんて言えない。その栗色の癖のある髪を揺らしながら歩く少女。リリルカ・アーデと会話しながらも階層を降りていた。

 

「ベル様は【オラリオ】に来て。まだ半年なんですね。【ヘスティア・ファミリア】というファミリアは存じませんが」

 

「うん、団員が僕ひとりだし、まだ出来てまもない【ファミリア】だからね。えっと。リリルカさんが知らないのは仕方ないと思いますよ」

 

「呼び方は、リリで大丈夫ですよ? あとリリの言葉遣いとかはもう癖みたいなものなので。お気になさらないでください」

 

「じゃあ、リリって呼ばせてもらうね。改めてよろしく!

 

「こちらこそ・・・・・・それにしても、ベル様は構えもしっかりしていますけど・・・・・・どなたかに師事を受けられたとか?」

 

「・・・・・・うん・・・・・・ソウダネ。シショウハ、イルヨ?」

 

「・・・・・・ごめんなさい。聞かない方が良さそうですね・・・・・・ベル様、先ほどのリリの発言は忘れてください」

 

 ベル達は臨時のパーティを組んで現在、六層まで降りてきていた。

 

 【ヘスティア・ファミリア】に入って【神の恩恵】を受けたベルが最初に直面した問題。それは【神の恩恵】による、身体能力の上昇によるズレの矯正であった。

 

 本来は【ランクアップ】時に起こる現象では有るらしいが。ベルの場合。事前に鍛えていた技を使うための肉体として調整していた物がいきなりガラッと変わってしまった結果である。

 

 実力の割にというか、調整の為に敢えて慣らしのために低い層での狩りをしていた。

 

 しかし、そんな顕著な行動が担当者のギルド職員のエイナ・チュールに高評価であったなどはベルは知らなかった。

 

 そんな調整も数ヶ月もかかって、先日やっと以前と同じ感覚で身体を動かせる所まできたのだ。

 

 今回はアドバイザーでもあるエイナの許可も経て六層まで進出してきた。

 

 知識も立派な武器になる事を師でもあり。姉のような存在から常々言われ続けた上に最終試験のアレである。この階層のモンスターやマップは既に頭に入っている。

 

 ちなみにこういう殊勝な態度も。ベルの担当者のエイナが第六層への進出を許可した要因になっているとは、ベルは気づいていなかった。

 

 

「ベル様、前方にウォーシャドウが三体います」

 

「任せて、リリ・・・・・・フッ!」

 

 小さく息を吐き、ウォーシャドウの群れに突撃する。

 

 走りながら抜刀し一番前に出ていたウォーシャドウに上段から左手の刀を振り下ろす。

 

 ウォーシャドウの異形の爪がベルの斬撃を受け止める。火花が一瞬、ダンジョンを照らすが即座に腕の力を弱める事で自然に着地し、腰を落とすベル。

 

 上段からの攻撃に気を取られたウォーシャドウの隙だらけの腹部に向け、低い姿勢のまま右手に構えられた刃を体ごと回転させ、振り抜くことで切り裂く。

 

 一瞬にして仲間がやられた事に驚いたのか。ベルの視界の左側の奥のウォーシャドウのスキを逃す訳もない。

 

 腰を落とした状態からの跳躍――背筋を使い両手の剣を大きく振り上げて振り下ろす。

 

 左側のウォーシャドウは混乱している間に。両腕を肩から切り落とされ、流れるような刺突で魔石の部分を即座に突き砕かれ灰になった。

 

「これでっ・・・・・・!」

 

 二体のウォーシャドウを瞬時に倒したが、一瞬、僕の右側のウォーシャドウが視界から消える。

 

 ベルは即座に目で追うと、視界に映るウォーシャドウがナイフのように鋭い爪を振り下ろす瞬間であった。

 

「甘いっ―――んだよ!」

 

 しかし、振り下ろされる爪がベルに触れる直前、“動きが加速する”。掻い潜るようにウォーシャドウの脇をすり抜けた瞬間、反転――

 

 ――斜め下段から巻き上げるように切りつける斬撃が、最後のウォーシャドウを袈裟斬りで倒すのだった。

 

「―――ふぅ、大分慣れてきたかな、リリはだいじょう・・・・・・ぶ?」

 

 ベルがウォーシャドウを下し後ろを振り返ると、そこには先程のウォーシャドウをその手に持つハンマーで吹っ飛ばしているりリルカの姿があった。

 

 ベルの技で戦うとは別の豪快な戦い方にベルは若干の恐怖を感じた。

 

 これは、下手に怒らせたりなんかしたら文字通り潰される。っと、そう思って見るベルの視線に不思議そうな表情を浮かべながらリリルカは慣れた手つきで倒したウォーシャドウから魔石を抜き取っていくのであった。

 

 それから、長針が二回ほど回ったぐらいか、それなりに溜まった魔石を見て。現在休憩中の二人。一息つこうとした矢先の事だった。

 

 ベルの聴覚が違和感を感じた。本当に微かな違和感だ。ふと、ダンジョンの奥に視線を向ける。すると、徐々にその違和感が危機感へと変化する。

 

 すると、その危機感の正体が闇の向こうから姿を現した。咆哮を上げその巨体で地を蹴る音を響かせながら。

 

「ヴォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

「「ミノタウロス!!?」」

 

 ダンジョンの奥から突撃してきた異形の影。二足歩行の人型をした牛の頭を持つのモンスターが、その筋骨隆々な体と四肢を振り動かしコチラへ突っ込んでくる。

 

 明らかに初動が遅れたベル達は視線を交わせ瞬時に逃走ではなく迎撃を選択する。そうなればと、お互いに流れるように武器を構え対峙する。

 

 格上の相手だ。きっと逃げるのが最も正解なのだろう。しかしベルにはそんな気が起こらなかった。

 

 ベルは壁を強く踏み込んで走る。『敏捷』に物を言わせた壁走りでミノタウロスの肩を上から切りつける。

 

 ミノタウロスの肩に赤い筋が生まれるが、明らかに深くない傷に思わず舌打ちをする。

 

 そのままの勢いでミノタウロスの背後に着地しながらベルは吠える。

 

「こっちを見ろ!」

 

 叫ぶベルを追いかけて、首を背後に向けようとしたミノタウロスの横っ腹に衝撃が入った。意識外からの一撃を放ったのは、敵とすら認識していなかったであろうリリルカであった。

 

 隙だらけの腹部を殴りつけたのはリリルカのハンマー。しかし、【ステイタス】の低さまでは隠しきれず。傷つけるほどの威力はでない。明らかな力不足にリリルカの表情が歪む。

 

「ナイス、リリ・・・・・・! てやぁ!」

 

「ブフォォ・・・・・・!? ヴォォォ!!!」

 

 棒立ちのミノタウロスを放っておく訳もなく背後から斬りかかる。手数で勝負と言うかの如く幾多の剣閃が走る。

 

 嘗ての訓練時では最後まで体得できなかった双剣での乱舞が、無防備なミノタウロスの背中を傷つけてゆく。

 

 しかし、どの斬撃もミノタウロスを深手を負わせる物ではなかった。

 

 痛みによる怒りに叫ぶミノタウロス。そのまま、ベルはむしゃらに振り回されたミノタウロスの腕の範囲からどうにか抜け出し、短いながらも鋭いステップでリリルカの場所へと戻り、現状の確認を含めた作戦会議を行う。

 

「どうする? リリ。僕はこのままやり合っても倒しきれるかどうかって思う」

 

「・・・・・・リリも同感です・・・・・・けど、足止めできているのも確かです。時間稼ぎしていればひょっとしたら・・・・・・」

 

 圧倒的な危機的状況。来るかもわからない援軍を期待するが。そんな物を期待できない事ぐらいは二人も理解していた。

 

 「逃げるか?」一瞬湧き出る生の執着が、ベルの中で生まれるが、直ぐに頭を振る。おそらく、自分一人ならば可能ではある。でもリリルカは無理であろう。

 

 それならば。囮になるか?

 

「リリ。僕が囮になる。リリはそのまま地上に戻って助けを呼んできて・・・・・・えっ!?」

 

 ベルは。覚悟を決めリリルカを逃がそうと声をかけようとしたとき。目の前のミノタウロスの頭部が突然爆ぜた。

 

 噴水のように巻き散らかされるドス黒い血が近くにいた、ベル達に雨のように降り注ぐ。

 力を失い崩れ落ちるミノタウロスの背後。恐らく。“蹴りを放ったであろう右脚”を下ろしている狼人の青年がその悪い人相に、バツの悪そうな表情を浮かべながら二人を見下ろしていた。

 

 

――――――――――――――

 

 

アイズ。ヴァレンシュタインは焦っていた。

 

 今回の【ロキ・ファミリア】の遠征の帰り。内容とすれば散々ではあったが、ある『ハンター』の教えもあって敵の特性を見抜き、適切な対処をする事で思っていたよりもに武器への負担が少なかった。死者も無いない。

 

 最悪の結果では無かったのが幸運だと。若干の不満はあったが――そう、思っていた矢先の“突然のミノタウロスの逃亡劇”だ。

 

 いくら、突拍子のない行動であろうと、即座に反応できず。気がつけば、六層まで上がってきてしまった。

 

 明らかにLv.1のステイタスの低い冒険者の狩りをする階層だ。

 ミノタウロスの対処ができるような冒険者でなければ、確実にお陀仏である。割かし冗談抜きで、そもそもミノタウロスのカテゴライズはLv.2なのだ。

 

 Lv.1の冒険者でもランクアップ直前の数名なら倒せるだろうか。そんな期待をするのも間違いであろう。

 

「・・・・・・どこ?」

 

 呟く声がダンジョンに響く、その声に答えた訳ではないだろうかその耳にミノタウロスの雄叫びが届く。

 

 かなり近い。アイズはその音を頼りに駆けていくとソコには兎を思わせるヒューマンの少年と小人族の少女がミノタウロスと対峙している場面であった。

 

 その状況にアイズの中で葛藤が生まれる。彼らは武器を構え戦う意志が見える。コレを横取りするのはマナーに反する。

 

 少しばかり困った。いっそ逃げてくれたら迷わず切り込めるのだが・・・・・・などと、考えていたら兎の少年が動く。

 

 その軌道につい目を見開き驚く。壁を踏みしめ疾走する少年。立体的機動からの両手に構えられた剣がその武器としての使命を果たそうとミノタウロスの肩口に打ち込まれる。

 

(っ!? なんて、綺麗な剣筋・・・・・・それに、体幹もしっかりしてる・・・・・・でも)

 

 少年の太刀筋は、不安定な空中である事を踏まえても異常なほど立っている。アイズ自身も剣士であると自負しているが、どうしても『ステイタス』任せの部分も多い。

 

 腰に差している愛剣でなければ、いつ壊れるかわからない不安を抱えながら戦わざるを得ない。そんな心配を感じさせない剣の使い手であろう、少年に尊敬の念を覚える。

 

 だからこそ、【ステイタス】の低さが結果として出てしまう。

 

(それに、あの小人族の娘も・・・・・・すごく、太くてデカいので殴りかかってる・・・・・・すごい)

 

 後に【ロキ・ファミリア】の【勇者】に「フィン・・・・・・小人族って太くてデッカイものって持てる?」と聞いて、副団長もろとも飲みかけた茶を噴出させる珍事件が発生するが。これは別の話。

 

 ミノタウロスの意識が前の小人族に向いた瞬間を狙って。少年がミノタウロスの背後に斬りかかる。双方の刀から放たれる怒涛の如く放たれる剣線が、その筋肉質な背に赤の線を刻み付ける。

 

 奮闘はしているが、致命傷を与えられない二人、そろそろ助太刀をと思った剣を抜き動こうとした瞬間。

 

「・・・・・・あっ、ベートさん」

 

 違う通路から走ってきた同じ【ファミリア】の仲間がミノタウロスの頭部を蹴り。粉砕した。そして、本当に。本当に小さく「やっちまった」と呟いたのをLv.5の聴力は拾った。

 

 呆然としながら、“なんも考えていなかったかのように血で汚したしまった”眼前の冒険者を見下ろしていた。

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 痛い沈黙。「ベートさんアレは流石にダメ・・・・・・だよ。」と思えるぐらい酷いオチだ。アイズは終わってしまった戦いに不満を覚えながらも三人に近づき、声をかける。

 

「あの・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 そんなアイズの登場にべートの視線が此方へと向く。その視線から「助けを求めている」事が伺えるが、スッと視線を逸らす事で対処する。

 

「この姿をみて、大丈夫だとは言えませんが。実際とても危ない状態だったので助かりました。ありがとうございます。【凶狼】様。リリは【ソーマ・ファミリア】のリリルカ・アーデと申します」

 

「・・・・・・っは! 助けていただいて、ありがとうございます! 僕は【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルです! あの、【凶狼】って【ロキ・ファミリア】のLv.5の・・・・・・」

 

 二人に礼を言われて、やっと正気にもどったベートが、頭を乱暴に掻きながら困ったように唸る。

 

「あー・・・・・・【ロキ・ファミリア】のベート・ローガだ、一応、怪我はねぇか?」

 

(え!? あのベートさんが気を使ってる!?)

 

 驚きで瞳を丸くさせたアイズはベートを驚愕の表情で見る。

 

「いえ、怪我は大丈夫です! ベートさんってすごくお強いんですね! 僕は全然ダメだったのに」

 

「ん? ああ、あのミノタウロスの傷はお前がつけたのか? へぇ・・・・・・雑魚にしてはやるじゃねぇか! お前らLv.はいくつなんだ?」

 

(誰だコイツ!? これがロキがたまに言ってるデレってやつなのかな・・・・・・)

 

 アイズは口に手を当てて、あわわわ・・・・・・としている。『雑魚雑魚言う人がひどく優しくなってる。ちょっと気持ち悪い』などと思われているとは夢にも思っていないベートとベル達の会話は続く。

 

「僕はLv.1です。まだ冒険者になって半年の駆け出しです」

 

「冒険者になって半年・・・・・・だと? それで、ミノタウロスに傷を与えたのか・・・・・・。余計な事しちまった。実は、あのミノタウロスはウチが原因なんだ」

 

「確か【ロキ・ファミリア】は遠征中だったと。リリは記憶しているのですが、何かあったのでしょうか・・・・・・」

 

「詳しくは言えねぇが、あのミノタウロスに関してはウチのミスだ。どの道『ギルド』に報告しねぇといけねぇしな・・・・・・所で。お前ら。ベルとリリルカか。臭せぇ血を浴びせちまって悪かったな・・・・・・さっさとバベルで流してこい。こびり付くと取れねぇぞ?」

 

(ナニ、コノ、オニイチャン? ワタシ、コンナ、ベートサン、シラナイ)

 

 ついに白目を向いて現実逃避をするアイズ。人は極限にまで理解が及ばないものを見ると、意識を失うと聞く。今の彼女の状態が正しくそれである。

 

「では。失礼しますね! ベートさん本当に助けてくれてありがとうございました!」

 

「おう・・・・・・しかし、駆け出しではあるが、骨のある奴だったな・・・・・・おい、アイズ!? どうしたなんで白目むいてるんだ?」

 

 何処か引いた素振りで慌てて声をかけてくるべートの言葉で、アイズは正気に戻る。

 

「・・・・・・・・・・・・はっ!? えっと・・・・・・ベートさん・・・・・・だよね?」

 

「・・・・・・ん? おっ、おう、そうだぞ?」

 

「・・・・・・ベートさんはもう少し空気を読むべき・・・・・・です」

 

「・・・・・・え!?」

 

 そんな『家族』からの意味の分からない辛辣な言葉に訳も分からず混乱するべートを尻目に先程のモフモフの消えた方向を名残惜しそうに見つめるしか出来なかった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ベル・クラネルは身を清めて今日の出来事を振り返っていた。

 

 同じく、血を洗い流したリリルカも一緒に居てる、後は換金所で今日の稼ぎを得るのみだ。

 

「やっぱり、大手の【ファミリア】の幹部はすごいですね。今回はホントに危なかったですねベル様」

 

「そうだね・・・・・・所で、あの初めに声をかけてくれた人・・・・・・大丈夫かな?」

 

「ああ、【剣姫】ですか? なんだか。【凶狼】をみて顔を青くしていましたが・・・・・・なんででしょうね?」

 

「・・・・・・さぁ?」

 

 こんな会話をしながら、二人は換金を済ませ。バベルを出る。今回の儲けは1万4000ヴァリスであった。そんなホクホクな二人。そんな中リリルカが思い出したかのように言う。

 

「そういえば、ベル様は『便利屋』というのをご存知ですか?」  

 

「『便利屋』? いや、しらないかな」

 

「なんでも、依頼してある程度の金銭で動いてくれる人があるみたいですよ。一般の方もよく利用されているらしいですよ」

 

「へぇ~そうなんだ。もし何かあったらお願いしようかな」

 

 そう言いながら歩く二人は、そろそろ区域の分かれ道に差し掛かり別れようとしたその時――

 

「ハンターのおねえちゃん! あそぼー」

 

 『ハンター』?その単語にベルとリリルカは振り返る。そこに居たのは獣人の少女であった。そしてその少女の向かう先をみて、二人は驚く。

 

「「えええ!? パっ・・・・・・パイさん!?」」

 

「おう? あーリリルカもベルもひさしぶりかな? 所で、なんで二人は一緒なのかな?」

 

 自然な動作で少女を肩車した知人である『ハンター』のパイがそこにはいたのだった。

 

・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「ベル様の仰っていた師匠の方とは、パイさんの事だったのですね?」

 

「うん。まさかこんなに早く再開できるとは思ってなかったけどね。パイさんも元気そうで良かったです!」

 

 三人はバベルの前の広場で久々の再会と会話に花を咲かせていた。パイも、まさかベルとリリルカと同時に会えるとは思っていなかったし、それにベルから貴重な情報も聞けた事も良かった。

 

「しかし、【神の恩恵】を受けて、逆に動けなくなるなんてね。リリルカはこれ、どう思うかな?」

 

 パイの言葉にしばし考え込むリリルカ。憶測になりますが――っと前置きをおいてリリルカは自分の考えを語る。

 

「おそらく、ベル様の場合ですと。【恩恵】を“受ける前から十分な技能を習得していた”事が原因なのではないでしょうか? 冒険者は【神の恩恵】を受ける事で『ダンジョン』でモンスターと戦えるようになります。そう言っても過言ではありません。逆に言えば、技とかの技能がなくても、モンスターと戦えるほど肉体が強化される。とも取れます。冒険者によくある、力で叩き伏せるやり方ならともかく、肉体に合わせて馴染ませていく、技を最初から覚えているとすれば? 上級冒険者に有りがちな,【ランクアップ】の身体のズレのようなモノが、ベル様の感覚を狂わせたのではないでしょうか?」

 

「そうなのかな? ベル?」

 

「はい、動きが全然違うんですよ。僕も、今のリリの説明でしっくりと来ました。どうもタイミングが合わなくて・・・・・・結果的に今まで満足にダンジョンに潜ることもできなかったですし。今回も失敗しちゃって・・・・・・」

 

 どうやら、リリルカの考えに問題はなく。ベル自身も自身が思っていたよりも、的確に明確な言葉を言い当てたリリルカに尊敬の念を込めた眼差しを向けている。「やっ、やめてくださいよ」っと恥ずかしそうにそっぽを向くリリルカの様子に思わず。『首を振る』パイ。

 

「リリは頭もいいし観察眼もいいと思うし、素直に褒められるといいかな? 所で、さっき“失敗した”って言ってたけど、ダンジョンで何かあったのかな?」

 

 ベルとリリルカはお互いに顔を見合わせ。今日あったイレギュラーの事を話す。

 

「みのたうろす? それが、なんで上にまできたのかな? 元々十三層からのモンスターなんだよね?」

 

「どうやら、【ロキ・ファミリア】の遠征の帰りに逃げ出したらしいですね。【凶狼】のからの証言なので間違いないでしょう。それにしても。リリのハンマーもベル様の刀でもっても致命傷を与えるのが困難でした・・・・・・ちょっと、悔しいですね」

 

「うん、あの時ベートさん・・・・・・ああ。【凶狼】の方の狼人の方が助けてくれたんです」

 

「そうなんだね。まぁ命あってのなんとやらって言うし。所でベルは何処の【ファミリア】に入ったのかな?」

 

「はい! 僕は今【ヘスティア・ファミリア】に所属しています」

 

「即刻退団することをおすすめするかな?」

 

「「ちょ!? なにゆえ!?」」

 

 いきなりの発言に思わずツッコムベルとリリルカ。「冗談かな」と全然冗談に見えない真顔で言うパイに何故そうなったかはわからないが、ベルは「自分の主神と合わせるときはしっかりと考えてからにしよう」と心に決めた。

 

「えーっと。そういうパイさんはどうしてるんですか?」

 

 話題を変えようとベルが尋ねると複雑そうな表情を見せるパイ。なにかマズイ事を聞いてしまったのだろうかと顔を見合わせるベルとリリルカ。そんな二人に「これは内密にしてくれないかな?」と聞いてくるパイにうなづく二人。

 

「実は、【ミアハ・ファミリア】に所属してるんだけど。まだ『ギルド』には登録してないんだよ・・・・・・理由は・・・・・・ふたりなら察してくれるかな?」

 

「ああ、なるほど。ベル様より遥かに強いパイさんですか・・・・・・なんとなく察しました」

 

「そうですね・・・・・・神様も僕のステイタスを見て常常胃を痛めてましたし。あっ、そういえば青の薬舗で胃薬って売ってます?」

 

「うん、置いてるよ。それでね、入団した当初にちょっと試しにダンジョンに潜ったんだけどね」

 

 パイの言葉にリリルカが即座に反応する。

 

「ちょっと待ってください。パイさん? さきほど、『ギルド』に登録していないと言ってませんでした?」

 

「うん、おかげで主神にも同じ【ファミリア】の仲間にも注意された」

 

「それは、そうですよ。それで・・・・・・どうなったんです」

 

 師の無駄に高い行動力に呆れたベルの言葉にパイは続ける――

 

「その時は全然『ステイタス』が上がらなくてさー、なんだか、腹が立ったからその日の内に食料とかを準備して、三日かけて潜れる所まで潜った」

 

「「なぁにを、やってるんですか貴女はぁ!!」」

 

「聞いて欲しいかな! なんだか最高なロケーションの滝に飛び込んで“ちょっと”は歯ごたえのある奴ら相手に戦って来たのに全然、上がらなかったんだよ! 理不尽かな! 『回復剤』と『研石』の無駄使いだったかな!」

 

 とんでもない行動を起こしていた知人にドン引きしている。ベルとリリルカ。リリルカも知識として知っているが、パイが言う所の滝とは『巨蒼の滝』の事であろう。そして今このバカはこう言った。「飛び込んで」と、記憶が確かなら飛び込んだ先はダンジョンの二七層。それも、飛び込んだ場合生き残ることまずできないはず・・・・・・。きっと、別の滝だろうと無理やり納得するリリルカであった。

 

 ちなみに、この三日間の個人の遠征で【ファミリア】に心配をかけ、ナァーザに本気で泣かれ、温厚なミアハに怒鳴られ。反省したパイがやっと大人しくなるのであった。

 

「というわけで、今は『便利屋』をやってるのかな!」

 

 パイの言葉にあー。っと声を上げるベルとリリルカ。そんな二人は目の前のパイにピッタリで自由そうな『便利屋』という立ち位置に大いに納得する。

 

「っと、ごめんねそろそろ、仕事の続きがあるんだった。じゃあ二人ともなにか雑用とかあったら是非頼ってね! 依頼の投函箱は『青の薬舗』の入口にあるからねー」

 

 そういって駆け出していったパイの姿は雑踏のなかに消えていった。相変わらずな姿に思わず笑うベルとリリルカはお互いに別れの挨拶をしてお互いに帰路につき・・・・・・次の日のこと。

 

 

――――――――――――――

 

 

「あの・・・・・・」

 

 それはーーベルが途轍もなく、男として苦悩しながら起きだす事となった。

 今だ朝日の顔を出し始めた朝の事だった。ロリ巨乳の誘惑に負けず、逃げるようにダンジョンに向かっていると後ろから声をかけられた。ベルが振り返るとそこには薄鈍色の髪の少女が居た。ベルは首を傾げる・・・・・・すると、少女はベルにある物を差し出しながら告げた。

 

「パンツ・・・・・・落としましたよ?」

 

「いくら、うっかりしてるとは自負してるけどそれは無いからね!?」

 

(魔石ならまぁ、ありそうだけどコレはない。しかも僕はトランクス・・・・・・いやいや、何を考えているんだ。)

 

 そう心の中でツッコミながら目の前の純白のブリーフを見る。

 

「ごめんなさい、ちょっとドン引きしちゃって」

 

「いえいえ、こちらこそ驚かせてしまって」

 

(むしろ驚かせる事を優先したんじゃないのか?) 

 

「あの・・・・・・まだ、何か?」

 

「いえ、先ほどのはジョークなんですけどね。コレ落としましたよ?」

 

 そういって純白の布(意味深)をスカートのポケットに入れて取り出したのは・・・・・・魔石であった。

 

「あれ? 本当にうっかりしてたかな・・・・・・すいません、ありがとうございます」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 多分、出し損ねていたやつだったのだろう。リリルカには悪いことをしてしまった。ベルの中で後悔の念が沸いた時――ついでに腹の音もなった。結構な音が静寂の街並みに響き、ベルの顔が赤くなる。

 

「ふふ・・・・・・お腹が空かれているんですね・・・・・・よかったらこれでも・・・・・・」

 

「いえ、僕の主食はじゃが丸君でもいいですけど、ブリーフは主食になりません」

 

 ポケットに手を入れた瞬間にやんわりと断っておく、どんだけブリーフをネタにしたいんだよ。と思っていると、少女は笑顔で「冗談ですよ、少し待っててくださいね」と言って近くのお店に入ってゆく。その店の看板を見ると、そこには『豊穣の女主人』と書かれていた。

 

「お待たせしました。はい、これ、よかったら・・・・・・」

 

 そういって差し出されたバスケットの中にはおいしそうなパンやチーズ・・・・・・と手ぬぐい・・・・・・そう、手ぬぐいだ、けっしてさっきまで少女が持っていた物ではない。

 

「ええっと・・・・・・これ、貴女の朝ごはんじゃないんですか?」

 

「ええ、そうですよ。そして! 貴方がこれを受け取ったら最後、晩御飯をここで食べないといけないのです!」

 

「知ってますか? そういうフラグってのはバッキバキに折る為にあるんですよ」

 

「そんな! 借金は踏み倒すためにある。みたいな切り返しで来るなんて・・・・・・これが、冒険者」

 

 冒険者なのは全然関係ないが、ベルとしてもこれぐらいはしたたかな対応の方が親しみが湧いてくる。

 

「ははは、じゃあ、今日の晩に寄らせていただきますね。僕は、ベル・クラネルといいます・・・・・・あの、貴女は?」

 

「シル・フローヴァですよ・・・・・・ブリー、じゃなかった・・・・・・ベルさん。よろしくお願いしますね」

 

 シルに見送られながらもベルはバスケットを手にダンジョンへと駆けてゆく――そして思った。シルと名乗った少女・・・・・・絶対最後に「ブリーフ」と言おうとした・・・・・・っと。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

 

力  :I 4

 

耐久 :I 1

 

器用 :I 60

 

敏捷 :I 21

 

魔力 :I 3

 

 

 

《スキル》

 

【狩人之心《ヒト狩リ行コウゼ》】

 

 ・モンスターとの戦闘時の【経験値】の取得上昇。

 

 ・パーティを組む事でステイタスの上昇。

 

 ・笛を吹くと体力を微量回復することが出来る。

 

 

【狩猟】

 

 ・ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。

 

【調合】

 

 ・素材と素材を組み合わせることで別の物を作ることができる。

 

 ・一定の確率で【もえないゴミ】を生成する。

 

【】

 

 それは、ベル・クラネルの『ステイタス』であった。恐ろしいぐらいに上がっていない。少なくともヘスティアも理由はわからないらしく、この問題については先送りされているのが現状だ。

 

「なんで上がらないんだろうなぁ・・・・・・よっと」

 

 疑問に思いながらも、今日も六階層でウォーシャドウやフロッグシューターなどを狩ってゆく。ギリギリで回避をしながら切り込んでゆく。そんな、ベルの姿を他者が見れば危険な戦い方と称されるか。勇猛果敢と称されるか・・・・・・とにかく、師である人物の教えの【ブシドー】を多用した戦い方で次々にモンスターを屠ってゆく。一通り倒したあとベルはある事を思い出す。それは自身に発現していた《スキル》【狩猟】である。

 

 【狩猟】。効果は、「ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。」と言うものである。

 

 しかし、経験から発現する可能性の高いのが《スキル》である。ベルはこの様な行動などそんなにした事がない・・・・・・少なくともパイとの修行時に食事の為に野生の獣を狩って解体したぐらいだ。

 

 まさか、その度にパイにせがんで聞かせて貰っていた。『ハンター』の私生活の話・・・・・・その内容の中の“素材”集めに感化され、憧れた結果とは・・・・・・純粋な少年とは恐ろしいものである。

 

「とにかく、ドロップアイテムがもし剥ぎ取れるんだったら・・・・・・」

 

 ゴクリ――っと、生唾を飲んで近くに居る。まだ灰になっていないウォーシャドウに近づき、その爪に刃を当てる。

 

 妙に生々しい感触に不快感を覚えるベルだが、意を決して刃を通してゆく――そして

 

 ~うまくはぎ取れなかった~

 

「・・・・・・うーん」

 

 どうやらやり方が悪かったのか・・・・・・それとも“一定時間”を超えていたのか。

 

「取り敢えず、うまくなるまで練習だよな」

 

 ベルは気を取り直して、ウォーシャドウを探す。その光景を遠目に見ていた、冒険者の後の証言から「白髪の若い冒険者が一心不乱にモンスターの身体を解体している」という一種の怪談話が一部の冒険者の中で伝播したとか、しなかったとか。

 

 多額のヴァリスを持ってホクホクなベルはバベルから出て夕暮れ前の、少し日差しが和らぐ時間帯の【オラリオ】の街を西に向かって歩いていた。結局40体ぐらいのウォーシャドウで試してみたものの、剥ぎ取れたのは一本のみだった。

 

「おや? ベルじゃないかな?」

 

 白髪を揺らし、視線を向けるとそこにはパイが居た。

 

「パイさん、えっと・・・・・・こんにちは・・・・・・こんばんは? ともかく、今仕事の帰りですか?」

 

「そうそう、ところでさベル。この後暇ならさ、一緒に夕飯でもどうかな?」

 

「お誘いですか? えっと、一旦本拠に帰って神様を誘いたいと思ってたんですが・・・・・・あと、場所は僕が選んでもいいですか? ちょっと今日行こうと思っていた所があるので・・・・・・」

 

「うん、そこでいいかな。それにしても・・・・・・神様ってヘスティア? ふふーん? 久方ぶりにあの乳神をいぢるのもいいかなー」

 

 「いじる」ではなく「いぢる」なんとなくニュアンスで理解できたベルだったが、まさか、あんな事になるとはその時のベルは気がつかなかった。

 

 そして、二人の指定は西にある【ヘスティア・ファミリア】へと歩き出すのであった。




ちょっと書きたかった話を書けて良かったです。すいません、文字数一万五千超えました。

感想ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。
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