ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか? 作:あんこう鍋
ゆっくり亀更新と行きたいですが今回は『何を言ってるのかわからないと思いますが』複数話更新しますが、この話が最後に書き終わりました話になります。
ね? わけわからないでしょう?
ベル・クラネルは呆気にとられていた。
ココはオラリオの地下にあるダンジョンである。此処で今のベルのような気の抜けたような表情をしている少年など危機管理の出来ていないなど言われても仕方ないだろう。
しかし――だ、ベルが呆気にとられるのも・・・・・・それこそ、仕方のない事であろう。
「おや、ベルー。こんな所で出会うなんて奇遇かなー」
「そうですね・・・・・・パイさん。それで、一応聞いてもいいですか? なんで。檻に入ってるんです?」
知人。それも師でもある『ハンター』が檻に入っていた。それと同じ物がいくつも繋げられ持ち出されている光景・・・・・・それは【怪物祭《モンスターフィリア》】と呼ばれる、祭りの準備であった。
準備とは、ダンジョンのモンスターを地上に搬送すると言うものでそれには勿論理由がある。
【怪物祭】とは【オラリオ】で一年に一回ある大規模な祭りである。その中で【ガネーシャ・ファミリア】が力を入れているのは都市の中の東にある円形の闘技場で開かられる。モンスターの調教である。
調教師でもある【ファミリア】の団員による、華麗でありながらも手に汗握る展開は見応えがあるらしく。ベルもパイも今だ【オラリオ】に来て少ししか経っていない駆け出し。話には聞くが実物を見たことはない。
そんな、下準備を目撃したベルは物珍しそうに見るだけであっただろう。本来ならばだが、そんな“調教を受ける側の扱いに、なんであんた居るの?”っというベルの視線にパイは見るものをイラッとさせるドヤ顔で返す。
「話せば長くなるから端折るかな。ここより、下層で狩りをして帰ってくると、そこにはなにやら、モンスターを捕獲する怪しげな冒険者達がいたのかな! そして、そんなモンスターを密猟する奴、絶対許さないウーマンな私は、その冒険者達に【アレ】を手に襲いかかったのだ!」
「なるほど・・・・・・そうでしたか。あの、【ガネーシャ・ファミリア】の皆さん! すいません! 本当にすいません!! うちの知人が迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」
「謝るのはまだ早いかな! 【アレ】の一発目を奇跡的に避けた冒険者達との激闘の末。何だかんだで檻の中に詰め込まれて今に至るかな?」
「いっっちばん重要な所をぼかさないでくださいよ! 何やってるんですか! パイさんが全部悪いじゃないですか!?」
馬鹿なのこの人? ベルは多少非常識な人物である事は把握していたがまさか、パイが捕まえられるほどの馬鹿はしないであろうと考えていた――そして、現在目の前で檻に入って「これが捕獲されたモンスターの気分なのかなー」などと、本当に呑気につぶやいている人物は確かに居る訳だ。
パイの語る“なんだかんだ”が実に気になる所ではあるが、それを聞くのは非常にまずい気がした。最低でも“檻に入れられるような”事はしたはずなのだ。
「私は断固として非を認めないかな!」
「認めろよ! そこはさぁ!」
ダンジョンの中で痴話喧嘩を始める二人の事を護衛件搬送をしている【ガネーシャ・ファミリア】の面々もこれには苦笑いを浮かべるしかなかった。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「俺がガネーシャだ!」
「私がハンターかな!」
「おぅれがぁ!! ガネェェェェシャダァァァァ!!」
「わぁたしがァ、ハンターかなぁぁぁ!!」
「「どこから見ても変態なんで止めてもらえます?」」
【アイアム・ガネーシャ】。【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャを象った巨大な建物の股間の部分から入らなければならない実に団員から評判の悪い建物であり【ガネーシャ・ファミリア】の本拠でもある。
檻に今だに入っているパイとしぶしぶだが、ついてきたベルは【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティ・ヴァルマと共に目の前の脳筋丸出しな二人に辛辣な対応をする。
なぜ、こうなったのか。それを説明する必要はないだろう。なにせ、ガネーシャとパイがであって今だに五分も経っていない。つまり、この二人の変人は出会い頭の数瞬で何らかのコンタクトを取り、同調してみせたのだ。まったくもって度し難い。
ガネーシャは顔の上半分を仮面で隠しているにもかかわらず口元だけで満足だと言いたげな笑みを作る。パイも鼻息をフンスっと擬音がつきそうなぐらいに吹いて、とても満足げである。そんな二人に【ファミリア】の団長であるベルとシャクティは疲れたように息を吐いた。
「所で、この檻に入っているのは奇っ怪な服装である・・・・・・人間だと思うが! なぜこうなっているのだ?」
「ああ、それに関しては僕から、実は怪物祭の出し物のモンスターを捕獲している所をこのパイさんが邪魔をしてしまい、その結果この檻に入れられました」
「なるほど! ガネーシャ納得!」
まるで珍獣みたいな扱いではあるが、妙な獣よりもタチの悪い人物であるのがパイという『ハンター』である。最近ではベルも敬意よりもツッコミを優先している。昔よりはいい意味では親しみ、悪い意味では慣れていた。
そもそも、大型のモンスターが当たり前のように居る【大陸】では常に気を張っていないと死の危険性がある。そんな中でアイテムを飲み込むと独特のポージングを行うという、意味を求めてはいけない奇行はどういう事なのか?
そんな、奇行を行う光景を何回も見ているベルからすればその行動は“案外余裕がある”と思えるが実際は回復した分以上にダメージを受ける事も多い。主にそのポージングを取った結果・・・・・・無防備にモンスターの攻撃を受けてではあるが。
「ちょっと待つかな? まるで私が悪いみたいじゃないかな? 私みたいな常識人はなかなかいないかな?」
「ガネーシャ知ってるぞ! 常識のある人はそもそもそんな事を言わない!」
「知ってます? パイさん“常識人”は【火精霊の護布《サラマンダー:ウール》】なしでヘルハウンドの炎を受けて無事では済まないんですよ?」
「んんっ!? クラネルよ、今、君はなんといった?」
「ええっ。言い間違いじゃないですよ? この人、ヘルハウンドの炎を受けて案外平気そうだったんですよ。こっちは心臓が止まるかと思いましたけどね」
それは、昨日の事だった。武器の新調もできて試し切りにダンジョンへと潜ろうと考えていたベル。そんな彼に珍しく付いてきたパイだったが、ある階層まで来た時にパイがベルに話しかける。
「そういえば、ベル。なんか変なもの被ってるけど、それ、なにかな?」
「ああ、これですか? 『火精霊の護布』って言って。炎を防ぐ防具なんですよ」
「火耐性の高い防具って所かな? それで、どこまで行くのかな?」
「そうですね・・・・・・それなら今日は、十三層の入口近くでまず様子見ですかね」
ベルのステイタスではまず行かないような所を素で選んでいる時点でベルの常識も結構狂っているのだが、それを指摘する常識人はこの中にはいない。
「なるほど、わかったかな。つまり、そこでその炎を使ってくるモンスターが出るのかな」
「はい、ヘルハウンドと言うモンスターですけど、知りませんか?」
「ああー、そういえば、嫌な予感がするから出会い頭に叩き切っていたあの犬か・・・・・・なるほどかな」
「毎回思いますけど、パイさんって野生の勘とかすごいですよね・・・・・・」
そんな、会話を挟みつつもたどり着いた十三層。そこで二人を出迎えたのは真っ白い兎であった。
『アルミラージ』。その可愛らしい容姿と好戦的な性質がミスマッチなモンスターである。鼻をヒクヒクと動かし、此方の様子を伺っていた。
「ねぇ、“アルミラージ”さ、あの“ベル”は倒してもいいかな?」
「無理やりすぎるでしょ。その間違い方さぁ、言いたい事はわかるけどさぁ!」
「ハンター式ジョークかな!」
「殴りたい! このドヤ顔!」
この師にこの弟子あり。低次元な言い合いをする二人の冒険者とハンター。最近は『ハンター』つければなんでも通ると思っている節のあるパイ。そんな隙だらけな二人のアルミラージが手斧のような武器を手に襲い掛かる。
しかし、隙だらけに見えたのは一瞬であった。瞬時に切り替え、放たれた矢のように飛び出したベルは、小手に装着された状態の『影刀』を自ら回転する勢いのまま振るう。
鋭い一撃はアルミラージの胴を切り離し、その体は灰へと変わる。
「ああ、ベルがぁ! なんて事をするかな! アルミラージ!」
「あっ・・・・・・そのネタまだ続いていたんですね?」
「・・・・・・むぅ・・・・・・最近ノリが悪いかな・・・・・・」
「はっはっは。なんの事でしょうか?」
むくれるパイに笑顔で返すベル。妙にノリに合わせたらまた酷い目に逢うかもしれないと学習したベルは、引き際を体得したのであった。
そして、そんな二人はお互いに武器を手に持ち構える、そこかしらから聞こえる唸り声に対して獰猛な笑みを浮かべ――突っ込んだ。
その光景を文字で少ない“画材で描くならば”『乱戦の舞踏会』と名をつけるべきか。
お互いにつかず離れず、同じ獲物を扱う上に同じ流派であるベルとパイは間合いも呼吸も知り尽くしている。
故に――背中を任せる事をせず、むしろ、モンスターが背中に狙いをつけた瞬間には片方の剣に切り伏せられている。攻撃こそ最高の防御という言葉があるが、数で押しているはずのモンスター達がたった二人の冒険者に為すすべもなく殲滅させられている。
しかし、どれほどの注意と警戒をしていても起こるのが事故と言うもの、その時もそれは起こった。
パイの死角から、ヘルハウンドの炎が放たれ、その炎にその身を包まれるパイ。
「――ッ!! なっ!? パイさん!!」
「あっつぅ!? クック先生の火球ぐらい熱いかなぁぁぁ!?」
「・・・・・・ええぇ・・・・・・?」
うっかり特性を発揮したベル。他のモンスターの相手で気がつくのが遅れた上に、その時になってベルは気づく。あまりに自然だったので今まで気にしていなかったけど、“火精霊の護布”をパイが装備していない事を・・・・・・。
そして、炎の中に消えたと思われたパイは・・・・・・案外余裕そうでもあった。ごろごろと転がり、炎を消したパイは怒りながら飛び上がり、お返しとばかりにヘルハウンド達を優先して倒してゆく。そして、周りの敵を駆逐したのちパイも怒りながらベルに近づいてくる。
「まったく! この装備は火耐性弱いのかな! 体力の三割持って行かれたかな!」
「いや、なんであの炎を受けてそれで済んでいるんです? しかも三割ってかなり具体的ですね」
「火耐性が弱いの部分はツッコミなしなのかな?」
「あまり重要そうでもなかったので・・・・・・。所でクック先生って誰です?」
「クック先生は【怪鳥《イャンクック》】の事かな・・・・・・なんで先生と呼ばれているのかは実はよく知らないかな」
「怪鳥ですか? 確か。そちらの【大陸】のモンスターでしたよね?」
ベルはそこで考える。つまり、ヘルハウンドの炎ぐらいの攻撃は【大陸】では結構当たり前なのかも知れないと・・・・・・。比較する対象が今ひとつわからないが、ベルの記憶の中でも怪鳥は大型のモンスターの中でも弱い部類のモンスターと聞く。【火竜】と呼ばれるモンスターなどどれほどの物か・・・・・・正しく、人外魔境と言う言葉がしっくりくると思うベルである。
とにかく、それよりも恐ろしいのが目の前の『ハンター』であるだろう。色々と規格外である。日々の冒険者の努力を嘲笑うかの如くブッ飛んだ肉体性能と驚異の耐久性にベルの中で、「やだ、ハンターって怖い」と思えていた。そして、そんな異質な存在に鍛え上げられた存在である自分を“普通”と思っている事がこの少年の幸か不幸か・・・・・・。
「まぁ。ともかく無事で良かったですよ・・・・・・武器の調子もわかりましたし、上の階層に戻ろうと思いますが・・・・・・パイさんはどうします?」
「せっかくここまで来たから。また“ジャンプポイント”に行ってくるかなー」
「好きですねー。では気をつけて、いってらっしゃいー」
「行ってくるかなー」
そう言って、穴へと飛び込んでいくパイを見送り上層へと向かうベル。特に気にもしていないが、後のパイが言う所の“ジャンプポイント”を目にしたとき。ベルの表情が青ざめたのはまた別のお話なのであった。
そして――
「――っと、そういう事がありまして・・・・・・どうしました? ガネーシャ様? シャクティさん?」
ベルが当時の事を語り終えるとガネーシャとシャクティの視線が檻の中にいる“珍獣”へと向く。その視線に不思議そうに小首を傾げるパイ。ベルもそんな二人を不思議そうに見ている。
「ガネーシャ・・・・・・理解不能」
「私もだ・・・・・・これはもう檻で管理した方がいいかもしれないな」
「そんな事いわずに、そろそろ出して欲しいかな―!」
ドン引きしている、群衆の王。ガネーシャとその眷属という珍しい物を見ながらパイは要求を叫ぶ。そんなこんなで怪物祭の準備は進んでゆくのであった。
――――――――――――――
ロキは苦笑いを浮かべていた。
怪物祭、当日・・・・・・彼女の後ろには護衛件デートの相手に選んだアイズがモノつまらさそうに見ている。
そして、ロキの現在座っているイスとテーブルをはさんでいる神物・・・・・・が先程からキャッキャッと・・・・・・まるで乙女の用に話しかけてくる。
「それでね、聞いてロキ。そのパイってのは本当に可愛いのよ! なんだか気まぐれな猫みたいでね、つい――振り向かせてやりたいって思っちゃうのよね」
「フレイヤ・・・・・・あんた。『便利屋』・・・・・・パイの事好きすぎるやろ」
「そうね・・・・・・パイという名の狩人に魅了されちゃったのかしらね」
「おまんが魅了されてどうないすんねん!? なにキリッ! って表情しとんねん。そんなキャラちゃうやろ!」
誰やこいつ。ロキが最近不穏な動きがあるであろうフレイヤに真偽を確かめるため直接出向いたまでは良かったが、なんか少し見ない間に丸くなる所か別神みたいになっている知神の姿に嘆息が漏れる。
「神、ロキよ。溜息をつくと幸せが逃げるらしいですよ」
「逆に、オッタル。おまん、ようこんな惚気話聞いていられんな・・・・・・ウチ、ちょっと疲れてきたわ」
「右から左へ・・・・・・いい言葉ですね」
「聞き流しとんのかーい!」
「ロキ。お腹空いたからじゃが丸君買いに行ってもいい?」
「アイズたんも自由すぎやろ!? せめて護衛してーや!」
もう、グダグダである。本来の目的も果たす事もできずにこのまま終わるのか・・・・・・かつて天界のトリックスターと呼ばれたロキですらもツッコミきれないボケの集団に嫌な汗が流れ落ちる。
「んで。そのパイも気になるけど、狙ってるのもまた別におるんやろ?」
「・・・・・・ええ、そうね。純粋な子よ、とても、その純粋さの中に広がる世界が見えるわ」
「ふぅん・・・・・・やっとマトモな事聞けたわ・・・・・・妙な事はすんなや?」
「あら、“妙な事”って?」
「しらばっくれんな。おまんが勝手するのはいいけどな。ウチらに迷惑かけんな・・・・・・って事や」
「あら、そう? 心に留めておくわ」
言いたいことを終えてロキは、フレイヤの対応に聞こえないぐらいに舌打ちをする。
「・・・・・・まぁ、ええわ。それにしてもや、フレイヤにしては珍しいやないか。“そんだけ固執して”手に入れようとしないってのは」
「そうかもね、でもね・・・・・・手に入れて可愛がるのもいいけど、たまには外で出会うっていうのもいいかもしれないわ・・・・・・そう思っただけよ」
「いうなれば、愛想のいい野良猫みたいなもんか?」
「そういう物ね」
フレイヤがそう言いながら外へ視線を向けるとソコには白い髪をなびかせた少女が駆けていく所であった。
「ごめんなさい、急遽・・・・・・予定ができたわ! いくわよ、オッタル」
「あっ・・・・・・うん、顔で察したわ、『便利屋』によろしくなー」
にやけた顔で飛び出してゆくフレイヤに引きつった笑顔で送り出すロキ、一体、本当にこの短い間にあの女神に何があったのか・・・・・・。
「終わった? じゃあ、じゃが丸君買いに行こ? ロキ」
「あー、そうやな、ほな行こか、アイズたん」
伝票を手にロキが立ち上がる。会計をすませ店を出ると祭りの活気をその身で感じる。現在平和な【オラリオ】だが、その平和が続かない事をロキの勘が告げていた・・・・・・。
――――――――――――――
パイ・ルフィルは怪物祭を楽しんでいた。
娯楽の少ない【大陸】でも祭りとなると、とにかく騒いで、飲んで、食べてが原則である。とくに『ハンター』だと強敵などの村の存亡を懸けた戦いの後などは必ずと言っていいほど村人総出でのお祭りになる。
当たり前の話だが、そんな『ハンター』であるパイも大のお祭り好きである。しかも、【大陸】意外の祭りなんて初めての経験だ。彼女は以上にテンションを上げていた。
じゃが丸君やクレープなどの軽食を口に運びながら回っていると急に誰かに後ろから抱きつかれた。
「むっ!? この感じ痴女・・・・・・じゃないフレイヤさんかな!」
「久しぶりね! パイ! 会いたかったわ」
「久しぶりだな、息災だったか?」
「オッタルさんもお久しぶりかなー、『便利屋』の仕事も順調かな」
ここ二ヶ月逢っていなかった知人に挨拶を交わすパイ。いつもどおりのフード姿のフレイヤにパイは気になった事を聞いてみる。
「ところでさフレイヤさんは外に出るときいつもそんなフードつきの被ってるけど・・・・・・ひょっとしてその下って・・・・・・いつもの痴女イヤシリーズ装備一式なのかな?」
「当たり前のように造語を作らないで貰えるかしら?」
「流石に、それは俺の口からは・・・・・・」
「はぁ・・・・・・察したかな」
「ちょっと! なによ二人とも! いいじゃない、私“美の女神”よ・・・・・・そんなにあの衣装、変?」
パイとオッタルの対応にどんどん自信なさげになってゆき・・・・・・ついには胸の上で両手の人差し指指同士をツンツンと合わせながら涙目になって聞いてくるフレイヤ。
「はっきり言って、裸体こそ真の美だ! とかいう芸術家とそんなに変わらないかな?」
「・・・・・・ほんと?」
「・・・・・・まじかな」
パイの意見に少し思案するフレイヤ。もうちょっと露出の少ない衣装も考えようと思っているとパイが呟く――
「それにしても、怪物祭って言うぐらいだから、こう“街中にモンスター”が出るとかそういうイベントも期待してたかなー」
パイのそんな常識ハズレな一言が“ロキの勘を当たらせる要因”となった。フレイヤの目が好奇の色を帯び、オッタルの表情が苦い物へと変化する。
「・・・・・・じゃあ、パイ、あまり外に居てても困る事になるから、そろそろ行くわね」
「んあ? うん。じゃあね、フレイヤさん、オッタルさんも!」
そして、フレイヤとオッタルと別れたパイはその足で日用品などを売っている屋台が多く立ち並ぶ一角へとつくとそこでも知人に声を掛けられる。
「ハンターのおねえちゃんー」
「おお? どうしたのかな? おチビちゃん。こんな所で」
「お母さんのお手伝いしてるー」
「とても、良い子かなー!」
そこに居たのはいつぞかの依頼人第一号の少女であった。母親の手伝いという事は屋台の番デモしてるのだろうか。
「なら、もう少ししたらまた商品を見に来るかな。しっかりとお母さんのお手伝いがんばるといいかな」
「うん! また来てね!」
「うん、ちゃんと来るかな」
「はーい、お待ちしてまーす」
少女の身体全体を使った手を振る動作に、同じく身体全体を使った『手を振る』で返すパイ。そして、ある程度の区域を見終わった時・・・・・・異変は起こった。
――――――――――――――
アイズ・ヴァレンシュタインは心の中に静かな怒りを覚えていた。
ロキのお願いに付き合ったのはいいが、そこに広がった光景は相手側の主神とのお喋りのみ・・・・・・相手の護衛と何度かアイコンタクトを試みたが、答えは芳しくなかった。
では、向こうが此方の事を蔑ろにしているのかと言えばそうではない。所々に主神の行き過ぎた行いにはキチンと修正する節もあるし、此方の主神に対して礼節を弁えない態度を取る訳でもない。
むしろ、アイズ自身の方がマナーとしては劣っていると自覚できるぐらいには、目の前の“オラリオ最強”を素直な気持ちで見ることができる。
だからこそ、つまらなかった。目の前の“最強”がいる分には何かが起こる事はほぼないだろう。
詰まる所、アイズの怒りは実に子供らしいものであった。“自分に解らない事に巻き込むな”護衛としては正しくない思考ではあるだろう。しかし、敵意のないと解る相手と一緒に居るだけ・・・・・・っというのも割り切れない部分もある・・・・・・故に――
「ロキ。お腹空いたからじゃが丸君買いに行ってもいい?」
そう聞いても問題ないはず・・・・・・しかし、即座にその要求は断られた・・・・・・解せぬ・・・・・・。
その後は、ロキと街を回っていたが・・・・・・そこで異変が起こった。
突然の【オラリオ】へと散りばったモンスタ―。
怒りの理由は“ロキとの時間や、自分の時間を奪う出来事が起こった事ではない”。
「・・・・・・守る!」
“無関係な人々を危険に晒す原因がソコにある”その事がアイズの怒りに火をつけた。
「ロキ・・・・・・」
「ええよ、行きや・・・・・・【ロキ・ファミリア】のアイズたんやったら、すぐ終わるやろ?」
「わかった・・・・・・行ってくるよ、ロキ」
確認を取ると同時に軽く笑いあった二人は、飛び出す側と、身を隠す側で行動を行う。
アイズは、“ダンジョンでは出来ない方法で索敵する。”すなわち、少しでも高い所から視認で索敵を行うと言うものだ。
「見つけた・・・・・・」
つぶやき、先程まで居た闘技場の塔の上から一直線に風を纏って突っ込む。街に溢れたモンスターを愛用の『デスペレート』を振るい瞬時に灰へと変えてゆく。
できるだけ、先程の見える範囲から確認できたモンスターへと、街中を駆け抜け――そして、おそらく最後の一匹――【シルバーバック】を両手に持った対になった二本の黒き刃によって討ち滅ぼした少年と対峙する。
黒き刀を構える少年。ベルは驚いた表情でアイズを見る。アイズもまた、難なくシルバーバック・・・・・・十一層に出るモンスターだ。Lv1でも倒せるし、ミノタウロスの戦いを見たアイズからしても倒せない相手ではないとは踏んでいたが・・・・・・。
「君は・・・・・・また、強くなったんだね」
「アイズさん? すいません。いったいどうなってるんですか? いきなりシルバーバックに襲われちゃったんですけど」
「むっ・・・・・・むしろ、防具もない状態で嬉々として戦いに行くなんて自殺願望でもあるのかい! ベル君!!」
「へ? わわ!? すいません神様! ちょっと考えが足りませんでした!」
「貴女が、ベルの主神なんだね・・・・・・」
「ああ、君はロキの所の【剣姫】だね・・・・・・私はヘスティア。ベル君の、そう。ベル君の主神だよ・・・・・・ムゥ・・・・・・」
「?? あっはい。よろしく。【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインです」
いきなりヘスティアと名乗った女神に軽い敵意を向けられたアイズは当然のよう困惑するが・・・・・・その気持ちも直ぐに切り替える。
「神様! 今すぐここを離れてください! ナニカが来ます!」
「ええっ!? なにかってなんなんだい!?」
「いいから早く!」
ベルの切羽詰った声にヘスティアは一瞬、逡巡したが意を決してその場から離れる為に走り出す。それを後ろ目に確認しながらベルは油断するなく武器を構える。
「なんだと思う? ベル・・・・・・こんなの初めて」
「わかりません。とにかく、頼らせていただきますよ・・・・・・アイズさん」
「まかせて。簡単に並ばせてなんてあげないから」
「「・・・・・・来る!」」
街中に突然・・・・・・なんの脈略も無く突如として空間が歪む。蜃気楼のように揺らめく空間から何かが飛び出してくる――
「なんだ。こいつは!?」
「初めて見るモンスター。ベル、気をつけて」
――そこに出現したモンスター。パイがこの場にいれば「瀕死の逃げ方がすんごく可愛いで有名なモンスターなのかなー」などとコメントが貰える事だろう。
【青熊獣《アオアシラ》】。は突如の景色が変わったなどの環境の変化に戸惑っているが、目の前の自らよりも小さきモノをみて後ずさる・・・・・・。
青熊獣も記憶力が少ない馬鹿ではない。だからこそ知っている。少なくとも小さいモノの白いほうは・・・・・・『ハンター』だ。なんか空気が違うし明らかにその目は“獲物を見る目”である。
狩られる!? 青熊獣は自らの死期を悟った・・・・・・そして、自棄を起こしたように立ち上がり威嚇する。その行動に、未知のモンスターという事で警戒するベルとアイズに青熊獣は「おやっ?」思う・・・・・・。
もしかしたら。生き残れるかも? っと・・・・・・しかし、この個体に生き残れる確率は限りなくゼロであろう。
「じゃあ、狩りましょうか」
「そうだね」
なにしろ、青熊獣が警戒した“ハンター見習い”程度のベルよりも遥かに強い『冒険者』がいるのだから・・・・・・。
――――――――――――――
青熊獣は自らの選択を後悔していた。
此処が何処なのか分からないが。もとより居た所の狩人と同類と呼べるの連中が居る。
現在、全身を切り刻まれ喘ぐような呼吸を取りながらなんとか距離を取ろうとその四肢を懸命に動かしているが・・・・・・。
「まてー、逃がさないぞ!」
青熊獣にとってベルも怖かった。まず此方の攻撃が当たらない。器用に間一髪で此方の一撃を尽く避けてゆくのだ、そして向こうの斬撃はこちらへと少なくない傷を付けてゆく。
それでもまだ、こいつはマシである。傷といえどそれらは深くはない。向こうの奴らに比べればお遊びのレベルだと断言できる。
それでも、斬りつけられ続ければ危険であるのだが――問題はそこではない――
「まてー、モフモフ!」
――そう言いながら、『ハンター』より速く駆けてくるアイズだ。それの斬撃はベルよりも速く、重い。手にする武器が軽いので一撃では致命傷に至らないが、手数が多い。
結果的に言えば威嚇を行った数分後にはこの有様である。そんな事を考えていると目の前にアイズが回り込んでくると剣を収めて手をワキワキと動かし近づいてくる・・・・・・やだ、怖い。
泣きそうになりながらも後ずさる青熊獣はその命を終える瞬間まで恐怖を味合う事となったのだった・・・・・・。
――――――――――――――
ベル・クラネルは頭の中の引っかかっている物を思い出そうとしていた。
目の前に倒れたモンスター。巨大な熊のモンスターだ。そして、それは不思議であった。
「死んでいる・・・・・・よね?」
「ええ、確実に絶命しています。アイズさんの疑問はよくわかります。“なんで灰にならない”のか、ですよね?」
そう、このモンスターは結構なダメージが負っているのに灰にならない。自然交配で独自の生態系を作り上げている地上のモンスターと同じくその身を残している。
つまり、“怪物祭に用意されたダンジョンのモンスターではない?”そして、そこまで考えてベルの中にあった“引っかかり”がなんなのかを思い出す。
「まさか・・・・・・こいつが、青熊獣なのか?」
「あおあしら? ベルは何か知っているの?」
アイズの疑問に対して、確証はないですがっと、前置きを置いてベルはそのまま言うのはマズイと脚色を加えて、パイの世界のモンスターの話をする。
「多分ですが、こいつはこの場所には居ないはずのモンスターです。青い毛の立ち上がると三Mほどの巨大な熊のモンスターで腕を振り回したり。腕を大きく広げて抱きつくような攻撃をしてきます。あとは瀕死になると後ろを仕切りに確認しながら逃げます」
「さっきまでの、このモフモフの行動に酷似しているね・・・・・・なるほど、だから斬りつけても上手く刃が通らなかったのか・・・・・・でも、なんでこんな場所に?」
「そうですね・・・・・・しかし、どうしましょう、これの説明・・・・・・」
「・・・・・・フィンやロキに相談・・・・・・する?」
「・・・・・・お願いします・・・・・・」
とにかく。散々な【怪物祭】になったとため息をついたベルは『ギルド』の職員とヘスティアへ無事である事を示すために手を振るのであった。
――――――――――――――
少女は必死に恐怖と戦っていた。
【怪物祭】の露天の手伝いに来たのはいいが、親の離れている時間帯にソレは起こった。なにやら闘技場の方角が騒がしくなり、何かと思っていると、人々が騒ぎ出す。
「モンスターが逃げ出した。」円形闘技場ではモンスターのテイムが行われている事は少女も知っていたが、それが逃げ出した。つまり、町の中にモンスターが放たれたという事だ。
普通ならば逃げ出すのが正解である。現に周りの露天商なども逃げだしている。
しかし、親から離れ判断が遅れた事が更に少女の身を危険に晒す事になる。
突然に地面の揺れに、思わず物陰に隠れ木材の隙間から外を伺うと・・・・・・ソコには緑色の巨大なモンスターが居た。
そして、それに素手で殴りかかるのは二人のアマゾネスであった。しかし、悲鳴を上げてぶつけた部位を抑える。打撃では有効な攻撃を与えられないのだろう。
早く終わって欲しい一心で隠れ震えていると、頭上の露天の上に何か重たいものが叩きつけれたような音と共に、周りの物を巻き込んだ破壊音が耳に届き・・・・・・思わず悲鳴が上がる。
「・・・・・・えっ!? 子供!?」
「・・・・・・えっ?」
モンスターの攻撃かと思っていたそれは、吹き飛ばされたのか、口元から血を流している痛々しい姿の亜麻色の髪のエルフであった。
困惑を宿した瞳が少女の恐怖を宿した瞳と交わる。
「レフィーヤ! 逃げなさい!」
アマゾネスのティオネが警告を放つが、しかし――
「・・・・・・っ! ダメですティオネさん! 避難できていない子がいるんです!」
「本当、レフィーヤ!? あっ、本当だ!? どうしよう、ティオネ!?」
「なんてこと・・・・・・こんな時に!?」
視界を隠す物がなくなり少女が見つめる先には“先程よりも多くなった”モンスター・・・・・・それも、初めは蛇かと思っていたがどうやら花のようだ・・・・・・恐怖を通り越して冷静になったがそれで身体が動く訳もない。竦む少女身体をレフィーアが覆うように抱きしめる。
せめて、この子だけは・・・・・・悲壮な覚悟が幼いながらも少女にも伝わる。
「・・・・・・けて・・・・・・」
少女の口が自然に紡ぐ言葉、それを耳にして居たのは瞳を閉じて衝撃に耐えようとしているレフィーヤだけであったが、彼女は後に語る――
「助けて・・・・・・! お姉ちゃん!!」
少女の叫びに呼応するかのように遠くから何かが音を立てて走ってくる音を確かにレフィーヤは聞いた。そしてその音は離れること無く近くづきそして――
「まっかせる・・・・・・かなぁぁぁ!!」
何かが頭上を飛び去り、捕食しようとしていたモンスターの触手を切り裂く。一瞬淡い気持ちを持っている女性を思ったレフィーヤだったが、そこにあるのは鮮やかな金色ではなくくすんだ白髪であった。
「・・・・・・ハンターのおねえちゃん!!」
「やぁ! さっきぶり、さぁて、どこのモンスターか知らないけど、この子は私の、この街での一人目の依頼人なのでね、モグモグさせてあげられないかな・・・・・・って訳で後は私達にまかせるかな!」
そう言って、双剣を構える姿のパイに――きっと英雄とはこういう人達の事を言うのだろう。――っとレフィーヤはこの事件の後、語るのであった。
「あれ!? ねぇティオネ。あれってこの間の『豊穣の女主人』にいてた・・・・・・」
「ええ、確か『便利屋』よね・・・・・・『便利屋』! あなた、戦えるの!?」
ティオネの言葉に即座にパイが反応し、匠に双剣を操り、襲い来る触手を切り裂いてゆくが・・・・・・ある程度の位置から前に出ない。そしてその理由もすぐに分かった。背後に守ったレフィーヤと少女を守れる範囲から出られないのだ。
「見ての通りかなー! 所でこれ、どうやって終わらせるつもりだったのかな!?」
「・・・・・・レフィーヤ!? 無理を言うけど動けそう!?」
「ティオネ!?」
「今現状でこの状況をひっくり返す事ができるのはレフィーヤの魔法だけよ!」
「だ、そうかな? 動けそうかな、えっと・・・・・・レフィーヤ」
抱えていた少女の心配そうな瞳に笑みを浮かべフラつきながらも立ち上がる。エルフの少女、その姿にパイも笑みを浮かべ「上等かな」と呟く。
「ティオネさん、ティオナさん、『便利屋』さん。このモンスターは恐らく魔力に反応します! ですのでお願いします! 時間を私にください!」
「「まかせて、レフィーヤ」」
「任されたかな! ぶっ飛ばすといいかな!」
力強い言葉に思わずに笑みが浮かぶ。高揚する気持ちを押さえ込み冷静にこの場を逆転する為の呪文を詠唱してゆく。
「ウィーシェの名のもとに願う 森の先人よ 誇り高き同胞よ 我が声に応じ草原へと来れ 繋ぐ絆 楽宴の契り 円環を廻し舞い踊れ 至れ 妖精の輪 どうか――力を貸し与えてほしい」
【エルフ・リング】。同族の魔法である限り、その仕組みを理解すれば扱う事の出来る凶悪な魔法である。
「いっくぞぉぉ! たぁぁぁぁぁぁ!」
そのレフィーヤの魔力に反応し、更に攻める勢いが強くなる花のモンスターにパイも本気を出す。突然パイの瞳が赤く光り、そのいつもは何処か飄々としている表情も、獣じみた凶悪さを滲みだしている。
【獣宿し【餓狼】】。瞬間的であるが身体能力を高める、パイの動きが驚異的にまで加速する、斬撃も一太刀の間に弐ノ太刀を入れられる程の速く、力強くなってゆく。
「うそ!? あれより更に早くなるの!?」
パイの変化に驚きの声を上げるティオナも触手や軸の部分に打撃を与えながらも時間を稼いでゆく・・・・・・そして――
レフィーヤの周りに風が巻き起こり魔力がその力を抑えこまれる事に異を唱えるかの如く空気を震わせてゆく。
「終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ・・・・・・離れてください皆さん!」
【ウィン・フィンブルヴェトル】。レフィーヤの師であるリヴェリアの魔法であり、強大な威力の広範囲魔法でもある・・・・・・それが前衛で時間を稼いでいた三人が散った瞬間、その牙を解放する。
瞬時に世界が白銀へと姿を変える。一気に気温が下がり、時が凍る。何かにヒビが入ったかのような微かな音は徐々に大きくなり、花型のモンスターの凍りついた身体を粉々に砕いてゆく。
暫しの間警戒するが、どうやらこの敵で最後であったようだ。一気に全員の肩から力が抜ける。
「やったよ、すごかったよ! レフィーヤ!」
「やるじゃない、レフィーヤ」
終わった事に唖然とするレフィーヤに抱きつくティオナとそんな妹に比べて静かに労いの言葉を渡すティオネ。そんな二人に恥ずかしそうに照れた笑顔を浮かべようとしたレフィーヤだったがその前の保護した少女を安全な場所へと、送らないと思いだしその姿を探すと・・・・・・少女は『便利屋』の元に居た。
――――――――――――――
パイは胸元で安心して泣きじゃくる少女をあやしていた。
『ハンター』はあんなモンスターの前にでるなんて日常茶飯事である。あんがいと向こうの【大陸】の住民なども結構遠目ではあるが見る事もあるので、まるで買い物のお願い程度で『大型のモンスター』を狩猟してこいなど言われる訳だが。
しかし、ここは【オラリオ】である『冒険者』もしくは【オラリオ】以外の外での生活経験などなければモンスターを間近で見る機会などないだろう。だから腕の中で泣く少女の“命を危険に晒す恐怖”に対してその反応は当然の物であった。
「おお、よしよしかな! よーく頑張ったかな・・・・・・ん?」
そして、恐怖を身に纏うというのは体力をいつもより多く消費する。安心した少女が睡眠を欲するのは自然な流れであった。パイの腕の中で泣いていると思えば寝息を立てる少女に優しげな笑みが自然に浮かぶパイ。
「あの・・・・・・」
「ああ、レフィーヤ、お疲れ様かな・・・・・・ちょっと待って欲しいかな・・・・・・よいしょ、っと」
少女を赤子を持つように片腕と肩で抱き込んだパイは立ち上がりレフィーヤに向き直る。
「いえ! ・・・・・・あっ・・・・・・此方こそ、お疲れ様でした。ありがとうございます。えっと、すいません。あのお名前は・・・・・・」
「あー、そういえば名前言ってないかな。ごめんかな。私はパイ・ルフィル『ハンター』件『便利屋』やってるかな」
「パイさんですね。私はレフィーヤ・ウィリディス。そのままレフィーヤでいいです」
そういって笑顔になるレフィーヤに釣られて笑うパイ達を遠くから呼ぶ声に皆がその声の方向へ振り返る。
「おーい、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ・・・・・・それにパイもおるんかいな、って、レフィーヤ!? 腹から血ぃ出とるやないか!? 大丈夫かいな!?」
「・・・・・・終わってみたら結構痛いですね・・・・・・」
「ありゃ!? レフィーヤこれ飲んで。ウチで作ったポーションかな・・・・・・その名も『ポーション・グレート』なのかな!」
「え? いいんですか・・・・・・『ポーション・グレート』?」
「別名・・・・・・というか、ただの『ハイ・ポーション』かな・・・・・・」
「はぁ・・・・・・? えっといただきます」
なぜか、悔しそうに『ハイ・ポーション』と言い直すパイに戸惑いながらもレフィーヤはそれを飲み込む。するとみるみるうちに傷が治ってゆく。ちなみに初めて【ミアハ・ファミリア】でパイが製薬成功させた『ハイ・ポーション』だったのだが。
「これは、新しいポーション! その名も『ポーション・グレート』だぁ!」
「パイ、それはもう『ハイ・ポーション』って名前がある」
「・・・・・・ナァーザさん。これは、『ポーション・グレート』なのかなぁ!!」
「パイよ、ナァーザの言う通り、それは『ハイ・ポーション』だぞ」
「ぬぁぁ・・・・・・!?」
それ以来。どうにか『ポーション・グレート』の名を普及しようと頑張っているが、なかなか上手く行かないものである。
『ハンター』の感性はこの世界ではわりかしと厳しいのであった・・・・・・。