ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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とりあえず続けて投稿します。


『唐突な急展開は頭が混乱するのかな?』

 フレイヤは薄暗い部屋に佇んでいた。

 

 バベルの最上階。とある女神のプライベートルームであるその部屋の主は窓から地上を見つめていた。カーテンによって斜陽の遮られた部屋は薄暗く、そこに立つ女性は薄く笑うと踵を返し彫刻の施された椅子へと座る。

 

 その彼女の背後・・・・・・いままで影で隠れていた場所に巨漢の男が現れる。限界まで気配を消した行動は暗殺者の様にも・・・・・・熟練の従者の用にも見える。女性――この部屋の主、フレイヤに従うように静かに佇む【猛者】へとフレイヤは語りかける。

 

「ねぇ・・・・・・オッタル。あの子シルバーバックを相手にしたのでしょう? どうだったかしら?」

 

「・・・・・・私の独断になりますがあの程度の相手では、フレイヤ様の望まれる状況には至らなかったと思います」

 

「それなら・・・・・・どの程度なら良さそうかしら?」

 

「・・・・・・あの者は一度ミノタウロスと戦い打ち倒せずに終わったと聞きます。“殻を破る相手”としては十分かと」

 

「そのあたりは任せるわ・・・・・・私もちょっと動こうかしら・・・・・・」

 

 フレイヤは魅惑を乗せた笑みのまま立ち上がりテーブルに置かれた一冊の本を手にしオッタルと共に部屋を後にする。そして、主のいなくなった部屋に扉が閉じる音が小さく響くのであった。

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 ロキは目の前の持ち込まれた物を見て気が重くなるのを感じていた。

 

 怪物祭での戦闘から少しの時が立ち、被害も殆どなかった事から大きな混乱もなく、【オラリオ】は概ね平和な時間を取り戻していた。

 

 怪物祭の後、パイ、ベル、ヘスティアは合流した【ロキ・ファミリア】の面々と共に彼女らに本拠に招かれていた。弱小ファミリア所属のベルとヘスティアは居心地終わるそうに、同じく弱小ファミリアであるパイはいつもどおりに呑気に鼻歌さえだしている。

 

 通された客間に座ること半刻ぐらいした頃、近づく足音に三人の視線がドアへと向くと底から、【ロキ・ファミリア】の主神であるロキをはじめとする幹部たちと神、ガネーシャが入室し、最後に一体のモンスターの死体が持ち込まれる。

 

「で? アイズたんとベルが倒したっていうこの未知のモンスターな訳やけど、二人と『便利屋』以外に聞くで? ”こんなモンスター見たことあるか?”」

 

「ガネーシャ! こんなモンスター見たことない!」

 

 ガネーシャの言葉を皮切りに他の面々、ファミリアの団長であるフィンをはじめとする、リヴェリア、ガレス、べート、ヒリュテ姉妹・・・・・・そしてそれを運んできたラウルとレフィーヤはそれぞれにこの存在について初見であると語る。

 

「嘘はないなぁ・・・・・・ベルの話やと、『便利屋』・・・・・・いや、パイたんはなんか知っとるらしいけど・・・・・・これ、なんや?」

 

 ロキの視線がパイに向きその瞬間、全員の視線もパイに注がれる。一瞬戸惑うパイであったが直ぐに気を取り直す。

 

「【青熊獣《アオアシラ》】。一応大型のモンスターに分類されているかな、主にユクモの近くの【渓流】で確認されているモンスターで危険度は低いかな。とは言えど・・・・・・」

 

 パイはそこで一旦話を止めて、腰に刺していた『ハンターナイフ』で青熊獣の表面を剥いでゆく。突然の行動に皆が目を剥くが剥ぎ取れた素材を見つめパイは言葉を続ける。

 

「青熊獣の甲殻・・・・・・かぁ、下位の位で良かったかな・・・・・・」

 

「話の腰を折るようで悪いなぁ、一人で納得しとらんでウチらにもわかるように教えてくれへんか?」

 

 パイの行動に焦れたロキが核心を突くように急かす。

 

「あー、ごめんかな。このモンスターは私達の【大陸】のモンスターで間違いないかな。どうして【オラリオ】の街に出てきたかはわからない・・・・・・つまり、同じ事が起こる可能性は十分に考えられるし・・・・・・コレの危険度は底辺である。その情報でいいのかな? ロキさん」

 

 パイの締めに対して、ロキは苦々しく舌打ちをする。事の重大さにフィン達ファミリアの幹部の表情も硬くその中で、ティオナがパイに質問をする。

 

「ねぇー・・・・・・パイは“危険度は底辺”って言ったけどさ・・・・・・それって、あまり考えたくないけどさ、その【大陸】にはもっとやばいのが居るって事?」

 

「んー・・・・・・ティオナの言う“やばい”の意味がどの当たりかわからないけど、こうなったら無関係って訳にも行かないかな・・・・・・説明するから誰か、【ミアハ・ファミリア】に行ってミアハさんとナァーザさん。そして出来れば【ヘファイストス・ファミリア】からヘファイストスさん、椿さん、そしてベルにはヴェルフとリリルカを連れてきて欲しいかな」

 

 異論もなく、各々が行動を開始し、部屋に残ったロキ、ヘスティア、ガネーシャ。そして、フィンを含む数名の幹部はその間にひとつの事を話し合うことにした。

 

「取り敢えず、パイたんが“異質な存在”である事は理解したわ。そのあたりの説明も皆が集まったらやってくれるんやろ? せやから聞きたい事は別のことや・・・・・・おまん、LV.は?」

 

「あっ! それは私も気になってた! ねぇねぇ。パイはLV.はいくつなの? あの植物のモンスターと渡り合ってたぐらいだから4とか5とかあるんじゃないの?」

 

 ロキの質問に乗っかるティオナに少しだけ難しい顔で考え込むパイ。その表情に本来ではマナー違反になるであろうが気になる面々は静かに視線だけで圧をかける。

 

「信じられないと思うかな・・・・・・それでもいいなら聞くがいい! 私のLV.とステイタスの数値を!」

 

 まさかのステイタスまで公開しようとするパイに流石にとリヴェリアが止めようとするが、フィンが視線だけで指示を送りティオネがリヴェリアの口を塞ぐ事でパイの『ステイタス』が白日の下にさらされ・・・・・・それを聞いた全員が呆気に取られる。

 

 

パイ・ルフィル

 

Lv.1

 

 

力  :I 7

 

耐久 :※ ∴?∮

 

器用 :I 4

 

敏捷 :I 9

 

魔力 :I 1

 

 

 

「「「「「「「「・・・・・・低っくぅ!?」」」」」」」

 

 全員が同時にツッコミ。そのツッコミを聞いてパイが崩れ落ち、そして涙目で語る。

 

「聞いて欲しいかなぁ・・・・・・なんでか全然ステイタスが上がらないんだよぉ・・・・・・何度も何度も、ミアハさんと首をひねってやっとこの間、『ギルド』に冒険者登録したんだけどどんだけ下に潜っても全然上がらないんだよぉ・・・・・・」

 

 情けなく泣き出すパイに全員の視線がロキへと向かう、ロキはその額に冷や汗を流しながら呟く。

 

「あっ、うん。嘘はついてないわ・・・・・・」

 

「・・・・・・まじ? ロキ・・・・・・ということはこの子、Lv.1の超低ステイタスであの・・・・・・武器を持っていなかったとは言えど、私達が倒せなかったモンスターを相手に戦ってたってこと?」

 

「今になったら、ティオネ達が何らかの幻覚を見とった・・・・・・って思いたいけど、そういうわけないからし・・・・・・そういう事なんやろうなぁ」

 

「くやしいかなぁ・・・・・・悔しいかなぁ・・・・・・ぐぬぬ・・・・・・」

 

 パイは『落ち込む』と涙を隠すことなくブツブツとなにかをつぶやき、それを可哀想なモノをみる目で残ったメンバーが見つめ、それは外にでたメンバーが全員戻ってくるまで続くのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「失礼。やっと落ち着いたかな・・・・・・とりあえず。集まってくれてありがとうかな!」

 

「突然、ベル様に呼ばれてその場所が此処なのは驚きましたが。パイさんが関与してるならなんでもありな気がしてきましたよ」

 

「トビ子に常識を語ってもな・・・・・・今回は何をやらかしたんだ?」

 

 呆れた表情で言う、リリルカとヴェルフに「今回は私は関係ないかなー」とパイは返事を返すが――

 

「パイ、貴女の場合いろいろとやっちゃってるから信用自体は微妙なのよね」

 

「主神殿の言う通りだな。まぁ、手前としてはお主のような娘は見ていて面白いから好きだがな・・・・・・それと【凶狼】よ。時に武器の調子はどうだ?」

 

 頭痛を抑えるように額に手を当てるヘファイストスと笑いながらそれを肯定する椿はそのままべートへと語りかけ、二、三言ほど言葉を交わすと満足げに下がる。

 

「二人ともちょっとひどいかな! ミアハさんもナァーザさんもなんとか言って欲しいかな!」

 

「私も、ついに“やったかぁ”って諦めてここまで来た・・・・・・パイは自分の行動を自粛するべき」

 

「ナァーザよ・・・・・・よくぞ言った。正直ここに来るまで生きた心地がせんかったぞ」

 

「・・・・・・あれ? 身内に味方がいない気がするのは気のせいかな?」

 

 呼び出された各々の反応に逆に【ロキ・ファミリア】のメンバー全員が軽く引いている。その感じをいち早く察知したパイは軽く咳払いをして全員を見渡し、語る。

 

「まずは、前に話していた【大陸】の説明をするかな」

 

 【大陸】今だに未知の大地が多く、日々多種のモンスターが確認されている世界。パイはソコでの『ハンター』の存在がどのような物か説明してゆく。

 

 時に刺激的な強弱を加え語られる内容と、向こうでのモンスターの被害。そしてそれに立ち向かう(もしくは立ち向かわさせられる)ハンター達・・・・・・その、時にひどすぎる依頼内容に同情的な視線も時に貰いながらもパイの言葉は続く。

 

 この語り部、凄いのが持ち込んだ紙に雑ではあるが妙に迫力のある絵と共にモンスターを描いてゆく事だ・・・・・・それも会話の速度を落とすこと無くである。

 

 ご丁寧にモンスターと――向こうの平均的なハンターの身長――で比較まで書くのでリアルに想像できてしまう当たりも、全員がパイの話に引き込まれる要因となっている。

 

「結局・・・・・・【角竜《ディアボロス》】の猛攻に耐え切れず潰れた砦とか・・・・・・最悪、『覇竜《アカムトルム》』とか『崩竜《ウカムルバス》』とか考えたくないかな・・・・・・あっ、二匹はこんな感じかな。取り敢えず私が見たことのあるモンスターはこんな所かな」

 

 パイがそう締めくくると沈黙が部屋に広がる。ティオナなど頬が引きつっており。レフィーヤなど泣きそうである。

 

「ははっ・・・・・・笑えんわ・・・・・・まったくもって笑えんわ。アイズたん・・・・・・確認するで? このアオアシラってのは一撃で切り落とせんかったんよな?」

 

「・・・・・・うん、すごく変な感じだった。思ったように刃が入らないし・・・・・・それに、パイはさっき下位って言ったよね?」

 

「アイズ・・・・・・怖いことを聞くね・・・・・・それは、上位もあるという事だね。どうなんだい? ルフィル君」

 

 アイズの言葉をフィンが続け、その言葉にパイは重々しく頷きその動作に部屋の空気がさらに重くなる。

 

「アイズとフィンさんの言うとおりかな。私がさっき言ったのも殆が下位のモンスターの話でさらに上位と呼ばれる強力な個体もいるし・・・・・・それこそ、ティオナのいってた“やばい”のなら最上位の『G級』のランク付けされた個体かな。かつて、そのG級の・・・・・・私は見たことがないんだけど、『祖龍』と呼ばれるは『ハンターズギルド』所属の最強ハンターであるG級クラスの3人掛りでも倒しきれなかったらしいよ」

 

「ふふっ・・・・・・そんなものが出てきたらと思うと、ゾッとするね。しかし、こうなると対策ができないな」

 

 フィンの言葉にパイも腕を組み考える。自分の『ハンター』としての質は決して高くない。先ほどの最強の三人とは知人の仲であるが、その能力の高さは嫌というほど見せられている・・・・・・というか体に叩き込まれている。

 

「所で、パイさんはどうしてこのメンバーにその話を? 【ロキ・ファミリア】の皆様は理解できますが。リリやヴェルフ様にする話かと思えば・・・・・・」

 

「ああ、簡単かな。この話は私と近い人間にしかしていないのと、妙に広げると混乱を招くと思ったからかな、リリルカとヴェルフはどちらかといえばそんな状態になった時に避難させたりとか手伝って欲しいからかな」

 

「なるほど、広げる危険性を考えればこの辺りの人脈がせいぜいという訳ですね・・・・・・」

 

 リリルカはパイの説明に納得する。情報を共有する利点とは別に未確認の出来事を想定するというのもなかなかに難しいものである。それが仮定出来る範囲であれば予測もつくが少なくとも規格そのものが“異常”と言える【大陸】とその基準がわからない内は混乱を招くだけである。そして、次にベートが質問をする。

 

「一応聞いておくんだが、お前は向こうじゃどのくらいの強さだったんだ? 今は情報がお前の話と、アイズが狩ったコイツだけだ、基準がわかんねぇもんに対策もクソもねぇだろ」

 

「ベートさんの言い分は正しいかな。一応私は『上位のハンター』にはなったんだけど、まだ上位のモンスターとの戦闘経験は無いかな・・・・・・戦った中でもっとも強いモンスターは【火竜《リオレウス》】で戦いたくない相手は【雷狼竜《ジンオウガ》】かな・・・・・・ベートさん的な言い方だと『ハンター』としては普通の部類かな?」

 

「パイほどの者でそのような扱いなのか・・・・・・ロキよ、どうする? この議題は隠密かつ早急に対処するべき内容かもしれんぞ」

 

「ミアハの言う通りね。動くにしても、保留にするにしても・・・・・・ロキはどう考えているのかしら?」

 

 ミアハとヘファイストスがロキの方に向き訪ね、ロキもそれに頷きながらも考え――そして――

 

「取り敢えず“保留”や、今の所じゃなんとも言えんし、気を張ってもしゃあない・・・・・・おまけに今は怪物祭に出てきた『花』の事もある。お互いに情報の交換を密にしてやった方が今はいいやろ」

 

 ロキの結論にこれ以上の議論は意味をなさない事を感じ、この日は解散となった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 エイナ・チュールは物陰からとある人物を見ていた。

 

 今日は仕事の休みの日であり、調子もいいので街を散策しようと出かけたその先で、現在アドバイザーとして担当している新人冒険者の姿を見かけたのは本当に偶然であった。

 

 ベル・クラネル。ダンジョンの知識も安全管理も素人とは思えない少年であり、玄人たる戦士のような一面と素朴な少年のような純朴さをもった変わった少年である。

 

 エイナの知る限りでは冒険者としての才能はあるようで、『ギルド』の換金所の職員が「たまにパーティー組んでいるといえど、すごい稼ぎを叩き出す時がある。変な噂も“たまに”あるがそれも稼ぎとは違うらしい」とぼやいていたのを思い出す。

 

 (変な噂・・・・・・? あの時は忙しかったからあまり気にしなかったけど・・・・・・それに、隣にいるのって・・・・・・ルフィル氏?)

 

 パイ・ルフィル。最近【ミアハ・ファミリア】から登録された冒険者である。ベルとは比べ物にならない問題児である。『便利屋』なる何でも屋をしながらもダンジョンに大量の食料を持ち込んで篭れば四日ぐらい出てこないとか、なぜか二四階層に居たとか、虚偽の可能性がなければ彼女はレベル1の超がつく程の駆け出しのはず・・・・・・エイナの知る限りではその情報で間違っていないハズだ。

 

 優良児と問題児・・・・・・変な組み合わせにエイナの好奇心は刺激され、二人の会話が聞こえる距離まで隠れながら近づいてみる。少し聞き取りづらいが会話の聞こえる場所まで接近すると、そこで耳を澄ます・・・・・・すると

 

「最近朝の――調子が悪くて ―― パイさんの ―― 忘れられなくて ―― つい ―― ちゃうんですよ」

 

「そうは言うけどベルも満更じゃないかな ―― それにこの間も腰の ―― すごかったかな!」

 

(・・・・・・んっ!? “腰”“すごかった”)

 

「でもたった一発で ―― 僕、情けないです」

 

「大丈夫かな! 私も ―― の時 ―― だったから ―― 攻め方も変えてみるかな?」

 

「ええっ!? あれ以上の事をですか!?」

 

(どれ以上の事を!? えっ・・・・・・ちょっと待って、あの二人何を話しているの? ってかベル君って・・・・・・)

 

 エイナは耳を動かし二人の会話を盗み聞く。そして、耳に届いたその内容に思わず顔が赤くなるのを感じるハメになった。公共の場、それもバベルの下でなんという会話をしているのか。

 

「でも、パイさんは ―― 小さいから狭い ―― それに、あの動きは反則ですよ」

 

「ふははは・・・・・・お姉さんはテクニシャンだからかな! ベルも ―― ミノタウロス級ぐらい時期に慣れるかな」

 

(ミノタウロス級・・・・・・だと!? 時期になれるって事は・・・・・・いやいや、落ち着くのよ、エイナ・・・・・・っというか)

 

「ベル君! ルフィル氏! もうちょっとそういう話は隠れてしてください!」

 

「「・・・・・・はい?」」

 

 そこまで聞いてて我慢できなくなったエイナが隠れていた場所から出てきて、若干大股気味にベル達に近づいてゆく。声を掛けられたパイとベルはなんの事か分からずに困惑を顔に貼り付けながら顔を赤くしたエイナを見る。

 

「おはよう・・・・・・かな? エイナ、どうしたのかな? 今日は休み・・・・・・私服もなかなかかわいいかな」

 

「えっ・・・・・・えっと、ありがとうございます・・・・・・ってそうじゃない! ルフィル氏! なんて如何わしい会話をしているんですか!」

 

「ええっ!? そうだったんですか? パイさん!!?」

 

「おっ・・・・・・おう!? “一発で力尽きてしまうベルに今日は『耐久』を上げる為に”ダンジョンに篭ろうって話をしてただけなのに」

 

 パイの言葉にエイナは更に目くじらを立てて腰に手を添える・・・・・・所謂“お説教モード”になると戸惑う二人へと右手の人差し指を突き出しながら言う。

 

「へっ・・・・・・へぇ~、ベル君って・・・・・・って“耐久”を上げる!? しかもダンジョンの中で・・・・・・ふっ不潔ですよ! ベル君も、まだ若いんだからそんな特殊な・・・・・・」

 

「特殊!? なんの話ですか!? 僕、今は体術をパイさんから教えてもらってるんですが」

 

「体術(意味深)ですって・・・・・・」

 

「ベルは腰を使っての動きとか体幹がしっかりしているから、多少の無理が効くかな、今日も手とり足取り教えていくつもりだったんだけど、なんでエイナは怒ってるのかな?」

 

「ルフィルさん・・・・・・見損ないましたよ! ベル君みたいな純粋な子をそうやって・・・・・・体術(意味深)といい腰使いを手とり足取り教えるとか、もうちょっと慎みという物をですね!」

 

「よくわからないけど、私は狩りの話をしてただけなのかな・・・・・・」

 

「ハンティングするって言いましたね! ベル君への今後の異性への付き合い方に支障がでるような事を担当アドバイザーとして見過ごせません!」

 

「「えっと・・・・・・何の話?」」

 

「・・・・・・えっ?」

 

 噛み合わない会話に眉を八の字にしながら同時に尋ねるパイとベルの対応に熱が一気に冷めたエイナも間の抜けた声を返す。

 

「パイさん。僕たちは確か、「朝の訓練の調子がでなくて、以前のパイさんの“修行での出来事”が忘れられなくて、つい身体が竦んじゃうんですよ」って話でしたよね?」

 

「うん、「そうは言うけどベルも満更じゃないかな、それにこの間も腰の捻りからの回避もすごかったかな!」って返したかな」

 

「ですよね。それで、「でもたった一発で殴られて気絶するなんて僕、情けないです」って返しましたよね?」

 

「そうそう、それから、「大丈夫かな! 私も弱かった頃の時は、気絶とかしょっちゅうだったから。アイツの数増やして更に攻め方も変えてみるかな?」って」

 

「パイさんって結構鬼畜ですよね・・・・・・そして、僕が「ええっ!? あれ以上の事をですか!?」と返してから「でも、パイさんは身長差を跳躍と体術でカバーして攻撃するし。小さいから狭い場所でも動き回れるしそれに、あの動きは反則ですよ」っと続けたんですよね?」

 

「最後は・・・・・・「ふははは・・・・・・お姉さんはテクニシャンだからかな! ベルもステイタスが上がればミノタウロス級ぐらい時期に慣れるかな」って言った所でエイナが来たかな」

 

「・・・・・・あぁぁぁぁぁ~~」

 

 やらかした・・・・・・エイナは羞恥に染まる顔を手のひらで隠しながら地面に膝をつく。全然変な事もない会話をなんという事か。聞き逃した部分が悪すぎた。勝手に悪いように解釈して責め立てるとか・・・・・・穴があったら入りたい気持ちに成りながらも、涙混じりの謝罪を二人にしようとして、ある事に気づく。

 

「勘違いしてごめんなさい・・・・・・! それと・・・・・・ベル君、ルフィル氏・・・・・・なんか“ミノタウロスぐらい時期に慣れる”って・・・・・・日頃ミノタウロスと戦ってるみたいな言い方だけど・・・・・・」

 

 エイナの言葉を聞いた瞬間、パイとベルは同時に「あっ・・・・・・」っと声を漏らす。目の前の『ギルド』のアドバイザー件職員の少女の性格をよく知っている二人は同時にマズイ――っと考えお互いの目を合わせる。

 

 「冒険者は、冒険してはならない」エイナの口癖のような格言であり、常に死と隣り合わせな『冒険者』達を見送り、その帰らぬ姿を見てきた経験が彼女のような心配性でお節介な性格を考えればどうなるか。

 

 少なくとも、以前のような“うほっ、ミノタウロスだらけの修行風景”の事を言えば・・・・・・考えるだけでゾッするような説教が開始される事は必然である。

 

 故に――

 

「そっ・・・・・・そういえば、聞いてくださいよ! パイさん エイナさん。僕“魔法が使えるよう”になりました!」

 

「「・・・・・・ふぁ!?」」

 

 無理やりな話の流れの変える発言のその意味をしっかりと頭に入れたパイとエイナはベルの言葉の後に同時に奇っ怪な声を上げるのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

【魔道書】と言うアイテムがある。

 

 発展アビリティーである『魔導』と『神秘』が発現した者が制作できるアイテムであり、それを読んだものに魔法を強制的に発現させる効果がある。

 

 パイはその話をレフィーヤから聞いて、この世界の不思議さに首をひねっていた。そんな制作の難しさに対して習得の簡単さに疑問を持ったのだ、まぁそのあたりは“自らの感性と知識、なにより努力で戦う狩人の性”故であろう。

 

 まぁ、パイ自身が魔法に対して何も思わないと言えば嘘にはなる。特にまともの見た最初の魔法がかなりのド派手な物であったのも、その理由の一つではあった。

 

 何だかんだで、エイナの追求を避け、彼女と別れたパイとベルはダンジョンをゆっくりと降りていた。現在十一階層、何時も通りの霧がかった変わらぬ風景に少し気を抜いてパイは文句を言う。

 

「ちくしょー! 羨ましいかなぁ!! 怪物祭の時のレフィーヤの魔法を見た時から羨ましかったのに・・・・・・ベルにまで追い越されたかな・・・・・・よし、ベル。もうちょっと下にいこうか?」

 

「いいですよ! 新しい僕の戦い方も見て欲しいですし、喜んで行かせてもらいます!」

 

 こうして二人はさらに下の層へ、強いて言うならばミノタウロスのいる区画まで行き・・・・・・結論だけで言うと、その後ベルの『耐久』や『魔力』がおかしいぐらいに上昇し。何時も通りミイラ男となって帰ってきたベルの姿をみて、いつもの如く怒天髪となったヘスティアとあきれ果てたナァーザから説教を受けるパイが居た。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv1

 

 

力  :E 471 →:B 781

 

耐久 :D 573 →:S 993

 

器用 :F 391 →:B 721

 

敏捷 :E 489 →:S 919

 

魔力 :I 61  →:B 720

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

 ・速攻魔法

 

 

《スキル》

 

【狩人之心《ヒト狩リ行コウゼ》】

 

 ・モンスターとの戦闘時の【経験値】の取得上昇。

 

 ・パーティを組む事でステイタスの上昇。

 

 ・笛を吹くと体力を微量回復することが出来る。

 

 

【狩猟】

 

 ・ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。

 

【調合】

 

 ・素材と素材を組み合わせることで別の物を作ることができる。

 

 ・一定の確率で【もえないゴミ】を生成する。

 

 

【憧憬一途《リアリス・フレーゼ》】

 

 ・早熟する。

 

 ・懸想が続く限り効果持続。

 

 ・懸想の丈による効果向上。

 

 

【牛恐怖症《オックス・フォービア》】

 

 ・牛を見ると震えが止まらなくなる。

 

 ・牛と戦闘時ステイタスが超低下。

 

 ・恐怖を克服した時このスキルは消滅する。

 

 ・スキル消滅時このスキルは変質する。

 

 

 パイは、【ヘスティア・ファミリア】の本拠で青筋を浮かべたヘスティアにベルのステイタスの写しを突きつけられていた。情景一途の部分は流石に消されているが、伸び方を見れば恐ろしさすら感じる上昇の仕方である。

 

 ベルはベッドの上でうわ言のように「牛怖い・・・・・・牛怖い・・・・・・」とブツブツと言っておりよく見れば、微かにだが小刻みに震えている。

 

「これを見てどう思う? ええ? トビ子君」

 

「すごく・・・・・・ステイタスが伸びてるかな」

 

「違う!! そこでもあるけど、そこじゃない! 問題はスキルだよ!」

 

「ベルって好き嫌いはなかったと思うけど・・・・・・次からは牛肉のない場所に誘うことにするかな」

 

 見当違いの返答を返すパイにとうとうヘスティアの怒りが頂点に達した。短いワンピースである事を無視して片足をテーブルの上に乗せてさらにステイタスの写しをパイの顔面につきつけ、叫ぶ。

 

「トビ子君! 君はまたベル君をミノタウロスの群れに突っ込ませただろ!! さぁ吐け! そして何回言わせる気だ! 君は僕の眷属を殺す気かぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「なっ!? なんでミノタウロスだとわかったかな・・・・・・!? ハッ!? まさか、誘導尋問かな??」

 

「パイ・・・・・・牛恐怖症の時点で気づこうよ・・・・・・」

 

「ナァーザさん? あれは牛じゃなくてミノタウロスってモンスターであって・・・・・・」

 

「違う! 外見の問題だよ! 例え筋肉マッチョで、武器を構えてたりカテゴライズがLv2などしても、あれは牛の外見なんだよ! わかるかい?」

 

「でもさーウシタウロス・・・・・・じゃない、ミノタウロスぐらいじゃないともう、ベルの修行相手にならないのかな・・・・・・それより上位の相手だと死ぬかもしれないし」

 

「だからって、一対一とかさぁ・・・・・・あるじゃないか! 別に集団と戦わせなくてもいいじゃないかぁ・・・・・・! 頼むよぅ・・・・・・たったひとりの眷属なんだよぅ・・・・・・いじめないであげてよぉ・・・・・・」

 

 とうとう、ヘスティアが怒りすぎて訳も分からずに、泣き始めてしまう、これにはパイも困ったような表情でナァーザを見る、しかし、ナァーザは直ぐに目をそらしながら言う。

 

「今回もパイが悪い。っというよりもなんで毎回、毎回生きてベルが帰ってこれているのかも不思議で仕方ない・・・・・・普通死ぬよ?」

 

「傍で常に笛を吹いて魔力が尽きかけたらマジックポーション飲ませつつの戦闘だったからかな、ある程度ダメージが蓄積したら助け出して、ポーション飲ませて・・・・・・」

 

「・・・・・・パイって実はベルの事が嫌いとか?」

 

「えっ? なんで?」

 

 キョトンとして真顔で聞き返してくるパイにナァーザは本当に小さくため息をついたのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは呆れ果てていた。

 

 今だに太陽が顔を出していない時間帯、いつもの外壁の東側。久々のパイとの朝稽古・・・・・・しかし、ソコにはパイだけではなくベルの姿もあった。そして、若干憂鬱そうなパイの様子が気になり話を聞いてみたのだが、アイズが思っていたよりもずっと酷い内容につい、同情的な視線をベルへと向けてしまう。

 

「ベル・・・・・・よく五体満足で居てられたね。パイもそんな事ばかりしてたらベルに嫌われるよ」

 

「ははは・・・・・・流石に嫌ったりはしませんけどね・・・・・・しかも、ステイタス自体も上がってるんで文句も言いづらいんですよねェ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

「ちゃーんとその辺りは見極めてやってるかな! 少なくとも私の時のようなひどい事はしてないかな」

 

 こんだけやっといて? っとアイズとベルの頭の中で疑問が膨れるが二人はそれを直ぐに捨てる。この『ハンター』に常識を考えても仕方ない事だし、なによりパイが言う事は基本的に本当の事であり、つまりは“もっとえげつない目を彼女は受けた事がある”ということなのだ。

 

「二人は青熊獣と戦ったことあるよね? 私はねハンターになった瞬間に・・・・・・本当の意味で出来たてホヤホヤの状態でポッケのお兄さんに修行と名ばかりの苦行をさせられたのかな」

 

「「えっと、それって?」」

 

 ベルとアイズが同時に小首をかしげて続きを促すと、その瞬間パイの瞳から光が消えた。

 

「【轟竜《ティガレックス》】と耐久五十分戦闘をさせられたかな。なんでもポッケのお兄さんの因縁の相手らしくてね、お兄さんが専属ハンターになってそんなに経っていない時とか武器がそんなに強くないからか、全部弾き返されて・・・・・・最終的には当時の最先端の武器だった『ガンランス』っていう武器でなんとか倒したらしい・・・・・・そして、コイツの危険度は青熊獣とは比べ物にならないかな」

 

「「明らかに悪意がある気がする!?」」

 

「はっはっはっ・・・・・・いやぁ、一撃でも貰ったら力尽きて気がつけば、ベースキャンプに台車で運ばれてゴミみたいに下ろされてさ、で。いつの間にかお兄さんがソコにいてさ、泣こうが喚こうが首根っこ掴まれて轟竜直行コース・・・・・・しかもさ、【雪山】って寒いんだ・・・・・・特に『ホットドリンク』が無くなった後とかさ、もうガタガタ震えながら涙も鼻水も凍らせながらの修行だったなぁ・・・・・・」

 

 想像しただけで背筋がゾクゾクする内容に、ベルとアイズは肩をすくませる。しかし、パイの話はこれで終わりではなかった。

 

「そうやって、どうにか生きて帰ってきたらね。次はユクモの姉さんが来てね。アイテムの効率のいい使い方を実践だー! って涙と鼻水を流しながら本気で嫌がる私を小脇に抱えて・・・・・・『雷狼竜《ジンオウガ》』のいる【渓流】で・・・・・・うん、あの時は何百回気絶したかなぁ・・・・・・雷が直撃しちゃうと気絶しやすくなるからなぁ・・・・・・へへっ・・・・・・ああ、ちゃんと力尽きたら台車で運んでくれたかな」

 

「あの、パイ。ちなみにその二人は・・・・・・何をしていたの?」

 

「なにも? いや、アドバイスはくれたかな?」

 

「えっ!? アドバイスだけですか? その手伝ってくれたりとか・・・・・・一緒に戦ってくれたりとかは?」

 

「うん。まったく、ポッケのお兄さんは雪山のてっぺんでフルフルベイビーに噛み付かれながら旗立てて、下で戦ってる私にアドバイスくれてたかな」

 

 まったくもって聞いてても訳のわからない状態である。そもそもそのフルフルベイビーというものがわからないベルとアイズだが噛み付くというのが分かったのでろくな物ではあるまい。そしてそんな状態でなぜ旗を掲げる必要があるのか・・・・・・。

 

「そんで、ユクモの姉さんの場合はギルドからちょろまかし・・・・・・貰ってきた大量の支給品を使って狩りをしろって言うんだけどね。やれ、相手の足元まで突っ走って『シビレ罠』セットしろとか、なんでか使わない支給品専用の『音爆弾』と『閃光玉』がごっちゃに入れてるから選んでる間に殴られて気がつけばベースキャンプなんて当たり前・・・・・・少しでも生存率あげようと其の辺の素材かき集めて現地で調合したなぁ・・・・・・『回復剤グレート』とか出来た時は本当に嬉しかったかな・・・・・・ああ、ちなみに姉さんはずっと釣りしてたかな。後ろで雷狼竜から必死に逃げている私をみて笑いながらさ・・・・・・それに、雷狼竜に『シビレ罠』使ったら強化されてゆくんだよね」

 

 そして、続いてのも酷かった。確かにそう考えたらフォローをしっかりしているベルの修行は激甘であると言えた。まぁ、実際の所はポッケの専属ハンター然り、ユクモの専属ハンター然りのかなり“自分基準で行われた悪ふざけであり”実際は新人に対してこんな無茶ぶりをさせられる事はないのが普通であるが、何だかんだで撃退こそ出来なかったが。それ以外の項目をやり遂げてしまったパイについつい調子に乗ってしまった結果なのであった・・・・・・ちなみに彼女の戦闘スタイルは当時の“どう頑張っても武器を振り回すだけでは狩れない”状況から改善策を考えた結果でもある。

 

「まぁ、それを基準にしちゃった私も悪かったかな・・・・・・ヘスティアも泣かしちゃったし、という訳で今日は三人で稽古しようという事にした訳かな!」

 

「ん・・・・・・私達も遠征が近いから頑張る」

 

「そうなんですね・・・・・・よし! ではよろしくお願いします! パイさん、アイズさん!」

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 金属を打ち合わせる音が外壁に響く。

 

 白い髪の少年は両手に握られた双剣を休む間のなく振るい続けている。その振るう先にいる金色の髪の少女は回避と鞘に入ったままの愛剣で時に攻撃を反らしながらも少年の隙が出来た瞬間に容赦なく殴ってゆく。

 

「ぶべらぁ!?」

 

 初日ではあるが、もう軽く10回は殴られ吹き飛ばされている少年――ベルは錐もみに回転しながら硬い外壁の床に叩きつけられ気絶する。そのあと、何事もなかったように同じ白髪の少女と金髪の少女がお互いの剣舞を振るってゆく。

 

 時は経ち、朝焼けすらも見えなかった空は青く澄み渡り、太陽も気がつけば真上に差し掛かっている。時折休憩を挟んでいるとは言えど長時間の戦闘訓練に三人の集中力も途切れを感じるようになっていた。

 

「アイズ、そろそろ休憩しよっか・・・・・・ベルも倒れてるし」

 

「んっ・・・・・・そうだね、ベルもだけど、さらにパイとは戦いにくい・・・・・・」

 

「双剣の強みの手数の多さで誤魔化してるだけかな・・・・・・アイズの魔法とか使われたら普通に負ける可能性は有るかな・・・・・・ベルが目を覚ましたらお昼にしようかな」

 

「じゃが丸君は・・・・・・」

 

「あずきクリーム味が多めにしてあるかな」

 

「流石はパイ・・・・・・ちゃんとわかってる」

 

 表情薄めだが、その中で最上級のホクホク顔のアイズと気絶から数分で起き上がったベルと共に昼食を取る三人は昼食後に軽い眠気を感じていた。思えば朝の早くからの訓練に腹も膨れていて、さらに心地よい陽気と爽やかな風。これほどのお昼寝日和も中々にない。パイは他の二人に提案を出す。

 

「あんまり、やりすぎても逆効果だし、食後にちょっとお昼寝しようかな。どうかな? ベル、アイズ」

 

「いいですね」

 

「いいよ」

 

 パイの提案に二つ返事で返したベルとアイズ。パイとベルはまったく同じ動作で横になり、十秒も経たずに寝息を立てる。

 

「えっ・・・・・・すごく早い」

 

 二人の寝付きの速さにアイズが驚く、アイズ自身も寝付きの良さには密かな自信を持っていたがこの二人ほどではない。しかし、その二つの寝息に一人分の寝息が追加されその刹那の瞬間、アイズは思う。

 

(世の中にはいろんな人がいるんだなぁ・・・・・・)

 

 ――そして、数日後、【ファミリア】のティオナが自分の武器である【大双刃】の借金返済の資金を稼いでいる間も、アイズは自身の剣術の復習を兼ねてソロで中層を目指して進んでいた。

 

 道中、視界を遮る霧と言う特性がでる十一階層の中腹にてアイズは独特な気配を感じた。モンスターの様な敵意でもなくかと言って人間とも言い難い・・・・・・その気配の方向へと視線を向けと、視認出来る距離に怪しげなローブを着た者が立っていた。

 

 見るからに怪しい人物の登場に、自然に手が剣の柄に向かうがそれよりも先にローブの人物が声をかけた。

 

「【剣姫】。君に冒険者依頼を発注したい・・・・・・」

 

 見るからに怪しい風貌でこの様な人目につきにくい環境で接触を図る人物。アイズは既にローブを着た人物を危険な人物としてみていた。

 

 大体、【クエスト】ならば【ギルド】なり、【ファミリア】を通して発注するべき案件である。これが借金でもあれば受けたかもしれないが現在のアイズはそのような枷はない。愛剣の製作者である【ゴブニュ・ファミリア】の担当者も遠征での話を聞いて、“消耗の少なさ”に驚き、同時に珍しく褒めてくれた。ちなみにティオナの【大双刃】に関しては職人の大半が涙を流しながらヤケクソ気味に制作に当たっていた為、つい彼らに同情的な視線を向けてしまったのは内緒である。

 

 若干話がズレてしまったが、とにかく、この様な個人が依頼をしてくる案件は大体二種類の場合がある。“違法性のある場合”か“緊急性のある場合”だ。以前にフィンやリヴェリアから聞いた話によれば、こういう場合は前者が多い。しかし、今回は名指しでの依頼である事を考えれば後者の可能性もある。

 

「依頼の内容による・・・・・・それに、名も名乗らない人を信用できない」

 

 今だにローブを脱ごうとせず佇む人物、顔を見られると困る様な相手なのか・・・・・・アイズの言葉にローブの人物に少し身動きをする。

 

「失礼した。私の名はフェルズ・・・・・・嘗て“賢者”と呼ばれていた愚者さ・・・・・・顔は訳あって見せることはできないが・・・・・・そうだな、では君の主神にこちらの神友であるウラヌスに確認を取るといい、“ギルドにフェルズという人物がいるか”と・・・・・・あっ、それと、このじゃが丸君あずきクリーム味を貰ってくれないか、お近づきの印という事で・・・・・・」

 

 ローブの袖から何故かホカホカと湯気を立てているじゃが丸君を三つ出してくる姿に驚きながらも素直に受け取るアイズ。丁度小腹も空いてきた所なのでありがたく咀嚼してゆく・・・・・・ダンジョンの中で温かい食べ物を食べれる幸せを噛み締めながらも考える。

 

 ウラヌス。『ギルド』を管理する神の名前であると思い出したアイズは一旦、フェルズと名乗った者じゃが丸君の同士の存在に警戒度を下げる。

 

 なにより、あとあと問題のありそうな嘘をつく理由もないだろう、本来ならばフィンかリヴェリア当たりに相談するべき内容ではあるが“緊急性のある場合”ならば時間との勝負になるだろう・・・・・・まずは話を聞いてみる事にしたアイズは、フェルズに問う。

 

「じゃが丸君あずきクリーム味好きな人に悪い人はいない・・・・・・所で依頼の内容を聞いてない、まずはそこから話して・・・・・・」

 

「すまない・・・・・・依頼の内容は二四階層のモンスターの大量発生の原因究明とその解決・・・・・・まずリヴェラの町にある酒場に行って欲しい。そこに“協力者”がいる・・・・・・合言葉は――」

 

 フェルズから聞くべき内容を聞いたアイズは【ファミリア】への連絡と、緊急時の場合を想定して援軍の要請を【ロキ・ファミリア】に伝えて欲しいと、伝言をフェルズに頼むとひとまずは十八階層に向けて駆け出すのであった・・・・・・。 

 

 

――――――――――――――

 

 

 それは“緊急性の高いクエスト”であった。

 

 夜の【渓流】それも人里の近くまで降ってきた【雷狼竜《ジンオウガ》】の狩猟。たまたまユクモ村に滞在していた、ユクモ村専属ハンターの女ハンターは直ぐにその目撃場所まで駆けつけ、その痕跡を辿り目標と対峙していた。

 

「おっと、おお振りな攻撃はこのお姉さんには効かないよー」

 

 雷電を纏いながらその豪腕で叩きつけてくる攻撃を余裕で回避しながらも短槍と勘違いしてしまいそうな矢を弦につがえる。雷狼竜が距離を取ったユクモのハンターへと敵意を向けながら駆けてくる。その様子を眺めながらも弦を引き絞る、ギリギリとしなる弓から放たれた矢はその威力を落とすこと無く雷狼竜の頭部へと直撃し、たまらずに倒れる雷狼竜の姿に慌てることも、油断することなく次の矢をつがえてゆく。

 

「ごめんねー。特に“上位”の素材とか欲しくないけど、村に被害出す訳にもいかないんだよねー」

 

 放たれた矢を無理やり身を起こす事でなんとか回避する雷狼竜は。即座に踵を返すと別の区画へと逃亡を図ろうとする。

 

 あらら。っと攻撃の失敗を呑気に見ていたユクモのハンターも弓を背負い雷狼竜を追おうとするとある事に気がつく。

 

(赤い・・・・・・彗星? なんか不吉ね・・・・・・前に我らの団のハンターも赤い星のある時に、なぜか乱入してきたモンスターが見つからなかったって言ってたし)

 

 闇を照らす月と星の間、ぼんやりと赤い光が浮かんでいるのを見つけた。しかし、目の前の獲物の事に直ぐに思考を切り替え対応しようと雷狼竜へと視線を戻す。そして、彼女が見たのは己の目を疑う光景だった。

 

「ギャワァァァァ!!?」

 

 突如として【渓流】に現れた蜃気楼のような歪み。【砂漠】でないのだからこのような現象など今までの中で見たことがない。なにより、その歪みに雷狼竜が引きずり込まれてたのだ。

 

「―――なっ!?」

 

 突然の異常な光景にすかさずバックステップで雷狼竜・・・・・・及び空間の歪みから身を離し、弓を展開しながらも、すかさず周りを警戒する・・・・・・取り敢えず、目の前の歪みはこれだけのようだ。そして周りの物を手当たり次第に前足で掴もうと――正しく藁にも縋る様な――行動をとる雷狼竜であったが、その抵抗むなしく虚空の彼方へと吸い込まれていった。

 

「・・・・・・なんなの・・・・・・これは」

 

 雷狼竜が吸い込まれていった歪みを見つめつつ、宙に浮かぶ気球に向かって緊急信号を贈る。気球からの返答を確認しながらもユクモのハンターはひとつの可能性を考えていた。

 

 もしかしたら、“例のハンター失踪事件の有力な手がかり”なのかもと・・・・・・だが、突然の事であったために調査隊が【渓流】にたどり着く頃には赤い光も空間の歪みもその姿を消していたのだった。

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