ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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おかしい、こんな話になる予定はなかったんだ・・・・・・どうしてこうなった・・・・・・。

誤字報告とかありがとうございます。


『部位破壊には【破壊王】が一番、なのかな?』

 ルルネ・ルーイは呆然と眼下で行われている戦闘・・・・・・という名の蹂躙を眺めていた。

 

 【剣姫】と呼ばれるアイズ・ヴァレンシュタインの実力もさることながら改めてみる『便利屋』の戦い方も凄まじいものであった。

 

 高速で相手の間合いへと近づき一瞬で切り伏せてゆく。華のある戦い方のアイズと比べると、基本的な動作で切り進んでゆくパイの戦い方はやや泥臭い印象が残る。

 

 だが、問題の本質はそこではない。地上を駆け抜け切り倒してゆくアイズの立ち位置には絶対に入らないパイ。なぜなら彼女は常に立体的な機動を行い戦闘開始から一度も地面に降りていないのだから。

 

 確かに、『敏捷』が上がり、技術さえあれば壁を蹴りながらの立体的機動は可能である。実際短時間であればルルネにも可能だ。しかし、パイの行っている機動はその域を超えていた。

 

 モンスターの体を足場にして低く、長く跳びながらも洗礼された太刀捌きを魅せてゆく。左右の移動も織り交ぜながら決して一定の場所に居続けない。おまけに高さを利用しアイズが取りこぼした空間を優先して襲撃する事で囲まれるリスクを減らしている。

 

 先程までひしめき合う用に大移動を行っていたモンスターの群れも殆どが灰となりその姿が完全になくなるまでたいした時間もかからないだろう。

 

 そして、その予想通り二人は崖になっている絶壁を登ってくる頃には視界に一体のモンスターの影もなかった。

 

「ははっ・・・・・・これは、予想外だよね、そう思うよね? ねぇ、アスフィ?」

 

「いえ、“彼女”であるならばこのぐらいは朝飯前でしょう・・・・・・意外ですか? ルルネ」

 

 団員とは違う『便利屋』を信頼するアスフィの微笑みすら浮かべた言葉にルルネは団長である彼女の言葉に嘘がない事を、それと同時に団員と同等の信頼を『便利屋』に寄せている事に驚く。

 

「なんて言うかさ、アスフィ、あの子の事を特別視してない?」

 

「パイをですか? そうですね。友人としては確かにそのような節があることは認めましょう。ですが戦力としては別ですよ・・・・・・先ほどの戦闘でそれは証明されたと思いますが?」 

 

 現に、パイとアイズがこちらに合流した後の仲間の反応はリヴェラの酒場の時に比べれば雲仙の差であると言え、感嘆の溜息と吐く者も居るほどである。皆がパイを戦力として十分な存在であると認めていることは明らかであり、それは無論のことルルネもその一人である。

 

「言いたい事は理解できます。ですから安心させる言葉を言いましょう。“判断を間違う事はしませんよ”そういう事ですよね?」

 

「・・・・・・うん、ごめんアスフィ。自分でも不安みたいだよ」

 

「道案内、頼みましたよ・・・・・・ルルネ」

 

 ――不安――それは、ダンジョンに入る以上は必ず心の中で発生するものだ。変化する階層毎の雰囲気の違い。高さ等の違いがあれど密閉空間であり、危険を常に警戒し続ける場所である以上は切っても切れない物である。

 

 なにより、ベテランであれど・・・・・・否、ベテランであればあるほどその警戒の強さは比例して上がってゆき、同時にその緊張の抜き方も覚えてゆく。

 

 皆の命を一身に背負うその細い肩にどれほどの重圧があるのか、ルルネには理解しきれないだろうし、理解できるとも思えない。

 

 だからこそ、先程の口から出た言葉がどれほど不用意な発言であったか・・・・・・ルルネは頭を振り持参した地図を広げて眺める。頼まれた任務を遂行する事のみに集中させるのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは無表情ながら嫌悪感を出した表情で目の前の壁を見ていた。

 

 『食料庫』。そう呼ばれる場所がダンジョンには存在し、彼女達がいる場所も本来であらば食料庫に続く場所であった。しかし、その空間は謎の壁に遮られ内部へのモンスターの侵入を拒んでいる。

 

 ――その結果、ダンジョン内での食料を得られなくなったモンスター達による新たなる餌場を求め、それが大群となり冒険者依頼となった。

 

 何より目の前にある壁。明らかに異常であるのが血管のような物が鼓動を繰り返し明らかに質感も生々しい。本当の意味で肉の壁というべき外観に多少、感性に問題のあるアイズでもやや嫌悪感を抱くに十分であり。それ以外のメンバーも“できるなら近づきたくない”と言いたげな表情を浮かべている。

 

「ねえっ・・・・・・本当に、あれの中に行くのかな・・・・・・」

 

 真っ先に壁に切り込みをかけ内部に続く道を発見したパイだが、その後すぐに閉じられた穴をみて嫌そうな表情をアイズや【ヘルメス・ファミリア】の面々に見せている。

 

「気持ちは本当によくわかります・・・・・・ですが、この先に今回の異常事態の原因がある可能性が極めて高く・・・・・・進まなければならないかと・・・・・・」

 

 生理的に受け付け難い肉の壁に冷や汗を浮かべたアスフィが硬い表情のまま告げる。その言葉に全員が重々しい雰囲気を醸し出し、その後、全員の視線がルルネに注がれる。

 

「・・・・・・本当に申し訳ありません・・・・・・」

 

「まぁ、こんな事態になるとも思ってもいなかったみたいだしね! ルルネを責めるのもちょっと違うと思うかな! しかし、これ生き物なのかなぁ?」

 

 ダンジョン内で土下座して謝るルルネ。そんな空気を払拭しようと明るい声を出すパイだが、目の前の壁について素直な疑問を口に出す。

 

「今までこんなの見たことないけど・・・・・・ひょっとしたら・・・・・・ティオネ達の言ってた“花”の関係かもしれない」

 

「花? ああ、ルルネが【怒蛇】に深層のモンスターを睨みつけるような眼光で睨まれた時に、戦っていたモンスターですね?」

 

「つまり、これ生き物判定でいいってことかな? ねぇねぇ、なら試したいことあるんだけどやっていいかな?」

 

 パイの提案に軽く頷くアスフィ。パイは恐る恐るといった動作で近づき、腰の左にあるポーチから危険物を取り出す。

 

 取り出された危険物を肉の壁に近づけると・・・・・・壁の方が危険物から逃げるように歪に歪む。さらに近づけるとさらに奥の方に、奥の方にと移動してゆく。その様子を見ていた面々・・・・・・【ヘルメス・ファミリア】のメンバーは不思議そうに。アイズは妙に納得したように顎に手を添えて見守っている。

 

 そんな肉の壁も、もう限界だと言いたげに危険物という名の『こやし玉』からこれ以上は離れられないと悟ったのか。大きな穴を創りだす。その光景にパイを除く全員がドン引きしており、結果的に通路を作ったパイはドヤ顔を晒しながら戻ってくる。

 

「やっぱりアレは生き物みたいかな! 『こやし玉』からは逃げられないのかなー!」

 

「ええっ? こやし? ・・・・・・おかげで何も消費せずに進めるのはありがたいですが・・・・・・パイ、他にやり方はなかったのですか?」

 

「投げちゃうと炸裂するから、コレが一番いい方法だとおもうかな?」

 

「そうですね。炸裂は実にまずいですね・・・・・・では中に進みましょうか」

 

 今だ入口で精神衛生上悪そうな匂いを感じながら入りたくはない。アスフィはパイの理性に安心し緊張を解す為に息を吐く。やり方は実にアレだが最後の良心だと思えば納得も行く。

 

 危険物を元の位置に戻しながらついてくるパイ。しかしアスフィは知らなかった。この後その“危険物”が文字通り炸裂することになる事を・・・・・・。

 

 

――――――――――――――

 

 

 レフィーヤ・ウィリディスは精神的な面で疲れきっていた。

 

 場所はリヴェラと呼ばれる冒険者達で作られたダンジョン十八階層にある町である。ダンジョンと言う危険な場所にある為、物価が異常に高く、よほどの経済的に余裕があるか立ち寄らざるを得ない場合を除いては利用する冒険者ぐらいのものであろう。おまけに安全圏と呼ばれる十八階層でもモンスターが居ない訳では無く。たまに、襲撃を受けて壊滅するたびに作り直されている、実に雑草みたいな根性を有した町である。

 

 そんな街の中で溜息をつく。彼女、レフィーヤは自分自身が自信を持てない気質である事は自他共に認識されているレフィーヤだったが、それでも才能があったので『冒険者』としてもLv.3と、それなりに成長しているという自負は持っている。

 

 しかし、明らかに足りない物を追いかけているというのも事実であり、不安を感じる事も多々あるし、何よりも・・・・・・コミュニケーション能力に関しての自信などこの短期間の間で最早ポキポキと折れまくっていた。

 

 地上の建物に比べて大雑把な作りの建物が多く並ぶ場所の一角。そこには眼帯で悪人面の男がその顔に凶悪な笑みを乗せて居る所だ。その男の名はボールスと言う。このリヴェラの街の頭目であるLv.3の冒険者である。ちなみに彼としては普通に笑っているだけなのだが、レフィーヤとしても明らかに威嚇の類にしか受け取れずに、苦笑いを浮かべている。

 

「【剣姫】? 確か【剣姫】の情報だったよな? それだったら確か二十五階層に向かうとかで今から少し前ぐらいに個々から下層に向けて進んでいったぞ?」

 

 最近とある人物の要求に疲れきったボールスからの情報に、レフィーヤは素直に頭を下げて礼を言う。そのレフィーヤの態度にボールスは「やっぱり、このぐらい可愛げのある奴のほうがいいよなぁ」っと一人つぶやいている。その言葉を不思議そうに聞きながらも他の情報を集めているであろう二人のパーティーメンバーを探す。

 

 建物が密集している辺りから少し離れた場所には既に二人のメンバーの姿があり、その二人の明らかに険悪な雰囲気にレフィーヤは自らの気分が落ち込むのを感じた。

 

 理由は、現在の臨時パーティーの空気の悪さだ。【凶狼】べート・ローガと【白巫女】のフィルヴィス・シャリアのお互いの塩対応がレフィーヤの胃を痛ませていた。はっきりと言って相性最悪、このままではアイズの救援に着くまでにストレスで倒れかねない状態であった。

 

「はぁ・・・・・・こんな時“パイさん”ならどうするんでしょう・・・・・・」

 

 明るい笑顔の自称『ハンター』の『便利屋』の顔を思い出そうとする辺りが自信の無さを増長させているのだが彼女はそれに気づいていない。

 

「・・・・・・いま、パイと言ったか? もしかしてウィリディスはアイツと知り合いなのか?」

 

「おい、【白巫女】。今会話に出てきた『便利屋』とは関わらねぇほうがいいぞ、いろいろと、主に精神衛生上な意味でな」

 

「ベートさん! 流石にそれは失礼ですよ! そりゃあ・・・・・・この間の一件は災難だったと思いますけど・・・・・・」

 

「それは、噂の“【凶狼】が幼女の乗り物になった”っというやつか?」

 

 それは不幸な事件であった。詳しくは割愛するが、とある獣人の少女が探している『ハンター』の捜索に(無理やりと言う名の脅し)付き合わされたベートの姿が噂となっていたと言うものだ。

 

「あー・・・・・・それで合ってる。あのチビ、「探すの手伝ってくれなかったら【凶狼】はか弱い子供に吠える人だ」って街中に言いふらすとか言われてな・・・・・・流石に世間帯が悪すぎるだろ?」

 

「むしろ、その子供もかなりの度胸があるように思えるな」

 

「アハハ・・・・・・そうですね・・・・・・所で、フィルヴィスさんもパイさんをご存知なのですか?」

 

「・・・・・・ああ。二人共、もう知っている事だろうが、私の二つ名【白巫女】よりも有名な二つ名がある、【死妖精】などと言う名のほうが通りがいいほどだ。そんな訳で、基本ソロでの活動を主にしていたのだが、そんな時にアイツに出会ったんだ」

 

 街を出て、ボールスからのアイズの目撃情報を頼りにダンジョンを進む途中で出てきた“気になる”情報についてはヤブヘビになりそうなので二人共スルーしている、そんなちょっと可哀想なフィルヴィスの話を聞いていたベートとレフィーヤだがその内容はパイが関わっているとひと目で分かるものであった。

 

「初めて出会ったのはダンジョンの十九層だったか、『冒険者』を長くしている者であれば私の姿を見て近づかないのが普通だ。しかし、アイツは私に・・・・・・裏表のない笑顔のまま近づいてきた、警戒していた私になんて言ったと思う?」

 

「予想外な事ばかりする奴だからな、検討もつかないぜ」

 

「え~っと。わかりません・・・・・・」

 

「アイツの評価について気になってきたが・・・・・・まぁ。正解は「黒髪エルフさんなのかなー!」だ。流石に虚を突かれたような気分だったよ」

 

「「あ~、言いそう・・・・・・」」

 

 ベートとレフィーヤが同時につぶやきながら頷く。妙に奇っ怪な行動が多いが為に至って普通に近い会話を直ぐに連想できなくなっている辺り、この二人も『ハンター』に毒されている。

 

「話を続けよう。それで、話してみれば“私の噂”も知らないような奴だと分かってな。共に行動する理由も無いし、適当に別れようと思ったのだが」

 

「どうせ、あの『便利屋』の事だ、ちょかちょか着いてきたんじゃねぇか?」

 

「よくわかったな【凶狼】。その通りだ。とは言えど私も疎まれる時期が長かったからかな、少し事情の知らない他人との会話を喜んでしまったのだよ」

 

「それじゃあフィルヴィスさんとしてはいい話じゃないですか?」

 

 フィルヴィスの話に耳をピコピコと上下に動かしつつ尋ねるレフィーヤ。ベートも口には出さないものの表情を不思議そうにしている。

 

「まぁ、とは言えどだ・・・・・・【死妖精】なんて異名を持っている身だ。何が原因で他者に迷惑をかけるかわからん。話しながらその辺の事情を伝えたのだが・・・・・・なぁ」

 

「え~っと・・・・・・それで、パイさんはなんと?」

 

 その時の事を思い出したのか、理解しがたいモノを無理やりでも理解しようとするように、眉間に浮かんだ皺を指で解しているフィルヴィス。そんな彼女の表情に“どうせまた変な事を言ったんだろうな”っと思いながらも続きを促すレフィーヤに少し時間を開けてフィルヴィスは語る。

 

「うん・・・・・・アイツが言うにはな『大丈夫かな! 『死妖精』か『死神』かしらないけど、そういう時は自分と仲間がピンチの時に『俺は死神なんかじゃねぇぇぇ!』って叫びながら敵に突撃したらそんな噂もなくなるかな!』っと言われてな、今の当時もどう反応すればよかったのか・・・・・・」

 

「ピンチになってる時点でかなり詰んでいると思うのは俺だけか?」

 

「私もそう思います、ベートさん。しかも、行動が“突撃”一択というのも、悪意すら感じますね」

 

「やはり二人もそう思うか・・・・・・私も、初めは馬鹿にされているか、タチの悪い冗談かと思ったのだが・・・・・・あの笑顔で言われるとな」

 

「「「あれで、真面目に言ってるんだろうなぁ・・・・・・」」」

 

 疲れたようにため息を吐く三人、中々に奇行を繰り返すという共通の認識を持たれた『ハンター』の姿を思い出し、そのまま気分を変える為に会話を切り替えるフィルヴィス。

 

「しかし、そんなピンチになる可能性もある以上、互いに出来る事を確認しておくのもいいかもな・・・・・・【凶狼】の能力ついては聞くまでもないか、私は防壁系の魔法を使用可能だ。平行詠唱もできるので盾役としても使える」

 

「えっ!? フィルヴィスさん平行詠唱ができるんですか!? すごいです! 私も練習はしているんですけど感覚が掴めなくて・・・・・・」

 

平行詠唱とは詠唱を行いながら同時に行動を行う多重思考の技能である。魔術師であるならば必ず取得しておきたい技能であり、詠唱という集中している間の無防備な魔術師にとって、上を目指すには切っては切れない技でもある。

 

 フィルヴィスの様な前衛を担当する魔法剣士タイプなどにも平行詠唱を習得している者は多く、長文による詠唱を近接戦闘時などにも発動できる利点は大きい。

 

「慣れだと言いたいが、結局は思考を並列化する幅を狭めてやれば自然に出来るようになる。例えば、純粋な魔道士のタイプならいっそ回避と詠唱のみに徹すれば時期にできるようになるだろう・・・・・・もし、嫌でなければ暇な時に練習に付き合おうか?」

 

「いいんですか! 嬉しいです」

 

 満面の笑顔で感謝するレフィーヤに面食らった顔をするフィルヴィス。そんな彼女の表情に微かに皮肉げな笑みを浮かべたベートが若干茶化した様な口調で話しかける。

 

「はん、そいつは平行詠唱で苦戦してる程度だからな・・・・・・まっ、強くなるに越したことねぇからな」

 

 そのベートの言葉にレフィーヤとフィルヴィスは目を見開いてベートを眺める。なんとなく言いたい事がわかったベートは頬を掻きながら付け足すように言葉を続ける。

 

「・・・・・・っけ、バカ面晒してんじゃねーよ。“雑魚”が努力するって言うなら俺も何も言わねぇよ」

 

 共通の知り合いという話題に知らず知らずのうちに花が咲き。気がつく頃には当初のギスギスした雰囲気は霧散し、照れている仲間の姿に表情が緩むのを感じながらレフィーヤ達は更に行軍の速度を早め、アイズとの合流を急ぐのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 レヴァスは一時期正気を失っていた。

 

 血に汚れた拳と、原型をとどめていないが目の前のジャガイモみたいな顔面の男は多分オリヴァスだろう。

 

 状況から考えても、オリヴァスに暴行を行い、この様な様にしたのは明らかに自分である。ではなぜこのような状況になったのか・・・・・・少し、冷静になって思い返す。

 

 そして胸元の感覚、しいていうなら衣類のズレを感じた瞬間全てを思い出す。

 

 これは数分前のことだ、冒険者の到着と共に迎撃を開始しようとしたレヴァスはそこに求めていた人物が居ることを肌で感じていた。

 

 とはいえ計画は最終段階である。オリヴァスにこの場所の守護を任せ、レヴェスは一人侵入者のもとへ急ごうとするが・・・・・・そこに待ったをかけたのがオリヴァスであった。

 

「まて、どこに行くつもりだ?」

 

「一人、高Lv.の冒険者がいる。そいつは私の獲物だ」

 

 視線が交差したのは一瞬、ふんっーーっと鼻を鳴らして最初に視線を外したのはオリヴァスであった。

 

 そして、無警戒にアイズのもとへ行こうとするレヴァス・・・・・・そんな彼女をチラリと見たオリヴァスは考える。

 

 この状況、おそらくレヴァスが向かう先で高Lv.の冒険者との戦闘が起こるのは必然であろう。つまり、最悪レヴァスがこの後、斃される可能性もある訳である。

 

 このまま黙って見送ればいいのに、先日の局部の部位破壊の恐怖から、オリヴァスの脳内のネジは緩んでいた。正確に言えば良識的判断に対しての選択能力が著しく低下していた。

 

 結果。後ろから胸部を鷲掴みにきたオリヴァス・・・・・・を殺意に満ちた目で睨みつけるレヴァスという構図となった訳であり、殺意の波動に目覚めた様な視線を向けてくるレヴァスにオリヴァスが指を動かしながらも真面目な顔で弁明の言葉を紡ぐ。

 

「違う。待て、落ち着くんだ。ほら、それって強者と戦いに行く奴だろ? 所謂所の死亡フラグだろ? せめてお前の身に何か起こる前にその巨乳を一回でもいいから味わっておきたいと言うのは・・・・・・ほら、男として当然だろ!?」

 

 最後の最後で“はっちゃけた”オリヴァスの弁護になっていない自己弁護に・・・・・・レヴァスの堪忍袋がついに切れた・・・・・・。

 

 そして冒頭に戻る。これまでのストレスをすべて怒り変えて殴りつけた結果が目の前のジャガイモ男である。しかし、これに関してレヴァスを咎めることは出来まい。周りにいるオリヴァスの取り巻きのような連中も同情的な視線をレヴァスに送っている。

 

「すまん。行ってくる」

 

 どこか清々しさすら感じる笑顔で飛び出してゆく、レヴァスの姿を見送りボコボコにされた仲間を見る。しかし、誰ひとりとして介抱することなく時は流れ。 

 

 しばらくすると、その時は来た。この場所の入口に複数の影を見つけた一人が合図を出す。その合図に闇派閥として戦いの時が来たことを知る。

 

 自業自得な行いで戦闘前に気絶している一人を除いて、彼らの己の戦場へと進むのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 アスフィ・アル・アンドロメダを含む【ヘルメス・ファミリア】は窮地に立たされていた。

 

 肉の壁を抜け、慎重に奥地を目指して進んでいた一行だが突如として起こった落盤によってたまたま先を歩いていたアイズと分断してしまう。

 

 そして、それを見越したかのように出現した食人花の大群に襲撃を受けアイズとの合流を果たせぬまま先に進む事となる。

 

 肉壁に囲まれた空間で未知のモンスターに襲われる。その状況は精神を摩耗させるに十分であった。

 

「【剣姫】と分断されたのは痛いですね・・・・・・パイ、すいませんが期待させていただきますよ」

 

 アスフィの切迫した表情と共に言われた言葉に頷くパイ。パイ自身は現状の状況でもほとんど消耗する事なく食人花を単騎で屠っており、【ヘルメス・ファミリア】も陣形を乱すことなく戦えており、負傷者も出ていない。

 

「アスフィ。こんな状態だから信憑性は微妙だと思うんだけど、本来の地図と照らし合わせたらこの先が食料庫になるはずだよ」

 

 ルルネがそう告げ、手に持っている用紙をアスフィに提示する。その地図といままで通ってきた道を照らし合わせたアスフィは、ルルネの判断に間違いがないことを確認した後にメンバーに注意を促す。

 

 そして、たどり着いた食料庫にて異常な光景を見る事となる。

 

 天井はほかの道に比べるとやや高く、広い。奥に存在する食料庫と呼ばれる柱には本来ではありえない、鱗のようにも見える文様を持った蔦が巻きついており、その蔦が巻かれた食料庫の中央、遠目では確認が取れないが翡翠色の宝玉のような物が埋め込まれている。

 

 まるで、その宝玉と蔦が食料庫の栄養を吸い取っているのかのようだと、誰もがその異質さが目立つ空間に浮き足立つ。

 

「待っていたぞ冒険者・・・・・・」

 

 さらに、その場所に現れた灰色のローブを着込み、何かの動物の骨を仮面の代わりに被った者達。アスフィの中で【闇派閥】の名が思い出され。コレが想定を超えた状況である事に気づく。

 

 合図を出さずに散開する【闇派閥】と思わしき敵の動きに各自が対応し応戦してゆく。食人花も【闇派閥】から調律を受けているのか、アスフィ達の陣営のみに襲いかかってくる。

 

 どうにか最初の襲撃をいなして体制を立て直そうとしたその時、アスフィが前に出る。闇派閥の冒険者の一人を地面に叩きつけ、その身体を拘束させる為に腕をひねり相手の動きを止める。

 

 しかし、次の瞬間・・・・・・アスフィは長年の冒険者としての勘が警鐘を鳴らす。そして、目の前の男の目が嗤った・・・・・・ゾクリッとした背に感じた寒気を置き去りにする様に拘束を解くと同時に後ろに飛び引く・・・・・・すると、先程まで拘束していた男がその身を爆ぜさせる。

 

 自爆する事で相手を共に滅する、手段としては最悪の方法である。いわゆる死兵の命の尊厳を踏みにじる行為と、ソレを平然を行う異常な精神性に【ヘルメス・ファミリア】のメンバーは薄ら寒いものを感じ、緊張に体をこわばらせる。

 

「なんと・・・・・・っく・・・・・・自爆なんて!? こいつら・・・・・・みんな気をつけ・・・・・・パイ?」

 

 爆発しその命を自ら絶った。その光景にパイは肩を震わせていた。その感情は憐憫か・・・・・・答えは否。青筋を立てたパイが【闇派閥】の冒険者達を指差し怒鳴る。

 

「ぬがー、自爆するなんて何考えてるのかなー!! そんな馬鹿な奴らには私特製の【アレ】をぶつけるかな!!」

 

 死兵と化した敵に対して恐ることなく接近するパイ。そして、至近距離から投げつけられた『こやし玉』が前に出ていた【闇派閥】の一人に炸裂し強烈な香りと共に自爆を図ろうとした男が白目をむいて倒れる。

 

 静寂が場を包み込む。大した知能もなさそうな食人花すらも近づくのを躊躇っているように見える。アスフィは背後にいる仲間達に視線を向けると全員が突然のパイの行動に青ざめて後ずさっている。

 

 相手側の者達も震えを隠そうとせずに畏怖を込めた視線を目の前の『ハンター』に向けていた。人間と言うのは理解を超えた行動を行う者に対して恐怖を覚えるのは当然の事であり、この場合はひどい悪臭を巻き散らかしながら怒気を放つパイという存在がそれに当たるだろう。

 

 そもそも、なぜこんな物を投げつけてくるのか。【闇派閥】の男達にはそこからまず理解できず場はさらに混乱してゆく。

 

「お前たち。説教なのかな! そこに直るかな!!」

 

「えっ・・・・・・いや、俺達はお前らの敵であって・・・・・・」

 

「もう一発、逝っとくかな?」

 

「「「「喜んで、説教を受けさせていただきます!」」」」

 

 恐ろしい脅しであった。それ以降有無も言わさず正座してゆく敵兵に命の尊さを熱弁してゆくパイ。

 

「ーー所で、ソコで顔面が酷いことになっている人は助けなくて大丈夫なのかな?」

 

「ああ、あいつは自業自得だから放置しても大丈夫だ。むしろさらに暴行してもいいぐらいだと思う」

 

 レヴァスの逆鱗に触れ未だに絶賛気絶中のオリヴァスを見て心配するパイだがその仲間からの言葉は冷めており、辛辣であった。

 

「一体何したらそこまで言われるのかな?」

 

「女性の胸を背後から鷲掴みにしたうらや・・・・・・もとい、けしからん事をしたんだよ」

 

 男の発言に女性陣の視線がゴミを見るよりも冷たい物となっていく。そしてソコで男達は余計な事をつぶやいてしまう。

 

「でも、気持ちもわかるんだよな。すごい巨乳だったし・・・・・・おっかない女ではあったが・・・・・・それに比べて・・・・・・はぁ」

 

「おう? 言いたい事があるなら言うといいかな?」

 

 やや不機嫌そうなパイの言葉に、男達はさらに続けてゆく・・・・・・。

 

「ならば遠慮なく。あの青髪の人はきっと隠れ巨乳だとおもう、着やせするタイプだな」

 

「犬人の女の子も美乳そうだぜ?」

 

「あのものすごく魔法使い感がすごい子・・・・・・あれこそロリ貧乳!! 最高だぜ!」

 

 男どものテンションがあがり同時に女性陣のテンションが下がってゆく。何故か襲いかかる事もせずにゆらゆら揺れる食人花が居る空間は混沌の色を醸し出していた。

 

「じゃあ、私は?」

 

 気ままに女性陣の胸元の感想を暴露し出す男達。何だかんだで禁欲的な生活を送ってきた分、タガが外れると色々と欲情が出てくるようだ。

 

 そんな彼らの会話の中で己の事を言われなかった事に気づいたパイがおもむろに尋ねると・・・・・・男達は即座に返してくる。

 

「う○こ投げてくる人はちょっと・・・・・・」

 

「っていうか女として品が無いよなぁ?」

 

「貧乳通り越して絶壁だしな」

 

「ないわぁ・・・・・・」

 

「「「「っという訳で満場一致であなたは女として無いわぁ――って事で」」」」

 

「よーし、わかった。死にたいらしいかな・・・・・・ならば、死にたくても死ねない地獄を味あわせてやるかな!」

 

 ポーチから取り出した【アレ】を両手に持って男達に襲い掛かるパイ。確かに物理的に死ぬことは無いだろうが。精神的に深い傷を負う事となるブツを手にくるハンターに我先に逃げ出す【闇派閥】の男達。

 

 当然といえば当然の反応を見せたパイの行動にアスフィを含む数名の女性陣はうんうん――っと頷き、男性陣はやや同情的な視線で危険物を持ったパイから逃げる男達を見つめていた。

 

「むりぃ!? もう無理ぃ!?」

 

「ごめんよぉぉぉ! もう絶壁なんていわねぇぇよぉぉぉ・・・・・・」

 

「たすけてくれぇぇぇぇ・・・・・・汚れちまったよぉぉぉ」

 

「神さまぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

「まぁだまだ行くかなー!」

 

「「「「ふぇぇ・・・・・・たぁすけてくれぇぇぇぇぇ・・・・・・かぁぁちゃぁぁぁぁぁん」」」」

 

 哀れな程に情けない震え声を出しながら【アレ】をその身で受け続けている男達が悲鳴を上げ、パイがさらにテンションを上げて【アレ】を投下してゆく。先程まで大乱闘と言える状況で、現在は阿鼻叫喚と言う状況。同じ空間であるはずなのに全然違う状況へと変化してしまった。状況を少しでも理解しようとするが、うまくいかず・・・・・・アスフィは分断されこの場にいないアイズを羨ましく思う。

 

 しかし、そんな現実逃避もできないまま、なによりも悪臭が此方まで漂ってきており、知性のなさそうなモンスターである食人花でさえもやや迷惑そうにしている。モンスターでさえそう感じるのだ、此方も臭気に眉間の皺を深めているメンバーからの視線がアスフィに突き刺さる。その視線の伝えたい事・・・・・・「アレをどうにかしろよ」に対して「私はあの地獄絵図の中に入りたくありません!」っと視線で返すアスフィ。

 

 そして、最大の悲劇がアスフィ達を襲う事となる。ひたすらにこやしにまみれ、泣きながら世の中に絶望してゆく中、そんな【闇派閥】の男達も死兵として使われるハズの物の存在を思い出してゆく。そして、彼らは逃避として自決を選択することにした。それに気がついたパイとアスフィが同時に顔を青ざめさせる・・・・・・常時での爆発でさえ危険だが、今回はさらに【アレ】がたっぷりと着いているのだ。それが爆発し四散すると言う事がどういう事なのか、詳しく言わずとも分かることであった。

 

「やっ!? 止めるかな! そんな状態で爆発とかしたら悲惨なことになるかな!! やるならどこか遠くで・・・・・・うわぁぁぁ!?」

 

 先程、命の尊さを語ったとは思えない手の平を返して二次災害を回避しようとするパイ。しかし、そもそも彼らを追い詰めたのも四散させたら不味いものを付与したのもパイである。そして、安らかな笑顔で自らの生涯を絶った彼らの最後の抵抗は急いで物陰に隠れたパイを除いた【ヘルメス・ファミリア】に牙を剥くことになる。

 

「った、退避! 退避――!!」

 

「「「「「全力で後ろに向かって前進すんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

 アスフィの青ざめ余裕のない表情からの命令と共に悲鳴を上げて全力で逃げ出す【ヘルメス・ファミリア】の面々を宙に舞ったモザイク処理を行われたブツが降り注いでくる。 

 

「「「「「あの『便利屋』は何て事をしてくれたんだぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」

 

 見事に精神衛生上の意味で危機的状況を作り出したパイへ。【ヘルメス・ファミリア】の全員の悲痛な叫びが一致した瞬間であった。奇跡的に誰一人として被弾しなかったものの一歩間違えれば大惨事に発展しかねない。見苦しい風景へと変貌した食料庫の岩の隙間からひょっこりと顔を出すパイに、全員から批難の視線に少し脂汗を浮かばせながらもアスフィ達に頭を下げる。

 

「本当にごめんなさいなのかな・・・・・・すごく反省しているのかな・・・・・・」

 

 若干邪魔な近場の食人花(モザイク処理済)をザクザクと切り倒しながら合流したパイは、すごく居たたまれない様子で謝る。そんなしおらしい様子に溜飲を下げてその代わりに大きなため息を吐きながらも応戦していく一行。『ハンター』に関わった人間のため息を吐く回数が多くなるようだ・・・・・・と他人事のように思うアスフィ。

 

 そして、そんな雰囲気をぶち壊す出来事が起こる。突如として破壊音と共に何者かがこの空間に乱入してきたのだ。土煙が収まる頃には乱入者がその赤毛と日頃はきつめの目元を涙目にしながら・・・・・・奇跡的に【アレ】の爆雷を被弾せずにいたオリヴァスの襟を掴んで揺さぶり叫ぶ。

 

「おい、起きろオリヴァス!! アレはヤバイ! ってか臭い!? なんだこの異臭は!? 何がどうなっているんだ!?」

 

「なっ・・・・・・何してるのかな? レヴァス?」

 

 突如として乱入してきた知り合いの姿にパイは驚き呆然と尋ねることしかできないのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 若干時間は巻き戻る。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは落盤した箇所を見つめていた。

 

 結果としては戦力を分断させられた事になるが、聞き取りづらいが声は届くのでパイや【ヘルメス・ファミリア】にも被害がないことが救いであると思えた。

 

 結構な頻度で単独でダンジョンの中を捜索する事の多いアイズに取って単騎になる事に関しては不安要素はない。それに向こうにはパイがいるのでそうそう危機的状況には陥らないだろう。

 

 その考えは見事にパイ自身で“危機的状況”にしてしまうのだが・・・・・・アイズにはそのような事もわからず、取り敢えず立ち止まっていても仕方のないので、奥に向かって歩みを進める。

 

 少しばかり歩を進めてゆくとやや広い空間に行き着く。そしてアイズがその空間のちょうど中央に入った瞬間――微かな殺気を感じてその場を飛び退く。

 

 轟音と共に上がる土煙のむこう、土埃が舞い金色の髪を揺らす。アイズがは剣を抜き払い目を細めて観る視界の先で未だにぼんやりと映る人影に色が足されてゆく。

 

「ふむ・・・・・・やはり初撃で倒すのは欲張りすぎたようだな・・・・・・」

 

 最初に見えた色彩は鮮やかな赤。全体的に赤い服装に身を包んだ赤毛の女性。アイズの頭の中で目の前の風貌の冒険者を探すが覚えがない。少なくとも高Lv.である事は先ほどの奇襲の一撃で見て取れた。

 

 もぐりの冒険者の可能性も無いわけではないが、なんにせよ向こうが敵意を出している以上は応戦をしなければならない。

 

 風を切る音と共に急速な速度で間合いに詰め寄る赤毛の女、レヴァスの手甲越しの拳打を首だけの動きで紙一重で躱したアイズ。油断した訳ではなく即座に密着された状態に持ち込まれた事に内心は驚きながらも身体が冷静な判断を下す。

 

 密着された状態での剣での戦闘が悪手と即座に判断し剣を逆手に持ち替えて柄の部分でレヴァスの鳩尾へと突き込む。

 

 剣の柄から想定より重く、硬い感触が腕に伝わるが、そのまま距離を離すように力が入る最後の瞬間ステップを踏み込むことで距離を取る為に後方に下がる。

 

「・・・・・・誰ですか?」

 

「・・・・・・呑気に自己紹介をはじめると思うのか?」

 

 問いかけるアイズに対してレヴァスは憮然とした表情で答える。その短い会話の間にアイズも剣を回して構え直す。そして、互に姿が消えたかと思うほどの速度でぶつかり合う。上段から振るわれたアイズの刃がレヴァスの手甲に防がれ火花が散る。

 

 本来手数とその打撃力で圧倒するレヴァスの戦い方だが、アイズにとってはパイとの模擬戦で得た立ち回りとさらに磨かれた剣術によって攻撃をそらしてゆく。激突する度に巻き起こる金属音と散る火花が二人の実力が拮抗している事を物語っている。

 

 レヴァスも目の前の相手の技能面の高さに舌を巻く。以前に戦った金髪の小人族程ではないLv.の冒険者であれば確実に優位に立てると考えていた為この結果は予想外であった。

 

 だが、それでもまだお互いに本気を出していないであろう事も感づいている。目の前の剣士。アイズの斬撃には今だ余裕が見られ奥の手が隠されている事は明白であった。

 

「ならば、それも炙りだすか・・・・・・」

 

 レヴァスはコレまでに構築されているパターンを急に変え、アイズの首を刈るように蹴りを繰り出す。急な攻撃方法の変更にアイズの身体の反応が追いつかず。無意識にアイズは最善策を行う。

 

「テンペスト!」

 

 体を包むように発生した風に押される形でレヴァスの蹴りをギリギリで回避したアイズ。そしてその風を纏う姿を見たレヴァスも驚愕に開かれた目でアイズを見る。

 

「その風・・・・・・お前がアリアか!?」

 

 レヴェスは歓喜した、まさかの本命の人物の登場に、自然と頬がゆるむ。

 

 そして、『アリア』の名前に反応したのはアイズもであった。目の前の人物がなぜ母の名を知っているのか・・・・・・疑問は即座に思考に移りそして、ある憶測にたどり着く。

 

(ひょっとして、この人はお母さんの知り合い?)

 

 ありえない話ではないと妙に納得する。見た目二十代ぐらいの女性だが、アイズは知っている。少年のような容姿の四十代男性の存在を・・・・・・つまり目の前の女性が母と同じか、それ以上の年齢だとしても不思議はない。

 

 しかし、なんでこんなダンジョンの中に? 首を捻るが答えなど出る訳もなく、アイズは無難に挨拶から入ることとした。

 

「こんにちは・・・・・・こんばんは? とにかくはじめまして。アリアの娘のアイズ・ヴァレンシュタインです・・・・・・あの、母のお知り合いの方ですか?」

 

「・・・・・・っえ?」

 

 まさか、挨拶してくるとは思ってもみなかったレヴァスがキョトンとした表情を見せる。

 

 そんなレヴァスの表情にアイズも首をかしげる、挨拶に不備はなかったはずだと思うがなにか問題があったのだろうか・・・・・・っと

 

 頭上にクエスチョンマークをだしているアイズに毒気を抜かれたような顔をするレヴァス。

 

「お前・・・・・・アリアだろ?」

 

「ううん? 私はアイズだよ? 貴女は?」

 

「ん? んん? ああ、私はレヴァスだ・・・・・・って違う! おい、なんでそんなに和やかに話している、私達は今しがたまで戦っていたのだぞ!」

 

 レヴァスの言葉にアイズは――おおっ――っと声を上げる。確実に戦闘の事を忘れていたのだろう。レヴァスは目の前の少女の将来が不安になってくる感覚を覚えながら続ける。 

 

「ああ、もういい、いいか? お前が扱い、纏う風こそが貴様がアリアだという証明なのだ」

 

「そうなの? 子供の頃からなんかふわっと、使えたから、ゆるーく使ってたけど・・・・・・」

 

「おい、ふんわりしすぎだろ? そんな、いつの間にかできてたみたいな言い方・・・・・・」

 

「それに・・・・・・お母さんが風纏ってたような、そんな覚えも・・・・・・うーん」

 

「ええいっ! お前は『精霊』に関係のあるやつなんだ! もっと聞きたい事とか知りたい事とかないのか!? 母親の居場所とか・・・・・・「知ってるの?」・・・・・・えっ?」

 

「・・・・・・知ってるの? お母さんの居場所・・・・・・」

 

 レヴァスが“母親の居場所”と言った瞬間ーーアイズの纏う雰囲気が変わった。レヴァスは周りの空気の温度が下がったかのような錯覚を感じ目の前の少女を見つめる。

 

「えっ・・・・・・あの・・・・・・」

 

 怯えるように後ずさるレヴァス。アイズの瞳から光が失われ、笑みを浮かべる・・・・・・っそれは、ニコッでもなく。ニヤリでもなく。ましてはニッコリでもない。ではその笑みを表現する擬音としてどれが一番正しいのか・・・・・・

 

「じゃあ、力づくで教えてもらうね・・・・・・『テンペスト』」

 

 ーーニチャァ。っと嗤うアイズ。到底、女の子がしちゃいけない笑みを浮かべ、纏った風と共にレヴァスに襲い掛かる。

 

「おまっ・・・・・・話せば分か・・・・・・ひっ!? ひぃぃぃぃ!?」

 

 先ほどまで友好的とすら言えるアイズの突然の変貌に恐怖を覚えたのは仕方のないことであろう。

 

 レヴァスは恐怖した。暗黒面に堕ちた少女が超高速で飛びかかり剣を振るう光景を目の当たりにして逃げ出した。全速で逃亡を図るがそれに並行して追い掛けてくるアイズが視界にチラッっと映るのが地味に恐ろしい・・・・・・なにより、時折囁かれる声がレヴァスにとって何よりも怖いものであった。

 

「おしぇてぇ~~・・・・・・居場所ぉ・・・・・・おしぇてぇ~・・・・・・なんで逃げるのぉぉぉ・・・・・・ねぇ、おしぇてぇよぉぉぉぉ・・・・・・」

 

 一体いつからホラーになったのだろうか・・・・・・逃げても追いかけてくる剣鬼・・・・・・じゃなくて【剣姫】。アイズ・ヴェレンシュタインはその端正な顔立と美しい金色の髪を振り乱し近づいてくる。その表情には狂気を浮かばせており、誰もが一目見れば理解するだろう。アレはヤバイっと。

 

「った!? 助けてぇぇぇぇぇ!!? オリヴァァァァッス! パァァァイ!?」

 

 恥も外見もましてやキャラすらもかなぐり捨てて逃げだすレヴァス。最早強気キャラの面影もなく。その表情も八の字に歪んだ眉と涙目の女性でしかない。そして、壁をぶち抜きついでに食人花も惨殺し、全速で戻ってきた場所。ソコで未だに倒れている・・・・・・っというか倒した状態で寝転がっているオリヴァスを掴み首が折れるのではないだろうかと心配になる程の速度で揺さぶる。

 

「おい、起きろオリヴァス!! アレはヤバイ! ってか臭い!? なんだこの異臭は!? 何がどうなっているんだ!?」

 

「なっ・・・・・・何してるのかな? レヴァス?」

 

 壁をぶち壊して乱入してきた人物。レヴァスの登場に面食らうパイを見て、助かったと言いたげに表情を明るくさせてパイに縋り付くレヴァス。困惑するパイに向かって助けを求める。

 

「パイ! 助けてくれ、何かヤバイやつが精霊で追いかけられてホラーテイストなんだ!」

 

「ちょっと、落ち着くかな!? 何を言ってるのか本気でわからないのかな!?」

 

「・・・・・・おぉぉしぃぃえぇぇてぇぇぇぇ・・・・・・」

 

「ひぃ!? きたぁ!?」

 

 先程レヴァスが通ってきた穴からゆらり、ゆらりっと、ややおぼつかない足取りで歩いてくる少女。高速移動の時に髪が乱れ前髪で目元が隠れており、その幽鬼を連想させる姿にパイも怖気を感じていた。

 

「えっ・・・・・・えっと、アイズ?」

 

 やや、戸惑い気味に声を掛けるパイの声に反応したのかやや猫背気味のアイズは首だけを動かしてパイを見る。美人である素質を持つ少女が口元を狂気を含んだ笑みと血走った目でこちらを見てくる図はハッキリ言って不気味である。

 

「正気を失っている!? ダメかなアイズ!! このままじゃ(ヒロイン枠に)戻ってこれなくなるかな!」

 

「【剣姫】!? 一体どうしたというのですか!?」

 

「私にもわからんが母親の居場所が知りたくないのかって聞いたら・・・・・・」

 

 困惑するレヴァスの説明にパイはすぐに理解した。そしてそんなレヴァスに注意事項を伝える様に説明する。

 

「ああ、アイズにその系の話題はダメなのかな。あの子、今でこそ余裕あるけど前は結構思いつめてたから」

 

「あー・・・・・・それは悪い事をしたか・・・・・・ってどうしようか」

 

「大丈夫かな、レヴァス! 私に任せるかな!」

 

 パイの説明に困ったように反省するレヴァス。そんなレヴァスに胸を張って答え。アイズの前に出る。

 

「おしぇてぇぇ・・・・・・おかぁぁぁさぁぁぁん・・・・・・ぃばしょぉぉぉぉ・・・・・・」

 

「怖いかな、アイズっ!? ・・・・・・今から正気に戻してあげるかな!!」

 

「パイ! 先に【アレ】を使うなら一言くださいよ!」

 

「ちょっとアスフィ!? 流石に使わないかな!! さっきので懲りたかな!」

 

 信頼を大いに失ったパイだが彼女には秘策があった。徐に右腰にあるポーチから取り出した物・・・・・・それは未だに湯気を立てているじゃが丸君であった。

 

「ほーら、アイズー大好きなじゃが丸君かなー!」

 

「「まさかの餌付け!?」」

 

 予想外の行動にレヴァスとアスフィが同時にツッコム。しかし、アイズには効果があるのか鼻先をじゃが丸君に近づけ・・・・・・まるで匂いで危険であるか判断するように匂いを嗅ぐとじゃが丸君にかじりつく。

 

 二回、三回と咀嚼し飲み込むアイズ。その表情は先程までのおどろおどろしい物ではなくいつもの彼女の物であった。

 

「・・・・・・あれ? なんでパイがここに居るの?」

 

「・・・・・・えっと、アイズはさっきまでの事覚えてるかな?」

 

「・・・・・・?? うん? 所で・・・・・・すごい匂い・・・・・・」

 

 全く記憶にないアイズの奇行にあの姿を見ていた全員が背筋に冷たい物を感じていた。

 

「まっ・・・・・・まぁ。アイズも無事に元に戻ったし・・・・・・所でなんでレヴァスがここに居るの? キャンプ?」

 

「流石にここをキャンプ地にするには問題しかないと思うが・・・・・・」

 

 パイのセリフに対して呆れた表情で返すレヴァス。じゃが丸君を食べきったアイズが近づきパイに説明する。

 

「あのね・・・・・・さっきこのレヴァスって人に奇襲されたんだ。で、話してみたらお母さんの事知ってるみたいだから・・・・・・ちょっとオハナシヲ、シタイナッテ・・・・・・むぐっ?」

 

「はーい、アイズー。じゃが丸くん食べようねー。ふーむ、よくわからないけど。よし、こうなったら私がレヴァスのいい所を紹介しようじゃないかな!」

 

 正気を失い掛けるアイズの口にジャが丸くんを詰めるパイ。このままでは埒があかないと考えて結果、それならば認識を変えればいいっと早速行動に移す。

 

「は? おい、パイなぜそうなるんだ?」

 

「きっと人となりを知ってもらうのが一番なのかなー。じゃあいくかなー!!」

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 レフィーヤ達三人が二十五層のアイズ達と合流した時に目の前では信じられない光景があった。

 

 場所の一部が凄惨な事となっており、未だにほのかに香る異臭が鼻につく。周りにはゆらゆらと揺れる食人花が呑気に動いている。襲いかかる様子もないが一回腹を貫かれたこともあるレフィーヤにとってはあまり近づきたくない状況であった。

 

「だからぁ。レヴァスはちょっと眼光が鋭いけど、人を思いやる気持ちとかもあるのかな! 私が落ち込んでいたら不器用ながらも励まそうとする所とか可愛いと思うかな! おっぱいも大きいし、スタイルいいし、おっぱいも大きいしぃ! それに無能な同僚さんのせいで毎回苦労しているんだよ! しょんぼりしてる所とか棄てられた犬みたいな一面もギャップになって魅力的なのかな!」

 

「やっ! やめろぉぉぉ~~~パイ! 貴様、それ以上喋るなぁぁぁ!」

 

「まだまだ続くかなー! しかも出会ってそんなに経ってない私に今の二十四層は危険だから、十九層まで送っていこうか? って聞いてくれたのかな! 今時こんな気遣い出来る人がそうそう居るかな!? もうね! 可愛いかな! レヴァスはカワイイかなー!」

 

「ぐぐぐっ・・・・・・いっそ殺せぇぇぇぇ!」

 

 【万能者】率いる【ヘルメス・ファミリア】とアイズ・ヴァレンシュタインは微笑ましいものを見る表情で、『ハンター』の褒め殺しに対する羞恥心で床をゴロゴロと転がっている赤髪の女。

 

 はっきりと言って混沌であった。一体何をどうすればこうなるのか、おまけに転がっているレヴァスの少し離れた場所に倒れている人物など、顔の原型が分からないほど膨れ上がっている。

 

「え・・・・・・っと、あの、どういう状況ですか?」

 

 場の空気を読みつつも一番状況を理解してそうなアスフィに近づき尋ねるレフィーヤ。微笑みを瞬時に真顔に切り替えたアスフィに“今更”っと思いながらも話を聞いてみる。

 

「【千の妖精】ですか・・・・・・【凶狼】と【白巫女】? ああ【ロキ・ファミリア】の関係と言う事は【剣姫】の援軍ですか・・・・・・いえ、簡単に説明しますと、我々と協力していただいた【剣姫】と受けたクエストの途中で未知のモンスターと現在パイ・・・・・・『便利屋』に褒めちぎられている人物。レヴァスとその彼女がボコボコにしたであろう男性がいる現在のルームにて先程まで未知の花型のモンスターや【闇派閥】の生き残りと戦闘していましたが『便利屋』の活躍・・・・・・というか奇行にて撃破、その後乱入してきたレヴァスと暴走状態にあった【剣姫】に『便利屋』が前に出てきて餌付けをして・・・・・・今に至ります」

 

「・・・・・・はぁ・・・・・・?」

 

「なるほど・・・・・・さっぱりわからねぇ・・・・・・」

 

「ふむ・・・・・・あのボコボコにされている男・・・・・・どこかで見たような・・・・・・」

 

 【万能者】と呼ばれるアスフィ・アル・アンドロメダの説明でさえも理解できない状況。しかしどうせ『ハンター』の無駄に広い人脈を考えれば、意思の疎通が可能な個体であれば怪人だろうかモンスターだろうが“友達”になっていても不思議がないと思ってしまう。“常識が毒された人間”しかいない現状ではこれ以上の検索は難しいというものであろう。

 

 なにより、現在も続いている“褒め殺し”に遂に地面に顔をつけた状態で悶絶している赤髪の女、話通りだと彼女がレヴァスらしいが、先程合流したレフィーヤ達からすれば、恥ずかしがり屋な女性に無自覚な羞恥プレイを行っている構図にしか見えない。

 

「なにより、この子基本的に魔石しか食べてないんだよ! 年頃の娘がポリポリッ、ポリポリって! ありえないかな、余りにも不憫だったから持ち込んだ料理を一緒に食べたら表情こそ変わらなかったけど、明らかに魔石を口に入れるスピードよりも早かったし、料理が無くなったら見るからに残念そうにしてたかな! そんな人間味あふれるレヴァスを倒すというのかな! どうなのかなアイズ!」

 

「えっ!? いや、私はただお母さんの知り合いなんだなーって思っただけで倒そうなんて・・・・・・」

 

「おい、『便利屋』! お前どっちの味方なんだよ!」

 

 なぜか味方に説教しだし、それにオロオロとしだすアイズについに見かねたのか、会話に無理やり入り込んでツッコミを入れるベート。そんな彼らに気づいたパイが三人を見て驚く。

 

「あれ!? レフィーヤにベートさんに、フィルヴィスまで居るのかな!? どうしたの? ピクニック?」

 

「んな訳ねぇだろ!? ピクニックならもっと明るい場所でするわ! 大体、なんでテメェがいるんだよ!」

 

「簡単に言うと、偶然に合言葉を言っちゃって今に至るかな!」

 

「どういう事ですか!?」

 

 誰に話を聞いても要領を得ないと言う不思議な状況にベートとレフィーヤの理解力がどんどんと削れてゆく。そんな中、少し遠慮しがちに手を挙げたフィルヴィスが、まとめてみたのだが――と前を気を置いて言う。

 

「何らかの秘密裏のクエストを受けた【ヘルメス・ファミリア】が、自分の所の戦力だけでは目的を達成できない為に増援を呼ぶことにしたが、本来の増援の【剣姫】ではなく、たまたま『合言葉』と同じ条件を満たしたパイが来た・・・・・・後に本来の増援である【剣姫】が来たが能力的に高いパイも連れて行く事になった・・・・・・そして、何らかのアクシデントによって分断した【剣姫】と別れ、パイと【ヘルメス・ファミリア】がこの場で【闇派閥】と戦闘。【剣姫】はそこの赤髪の女、レヴァスとの戦闘時に何かしらの出来事によって暴走状態になり、何の縁かその『レヴァス』と『パイ』が知人であった為、現在はパイが戦闘をやめるように説得している・・・・・・その結果が、このような状態になっている・・・・・・っということか?」

 

「お前・・・・・・よくあの情報だけでわかったな、すげぇな」

 

「すごいです! フィルヴィスさん!」

 

 フィルヴィスの解説にようやく理解できたべートとレフィーヤ。二人に褒められやや頬を赤くするフィルヴィス。

 

「とにかく、レヴァスは赤髪クール系ナイスボディ美女だということは理解してくれたかな!」

 

「うん。理解した・・・・・・ごめん、ちょっと思い出したけどさっきはちょこっと“正気”じゃなかった」

 

「「ちょこっと?」」

 

 アイズの言葉をそのまま返して首をひねるパイとアスフィ。明らかに異常な状態だった様に見えたが、案外彼女の業は深いのかもしれないと考えてしまう。

 

「む~・・・・・・んっ? ここは・・・・・・そういえばレヴァスの奴にボコボコにされて・・・・・・んんっ? なんだこの空間、臭うぞ! なっ!? しかも冒険者だと!?」

 

 そこで、漸く起き上がったオリヴァスが周りを見渡すと、いつの間にか部下たちの姿はなく、何故か地面に額をこすりつけて尻を上げている状態のレヴァスと大量の冒険者。なにより全体的に悪臭漂う空間にいる自分。目まぐりしく思考を重ねてゆくがそれでも混乱してしまうオリヴァス。

 

「やっと起きたのか、オリヴァス! この役たたず!! あれほど怖い目に遭っている時に目を覚まさずに今頃起きるなんて!」

 

 顔だけを上げて八つ当たりもいい所なレヴァスの暴言に苦い顔をするオリヴァス。しかし、膨れ上がった顔では妙に形状が変わった程度の変化しかない。そんなレヴァスとオリヴァスとは違う方向から二重の意味で驚きの声が割り込まれる。

 

「オリヴァス!? もしかして、そこのジャガイモ顔の男・・・・・・オリヴァス・アクトなのか!?」

 

 声を上げたのはフィルヴィスであった。彼女は目の前の男に心当たりがあったもののはっきりと行って、人相云々以前の問題であるほどに変形したオリヴァスが、記憶の中にある人物と一致しなかったのである。そしてなにより・・・・・・

 

「【白巫女】? 今あのジャガイモをオリヴァス・アクトと言いましたか? あの二十七回層の悪夢を引き起こした【白髪鬼】の・・・・・・ですが、彼は二十七階層の悪夢の時に亡くなったはずですが」

 

「いや、確かに原型をとどめていないが確かにオリヴァス・・・・・・だよな? うん、あの若干モジャっとした白髪・・・・・・多分そうだ」

 

 後になるほど自信なさげになっていくフィルヴィスだが、見た目ではわからない程に変形したオリヴァスもまたフィルヴィスを見て思い出したかのように言う。

 

「んっ? そこの・・・・・・・どこかで・・・・・・ああっ!? 思い出したぞ・・・・・・あの二十七階層での数少ない生き残りの・・・・・・えっと、確か白巫女と書いて『みこみこなーす』だったか?」

 

「【白巫女《マイナデス》】だ!! どこをどうすればそうなるのだ! ええい! 数多くの冒険者と【アストレア・ファミリア】を壊滅させた首謀者がこれほどアホでは、あの時亡くなった者たちが浮かばれないではないか!」

 

「うわぁ・・・・・・フィルヴィスが本気で泣いてるのかな・・・・・・所でアスフィ? さっき言ってた『二十七階層の悪夢』ってなんなのかな?」

 

 地面に膝をついて慟哭するフィルヴィス。そんな彼女から視線を外したパイは、アスフィに向かって『二十七階層の悪夢』について尋ねる。

 

「パイは知らなかったのですね。『二十七階層の悪夢』とは嘗て存在した【闇派閥】と呼ばれる反乱分子と呼べる組織とフレイヤ。ロキ。アストレア等の【ファミリア】・・・・・・連合と言いましょう。と抗争を繰り広げられていた時期がありました。そして、徐々に連合側の優勢に傾いていたあるとき、二十七階層で【闇派閥】による怪物進呈を使った自滅覚悟の猛攻を受け、事実上の【アストレア・ファミリア】の壊滅と多くの冒険者の命が散りました。その首謀者が目の前の芋顔になっている【白髪鬼】。オリヴァス・アクトなのです」

 

「なるほど、わかりやすい説明ありがとうなのかな・・・・・・それにしても。なんかあのオリヴァスって人の声・・・・・・どこかで聞いたような気がするのかな・・・・・・」

 

「ん・・・・・・なんだきさ・・・・・・っま・・・・・・ひぃ!? あっ、あの時の部位破・・・・・・可愛らしいお嬢さん・・・・・・」

 

 パイの姿を視認した瞬間、顔を青ざめさせるオリヴァス、今だにパイから受けた暴行を覚えており、数日感の短い間に何度も夢見たほどのトラウマを植えつけられた思い出が蘇ったのだろう。本音を無理やり押さえ込んで言い直すが、それはあまりにも遅かった。

 

「あの時? 部位・・・・・・あっ――!! リヴェラの街で部位破壊し損ねた奴かな!! ここであったが百年目かな! 今度こそ部位破壊コースなのかな――!!」

 

「ひぃ!? くそっ、食人花・・・・・・あのチビ・・・・・・否、小柄でキュートな娘をねらえ!!」

 

 オリヴァスがそう叫んだ瞬間。周りで観葉植物となっていた食人花が一瞬思考をした様に動きを止め【ヘルメス・ファミリア】の・・・・・・小人族である、“小柄でキュート”に分類されるメリルと呼ばれる、貧乳系魔女っ子へと襲い掛かる。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! どうしてこっちに来るのー!」

 

「メリル!? 結局、戦闘になるんですね・・・・・・陣形を展開、各個撃破します!」

 

「あの『便利屋』の奴・・・・・・一体なにしでかしたんだぁ? おい、【万能者】。勝手に加勢すんぞ」

 

 即座に戦闘状態へと切り替えたアスフィ達がお互いにカバーしあえる用に密集し、その持ち前の連携を持って確実に食人花を撃退してゆくと同時に、ベートとアイズも離れた位置から攻撃に加わる食人花を迎撃してゆく。

 

「違う! 食人花、そっちの娘ではない! こっちのこやしの香り漂うチビをぉぉぉぉぉのぉぉぉ!? また部位破壊攻撃されちゃうのぉぉぉぉ!!」

 

「オラオラオラ―――! 今度こそ部位破壊なのかな――! ついでに『ペイントボール』もぶつけておくかなー!!」

 

「アッ――――!! すごく異臭がするぅ――――助けてぇぇぇ! レヴァスぅぅぅ!」

 

 言葉通り・・・・・・に動いた食人花だったが、オリヴァスからの意図は汲み取られず、【ヘルメス・ファミリア】へと殺到する食人花。そして、その守りが薄くなったオリヴァスへと勢いよく突っ込んできたパイが、いつぞかの光景と全く同じ様にオリヴァスの下腹部へ早くて重たい拳打を打ち込んでゆく。

 

 その非情な光景と容赦ない急所攻撃にベートを含めた男性陣の表情が引きつる。確実に何をとは言わないが・・・・・・潰すつもりの行動を躊躇なく行った『ハンター』に対して畏怖の感情を覚えるに十分であり、この人物を怒らせてはいけないという認識はこの時の男性陣の共通の認識となった。

 

 そんな中、羞恥プレイで耳まで赤く染めて地面に突っ伏していたレヴァスは全身をプルプルと震わせた後、オリヴァスの悲鳴とも取れる救援要請に勢いよく立ち上がると無言のままオリヴァスとパイの所まで大股で進んでゆきオリヴァスを蹴り飛ばす。

 

 汚い悲鳴を上げて壁際までブッ飛んでゆくオリヴァス。突然の介入に動きを止めたパイを無視してレヴァスは股間を両手で抑えたまま痙攣しているオリヴァスへと近づき、その胸に拳を突き立てその中にある極彩色の魔石を抜き出す。

 

「うぐぐ・・・・・・いったい何をするのだ、レヴァスよ・・・・・・ぱぅわぁげいざー!?」

 

 蹴り飛ばされた後に胸から発する突然の痛みに叫んだオリヴァスの身体が跳ね、ビクンッ――ビクンッ――っと痙攣する、誰が見ても特にもならなさそうな光景だがオリヴァスの胸から魔石が抜かれた瞬間その身体が灰になる。

 

「「「「!?」」」」

 

 突然の裏切りと、人間が灰になるという異常な光景に一瞬だが、全員の動きが止まる。そしてそれを行ったレヴァスはオリヴァスから抜き取った魔石を口に放り込む。涙目のレヴァスが行ったそれは、客観的に見てやけ食いを行っている様にしか見えず。レヴァスは口元をもぐもぐとさせながらもアイズを指差し口の中の物を飲み込むと同時に叫ぶ

 

「もういい!! 今回はこのぐらいにしてやる!」

 

 まるで負け惜しみの様に叫ぶレヴァスの姿に全員が涙目で羞恥に濡れた表情を浮かべるレヴァスに生暖かい視線を向ける。

 

 その視線にさらに憤慨し、地団駄を踏んで悔しがるレヴァスは怒りのままやや短絡的な思考に身を任せて今回の目的であった“宝玉”を食人花に寄生させ逃亡を図るがその前にアイズが声をかけた。

 

「あのー・・・・・・お母さんの話は?」

 

「今更!? なら五十九階層に向かえ!! そこなら知りたい事がわかるはずだ!! うわぁぁぁん! 覚えてろよぉぉぉ!!」

 

 泣きながら、逃げるレヴァスとその姿に「ね? レヴァスはカワイイでしょー」っと呑気に語るパイ。 

 

「なるほど、五十九階層・・・・・・うん、レヴァスさんはカワイイ」

 

「所で、あのモンスターは放置しててもいいのですか?」

 

 目の前でドンドン異質に変化してゆく食人花にアスフィが冷静に訪ね。それを見たアイズ、パイ、べートが淡々とした感じで討伐に向かう。

 

 その様子を眺めながらレフィーヤがつぶやく。

 

「なんだか、今回は私達の増援って要りませんでしたよね」

 

「言うな、ウィリディス。私も同じ事を思っていた・・・・・・」

 

 はぁ・・・・・・っと、二人のエルフはため息を吐く。

 

「よし、討伐完了なのかなー・・・・・・げっ。柱が壊れて天井が崩れてくるのかなぁぁぁ!?」

 

「ああもう!? 今回はグダグダすぎです!! 急いでここから離脱しますよ!」

 

「急いでぇ逃げるかなぁぁぁ!」

 

 討伐した食人花の変異種が巻きついていた食料庫を支える柱が崩れ、天井が崩落してゆく。そんな場所から急いで撤退を成功させ。死者を出さずに無事に地上へと帰還し・・・・・・。

 

 その後、地上に戻ったパイはアスフィから手厳しい説教を受ける事となり、それを遠目に眺める面々の前で猛烈に反省したパイの見事な土下座を披露する事となったのだった・・・・・・。

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