ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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主人公不在です。


『因縁の相手との戦闘はタイマンが基本なのかな?』

 ヴェルフ・クロッゾは高揚していた。

 

 バベルの入口の中央広場。石畳の整頓された場所では多くの冒険者達の待ち合わせの場所になっている。そんな中で、本日は常時とは違う顔を見せていた。

 

 【ロキ・ファミリア】の遠征当日である今日は、武器の調整の為に数名の【ヘファイストス・ファミリア】の団員達も共に潜ることになっている。予定探索範囲は五十九階層。

 

 これが、達成されたとなれば【ロキ・ファミリア】の名も大きな意味で轟くことになるだろう。

 

 とは言え、ヴェルフが高揚している理由はそれではなく。専属契約を結んだベルと、当時は使い手も知らなかったが同じく自分の作った武器を使ってくれている少女、リリルカ・アーデの三人で望む初めてのパーティーでの戦闘から数週間、今までは安全圏でのお互いの連携の調整も済んだのでヴェルフが常常行きたいとおもっていた、十一階層へと向かうこととなった。

 

 そんな三人の目の前では他の【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の何人かが遠征に同行する為の最終準備に追われているのが見える。そんな中でヴェルフは知り合いのハーフドワーフの女性を見つけ、向こうもこちらの存在に気づくがお互いに軽く手を挙げて挨拶を済ませる。

 

 あの様子では、遠征を開始するまで暫くかかりそうだ。大人数での移動になるので移動し始めるとダンジョン内は手狭に感じてしまう。ヴェルフはベルとリリルカに早くダンジョンに入ろうと告げた。

 

「しかし、トビ子の縁ってのはすごいな。リリ助もベルも・・・・・・そして、俺も全然違う【ファミリア】なのにこうして一緒にパーティー組んで・・・・・・不思議だよなぁ」

 

「ヴェルフ様の言いたい事はよくわかります。リリもパイさんに出会ってヴェルフ様に作ってもらったこのハンマーがなければ、今だにサポーターのままだったと思いますし」

 

「流石に、トビ子にこれを作ってくれって言われた時は少し面食らったぞ?」

 

「そりゃそうだよね。リリのそのハンマーには僕も初め見た時は驚いたし」

 

 薄明かりが照らす岩をくり抜いたような洞窟内を会話をしながらも、出現するモンスターを確実に屠ってゆく三人。予定する狩場である十一階層はそれなりに遠いが、ヴェルフの経験値稼ぎの為にその階層を選んでいたので思っているよりも進むスピード自体は早い。

 

「そういえば、ベル様の武器は新調なされたのですか?」

 

「うん、ヴェルフに前の武器を強化して貰ったんだ・・・・・・名前は、聞かないで」

 

 リリルカがベルの小手に装着された武器が以前の物とは違うのに気づき訪ねるが、尋ねられたベルは実に渋い表情で言葉を返す。

 

「おい、俺のネーミングセンスに文句があるなら聞くぞ?」

 

 温厚かつ快活な性格のヴェルフがニヤリと笑いながら聞いてくるが、それにベルは苦笑いを浮かべるのみである。

 

「ちなみにヴェルフ様。名前は?」

 

「刀が【影刀(エイスケ)】。鎧が【兎鎧(ピョンキチ)】だ、いい名前だろ?」

 

「・・・・・・ベル様、お気持ち、お察しします」

 

「おい、言いたい事があるなら聞こうじゃないか・・・・・・ええ!?」

 

 実にユーモア溢れるネーミングセンスに自然にリリルカの口から毒が漏れる。そんな扱いにさすがにヴェルフもやや声を荒げ。

 

 そんな会話を挟みながらも、変わりゆく風景を流しながら進み・・・・・・九階層まで辿り着く。そして、今までは違和感程度の物が予感へと変わる。その前兆はダンジョンと言う閉鎖空間の中で確実に三人の中に小さく引っかかていたはずだった。

 

「なぁ。おかしくないか?」

 

 最初に声を出したのはヴェルフ。そして、その言葉に反応して三人の歩が止まる。

 

「ええ、最初は気にしませんでしたが・・・・・・変ですね」

 

 次いでリリルカが、ハンマーを手に持ち周りを見渡しながら答え――

 

「モンスターが、敵が少なすぎるよね」

 

 ――ベルがつぶやくと同時に――唐突にベルは急激な悪寒を感じる。今だ闇が支配するダンジョンの奥。そこに・・・・・・アイツが居る。

 

 常人では測れない第六感に近い何かが、ベルに語りかける。その声は危険を促す物であり、危険を孕んだ警鐘がうるさいぐらいに脳内に響く。

 

 しかし、それと同じぐらいにベルの中で膨れ上がった恐怖が足をすくませる、鳥肌が立ち震えが止まることなく歯があたるカチカチという音がダンジョンに響く。

 

「ベル様?」

 

「どうした・・・・・・ベル?」

 

 明らかに尋常ではないベルの様子にリリルカとヴェルフが声を掛けようとした瞬間そいつは現れた。

 

 ダンジョンという暗闇の先、その闇は深く、冒険者を誘いその身を喰らおうとする。“何時もならば”感じない恐怖に対する“答え”が姿を現す。

 

 それは“人型”であった。しかし、人ではない。強靭な四肢を力強く、そして悠然と進む姿はこの場所にありえない強者の行進を五感で知らせるに相応しい。“片方の角が砕けている”が、それが歴戦の勇士を思わせる貫禄を付与させる結果となっている――

 

 ――ミノタウロスが悠然とその足を動かし此方へと向かってくる。その手には、本来であるならば持ち得ない『大剣』を携えている。

 

 ベル達を認識すると、ミノタウロスは大きく息を吸い込み。そして――

 

「ヴモォォォォォォォォォォォォォォォ――――!!!!」

 

 その存在を証明するかの如く吠えたのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ベル・クラネルは震えていた。

 

 すぐ後ろにいるはずのヴェルフとリリルカの声が嫌に遠くから聞こえる気がする、瞳の焦点が合わず目の前の存在が時折ぼやける。目の前にいるのは宿敵・・・・・・というか最早天敵を超えて恐怖の対象である牛の頭を持つマッスルガイ。ミノタウロスであった。

 

 冷や汗が額を伝い顎から地面に落ちた瞬間、決して耳に届かないはずであろう水音が確かに聞こえた気がした。

 

 そして、少年。ベル・クラネルの心は限界を迎え――

 

 「うっしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!? こっ・・・・・・怖いぃぃぃぃいぃぃ!!」

 

 精神的限界を超えたベルは瞬時に踵を返し、ヴェルフとりリルカのそれぞれ首根っこを掴むと全力で来た道を駆け出した・・・・・・つまり逃走したのだ。

 

 それを一瞬だけポカンッとした表情で見たミノタウロスだったが、獣としての本能でベルを追いかける。さらに言うならば常時ならばミノタウロスすらも追いつけない速度で走れるステイタスを持つベルであったが。【牛恐怖症】の効果でステイタス減少していた為にミノタウロスを撒けず距離は話せず速度も拮抗するのみ。

 

「あー、これはあれですね。以前にパイさんが言ってた修行がベル様のトラウマになってしまったんですね」

 

 どこか手馴れた感じすら漂わせながらリリルカがぼそりと呟く。首根っこ掴まれた状態でつぶやくというシュールな状況である。そして、それを聞いたヴェルフも首根っこ掴まれた状態のままりリルカに訪ねた。

 

「修行だぁ・・・・・・リリ助なんか知ってるのか?」

 

「えっと、確かミノタウロス二十体同時に戦わせて、精神力が尽きたらマジックポーションを、体力が減ったらポーションを飲ませて戦闘、気絶してもすぐ起こされる・・・・・・今思えばこれは修行ではなく拷問ですね」

 

「ああ、そりゃあベルの対応にも納得だわ」

 

 呑気に体を浮かせながら運ばれつつも器用に会話するヴェルフとリリルカだが、人間の体力など無尽蔵にある訳もない上に不注意からベルは足をつまづき転んでしまう。そして臀部を強打し悶える。急に宙に投げ出されたリリルカとヴェルフもそれぞれ、腰と顔面を壁に激突さた。ダンジョン内で騒音を起こしながらずっこける三人は、それぞれの痛む患部を抑えながら悶絶している。そんなベル達を追いかけてきたミノタウロスもやや疲れたのか胸に手を当てて呼吸を整えている。妙に人間臭い仕草のする牛である。

 

「ぶもぅー・・・・・・ぶもーぅ・・・・・・」

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

「「・・・・・・フゥ」」

 

 仲良く同じタイミングで息を落ち着けたベルとミノタウロスだがベルは尻餅を付いた状態であった。此処ではない別の場所で起こり得たかもしれないビジュアルである。

 

「ベル様・・・・・・どうやら逃げられそうもなさそうですね・・・・・・腰が痛いです」

 

「怖いのはよくわかるが、覚悟決めろ・・・・・・鼻いてぇ・・・・・・」

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉ!! やってやるぅぅぅ・・・・・・うぅ・・・・・・尻痛い」

 

 情けない事この上ない戦闘開始となったが、三人は各々の武器を構え眼前のミノタウロスへと視線を向ける。ちなみに立ち上がったベルだけが若干内股気味である。

 

 そして・・・・・・戦闘開始から数分後、地に伏すヴェルフとリリルカの姿がダンジョンにあった。

 

「ごめんなさいベル様。どうやらリリはここまでのようです・・・・・・バタリっ」

 

「悪い、あとは任せたぜ・・・・・・ベル・・・・・・ガクッ」

 

 開始早々のミノタウロスのタックルによる突進をまともに受けたヴェルフとリリルカは絶望の表情でこちらを見ているベルにお互いに一言だけ告げると気を失う。

 

 冗談のような、いっそ劇的なまでに危機的状況に追い込まれるベル・クラネル。むしろ、ミノタウロスの一撃を受けて気絶程度で済んでいること自体奇跡的なのだが、今のベルにとっては泣き言をいいたい気分を増長させる材料にしかならなかった。

 

「ヴモーーー!!」

 

「そんなぁ!? 二人ともやられるの早すぎぃ!?」

 

 お陰で、二人を見捨てて逃げる選択すらできなくなってしまった半泣き状態のベル。薄暗いダンジョンにミノタウロスの咆哮が響き、その音が反響するたびにベルの心の恐怖心がその身を竦ませる。

 

 馬鹿みたいな“修行”という名の苦行のせいでかなりの不利な状態で戦うこととなった、正しく理不尽に起こった少年の“冒険”が始まった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ヘスティアはたった一人の眷属のステイタスを写した紙を冷や汗を流しながら見つめていた。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv1

 

 

力  :SS 1011

 

耐久 :SS 1093

 

器用 :S  971

 

敏捷 :S  989

 

魔力 :S  994

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

 ・速攻魔法

 

 

《スキル》

 

【狩人之心《ヒト狩リ行コウゼ》】

 

 ・モンスターとの戦闘時の【経験値】の取得上昇。

 

 ・パーティを組む事でステイタスの上昇。

 

 ・笛を吹くと体力を微量回復することが出来る。

 

 

【狩猟】

 

 ・ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。

 

【調合】

 

 ・素材と素材を組み合わせることで別の物を作ることができる。

 

 ・一定の確率で【もえないゴミ】を生成する。

 

 

【憧憬一途《リアリス・フレーゼ》】

 

 ・早熟する。

 

 ・懸想が続く限り効果持続。

 

 ・懸想の丈による効果向上。

 

 

【牛恐怖症《オックス・フォービア》】

 

 ・牛を見ると震えが止まらなくなる。

 

 ・牛と戦闘時ステイタスが超低下。

 

 ・恐怖を克服した時このスキルは消滅する。

 

 ・スキル消滅時このスキルは変質する。

 

 

「何だこりゃ・・・・・・S以上ってあるんだ・・・・・・」

 

 今朝、嫌な予感を感じて日頃はしない朝からのステイタス更新を行った。理由の一つとしては弟子の育成という名の鬼畜な所業を繰り返す、パイの拷問を乗り越えたベルが、少しでも楽をできるようにと親心を出した結果なのだが

 

 考えている時間の間に冷めてしまった紅茶に口を付けながらヘスティアは考える。

 

 ヘスティアとて眷属の事となるとかなりの行動力を見せる神物である。知神の所を周りステイタスなどの事を聞きまわり少しでもベルの助けになろうと行動していた。故に神友のタケミカヅチの所で聞いたステイタス隠蔽などはベルが帰ってきたらすぐにしなければならないと思えた。

 

 理由は本来最大でもSまでしか上がらない【アビリティ】の・・・・・・いうなれば限界突破とも言える未経験のSS。それが明るみに出ればと考えれば頭が痛くなる。

 

 もしかしたら知識としては皆が知っていて、語られないだけで他の神々の眷属達もそのランクまで成長している子もいるのかも知れない。

 

 しかし、それを聞く勇気も度胸もないヘスティアにとっては悶々としたものを頭に抱える結果にしかならない。

 

「はぁ・・・・・・考えても仕方ない、ちょっと外に出るかな」

 

 考えても答えが出ないと割り切って外へ出ようとした時、積み重ねられた食器の場所から何か小さな異音が聞こえ、ヘスティアが確認すると・・・・・・ベルのお気に入りのカップにヒビが入っていた。

 

「・・・・・・不吉な」

 

 散歩ついでに代わりのカップを買いに行こうと思いながら教会の外に出ると、目の前を三匹の黒猫が歩いて行った。

 

「・・・・・・なんて、不吉な!」

 

 黒猫が通り過ぎたあと、影が差し上を見上げると、ソコにはカラスの大群が飛んでいた。

 

「・・・・・・もしかしたら、今日がボクかベル君の命日になるかも・・・・・・」

 

 不吉な感じのオンパレードにヘスティアは乾いた笑みを浮かべるしかできないのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ベル・クラネルは苦戦を強いられていた。

 

 戦闘が開始されてからしばしのの時間が流れていた。幸いダンジョンの中にある広場まで逃げれた上に倒れているヴェルフとリリルカ達からは十分に距離が取れており、自分が逃げ出した、運悪くモンスターが湧いたりしない限りは安全であるだろう。なにより、ベルの俊敏さを生かした戦闘を行うのに十分な場所であったことが幸いであった。巧みに抜刀と納刀を繰り返しながらも攻撃を当てていくが致命的な要因に思わず眉間にしわを寄せる。

 

 振るわれる斬撃、放たれる蹴りや拳の一撃、ダメージが通らないという事は無いが、余りにも微弱であった。

 

 ベルの中で確信に変わり始めていた恐ろしい想像が頭によぎった。“強化種”と呼ばれるモンスターのなかで時折見られる変異種の存在の事を思い出す。同じ個体に比べるとその危険度は大きく跳ね上がる。階層ごとに狩場としての適性Lv.と言うのを『ギルド』が提示しており。アドバイザー達も『冒険者』達のLvや経験などを加味した上での安全圏を推奨している。

 

 嘗ての【ステイタス】が未熟であったベルでも、ミノタウロスに傷を付ける事はできた。あれから“成長”した【ステイタス】に振り回されないように剣術や体術の訓練も欠かさずやってきた。

 

 少なくない努力量を自負している。それでも決定打を与えられない事がベルの目の前に居るミノタウロスが強化種かそれに近い個体である事を思わせるには十分な物であった。

 

「ファイアボルトォ!」

 

 ベルの突き出された掌から放たれた爆炎が花咲くような炎の華を飾るが、当たったであろうミノタウロスの頭部には傷ひとつなく、ベルの抵抗を嗤うかの如くミノタウロスは瞳を細める。

 

「くそっ・・・・・・威力が低いか・・・・・・何か突破口は・・・・・・――っ!?」

 

 突破口になりうる物ならば――ある。ベルはパイから念の為と預けられたアイテムポーチをちらりと見る。ダンジョンに入る前に入念に確認したからアイテムの配置の場所も分かっている。

 

(後は、使い方とタイミングだけ・・・・・・)

 

「ファイアボルトォ!!」

 

 再度、ミノタウロスの顔面に向けての一撃が放たれ、轟音と共に炎の華が咲きミノタウロスの視界が一瞬塞がれる。ダメージらしいダメージもなく無駄な足掻きと笑うミノタウロスの開かれた視界に映ったのは、何処に持っていたのかと問いたくなるような大きな樽が眼前に飛んでくる光景であった。

 

「ブモッ!?」

 

 想定外の物体に驚き半歩後ろに下がるミノタウロス。そして、視界に映るタルの端から見えるベルが薄く笑うのをミノタウロスは確かに見た。

 

「――ブッ!!?」

 

 今までの自らを傷つけられない攻撃ではない。ミノタウロスは回避を試みようとするが、その判断を下すにはあまりにも遅すぎた。

 

「ファイアボルトォォ!」

 

 ミノタウロスの頭に触れるかどうかというタイミングでベルの『ファイアボルト』が投げつけた『大タル爆弾』に直撃。先ほどとは比べ物にならない爆発が発生する。

 

 悲鳴を上げるミノタウロスの残っていた方の角が爆破の衝撃によって折れて地面に落ちる。皮膚も焼き爛れ右目も衝撃で潰れたのか閉じられている。

 

「だぁぁぁぁ!」

 

 その好機を逃すことなくベルはミノタウロスへと接近する。小手に装着されたままの【黒刀】の柄の部分を右腕からのアッパーでミノタウロスの顎を穿ち強制的に上を向かせ――そして空いた右手から放たれたモノ。『閃光玉』が打ち上げられた衝撃から今だに呆然とするミノタウロスの網膜を焼いた。

 

「「まぶしっ!? ああっ!? 目がっ! 目がぁ!?」」

 

「あっ・・・・・・ごめん。二人共・・・・・・」

 

 そして、ようやく目を覚ましどうにか戦線に復帰しようとしていたヴェルフとリリルカは、ベルから警告なしに放たれた『閃光玉』の・・・・・・それこそ、薄暗い所に目が慣れてきた所からの暴力的なまでの光量に目を抑えながら悶絶している。『閃光玉』を投げるときはキチンと声をかけてから投げよう。そう思いながらも更に使い物にならなくなった仲間を見るベル。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ベート・ローガはその発達した聴力でその異様な戦闘音を聞いていた。

 

 現在【ロキ・ファミリア】の遠征中であり、大人数での移動のためどうしても移動速度が遅くなってしまう、その遅さに苛立ちながらも遠くから聞こえる音を鋭敏な聴覚はしっかりと拾っていた。

 

「ふっふっふ~、前みたいに深層に持っていける大双刃だよぉ~、あの花も戦いがいあったけど深層にまたこいつといけるなんてね・・・・・・ふへへへ~」

 

「ちょっと・・・・・・ティオナ・・・・・・普通に気持ち悪いわよ?」

 

「え~、だって怪物祭の花の時もこれがあったからどうにかなったじゃん。やっぱり私の相棒はコイツだよー!」

 

 女三人寄れば姦しいとは言うが。このアマゾネスの姉妹の妹の方は一人でも騒がしい。とはいえどその明るい表情と笑顔に癒される団員も多く、べートも表情と口には出さないがその在り方には感謝していた。

 

 規律はフィンとリヴェリアが管理しているし、何だかんだで幹部やそれに近い者も【ファミリア】の雰囲気を明るくしている。べート自身も己のやり方で【ファミリア】に貢献をしようとはしていた。例え、それが万人に受け入れられないやり方であってもだ。とはいえ、『豊穣の女主人』の一件依頼、妙に皆の目が優しくなり今までのべート像が崩れてしまったのも自覚している為、ここ最近ベートはかなり落ち着いた青年となっていた。

 

「ったく・・・・・・俺達は遊びに行くんじゃねぇんだぞ・・・・・・」

 

「まぁ、気を貼りすぎてもいい結果はでまい。どのみち今回は十八階層より下まではイレギュラーなど発生せんじゃろう」

 

「そうかぁ・・・・・・? まぁ、じじいがそう言うなら・・・・・・いや、そういう訳でもなさそうだぜ?」

 

「どうしたべート・・・・・・むっ? なんじゃあの光は・・・・・・」

 

 いつの間にか隣を歩いていたガレスに返事を返していたベートが気づく。かなりの距離が有るもののダンジョンの奥・・・・・・そこが、一瞬ではあるが強烈な光が漏れた瞬間をべートとガレスを含む多数の人間が目撃した。

 

 そして、直ぐにダンジョンの奥から漏れ出す光に不穏な何かを感じ、べートは駆け出す。後方でガレスとフィンが何かを叫んでいたがその音も直ぐに遠くに流れる。少しして視界の端に金色が映ったと思えばそれは同僚のアイズであった。

 

「なんだぁ、アイズも気になるのか?」

 

「たぶん・・・・・・ベルかパイが戦ってる・・・・・・以前に一回だけ見せて貰った事がある。「センコウダマ」って呼んでたアイテムを使ったんだと思う」

 

「アイテムを使わざるを得ないイレギュラーって訳か・・・・・・急ぐぞ!」

 

「・・・・・・んっ」

 

 『敏捷』に富んだ二人が駆け抜け。たどり着いた先は・・・・・・ミノタウロスが目を抑えながらも暴れまわるが、それを器用に避けながら両手で持たれた刀で切りつけている・・・・・・どう見ても、ミノタウロスがイジメられている光景が繰り広がれていた。

 

「あっ、べート様にアイズ様。あれ? 今日から【ロキ・ファミリア】の遠征ではなかったのですか?」

 

「あっ、リリルカ・・・・・・うん、『センコウダマ』の光が気になって先行して見に来たの・・・・・・なんだろ、ベルの動きが悪いね」

 

「ああ・・・・・・それはですね」

 

 『閃光玉』のショックから立ち直ったヴェルフとリリルカは若干ぼやける視界に飛び込んできたアイズとべートに“ベルの不調の説明”をするとアイズとベートは嫌そうな顔をしながらも同情的な視線をベルに向ける。

 

「あいつ、牛に縁がありすぎるだろ・・・・・・前世で食肉用に牛でも出荷してたのか?」

 

「べートさん。もしかしたら出荷じゃなくて。精肉店の店員の方かも」

 

「いや、どっちも同じだからな」

 

 未知のモンスターである可能性を考えていた為にミノタウロスの姿に気を抜いたべートとアイズがどうでもいい事を言い。それにすかさずヴェルフがツッコム。

 

「とにかく・・・・・・助けなきゃ」

 

 救援の為、細剣を抜いて割り込もうと一歩を踏み出したアイズの肩をベートが掴む。

 

「・・・・・・やめとけ、アイズ。男が身体張ってんだ、それに、横取りはマナー違反ってやつだろ? それに、今回はたった一匹なんだろ? 楽勝だよなぁ! だろ? ベル!!」

 

 べートの放たれた言葉が耳に届いたのか、ベルは一瞬半分だけこちらを見て笑った。そして更にミノタウロスへと猛攻をかける兄弟子の姿にアイズは若干むくれたような表情を浮かべる。

 

「男の子同士にしかわからないなんて・・・・・・ずるい、しかも気持ち悪いべートさんだし」

 

「いいかげんに、その気持ち悪いってつけるの止めてくれねぇか・・・・・・地味に心にくるんだが」

 

「【凶狼】の旦那はベルに対してはツン:1に対してデレ:9だからな」

 

「・・・・・・ちなみに、【ファミリア】の仲間に対しては?」

 

「そりゃ、仲間だとツン:5に対してデレ:3・・・・・・ツッコミ2だろ」

 

「おい、まて鍛冶師、その割合はどう言う意味だ!?」

 

「たぶん、そういうところですよ・・・・・・べート様・・・・・・あっ・・・・・・それと、多分ベル様がアイテムを使ってますけど、時たまこっちにも被害が来るので対応は各自でお願いしますね」

 

 リリルカの注意を聞いて全員が頷くと観戦を再開すると他の【ロキ・ファミリア】の団員達も集まってくる。

 

「まったく、べート、アイズ。今は遠征中だぞ・・・・・・勝手な行動は謹んでくれ」

 

「悪いな、フィン。だが面白い物は観れそうだぞ?」

 

「あれ? あの子べートのお気に入りのヒューマンの子だよね?」

 

「そうね・・・・・・アイズ、確か彼ってLv.1じゃなかったかしら?」

 

「うん、そうだよティオネ」

 

 真っ先にフィンがたどり着き、その後にティオネとティオナが追いつきそれぞれに言いたい事、聞きたい事を終える。その後にリヴェリア、遅れてレフィーヤがたどり着き、その視線の先――

 

「・・・・・・きっと、今日があの子の“冒険”なんだね」

 

 ――先程とは人が変わったかの様に機敏な動きを魅せる兄弟子の姿にアイズはポツリとそう漏らした。

 

 

―――――――――――――― 

 

 ベルの中で何かが変わった。

 

 それが一体、何なのかと聞かれればきっと、数多くの要因が上げる事が出来るであろう――

 

 ――【ロキ・ファミリア】の【剣姫】と【凶狼】によって安全が確保されたヴェルフとリリルカ――

 

 ――同じ師を持ち純粋な敬意をもった剣士。アイズ・ヴァレンシュタイン・・・・・・例え自らのLv.が低くとも、兄弟子として無様な所は見せられない――

 

 ――なにより・・・・・・認めてくれた。背を押してくれた。信頼してくれた。僕が【コイツ】を倒せると――

 

 背中の【エンブレム】が熱を持ち、その熱をより強く、より輝かせろと、心が、想いが・・・・・・ベルの中の枷を外してゆく。

 

「いままで、散々タコ殴りにされてきたんだぁ! やりかえさせて貰うぞ!」

 

 ベルの中で何かが弾け、斬りかかる斬撃は当初よりも遥かに速く、鋭く――なによりも重い。

 

「―――ぁぁぁぁあああ!!」

 

 最初こそ皮膚の上をなぞる様な斬撃はその身に浅くはない傷を付けてゆく。時に抜刀と納刀からの体術にを巧みに使い分け、間合いを切り替えながらも舞うように戦闘を続けるベル。その姿に遥かにLv.で上に立つはずの冒険者達もその視線を奪われてゆく。

 

「あの子・・・・・・クラネル君は、一ヶ月前はミノタウロスに“あそこまでの”手傷を追わせられるほどの冒険者ではなかった・・・・・・そうだね、べート」

 

「ああ、何をしたのかわからねぇが・・・・・・あの時より遥かに強くなってやがる」

 

「本当なのか? しかし、少年の剣術もそうだが。あの体術を組み合わせた戦い方・・・・・・かなり戦い慣れをしているようには見えるが」

 

 そんなベルの動きに対して、フィンの確かめるような言葉に確かに頷き言葉を返すべートに半信半疑と言ったようなリヴェリアは次のベルの行動に目を剥く。

 

「ファイアボルトッ!!」

 

 ベルの切迫した声と共に放たれた稲妻状の炎が紅の華を咲かせ、その光景にリヴェリアが驚きの声を上げる。

 

「・・・・・・なっ!? なんだと・・・・・・まさか、短文詠唱魔法か!?」

 

「ねっ! ねぇ! ティオネ!! あの子今、アイズ見たいに魔法撃たなかった!?」

 

「えっ・・・・・・ええ、見てたわよティオナ・・・・・・驚いたわ・・・・・・何者なの、あのヒューマン」

 

「でも、威力が足りない」

 

 驚くアマゾネスの姉妹と冷静に魔法の威力の低さを指摘するアイズ。それでもめげる事なくベルは猛攻を加えてゆく。

 

「ヴアァァァァァ!!」

 

 気迫の雄叫びと共に横に薙ぎ払われる大剣を地面に転がる様に回避したベルは。即座に左の【黒刀】のみを納刀しそのままアイテムポーチから新しいアイテムを取り出しミノタウロスへと投げつける、先ほどの『閃光玉』の記憶が新しいミノタウロスは振り抜いた大剣を即座の両手に持ち替えてその玉を遠くへと打ち返し瞳を半分閉じる。

 

 しかし、例の光ではなく丁度リリルカ達の真上、向こうも視覚に影響が出るものだと思い込み目を閉じると・・・・・・玉が弾け、今度は膨大な音波の衝撃が鼓膜へと襲い掛かる・・・・・・主に冒険者達にだが・・・・・・。

 

「いったい! 耳が痛いです!」

 

「どわっ!? なんかすごく懐かしい感じが・・・・・・一年半前のあれか!? 相変わらず耳に来るな・・・・・」

 

「にゃわ・・・・・・耳に来る・・・・・・」

 

「・・・・・・っかぁ~~・・・・・・」

 

 しかし、ミノタウロスが二回も食らってたまるかと言いたげに大剣のフルスイングで打ち返された『音爆弾』が丁度、観客席でその効果を発揮した。突然の超音波に観戦していた、ヴェルフ、リリルカ、アイズ、べートは戦闘行動を取っていないというのにダメージを受けている。特に聴力に自信のあるべートには効果抜群である。

 

 ちなみに嫌な予感を感じ取った、べートとアイズ以外の【ロキ・ファミリア】のメンバーは目と耳を閉じていた為に被害は出ていない。

 

 そして知恵が働く故に無防備を晒した。ミノタウロス投げられた物の正体に気づいて直ぐに仕切り直そうとするものの、一歩ベルの行動の方が早かった。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ベルの狙う先はただ一つ、ミノタウロスの持っている大剣・・・・・・それを掴む手首へと大きく振りかぶられた腕が振り下ろされる。両手持ちに切り替え、最大限の体重を乗せた、黒き刃がミノタウロスの関節へと吸い込まれてゆく――

 

「ガッ―――ガァァァァ!?」

 

 ――地面に響く、重たい何かが落ちる音。ミノタウロスが手首から先が無くなった腕を見つめながら悲鳴を上げる。

 

「コイツなら、どうだぁぁぁ!」

 

 ベルの猛攻はそれだけでは留まらない。ミノタウロスが落とした大剣を即座に拾い上げ、その勢いのまま回転、遠心力を加えた一撃は見事にミノタウロスの胸に深い傷をつける。【影刀】よりも深くまで入る感覚にベルの中で今まで靄がかかっていた勝利への光景がはっきりと見えたのを感じた。

 

 致命傷までの深みまで届かずとも【牛恐怖症】の《スキル》が消滅した今、ベルの【影刀】や大剣での一撃は確実にミノタウロスの皮膚を切り裂いてゆく。ベルの体力と精神力の限界が近いが、それでもベルの止まらない。裂いた傷口へと確実に『ファイアボルト』を当てる事でミノタロスの体力を確実に削ってゆく。

 

 そして、たまらずに片足を付いたミノタウロスの隙をついてベルは足元の地面に『シビレ罠』を設置する。

 

 だが、明らかに罠とわかる物に対し、ミノタウロスも警戒してこちらへと近づこうとはしない。

 

 ベルは息を整えながらも考える。どうすればミノタウロスを倒せるのかのみを考える。そして・・・・・・何故か同封されていた【アレ】を思いだし。少し嫌そうな顔をしながらもアイテムポーチから取り出し、思いっきりミノタウロスへ向けて投げつける。

 

 ――べシャ――っと音を立てて【アレ】がミノタウロスの胸にぶつかり、激臭が周りに充満する。後方で短い悲鳴が聞こえた後に、嗅覚に優れた誰かが倒れたような気がしたが、今はその事を放置して相手の動向を見る。

 

「「・・・・・・」」

 

 ミノタウロスとベルは無言。観客は倒れた狼人の青年を介護しながらもうらめしそうな視線をベルへと向けていた。

 

 視線をベルから離して、世の中に絶望したかのような瞳で己の胸元を見つめるミノタウロス。そし小刻みに震え・・・・・・

 

「ブモォォォォォオォォォォ―――!!」

 

 怒りに満ち、憎悪をも宿した瞳がベルに突き刺さる。汚物をぶつけられて怒らない聖人のような精神をもった存在などこの場にはいない。我を忘れたミノタウロスはその四肢を低く構え四つん這いのに構えその質量で潰す為にベルへと突進する。

 

 だが、ミノタウロスがベルの設置した『シビレ罠』に触れた瞬間全身の筋肉が痙攣を起こしその巨体は無様に転がり込む。

 

 ベルは痺れて満足に動けないミノタウロスの口内へ躊躇することなく右腕を突っ込む。

 

「かかったな! ファイアボルトォォ!」

 

 ――轟音――。放たれた焔がミノタウロスの口内を突き抜け内部を焼き尽くさんと放たれる。

 

「まだだぁ! ファイアボルトォォォォ!!」

 

 更に鳴り響く轟音。だが、これまでの激戦の中での魔法の多用はベルの精神力を大きく疲弊させていた。

 

「やっぱり・・・・・・駄目か・・・・・・魔法だけじゃあ倒しきれないか・・・・・・なら!」

 

 明らかな【精神疲弊】の前兆。気を失わないのもベル自身の意地でしかない。いつ途切れるかわからない意識をどうにかつなぎ止め。ベルは最後を飾る手段を決めていた。考える思考よりも身体が先に動いた。

 

 歯を食いしばる音と血管を流れる血流の音が嫌に大きく聞こえる、それでもアイテムポーチに最後まで残っていた“切り札”を体内からの圧力に耐え忍ぼうとするミノタウロスの目の前に置く。

 

 『大タル爆弾G』。『大タル爆弾』よりも強力なそれをベルは最後の力を振り絞るように納刀されたままの【影刀】で振り抜きながら衝撃を与えた――

 

「潰れろぉぉぉぉぉ―――!!」

 

 最大威力の爆弾の爆発による衝撃と『ファイアボルト』による体内の圧に耐え切れずミノタウロスの体が爆散する・・・・・・と同時に背中から至近距離で爆発に巻き込まれたベルも吹き飛ばされてしまう。

 

「うわぁぁ・・・・・ぷぺっ!?」

 

 最後の最後で締まらない勝利の仕方をしたベルは背面の軽鎧の部分を破損させ、インナーも破れた状態で観客たちの目の前まで飛んできて・・・・・・顔面から着地した。

 

「いい物を魅せて貰ったよ。ベル・クラネル・・・・・・本当に、イイモノを見せてもらったよ」

 

 【ロキ・ファミリア】団長。フィン・ディムナは拍手を交えながら素直な賛辞をベルへと贈る。しかし、ベルの目にはそれ以外の別の意思が見えた。なんというべきか、いままで謎だった事件の犯人がわかった時のような・・・・・・

 

「ああ・・・・・・そうそう、クラネル君。君の師匠であるルフィル君に伝えておいて欲しいことがあるんだけどね。「今度じっくりと、話をしよう」と伝えておいて欲しい」

 

「えっ・・・・・・ええ。わかりました」

 

 きっと深くは考えてはいけない、なぜか【勇者】の笑顔に薄ら寒いものを感じ、ベルは素直に頷く。そんな、ベルの背を見つめる瞳があった。その瞳は大きく開かれていた。

 

 礼を言って立ち去ってゆく、ベル達一行を見送った【ファミリア】の面々も珍しく開いた口が塞がらない様子のリヴェリアを不思議そうに見つめている。

 

「リヴェリア? どうしたの?」

 

 放けているリヴェリアに声を掛けるアイズ。そのアイズの声に正気に戻ったリヴェリアは生返事を返しつつ、先ほどの光景を思い返し頭を降る。

 

(オールS・・・・・・そしてSS? まさかな、そのような馬鹿な話があるのか・・・・・・)

 

 神聖文字が読めるリヴェリアでさえも信じがたいステイタスの表記に己の見間違いであると思い直す。それよりも遠征の事に集中しようと、ほかの面々と共にラウルに指揮を丸投げしてしまった場所へと歩むのであった。

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