ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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なんだか細々した物を書きたくなってのんびり書いてました。

パイが【オラリオ】に戻ってきて【大陸】へ戻るまでの間の話です。

こちらは前編になります。


ハンター短編エピソード1

『バイトは労働に入るのかな?』

 

 いつもの用に活気にあふれる店内。夜の闇が深くなってしばらくの時間が経ち。酒の席の酔の具合もちょうどいいぐらいになった頃。『豊穣の女主人』のテーブルにはちょっと変わったメンバーが食事をしている風景があった。

 

本来、他派閥との関係というのは【ファミリア】の窓口を通す場合が多い。お互いに得意な分野でパイプを作っていく関係である以上、商売敵なども存在する。

 

 案外そのあたりで言えば、探索系を主軸にしている【ファミリア】などは全員が商売敵であるとも言えるかもしれない。

 

 同派閥のメンバーならともかく、同盟などの協力関係にあるならともかく、他の派閥の人間同士が同じテーブルで食事をするというのは・・・・・・それなりに珍しい図でもある。

 

「ふぅ・・・・・・しかし、パイさんはなんというか・・・・・・多才ですよね?」

 

 そう呟く、小人族の少女。リリカル・アーデは『豊穣の女主人』の制服の似合う『ハンター』とその手に持たれた料理と酒に目が向く。何故か現在、彼女達の知り合いの“異界の狩人”はウェイトレス姿で給仕をしている。

 

「つか、この料理もアイツが作ったんだろ? なんでミアと同じぐらい美味いんだよ・・・・・・」

 

「トビ子のスペックがおかしいのは思っていたが。ホントに器用にこなすよな・・・・・・」

 

「うん。トビ子の作ったじゃが丸君もおいしい」

 

 上から、【ロキ・ファミリア】所属の【凶狼】ベート・ローガが呆れたように呟き。【ヘファイストス・ファミリア】所属のヴェルフ・クロッゾもその呟きに同意する。そして、無表情でひたすらじゃが丸君というコロッケモドキを口にしつづける【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「パイさんは僕を鍛えてくれていた時は、毎日食事を作ってくれてましたからね」

 

「そうなのかい? ベル君。毎日の様に食事を作ってもらえるなんて、幸せ者じゃないか。まぁ。今は僕も時折ご馳走してもらってるんだけどね」

 

「ドチビの意見に同意するわけちゃうけど、パイたんの料理は旨いからなぁ、はぁ、ウチのとこ入ってくれんかったんや・・・・・・」

 

 【ヘスティア・ファミリア】所属のベル・クラネルがかつての生活を会話のネタにしてそれに乗る、ヘスティア神とロキ神。ふたつの【ファミリア】の主神・・・・・・それも片方は大手の【ファミリア】である事も含めて混沌とした雰囲気を出していた。

 

 『ミノタウロスの一件でのベート・ローガ、デレ期事件(ロキ命名)』から二週間ほど経っていた。色々とべートに対する扱いに・・・・・そう、色々と変化が訪れていた頃。

 

 なぜ、このような状況になっているのか・・・・・・それを語る前に、何故、パイが『豊穣の女主人で働いているのか。まずはそこから語らなくてはならないであろう。

 

 

――――――――――――――

 

 

 話はこの時から四ケ月前まで遡る、場所は【ミアハ・ファミリア】の本拠である『青の薬舗』での出来事であった。

 

「今日、『豊穣の女主人』に行ってくるかな」

 

 その日は実に快晴でありった。青空の広がる天気の良い日の事。【ミアハ・ファミリア】のホームで主神を含めた三人で朝食を取って片付けたあと、『ハンター』のパイ・ルフィルが思い出した用に言う。その言葉に「じゃあ。今日はみんなでいく?」とナァーザが乗ってくる。

 

「あー違うかな。お客さんじゃなくて、店員としていくかな」

 

 誤解を与えた事を誤り訂正するパイに「バイトか? パイには十分に稼いでもらっているから、そんなに貯蓄に問題があっただろうか?」と首をかしげながら、ミアハが尋ねる。彼の記憶の中でも金を使い込んだ記憶もないので不思議そうな表情だ。

 

「うん。そうかな。“ちょっと、一年ほど前に迷惑かけちゃったみたいだからさ”・・・・・・【ファミリア】の業務に支障がない程度ならって、条件で受けることにしたの・・・・・・」

 

「「ちょっと、何しでかしたの?」」

 

 ミアハとナァーザが顔を見合わせた後、同じタイミングでパイに向き直り同じ言葉で尋ねる。その二人の対応に苦笑を浮かべながらもパイが答える。

 

「二人には、前にオラリオでやりすぎたから、オラリオを離れたって言ったかな? その時の話なんだけどね。まぁ、リリルカの話でそこの所はその子に聞いて欲しいかな。あまり他人が話す内容でもないし。とにかく、その時に不可抗力で【アレ】を投げることになってね」

 

 【アレ】というワードが出た瞬間、ミアハとナァーザの視線が店に不釣り合いな金庫へとの向く。お互いに「ああ・・・・・・【アレ】か」と呟くと大丈夫と理解できても、生理的にアウトな劇物を、二人で懇願してでも金庫に置いてもらった。その記憶を思い出す。

 

「もしかして、その【アレ】が炸裂したなら。それは、あれか? もしかして・・・・・・人的被害・・・・・・か?」

 

 恐々とした様子で確認するミアハの様子にナァーザも怖気を感じたようにブルリッ――と震える。

 

 パイも最近になって【アレ】の正しい評価というのをわかってきた。昔、【オラリオ】に来る前の事。ベルと過ごした村の畑の肥料が足りなかった時に。パイが「肥料? 畑にはこれ使えるらしいよ?」と持ってきたのが【アレ】だった。

 

 妙に手馴れた手つきで畑に放り込まれた。【アレ】が炸裂し、周囲に芳醇な・・・・・・あまりのも酷い悪臭が巻き散らかされた。村の人々が異変に気づき集まる中。平然と畑を耕すパイの姿にベルを含む村の全員が戦々恐々した事も、ハッキリと思い出せる。

 

「えっと・・・・・・うん、人には投げたかな・・・・・・違うよ!? ミアさんとか従業員は関係ないよ! ただ、投げた場所がさ・・・・・・店の裏路地・・・・・・だったんだよ」

 

「「営業妨害としか思えない」」

 

 真顔で言うミアハとナァーザに流石にパイも半身を引いて表情を曇らせる。二人から若干目を反らし、やや不機嫌そうな顔を浮かべる。

 

「うっ、わかってるかな! だから・・・・・・こうして、罪滅ぼししてるかな」

 

「パイもこっちの常識がわかってきてると思うから、余程の事がなければ、もうそんな事しないとは思うが。それなら直接誤ったらどうなんだ? パイならそっちの方法を取ると思うが」

 

「ミアハさん。それは真っ先に考えたよ。でもね。ミアハさんは言えるかな? 「あのクソみたいな事件の犯人を見つけたら、私の獲物で掘る!」って鬼神の如く殺気を撒いている、ミアさんを前にして、言えるかな?」

 

「・・・・・・人生。知らないことが幸せな事はある・・・・・・。なるほど・・・・・・ナァーザよ。今日の夕餉はどうする?」

 

 ミアハは聞かなかった事にして、話題を変えるためにナァーザに尋ねる。ナァーザも「そうですね・・・・・・」と思案するも直ぐに答えが出ない様子だ。

 

「なら、二人は、私のオススメの店に行くとかどうかな? 私は気にしないし、今は懐に余裕もあるしね」

 

 そのパイの言葉に、最近全く贅沢も出来ていなかった二人。たまにはと素直に甘え頷く・・・・・・。

 

 ナァーザの淡い思いを知っているパイとしてもその恋を応援したいと思っており、どこか初々しい反応をする二人を見つめながら準備を進めていくのであった。

 

 そして、場所は『豊穣の女主人』へと変わり、緑色が目立つウェイトレス姿となったパイがそこに居た。それを囲むように数人の娘とそこの店長を務める女性である、ミア・グランドがパイの姿を見てから、うんっと頷く。

 

「リューとシルが、『便利屋』なんて胡散臭い奴に依頼を出すって行った時は、ちょっと不安だったけどねぇ。実際に会ってみると、中々に心の強そうな娘じゃないかい! 気に入った、今日は忙しいけど頼んどくよ!」

 

 そう言ってパイの頭を豪快に撫でた、ミアは頼もしい笑みを浮かべたまま厨房へと向かってゆく。これより残った下ごしらえを済ませに向かったのだろう。

 

「改めてよろしくね! パイ!」

 

「よろしくかな。シル、リュー!」

 

 同じくウェイトレスの服装に身を包んだシル・フローヴァとリュー・リオン。彼女達に依頼されて『豊穣の女主人』に臨時のバイトに入ったパイだったが、彼女自身は案外と接客や料理もソツなくこなすタイプの人間であり、【大陸】でも集会所などの手伝いなども何度か経験しているのでこう言う場所での労働もそれなりに手馴れていた。

 

「おミャーが例の『便利屋』かニャ? 今日は頼りにしてるニャ、具体的には多少サボれるぐらい・・・・・・イタッ!?」

 

「何を馬鹿な事をいっているのですか? アーニャ。パイ。このような依頼を受けていただいてありがとうございます」

 

 堂々とサボり発言をするアーニャ。フローメルを小突いたリューは小さく微笑み、パイに声をかける。それに胸を叩いて答えるパイ。

 

 バイト初日であるにもかかわらず、人使いの荒さと予想以上の盛況具合に最初こそ戸惑っていたパイだったが、忙しさのピークを越える頃にはそれ相応に順応していた。

 

 ミアも調理の手が足りない時などにダメ元でパイに手伝いを要請すると、予想よりも料理に関する知識が豊富であったパイに助けられていた。

 

「ルフィルは十分に戦力になるねぇ。お前さんがよかったら定期的に臨時のバイトを頼んでもいいかい?」

 

 手厳しい彼女が嬉々として戦力として扱うという発言に他の従業員が驚いたりと色々とあったが・・・・・・そのバイト初日に事件は起こった。

 

「お疲れ様、パイ。始めてだったのにすごく動きが良かったよね」

 

「シルもお疲れ様なのかな、以前に酒場で手伝ってたからそういう経験もあると思うかな。所で、それは何かな?」

 

 営業時間も過ぎ、軽い片付けと掃除も終え、休憩がてらの自由な時間にパイに話しかけたシルがパイの目の前に置いた物にパイは当然の疑問を口から出す。

 

 ソレは緑がかった発光色の液体であった。食器に入れられスプーンが添えられており、おそらくは食べ物なのだろう・・・・・・外見で判断するのはあまりよろしい事ではないが、果たしてこれは口にして胃に落としていいものなのかどうか・・・・・・判断に困るひと品であった。

 

「ふふ、頑張ったパイに私からのまかない料理だよ。遠慮せずどうぞ♪」

 

 目の前に出された物品Xに自然に周りに視線を向けるが、奇しくもシルとパイ以外の全員がほかの場所で何かしらの行動をとっており、シルの行動に注意を向けていない。

 

「えっ・・・・・・あっ、はい・・・・・・では、いただきますなのかな」

 

 不穏な雰囲気を感じながらもやや粘度のある汁物をスプーンですくうパイ。明らかに天井などの光量とは違う本来から発光しているであろう物体・・・・・・いっそ、モンスターの素材だと言われた方がしっくりくる物だが、ニコニコと笑顔で進めるシルに手前文句を言う訳にもいかず・・・・・・意を決してソレを口に含んだ。

 

「ふぅ・・・・・・パイ、お疲れ様です・・・・・・はっ!? パイ、それを口に入れては!!?」

 

 床掃除を終えて、一息をついたリューは、パイの方を振り返りそこで、シルがパイに渡した物を認識した瞬間、顔を驚愕に染めて危険を伝えようとするが――

 

「もぐもぐ・・・・・・なんだろかな? 『増強剤』を煮詰めて『猛毒袋』の中で熟成させた上に、腐った『モンスターのキモ』と混ぜたような・・・・・・んぐぅ!?」

 

 劇物を混ぜ合わせた味だと語ったパイはその言葉の後に顔を人間では表現できなさそうな色に変えて、腹を抑えて立ち上がり泡を吹いてぶっ倒れた。

 

「シルゥゥゥ!! あんた、また厨房で猛毒作っただろォォ!! うおっ!? ルフィルが見たこともない顔色して泡吹いているじゃないか・・・・・・クロエ! ぼぅっとしてないでディアンケヒトの所の【聖女】連れてこい!! 急患だと言ったらすぐ飛んでくるから!」

 

「わわわっ、わかったニャ!? ミア母さん! パイ! それまで死ぬんじゃないニャよ!」

 

 びくん、びくんと体を痙攣させるパイの体を押さえつけ、舌を噛まないように口に詰め物(雑巾(使用済み))を詰め込み、数十分後にクロエと共に駆けつけたアミッドが別の意味で戦慄した表情のまま解毒を成功させ、なんとか治療に成功したパイ。

 

 そんなパイもすぐに気がつき、後遺症などの心配をした【聖女】。アミッド・テアサナーレが心配そうに声をかける。

 

「ルフィル。大丈夫ですか? 気分はどうでしょうか」

 

「アミッド・・・・・・私、そうとうやばかったのかな?」

 

「ええ、おそらくは相当に強力な毒物を投与されたのでしょう。あと少し遅かったら危なかったでしょう」

 

 事情の知らないプロから毒物扱いされた発光色の液体は他の従業員の手によって証拠隠滅を図られていた。パイは冷や汗を浮かべる。流石に多少の物であればビクともしない胃袋を持つ彼女だが、そのパイであっても死に直結しかねない劇物をシルが作り出したということなのだろうか?

 

「おっかしいなぁ・・・・・・今日のは自信作だったのになぁ」

 

(・・・・・・自信作って・・・・・・毒物制作の?)

 

 っと、アミッド以外の全員が思う。パイはその日に知ったことだがシルの作るものは全体的に食べられたものではなく、それでいてポジティブな正確であるシルは毎回懲りる事なく劇物を製造しているらしい。

 

 とにかく、体調が戻った事をアミッドに告げると安心したような表情を浮かべ【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠へと戻ってゆく。安全の為に送っていったクロエを見送り、クロエ以外の視線がシルに向かう。

 

「えへへ・・・・・・その~・・・・・・えへっ」

 

 そう言って舌を出して笑うシルに全員が重いため息を吐く。彼女の料理の犠牲者は従業員全員であり、時折お願いされる味見になんども味覚を破壊されていったことか、今回のような毒物になることは珍しいと後にパイは聞くが、パイが働きに来てからシルの作る物は絶対に口にしないと決めた瞬間であった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 それから、数ヵ月後の時間が経ち、パイも『豊穣の女主人』で多くの回数バイトに入っていた。その日も定期的なバイトの為にバイト先である『豊穣の女主人』に向かっている頃。別の場所、廃墟のような教会の地下室ではとある零細ファミリアの主神が眷属である少年から突拍子もない誘いを受けていた。

 

「初三人パーティ結成祝いぃ? それにボクも誘ってくれるってぇ?」

 

 前日に作られた、やや油の回ったジャガ丸くんのカスを口の周りに付けた【ヘスティア・ファミリア】の主神。ヘスティアが頓狂な声を上げる。

 

 己の眷属、ベル・クラネルがヴェルフ・クロッゾと言うヘファイストスの所の眷属とソーマの所の眷属のリリルカ・アーデの三人でトリオを組んだ事はヘスティアも周知の事である。

 

 特にヴェルフ・クロッゾとは鍛冶師として、直接契約を交わしており自慢の子供が冒険者として良い方向に進んでいる事には満足しているし、リリルカの冒険者とサポーター。二つの視点から見た観察眼と経験も信頼していた。

 

 だが、それはともかくとして、三人の祝いの席に主神である自分が参加するというのもどうかと思う・・・・・・っというのも確かであり、それを提案してきたベルの可愛げある提案に思案するヘスティア。

 

 そんなヘスティアの表情を見て、言い忘れていた事を思い出し慌てて付け加えるベル。

 

「ああ、大丈夫です! 実はヴェルフとリリからも誘って欲しいって言伝をもらっているんです」

 

「えっ? なんでだい?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】って僕一人の零細ファミリアじゃないですか・・・・・・それなら、せめてパーティーメンバーの顔を見て貰った方が主神も安心できるって・・・・・・ヴェルフも久しぶりに顔を見たいっていってましたし」

 

 ヴェルフとはヘファイストスの執務室で何回か顔を合わせた事がある、確かに顔見知り程度ではあるが知り合いではある、リリルカという人物とは会った事もないが、随分と殊勝な心意気ではないか。

 

 そこまで言わせておいて、遠慮するのはむしろ相手に恥をかかせる事になるだろう。ヘスティアは笑顔でベル達からの誘いを受けその日の晩に集合場所の『豊穣の女主人』へと向かう。

 

 しかし、『豊穣の女主人』に着いた一行が見たのは。まさかの知り合いの『ハンター』が忙しなく働いている光景であった。

 

「なんで、こんなにお客が多いんだニャー、これもパイのせいかニャー!」」

 

「アーニャ、口を動かすより手を動かしなさい、おまたせしました・・・・・・」

 

「はいよ、六番テーブルと八番テーブルの料理が上がったよ! 嬉しい悲鳴だけどこれほどとはね!」

 

『ルフィルちゃーん! こっちオーダーお願いねー』

 

「はい、わかったかな! すぐ向かうかな!」

 

「ミア母さん! 忙しすぎて。お皿なくなっちゃいました~」

 

「クロエ、今すぐ皿洗いをしな! 勿論リューもだよ!」

 

「キャットピープル扱いのひどい店だニャ~」

 

「・・・・・・手が足りないね・・・・・・パイ! こっち手伝いな、だが、シル。お前はダメだ」

 

「わかったかなー」

 

「え? なんでですか、お母さん!?」

 

「シルやリューの場合は自業自得ニャ」

 

「「「「ルフィルちゃんの手料理を食べれるチャンスキタ━(゚∀゚)━!」」」」

 

 お店ではまず使うことのない表現であろうが、『豊穣の女主人』は混沌の場と化していた。『冒険者』も男神達と一緒に騒ぎ。楽しく呑んでいる。しかし、テンションが高すぎて訳のわからない言葉が飛び交う『空間』にベル達は固まる。

 

「ん? なんや、ドチビやないか。どないしたんや?」

 

 店先で固まるベル一行に声をかける存在に、ベルたちが顔を向けると。神ロキが【凶狼】と【剣姫】を引き連れて歩いてくる所であった。店内を覗き込むロキは「アチャー・・・・・・今日はえらいいっぱいやな」と呟くと。引き返そうとする。

 

『ニ番さんの料理できたかなー!』

 

 その小さな。滝の中で水面に落ちる水滴の音を聞き分けるかのように。ロキの耳にパイの声が確かに聞こえた。聴力の限界を超えた。数多くの会話という騒音の中で捉えた――声――に慌てて振り返る。

 

「ドチビ、説明せぇ!」

 

「トビ子君。バイト。忙しそう・・・・・・これでいいかい? ロキ」

 

「十分や! よしアイズたん、ベート。今日はここで飲もうや!! おーい、席空いてるかー?」

 

「おや、いらっしゃいませこの間ぶりですね、神、ロキ席は空いていますが・・・・・・クラネルさん?」

 

 勢いよく店内に入ってゆくロキに対応をしたのはエルフであるリュー・リオンであった。しかし、ロキの背後にいたベルを見てやや、思案するような表情を浮かべる。

 

「あん? どないしたんや? 席空いてないんか?」

 

「いえ、お席は空いているのですが・・・・・・申し訳ありません、クラネルさん。今日は満席で・・・・・・」

 

 心苦しそうに言うリューに、やっと合点がいったという風に「おおっ」と声を出すロキ。するとロキからヘスティアへ提案を持ちかける。

 

「ようは相席なら席あるんやな? おうドチビ、今日は特別や、一緒に飲むか?」

 

 ロキからの提案に顔を見合わすベル達その様子に「いいんじゃねぇか?」とベートが笑い、「うん。ベル達がいいなら」とアイズも続く。

 

「それなら、ご一緒させてもらいますね」

 

 ベルの返事で他派閥の【ファミリア】のメンツでの飲み会という珍事が起こる。そして席に通されて暫く経った頃・・・・・・冒頭に戻る。

 

 料理の数々が運ばれ、全員が手をつけ始める。いまだ店内の喧騒は激しく。所々で『ルフィル』コールが発生していて、パタパタとウェイトレスが駆け回っている。パイも厨房とホールを行き来しており、まだまだ、解放される様子は無いようだ―――むしろ

 

「・・・・・・ベル。ごめんちょっと来て欲しいかな?」

 

「え? どうしたんですか? パイさん」

 

 話の途中でパイに攫われるベル。呆気に取られる一同の前に、次に姿を表したベルは・・・・・・『制服姿』であった。

 

「ひどいですよ! パイさん、なんでこんな格好しないといけないんですかぁ!」

 

「ベル・・・・・・たん・・・・・・だと?」

 

「予想以上に似合っていて、驚いたかな! 神々よ! これを見るかな!」

 

「「「男の娘きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! これであと10年は戦える!!」」」

 

 いつもは後ろで括っているだけどの髪をほどいたベルは『なぜか。似合っている『豊穣の女主人』の制服を身にまとい。』羞恥に顔を赤らめている、その様子に。ロキとヘスティアとリリルカは無意識に喉を鳴らす。

 

 ベートとヴェルフは遠巻きに――贄――にされた哀れな、兎を肴に飲んでいる。場に流され働かされている友を見ながら思ったことを呟く。

 

「しかし、アイツら、こうして見たら姉弟みたいだな。ベルも女顔ってのもあるが」

 

「髪の色も似ているし、大まかな違いは瞳の色ぐらいか・・・・・・? というか、スゲェなベルのやつ、あの男神メロメロじゃねぇか。トビ子の奴も狙ってやってるんだったらすげぇな」

 

「・・・・・・一応、ベルのやつはココに客できたはずなんだがな・・・・・・『便利屋』のやつもエゲツねぇな。まぁ、俺としては面白いからいいけどな。鍛冶屋もそうおもうだろ?」

 

「同感だ、【凶狼】。同じ立場にはなりたくはないけどな」

 

 あはははと愉快に笑う『ロクデナシ』共を尻目に、じゃが丸君の追加を頼んでいたアイズも「あの二人を同時にモフモフしたいなー」などと邪な事を考えている、この店にはまともな思考をしている人間などひとりもいなかった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「うぅぅ・・・・・・神様・・・・・・ボク、汚されちゃいました・・・・・・なんでか、あの茶髪の神様の視線が、あのいやらしい視線がぁ・・・・・・」

 

「だ・・・・・・大丈夫かい? ベル君(言えない。僕も君の姿を邪な目で見てたなんて・・・・・・しかし、何処のどいつだい! ウチのベル君をそんな目で見るなんて)」

 

 あれから時計の短針が一周して、ようやく落ち着いた店内でクタクタになった、ベルとパイを含めたメンバーが席についていた。客の姿も疎らでベルとパイも今だ『制服姿』ではあるが、これ忙しい時間帯も過ぎたことだし休んでくれとミア母さん直々に休憩をもらっていた。

 

「本当に、今日は盛況でしたね・・・・・・これもルフィルちゃん効果と、ベルちゃん効果ですかねぇ」

 

 そう言って微笑む店員。シル・フローヴァの姿に『味方』してくれなかった事を恨むように視線を向けるベル。それを目を逸らして回避した小悪魔的少女は。パイに視線を向ける。

 

「まさか、こうなると思わなかったかな。普通に手が足りなくてベルを、いけに・・・・・・手伝ってもらって正解だったよ」

 

((((((今。明らかに“生贄”って言おうとしたよな?))))))

 

 ベル以外の心がひとつになった。ちなみにベルはショックからかその言葉を聞いてはいなかった。

 

「まぁ、本当に助かったよ。坊主も悪かったね、お詫びと言ってはなんだがパイも坊主も給与は色をつけておくよ」

 

 ミアの労りの言葉に他の『店員達』も微笑み全員が同時に告げる。

 

「「「所で次のベルちゃんの日はいつ?」」」

 

「・・・・・・・・・・・え゛っ?」

 

 少年。ベル・クラネルの乾いた声が店内に響く。その日からしばらくの間『レア店員』としてベルちゃんは『豊穣の女主人』の名物となるのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハンターってめんどくさい人種ですね?』

 

 それは、偶然が重なり合った結果の必然であった。

 

 怒涛の【怪物祭】。【大陸】のモンスターの乱入と未知の花型のモンスターいうイレギュラーが同時に起こった日の翌日・・・・・・。

 

 茜色に染まる夕焼けの色を頬に受けながら、アイズ・ヴァレンシュタインは更なる技能の向上を目指して、いつもの場所となっている外壁の上で剣を振るう。

 

 振るわれる剣線は鋭く、手首の取り回しから来る動きは滑らかである。細剣の特性を損なう事のない動きを体得してからは“不壊属性”を持つ愛剣であろうとその消耗は微々たる物へと変化しており【剣姫】の名の通り優雅さを兼ね備えた剣士となっていた。

 

 そして、その【剣姫】を相手にしているのも剣士であった。くすんだ白髪と魅惑的な紫の瞳。小柄な体躯を最大限に活用して左右に構えられた双剣を操る『ハンター』。パイ・ルフィルは一瞬の隙をついて、右手に握られた剣でアイズの建を弾くと共に、左の刀身をアイズの首元に突きつける。

 

 いつもの訓練である模擬戦は、今だ『ハンター』の勝率が高く、軽く流れる汗を拭いながらも不機嫌そうなオーラを醸し出しているアイズに笑いかける。

 

「やっぱり、手数の多さでこっちの方が有利なのかな。とは言っても、普通に負ける時は負けるからね――。アイズもドンドンやりづらくなって来てるのかな」

 

「・・・・・・連勝しているパイが言うと嫌味に聞こえる・・・・・・」

 

「ぬはははは~まだまだ、頑張れるのかな・・・・・・っと、もう暗くなり始めてるのかな・・・・・・アイズは本拠の門限とか大丈夫なのかな?」

 

「うん・・・・・・今日は外で済ませてくるってリヴェリアとロキに伝えているから大丈夫・・・・・・だよ」

 

 アイズの言葉に少し考えるように小首をかしげるパイ。数秒ほど考えると「それなら」っと前置きを置いてから言った。

 

「夕飯一緒にどうかな? この時間なら豊穣の女主人もまだ席が空いてると思うし・・・・・・どうかな?」

 

「うん、いいよ」

 

 アイズから了承の返事を貰ったパイは早速荷物をまとめてその足で『豊穣の女主人』に向かう。メインストリートを進んでいるとパイ達の前を見知った三人が歩いてくる所であった。

 

「あれー? ベルにリリルカにヴェルフかな。ダンジョンの帰りかな?」

 

「あっ。パイさん! それにアイズさんも・・・・・・こんばんは。今から三人で『豊穣の女主人』に行こうとしてたんですよ」

 

 ベル・クラネル。白髪赤目の少年であり、パイの弟子に当たる人物である。その後ろには栗色の髪の小人族のリリルカ・アーデと赤毛の青年であるヴェルフ・クロッゾとそれぞれ挨拶を交わす。

 

 偶然にも行き先が同じである事から急遽五人で豊穣の女主人へと向かうが・・・・・・そこでも知り合いに出会う事になる。

 

 賑わいを見せる店内にたどり着くと。最初にパイ達に気付いたシル・フローヴァが接客スマイルとは違う親しみやすい笑顔で近づいてくる。

 

「こんばんは、パイ。ベルさんに皆さん・・・・・・えっとお食事ですよね?」

 

 多人数であるというよりも違う【ファミリア】。それも一人は有名人である【剣姫】である事から少し戸惑い気味に確認を取るシル。

 

「急に予約もせずにごめんね。席とか空いてるかな?」

 

「えっと・・・・・・ちょっと、今はテーブル席が・・・・・・あっ、ちょっと待っててくれる? 相席になると思うけど確認してくるね」

 

 相席と聞いて。戸惑う一行。しかし、そんな事を無視して店内の奥に向かったシルは少ししてから戻ってきて。一行を案内する。

 

「なるほど、確かに相席なのかな」

 

「やぁ、ルフィル君・・・・・・なるほど、シルが急に相席を申し出た理由がはっきりしたよ」

 

「久しぶりだな、パイ。元気そうでなによりだ・・・・・・おお、ヴェル吉も一緒か!」

 

 広めのテーブルに座っていた人物は【ロキ・ファミリア】団長のフィン・ディムナと【ヘファイストス・ファミリア】の団長である、椿・コルブランドであった。

 

 二人は近日行われる合同遠征の詰め合わせを行っており。先程その目処も立ったと言う。

 

 邪魔になるなら遠慮すべきだが、後は食事だけだというので素直にフィンと椿の好意に甘えて相席する事になったのだが・・・・・・ソコにさらに一人追加される事になる。

 

「あん・・・・・・椿にフィン? それにアイズにベルまで・・・・・・どういう組み合わせだぁ?」

 

 ややドスの効いた声を上げたのは怪訝そうな表情で来店したベート・ローガであった。

 

 ダンジョンでひと稼ぎしてきたのだろうヴェリスの詰まった腰巾着からコインが擦れる音が静かに響く。

 

「おお、【凶狼】か昨日ぶりだな・・・・・・よかったらお前も一緒に飲むか?」

 

 あっけらかんとした椿の言葉に少しだけ考える仕草を行ったベートだが断る理由もと組み見当たらなかったのか大人しく空いてる席に座る。

 

 こうして。【ミアハ】・【ロキ】・【ヘファイストス】・【ソーマ】・【ヘスティア】の【ファミリア】の団員が揃うとうい異色の相席となった。

 

 現に周りからは奇っ怪な物を見るような視線がちらほらと見られ、“事情の”知らない人間にとっては疑問は当然のことであった。

 

 お互いに挨拶も済ませた中であり共通の問題を認識し合った仲でもある。

 

 乾杯の音頭から談笑を交えた食事からある程度の時間が流れ。リリルカがふと以前から気になっていた事をパイに尋ねる。

 

「パイさん。前から聞きたいことがあったのですが。なんで、パイさんは何かしらの行動をとる時、あのような、リアクションをとられるのでしょうか?」

 

 そのリリルカの質問が出た瞬間、その場にいたパイとリリルカ以外の全員が硬直した。大きなテーブルを囲む空気が変わる。質問した側と質問された側以外の五人は心の中で「ついに聞いちゃったかぁ」と今まで気になっていたが、避けていた話題を出したリリルカに感謝しながらも。パイの返答を待つ。

 

「・・・・・・? どう言う意味かな? もしかして、“何か変な事してたかな?”」

 

 戸惑うように返事するパイに。全員がため息をつく。その様子に首を左右させて疑問を表情に浮かべるパイ。

 

「あー、トビ子。お前がよくする行動だけど、ぶっちゃっけ大げさだと思うんだが」

 

「だな、落ち込むときとかも、誰が見ても落ち込んでいますって感じだし、しかも、面白いくらいに毎回同じ動きだ」

 

 最近お兄ちゃんキャラの様な扱いを受けつつあるベートと兄貴肌のヴェルフと言う、兄貴分コンビの説明に「ああーそういう事か」と納得するパイ

 

「実は・・・・・・『ハンター』になると自然にああなるのかな」

 

「・・・・・・・・・冗談?」

 

「冗談じゃないかな!? アイズは私が冗談言ってると思ってるのかな?」

 

「そうは言うがな。パイよ。手前から見てもお主の『行動』は少しばかり不可思議に見えるぞ」

 

 腕を組み、心底不思議な物を見る目で語りかける椿に「そこまで言うなら。私の行動がどうおかしいか言ってみるといいかな!」と反論するパイだが・・・・・・。

 

「まずは俺からだ、『あいさつ』これは普通だな。片手を上げるだけだから。しかし『おじぎ』はどうだ? なんなんだ? あの紳士的な対応は。トビ子のキャラじゃないだろ?」っと語るヴェルフ。

 

「これのことかな?」パイはそう言うと立ち上がり。『おじぎ』をする、右手を後ろに回し左手脚の前にもっていき一礼。勿論右足を後ろに向けるのを忘れない。今日は普段着の彼女のお気に入りのスカートが揺れるが・・・・・・なんというか、『男性的な礼』の仕方なので違和感が残る。

 

「次は。私がいうね。私が始めてパイに修行を依頼した日の話なんだけど、私が余裕のない心をもってるって、教えてくれた時に・・・・・・なんでか、ずっと、うんうんってうなづいてたよね? えっと、変な意味じゃないんだけど、なんでなのかな・・・・・・って」

 

 次にアイズが手を挙げて発言する。『世界と生きる』パイの語る“強さ”の意味を・・・・・どこからか流れてきた電波のような夢の中で濃い連中・・・・・・“ハンター達”から教わったアイズ。

 

 その後、目を覚まして、オラリオの外壁から見る朝日の『美しさ』を改めて実感し、景色を見る余裕すらも削って生き急いでいたと気付いたアイズは『今までの自分を肯定する強さ』と『これからの自分の周りの世界を大切にする』事を教えてくれたパイに感謝の気持ちを感じていた。しかし、ふと、後ろにいる彼女を見ると、パイはひたすらに頷いていた。ただひたすらに『うなづく』パイの姿に「ひょっとして、今までの私ってこんな感じに・・・・・・必死過ぎた?」と狂気すら感じるぐらい、ひたすらにうなづき続けるパイに薄ら寒いものを感じたアイズ。結局、お礼の言葉を言うまでその『うなづく』行動は続いたらしい。

 

 周りの気温が一度ほど下がったような気がする。「うわぁ・・・・・・」っと周りが軽く引いていた。

 

「あー、そりゃ、怖いな。次は俺だな。『便利屋』。文句をいうわけじゃねぇが。あの『首を振る』動作、あれどうにかならねえか? わかっててもイラっとするんだが・・・・・・。あと、あのふざけた『拍手』もだ」

 

 べートの何処か遠慮がちな発言に『首を振る』動作を目にしたメンバーの中で「確かに」と肯定する気持ちが生まれた。横に肘を曲げ手の平を肩と同じ位置まであげ首を降っている様子は、まるで「ワタシ、サッパリネ?」とでも言いたげで、気分的にもあまりいい物ではない。そして――続けて悪いがあの時の話もある。と続けるベート。

 

「ほら、前にダンジョンでたまたま会った時があっただろ? あの時の出会った時に遠巻きに手を振って挨拶してきただろ。あれなんだが、あそこまで大きく『手を振る』必要あんのか?」

 

 これは、ベートが一人でダンジョンに篭っている時の事。見飽きた薄青色の壁と天井。歩き慣れたコースを軽く走り抜け。彼が二十四層を通り抜けようとすると、色鮮やかな何かが、回転しながらモンスターを屠る姿を発見する。無視しても良かったのだが。彼は口の悪さと半比例するかのように真面目であった。そしてツンデレであった。仕方ねぇなぁと言いたげに仏頂面で近づいてゆく、ソコにはソロで戦うパイの姿。パイもべートの存在に気づいたのか此方に視線を向ける。そこまでは良かった。

 

「おー! ベートさん。やっほー」

 

 そういって、足を開いてかなりの速度で左を大きく振るパイ。ベートはまさかのパイの行動に目を向いて全速力でパイの下に駆ける。正直「恥ずかしすぎる」まるで、子供のようなわかりやすい行動に。『同類』と思われたくないのだ。近づくことでパイは『手を振る』のを止めるが、次はそのべートの瞬足に感心したかの『拍手』する。直立不動に胸の中心でひたすら手の平を合わせ続けるパイにベートの中で羞恥の感情が湧き上がる。ベートが怒鳴るまでその『拍手』が止むことはなかった。

 

 ベートが話終わると、全員の視線がパイに注がれる。脂汗を滲ませながらその視線を受けとめるパイだが。流石に彼女もその視線の意味を理解できないほど愚かではない。

 

「そういえば・・・・・・僕もルフィル君の奇行を見たことがあるね。椿、君も一緒にいてただろ?」

 

「・・・・・・ん? フィンと、というとアレか? そこの兎を鍛えている時の話か?」

 

 思い出したように語りだすフィンと記憶を掘り返し頷く椿。「なにがあったのですか?」と尋ねるリリルカに一度、軽く頷きフィンが語る。

 

「前に、クラネル君とルフィル君がダンジョンの二層の端っこで鍛錬しているのをたまたま見かけてね。その時は邪魔をしてはいけないと、そう思って声をかけなかったんだけどね」

 

「嘘をつくな。フィンよ。正直に言えば“関わりたくなかった”であろう? あの時のお主は表情が引きつっておったぞ?」

 

 椿の証言に苦笑いをする【勇者】だが、逆にこれが皆の興味につながった【勇者】が苦笑いを浮かべるような訓練とは? その疑問に答えるように。今度は椿が語る

 

「手前もいつも通り、作品の試し切りの為にダンジョンに潜ったのだがな。入って直ぐに見知った者がいるではないかと。何かをみているフィンに近づいたのだが。振り返ったフィンの顔がが余りにも面白いことになっておってな。ついつい、手前も見てしまったのだが・・・・・・アレは何なんだろうな?」

 

「僕には、魔石の詰まった重りを背中にのせて腕立て伏せしているクラネル君と。その横で永遠と天井に向けて手を突き上げて。下げて、突き上げて・・・・・・それを続けているルフィル君の姿と映ったね。あれはエールを送っていたのかい? それとも準備運動・・・・・・とか?」

 

 その光景を想像する。ダンジョンの中で、大げさに腕を天に掲げる姿・・・・・・十分に『ハンター』と言う物に毒されたのか簡単に想像がつくのが分かる。

 

「ああ、アレは『かけごえ』かな?」

 

「「「「ダンジョンの中でする内容じゃないよね!?」」」」

 

 まさかの回答に全員のツッコミが炸裂した。

 

「ベル様は何かないのですか? 外でこれだけあるんですから、【ファミリア】同士の仲もいいですし。ベル様はもっとあるんじゃないですか?」

 

 リリルカからの突然のパスにベルは明らかに狼狽する。

 

「えっ・・・・・・いや、その。どうかな・・・・・・」

 

 その様子に隠し事の匂いを嗅ぎとり、人の悪い笑を浮かべる、ベートとヴェルフとリリルカ。席を立ってベルと内緒話をするようにヒソヒソと語っていたが。ある程度時間がたつとベル以外の三人の視線がパイに向かうがその視線は二種類の意味を持っていた。赤面して手で顔を覆うベルは置いといて、男性二人は「うわぁ、マジかよコイツ・・・・・・ないわぁ」とでも言いたげにドン引きしている。リリルカは無言でパイの腕を掴むと「パイさん・・・・・・説教です」と言い残し外へと連れて行った。

 

「えっと、なにがあったんだい?」

 

 それを見送ったほかのメンバー。気になったフィンがそう聞くと気まずそうにしながらもヴェルフが説明する。

 

 なんでもベル達の住んでいる本拠に遊びに来るパイはよく『くつろぐ』らしいのだが。そのくつろぎ方が。問題で体重をかけて座る時に足を上げながら開く癖があるらしい。そしてダンジョンに行く時以外は彼女はスカートを愛用している。

 

 そこまで聞いて納得するフィンと椿。確かに、年若い少年には目に毒であろう。言いたくない気持ちも良く分かる。おまけにあの主神の存在だ、色々と多感な年頃の少年には酷なことであろう。

 

「俺、アイツと・・・・・・ベルと同じ立場だったらちょっと自信ねぇかも・・・・・・『便利屋』は別だがな」

 

「俺もだ、ベルは純粋だからな・・・・・・。俺なら鍛冶に没頭する時間が増えそうだ・・・・・・トビ子はないけどな」

 

「僕も今でこそ落ち着いてるけど、あのぐらい歳の時なら・・・・・・ねぇ」

 

 男三人の優しい眼差しに、純粋な心で邪な野望をもっている少年は静かに涙を流すのであった。

 

「ひどい目にあったかな? リリルカには「恥じらい」について叱られるし。みんなにはボロクソに言われるし」

 

 憔悴したパイの恨み言に各自苦笑いを禁じえない。半分以上は自業自得であるので誰も擁護しようとはしない。

 

「むぅ~、皆ひどいかな・・・・・・まぁいいかな。ちょっと疲れたしこの自家製『栄養剤』でも飲むかな」

 

 ポーチから瓶にはいった液体を勢いよく飲み込むパイ。そしてコレがきっと最も不可思議な奇行だろう。

 

 胸をそらし力こぶを作るかのように『ポージング』を行うパイの姿に今度こそ全員が立ち上がり叫ぶ。

 

「「「「「「毎回。なんでそんなポーズとるんだよ! おかしいでしょ!!」」」」」」

 

 やはり『ハンター』とは不思議な存在である。結局、今回のことで謎が深まっただけになったのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの時の純白の理由を知るためには対話が必要かな?』

 

 

 喧騒が熱を帯び出す時間帯。人が生きる為に日々の路銀を稼ぎそれを消費する事によって明日の活力を得る。

 

 人が生活する上で一つの形として成り立っているが、そんな中で『冒険者』。特に日々の探索で命を天秤に賭けている者にとって、安全な場所での食事。そして警戒をしなくともいい場所でのアルコールは最高の贅沢の一つと言っても良いとも言える。

 

 そして、『豊穣の女主人』はそんな『冒険者』や懐に余裕のある神々にとっては高級な場所であり、それを踏まえた上でも楽しめる場所でもあった。

 

 所謂人気店というだけあって、店内では人と神が同じ席、同じ酒を持って語り合い。時に笑いながらお互いを称える姿も見える。『冒険者』にとっての確かな安らぎの時間がそこにはあった。

 

 しかし、それらは『冒険者』にとってはである・・・・・・。店、それもそれが飲食店の類である以上、そこにいるスタッフが必要になる。調理場と給仕を担当する者がいなければ飲食店として機能させる事ができない。 

 

 そして、店内が賑やか・・・・・・盛況であるならばそれの応じた仕事の活動量も増えてゆくのが道理である。

 

「だぁぁぁぁぁぁ! 流石に久しぶりのバイトでこの忙しさはキッツイかなぁ!」

 

 少しくすんだ白髪の娘が器用に両手で複数枚の食器を持ちながら忙しなく店内を走り回っている。緑かかったウェイトレスの服装に身を包んだ他の同僚とおもわしき娘たちと共に忙しなく駆けてゆく。 

 

 臨時バイト故に期間を置くことの多いパイにとって急激な忙しさの中にいきなり放り込まれるのはかなりの重労働となる。しかし、もとより体力がおおいパイにとってはこの程度はそれなりに回せる内容である。

 

 決して、最高の仕事ぶりとは言い切れないがそつなくこなしていき、本日の営業を終えることができた。最後にある片付けも粗方終え、繁盛期では走り回っていた娘たちも思い思いに休憩を取っていた。

 

 そんな時、ウェイトレスの一人である、シル・フローヴァはバイトで入ってきているパイ・ルフィルへ当初から気になっていた事を尋ねる。

 

「今日も忙しかったね。所でパイはベルさんと知り合いなの?」

 

 シルに取っては以前の【ロキ・ファミリア】の宴会時に知った事実だが。パイとベルは一応は師弟の関係である。それと同時に、パイもベルから聞いていた同僚の奇行について聞き返す。

 

「そうなのかな。そういえば、ベルから聞いたんだけど・・・・・・シルはなんでベルに下着・・・・・・えっと、ブリーフを出したのかな?」

 

「シル・・・・・・貴女は何をしているのですか?」

 

「ちょっとまって、その視線は色々辛い物があると思うの、リューもアーニャもそんな目で見ないで!? そうだね、実はあの日は普通に時間通りに起きたの」

 

 不審者を見る目で同僚に見られるという社会的に危機的状況に陥ったシルは急いで当時の経緯を語りだす。

 

「そうね。あの日はとてもいい感じの快晴になりそうな天気だった・・・・・・快適な目覚めを感じつつも起き上がった私の脳裏に・・・・・・それこそ神の啓示が降りたの」

 

「日頃神様なんて腐る程見てるのに、今更神の啓示って言われてもニャー」

 

「気持ちはわかりますが、まだ話の途中ですよ、クロエ・・・・・・さぁ、続けてください。シル」

 

「そうだね。それでねその啓示の内容が・・・・・・「汝、この後に出会う少年にブリーフを渡しなさい」って内容だったの・・・・・・不思議に思いながらも身支度を済ませてから、タンスに仕舞っていたブリーフを取り出して職場へと向かったわ」

 

「ちょっと待つニャ・・・・・・!?」

 

 そんなシルの話に待ったを掛ける人物が居た。茶色のショートで癖のある髪の猫人の少女。アーニャ・フローメルという娘であり、周りからアホの子などと言われている茶目っ気のある人物である。そんな彼女の介入にパイが不思議そうに尋ねる。

 

「どうしたのかな? アーニャ?」

 

「おミャーら、誰も気づかないのかニャ?」

 

 アーニャの言葉に全員が不思議そうな顔をする。その態度にアーニャは深々とため息を吐く。

 

「おミャーら、キチンと聞くニャ・・・・・・なんで女の子の部屋のタンスから“男物の下着”が出てきた事にツッコマないのニャ!!」

 

 しばし沈黙が流れ、事の異常性に気がついたシルとアーニャ以外のメンバーの表情が驚愕に染まる。

 

「たっ、確かにそうかな!?」

 

「そんな・・・・・・言われるまで気づかなかったとは・・・・・・確か、シルは一人暮らしだったと聞いている」

 

「確かに・・・・・・普通に考えたらおかしい話ね」

 

「それが・・・・・・幼い男の子のニャら可能性としては・・・・・・」

 

「「「ないない、それはない」」」

 

 やや暴走気味な一人を除いてそれぞれに驚き最後にツッコミを入れる。そんな中でもシルはぶれる事なく話を続ける。

 

「まぁ、渡した時はやっちゃったかな? って思ったし、正直ベルさんもドン引きだったけどね」

 

「そりゃ、あの白髪頭じゃなくてもドン引きするニャ」

 

 むしろこの瞬間にも引いているアーニャにシルは不満そうな表情を浮かべる。

 

「むぅー、そこまで、言う事じゃ無いじゃない」

 

「しかし、実際に差し出されたら、二度と近づかないかもしれません。そう考えればクラネルさんはいい人なのでしょう」

 

 リューの真顔での言葉にシルを除く全員が頷く。その対応に涙目になるシル。

 

「でも、そのおかげで、ベルさんはトランクス派だという事がわかったんだよ! これは大きいとお思わない?」

 

「「「「いや、何が?」」」」

 

 男性物の下着の話という微妙な話題で離す乙女達、そんな中でシルは若干誇らしげに説明する。

 

「単純にブリーフ派。トランクス派。ボクサーブリーフ派。珍しいけど褌派などなどの派閥がわかるという事がどれほど重要かわからないの!?」

 

「逆にそれがわかった所で何が、どう変化するのかな?」

 

「・・・・・・言われてみたら何が変わるんだろうね?」

 

「いや、知らないかな・・・・・・」

 

 いきなりキョトンとしてしまったシルにパイは頭を抱えてしまう。

 

 実際、その場のノリとかそういう感じだったのかもしれないっと全員の興味が失せ始め、その雰囲気を察したのかシルは次なる爆弾を投下した。

 

「ひどいよ皆!! 私だって努力してるんだから」

 

「努力って・・・・・・具体的には?」

 

「毎日ベルさんにお手製のお弁当を渡しているの」

 

 落とされた爆弾――ベル・クラネルに毎日のように渡されている危険物・・・・・・もとい、シル特性のお弁当。その言葉に今度こそ全員の顔が青ざめる。

 

 豊穣の女主人の中であるルール。それは厨房にシルを入れないという事だ。

 

 理由は実に単純である。シル・フローヴァという娘。実はものすごく料理下手であるのだ。

 

 いや“料理下手”と言えば料理に失礼であろう、もはや味覚破壊物製造機と言い切ってもいいぐらいの腕前でありバイトにきた当初にシルの手料理を食べたパイなど腹を抑えながら悶絶した過去を持つ。

 

 その彼女の料理を毎日? 冗談ではない、今だに健康そうだが少年の胃は常に崩壊する危険性を孕んでいるという事だ。いや、もしかしたら自然に『耐久』が上がっていく可能性もあるので間接的に見れば、彼を助けていることになるのか・・・・・・。

 

「ひえぇぇ!? シル! バイト初日の時に私が倒れたの覚えているかな!?」

 

 顔を青ざめさせて悲鳴のような声を上げるパイ。

 

「シル。貴女はクラネルさんを殺す気ですか!?」

 

 珍しく怒気を顕にするリュー。日頃シルの味方になる事の多い彼女にしては本当に珍しいことである。

 

「そうニャ! あの白髪頭はちょっと間抜けだけど殺すには惜しいやつだニャ!」

 

 真面目な顔で聞き様によっては酷い発言をするアーニャ。

 

「シルは少し、自重したほうがいいと思うわ」

 

 やや呆れたように言うルノアに・・・・・・

 

「あのお尻になんかあったらどうするつもりニャ!」

 

 全然関係のない部分に怒りだすクロエ。そんな彼女にその場にいたシル以外の全員が同時に指差し・・・・・・告げる。

 

「「「はい、クロエ!! アウトォ!」」」

 

「みんなしてそこまで言わなくてもいいじゃないの!!」

 

 何でだニャ~!? っと叫ぶクロエと同時に悲痛な声で返すシル。味方だと思っていた職場の仲間からの大バッシングに本気で泣きそうになる。

 

 しかし、これほど言われても言い過ぎではないぐらいに彼女の料理スキルは壊滅的であり。何だかんだで味見という名の拷問を何回か受けている被害者からすれば、笑い話で済まされないのだ。

 

 あーだ、こーだと騒ぐ乙女達だが、彼女達は忘れていた・・・・・・確かに営業時間こそ終わっているが今だにかたづけがのこっている事。

 

 なにより、休憩中でもないのに油を売って騒いでいたら・・・・・・それは客観的にどう見えるか・・・・・・。

 

「お前たち・・・・・・随分と“元気”そうだねぇ・・・・・・」

 

 絶対的な強者の声に全員の表情から色が抜け・・・・・・錆び付いた機械のような緩慢な動きで、同じ方向を見る。

 

「なら・・・・・・さっさと後片付けに入りなぁ!! このボンクラ共ぉ!!!」

 

 女主人の恫喝と共に落とされた雷に悲鳴を上げて動き出す乙女達。

 

 結局“弁当”のくだりは流され、その後も白髪の少年の胃にダメージが入る日々が続くのだった・・・・・・。

 

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