ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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パイがまた落ちた話よりも少しだけ前の話です。

色々とオリジナルの二つ名にしました。まぁ、今更だとは思いますが……。


第二章 『暇神達の集会所は実は混沌なのかな?』

 神会。それは神々が暇を持て余し、ちょっと日頃の生活に変化を入れたい事から始まった会議であり、情報交換所であり、老人の病院の待合室のようなものである。少しばかりの誇張は入ったが、それも、言い過ぎとも言えない。時折会議場にて聞こえる会話も世間話程度であり、集まる口実になっている部分も確かにあった。

 

 三カ月に一度と言う頻度も悠久の時を生きる神にとっては一瞬の流れでしかない。そんな彼らに楽しみの一つが【命名式】であった。それは『冒険者』にとってもその冒険者の主神にとっても良し悪し含めた意味で厄介な行事である。

 

 そもそも、冒険者の二つ名はこの会議にて決まる。冒険者の特徴や【ファミリア】の特性など内的、外的要因を加味した上で着けられることが多い。

 

 神に異名を付けてもらえる。一見すると光栄な事のように思えるが、実際は違う。なにしろこの地上にいる神々の大多数は“ロクでもない”者達でしかないのだからだ。

 

 つまるところ、刹那主義な部分も多々ある神々の感性を考えれば、『面白ければ全て良し』を素でするのが神と言う存在である。

 

 故に、感性をフルに活用して“痛々しい”二つ名を考える者が大多数な神の宴において、『いい名前』ではなく『無難な名前』を勝ち取ることこそが重要であり高望みしない事が一番被害を少なくする方法なのである。

 

 そう思い返し、ヘスティアは大きく深呼吸を深く、深く行う。

 

 自らのたった一人の眷属、ベル・クラネルのLv.2昇格・・・・・・子供の成長を喜ばない親は居ないが問題はそこではなかった。五ヵ月でのランクアップ。これが問題であった。

 

 本来ランクアップができるかどうか。その当たりで冒険者の格は決まる。ゲームのようにリセットもできない以上、安全圏での狩りは必然になり、そのうちステイタスの頭打ちを受けることとなる。それでも危険を覚悟で前に進み続けた結果、己の壁を打ち破った猛者のみがその肉体を次の段階へと昇華させることができる。

 

 それが神々が言うところの偉業である。ベル・クラネルの五ヶ月は最短記録であった、アイズ・ヴァレンシュタインの一年を大幅に塗り替える結果となった。

 

 【ファミリア】と言う形式がある以上虚偽の申告を行うことは『ギルド』の意向に反することとなる。

 

(どう言い訳しようかなー)

 

 そんな神の宴に出ないと言う選択肢が無い以上は、参加しなければならない。それは眷属を持った者の宿命であり義務である。おまけに自分は零細ファミリアの主神であり、それが【オラリオ】において何の発言力もないと同義語である以上、命名式にて玩具にされても文句は言えないのだ。そのような事情があるからこそ、ヘスティアの思考と足は重い。心の底から行きたくないと思っているのだから当たり前のことである。なにより、絶対に“どうして短期間でランクアップできたのか?”その問答が確実に絡んでくる事がヘスティアに取って一番の不安要素であるスキルをどうやって隠そうかという部分が問題であった。【情景一途】の効果は確実に隠し通す必要がある。ならば他の理由がいるだろう。それに関しては考えがあるが、果たしてそれに皆が納得してくれるかどうか・・・・・・。

 

(とは言っても、「うちのベル君はミノタウロス数十体相手に殴られながら修行してたからね! ステイタスが上昇するのは当たり前さ! なにより最終的に恐怖心を覚えてなお、ミノタウロスに打ち勝つ! まさに英雄譚のようじゃないか、これを偉業といわずにどうするのさ! まさしく当然の結果さ!」なんて堂々と言っていいものか・・・・・・)

 

「・・・・・・さま――神様?」

 

「うぇ!? なっ、なんだい? ベル君」

 

「いえ・・・・・・先程からうんうん唸っていたんで・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 悶々と神の宴の事ばかり考えていたせいで唯一の眷属である白髪、紅眼のあどけない少年。ベル・クラネルの呼びかけすらも聞いていなかったようだ。ヘスティアは軽く息を吐いてベルへと微笑みかける。

 

 自分が今いる場所。本拠の廃墟とかした教会にある地下室。そんな広くも無い場所でうんうん唸っていれば気になるのは当然であろう、それが優しさと純粋さで出来ているような少年であれば尚の事である。

 

「ああ、ごめんよ・・・・・・ベル君。今度の神会で君のランクアップに伴って二つ名が命名されるんだけど、ほら、ボク達って零細ファミリアだろ? 発言権の薄い所の眷属って時に酷い二つ名を付けられたりするからさ・・・・・・それと、最短記録と言えるベル君のランクアップ・・・・・・例の修行の話にしても信じてくれないだろうなーって頭を痛ませていたところなんだよ」

 

「・・・・・・なるほど、神様・・・・・・迷惑かけちゃってすいません」

 

「何を言ってるんだい! ベル君はやるべき事をやっただけだよ。ボクは君が世間に認められる事に関しては誇りに思うくらいだよ! それに、修行に関して言えばトビ子くんが原因だしね・・・・・・あれから四日経って何もない所を見ると無事に帰れたみたいだしね」

 

 『ハンター』。パイ・ルフィル。彼女の名は此処【オラリオ】では有名であった。『便利屋』の愛称の方がしっくりする者も多いだろうが。ここ数日のうちに神々の間では別の“愛称”が囁かれている。その名は“トビ子”。奇しくも同じ呼び名をしているヘスティアだが、彼女自身はニックネーム程度の認識ではあるが他の神々は違う。悪意とは言えないが明らかに面白がっている節があり、その愛称はパイが【オラリオ】を去り『便利屋』が居なくなった次の日から爆発的に広がり始めた。

 

 きっと何処かの馬鹿が広めたのだろう。本来であればパイが嫌がる名前ではあるがヴェルフとヘスティアだけは今のところ許されている。

 

 話が脱線したが、『便利屋』として色んな所に顔を出しては雑用等の雑務の手伝いを行っていたパイはその人柄もあってか各【ファミリア】の主神や団員との接点が多い。

 

 以前にヘスティアが酒の席でミアハに聞いた話ではあるが、『冒険者』登録こそ一ヶ月前にした物のその前から恩恵は付与されているのでパイは【ミアハ・ファミリア】の眷属である。

 

 それが、他の【ファミリア】に入り込み信頼を得るというのがそもそもおかしな話だ。言うなれば【ファミリア】とはブランドである。鍛冶系で言うならば【ヘファイストス・ファミリア】とか【ゴブニュ・ファミリア】。医療系であるならば【ディアンケヒト・ファミリア】と一応ではあるが【ミアハ・ファミリア】もそれに該当する。

 

 なにより、【オラリオ】の最大二大戦力である【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】とも接点があると言う事だろうか、いがみ合う程ではないが水面下では互いに牽制し合うトップ2の間を行き来しているパイと言う人間は実に異質でありながらも、なにより人間味あふれる人物であった。

 

「そうですね・・・・・・おっと、神様! 僕、ちょっとヴェルフの所に行ってきますね。例の武器が完成したみたいなんですよ」

 

「おや? そうなのかい! 確かジン・・・・・・えっとジンなんちゃらの素材で強化するって言ってた奴だよね?」

 

 それは少し前の事、【雷狼竜《ジンオウガ》】との戦いで全損した【影刀】。そして、パイより託されたオーダーレイピア。もともとベルの相棒であった【影刀】を蘇らせようと言ったのはヴェルフであった。

 

 『ハンターズギルド』に持ち帰れない素材の数々をパイはヴェルフに譲渡し、それで『ベルの新しい武器を強化してあげて欲しい』と【オラリオ】から去る前に頼まれたヴェルフは即座に行動に移し、砕けた部分もできるだけ集めて【影刀】の強化及び、修復を図ったが、それ以上に修復不可能なぐらいに破損している部分が多く、これを基礎には出来ないことがわかった。

 

 次にヴェルフが目をつけたのがパイから渡されたオーダーレイピアだが、譲り受けた形見を簡単に使うとなると遠慮するべき部分もある。そのような意味で抵抗を覚えたヴェルフはダメもとでベルに相談した所あっさりと許可が降りた。拍子抜けし理由をベルに尋ねると、帰ってきた言葉はこうであった。

 

「ヴェルフは前に魔剣が嫌いっていってたじゃない? 武器はどんなに気をつけて使っても何時かは限界が来るんだと僕は思う、きっとこのオーダーレイピアだって何時かは・・・・・・なにより、ヴェルフなら今よりももっといい武器を作れる。“鍛冶”を使った初めての作品・・・・・・最高の武器にしてあげてよ!」

 

 これほどの信頼、信用を受けて引っ込むような誇りなどヴェルフにはなかった。そう、ヴェルフとリリルカの二人もまた【雷狼竜《ジンオウガ》】との戦いの中でランクアップを遂げていた。待望のアビリティでもある『鍛冶』を持ったヴェルフであれば今まで以上の領域に踏み込める。そして、その踏み込む時は今であると・・・・・・

 

「顧客にこれだけの啖呵を切らせたんだ。任せろ、ベル! 俺の、今できる最高の一品にしてやるよ!」 

 

 何処か獰猛とも言える笑みを浮かべ真っ直ぐにベルの瞳を見ながらもヴェルフは宣言し・・・・・・そして、そこから休息などの時間以外を工房に篭もり初めて触る雷狼竜の素材の感じを確かめながらの手探りの作業ながらも自慢できる一品へと鍛え上げた物が出来たという一報がベルの耳に入ったのがつい昨日の事であった。

 

 そうやって完成した新たなる武器を見に行こうとするベルの姿にヘスティアも自然と笑みを深くする。どこか頼りない感じが抜けきれない少年であるベルだが、その実力が高い事はよく知っている。少なくとも並の冒険者程度では初めてミノタウロスと対峙した瞬間にひき肉になっていても不思議ではないのだ。冒険者にとって必須とも言える生き残る能力をこの少年は持っている。

 

 頭が悪いんじゃないかと思えたパイの修行内容。そしてその内容を耳にしてなお生き残った眷属の存在が“どこか常識からズレている”っという事に気づいているが意図的にそれは考えないようにしている。

 

「おっと、じゃあ一緒に出ようか・・・・・・ベル君、ボクは全力でどんだけみっともなくとも、必ず不名誉な二つ名を君に送られないように戦ってくるぜ!」

 

 親指をたてながらサムズアップするヘスティアはベルの二歩ほど前を進む。気のせいか一瞬だけ、ヘスティアの顔が、若干の彫りの深い顔立ちのように見えたベルは、その男気が溢れ出す背中で語る主神の姿にベルは立ち止まり自然と敬礼を行うのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 バベルに特設された神の宴専用の間。バベル三十階で行われる神会。そこに多くの神々が出席していた。

 

 広くはあるが、シンプルな作りであり。中央にある円卓を囲むように、ランクアップをした眷属の親である神々が着席している。

 

 周りは大きな硝子で張り巡らされた室内は地上三十階と言う高所であり、晴れ晴れとし蒼天が垣間見える。

 

 どこからか聞こえる他愛のない会話。長い間、逢っていなかった者や数日前に会ったのに久しぶりと挨拶する者。趣味の話に華を咲かしている者等など、実に自由な行動をしている連中がひしめき合う中央。そこに赤毛の細目の神――ロキがマイクを片手にその光景を眺めていた。

 

「ロキ・・・・・・なんで君がそこに立ってるんだい?」

 

「んなもん、ノリや。ドチビもこの会がどういうもんか知っとるやろ?」

 

 笑うロキに頬杖をついて憮然とした表情を浮かべるヘスティア。そんな、日頃なら会う度に喧嘩をしている二人組が普通に会話している光景にほかの神々が色めき立つ。

 

「おいおい、ロリ巨乳とロキ無乳が普通に会話してるぞ?」

 

「明日槍どころか【猛者】の雨が降るんじゃね?」

 

「おいやめろよ、筋肉でオラリオが埋め尽くされるだろう!?」

 

「何それ怖い!?」

 

「そういや、またアレスの奴が戦争吹っかけようとしているらしいぞ?」

 

「あー、はい、はい。いつものことね?」

 

 どんどん会話の方向性がずれてゆくが、それも中央の台に置かれた小槌を叩く音で静まる。

 

「あー。取りあえずや・・・・・・ちょいグダったけんどな『神の宴』。始めるで――!!」

 

「「「「おおおおおおぉぉぉ―――!!」」」」

 

 ノリノリで雄叫びを上げる神々に対して、数名の神はため息を吐く。彼らの大半は後に行われる命名式に意識が持って行かれており、その不安材料は無論の事ながら“発言権”の無さから来る物である。

 

 そして、そんな気の重い神の気持ちなど無視するかの如く会議は進行してゆく・・・・・・近況報告やくだらない事を報告していくファミリア間の情報交換が進められてゆく。

 

「最近、ソーマの奴が落ち着いて、面白くない!! 趣味以外にも幼女とか幼児に囲まれてて羨ましい! ついでにロキのトコのレフィーヤたんとかペロペ・・・・・・んん゛っ・・・・・・」

 

「おい、馬鹿、それ以上はいけない!! しかし、あそこも、ソーマの趣味の酒造り以外にも色々とやり始めているよな」

 

「前に聞いたんだが、なんでもソーマん所が変わったのに『便利屋』が関与していたらしいぞ?」

 

「確かに。パイには前に世話になった・・・・・・所でさっき幼児、幼女が羨ましいと言った奴出てこい・・・・・・子供達には指一本触れさせんからな?」

 

「ソーマが・・・・・・あのソーマが親の顔をしているだと!!?」

 

「安心せぇ、ソーマ。こいつは、あとでウチがちょっと絞めとくさかいに」

 

「今の話に出てきた『便利屋』? 『便利屋』と言えば前に雑用を頼んだことがあるんだが。うちの眷属よりも仕事が早くて丁寧なんだよな」

 

「デメテルの所の新作の野菜を造るのにも関与したらしいぞ?」

 

「色んな所の【ファミリア】に顔出してるらしいな。タケミカヅチの所にも行ってるんだって?」

 

「ルフィルか? ・・・・・・ウチの子供達とも良くしてくれているぞ」

 

「おい、今すぐにでも『便利屋』にタケミカヅチの所に行かないように説得しようぜ」

 

「この天然ジゴロの所に言ってる時点で落ちてるかも知れねぇ。もう俺がペロペロするしかねぇな」

 

「おい、この変態を窓から追放しようぜ? あと、タケミカヅチの子供の二つ名の方向性が決まったな・・・・・・可哀想に」

 

「ちょっと待て、なぜだぁ!?」

 

 そんな、下らない会話が繰り広げられている中、暇を持て余した【ランクアップ】とは関係のない女神も静かだが、その戦いの火蓋を切っていた。

 

「おたくがこの場所に居るとは、確かおたくの所に【ランクアップ】した子はいないって聞いたんだけどねぇ・・・・・・フレイヤぁ?」

 

 褐色肌の女神、イシュタルはその双眸を細ませ隣にいる女神フレイヤを見る。流し目のようなその視線は扇情的とも、嫌味を含めたようにも取れる。そんな視線を涼しげに受けているフレイヤ。

 

「ええ、でも暇だったのよ。イシュタルの所は【ランクアップ】した子がいるんでしょ? ダンジョンの中で強敵と戦って生き延びたのかしらね?」

 

 フレイヤの含む言い方に明らかに嫌悪感を表に出すイシュタル。

 

「まったくだねぇ。なんでも弱いもん虐めをしていた所をうちの眷属が助けに入ったらしいねぇ」

 

「あら、そうなの? 私の眷属もミノタウロスと遊んでいたら覆面をしたアマゾネスの集団に襲われたらしいわ。まったく、弱いもの虐めしちゃった見たいよ?」

 

 挑発に次ぐ挑発。お互いに解っているのに見事にボカした言い方で弱みを握ろうとしているのがわかる。

 

「へぇぇ・・・・・・その襲われたのが、どいつかは知らないけど、それは不運だったねぇ。しかし、その後にミノタウロスが上層に現れたらしいじゃないか。その眷属が取り逃がしたんじゃないかいぃ?」

 

「そうなのよ、さっき言ったアマゾネスに襲われた時に取り逃がしちゃったみたいでね・・・・・・ほんと、何処の誰かはしらないけど、礼儀の知らない親の顔が見たいわね」

 

 怒りに歪む双眸とどこまでも冷ややかな双眸がぶつかり合う。女の戦いに他の神々は身を引いて飛び火を恐れている。

 

((((頼むからそういうのは他でしてくれよ・・・・・・))))

 

 怖い女性の冷戦状態の二人を遠目に長めながら、神々は嵐を通り抜けるのを待つごとく、座して待つ。

 

 そして、幾分かしてから落ち着きを取り戻した頃・・・・・・遂に神の宴の花型といえる命名式が始まった。

 

 【命名式】。神々が己の感性を使いこなし痛い称号を子供達にもたらそうと言う恐ろしい会議である。

 

 現実に多くの冒険者がその割を食っている場合も多い・・・・・・。まぁ、子供達にとっては案外と好評である場合も多いので、どちらかといえば子供よりも親が羞恥に絶望することが多い内容となっている。

 

「――決定。冒険者セティ・セルティ・・・・・・称号は【暁の聖龍騎士《バーニング・ファイティング・ファイター》】」

 

「「「「プギャ――――、イッテエエエエエェェェェェ!!」」」」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 【暁の聖龍騎士】なんて称号をつけられたセティ・セルティと言う冒険者。余りにもイタイを通り越して、いっそ酷いというべき名前にヘスティアの顔が青ざめる。

 

 しかも、このような痛い名前が自らの眷属にもつけられると思えば胃の痛みが激しくなっていく。

 

 そして、同じく顔を青くさせている神。ソーマも自らの眷属の番になって目元まで隠れている髪の隙間から汗を滴り落としながら事の行方を見守っている。 

 

「この子、ソーマの所の子なんだよな」

 

「やべぇ・・・・・・情報がすくねぇな・・・・・・」

 

「【煤の少女】でシンデレラ・・・・・・なんか在り来たりだよなぁ~」

 

「そういえば、ロキの所の【勇者】が気にかけているらしいぞ?」

 

「マジか!?」

 

「それなら嫁同士の殺し合いに勃発しそうだな・・・・・・いっそハンマー使ってるし繋がりで【戦鎚】でトールにするか?」

 

「【怒蛇】とセットとか可愛そうじゃね? しかもそれだと両方共死ぬぞ?」

 

「おどれら誰の家の人間の話しをしてんか、わかって言ってるやろな?」

 

「「「すんません、調子こきました」」」

 

 好き勝手に『ギルド』から提出された資料を見て口々にあーでもない、こうでもないと呟く神々。

 

 ちなみに“情報が少ない”というのは“ネタが少ない”と同義語であり。特にこの一年半の間に冒険者として活動する前はほとんどがフリーのサポーターであり、おまけに立ち位置はしっかりと見極めていた為に、目立つことなく生きていたリリルカの活動はいい意味で神々の目に映らなかった。

 

 そんな、可もなく不可もない冒険者である上に【神酒】と【解呪酒】と言う、【オラリオ】の中でもかなり名の知れた商品を製造しているソーマから“不興”を買いたい連中も少ないわけであり。結果的に無難な称号が送られるのは自然な流れでもあった。

 

 そして、そのリリルカの称号は先ほどの一番目立つ巨大なハンマーを基本にして当人が小人族であることを加味した結果。少しの変更を加えた名前で決定した。

 

「――決定! 冒険者、リリルカ・アーデ・・・・・・称号は【戦鎚《リトルトール》】」

 

 リリルカの称号が決定した瞬間。ソーマの表情が弛緩する。何だかんだで、子の称号というのは主神にとっても思う節もある上に、酒造りという“個人の趣味”以外に目を向けれるようになったソーマにとっては、以前のように無関心に徹することができない内容でもあった。

 

 そして、ヴェルフの番は大手の【ヘファイストス・ファミリア】の主神であるヘファイストス自らが持ち寄った称号がそのまま適応され。【不冷《イグニス》】となった。その理由を他の神々に尋ねられると。やや困ったように頬を掻く赤髪の女神の姿があったがその理由に関しては公言する事はなかった。

 

 次に、不幸にも神の怒りを買ったタケミカヅチは、理不尽な嫌がらせによって愛する子供の一人。ヤマト・命に【絶†影】という読みでは分からない、地味な嫌がらせを受ける事となる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」

 

 頭を抱えて絶望の声音を上げるタケミカヅチを見ながらゲラゲラ笑う神達をドン引きしたように見つめるヘスティアとヘファイストスとソーマ。

 

 最後に、ヘスティアの眷属。ベル・クラネルの番になった瞬間、どよめきが強くなる。

 

 五ヶ月でランクアップ。これまでの一年という世界最速記録を半年も更新した逸材。

 

 コレが噂にも話題にもならないはずがない。

 

「どういう訳か・・・・・・説明できるわな。ドチビ」

 

 冗談もなにもない無表情で問いかけるロキ。実際、“物語を脚色しているのを知っている”のはこの場では、ヘスティア、ヘファイストス、ロキの三人のみである、【大陸】のモンスターとの先頭に関しては『ギルド』への報告も成されていない。下手な混乱を防ぐためである。とはいえ、【ランクアップ】自体はしてしまった為その理由を語らなければならない。

 

 ミノタウロスの一件も雷狼竜の一件も。先にヘスティア達から聞いていたロキが、雷狼竜の部分を消して神会で説明するストーリーはもうできている。しかし、嘘のつくことに長けていない善神であるヘスティア。改めてヘスティアの瞳を見るロキ。そのロキの真顔の問にヘスティアはため息を一つ吐くと、嘘を織り交ぜた真実を語る。

 

「さっきも話に出た『便利屋』君の仕業だよ。嘘みたいな話だけど本当の話しさ、正直に言えば、ボクも他人に言われれば一笑した後に冗談かと問い直す。そのぐらいの内容だ」

 

「トビ子がかぁ? 詳しく教えろや・・・・・・どんな荒業使えばこうなる? 神の恩恵がどういうもんなんか、少なくとも理解しとるやろ? 少なくとも“普通”をはるかに超えた“無茶”が必要や。それを証明してみぃや」

 

 ロキが野次を飛ばす。ロキ自身が会話に入る以上ほかの神からは疑問を口に出すことは少ないだろう。それを見越しての行動だ。

 

「えっと・・・・・・恩恵を受ける前の少年であったベル君に修行をつけたらしいんだけど、最終試験として外界の『ブラッドサウルス』を二体同時にけし掛けたらしい・・・・・・三日三晩、隠れたりしながらどうにか討伐をしたらしいんだけど・・・・・・頭のネジが飛んでいるんじゃないかと思える修行の、始まりだったよ」

 

 フッ――っと鼻で笑うパイに神会の場が静まり返る。

 

「まじか・・・・・・えっ? 嘘・・・・・・やないんよな? 恩恵の受けてへんヒューマンの子供が? は?」

 

「うん・・・・・・わかる、わかるよロキ・・・・・・でも、冗談でもなんでもないんだよ・・・・・・続けるね。そして【オラリオ】に来たベル君とボクは主神とその眷属の関係になって・・・・・・半年ほど経った頃かな、『便利屋』・・・・・・ボクにとっては、トビ子君が現れた・・・・・・そして、それからベル君はヒドイ目に会う」

 

 そのヘスティアの会話の流れがなんとなく読めるのか、神々の間から「これ以上のことが?」とか「頭おかしいんじゃないの」などなどの声が聞こえる。

 

「そして、まずは・・・・・・これはロキも知っての事だと思うけど、ミノタウロスの上層への移動の事件・・・・・・この時、六階層でミノタウロスと出くわしたベル君と、【戦鎚】のリリ君はミノタウロスを迎撃、撃退こそ出来なかったけどロキの所の【凶狼】が来るまでの期間を生き残った」

 

「おう、ようおぼえとるわ・・・・・・あん時は確かにウチらが悪かった」

 

「こちらこそ、ベル君達を助けてもらっているからね・・・・・・それで、その後ベル君とトビ子くんの狂った修行が始まったんだ・・・・・・」

 

 ヘスティアの瞳から光が失われ。その様子に神会の雰囲気も暗くなる。

 

「初めは・・・・・・ミノタウロス、五体と同時に戦わせた。勿論善戦はしたらしいんだけど、帰ってきたベル君はそれはもう・・・・・・五体満足でこそあったけどヒドイ有様だったよ。人間の顔ってあんなにも膨れるんだね・・・・・・ふふふっ・・・・・・うん、それで、次は十体のミノタウロスと、その次は二十体のミノタウロスと・・・・・・最終的には持ち込んだポーション類が切れるまで。気絶してもトビ子君に回復されて、気絶しても回復されて・・・・・・最終的には牛を見るたびにトラウマで震えるほどに戦わせられたんだ。ウチのベル君は・・・・・・」 

 

 もう、こうなれば誰もが口を挟む余地などなかった。ヘスティアの光の失った双眸からは涙が流れそれだけで悲痛さを物語っており、理由を聞いたロキは後悔すら感じているのか苦痛に耐えるような表情でただ、黙っている。

 

「最後に。そのミノタウロスの強化種とLv.1の三人で戦い・・・・・・そして打倒した・・・・・・それが今回の【ランクアップ】の真相である。この理由じゃ、君達は不満かい?」

 

「「「「滅相もありません!! 気軽に聞いて申し訳ありませんでしたーー!!」」」」

 

 多くの神々が立ったままではあるが、テーブルに頭を擦りつけてヘスティアに謝る。

 

「いや、疑って悪かったわ・・・・・・うん、そら、【ランクアップ】せェへん方がおかしいわな・・・・・・うん」

 

 流石のロキも余りにも酷すぎる内容に、素直にベル・クラネルの【ランクアップ】を認める。己の所のアイズ・ヴァレンシュタインも、八歳という幼いながらにかなりの無茶をした結果【ランクアップ】を遂げたとは言え、そこまで鬼畜のような所業は行っていないだろう。

 

「まぁ、そのトビ子君が関わっていない場所でも、キラーアント耐久数時間連続戦闘とか、正直、うちのベル君もトビ子君に毒されている節もあるからね・・・・・・まぁ、人にあまり言いたくない理由は察してくれよ・・・・・・」

 

「せっ・・・・・・せやな・・・・・・」

 

 そして、【ランクアップ】の理由は知れ渡ったものの、名前を付けるとなるとこれがまた揉めた。

 

 世界最速兎となったベルだが、それは逆に言えば情報が限りなく無いということ、それだけならリリルカの時と同じなのだが、流石に彼処まで悲惨な経験を積んだ少年に対して、これ以上の重荷を背負わせたくないと思ってしまう程度の良心はあった。

 

 いっそ在り来りな内容でいいのではないか? 長い間の討論の末にそのような案が出てくる。しかし――

 

「あら・・・・・・それでもせっかく、これだけ苦労した子供なのでしょう? もうちょっと可愛い名前とかないかしら?」

 

 フレイヤの鶴の一声に会場は静まり、多くの物がその頭を悩ませる。そんな中でロキが挙手する。手を挙げたロキを興味津々で見つめる神々に対して不敵な笑みを浮かべると・・・・・・ロキはその名を告げる。

 

「ウルククスって呼んで白兎と書く。どや?」

 

 その言葉は会場に浸透してゆき、その名前を聞いたフレイヤも「斬新ね、いいじゃない」などとロキに賛同するように呟く。そのフレイヤの言葉を皮切りに多くの神がその二つ名を押してゆき、今までの時間がなんであったのかと、問いたくなるほど簡単にその二つ名で決まったのだった。

 

「【白兎《ウルククス》】で決まりやな! なんでそう読むかに関してはツッコミは無しや! ええな!!」

 

「「「「「イェーイ!!」」」」」

 

 新しい部類のネーミングセンスに神会の会場は今日一番の盛り上がりを見せたのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「白兎・・・・・・ウルククスですか?」

 

 ベルとヘスティアが本拠に帰宅後。夜も深くなったころ少し遅めの夕食を取っていた。話す内容は当然、神会での出来事であり。ヘスティアからの伝えたれたベルの二つ名の名前にベルは苦笑を浮かべる。

 

 二つ名が最悪痛い系ではない物であった事で安心した表情のヘスティアだったが、その名前の由来を理解して微妙な表情を浮かべる眷属に困ったような笑みを返した。

 

 以前の【青熊獣《アオアシラ》】の一件で数多くの【大陸】のモンスターのイラストと名前付きの資料(パイ制作)は今も【ロキ・ファミリア】の資料室の一角に保存されている。

 

 それを知っているベルとヘスティアはロキが、神々の感性に触れそうな範囲で名前を流用したのだろうと考えていた。

 

 まぁ、【大陸】のモンスターの名前など知ってる方が少数であるし、モンスターの名前を付けられたと考えれば微妙だが、新しいジャンルの名前と考えればオシャレにも思える。

 

 なにより兎繋がりだというのだから、神の宴という場を聞く限りではかなりの当たりだと言えるだろう。

 

 じゃが丸君のうす塩味を咀嚼しながらもベルはその事に関しては納得させ、次に気になったことをヘスティアに尋ねることにした。

 

「そういえば、リリとヴェルフもランクアップしたから二つ名が送られたんですよね?」

 

「うん。リリ君はハンマーを使って戦うことから【戦鎚】と書いてリトル・トール。ヴェルフ君は以前からヘファイストスが決めていた名前があったらしくてそのまま採用になったよ【不冷】でイグニスと読むそうだよ。ただタケの所の・・・・・・ああ、僕の神友のタケミカヅチの所の子のヤマト・命って子が割を食ったみたいでね・・・・・・ぜつえいって二つ名なんだけど、【絶†影】って書くんだよ・・・・・・流石のタケも悲痛な声で叫んでいたなぁ」

 

「うわぁ・・・・・・命さん・・・・・・可哀想に・・・・・・」

 

 しみじみと語るヘスティアの言葉に、神の宴というのが大体どういうものなのかを理解してしまったベル。恐らく面白いもの好きな連中が集まっているのだろう。そうでなければ【絶影】という格好良い系の名前の間に“†”を入れる必要性を感じない。世の中の神という存在は恐ろしいものである。

 

「あれ? ベル君はタケの所の子を知っているのかい?」

 

「ええ、パイさん繋がりで何度か逢っています」

 

「ああ・・・・・・そういえばタケが自分以外の戦い方を覚える為に『便利屋』に模擬戦を依頼しているって言ってたね」

 

 タケミカヅチは武神であり、戦闘技術を眷属に教えている。技能だけで下手な冒険者を圧倒する実力であるタケミカヅチだが、眷属のことを想い、同門の流派同士の模擬戦では手の内が分かり、能力の向上が低迷する恐れを感じて“刺激”として『便利屋』事、パイに依頼を出した事があった。

 

 そして、その刺激は良い方向に子供達を成長させるきっかけとなったと、ヘスティアは聞いている。先日の『ハンター』お別れ会の時はバイトの都合で顔を出せなかったが、残念そうな顔をしていたのが印象に残っている。

 

「結構いろんな所で色々とやってたんだよね・・・・・・トビ子君の奴・・・・・・ああ、そうそう。所でベル君。夕飯の後でいいから、君が朝から取りに行った剣を見せてくれないかい?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そして、夕食後の食器の片付けを終え、暖かい茶で一息つくとベルが布で巻かれた新たなる相棒を手にしてくる。その包みを取るとそこには翡翠のような色合いの美しい刀剣が姿を現した。

 

 「【雷鳴刀(ジンタン)】だそうです。今できる最高の物を作ってくれました」 

 

 相変わらずのネーミングセンスにヘスティアは苦笑を漏らす。その様子にベルも苦笑いを浮かべながらこの刀を受け取りに行った朝のことを語る。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ヴェルフから手渡された剣は見事な物であった。淡い緑と青のコントラストが刀身に映る一品で、武器と言うよりも宝石のような輝きを放つ。オーダーレイピアの対でありながらも色彩が違う刀身と違い。こちらは【影刀】と同じく反りのある刀の系列の刀身を同系統の色彩で纏めている。そして、前回からの改良点なのか刃渡りが【影刀】同程度だが。刃の厚みが増している。

 

「前の【影刀】は振るい手に合わせて作ったが、今回は丈夫さが売りだ。ランクアップした以上は前回と同じ武器のような取り回しもできないだろう? 重さこそ増したが他の性能は折り紙付きって奴だ。銘は【雷鳴刀《ジンタン》】だ。大事に使ってくれよ?」

 

 やや憔悴した感じだが、確かな手応えに笑みを作るヴェルフ。そのヴェルフの信頼に答えるように力強く頷くベルだが、その後にある事に気づく。

 

「あれ? 気のせいかなこの武器・・・・・・なんかピリピリするような・・・・・・」

 

 ベルの疑問にヴェルフが苦笑する。

 

「まぁ、気になるよな? 俺もその辺りの知識が少なくてな。あの雷狼竜の素材を使うと何故か電流をまとう性質があるんだ」

 

「ええっ!? それじゃあ・・・・・・振ったら僕も感電するんじゃないの!?」

 

 驚くベルの様子に笑い声で答えるヴェルフ。不安顔で見つめてくるベルにひとしきり笑った後に説明する。

 

「大丈夫だ。基本的には振っても、振るい手には電流は流れない。それに、俺にしかできないスキルによる方法があるだろ?」

 

「ああ・・・・・・もしかして魔剣の・・・・・・でも」

 

「まぁ・・・・・・思わない所がないって言えば嘘になるけどな・・・・・・それでも、トビ子が託してベルが望んだんだ。俺が鍛冶師である以上、依頼主にとっての最高を求めるのは当然なんだ・・・・・・それにコレは魔剣じゃない。使い手と共に戦う為の武器だ」

 

 使い手を残して砕け散る存在である魔剣を否定したい気持ち事態はいまだにヴェルフの中にはある。しかし、そんな己の矜持を偽った形になったにも関わらずに笑顔をベルに向けるヴェルフ。

 

「なにより、これを打ってて思っちまったんだ。“魔剣に固執する連中”に嫌気をさした身だが、そのお陰で、【大陸】の素材に触れられたと思えば・・・・・・なんか、こう言うのも捨てた者じゃないんじゃないかってな……まだ納得出来てるわけじゃねぇけど……な」

 

「ははは・・・・・・そっか、ヴェルフがそれでいいなら、ありがたく使わせて貰うね」 

 

「……おう!!」

 

 ニカッと笑うヴェルフにベルもまた釣られて笑顔を浮かべるのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 説明を終えたベルにヘスティアも優しげに微笑む。以前にヘファイストスから愚痴のように聞いていた眷属の話としてヴェルフの話を耳にしていたヘスティアとしても凝り固まった思考を持った眷属の事を心配している神友の存在を思い出す。

 

 以前にその神友。ヘファイストスにベルの武器を打って欲しいと頼み込んだが、今になって思えばそれと認めなかったヘファイストスとパイに感謝したい気持ちを感じていた。なにしろ、こうして新たなる力とともに成長してゆく子供を見れる事こそがヘスティアにとっての喜びであるからだ。

 

 今だに成長途中のベルにとって、武器もまた同じく成長の理由になるだろう。共に歩める仲間を見つけ、駆け出してゆくベルの成長に関与しようとしていた事自体も深い思慮を持って考えていかなければならない。ヘスティアに取って大事な眷属であるからこその思いも深い物となっていた。

 

 

――――――――――――――

 

 

「「「「では、かんぱーい!」」」」

 

 神会から一夜明け、ベルとリリルカの姿は『豊穣の女主人』のテーブル席にあった。【ランクアップ】の報を聞きつけたシルとリューが祝いの席を設けてくれたのだった。

 

 乾杯の音頭と共に『豊穣の女主人』にてシル曰くささやかな祝宴が始まる。音頭と共に鳴らされたジョッキの中に入ったエールなどの飲み物が揺れる。

 

 テーブルの一つに並んだ料理の数々。本来であれば仕事中であるシルとリューも普通に着席しており。聞けばミアから“貸して”やるらしく。厨房に視線をやれば力強い笑みを浮かべたミアと視線が重なる。

 

 その大人の心遣いにベルも軽く頭を下げてシルとリューに向き直る。祝う方法も千差万別・・・・・・ベルとリリルカもありがたくミア達の行為に甘え、今日は羽目を外して財布の紐を緩くしようと心に決める。

 

「しかし、三人でパーティーを組んで、同時にランクアップ・・・・・・珍しい事ではありませんが、一体どのような偉業を成し遂げたのですか?」

 

 リューの質問に、流石に【雷狼竜《ジンオウガ》】の戦いの事をいう訳にも行かずやや、はぐらかす。とは言えど“強化種であるミノタウロス”の話をすると納得の表情を見せる。

 

「なるほど・・・・・・ミノタウロス・・・・・・それも、強化種をですか・・・・・・クラネルさん達は強運の持ち主ですね。強化種に遭遇し、それに打ち勝つなど・・・・・・並大抵という表現すら霞むほどの、正しく偉業にふさわしい」

 

 何処か納得したように頷くリュー。そんな彼女の様子にシルが横から声をかける。

 

「ねぇ、リュー? その強化種ってそんなにすごいの?」

 

「ええ、並の冒険者が相手では非常に危険な個体です。シルには今ひとつ理解しづらいと思いますが・・・・・・」

 

「ふーん……そんな怖いモンスターを倒しちゃうなんて、ベルさんはすごいんですね!」

 

 そう言って、目の前に置かれた水を口にするリューとはしゃぐシルそんな二人を眺めながら、リリルカは味の違う果実酒の水割りを飲みながら話を聞いている。

 

「今日はヴェルフ様が来れずに残念でしたねベル様……それに、確かにあの戦いはどちらが勝っても負けても不思議ではありませんでした……」

 

「その個体の推定Lv.は不明ですが、もし討伐失敗していたとすれば、元々のLv,2であるミノタウロスよりも高いLv,でギルドから討伐部隊がダンジョンに送られる事になるでしょう……」

 

 リリルカのつぶやきからリューが続ける。今回の事件では幸いな事に死者はなかったらしいが、その死者の中にベルの名前が入っていても何の不思議もない。リューの「討伐失敗」の言葉にベルの表情に影が差す。

 

「そうですね。僕も今にして思えばよく勝てたと思ういます」

 

 魚料理を飲み込んだベルが真剣な表情でリリルカとリューの言葉に頷く。実際の所、ベル自身もパイから渡されていたアイテムポーチとその中身が無ければ勝てない相手であった。そういう意味でも『ハンター』と知り合い、師事した事で生き存えたと思うと、遅まきながらに背筋に冷たいものを感じる。

 

「いや……リューさんの言うとおりですね。恥ずかしながら僕達の実力だけで勝ち取った勝利とは言い切れません・・・・・・」

 

 強ばったベルの表情に、リューは少し困ったように眉を寄せる。

 

「すいません。クラネルさんにそんな顔をさせるつもりではなかった・・・・・・私の不用意な発言で嫌な思いをさせてしまったようだ」

 

「えっ!? あっ・・・・・・違うんです!? ・・・・・・その、そう言う意味じゃなくて・・・・・・えっと・・・・・・リリィ~」

 

 ベルの情けない救援要請にリリルカは小さく息を吐くと理解しやすく説明をする。

 

「リュー様・・・・・・パイさんがたまに、ここへバイトに来られているらしいですが。パイさんって結構、堅剛主義といいますか安全第一といいますか。そういう所がありませんか?」

 

 リリルカの問に対して考えるリュー。そして思い当たる節があるのか軽く首を縦に振る。

 

「続けますね。そんなパイさんは実はベル様のお師匠に当たる人物でして。弟子思いなパイさんがその日もベル様にいくつかのアイテム・・・・・・爆発物などを携帯させていたのです」

 

 そこまで話すと流石に察したのかリューとシルの表情が和らぐ。

 

「そのアイテムに助けられたという訳ですか・・・・・・なるほど、しかし、道具も使用してこそ、真価を発揮するものです。それもクラネルさんの実力の内という事では?」

 

「・・・・・・リリもリュー様の意見に大賛成ですよ。ベル様は自信が無さすぎるんですよ」

 

 リリルカの呆れたような表情で言われた言葉に渋面を作るベル。リリルカは知らない事ではあるが、嘗て田舎の村で文字通り地獄の鍛錬を行っていたベルに取って“過信=死亡フラグ”であり必要以上の自信などベルにとっては、不要と言い切れる程度の物と化していた。

 

 恩恵も受けていない一般人に、外のとは言えど、ブラッドサウルスをぶつけるなんて鬼畜な所業を、遠慮なく行うのがパイという人間である。それも、適当にしているのではなく、やり方を工夫すれば勝てる相手を見定めてから実践する辺り。正直に言えば“頭がおかしい”と言わざるを得ない。

 

 そんなスパルタな彼女の修行に置いて、過信などすればどうなるか・・・・・・情報を調べる事をその時、有頂天となったベルがパイの忠告を無視し、その後、そのベルの鼻っ柱をへし折られた結果・・・・・・ベルは幼児退行を行う程の精神的に深い傷を負い、その結果が安全の為の努力を惜しまなくなった。

 

 とにかく、そんな訳で実力以上の過信をしないベルは現状の状況にそれなりに満足はしているし、仲間と共に成長できている感覚に、確かな達成感を感じていたが、それを手放しで喜べないという複雑な心境となっていたのだ。

 

「ありがとうございます。リューさんもリリも・・・・・・さて、じゃあ気を取り直して、食べて飲みましょうか!」

 

 だが、このまま暗い気持ちのままの食事など更にごめんだと、そう割り切って、明るい声音で告げるベル。気持ちを切り替えたベルに他のメンバーもそれぞれに時間を楽しむ・・・・・・だがそんな楽しい時間が無粋な客によって妨げられる。

 

「おう、お前さんが【白兎】か・・・・・・あの、『便利屋』の弟子って聞こえたが・・・・・・それは本当か?」

 

 声をかけてきた男は悪人面で男臭そうな顔立ちの男であり、名をモルドと名乗った。そのモルドはベルの前に立つと、突然頭を下げる。その行動に目を白黒させて困惑するベルと不思議そうにそれらを眺めるリリルカ達。

 

「お前の師匠をどうにかしてくれぇぇぇ!!」

 

「すいません! あの人、今度はなにやらかしたんですか!」 

 

 モルドの悲痛な声に即座に椅子から飛び出す勢いで立ち上がり、そのまま床に土下座しながら理由を尋ねるベル。その動きにまったく躊躇はなく。いきなりのベルの行動にシルとリューは驚くものの、リリルカは何時もの事と言いたげに果実酒を口に含む。 

 

「飯食ってる時に悪いとは思ったんだけどよぉ! 聞いてくれよぉ! あの『便利屋』がリヴェラの街に来るたんびに「今日は半額デーじゃないのかなー、ないのかなー」って言ってくるんだよ。訳がわかんねぇよ! なんだよ、『半額デー』って、しかも最近は左腰についているポーチをひたすら小突きながら話してくるんだよ!! 遠巻きに脅されてるんだよぉ・・・・・・どうにかしてくれよ、【白兎】よぉ!!」

 

 大の大人……それも悪人面した男の悲痛な相談にベルの表情が引きつる……というよりも、話題の内容がベルの理解を超えており困惑したような感じの対応で返す。

 

「はっ・・・・・・半額デー? えっと半額って事は品物の値段を半分の値段にしろって事ですよね・・・・・・なんでそんな事を?」

 

「おそらくですが・・・・・・迷宮の楽園にあるリヴェラの街は物価が酷く高い。命あっての物種といえど、半額でも地上で定価で支払ったほうが安いぐらいです・・・・・パイはバイトで手伝ってくれた時などに、一緒に買い物に行く時があるのですが・・・・・・よく値切っていた記憶があります」

 

 リューの説明にベルはなんとなくだが、状況を理解する。おそらく、あまりのぼったくりな商売をしているリヴェラの街の店に怒りを燃やしたのだろう。なんというか実にはた迷惑な客である。

 

「それにしたって。半額はないでしょう・・・・・・えっと、モルドさん、でしたよね。僕にできるかどうかはわかりませんが。次にパイさんにあった時に話してみます」

 

 そのベルの言葉に悲痛な顔から笑顔を浮かべて顔を上げるモルド。

 

「すまねぇ! お前はいい奴だなぁ・・・・・・なんか困ったことで力になれることがあったら声をかけてくれよ! っとすまんな祝杯の途中で、じゃあな頼んだぞ、【白兎】よぉ!」

 

 ベルの返答に本気で感謝しているのか、強面の為、やや怖い笑顔で感謝の言葉を告げるモルド。そしてそのまま彼らはお互いの席へと帰ってゆく。

 

「ベル様・・・・・・良かったのですか? パイさんが地元に帰ったって言わなくて」

 

「うん、なんでかな・・・・・・また、パイさんに出会える気がするんだよ。それはもう、かなりすごい高確率で、巻き込まれる形で・・・・・・」

 

 パイが【大陸】に帰った事を知っている四人はモルドの不安は解消されていることを知っているが、ベルの言葉にその可能性を考えてしまう。

 

 なんというか、彼女に関しては不思議と常識をあてにしてはいけないと思えてくるのが不思議であり、その常識の範囲外のさらに斜め上を行くのがパイ・ルフィルという娘である。

 

 大体、戻る手段が有るという事は、こちらの来る手段も当然あるという事である。どのような方法かは分からずとも、彼女がコチラに・・・・・・【オラリオ】に来てタダで済むはずがない。

 

 常に元気なトラブルメーカー。それがパイであり、そんな彼女の存在を憎らしく感じていない人々に取って、パイの帰還を望まぬ人などいないのだから・・・・・・。

 

「まったく、愛されていますね・・・・・・あのハンターさんは・・・・・・」

 

 天井を見上げ果実酒を置いたリリルカがつぶやく。その口元には笑みが浮かんでおり、昔では考えられなかった優しげな瞳を遠い友人を想いながら閉じるのであった。

 




友人とMHXXを久々にプレイしましたが、DS自体が壊れてセーブデータがお互いに無い状態から再スタート。
とりあえず、上位に行く前に下位でもそれなりの装備にしようと、個人的にはいつもの如くキメラ装備を作ったまでは良いのですが、友人は前世でイャンガルルガを虐めていたのかと疑いたくなるほどに黒狼鳥の甲殻が出ませんでした。18頭ほど狩猟してようやくイャンガルルガ装備一式作った後にDSの中にメモリーカードが無い事に気付き、お互いに心が軽く折れました。

その後、呪われているのではないかと思えるほどに出ない甲殻を再度集めきってG級まで行きましたが。いつかネタにすると思います。
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