ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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最初に謝っておきます。
私は、変なキャラしか作れません。そんな私がオリジナルの神を出します。
オリジナルとは言いましたが一応ちゃんと存在する神様の一柱なんですがどうしてこうなったのか……。
原作に名前は出ていないと思うのですが勉強不足でしたらすいません。

さて、どうしてこんな変なキャラが出来たのだろうか……。


第二章『【大陸】でも【オラリオ】でも変な奴に出会うのは運命なのかな?』

 『豊穣の女主人』での祝賀会の翌日。ベル・クラネルにとっての初めての経験・・・・・・神々からの勧誘は、ベルの顔の表情を強ばらせるに十分な物であった。目の前には男神が三柱がいる。ベルもとって知り合いでもなく、馴染みのない神々が各々の欲望に忠実になって話しかけていた。

 

 やや細いが路地裏のような薄暗さもなく、朝の時間という事もあってそれなりの人々が通り過ぎるであろう通路ではあるが、今はベルを含む4人の姿しかない。その内の三人……否、三柱の神はそれぞれに声をかけてくる。

 

「ねぇねぇ、ヘスティアの所なんて辞めてうちに来なYO!」

 

「ベェルきゅぅん、君の為に衣装(女性用)を持ってきた、あの酒場での感動を私にも一度くれないか!」

 

「ペロペロしていい? ペロペロしていい? いいよね!! ついでに改宗してよぉう」

 

「すっすいません! 僕はヘスティア様の所で満足していますんでぇぇ・・・・・・失礼しますぅ!」

 

 狂気すら感じる神々の勧誘の光景にベルはその顔に軽い恐怖の表情を浮かべながらも考える。いつから自分は変態を寄せ集めるような体質になってしまったのか。これが【ランクアップ】を果たした冒険者の第一の試練だというのならば、考えものである。そう、ベルは思いながらもどうにか離脱を図り、成功する。そんな事を本拠から出て四度も行っている。

 

 実際の所は、五ヶ月という短期間での【ランクアップ】という、驚異の成長を見せるベルを興味半分、奪う気半分の神々が各々の自由に声をかけてくるのだが、ベルにとってはミアハやヘスティア、タケミカヅチなどなど、神格者であり善神である神との縁が強く。このような変神共に絡まれる機会など、今まで皆無であった。

 

 特に顔芸が得意なのだろうか、よく声をかけてくる神など、あれほどイヤらしい目つきができるのだろうか……っと疑問に覚えるほど生理的に受け付けられない顔で女装を勧めてくる男神など正直に言えばホラー要素しかない。大体からになぜ、女装を進めてくるのか・・・・・・理解に苦しむベルはそれでも捕まりたくない一心で神々の追跡を躱してゆく。

 

 一躍、時の人となったベルは何処か逃げ込める場所を探して【オラリオ】の街を駆け抜け――そして、さらに三度の神々の勧誘を切り抜け……どうにか逃げ込んだ先で、憔悴しきったベルと、そのベルを苦笑しながら眺めているハーフエルフの少女。

 

「お疲れ様だね。ベル君……まぁ、流石に私も、この短期間で【ランクアップ】報告をベル君からされた時は驚いたしね」

 

 そう言うのは『ギルド』の職員であり、ベルのアドバイザーである、エイナ・チュールは静かに己が作成した資料を束ねる。ベルが逃げ込んだ先。『ギルド』内にある個室に紙の触れるかすかな音が響き、その所作に淀みはなく、彼女がかなりの期間をギルドの職員として職務に当たっているかを伺わせる物であった。

 

「神様からは注意されていましたけど、まさか、ここまで勧誘が多いとは……所でエイナさん。そんなに、この短期間での【ランクアップ】というのはそんなにも凄い事なんですか?」

 

 エイナの言葉に辟易したようにぼやいたベルだったが、すぐにこうなった原因である【ランクアップ】について尋ねる。

 

「そうだね……はっきり言って、Lv.1からLv.2に上がる事すらできず、引退する冒険者も少なくないよ。そもそもの“偉業”ってのが大半が命懸けってのもあるしね。それにしても、六階層での出来事といい、九階層での出来事といい……ベル君はミノタウロスと随分と縁があるんだね」

 

 エイナの放った『ミノタウロス』の単語にベルは苦笑いを浮かべる。それ以外でもかなり世話になっており。いつかお礼に参らないといけないなと暗い考えを心に浮かべる。

 

「今回の“冒険”は大成功に終わったからって油断しちゃダメだよ? “冒険者は冒険しちゃダメ”。ルフィル氏みたいなことしちゃダメだからね。それで、話は戻すけど……そんな偉業を乗り超える為、『冒険者』は日々ダンジョンに潜って【アビリティ】を鍛え、【ステイタス】を向上させていく訳なんだけど、普通はこんな短期間に上がらないんだよ? まぁ、ベル君のやり方に普通を適応させる方が問題あるんだろうけどね」

 

 何処か疲れたような表情で手元の資料。『冒険者。ベル・クラネルの活動記録。』の表紙を指でなぞる。数日前に【ランクアップ】を果たしたベルの為にその日一日掛けて制作された神会用の資料。

 

 内容もなかなかにぶっ飛んだ物であり、曰く、一日、ソロで73000ヴァリス稼いだとか、数時間キラーアントを“呼び出し”狩り続けたとか。これは別口の冒険者の証言ではあるが、曰く・・・・・・死んだモンスターを執拗にナイフで傷つけていたなどなど。後者は噂程度であるが、前者に関しては換金所で担当したギルド職員の証言もあって真実として語られている。エイナの同僚のミィシャ・フロットもその現場を目撃しており。その時の事をこう語っていた。

 

「エイナが担当している弟君さ……冒険者だよね? なんかサポーターみたいなでかいバッグに魔石詰め込んできたみたいなんだけど……」

 

 本気でドン引きしていた同僚の顔に思い出し時間が経った、今でも笑いそうになるエイナ。ちなみに、その魔石に関してはベルがひたすらモンスターを狩り続け、パイから貸し出されていた中身が空になった『アイテムポーチ』に詰めるだけ詰め込んだ魔石をダンジョンから出る前に、同じく『アイテムポーチ』に入れていたサポーター用のバッグに移し替えただけなのだが、事情の知らない人間からすればサポーター並の荷物を持ったままそれだけの魔石を確保するまで戦っていた事になる。はっきりと行ってマトモな冒険者のする行動ではない。

 

「確かに、最近一緒に行動している二人にも、真顔で諭されて……自分の行動に疑問を持ち始めています」

 

「ベル君のパーティ? たしか、今回の神会で【ランクアップ】報告された。【戦鎚】。リリルカ・アーデ氏と。【不冷】ヴェルフ・クロッゾ氏だったわね。アーデ氏はミィシャ。私の同僚ね。彼女の担当だったはずよ」

 

 とはいえ、っとエイナが小さく呟く。もともと、それなりの下積みのあるリリルカやヴェルフは“機会”さえあれば【ランクアップ】は可能であった。今回はたまたま三人の“偉業”だったというだけの話であった。

 

 そう、【雷狼竜《ジンオウガ》】の件は今だに多くの【ファミリア】や『ギルド』にも報告してない案件であった為、今回の神会ではベルは“三人で協力して“ミノタウロスの強化種”を死闘の末打倒した。”っというストーリーを構築し、知り合いにはそのように通していた。

 

 つまり、期間的な意味でリリルカとヴェルフの【ランクアップ】は不思議ではなく、むしろ、本来であればそれほどの時間が掛かる【ステイタス】の構築を短期間で可能にした方法……それこそが神々が最も知りたい要素である訳だ。

 

 ちなみに、神会でヘスティアから直接話しを聞いた神にとっては、ベルは『便利屋』という頭のヤバい奴に“魔改造”された被害者と言う認識をされている。

 

「はぁ……とにかく、僕の事が飛んじゃうぐらい凄い事が起こらないかなぁ……」

 

 そうぼやく少年。ベル・クラネル……彼の願いはこのあと叶えられることになる。それも、かなり悲惨な意味で叶えられることになるのだが、今のベルにそれを知る事はできないのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 茶柱が立っている……その湯飲みの中に浮かぶ縁起のいい光景にタケミカヅチは微笑みを浮かべていた。本日はバイトもなく子供同然の眷属達もダンジョンに潜っており、極東の建物が基礎になっている本拠の縁側で貴重な休息を満喫していた。

 

 きっと、今日は良い事があるのだろう……などと、考えていたタケミカヅチは視界の端に映った光に視線を向けると、その光景にタケミカヅチは怪訝そうに眉を顰めた。それが神が地上の降りてきたものであるだと気が付くと、嫌な予感がタケミカヅチの胸に沸き起こる。

 

「ふむ……確かめるか……しかし、何故か嫌な予感がするな」

 

 幾分か冷めたと言えど、未だ熱を持つ茶を流し込み立ち上がる。それから、軽く身だしなみを整えてから本拠の門を抜けて駆け足で光の柱の方向へと駆け出すのであった。

 

 そして、同時刻に異変を感じた神物が一柱いた。彼女は少しばかり憂鬱な気分で過ごしていたが、日課ののぞき見を行っていた時にある人物を見つけた事により明るさを取り戻す……と同時に顔をしかめる。

 

 服装こそ以前とは違うがその顔と低身長に見覚えがあり、なぜか虚空から急に飛び出してきてオラリオの地面に顔から激突した瞬間を見てしまったのだ。そんな『ハンター』の娘は共に落ちてきた白猫のような生き物と同じ動作で首を左右に振ると、少しげんなりとした仕草で膝をつく。

 

 おそらく、意図して『こっち』に来た訳ではなさそうだが、そんな事は関係のない話でしかない。なにより顔を顰めた理由はそこではない。そんな知り合いの娘。パイ・ルフィルの頭上から降り注ぐ光は美の女神であるフレイヤ自身もよく知っている物……神の降臨のそれであった。

 

「誰よ……なんだか嫌な予感がするわね……変な奴じゃなかったらいいけど……」

 

 そうつぶやくと、軽い足取りでバベルに存在する専用のプライベートルームを出る。そして、数分後に主神の姿が見えない事に気づいた眷属が慌てふためく様子にため息をつく【オラリオ】最強の姿があったのだった。

 

 そして、再度同じ行動によって【オラリオ】に戻ってきたパイ・ルフィルはと言うと……アイルーのシロ共々、呆然と目の前の光景を前にして動けずにいた。

 

 降臨と言う言葉がある、この場合は文字通り“神が“天から”降りてきた”と言う意味での降臨である。

 

 どこか神々しい光の柱と共にゆっくりと降りてくる姿は確かに神々の名にふさわしく、神秘的な光景であるだろうし、降りてくる神も男神であり神々は総じて美形であり、その例に漏れることなくその男神も美形であった。

 

 しかし、パイが呆然としてしまったのはそれが原因ではない。唐突な登場も原因の一つではあるが最大の問題はその男神の一部分、布をそのまま身体に身にまとった様な・・・・・・文献に残る神々のような布をまとっただけの服装に身を包んだその一部分・・・・・・股間を大きく膨らませた男がゆっくりと光を帯て降りてくるのだ。

 

 スカート状に広がった衣服では見上げれば本来は丸見えであるが、不思議な力が働いているのか膝より上が闇に覆われ確認ができない。無論、見たい訳ではないのだが見上げれば嫌でも視線がそこに向くのだ。

 

 それはともかくとして、とんでもない変態の登場である。微笑み地面に降り立った変態は大きく伸びをすると、ソコでようやくパイに気がついたのか大きく両手を広げ、やや腰を前に突き出したポーズで高らかに宣言した。

 

「はっはっはー! ようやく来たぞ! はじめましてだな! 娘よ、我が名はフレイ! ラァヴ・アゥンドゥ・ピィィィスゥを伝える為、天界から只今参上!!」

 

 広げた両腕を左手を顎に右手ピースサインのまま右目を挟み込むよう添えたポーズを取りながら発言をする変態。オマケにやや前に進み、膨らんだ局部がパイに迫る。その迫る速度の倍近い距離と速さで安全圏に離脱したパイは少し周りを見渡すと、視界の端に天高くそびえる巨塔を発見すると同時に、目の前に現れた変態の存在に本気で嫌そうな感じに顔を顰める。

 

「うわぁ・・・・・・とんでもない変態が降りてきたのかな・・・・・・なんでかなぁ? どうして【オラリオ】に戻ってきた瞬間にこんな変態に出会わないといけないのかなぁ……所で、突き出すのは治安管理をしている【ファミリア】でいいのかな? それとも私の顔面に突き出された立派なソレをへし折ったらいいのかな?」

 

 パイ達は前回とは違い【オラリオ】の街のどこかに落ちてきたらしく、詳しい場所までは分らないが、滞在期間の半年で見慣れた《バベル》の存在から此処が【オラリオ】であるとも理解していた。見知らぬ異界でもなければそこまで不用意に警戒する必要もなく。嫌そうな顔を崩すことなく目の間に居る変態へと語り掛ける。それも、指の関節を鳴らしながらである。

 

「ご主人・・・・・・女性がへし折るとか言っちゃだめニャよ・・・・・・」

 

 あまり女性らしいくない行動を行いながら真顔で告げるパイに、アイルーのシロがあきれ顔でつぶやく。そして、そんなパイの様子に不穏な物を感じたのか先程までのおちゃらけた態度を即座に正すフレイ。

 

「いや、よせ、天界ならいざ知れずここでは我々は一般人とそう変わらんらしいからな・・・・・・それに・・・・・・」

 

 シュン・・・・・・っと自己主張の激しかった物がおとなしくなり、フレイは遠くを見るような瞳で空を仰ぐ。

 

「神威無き今、俺の『勝利の剣』を常時臨戦状態にはできないようだ・・・・・・だが、安心したまえ、ちゃんと代理は持ってきているぞ!」

 

 どうやら、股間を膨らませ続ける事にも神威というのは必要らしい。どうでもいい豆知識を得たパイは白けた瞳をフレイに注ぐがそれを見て何を思ったのか、フレイはスカート状の下半身の部分に手をつっ込むと何処に入っていたのか鹿の角を取り出し・・・・・・もぞもぞと布をまくし立て自らの股に挟み込む。

 

「どうだ! これで俺のアイデンティティが崩れる事はない、ではさらばだ娘よ! 俺はこの【オラリオ】の街を散策してくるとしよう!」

 

 擬似的な自称アイデンティティを自らの中で確立させたフレイは、その代償にやや内股気味になりながらも【オラリオ】の街に消えてゆく。まるで嵐のような一幕を見送りながらもパイはシロと顔を見合わせる。さらに増えた変人の知り合いに対して、これからも頭を悩まされ続けるのだろうなと思いながらも何かに気づき振り返る。 

 

 ドドドドドド……っと地響きすらも鳴らしそうな勢いで、土煙を上げて走ってくる影。方向は南と東からでありそれぞれの影を認識できる距離まで来ると、意外な人物の登場にパイは少しだけ驚いた表情を浮かべる。

 

「「パイ! ここに変態が来なかった!?」」

 

 タケミカヅチとフレイヤと言う珍しい組み合わせの二人に左右の肩を掴まれたパイはその二人の言葉に少しだけ考えたあと、フレイヤに視線と左手の人差し指を向ける。

 

「いや、言いたい事はわかるが今回は違うぞ?」

 

「ちょっと、タケミカヅチ? それはどう言う意味かしら?」

 

 指さされたフレイヤに対して、タケミカヅチが否定する。不満顔になるフレイヤの問に答えることなく話は進む。

 

「あー。フレイヤさんじゃないのかな……えっとそれ以外なら、股間を膨らませる“神威”を使うイケメンの鹿の角を代用品にした変態さんだったらさっき会ったかな?」

 

「ご主人、ご主人……確か、名前は『フレイ』だったと思うニャ」

 

「「……えっ?」」

 

 オトモであるシロから『フレイ』の名が出た瞬間、間の抜けた声を発した後、同時に膝を地面につくタケミカヅチとフレイヤ。状況を理解できずに困惑するパイと毛づくろいで顔を洗い出したシロを放置して二柱の神はお互いに顔を付き合わせて話し出す。

 

「スサノオォ……やはりアイツ一人では抑えきれなかったか……」

 

「オーディンも何やってるのよ……あんな動く猥褻物をみすみす地上に放つなんて……」

 

「あのー。二人共? せめて私にもわかるように説明して欲しいのかな」

 

 パイの言葉に正気に戻ったタケミカヅチとフレイヤは。この数秒で非常に疲れた表情で立ち上がり。今回の問題の人物について語りだす。

 

「すまん、あまりの事に困惑してしまった。先の『フレイ』だが、我々と同じく神である。そして……嫌そうな顔をするな、フレイヤ。気持ちは痛くわかるが……まぁ、フレイヤの兄に当たる神物である。ここまではいいか?」

 

「うん、大丈夫かな? ああ、でもフレイヤさんの神族だと思えば納得できるかな」

 

「ちょっと、それはどう言う意味よ! ねぇパイ?」

 

 妙に納得してしまったパイの反応に、フレイヤがやや泣きそうな顔で抗議の声を上げるが、その声を無視する形でタケミカヅチが続ける。

 

「……続けるぞ? そのフレイだが、別に悪神というわけではない、むしろ限りなく善神であり、子孫繁栄を司る力もある。やや思考がぶっ飛んだ所はあるが基本的には“愛と平和”を愛する男だ。しかもカリスマ性も高く軍を動かせばその軍略をもって兵を、軍を、勝利へと導くことのできる逸材でもある」

 

「……ん? 聞く限りちょっと変な人だけどいい所の方が多いと思うかな……むしろ、なんで二人共フレイさんが【オラリオ】に来た事を嫌がったのかな?」

 

「ああ、それは先程言った、“ブッ飛んだ”部分が問題なのだ。まず、常に……その、張っていただろ?」

 

 タケミカヅチの具体的な部分を抜いた言葉にパイは先ほど眼前に突き出された物を思い出す。確かに、口に出す事を憚られる内容なので素直に頷く。

 

「あ、うん。それはさっき眼前に突き出されたから知ってるかな」

 

「あいつ、パイにそんなことしたの? ねじり切ろうかしら?」

 

 呆れたような口調で答えたパイの言葉に、フレイヤがその瞳を日頃の妖艶な冷たさとは違う色を帯びさせながら小さくつぶやく。その様子を横で見ていたタケミカヅチが慌てたように声を張り上げ、続きを語りだす。

 

「おい、怖いことをさらりと言うな!? そしてだ、カリスマ性が高い……変な話だが、気がつけば魅了されている状態になるのだ。我々には効かないが、兵士などには酷く効果的でな……この場合は、“眷属”にどのような影響がでるか……」

 

「……来て早々だけど、お願いして天界に帰って貰う事は出来ないのかな?」

 

 事の厄介さに気づいたパイが穏便なやり方を提示するが、かの神物の神格をよく知るフレイヤが、彼女にしては珍しく困ったように目じりと眉を顰めながら告げる。

 

「厳しいわね。本人に悪気が無い上に、来るもの拒まずの性格な上に細かいこととか気にしない……っというよりも配慮の出来ない奴なのよ」

 

「つまり、男性版フレイヤさんって訳かな?」

 

「……ぐふっ!?」

 

 配慮に欠けたパイの言葉の刃がフレイヤに突き刺さる。日頃の余裕の表情など欠片も見えないという貴重な状況のフレイヤは半泣きになりながらタケミカヅチの服の裾を掴んで揺らす。

 

「ねぇ? 泣いていい? 泣いてもいいわよね!? ねぇ、タケミカヅチ!」

 

「せめて説明が終わるまで待て! フレイヤの言う通り、説得は効果が薄いだろう……実力行使が最も確実だが、そこにも問題がある……アイツ、すごく強いのだ……俺ともうひとり、同郷のスサノオという神がいるのだが、そいつも俺と同じく武闘派でな・・・・・・二人で、真っ向勝負を仕掛けて互角に渡り合える男である上に、アイツにはさらに凶悪な品物があってな・・・・・・そうそう、パイよ。話が少し変わるのだが、確認させて欲しい。・・・・・・フレイは“剣”を持っていたか?」

 

 真剣な顔で訪ねてくるタケミカヅチ。パイも先ほどのフレイとの会話を思い出し……それらしいものを言う。

 

「剣? 『勝利の剣』って名前を股間についてる物に名づけてたけどソレの事かな?」

 

「いや、それではない。普通に切ったり、突いたりできる剣だ」

 

「まぁアレでも突いたりはできるわね」

 

「ちょっとフレイヤさん?黙っててくれないかな? ……いやぁ、鹿の角ぐらいしか持ってなかったかな?」

 

 どうやら、比喩ではなく普通に武器の方の剣であるらしい。そのようなものは見ていないパイは素直にフレイが持っていた物をタケミカヅチとフレイヤに伝える。

 

「「よぅし! コレは勝てる!!」」

 

「さっきからどうしたのかな? 二人共」

 

 パイの言葉を聞いて思わずと言った感じでガッツポーズを取る二人の神。そんな、二人にやや引いた感じに半歩下がったパイは理由もわからないので聞いてみると、明らかに先程とは違う、気の抜けた笑顔を浮かべたタケミカヅチが説明する。

 

「大事な事なので確認を先にしたかったのだ。やつにはある条件で最強になれる所謂“ちーと”という状態になることができる。例で言うならば、パイは将棋を知っているな? 桜花や命とたまにやっているボードゲームだ」

 

「うん、知ってるかな」

 

 極東にあるボードゲームである将棋。二十二の駒を操り、最終的には“玉”討ち取れば勝ちというゲームであるが。なかなかに奥が深く、“玉”を含む八種類の駒は特定の動きしかできないので、戦略性と戦術が物を言う。

 

 その将棋を模擬戦依頼を受けるたび、パイはタケミカヅチの眷属達と行っており、なれない初期の頃こそ連敗していたが、最後に対局したときはそれなりの勝ち星を奪っていた。それはともかく、タケミカヅチの説明は続く。

 

「板の上の自分の駒が玉しかなく周りを敵側の駒に囲まれている状況を想像して欲しい。こんな状況を見てどう思う?」

 

「……どうやったらそういう状況になるのかが気になるけど……うん。完璧に積んでるかな」

 

 打ち首待ったなしの状況にパイはお手上げと言いたげに手を挙げる。その姿に一度頷いたタケミカヅチはさらに会話をすすめる。

 

「しかし、フレイと『勝利の剣』が合わされば、気がつけば圧倒的な有利であるはずの相手が王手を掛けられているのだ」

 

「何それ怖い。その時不思議なことが起こったとしか言えないじゃないかな?」

 

「不思議……そうだな、それが一番しっくりくる。どのような状況にあっても気がついたら負けている。おそらく、この【オラリオ】にいるすべての冒険者を動員しても勝てんだろうな……故に剣の有無を確認したのだ」

 

「すごく怖い話なのかな……」

 

 有り得ない。そういうべき内容であるのに、タケミカヅチとフレイヤの表情は固く、冗談を言っているような節は見当たらない。つまり、本気で言っているのであって、それがどれほどフレイという神を危険視しているのかもよく理解できた。

 

 嫌な汗が流れる感触に背筋にヒヤリとしたものを感じたパイ。そのまま、しばらくの間沈黙が流れ……彼らの心境とは真逆の呑気で明るい声が響く。

 

「なんや、フレイヤにタケミカヅチやんけ……えらく面白い組み合わせやけど、どないしたんや? うわっ……なにその猫。デカかわええやん」

 

 いつもの赤毛に糸目の【ロキ・ファミリア】の主神であるロキはかなり珍しいであろう組み合わせに眉をひそめる。

 

 ちょうど影に隠れていたパイもロキの声に反応してひょっこりと顔を出すと、久しぶりのロキの顔に喜色を浮かべ挨拶をする。

 

「あっ、ロキさんだ、おはよーかな」

 

「おう、おはようさん……って、なんでトビ子がここにおんねん。【大陸】に帰ったんちゃうんか?」

 

「いやぁ、それが……ん? トビ子?」

 

 ロキの呼び名に違和感を覚えるパイ。【大陸】に戻る前はパイの記憶が正しければロキは彼女の事を『パイ』と呼んでいたはずだ。

 

 「ちょっとロキさん、その呼び名について詳しく――「聞いてくれロキ、大変なんだ」……タケミカヅチさん!?」

 

 パイの取って気になるワードにさっそく話を掘り下げようとしたパイだったが、それよりも早くタケミカヅチに割り込まれてしまう。そんな、タケミカヅチの異様な雰囲気に飲まれたようにロキは茶化す事無くタケミカヅチへと視線を向けながら語り掛ける。

 

「……ってどうないしたんやタケミカ……んっ? フレイヤもなんで無言で近づいてくるんや? タケミカヅチもにじり寄らんとはやく続き言えやぁ!?」

 

 幽鬼の如く揺れながら無言で近づいてくる知神の姿にロキは不穏なものを感じて後ずさるが、その行動よりも早くフレイヤの手がロキの肩を掴む。掴まれた瞬間――ヒッ!?――っと悲鳴を上げるロキに、感情の篭っていない瞳を向けたままフレイヤは静かに言った。

 

「ロキ。落ち着いて聞いて? フレイが……来たのよ」

 

「よし、全力ですり潰す」

 

 フレイヤの言葉に真顔になり即答で返すロキ。妙に会話として成立していない気もするが、フレイヤとロキの表情を見る限り、お互いに言いたい事が伝わっているようであり、その様子にパイがツッコミを入れる。

 

「理解が早いよ!? どんだけフレイって人嫌われているのかな!?」

 

 パイのツッコミにロキが珍しく真面目な顔をパイに向ける。その仕草からはいつものおちゃらけた様な雰囲気は微塵にも感じられず、むしろ、これほど余裕のないロキを見るのは初めてのパイは、色々な意味でドン引きしていた。

 

「何言ってんのやトビ子!! あんな動く猥褻物陳列罪男を放っておいたらあかん。ウチの子総員して……ああ!? いま主力の皆、遠征中やんけぇ!!?」

 

 そこまで言って、自分の眷属の殆どが遠征に行っている事を思い出したロキが叫ぶ。大体、遠征中で暇だったのでブラブラと散策していたのだ「しもたぁー」と頭を抱えるロキに対してフレイヤが真剣な表情でロキに向けて罵倒の言葉を浴びせる。

 

「このやくたたず!! ロキ! あの男を一刻も早く処分しないと【オラリオ】に平和はないのよ!」

 

 プライドの高いロキに向けられた罵倒であれば、普段であれば険悪を通り越した雰囲気になるものだが、今回は違ったロキはすぐさま顔を上げると、妙案を浮かべたような力強い笑みを浮かべる。

 

「しゃあない、こうなったら他の奴ら巻き込んででもやるで! 主力はいなくとも協力はすんで!! ウチの話術の力を見せたるわ!」

 

「期待しているわよ! トリックスター!」

 

 共通の強敵の襲来? に手を取り合う二人の女神。その光景に呆れ果てた表情を浮かべたパイが呟く。

 

「すごいかな……オラリオトップの二大【ファミリア】が協力関係になるほどの相手なのかな……」

 

「それほどの相手なんだ……」

 

「まじなのかなぁ……」

 

 疲れたようにつぶやくタケミカヅチの言葉にパイも呆れたような声音でつぶやくのであった。

 

 それから、多くの【ファミリア】にフレイが降臨した事を告げた結果、その反応の多くは悲惨ともいえる物であった。、明らかに嫌そうな顔をする者。表情を凍らせて震えだす者。酷い物ならば悲鳴を上げる者も出る始末である。

 

 逆に、少なくない神もロキとフレイヤの説得を受けてなお静観を決め込む者もいた。その中にはヘファイストスとミアハの姿もあった。ヘファイストスは眷属をそんなバカ騒ぎに巻き込みたくないと参戦を辞退し、ミアハは普通に「フレイは確かに変神ではあるが、それなりに道理を弁えている。下手に手出ししない方がいい」と言ってフレイの名を聞いて顔色を青くさせたディアンケヒトと共に酒精香りが漂う街へと消えていった。

 

 それでも、かなりの数の【ファミリア】とその眷属が集まる結果となり、そのままの勢いで【オラリオ】の街を進む。町の人々も突然の騒々しさに何事かと騒ぎだす。

 

 それから少しして、先行していたパイからフレイ発見の一報を受け、最大の大捕り物が開始させるのであった……。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 そんな大捕り物が開始される30分前のこと……。

 

 ベルがそれなりの時間を『ギルド』で過ごしてから不特定の勧誘者の影がない事を確認しながらも、石畳の整備された道を歩いていた。

 

 現在、昼飯時期などの飲食関連のピーク時間は過ぎてはいるが未だに活気の抜けきっていない時間帯、屋台などから香ばしい香りが誘惑してきて、その誘惑を満喫しながらも腹を満たす為にと屋台をめぐっていた。

 

 朝からの騒動が嘘みたいな、平和な時間を満喫していると、前の方からよく知った神物が歩いてくるのが見え、ベルは声をかけた。

 

「神様、いまバイトの帰りですか?」

 

 自慢のツインテールをふよん、ふよんと動かしながら歩くヘスティアもベルの姿に気が付いたのか笑顔で駆け寄る。

 

「奇遇だね、ベル君! 朝からダンジョンに行ってたと思うけど、どうしたんだい?」

 

「えっと……実は……」

 

 ダンジョンに向かったはずの眷属が戻るに早い時間であると疑問に思うヘスティアに、ベルは今朝からの出来事を包み隠さず語り……語り終えた後、屋台で購入した肉の串焼きを手にベンチに移動したベルとヘスティア……そして、苦労したであろう自らの眷属に向けてヘスティアは心の底から同情していた。

 

「勧誘は来るとは思ってたけど、その女装を勧めてくる奴って何なんだい……ボクのベル君はそりゃ女装させても可愛いけどさぁ……」

 

 そう言って串焼きに噛り付く。そのヘスティアの言葉に複雑な表情を浮かべながらもベルも熱を持つ肉にかぶりつく。

 

 やや、色気のない食事風景ではあるがそんな雰囲気をさらに吹き飛ばす事件が二人を襲う。初めに気が付いたのはベルであった。なぜか向こう側からどよめきが聞こえ、どことなく騒がしい雰囲気を感じる。

 

 次にヘスティアが不審に思いベルが向いている方向に視線を向けると道を歩く人々が何かを避けるように道を開けてゆき、そこから内また気味で歩きながらも、股間を膨らませている変態が歩いてくる。

 

「……」

 

「……」

 

 二人は沈黙をもって対応した。ベルは関わり合いになりたくないから、ヘスティアはその変態を知っていたから、二人は示し合わせた訳でもなくお互いに首ごと視線をそらすように俯く。

 

 察しのいい奴であればその行動で声をかける事を自粛するであろうぐらいに露骨な行動であった。しかし、察しも悪ければ空気も読まない神物にとっては全くと言って無駄な抵抗でしかなかった。

 

「やぁやぁ、ヘスティアじゃないか! 隣にいる女装が似合いそうなボーイはキミのボーイフレンドかい? こ☆ん☆に☆ち☆は☆!」

 

 名前で呼ばれた上に親しげに声をかけてきた変態……フレイの能天気な声にヘスティアは小さく舌打ちを、ベルは顔を一瞬歪ませたが、あきらめて顔を上げる。そこにはイケメンとしか言えないような爽やかな笑みを浮かべた美青年が股間を膨らませた状態で立っていた。

 

「……こんにちは……神様・・・・・・僕の見間違いでしょうか? 内股気味で股間をふくらませた変態がすごくいい笑顔で語りかけてきてますが」

 

「大丈夫だよ。ベル君、ボクにも同じ光景が見えるから・・・・・・っていうか久しぶりだね。フレイ・・・・・・ボク、君のこと生理的に無理なんだけど?」

 

 挨拶からの辛辣な言葉を発するベルとヘスティアに対してウインク交じりの対応で返すフレイ。

 

「問題ないさ、俺はそんなヘスティアが好きだからね」

 

「すごいですね。もし僕が同じ事を言われたらへこみますよ・・・・・・」

 

 ベル自身も戸惑いながら呆気に取られるという不思議な状況に陥りながらも、目の前の神を見る。この時点で、話を聞かない系の神物であると理解し始め――そして――

 

「むしろ、膨らむね! 何処がとは言わないけどね!」

 

「「うわぁ・・・・・・気持ち悪い・・・・・・」」

 

 その心の中に若干の嫌悪感すら浮かべる結果となった。

 

 だが、このような公共の場所でこのような変態じみた行為をするほどの剛の者がこの程度で怯むわけもない。

 

「ああっ・・・・・・辛辣な言葉もまた愛情を感じるぞ! そう、しかし少年よ・・・・・・その、気持ちも愛と平和の前には素晴らしいものになるんだぞ?」

 

「すごいですよ! 神様、この人どんな言葉でもいいように受け取っていますよ!」

 

 ひょっとしたら、見習う部分すらあるかもしれない、そう思わせる程度にポジティブは性格のフレイにベルは、ヘスティアに顔を向ける。

 

「はぁ……ベル君。この、フレイはね昔から人の話を聞かないからね。しかも、事あることにボクに……いかがわいくて不埒な事の魅力を語りに来る奴なんだよ……」

 

 げんなりとした様子でジト目になったヘスティアがフレイを睨む。

 

「それって、ただのセクハラじゃないんですか?」

 

「まぁ、それだけならね。ただ、その内容には必ず愛についても語られるから……その……ね?」

 

 そのヘスティアの言葉に何となく言いたいことを察するベル。精神的な愛も、肉体的な愛も、確かに重要な事なのだろう。ハーレムを力強く語る祖父も否定どころか最大限肯定していた。

 

 その度に女性関係で物理的に刺された逸話なども入っていたのはご愛嬌というべきか、男としては賛同したいけど、パイという現実を見たら躊躇してしまう……少年、ベル・クラネルは反面教師による英才教育によって少しだけ大人となっていた。

 

「まぁ……ところでフレイ様はどちらにいかれるのですか?」

 

 これ以上ヘスティアに恥をかかすのも悪いので、強引に話を逸らしてゆく。祖父の話の内容も内容だが、村でのパイとの共同生活の中で女性の機微を察する事を覚えた事がここで生きた結果となっていた。

 

「ん? ああ……そうだ、そこの少年よ。すまんが、『ギルド』の場所を教えてはくれないか?」

 

「ギルドですか……? えっとですね」

 

 そうして、フレイに『ギルド』の場所を伝え……去ってゆくフレイの背中を見送って何とも言えない気分のまま本拠へと足を向けたベルとヘスティアだったが、その足が動く前にまた別の理由で止まることになる。

 

「あっ! ベルにヘスティア!! ねぇねぇ、こっちに変態さん来なかったかな!?」

 

 なぜか其処にいた、『ハンター』の姿に一瞬ベルとヘスティアは顔を見合わせ同時にパイに向けて指を向ける。

 

「ぬぐぁー!? これがさっきのフレイヤさんの気持ちなのかな――! ってそうじゃないのかな! フレイって神様がこっちに来なかったかな? 股間を不自然に膨らませた変態さんなんだけど」

 

「フレイ様ですか? ええ、さっきまで会話していましたけど……っていうかパイさん? えっ? どうしてここに?」

 

 あまりにも普通通りに接してきたのでそのまま対応してしまったベルだが、【大陸】に帰ったはずのパイの姿に戸惑いながら訪ねるが……。

 

「ごめん、ベル。ちょっと急いでいるのかな、そうそう、その変態さんを天界に送還する為に戦力を探しているのかな!! ベルも参加するといいのかな! じゃあ急いでいるから後でね!」

 

 突風のように聞くことを聞いて走り出してゆくパイに呆気に取られ傍観するしかできなかったベルは、首をかしげながらも無言のまま本拠の方角に向けて歩き出す。

 

「べっ、ベル君? その、追いかけなくていいのかい?」

 

 パイを追いかける事無く、本拠の方に踵を返す眷属の少年にヘスティアは声をかけるが、その主神の言葉に対して優しげな微笑みを浮かべながらベルはこう返す。

 

「……帰りましょう、神様……僕達の家に……」

 

 その時のベルは勘のような何かが心にささやいていたと本拠に戻って少ししてからヘスティアに語った――絶対に『ハンター』について行っては碌なことにならない――っと、そしてヘスティアもベルもその勘が正しいのだと後に知ることになるのだった。 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 フレイはヘスティアと別れてベルに教えてもらった道をのんびりと歩いていた。

 

 晴れ晴れとした雲一つない快晴。散策するには最高の気候だといえるだろう。

 

「いやぁ……【オラリオ】っていいなぁ……こんな日と場所では歌いたくなっちゃうな~……ようし! 俺の股間の聖剣が♪ んっ?」

 

 そこで、フレイが怪訝そうに周りを見渡す。先ほどまでとは違う。周りにいた一般的な町民ではなく明らかに武装した冒険者達に囲まれていることに気づく。そしてその中で見知った神物の姿を見つけて声をかける。

 

「おお、フレイヤにロキ。それに、ターちゃん、それにその他大勢の同士よ! もしかして、歓迎に来てくれたのか!!」

 

「その前におどれ、公共の場でなんちゅー歌を歌おうとしとんねん! って、歓迎とかそんなんする訳ないやろが! フレイ! おまんを天界に送還する事に賛成した【オラリオ】の精鋭と神々の集まりや!」

 

 明らかに殺気立った連中を前にしても前向きにとらえたフレイの言葉を真っ向から否定したロキ。さすがにその言葉には若干のショックを受けたのかよろめくフレイ。

 

「馬鹿な……なぜだ……説明してくれ!!」

 

「あんたが、毎回毎回、いらん事までオープンに会話するからでしょ? この馬鹿兄。そういうのって、嫌われるわよ? 遊びのつもりで女神にセクハラするじゃないの」

 

 フレイの問いに対して輪から一歩前に出る女神、フレイヤが呆れたようにフレイに告げる。数人の男神からもそれに合わせて野次を飛ばす。しかし、そんな事を言われてもフレイは特に気にしたよう風でもなく言葉を返す。

 

「そうか? しかし、フレイヤよ……お前、毎回天界にいた時でもそこらの男神とよく寝ていたではないか?」

 

「うわぁ、やっぱり男版フレイヤさんじゃないかな……」

 

 フレイヤと【フレイヤ・ファミリア】の団員達と共に来ていたパイが、白けたような視線をフレイヤに向ける。眷属からも若干の呆れを含んだ視線を向けられやや膨れたまま後方の眷属ににらみを利かせるフレイヤ。その行動にパイを除く全員の視線を逸らすことに成功したフレイヤは、そのまま視線をフレイに向けなおす。

 

「ちょっと!! 黙りなさい馬鹿兄! そういうプライベートな事をいちいち言うから嫌いになったのよ!」

 

 半分は自業自得ではあろうが、とはいえど、このような状況でいうような内容ではないのは確かである。少し気の毒に思ったような憐みの視線を一瞬だけフレイヤに向けたロキも一歩前に出てフレイヤの言葉に肯定的な意見を言う。

 

「せやで、フレイ……おまんにとっては当たり前なんかもしれへんけど、地上の子供からすればどう思われるか、そのぐらい考えや」

 

 ロキの言葉に少し思うところがあったのかバツの悪そうな表情を浮かべ、後頭部を掻くフレイ。少し考えた後、自分の行いを思い出していたのか……フレイヤに軽く頭を下げ謝罪する。

 

「なるほど……すなかった。確かにあまり適切な内容ではなかったようだ……」

 

 そこで、そのまま話が終われば若干の美談で済んだかもしれなかったが、この場所には天然トラブルメーカーがもう一人存在していた。

 

「そういえば、ねぇねぇ、フレイさん……ロキさんにもそう言った話あるのかな?」

 

「ちょ!? トビ子ぉ!? 何聞いとんねん!!」

 

 気になったら聞いてみろ。とでも言いたげに尋ねるパイに、今度はロキが慌てふためく、日頃から人を食ったような態度をとるロキの珍しい狼狽ぶりに他の神々も耳を向ける。

 

「あるぞ!! 天界にいる頃にロキが大層気にいっている神が居てな、バルドルというのだが、そいつの親がかなりの過保護っぷりでな、誰にもバルドルに危害を加えさせられない誓約書を多くの神々に書かせたのだ。しかし美少女、美少年大好きなロキは同時に、いつもゆるふわなバルドルの表情を一度でいいから泣かせてみたい……と言い出してな、あの時の努力はすごかったぞ? 誓約に触れないように超遠距離から機械仕掛けの……ピタゴラスイッチだったかな。それを駆使して、バルドルの頭に林檎を落とす事に成功させ、涙目のバルドルを見て歓喜の声を上げていたな。いやぁ、懐かしいなぁ……なぁ、ロキ?」

 

 語り終えたフレイ。そして、羞恥で顔を朱色に染めたロキの周りの神々の視線がロキに集中する。なんというか、嘗て展開で神同士を殺し合いさせていた過去を持つ女神が、同時にそのような子供じみた悪戯を行っていた事に驚き、そして優しげな目で見つめてくる。そしてついに、限界が来たのかロキはその身を地面に向けて投げだし転がりだした。

 

「ぬぐぁぁぁぁ!? やめぇやぁぁ!! 」

 

 ロキにとっては『黒歴史』を超えた過去をばらされた事による、恥辱に悶絶しながら地面を転がり続ける。

 

 天界のトリックスターの撃墜に場の中でどよめきと動揺が走る。だが、その波も一つの音によって静まる。木剣を地面に叩いた……小さくないが乱暴でもない音が水面に広がる波紋のように浮足立った者達を静めてゆく。

 

「過ぎた存在は毒になりかねない……すまんが、貴様には天界に還ってもらう」

 

 静かに見つめあうタケミカヅチとフレイ。【ファミリア】としては零細であるが、武芸者としてはかなりの実力者である武神の覇気に勇猛である冒険者出さえも空気に飲まれてゆく。

 

「本気……って訳か……いいぜ、ターちゃん。そういうわかりやすいの、嫌いじゃないぜ!」

 

 先ほどまでの朗らかな笑みを浮かべていたフレイも、その趣を真剣なものにしている。そして、内股に挟んでいた鹿の角を取り出しそれを構える。無言の中で、緊張だけが膨れてゆく。吹く風すらも感じる事のない集中された世界の中で、誰かが流した汗が落ちる音――知覚できるはずのないその音――を皮切りにフレイとタケミカヅチが動く。

 

 双方に駆け出し相手と自分の距離感が刃の届く距離に入る刹那の瞬間、まるでその姿が掻き消えたような錯覚を感じる共に行われた縮地による間合いの潰しあい、虚を掴むための行動も、彼らにとっては技能の一つに過ぎない。

 

 片や、武芸の理想とする型。片や、野生の型破りな一種の不自然な軌道から放たれた斬撃が交わり激突する木剣と鹿の角。ぶつかる視線と金属ではない物がぶつかり合う音が戦いの開始を知らせる鐘の音となった。

 

 一瞬の間を置いて、誰よりも早く動いたのは【猛者】であった。主神の命により参上した彼は最初の一太刀のぶつかる瞬間まで動けなかった己の勘の衰えを感じていた。それでも、ほかの冒険者とは比べ物にならないほどの反応の速さであったのだが……その恥を怒りに変えるように、叫ぶようにいまだに動かない者に向けて言い放つ。

 

「何をしている! 奴を打ち倒すのだ!」

 

 その【猛者】。オッタルの言葉に我に返った冒険者達が我先にフレイに襲い掛かるが……。逆に多くの者が同時に動いたことで場が余計に混乱してしまう。

 

 タケミカヅチを援護する訳でもなくそれぞれが勝手にフレイを狙い其々の攻撃を繰り出す冒険者の攻撃を器用に避け続けるフレイ。死角から突きこまれたオッタルの一撃にすら反応して紙一重ではあるが回避する。

 

 その人外じみた生存能力にオッタルの実力を知る者達はそろって恐怖すら感じてしまう。だが、実際には神と言えど肉体は人間と同じ。『恩恵』を受けていない程度の肉体を受肉している状況である。では、なぜこれほどの攻撃にさらされながらもフレイは現存し続けられているのか……。

 

「……っ!? むやみに攻撃を仕掛けるな! 味方の動きを利用されているぞ!」

 

「はっはっはっ! 今頃気が付いたのかいターちゃん!」

 

 そのフレイの言葉を耳にしたオッタルは自らの中で恐ろしい考えを抱く。それは、フレイが常に百は下らないであろう冒険者達の行動を先読み、又は誘導しているという考えであった。だが、それであるならばこの現状に納得が行くと言うものだ。

 

 ある程度の力量があれば似たような事はできる。高度な戦闘になればそのような搦め手を含めた“武力”以外の戦う術は必要不可欠となる。狡猾でありながら思い切りのいる矛盾を抱えた先の技能。

 

「馬鹿な……数名ならともかくこれだけの、それも自由に動く者達をどうやって……うっ、うおおおぉぉぉぉ!!」

 

 想像力を超えた予知に近いナニか、オッタルでさえも踏み込み切れてはいない世界を見せられて高揚する気持ちに気づくが……それを認めた瞬間にオッタルの中で何かが瓦解する――それを拒むかの如く、若い頃に戻ったような気持ちのまま剣を振るう。

 

 実質――フレイが行ったのは場の調整であった。むしろ彼にとっては雑兵の類であろうと波のように来られれば対処のしようもない。しかし、この場で最も警戒する強者が、最大の力を出せない状況に常にする事こそが今の状況であるといえる。

 

 むしろ強者故に敵味方問わずぶっ飛ばすような……それこそ無粋な戦い方をしないであろうという前提こそが基軸であり、自然に動きを阻害するように動いているだけでしかない。

 

 おまけに、一対多数であろうと、実際に攻撃に移れるのは四方が限界である。持つ獲物によってはそれ以上の数でも可能だが、このような乱戦じみた場所ではそれも望めない。

 

(さてさて、それに気付いているのはターちゃんぐらいかな? さて、冒険者諸君。もう少し俺を愉しませてくれよ?)

 

 フレイが眺める先に渋い顔を浮かべたまま冷や汗を流す友神の姿に内心でほくそ笑みながらも、フレイは余裕のある立ち振る舞いのまま多くの攻撃をさばいていった……。

 

……

…………

………………。

 

 何とか、戦場が落ち着いた頃には最高位の冒険者数名による四方からの攻撃が最も効果的だと、全員が理解し、勝利のその瞬間は確実に近づいていた。オッタルを含めた【オラリオ】の最高戦力とその周りを取り囲んだ冒険者達……もはやフレイに勝機はないように見える。まさしく、玉の周りをすべての敵の駒で覆った状態である。

 

「ぜぇ……ぜぇ……さぁ、ここまでだ! フレイ! 大人しく天界に還ってもらうぞ!」

 

 長い間の激闘で肩で息こそしているが、気合のこもったタケミカヅチの言葉に多くの神と眷属である冒険者に包囲されたフレイ。明らかに彼は詰んでおり。勝機はない・・・・・・ように見えた。

 

 しかし、そのような状況であるというのにフレイの顔に浮かんだ――球のような汗が流れ、軽傷ではあるもの小さな傷も存在している物の――表情には余裕があり、不敵に笑ってすらいる。そして、その笑みを浮かべたままフレイは言う。

 

「所で……君たちは、いったい、いつから……私が、“勝利の剣”を所持していないと……錯覚していた?」

 

「「「「なん……だと……」」」」

 

 フレイの言葉に主に神々が顔を青ざめさせ後ずさる。多くの冒険者も何処か不安げな表情を見せる。そんな中フレイは下半身をもぞもぞと手探りで探し・・・・・・装飾の施された剣を取り出し・・・・・・そして・・・・・・

 

 ――その時、不思議な事が起こった――

 

……

…………

………………。

 

 微かに戻った意識を懸命に辿り寄せ、【猛者】は己が地に伏している事に気づく。急ぎ立ち上がろうとするがうまく力が入らずに指先すらも満足に動かせずにいた。

 

(――いったい、何があったのだ?)

 

 最後の記憶では敬愛する主神と共にフレイという神を打ち倒すため、多くの冒険者と共に包囲し明らかな勝利を飾るはずだった・・・・・・。

 

(――そうだ……確か……フレイが剣を抜いた瞬間……っく、ここまでしか思い出せない……)

 

 数秒してから漸く身体に力が戻り、よろめきながらも立ち上がったオッタルが見たもの。それは、【オラリオ】のほぼ全勢力が地に伏している。壊滅状態の光景であった。呆然と見渡していると敬愛する主神が倒れているのを見つけ急ぎ駆け寄る。やや煤などがついているが命の別状はなく、気絶しているだけのようである。周りをよく見て、聴けばそこらじゅうからうめき声が聞こえ。全員が“気絶しているだけ”であることが分かる。

 

 やや離れた場所で、パイと思わしき人物と白猫が瓦礫に上半身を突っ込ませ器用に足を直立させた状態でいてる。まるでそう言う植物の類のように見えるから不思議である。

 

 先ほどの戦闘の時はパイの姿が見えなかったが……恐らく、身長とごった返した冒険者の波に埋もれていたのだろう……むしろ他の冒険者よりも酷い扱いなのが見ていて切ない気持ちにさせられる。

 

 それはともかく、これが、神タケミカヅチが言っていた“ちーと”の効果なのだろうか……まるで狐につままれたような気分にオッタルは珍しく、困惑した顔で己の頬を引っ張るのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 『ギルド』。その奥に『ギルド』の創設者である神、ウラヌスがいる。ウラヌスは祈祷の最中に現れた気配に気づくと祈祷を止めて、この祭壇に近づく者を待つ。目の前に現れた神物を一瞥したのち、明らかに目を反らす。そんなウラヌスの動作に気づいてか気づかずか、フレイはイケメンスマイルを展開しながら語りかける。

 

「やぁ、ウーちゃん! ひさしぶり! 元気だったかい! いやぁー。さっき皆から天界に帰れって言われちゃてさ。いやぁ、冒険者って強いねぇ! 正直モロに攻撃受けてたらタダじゃ済まなかったぜ! それで、さっき“勝利の剣”で切り抜けてきたんだけど、お願いがあった来たんだ。私のファミリア……【フレイ・ファミリア】を作りたいんだ!! 許可をくれないか、ウーちゃん!」

 

 まるで機関銃の如く言葉を放つフレイに、ウラヌスは疲れたようにため息を吐く。そして、重要なことを今か今かとまっているフレイに向けて告げる。

 

「別に【ファミリア】の申告ならこのような所に来ずともできる。それよりも……気のせいか、勝利の剣を使ったとか聞こえたのだが……馬鹿なのか? 来て早々で知らなかったかもしれぬから。今回は不問とするが……今後【オラリオ】での神威の無断使用は禁止とするぞ……あと【ファミリア】結成には眷属が必要だということは知っているだろうな」

 

「……Oh……そうなんだ……了解した。そういうえば、私は未だ眷属を一人も作っていなかった……では、ウーちゃん! 眷属見つけたらまた来るぞ!」

 

「いや、だから、別に此処に来なくても……はぁ……」

 

 ウラヌスは疲れたよう眉間を揉み、気を取り直して祈祷を再開する……が、直ぐに祈祷を少し緩めて、深いため息を吐く。また面倒な輩が増えた事に痛み出す頭を抑える。余談だが、『青の薬舗』に頭痛薬と胃薬が常備されるようになるのはこの少し後の事であり『ギルド』の関係者が定期的に購入する光景が見られるのであった。

 

 そして、【オラリオ】全土を巻き込んだ今回の騒動のせいと、フレイの持つ、変態性が非常に強い痴態を見た街の人々の反応はかなり悪く――結果、フレイが眷属を得るまで数年の月日が必要になるのであった。

 

 




これ以降のフレイの“ちーと”は出しません。やり過ぎた感がすごいのは自覚しています。
書きたかったのは「えらくぶっ飛んだ奴が来た」と言う部分だったのではっちゃけさせて貰いました。
普通にいい神なんですが。一応いくつかの情報をやや湾曲させてもらった上に、そこにロクでなし感と残念なイケメンを足して、こうしたら変態っぽくて面白いんじゃないかな? という残酷なキャラ付けしたのがフレイという神様のキャラクターとなった訳です。
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